俺の性癖のせいで淫魔が支配する貞操逆転異世界で、自分をボコボコにした強い女たちが奴隷になるチートスキルでハーレムができてた 作:ショムカオルコ
「悪いけど、あなたにしてほしい仕事はないわね。手付きでもなければ刻印持ちでもないってのは魅力的だけど」
ララが紹介してくれたいかにも金持ちそうなマダムは、率直にそう言ってきた。
「お言葉ですが、マダム。彼は手に職があるわけではないですが、見どころがある人間です」
「と、言うと?」
ララが俺の腹を指さす。
「彼は極めて特殊な体質で、腹に剣が刺さってもピンピンしています」
「誤解を生むようなことを言うな」
全くの嘘ではないが、そんな紹介をされたら何をされるか分かったもんじゃない。
マダムはララのその言葉を冗談だと捉えたようで、口元を押さえて高らかに笑った。
「興味深いわね。それなら、お遊びの関係でよければ契約してさしあげるけど?」
俺のことを舐めまわすように見るマダムの提案を丁重に断って、ララと共にその人の自宅を後にした。
◆
「人の魅力を第三者に伝えるというのはなかなか難しいものね」
「そもそも、紹介された奴の強みが腹を刺されても平気なところですってのは、相手も反応に困るだろ」
通行人の視線を浴びながら、俺とララは次の目的地に向かって歩いていた。
ララは話が上手く進まなかったことを気にしているのか、やたら話しかけてくるが、俺は最初からとんとん拍子で行くとは微塵も思っていなかった。
「とにかく動かなきゃ始まらない。次に行こう」
次の俺の目的地は『木漏れ日』という酒場だった。
マオが仕事をよく斡旋してもらっている『ルーツ』というアソシアのリーダーに、俺のことを話してくれたらしい。
で、そのリーダーがよく出入りしている酒場が『木漏れ日』だそうだ。
「ところでララ、その『木漏れ日』の場所は分かってるのか?」
ある程度歩いたところで、ララの足取りが迷っている人間のそれのような気がして、確認してみた。
「おかしいわね。前にマオと来たときはここだった記憶があるんだけど」
相変わらずの無表情でララは顎に手を当てた。
だんだん分かってきたが、ララは見た目はデキる女って感じなのに、実態はそうでもないようだ。
「そこのお二方、もしかしてお店を探してますかぁ?」
ハチミツに浸したパンケーキに砂糖をぶっかけたみたいな甘ったるい声が背後でした。
振り返るとまだあどけなさの残る銀髪をポニーテールにした少女がニコニコしながら手を振ってきた。
スキップでもするような足取りで近づいてくると、シナを作って俺を見上げてきた。
「木漏れ日って酒場に行きたいんだけど、道に迷ってしまって」
「べつに迷ってるわけではないわ」というララの言葉をスルーし、とりあえず自己紹介することにした。
「俺は……」
「知ってますよぉ。この街じゃもう知らない人はたぶんいませんもん」
いくら狭い街とは言え、ただ男ってだけでうわさが広まっていることに感心してしまう俺だった。
「ここから15分ぐらいかかりますけど、そこなら分かりますのでご案内しますよぉ。あっ、わたしはミレイ・ドレカって言いますぅ。ピチピチの16歳ですぅ、よろしくお願いしまぁす」
そう言うと、ミレイはいきなり俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
決して大きくはないが柔らかい胸が腕にむにゅっと密着して、ドギマギしてしまう。
「ちなみに、その木漏れ日に『ルーツ』ってアソシアの一番偉い人っているのかな?」
「ケルビナさんですか? この時間ならもう飲んでると思いますよぉ」
「それなら私は必要なさそうね。これだけあなたに渡しておくわ」
そう言うとララは、俺に何枚かの銅貨を握らせて踵を返した。
「私は宿に先に戻ってるから。用件が済んだら真っすぐに戻ってきなさい」
俺が何か言う前に、ララはミレイを一瞥し、長い黒髪を翻して帰路に着くのだった。
こんな流れで俺はミレイに腕を組まれたまま、木漏れ日へ向かった。
ちなみに酒場に着くまでの15分間、ミレイの質問攻めに延々とあうのだった。
◆
「ケルビナさーん、例の人、連れてきましたぁ」
ミレイに手を引っ張られながら、俺はとある女性が座っているテーブルへと案内された。
「ごゆっくりー」と手を振るミレイに礼を言ってから、俺はその女性に挨拶した。
「はじめまして。アキトって言います」
目元の泣きぼくろが色っぽい女性が、テーブルに腰かけたまま会釈した。
「ケルビナ・ワインレッドって言います。マオちゃんから話は聞いてるわ」
酒場は思ったよりもこじんまりとしていた。
まだ時間帯が早いせいなのか、客はほとんどいない。
「本当は飲まないで待つもりだったんだけど、ここに来ると我慢できなくなるのよね。どうぞ、座って」
俺はケルビナさんに言われるまま、対面に腰かけた。
マオからざっくりと『ルーツ』というアソシアについては聞いていた。
主に『世界樹』と呼ばれる大木の管理がコアな事業で、ルーツはミストラリアでは幅を利かせているらしい。
その世界樹とやらはなんでも人間の精力や魔力に大きく影響を与えるもので、ここ数年で淫魔たちも狙うようになったそうだ。
マオはこのルーツから定期的にアジトの建物修繕等の仕事をもらっており、今回の約束も取り付けてくれた。
「キミが今、何を考えてるか当ててあげよっか?」
ケルビナさんはグラスをテーブルに置くと、僅かに首をかしげた。
「この人、職人っぽくないなあ、でしょ?」
「おおっ? なんで分かったんですか? ケルビナさんってもしかして人の心が読めちゃったりします?」
俺がわざと大袈裟に驚くと、ケルビナさんは目を細めた。
「ふふっ、そうだったりして?」
ケルビナさんはおっとりとした優雅な雰囲気の美人だった。
胸元が大きく開いた深紅のブラウスにロングスカートといい、首元のネックレスと鎖骨まで垂れた明るい茶髪といい、職人特有の無骨さが全くなかった。
しかしマオには悪いが、今日は挨拶だけで終わらせようと思った。
理由は簡単で、それはすでに彼女が酒を飲んでしまっているからだ。
俺はこれまでの経験から酒の席での約束は基本的に信用しないことにしている。
「ケルビナさん。せっかくこうやってお会いできたのは嬉しいんですが、酒の席をお邪魔するのもなんですし、また日を改めてお会いできませんか?」
「どうして? キミも飲んでくれればいいじゃない?」
「あまりお酒が強くないもので。それに粗相をしてしまったら申し訳ない」
腰を浮かしかけたところで、ケルビナさんが俺の手を握った。ケルビナさんの指の感触は職人特有のそれだった。
「アキトさんが考えてること、もう一個当てようか? 素面じゃない人間は信用できない、でしょ?」
自分の思考を完全に見透かされていることに、俺は舌を巻いた。
「信用できない、というわけではないです。お互いにとって不利益なことが起きる可能性があったら、少しでも避けたい性分でして」
「言い方の違いでしかないわね。でもこれで、このまま話を続けてもいいと思ってくれたかしら?」
俺は苦笑いして、椅子に座り直した。
背筋を伸ばして心の帯を引き締める。
「あと、私はキミとスタンスは逆。一緒にお酒を飲んでくれた相手じゃないと信用できない」
ケルビナさんはそう言うと、酒場のマスターに俺の酒を用意させた。
テーブルに名前も知らない酒が運ばれてきたが、俺は自分のスタンスに則って口をつけなかった。
「それで、どうして仕事を探してるの?」
「マオから聞いてると思いますが金がないんですよ、俺。今はマオとそのツレから借りてる状態です」
「ふーん。お金の問題だけなら、男のキミならどうとでもできそうだけど、まあいいわ。で、私がアキトさんに仕事を斡旋するメリットは?」
俺はあらかじめ用意していた回答を提示した。
「ルーツの事業の中には、世界樹と呼ばれる大木の実生苗の探索も入ってるとお聞きしました。そして、それを淫魔たちが狙っているとか」
「ええ。淫魔は容易に人間組織に溶け込める。だから探索業務は限られた人材にしかさせられない。ただその結果、猫の手も借りたいって状況なのよね」
「その点、男である俺なら少なくとも淫魔でないことは保証できる。どうですか?」
ここで初めてケルビナさんは、俺からグラスに視線を落とした。
明確に俺への興味が失せた。そして、それを俺に分かるように態度で示してきている。
それでも俺は戸惑いを忍ばせて、言葉を続ける。
「……それにルーツは世界樹の探索も行っている。いきなり探索に参加させてくれなんて言いません。ただ俺なら淫魔のエサとして囮になれるし、そうすれば探索の安全性も上がると思います」
ケルビナさんが視線をあげた。柔和な表情は変わっていなかったが、目が笑っていなかった。
「アキトさんが今言ったことは間違ってないと思う。でもそれって男であることのメリットよね? 私が聞いてるのはアキトさん——あなたという一個人を雇うメリットよ」
切れ長の瞳には、ハッとする俺の顔が映っていた。
俺はようやく自分が勘違いしていることに気づいた。
この街に来てから男というだけで良くも悪くも特別扱いされているせいで、あまりにも簡単なことを見失っていた。
そう、俺は男である以前に一人の人間だということを。
深呼吸して、テーブルの下で拳を強く握り、ルーツのリーダーに改めて向き合う。
「……すみません、先に俺が喋りたいことを喋ってもいいですか?」
ケルビナさんが少しの沈黙のあと「どうぞ」と先を促した。
「さっき、俺は金がないからここで働きたいって言いましたけど、それだけじゃないんですよ。俺としては、女の前では常にカッコつけたい。それが魅力的な相手ならなおさらね」
「女の前でカッコつけたい……その感覚は私には分からないわね」
ケルビナさんは不思議そうな顔をした。
「俺はこう見えて、大切な相手には尽くしたいタイプなんですよ。昔、一緒に住んでたパートナーがいました。いつも素っ気ないし、わがままだし手もかかるヤツでした。でも俺が落ち込んでる時とかは、黙ってそばにいてくれるし、寒い夜は一緒に布団に入って温めてくれた。俺はそういうヤツのためなら尽くしてやりたいんですよ」
「きゃ~~~~」と黄色い声が聞こえてきたので、そっちに視線をやると、ミレイが顔を赤くして頬を押さえていた。
「そのパートナーとは今は?」
「……もう会えないんですよ。正直、心残りです。もっと何かできたんじゃないかって。だからこそ今そばにいてくれる人には、ちゃんと何かできる自分でいたい」
この世界は俺にとっては異世界だが、同時にこれからずっと生きていく居場所でもある。
だからこそ新たな世界で、今度こそ悔いのない人生を歩みたい。
「金も稼げない。マオやララがいないと何もできない。それじゃカッコつかないでしょ?」
「……だからうちで働きたい、と?」
「そうです」
「なるほど。理解できない部分もあるけど、アキトさん、キミのことが少し分かった気がする」
ケルビナさんはグラスの中身を飲み干すと、居住まいを正した。
「で、改めて問うわね。アキトさん、キミ個人の優位性は何?」
俺はその質問には答えず、提供された酒に初めて口をつけた。
「あなたの飲み友達になれますよ」
「それなら間に合ってるわ」
ケルビナさんは俺の冗談を淡々と受け流した。
しかし、次の俺の言葉は予想していなかったようだ。
「——じゃあ俺が淫魔を倒せるって言ったら?」
ルーツのリーダーの表情が一瞬、驚きで固まった。
「……アキトさんはあまりお酒を飲まない方がいいタイプかもね」
「確かに俺は酒はあまり強くありませんが、この場で嘘を言うほど酔いもしませんよ」
ケルビナさんが取り繕うように、また口もとに笑みを浮かべた。
「仮にその話が本当だとして、誰かそれを証明してくれるのかしら?」
「マオ・オーマです。彼女なら俺が淫魔を倒した瞬間を知ってます」
そう、マオは知っている。
淫魔と化したその身をもって。
「……仮にその話が本当だったとして、もう少し詳しく話を聞かないと判断できないわね」
当然、そう言ってくることは想定済みだった。
「今の段階ではそれはできません」
「自分から言い出しておいて不思議なことを言うわね、アキトさん」
「あなたたちルーツに守りたい伝統技術や情報があるように、俺もこの世界で生きていくために俺自身の技の秘密を守らなければいけません」
「……手の内を知りたければキミを雇えと?」
「そこまでは言いませんよ。あなたが俺に雇うだけの価値があると判断したら、です」
ケルビナさんの目が一瞬、獲物を前にした猫のように細くなる。
俺は内心で冷や汗をかきながら、それを悟られないように淡々と言葉を紡いだ。
「ただ、そちらが俺を品定めするように、俺にも選択肢があるということです」
「男で淫魔を倒すことができる。これは確かにすごいことだけど、私がそこに魅力を感じてないとしたら?」
「ケルビナさん。俺もあなたほどではありませんが、実は人の心が読めるんですよ」
ポーカーフェイスと言っていい妖艶な微笑が、あの瞬間だけ崩れたのを俺は見逃していない。
「ふっ、アキト君って意外と好戦的なのね。でも結局、私はあなたの何を信用すればいいのかしら?」
「一つだけあります。マオが閉鎖的な組織であるアソシアにこの俺を紹介した、という点です」
「あなたではなくマオちゃんを、ってことね。でも私がマオちゃんをそこまで買ってなかったら?」
「あなたはどこの馬の骨とも分からない俺と会ってくれた。これがあなたのマオへの評価です。そして俺もまた、マオを信頼してます」
あの森で俺は女神からもらったスキルでマオを救った。
それは間違いない。
だがそれはマオが淫魔化した自分に抗って、俺を助けようとした事実がもたらした結果でもある。
「……いい男ね、キミは」
ルーツの職人でもありリーダーでもあるケルビナさんが、嬉しそうに微笑んだ。
「一個聞きたいことがあるの」
ケルビナさんが身を乗り出して、俺の顔を覗きこむ。
「キミの昔のパートナーって、さぞかしかわいかったんでしょ?」
俺は咳払いをしてから、自慢のパートナーについて語った。
「ええ。いつも寝てばかりですけどね。腹を出した無防備な寝姿が死ぬほど可愛いんですよ。あと目がめっちゃクリッとしててね。肉球なんか気持ちよくてずっと触ってたくなりますよ」
ケルビナさんが不可解な表情を浮かべた。
「……その子の名前は?」
「ミー子って言います」
「……一本取られたわね」
俺が前世で飼っていた猫の名前を言うと、ケルビナさんは目を丸くしてから初めて声を立てて笑った。
そのまま彼女は席を立つと「マスター。彼に一本、ボトルを入れてあげて」と言って、俺を振り返った。
「じゃあまたね、アキトさん――次に飲むときは、キミの初仕事が終わったあとで」
そう言ってケルビナさんは髪を翻して酒場を後にした。
◆
「ふぅー、疲れた」
宿屋に戻り、用を足してから俺はため息をついた。
商談後によくある脳みそが錆びついた疲労感は、久しく味わっていないものだった。
あのあと俺は、またもやミレイの質問攻めにあった。
『かっこよかったですぅ』とか『淫魔を倒せるって本当ですかぁ』とか『どうやって倒したんですかぁ』とか質問攻めされて、なかなか帰れなかったことが、俺の疲れに拍車をかけていた。
外の空気を吸おうと思って、窓を開けたところでマオが部屋に戻ってきた。
「……どうだったのよ?」
真っ先にマオがぶっきらぼうな口調で、ルーツの件を質問してきた。
「……たぶん、使ってくれるんじゃないかなって思う。いや、どうだろ?」
帰り際のケルビナさんの言葉をそのまま受け取るなら、だが。
しかし、ぬか喜びになる可能性も零ではないのでまだ安心はできない。
「もうっ。曖昧にせず、きちんと答えを聞きなさいよ。せっかく色々と買ってきたのに」
少しだけ頬を膨らませたマオは、大きな紙袋を抱えていた。
もしかすると雇われた時のために、祝い用の品でも買ってくれていたのかもしれない。
俺は申し訳ないと思いつつ、ずっと口にできていなかった言葉を口にした。
「……ありがとう、マオ」
俺がそう言うと、マオがぷいっとそっぽを向いた。
「いつまでもアキトにタダ泊まり、タダ食いさせておくわけにはいかないから、口をきいただけよ」
「いや、そうじゃなくて」
マオは俺の礼をケルビナさんに紹介してくれた件だと思ったようだ。
いや、もちろんそのことも本気で感謝しているが、俺が礼を言いたかったのは今回の件ではない。
しかし、それを言う前にマオは荷物を部屋の隅に置いて、そそくさと出ていってしまった。
「ったく、なかなかうまくいかないもんだな」
仕事探しもそうだが、ただ感謝を伝えることさえままならないことに思わず笑ってしまう。
もう一度マオを捕まえて、感謝を伝えようか迷っていると、
「何してんの? ご飯食べないわけ?」
マオが戻ってきて、ドアから顔だけ出して聞いてきた。
そんなマオの姿にふとミー子のことを思い出して、俺はある偶然に気づいた。
「……どうしたのよ? あたしの顔になんかついてる?」
「いや、こんな偶然もあるんだなって思って」
べつに大した話ではない。
マオの名前に『猫』という意味があることを思い出したのだ。
俺は小さな偶然に不思議な縁を感じて、もう一度笑った。
引き続きよろしくお願いします