俺の性癖のせいで淫魔が支配する貞操逆転異世界で、自分をボコボコにした強い女たちが奴隷になるチートスキルでハーレムができてた 作:ショムカオルコ
「きゃ~、ダーリンすてきぃ♡」
鬱蒼とした森にミレイの甲高い黄色い声が響き渡る。
数十秒前、茂みが揺れたと思ったら、巨大な猪のような魔物が突進してきた。俺はそれをなんなくかわして、今まさに仕留めたところだった。
ミレイが突進でもしそうな勢いで、ポニーテールにした銀髪を揺らしながら近づいてくる。
「この程度なら造作もないよ」
剣を鞘に納めながら、俺は自分がいつになく澄ましていることに気づく。
今倒した魔物がこの異世界の中でもたいしたことがないのは事実だが、ミレイがいちいち持ち上げてくるせいでついつい無駄に余裕ぶってしまう。
「そんなことないですよぉっ。今の流れるような身のこなしに魔物を的確に一撃で倒す剣術、相当修行されてましたよねぇ?」
舌ったらずな喋り方と気持ちの良い褒め言葉、それに愛らしい笑顔が重なって、俺の顔は真夏のアイスのように締まりがなくなってしまう。
「これで淫魔も倒せちゃうなんてすごすぎますぅ」
ミレイは淫魔を倒せるという点をやたら褒めてきた。
まあ実際、男で戦えるだけじゃなく、淫魔を討伐できるとなれば相当貴重な存在なのだろう。
「ほんと、どうやって淫魔を退治したんですか? 剣術? 魔術?」
ミレイが目を輝かせて上目づかいで見てくる。
この愛らしい瞳で何回も同じ質問をしてくるのだが、このままだとうっかり喋ってしまいそうだ。
「そもそも淫魔を倒せるのってそこまですごいことなのか?」
「何言ってるんですかぁ!? 淫魔を余裕で倒せるってなれば、セルフィア・アルクス様に並ぶ存在ですよ」
俺はミレイと会話をしながら、改めて彼女のことを観察する。
ミレイは16という年齢相応の顔立ちや振る舞いをしていて、それでいて男心をくすぐる言動を常にしてくる。
これを自然体でやってるとしたらとんでもない小悪魔ではないだろうか。
「ダーリンのことダーリンって呼んでもいいですかぁ?」
「もう呼んでるじゃん」
「ヤダ、ダーリンったらぁ。そういう野暮なことは言わない約束ですよぉ」
ミレイが赤くなった頬を押さえ、俺の肩をポンと叩く。
自然なボディタッチだ。
学生時代だったらこれだけで気になる女子にはなっていた。いや、もう好きになってるかも。
男が全くいない世界にもこういうタイプの女の子がいることに不思議な気分になりつつ、緩みそうになる気持ちと顔を引き締める。
「あっ、ちょっと必要素材だけ回収するから待っててもらえますぅ?」
ミレイは横たわった魔物の死骸の前にしゃがみ込むと、素材回収とやらの作業を開始した。
俺はミレイの背後に立ち、周りを警戒しつつ彼女の作業風景を観察した。
腹部が露出した黒のクロップドトップの上から、作業着風の外套を身にまとった姿は、華奢と言っていいだろう。
ショートパンツに包まれた尻も小ぶりで全体的に身軽そうな印象がある。
どこにでもいそうな明るくて活発な少女。それがミレイの主な印象だった。
しかし、ミレイのナイフを持つ手つきは慣れたもので、僅かな時間で魔物の牙を取り除いてみせた。
「手慣れたもんだな。ルーツで仕事をするのは初めてらしいけど、前からこういうのはやってたのか?」
「本当ですかぁ? ダーリンにそんなこと言われたらミレイ、もっとがんばっちゃいますよぉ」
俺の質問に答えず無駄にくねくねしていたが、ミレイは会話している今も周囲への警戒を解いていない。
なるほどな、と俺は心の中で納得した。
この少女は見た目や言動とは裏腹に、ケルビナさんから仕事を回されるだけの能力はあるんだな、と。
◆
結論から言うと、俺は今回、ケルビナさん個人から依頼を受けるという形で仕事を受けることになった。
『木漏れ日』でケルビナさんと会話をしてから三日後のことだった。
ケルビナさんは、わざわざ俺が宿泊している宿『やすらぎ』に自ら足を運んでくれた。
どういう形であれ彼女が俺に仕事を回してくれた事実が嬉しかった。
仕事の内容は次のようなものだった。
端的に言えば囮役だ。
事前に俺がケルビナさんから仕事を斡旋してもらったという情報をルーツの構成員が噂という形で流す。
本命の探索隊が実生苗を探すかたわら、俺もその前後、あるいは同時刻に森を徘徊するってわけだ。
もちろん、淫魔対策としてである。
同時に魔物の討伐を主とした安全確保及び確認、指定の薬草採取も仕事に含まれている。
そして、今回の仕事が俺をルーツで正式に使うか使わないかを決めるテストも兼ねている。
そのあと、日程や当日の動きなどの細かい打ち合わせを終え、ケルビナさんはこんなことを言ってきた。
『実はマオちゃんには先にアキトさんに仕事を頼むことは伝えたの』
『そうだったんですね。マオはなんて?』
『うーん、秘密。マオちゃんに怒られたくないし』
気になった俺が言及しようとすると、ケルビナさんが俺の唇に人差し指を当てた。
『一つだけ。羨ましいなって思っちゃった』
どういう意味なんだろうか、と思ったが指先一つで言葉を封じられた俺には黙ることしかできなかった。
◆
そして、その同行者がまさかの酒場の自称看板娘、ミレイ・ドレカであった。
三日ぶりに再会したミレイの勢いは凄まじく、待ち合わせ場所に到着すると同時にいきなり抱き着かれた。
ケルビナさんからこのぶりっ子が同行者と聞いた時は半信半疑だったが、森を一緒に散策しているうちに、俺の中で彼女の評価は変わりつつあった。
「知ってますぅ? ここらへんって前はもっと綺麗に手入れされてたんですよぉ。このルミナ草なんて伸び放題ですぅ」
ミレイが森のある一帯を指さす。
草に関する知識皆無の俺には「草がボーボーだなあ」ぐらいの浅すぎる感想しか出てこなかった。
「以前はもっと整然と群生してたんですよぉ。縄張りを持つ魔物がいなくなっちゃうと、こうやって植物も荒れ放題になっちゃうんですよぉ」
俺はミレイの後を追う形で歩いていた。
「でも魔物自体はかなりいるよな? そいつらだって縄張りはもってるんじゃないのか?」
そこそこの時間を歩いているせいもあるが、俺はかなりの数の魔物を斬り伏せている。
「そうですよぉ。ただゴブリンやオークみたいなのとは遭遇してませんよねぇ?」
ミレイの言うとおりだった。
「彼らみたいな知能が高い魔物が管理する縄張りと、ウルフやボアみたいなのしかいないエリアだと、見た目からして全然違うんですよねぇ」
喋り方は相変わらずだったが、ミレイの話す内容はどこか知的でその普段とのギャップがまたイイ……じゃなく、意外性があって興味深い。
「ミレイは草木だけじゃなく、魔物にも詳しいんだな」
「えへへ、そうなんですよぉ」
ミレイが不意にくるっと回って振り返り、頭を撫でてほしいと言わんばかりに俺に向かって身体を傾ける。
「なんたってミレイはルーツの正式な構成員になることを目標にしてますからねぇ」
俺もそうだが、ミレイも今回はケルビナさん個人の依頼で動いている。
彼女は明言していないが、この仕事はおそらくルーツから今後、直接仕事がもらえるか、あるいはルーツの構成員になれるかの試験も兼ねている。
そして、詳しい理由は聞いてないがミレイはルーツに入りたいらしい。
しかし、それとは別に俺は、今回の仕事の内容に妙な引っかかりを覚えていた。
喉のあたりまでそのひっかかりの正体が出かかっているのだが、まだそれを出せずにいた。
「ミレイはなんでルーツに入りたいんだっけ?」
「……ミレイ、故郷の村を魔物に滅ぼされてるんです」
ミレイが目を伏せる。
風に揺れる木々が木漏れ日をさえぎって、ミレイに暗い影を落とした。
ミレイがかつての俺と似たような境遇であることに密かに驚く。
「お金があれば村の復興、とまではいかなくても学校ぐらいなら立て直せると思ってるんです。ルーツは金払いがいいって評判ですから」
それは俺もマオから聞いていた。
今の世界では世界樹という存在は極めて価値が高く、それを管理できるルーツもまた国が率先して援助する程度には重宝されている、と。
「どおりで魔物のことから植物のことまで、色々と詳しいわけだ」
俺は少しだけ小っちゃくなったように見えたミレイの頭を優しく撫でた。
「……ダーリン?」
「今回の任務では俺とミレイは相棒だ。俺も目標はキミと似たようなもんだ。キミのことは俺が全力で守る。だから俺の背中も頼んだ」
俺がそう言うと、ミレイが弾けるような笑顔を見せた。
「はいっ! ダーリンの背中はこのミレイにお任せくださいっ!」
それは不覚にも胸を鷲掴みにされるような魅力的な笑顔だった。
それからしばらく俺たちは雑談をしながら、周りを警戒しつつ決められたルートを散策していった。
もっとも、ルートガイドはミレイに任せているので、俺は魔物と遭遇しない限りはミレイの後方を常に歩いていた。
「しかし、森ってのはやっぱり不気味だな。ほんと、一人じゃなくてよかったよ」
「あれ? もしかしてダーリンったら怖いんですかぁ? なんならミレイが腕を組んであげましょうかぁ?」
ミレイはそう言いつつも、正面を向いて前に進んでいく。
俺も彼女について行く。
気づけば木々の間隔が狭くなっていた。
陽の光も折り重なった枝葉に遮られ、空もすっかり見えなくなっている。
地面も人間が踏み入った形跡がほとんどなくなっていた。
「なあ……こんな奥まで行く予定だったっけ?」
土地勘が全くない俺だったが、事前に見せてもらった地図ではもっと街に近い場所を散策する予定だったはず。
「予定どおりの場所に来てますよぉ。それにこういう未知の場所にこそ実生苗があるかもしれないじゃないですかぁ」
「でも苗探しは俺たちの役割じゃないだろ?」
薄暗い森の中で、ミレイの声が場違いに明るく響く。
ミレイはこちらを振り返らずにひたすら前へと進んでいく。
「……そう言えば、ここらへんも草ボーボーだけどやっぱ人型の魔物がいないせいなのか?」
ミレイに質問を投げかけた後に、ふともう一つ疑問が浮かんだ。
「ていうか、そもそもなんで人型の魔物が減ったんだ?」
ミレイはしばらく何も言わなかった。
ロングブーツが地面を穿つ音がやけに耳についた。
「ダーリン、知らないんですかぁ? みんな襲われちゃったんですよぉ?」
ようやくミレイが俺の質問に答えた。
しかし、ミレイは相変わらず前を向いたままだ。
「襲われたって、誰に?」
「誰だと思いますぅ?」
「ちょっと分からないな」
俺は少しだけ歩くペースを遅くして、ミレイとの距離を広げた。
「本当に鈍いですね」
ミレイの声が低くなった気がした。
「淫魔にですよぉ」
ミレイの声に重なるように低い雷鳴のような唸り声がした。
魔物の気配が近くでしている。しかし、なぜかそいつらは襲ってこない。
「……淫魔って人間の男以外も襲うのか?」
さっきまで枝葉を揺らしていた風も完全に止んでいた。
「そうですよ。人間ほど質はよくないですが、魔物にも精力と魔力は当然あります。特にオーク、トロール、ゴブリンあたりはまだ食べるのに耐えられますから」
ミレイは奇妙な言い回しをした。
腐葉土特有の湿った匂いが濃くなって、鼻孔をくすぐってくる。
「まるで自分が食べるみたいな言い草じゃないか、ミレイ」
俺は笑ったが、ミレイは何のリアクションもしてこない。
「ミレイ?」
そこでミレイが立ち止まった。
まるで時間が止まったかのように、静寂が世界を支配する。
「……実際、人間の精力が一番おいしいらしいんですけどね。確かに人間の女だって、醜いゴブリンやトロールに比べたら、悪くない」
ミレイがゆっくりとこちらを振り返った。
「でも——やっぱり一番おいしいのは人間の男ですけどね」
いつの間にか赤く染まった瞳が、銀色の髪の下で爛々と輝いていた。
ミレイが目にも止まらぬ速さで握っていたナイフで、俺を切り裂こうとする。しかし俺の剣がミレイの首元に突きつけられるほうが速かった。
「……気づいてたんですねぇ、ダーリン」
「……確信はなかったけどな」
ミレイ自身に落ち度はない。
俺がミレイの正体が淫魔である可能性に気づいたのは、今回のケルビナさんの依頼内容に違和感を覚えたからだ。
俺が違和感を抱いたのは、囮の件を噂という形で周知させるという部分だった。
ルーツをはじめとするアソシアは人材の厳選をしてきた。それは周知の事実だ。
なのに、ぽっと出の俺を使うことを宣伝にも似た形で広めようとしている。
この采配は一歩間違えれば、組織のこれまで積み上げてきた信用を崩壊させかねない。
では発想を逆転してみたらどうだろうか?
噂は流していないとしたら?
苗探索部隊も動いていないとしたら?
俺とミレイしか動いてないとしたら?
この仕事は俺とミレイのテストも兼ねている。
そして、俺がケルビナさんにあの酒場で語った俺だけの優位性はなんだった?
淫魔を倒せる。
つまり、この依頼の真の目的は俺が本当に淫魔を倒せるか。
それは逆説的にミレイが淫魔かどうかを確かめること。
「俺を騙すために猫をかぶってたのか?」
「だってダーリン、大好きなんでしょ――猫が」
ミレイが口の端が裂けそうな笑みを浮かべる。
今まさに俺は試されている。
ならばこの戦いで証明する。
俺という人間の価値を。