愛と自由の軌跡 作:鬼頭魔羅丸
愛と自由の軌跡〜ロレント地方編①〜
後に『重剣のアガット』と呼ばれる少年は、生まれながらにして常識外れだった。
幼い頃に両親を失い、頼る者もなく生きていた彼は、人並み外れた身体能力と驚異的な生命力を武器に各地を渡り歩いていた。年齢に似合わぬ体格と腕力を持ち、大人でも持ち上げるのが難しい荷物を軽々と運び、危険な山道や魔獣の出没する地域さえ単独で踏破していたという。
そんなある日、百日戦役のさなか、帝国軍の侵攻によってリベール王国各地は戦火に包まれる。
国境付近では激しい戦闘が繰り広げられ、多くの人々が故郷や家族を失った。アガットもまた、戦争によって大切な人々を失うことになる。
故郷を焼かれ、多くの命が奪われた光景は、彼の心に深い傷を残した。
生き残ったアガットは故郷を離れ、行き場のないまま各地を放浪するようになる。怒りと後悔を抱えながらも生き抜いた彼は、その過酷な経験の中で並外れた強さを身につけていった。
やがて遊撃士となったアガットは、数々の依頼をこなしながら頭角を現していく。
鍛え抜かれた肉体から繰り出される豪快な大剣術は圧倒的で、多くの依頼を解決してきた実績も相まって高い評価を得ていた。しかしその一方で、戦争で失った人々への自責と怒りは消えることがなく、危険な任務では誰よりも無茶をする傾向があった。
そんな彼を気にかけていたのが、英雄カシウス・ブライトである。
王国最強の遊撃士として知られていたカシウスは、アガットの実力だけでなく、その内に抱える苦悩も見抜いていた。時に助言を与え、時に厳しく導きながら、彼を一人前の遊撃士へと育てていく。
また、ブライト家とも自然と交流を持つようになった。
エステルは活発で負けず嫌いな性格から何かとアガットに勝負を挑び、兄のように慕った。アガットもまた彼女を気にかけ、ときに厳しく、ときに優しく接していた。
後にブライト家へ迎えられたヨシュアとも交流を深めていく。
過去の事情から強い警戒心を抱いていたヨシュアに対し、アガットは無理に距離を縮めようとはしなかった。必要以上に踏み込まず、それでいて困った時には自然と手を差し伸べる。その不器用ながら誠実な姿勢は、少しずつヨシュアの心をほぐしていった。
やがて二人の間には確かな信頼関係が築かれ、エステルを含めた三人は家族のような絆を育んでいく。
時が流れ、アガットは王国を代表する若手遊撃士の一人として名を知られる存在となった。
その実力と責任感から多くの人々に頼られる一方で、戦争で失われた過去は今なお彼の胸に影を落としていた。
しかし、その過去こそが彼を前へ進ませる原動力でもあった。
カシウスの突然の長期出張、準遊撃士となるエステルとヨシュアの旅立ち、そしてリベール王国全土を揺るがす巨大な陰謀。
数々の事件が複雑に絡み合いながら動き始める中、アガットもまた運命の渦へと巻き込まれていく。
その中心には――過去の悲劇を乗り越えようと戦い続ける、一人の大剣使いがいた。