※この作品はR-18です。

中世古香織にひと目惚れした同級生の話   作:日向陰陽

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第15話 「信じるくらいいいだろう」

―――舌打ちした。松本先生が俺を睨む。睨み返した。目を部員全体に向ける。

 

松本「新しく顧問になる滝先生が明日からいらっしゃるので詳しいことその時に聞くように。では高校生らしい態度と高校生らしい服装で今後も部活に励むように。以上だ!」

 

松本先生が出ていく。俺は黙っていられなかった。追いかけることにした。

 

珂織「ごめん、ちょっと時間ちょうだい。先に進めてて。」

 

晴香「あ、うん…。」

 

音楽室を出て話しかける。

 

珂織「おい…。」

 

松本「……何だ?」

 

珂織「一昨年も去年もロクに顔出さなかったくせして今回はどういうつもりなんだよ?出しゃばりやがって部長に伝えればいいだろうが。」

 

松本「私も反省してな。必要があれば顔を出すことにした。機会は少ないだろうがな。」

 

珂織「人間の屑散々社会にばら撒いといて何を反省したんだよ。んな言葉信用できるか。」

 

松本「今すぐ信用してもらおうとは思わん。行動で証明するだけだ。」

 

珂織「お得意の『顧問に一任』しねえのかよ。どう行動するってんだよ。」

 

松本「黙って見ていろ。滝先生と協力して部を立て直す。」

 

珂織「ふざけんな⁉ 黙ってられるわけねえだろうが⁉ てめえに何が出来んだ⁉ 何様のつもりだ⁉ 舐めんじゃねえぞ⁉ 大きなお世話だ馬鹿野郎⁉」

 

松本先生は立ち去っていった。頭に血が昇っていた。眩暈がする。壁に寄りかかって目を瞑って座った。何度も深呼吸した。

 

「大丈夫…?」

 

珂織「大丈夫じゃないかも…。香織は楽器紹介終わったの?」

 

香織「うん…。音楽室で待ってたら珂織の怒鳴り声が聞こえて…。心配になって…。」

 

珂織「ごめんね心配させちゃって…。もう戻ろう…。疲れた…。」

 

音楽室に戻る。楽器紹介は終わったようだ。視線が俺に集中する。一礼する。

 

珂織「お騒がせして申し訳ございませんでした。あ、1年生の皆さんに自己紹介していい?」

 

晴香「いいよ。」

 

珂織「ええと…3年生、サックスパートの中世古珂織と申します。トランペットパートの中世古香織さんと紛らわしいので俺のことは気軽に『かっちゃん先輩』とでもお呼びください。よろしくお願いいたします。」

 

一礼する。拍手が聞こえる。歓迎はされたようでホッとした。1年生向けの基礎錬に移った。腹式呼吸の練習をするそうだ。香織が1年生を連れて外に出た。俺は個人錬をさせてもらった。邪念を振り払うようにひたすら吹きまくった。部活の時間が終わった。ひとりで帰ろうとしたところに昇降口に見慣れた人影。香織だった。

 

香織「一緒に帰ろう。」

 

珂織「いいよ。」

 

並んで歩く。

 

香織「新しい顧問ってどんな人なんだろうね。」

 

珂織「さあ? 前みたいに無能じゃなけりゃいいけど。」

 

香織「前から聞きたかったんだけど、私の事どう思ってる?」

 

珂織「とっても綺麗でスタイルが良くて、気配り上手で良く出来た同級生だと思ってる。」

 

香織「眼鏡外してショートヘアにしても?」

 

珂織「1年生の時はその姿でひと目惚れしたから変わらないと思うよ。」

 

香織「本気にするよ?」

 

珂織「いいよ。」

 

香織「あすかに気が向かないか不安だけど…珂織が言うなら信じる。」

 

珂織「信じて。」

 

香織「来週、私を抱いてね。」

 

珂織「そのつもりだよ。」

 

香織「それじゃあ1年生の頃に戻すよ。ビックリしないでね。」

 

珂織「しないよ。」

 

香織「じゃあ私こっちだから、また明日ね。」

 

珂織「うん、また明日。」

 

姿が見えなくなるまで見送った。走って帰った。着替えて部屋を出る。どうかまともな顧問でありますようにと祈りながら運動しまくった。フラフラになって部屋に戻った。薬飲んで寝た。香織との行為を思い浮かべた。すぐに眠れた。

 

翌日、早朝。髭と眉を剃る。歯磨き洗顔を済ませて走って学校へ向かった。朝練に励む。教室へ向かう。香織に会った。髪型が戻っていて眼鏡も外していた。

 

香織「どう? 変じゃない?」

 

珂織「とっても綺麗だよ。3年生になって色気が増したように見える。」

 

香織「嬉しい…。」

 

香織が頬を染める。相変わらず美しかった。休み時間の間、香織の周囲に人が集まっていた。

 

「どうしたの香織⁉ イメチェン⁉」

 

「何かあったの⁉ まさか失恋⁉」

 

香織「うーん…気分転換ってところかな。あ、失恋じゃないよ。」

 

「そうだよねぇ…香織を振る男がいたら天罰が下るわよ。」

 

ちらりと周囲の女子が俺を見る。香織と関係を持っているのは周知の事実なのだろうか。それを俺に聞く勇気のある者は誰もいなかった。部活の時間になった。どうかまともな顧問でありますようにと祈りながら待った。ついでに1年生の義務であるらしい机出しの作業を手伝った。机の上に逆さにした机を乗せて2個同時に運んだ。1年生から視線が集中する。どうやらこの運び方は誰にでも出来るわけではないらしい。張り切って運んだ。

 

香織「他の1年生の3~4倍くらい作業したと思うけど無理しないでね。」

 

珂織「新鮮だからつい張り切っちゃった。無理はしてないよ。気を遣ってくれてありがとうね。」

 

その内、イケメン…と言っても差し支えないだろう好青年然とした男性が音楽室に入ってきた。この御方が滝先生か…と思った。始めに部の目標を決めることになった。先生が『全国大会出場』と書いてこれが去年までの部の目標だと言われた。驚きを隠せなかった。と同時に「(どこがだよふざけんじゃねえぞあの無能クソ副顧問舐めんじゃねえぞ)」と内心毒づいた。頭に血が昇るが深呼吸して何とか落ち着いた。晴香が戸惑う態度を見せる。

 

珂織「いいんじゃないでしょうか。万年府大会銅賞で終わった恥知らずの先々代、先代のクソ無能で人間の屑の集団だった奴らと俺たちは違うということを証明したいです。『全国大会出場』…俺には想像も及びませんが、どうか…よろしくお願いいたします。部長、よろしいですか。」

 

滝先生に頭を下げた後、晴香に問うた。

 

晴香「みんなもこれでいい?」

 

「「「「「はい‼」」」」」

 

滝「今決めた目標は皆さん自身が決めたものです。私はその目標に向かって力を尽くしますが努力するのは皆さん自身、そのことを忘れないでください。わかりましたか?」

 

「「「「「はい‼」」」」」

 

その日はそれで解散となったが俺は居残り練習した。『全国大会出場』…気合いが入った。具体的にどんな練習が行われるのか不明だが対応できるようにかつて練習した楽曲を吹きまくった。ふと肩を指でトントンと叩かれるような感触。振り向く。入学式当日に入部した気合いの入った新入生…名前が思い浮かばない…。

 

珂織「ええと貴女は1年生ですよね、名前が思い出せなくて申し訳ございません。俺は中世古珂織と申します。よろしければお名前を窺ってもよろしいでしょうか。」

 

「高坂麗奈と申します。先輩の演奏はとても上手で大音量で凄い集中力で情熱的ですね。入学式の日も思いました。こんなに上手い先輩がいて私は恵まれてると。と言っても私はトランペットですが。」

 

珂織「高坂麗奈さん…覚えました。それで何か御用ですか?」

 

麗奈「一昨年と去年の先輩を憎んでいらしてるようですが、何があったのか教えていただけませんか?」

 

珂織「俺個人の事情も多分に含まれていますがそれでもよろしいですか?」

 

麗奈「ぜひ聞きたいです。」

 

珂織「音楽室でロクに練習しないで駄弁ったりお菓子食ったりで俺が1年生の頃から空き教室で個人錬やってると「目障りなんだよ今すぐ片付けろ。」って難癖つけられて、部活中に練習して何が悪いんですか?って聞いても「先輩が片付けろっつったら片付けろイジメるぞテメー。」って言われたので髪掴んで頭部に膝蹴り何発か叩き込んだら泣き出してどうやってイジメんだよ答えろって聞いても泣いてばかりで答えないんで音楽室の床にパイルドライバーかましました。それで2年3年連中にてめえら目障りだ辞めちまえって言ったんですけどそれから学校の備品の方のアルトサックス隠されたのでマイ楽器買うために学校休んで働きまくりました。副顧問に後10日休んだら留年って言われたので約70万円貯まったしもういいかなと思って39万6千円のアルトサックス買いました。それもしばらくしたら盗まれたので3年の教室片っ端から襲撃して犯人探しました。丁度2つ目の組で犯人見つかったので髪引きずって校長室に乗り込んで警察呼ばせました。ついでにクソ両親も呼ばせて先に来たのでこいつの将来に見合うだけの金払えって警告して1200万円巻き上げました。ここまでで質問ありますか?」

 

麗奈「マイ楽器買うまで働いてたんですか…⁉ 顧問や副顧問は何してたんですか?」

 

珂織「何もしてないですよ。コンクールの2ヶ月くらい前に音楽室にやってきて上級生からメンバー選んでそれで終わりです。副顧問には何度か苦情を訴えましたが『顧問に一任している』の一点張りで何もしませんでした。」

 

麗奈「……それが昨日の口論に繋がったんですね。」

 

珂織「はい。」

 

麗奈「……続きを聞かせてください。」

 

珂織「まあ…代が変わっても相変わらずで1年生の練習の邪魔になるので3年生脅して音楽室から追い出して練習場所確保する日々が続きました。それで相変わらず上級生がコンクールメンバーに選ばれたの見かねて今の3年に何が出来んだよ、2年生と1年生で編成し直せって顧問に警告したんですけど全然聞いてなくて、2年生の傘木希美さん…ってわかりますか?当時1年生だった彼女と同級生数人が3年の部長らしき女に『コンクールメンバーの座を2年生に譲ってあげてください』って直訴したんですけど全然聞かなくって『みんな』迷惑してるって言ったんで俺も頭に来て『みんな』って誰だよ2年生と1年生と合わせて多数決採れば無能の3年より数多いはずだぞって言い返しました。それでも俺に文句あるようだったので、じゃあ3年の男子かき集めて囲んでこい。でも刃物持った15人でも俺を殺せなかったからそれ以上の人数連れてこいって言い返しました。それから急に体調悪くなって死にかけました。……こんなとこですかね。聞きたいことはありますか?」

 

麗奈「……刃物持った15人と喧嘩したんですか…⁉ 体調悪くなって死にかけたって聞きましたけど何があったんですか?」

 

珂織「はい、中学3年の時ですがね。それで…ええと…実は中学3年生の頃から鬱病と不眠症を患ってまして2日も薬抜くと自殺を考える程度に生き地獄のような苦痛を体験します。それが何故か急に学校にいる間に苦痛に襲われました。原因は今でも不明です。」

 

麗奈「自殺…⁉ 考えたんですか…⁉」

 

珂織「はい。電車が来る直前にレールに飛び込んだり大型車が通りかかっては道路に飛び出したくなりました。我慢しましたけど。まあ…今までの時間を無駄にしたくないので『全国大会出場』って目標に乗ることにしたのが大きいです。無能で人間の屑な先輩や顧問や副顧問に邪魔されたので最後くらいいい思いしたいなってそれだけです。高坂さんは気にしなくていいですよ。」

 

麗奈「そうはいきません。散々苦労してきた上に先輩たち程の方々がこのままで終わってしまうのは間違っています。先輩が笑って終われるように私も全身全霊で協力させていただきます。」

 

珂織「よろしいのですか?何かとトラブルがあれば暴力で解決するようなつまらない男ですよ俺は。それに相手の好意にもきっぱり断ることも出来ずにズルズルと関係を持ち続けるだらしない男でもあります俺は。」

 

麗奈「演奏は嘘をつきません。先輩の演奏は今までに積み上げられた地道な努力と才能によるものだと納得させられました。これでもそこらの奏者に負けない実力は持っていると自負しています。そんな私の言うことは信じられませんか?」

 

珂織「……そこまで仰るなら俺から言うことは何もありません。高坂さんにお任せします。」

 

麗奈「はい、お任せください。それでは練習頑張ってください、失礼します。」

 

よくわからないが応援されたのだろうか。誇り高そうで馴れあいを嫌いそうなイメージだが彼女の態度では経験者の実力者らしいので褒められたのは嬉しかった。これからどうなるのか俺には予想すら出来なかった。

 

翌日、空き教室で朝練に励む。トントンと指で叩かれるような感覚。振り向く。高坂さんだった。

 

珂織「あ、おはようございます。すみません気づかないで。どうされましたか?」

 

麗奈「やっぱり先輩の音はいい音ですよ。自信を持ってください。以上です、失礼します。」

 

『自信を持つ』…いつだか誰かに言われた気がするが思い出せない。だが熟練者の言うことは参考にさせていただこうと思った。部活の時間になった。机出しの作業を終えて椅子に座る。滝先生が入ってくる。

 

滝「それでは皆さんの合奏の実力を聴かせていただきます。よろしいですか、部長。」

 

晴香「はい、1年生は楽器選びが終わったばかりなので2年生と3年生の合奏になりますがいいですか先生?」

 

滝「いいですよ、お願いします。」

 

晴香「それじゃ入学式の日に演奏したので行こう。かっちゃん、あすか、いい?」

 

珂織&あすか「「はい。」」

 

あすかが教壇に立ち指揮をする。手の振りに合わせて演奏を開始する。ボーカルパートを焦らずゆっくりと繊細に吹いていく。間奏に加わるべきか迷ったが俺が目立ちすぎても台無しなのでボーカルパートに専念することにした。次のボーカルパートから遠慮なく思うがままに吹いた。最後のエレキギターパートの演奏で合奏が終了する。

 

滝「……。」

 

滝先生はさっきから無言のままだ。専門家から見た意見が知りたかった。緊張しながら待った。

 

滝「……素晴らしい。とても素晴らしいです。特に…アルトサックスの…そちらの眉無し坊主頭の貴方…名前を聞かせていただけますか?」

 

珂織「中世古珂織と申します。トランペットパートの中世古香織さんと同姓同名です。よろしくお願いいたします。」

 

滝「……音量といい細かい音まではっきりと素早い指使いで音を出してとても素晴らしい演奏でした。楽譜はありますか?」

 

珂織「はい、少々お待ちください。」

 

バッグから楽譜を取り出し滝先生へ渡す。

 

滝「これは…ボーカルを再現したのですか? ひとりで?」

 

珂織「はい。」

 

滝「惜しいですね。この曲がコンクール曲で先程の演奏が本番なら全国金も夢ではないでしょう。それほど貴方の演奏は素晴らしかったです。」

 

珂織「ほ、本当ですか…⁉」

 

滝「はい、もっと自信を持ってください。」

 

珂織「ありがとうございます⁉ ありがとうございます⁉ ありがとうございます…⁉」

 

立ち上がり何度もお礼を伝え頭を下げた。夢みたいだった。最上級の誉め言葉だった。もっと頑張ろうと思った。滝先生を信じてみようと思った。

 

滝「皆さんも彼の演奏を参考にしてください。情熱を具現化したかのような彼の演奏を。わかりますね?」

 

「「「「「はい‼」」」」」

 

それからもB'zの楽曲を何曲か合奏した。その度に褒められた。嬉しかった。それから今後の予定について説明された。サンライズフェスティバルなるイベントの練習に移るそうだ。過去2年俺は参加しなかったのでよくわからなかったがマーチングというやつらしい。それなら知っている。同じ京都の立華高校が超有名な強豪校として全国に名を馳せているのは俺ですら知っていた。気合いが入った。新しいことに挑戦するのが楽しみだった。部活が終わった。

 

晴香「かっちゃん良かったね…。滝先生に認めてもらって…。私も嬉しいよ…。」

 

晴香は泣いていた。

 

香織「私も嬉しい! やっとかっちゃんの努力が認めてもらえて本当に良かったよ!」

 

珂織「本当に夢みたいです…。滝先生にあんなに褒められるなんて思ってもいませんでした。」

 

希美「毎日朝練で演奏聴いてる私たちからすれば当然の評価ですよ! ね、みぞれ?」

 

みぞれ「凄い演奏でした…⁉ もっと自信を持ってください先輩…。」

 

とまあこんな感じで部員の皆さんにも褒められまくった。少しは自信を持とうと思った。

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