―――途中で葵さんとは分かれの挨拶をした。香織さんは未だに無言で俺についてくる。
香織「ねえ…空き教室でキスしてるところ見ちゃったんだけど…どういうことかな?」
珂織「俺の自惚れかもしれませんが、葵さんは俺の事が好きなようです。」
香織「斎藤さんとしたの?」
珂織「はい。」
香織「気持ちよかった?」
珂織「はい。」
香織「私としたことは斎藤さんに話したの?」
珂織「はい。」
香織「どっちが気持ちよかった?」
珂織「思い出せません。」
香織「じゃあ思い出させてあげる。早く行こう。」
珂織「帰りが遅くなりますよ。」
香織「家には友達の家に泊るって伝えたから大丈夫だよ。」
珂織「それなら良かったです。」
部屋に入った。
香織「斎藤さんとした時と同じようにして。」
珂織「それでは…。」
唇を重ねた。舌を絡める。制服と下着を脱がせる。胸を揉みしだき乳首をつねる。甘噛みする。快感の声を漏らす。興奮してきた。布団に仰向けに寝かせて両脚を開く。股間に顔をうずめる。
香織「あ⁉ そんなとこ汚いよ⁉」
珂織「でも葵さんには同じことしましたが…。それにとてもいやらしい匂いがして物凄く興奮しますよ。」
香織「そうなんだ…じゃあ同じようにして。」
舐め回した。甘い声が聞こえる。もう香織さんの入り口は準備万端だった。それから葵さんとした時を思い出しながら行為に耽った。香織さんが動かなくなるまでした。バスタオルで汗を拭いてお米を研いで電子ジャーにスイッチを入れてからシャワーを浴びた。既に起きていた香織さんに口でしてもらった。萎えるまでしてもらって全部飲んでもらった。ジャージに着替えて運動してくると告げた。その間ノートPCでも眺めてもらって時間を潰してもらうよう頼んで外に出た。フラフラになるまで運動して部屋に戻った。再度シャワーを浴びて晩御飯をかき込んで薬を飲んだ。また裸になって抱き合って眠った。心地よかった。
目が覚める。目の前には裸体の香織さん。股間が反応した。我慢して着替えて歯磨き洗顔を済ませた。香織さんもお目覚めのようだ。シャワーを浴びるように勧めた。未使用の歯ブラシを用意した。その間に『Still Alive』の楽譜をダウンロードした。コンビニで印刷できるように手続きをした。全裸の香織さんがバスルームから出てきた。目を逸らした。歯磨きするように勧めた。彼女が歯磨きと着替えるのを待って一緒に部屋を出た。コンビニに寄って楽譜を印刷した。走って登校して朝練をしたかったが香織さんを置いていくのも気が引けた。歩幅に合わせてゆっくり登校した。
珂織「あの…自分でこんなこと聞くのも何か痛い奴だと承知な上で聞きますが、香織さんは俺の事好きなんですか?」
香織「そうだよ、珂織くんはわたしのことどう思ってるの?」
珂織「とっても美人で…ひとめ惚れという奴かもしれません。」
香織「それなら両想いだね。恋人同士ということでよろしく。」
珂織「京都駅周辺での出来事なら忘れてくださっていいんですよ。」
香織「あの日だけじゃないよ。今まで一緒にいたから分かる。珂織くんはとても優しくて礼儀正しくて謙虚で物凄く強くて決して威張らないいい人だって。」
珂織「……俺はそんなに良く出来た人間じゃないですよ。先輩たちの体たらく見ていつか暴れるかもしれません。俺はそういう人間です。だから家から追い出されて京都に来ました。」
香織「何があったの?」
珂織「元々両親とは気が合いませんでしたが、中学3年の時に不良気取りの6人組が校内でイジメやってるの見て1匹残らずブチのめしました。それから15人くらいに囲まれて包丁で少し刺されたり首をカッターナイフで切られましたがそれでも全員ブチのめしました。後日、校長室に呼ばれて停学1か月の処分を言い渡されました。じゃあ俺の首切ったり腹を刺した奴はどうなんだよと聞いたら俺は軽傷で相手は全治数か月の重傷だから俺だけ処分が決まったって聞かされて頭に来て校長の首絞めて殺そうとしたら体育教師たちが雪崩れ込んで無理やり引き離されました。全員ブチのめしましたが。それで追加で2週間の停学処分が追加されて、学校が家にも電話で連絡したそうで両親は激怒して無視決め込んだ俺の頭を蹴りまくって馬乗りになって殴られましたが『俺のどこが間違ってるのか言ってみろやこの野郎』って聞いても答えないで殴り続けたんで俺も頭に血が昇って思いっきりクソ親父をブン殴ってついでにクソババアもぶん殴りました。それで早朝は家を出て運動しまくって夜になって帰ろうとしたら玄関に鍵かけられて入れなかったのでコンクリートの上で寝ようと思いましたが眠れませんでした。それが1週間くらい続くと全く眠くならなくなって、頭痛、眩暈、吐き気、過呼吸、聴覚過敏、重度の眼精疲労、全身の関節痛及び筋肉の硬直、呂律が回らなくなって会話も難しくなって指先が痙攣して自分の名前を書くのも難しくなる。無意識に歯を食いしばって顎がガタガタになる…といった症状が一気に現れて内科に駆けこんで睡眠薬もらいましたが効き目が弱すぎて1か月分の薬を1週間少しで使い切っちゃって先生に怒られて出禁になってより強いのを求めて精神科へ行きました。診断の結果鬱病と不眠症と言われました。クソ両親には地元を出るのを条件に進学の許可は得られました。京都に来たのは偶然です。」
香織「ええと…ちょっと待って、首を切られて包丁で刺されたのに珂織くんだけが処分されたの?」
珂織「はい。」
香織「理不尽過ぎない?」
珂織「俺もそう思いましたし抗議しましたけど誰も聞いてくれませんでした。クソ両親も含めて。友人を名乗っていた連中もサーっといなくなりました。だから香織さんの好意にどう対応していいのかわかりません。」
香織「誰かに愛された記憶ってある?」
珂織「ないです。」
香織「じゃあじっくりと相手からの好意に慣れるしかないね。」
俺の手を握って歩く。
珂織「こんな湿気た男子といて楽しいですか?」
香織「ええ楽しいわ! だから珂織くんは安心して私と一緒にいいのよ!」
珂織「俺は何だか申し訳ないですよ。こんな湿気た話しか出来なくて。」
香織「珂織くんが気にすることじゃないよ! 私は君のことを知ることが出来て嬉しい!」
珂織「香織さんって男子に告白されたことないんですか? 絶対モテると思うんですけど。」
香織「ないよ。男子と付き合うって今が初めて。」
珂織「俺より魅力的な男子が現れたら俺の事なんて忘れてそっちへ行っていいんですよ。」
香織「そんなことはあり得ないから心配無用よ。」
珂織「俺なんてまだまだ小僧ですよ。これから何らかの出会いがあるかもしれませんよ。」
香織「それなら私を助けてくれた人が同じ学校の同級生で同じクラスなんだからもう運命の出会いみたいなものよ。私、入学式で珂織くんを見て運命って本当にあるって思った。」
珂織「人として当然のことをしただけですよ。」
香織「ナイフ持った不良6人をあっという間にやっつけるのが当然の行為なら日本の治安はもっと良くなってるよ。斎藤さんに『控えめな態度も度が過ぎると嫌味に見えるから気をつけるように』って叱られたんだっけ?まさに今がそうよ。」
珂織「あれは相手が弱すぎただけです。」
香織「あーもう! どうしてそんなに自信が持てないのよ⁉」
珂織「正しさは人によってコロコロ変わるって去年思い知らされましたので。」
香織「去年のことはどう考えても珂織くんが正しいよ! どうして誰も味方しなかったのか不思議なくらいよ!」
珂織「俺から喧嘩を売るようなことはしないと思いますが、このまま部活続けて先輩に練習妨害されたり楽器隠されたりしたら先輩たちの教室片っ端から襲撃して犯人探しますよ。それでも味方で居続けられますか?そんな時に香織さんが一緒にいても立場が不利になるだけですよ。先輩たちにイジメられてまで吹奏楽部にいられますか?」
香織「……。」
珂織「香織さんの好意は嬉しいですけど俺にあまり深く関わりすぎるとマズいことになるのは覚悟しておいてください。とりあえず今の先輩たちは捨てられない生ゴミ同然だと思っているので。」
香織「……。」
珂織「あ、走って学校行っていいですか? 朝練したいので。」
香織「うん…。」
香織さんを置いて例の如く職員室へ寄ってから音楽室へ行き我が相棒を手に座って楽譜を熟読する。とりあえず吹いてみることにした。始めはスローテンポのボーカルから始まりその後軽快なギターに、そして重厚なギターパートに変わり高音のボーカルパートが続く。その後ギターの早弾きが始まりまた高音のボーカルが始まる。また重厚なギターで終わる。アルトサックスひとつで再現したいと思った。丁寧に目で追いながら吹き続けた。紙をめくっては吹くの繰り返し。一応最後まで吹き終えた。非常に簡素だが。始めからやり直す。最後まで吹く。繰り返した。次第に慣れてきた。指が細やかに滑らかにイメージ通りに動く。相変わらず楽譜を見ながらなので途切れ途切れになってしまうが、それでもさっきより早く吹き終えた。黙々と吹いた。我ながら上達している…と思う。ホームルームの時間が迫っていた。走って職員室で鍵を返して教室に入った。
香織「いい音出してたね。ハッキリ言って凄いよ。」
珂織「そうですか? 恐縮です。」
香織「もう…! そこはもっと自信を持ってほしいな…!」
珂織「なんせ吹奏楽始めて3日目の小僧ですから自信を持つのは難しいですよ。」
香織「日数は関係ないよ! 必要なのは上手くなろうという意思よ。それがビシビシ伝わってくる!」
珂織「うーん…難しいですね。上手くなりたいのは本当にそう思っていますが。」
昼休みに入った。
珂織「では行ってきます。」
香織「いってらっしゃい。」
体育館へ向かう。
「珂織くん!」
聞き覚えのある声、振り向く。葵さんだった。
葵「中世古さんは…いないわね。一緒に行ってもいい?」
珂織「いいですよ。」
ふたりで体育館へ行った。黙々と筋トレする。葵さんはもうお弁当を食べ終えてひたすら俺の姿を眺めている。
葵「その…中世古さんとは昨日したの?」
珂織「はい。」
葵「どんな風に?」
珂織「葵さんとした時と同じようにしてほしいと言われたので同じようにしました。」
葵「ふたりは付き合ってるの?」
珂織「うーん…まだそこまではいってないと思います。忠告もしましたから。」
葵「『忠告』って?」
珂織「『俺から喧嘩を売るようなことはしないと思いますが、このまま部活続けて先輩に練習妨害されたり楽器隠されたりしたら先輩たちの教室片っ端から襲撃して犯人探しますよ。それでも味方で居続けられますか?そんな時に香織さんが一緒にいても立場が不利になるだけですよ。先輩たちにイジメられてまで吹奏楽部にいられますか?』と。あと『香織さんの好意は嬉しいですけど俺にあまり深く関わりすぎるとマズいことになるのは覚悟しておいてください。とりあえず今の先輩たちは捨てられない生ゴミ同然だと思っているので。』と伝えました。」
葵「そ、そうなんだ…。先輩と本気で喧嘩するつもりなの…?」
珂織「あちらが何もしなければ何もしませんよ。でも何かされて我慢できるほど俺の理性は無限じゃないことを教えてあげたいです。彼氏でも男子の友人でも穴兄弟でもとにかく人数かき集めて襲ってくれれば最高ですね。思いっきり暴れられます。グチャグチャにしてやりますよ。」
葵「中学の時も似たような経験したの?」
珂織「はい。」
葵「その時も独りだったの?」
珂織「はい。」
葵「味方はいなかったの?御両親とか」
珂織「あんなクソ両親なんて論外ですね。法律が許すなら今すぐにでもブチ殺しに行きますよ。」
葵「何があったの?」
珂織「うーん…お手数ですが香織さんに聞いていただいてもよろしいですか?彼女にだけは話しました。自分で話すと長くなりますし結構疲れるので。」
葵「……わかった、そうする。」
こうして教室へ戻った。部活の時間になった。いつも通り空き教室で『Still Alive』を片っ端から吹きまくった。葵さんはいない。恐らく香織さんに話を聞いているのだろうと思った。勢いよく扉が開いた。
「耳障りなんだよ、今すぐ止めろ。」
珂織「どちら様ですか?」
「吹部の3年だよ。とにかく片付けろ。」
珂織「部活中に練習して何が悪いんですか?」
「先輩が止めろっつったら今すぐ止めろ! イジメるぞテメー!」
珂織「はあ…そうですか。」
歩み寄って髪を思いっきり掴んだ。そのまま職員室まで引っ張って行った。松本先生は…いた。
珂織「松本先生、少しよろしいでしょうか?」
松本「……どうしたんだそいつは?」
珂織「吹奏楽部の3年生らしいんですけど、俺が1人で練習していたら『耳障りなんだよ、今すぐ止めろ。』って言われた上に部活中に練習して何が悪いんですか?って聞いたら『先輩が止めろっつったら今すぐ止めろ! イジメるぞテメー!』って言われました。どう思いますか?」
松本「……こいつが間違っていると思う。」
珂織「良かった、……それで? どうやって俺をイジメるんだ? 教えろよ。」
3年に聞いたが答えない。
珂織「答えろや。」
髪を両手で掴んで頭部に膝蹴りを叩きこんだ。3年が泣き出した。また膝蹴りをブチ込んだ。泣き声が激しくなる。続けて膝蹴りを叩き込み続けた。松本先生の怒声が聞こえた気がするが、声を出さなくなるまで続けた。髪を引っ張って音楽室に戻った。相変わらず能無し共が駄弁ってお菓子食っている。俺と3年の姿を見て静まり返った。
珂織「どうやって俺をイジメるのか聞いてるんだが、答えろよ。」
また膝蹴りをブチ込む。また3年が泣き出した。
珂織「うるせえよ、黙れ。」
泣き止むまで黙々と膝蹴りを叩きこんだ。
「「珂織くん⁉」」
珂織「香織さんに葵さん、どうしましたか?」
香織「お願い、放してあげて。」
珂織「こいつが俺をイジメるらしいんですけど、どうやって?って聞いても答えないんですよ。困っちゃいますよね。てめえ聞いてんのか。」
追加でもう1発蹴った。相変わらず泣き続ける3年を抱えてパイルドライバーを食らわせた。大人しくなる。
珂織「はあぁー、くだらねえ。てめえら全員辞めちまえよ。目障りだ。捨てられない粗大ゴミが。」
空き教室に戻った。何だか一気にやる気が失せた。帰ることにした。
珂織「申し訳ございません。今日はもう帰ってもよろしいでしょうか。くだらない時間に気を取られて疲れました。」
葵「う、うん…いいよ。」
早々に走って帰った。ジャージに着替えて汗を流しまくった。後始末諸々を終えて薬飲んで寝た。怒りは燻ぶったままだった。翌日、早朝。目が覚める。手早く身支度を済ませて学校へ向かった。松本先生に挨拶して鍵を受け取る。楽器室に入って俺のアルトサックスを探したが綺麗に棚がポッカリと隙間が空いている。どこを見渡してもそれらしきものは見当たらない。ため息をつきながら楽器室を出た。職員室へ戻った。
松本「何だ? 忘れ物か?」
珂織「楽器隠されちゃったみたいですね。しょうもない先輩持つと苦労しますよ。というわけなので楽器買うためにアルバイトします。文句ないですよね?」
松本「あ、ああ…。」
学校を出て最寄りのコンビニへ行った。無料の求人誌があったのでもらった。派遣会社に連絡して依頼待ちとなった。早速電話がかかってきた。近くの現場で朝から夕方までの仕事を紹介してもらった。喜んで引き受けた。また職員室へ向かった。
珂織「早速仕事が入ったので今日は欠席します。担任の先生にもよろしく伝えておいてください。」
松本「待て! 中世古!」
待たなかった。頭に血は昇り続けていた。