エロゲ退魔モノな世界観で。退魔の家系に生まれ追放された後に術式を覚醒した主人公は化物を調伏する力で現代を謳歌する、現代ファンタジー 作:三流木青二斎
「はっ」
地面を蹴ると共に接近する咒ヰ師は山高帽子を操作しながら長狭仁衛の方へ接近する。
「山姥」
先程召喚し牽制しておいた山姥に命じ、武器を構えさせた。
山姥の所有する鉈を振り上げながら攻撃する時に、山高帽子が一瞬の煌きを放つ。
ピロピロピロ、と、何とも間の抜けた効果音と共に放たれるのは超熱度のレーザービーム。
その攻撃を受けた山姥が一撃で頭部を貫かれると、肉体が霧の様に変化して消え去った。
「(クソッ、なんだあの山高帽子はッ!?)」
ビームすら出せるなど、一体どの様な原理で動いているのか気になる様子だった。
それでも、長狭仁衛は自らの手札が後どれくらい残っているかを確認し、相手を斃せるかどうか確認する。
そんな時だった。
「じんさんっ」
狼に乗って来た銀鏡小綿の姿が確認される。
いきなりの戦地に家族がやって来た事に、一瞬、長狭仁衛は其方の方に気を取られてしまった。
「なあ!?小綿、なんでッ」
「(援軍?ターゲットは其処に居るが、これ以上増えるとなると厄介だ)」
そう咒ヰ師が考えていた矢先、彼の背後から登場するのはシャロの姿だった。
「!?」
背後に気が付かなかった咒ヰ師は振り向くと共に彼の姿を認識する。
狼で出来た毛皮の様な衣装に身を包むシャロは、彼の術式によって作られた身体能力を上昇させる狼変身セットで、人狼紛いな獣耳と獣の尻尾を生やしている。
完全に背後からの奇襲、ナイフの様に鋭い爪で引っ掻く攻撃をするがそれを回避、そして、咒ヰ師は最短の攻撃でシャロを迎撃する。
咒ヰ師の蹴りが鋭利な刃物の如く迸ると共に、シャロの致命傷を深く抉った。
「かぁ?!……きゅぅッ」
睾丸蹴りであった。
下から上へと振り上げられた一撃がシャロの小さな男のデリケートゾーンを撃ったのだ。
その場に座り込むシャロは涙目になりながら文字通り撃沈した。
股先を両手で抑えながら臀部を高く持ち上げ、その状態で動く事が出来なくなる。
「シャロォ!?」
長狭仁衛が叫ぶと共に、咒ヰ師の元へ向かうと強く拳を握り締めて敵を見据えて拳を振るう。
「ぐ、うぁがッ!?」
咒ヰ師が腹部に攻撃を受けて喉奥から激痛の声を漏らした。
〈卍武道・零拳〉、それも唯の一撃では無い、対象に深々と突き刺さる拳の衝撃は、内部で反響を繰り返し二重、三重と後追いする追撃を発生させる。
今、咒ヰ師の内部で発生した追撃は〈三連〉、内臓を破壊する打撃を三連続で喰らった状況へと陥った。
「(こ、これは、不味い、非情に、不味いッ)」
その場から後退し、シャロたちの元から少しでも離れようとするが、長狭仁衛は逃がさずに接近する。
「大丈夫ですか?」
「かっ……ひゅーっ、ひゅーっ……ッ」
銀鏡小綿はそう言いながらシャロの腰元をトントンと叩いていた。
それで治るのならば苦労はしないが、シャロは余りの痛みに痙攣を引き起こしている。
「テメェ……俺の家族に何しやがるッ!!」
地面を強く踏み締めると共に長狭仁衛は神胤で脚部を強化すると接近する。
「火之輪車ッ」
封緘祓術・咒呑を行使し、体内に封じ込めていた調伏式神を召喚。
黒色のレザースーツを着用した様な見た目をする長身痩躯の畏霊が脚部を振り上げて咒ヰ師を攻撃する。
ローラースケートの様な小さな車輪から火花が発生すると、その足を使い咒ヰ師に向けて蹴りを繰り出す。
「ぐッ」
攻撃を帽子を使い防御をするが、脚部から発生する炎によって布製の帽子に引火。
燃え広がると共にその帽子の中に入っていたもの、その正体が露見される。
「おいおい……んなの、アリかよ」
その正体に長狭仁衛は一気に怒りが鎮静してしまった。
それもその筈だ、その帽子の正体と言うものは何とも拍子抜けした物体であり、宙に回転しながら浮かぶそれは正しく未確認飛行物体と言う名前がつくものだったからだ。
ふぁんふぁんふぁん、と、聞いた事も無い様な音が、何とも間の抜けた音楽として成り立っていた。
山高帽子に隠されていたそれは、UFOだった。
空飛ぶ円盤……フライングソーサーである。
その大きさこそ、帽子程の小さなものではあるが、長狭仁衛はその正体を発覚して納得せざるを得なかった。
「(目にも止まらぬ速さで動き、物体を連れ去るアブダクション……)」
「正体がバレてしまったか……ならば、俺がする事は唯一つ」
UFOが咒ヰ師の上に立つと共に、光が降り注いだ。
咒ヰ師はふわりと宙を浮かぶと、その場から逃げようとしていた。
「あァ!?」
口の中から大量の血を吐き出しながら、咒ヰ師は光に包まれていた。
「これ以上やったら、これ以上じゃ気が済まねぇ怪我を負う、んなのは報酬を差し引いて割に合わねぇんだよ、だから逃げる、さらばだッ」
その様に言いながら未確認飛行物体UFOに逃げ込んだ咒ヰ師は、のろのろとふらつきながらもUFOは空高く舞い上がりながら、長狭仁衛達の元から離れて行った。
「クソ」
長狭仁衛は手負いで仕留める事も出来たが、何よりも大事な友達、尤も言えば、家族の元へと駆け寄ると、その身体を抱き上げる。
「じ、じんちゃん……」
涙目を浮かべるシャロの姿を見て、こちらも痛そうに感じる長狭仁衛は、彼の苦しみを共感しながら手を強く握った。
「大丈夫だ、お前のアレが潰れててたら、オレの一個、分けてやるからな?」
「いや……そうなったら普通に性転換するから……うん」
素直にそう拒否された、少し悲しい気持ちになった長狭仁衛だった。
一応は撤退したと言う事で、長峡仁衛は安堵の息を吐くと共に黄金ヶ丘クインの元へと寄る。
黄金ヶ丘クインは、倒れていて、今にでも息絶えそうに声を漏らしている。
「大丈夫か?クイン」
長峡仁衛は、黄金ヶ丘クインを抱き寄せて喉元に触れる。
「ん……兄様」
黄金ヶ丘クインは、長峡仁衛を見て、小さく声を漏らす。
長峡仁衛は立ち上がり、黄金ヶ丘クインを持ち上げる。
「ちょっと待ってろ……今、病院に」
「まってまってじんちゃん、病院よりも咒界連盟の祓ヰ師を呼んだ方が良いんじゃないの?」
一般の医療よりも、祓ヰ師による術式の治療の方が早く治る。
だから、黄金ヶ丘クインをそちらの方に回した方が良いと、シャロはそう言った。
「……駄目、兄様、病院に、罹り付けの、医者の、元に」
黄金ヶ丘クインは、痛みで苦しみながらも、長峡仁衛に懇願する。
「医者、何処のだ?!」
長峡仁衛がそう言うと、其処で黄金ヶ丘クインは再び気絶する。
「クソ……屋敷に戻るか」
長峡仁衛は意識が途絶えた黄金ヶ丘クインを背中に乗せる。
「取り敢えず、じんちゃん、ボクの狼、使って」
「ああ、シャロは大丈夫か?」
立ち上がっているが足腰は弱々しく膝が笑っている。
内股の状態になっているシャロの姿は正しく美少女にしか見えない。
「うん、ボクも後で、ニオイを辿っていくから、また後で……うぅ」
内臓に響く痛みが今も鈍く感じ入るのだろう。
彼がこのまま進めと言うのならば、それ以上は言わずに進むほかない。
何よりも、今は黄金ヶ丘クインの容態が重要だ。
とにかく、長峡仁衛は黄金ヶ丘クインを黄金ヶ丘邸へと急がせると、玄関へと寄る。
「じんさん」
共に狼に乗って来た銀鏡小綿に黄金ヶ丘クインを渡す。
「ああ、頼んだ、小綿」
玄関前で介抱を行う間に、黄金ヶ丘邸に入り込むと、長狭仁衛は黒電話の方に駆け寄り、電話の棚を開いて、何か無いか探した。
「(罹り付けって言ってたな、電話番号を控えている可能性がある……これか?)」
長峡仁衛は棚から二番目に封入されていたメモ用紙を取り出す。
それには病院の名前と電話番号が書かれていた。
長峡仁衛は、即座にその電話番号に連絡を入れる。
「もしもし、あの……もしもし」
『……黄金ヶ丘様、ご無沙汰しております』
老いた声が聞こえて来た。
長峡仁衛はその老いた声の主に現状を説明する。
「すいません、クインが、落ちました、怪我をして、見て下さい、あの、早く、お願いします」
それだけ伝えると、その老人は咳払いをする。
『営業時間外なので、御高くなりますが?』
「こっちは命の話をしてんですよ、後で幾らでも払いますッ!クインを助けて下さい!!」
『その言葉が聞きたかった』
電話が切れると同時、玄関の扉が開かれる。
出て来たのは、血塗れになった辰喰ロロだった。
「長峡、お前どうして此処に居るんだよ」
「辰喰、お前大丈夫なのか、その血ッ」
長峡仁衛は辰喰ロロの姿を見て心配する様に言う。
「あぁ、大丈夫、これ返り血だから……で、お嬢様、あれ、大丈夫なのか?」
玄関前で介抱していた銀鏡小綿の姿を見ていたのだろう。
辰喰ロロが意識の無い容態を聞いた所で、長狭仁衛は簡単に説明をする。
「クインが……」
そして辰喰ロロは黄金ヶ丘クインに起きた状況を聞くのだった。