エロゲ退魔モノな世界観で。退魔の家系に生まれ追放された後に術式を覚醒した主人公は化物を調伏する力で現代を謳歌する、現代ファンタジー 作:三流木青二斎
次に屋敷にやって来たのは大柄な男だった。
これが、黄金ヶ丘家お抱えの医者であるらしい。
早速、辰喰ロロがその男を黄金ヶ丘クインが眠る医療室へと案内すると、すぐに手術が始まった。
長峡仁衛と辰喰ロロは、医療室の前で心配そうに扉を見詰めている。
「……なんで、クインは、咒界連盟の医療関係術師を呼ばなかったんだ?」
この奈波市から、距離はあるだろうが、しかし、呼べば、短時間で肉体を治してくれるだろう。
それをしなかった事に、長峡仁衛は腑に落ちない様子だった。
「……長峡、お嬢様は、あまり咒界連盟を利用したくないんだよ。前回の時、お前の治療の際は、咒界連盟を経由して霊山一族にお願いしたけどな」
何故、と。
長峡仁衛は、辰喰ロロに聞きたかった。
「呼べない理由はな、咒界連盟に借りを作りたくない、と言うのが一点だ。上層部は中世派が多いからな、階級や役職の立場を利用して黄金ヶ丘家を金策目当てにしてやがる……直接交渉に来た事もあるし、その時は派手にフッたから、根に持ってる奴も居る。それでも手を出さないのは出す理由が無いからだ」
咒界連盟。
祓ヰ師を統括する組織でありながら、利己主義が多いとされる。
既に、腐り切った存在が上部の座に座り込んでいるから、弱味を握られれば搾り取られる。
これにより、多くの家系が潰されて来たのだ。
「けどな。どんな家系にも、裏の顔ってモンがある、黄金ヶ丘家程の由緒正しい正統家系でも、叩けば埃が出て来るモンだ、ドス黒い、表沙汰に出来ない顔がな……一度でも隙を作り入り込まれたら、後は金庫の中身は空っぽにされちまう……だから、咒界連盟には頼み込めない」
これまで築き上げて来た地位が、一度の失敗で壊されてしまう。
そんな事が起こらない為に、黄金ヶ丘クインは咒界連盟からの援助も無しで頑張って来た。
「まあ、だからと言って咒界連盟に無視を決め込んだら、それこそ標的にされちまうからな、適度に手を貸したり金を貸したりして、色々と恩恵も貰ってる……均衡が取れてんだ。その均衡が一気に崩れる様な貸しは作れない」
家を守ると言う事は、色々と大変な事だった。
だから、咒界連盟を呼ぶ事は出来ない。
「そういうワケで……
目を細めて、暗い表情を作る辰喰ロロ。
「……大丈夫だ、咒界連盟に頼らなくても……、俺がなんとかするよ」
長峡仁衛は、まだ、自らの弱々しい拳を硬く握り締めて、宣誓する。
医者が来て数時間程で手術は終わった。
黄金ヶ丘邸の医務室から出て来た年老いた医師は疲弊した様子で長狭仁衛達の元へ歩き出す。
「手術は成功した」
その様に告げると、長狭仁衛は大きく息を吐いて長椅子に身体を預ける。
辰喰ロロは気丈に振舞っていたが、この時ばかりは人間味を感じる表情を浮かべて医師に小切手を渡した。
「ありがとうございました。先生」
そして、重々と深く頭を下げて、辰喰ロロは医師に感謝を示す。
「元々、高い所から落下した様な怪我だ、骨折した際に足の骨が肉を貫いていたが実にシンプルな傷だった、骨を固定した後、縫合し、ギプスを嵌めた、数週間ほどでギプスを外すので、その時にまた外来と言うカタチで処置を行う」
咒ヰ師の能力であるUFOを操る術式を前に、彼女は恐らく、アブダクションされてしまい、上空から落とされてしまったのだろう。
そしてそのまま落下してしまい、重傷を負った、と言った所だった。
「クインは大丈夫だと言う事で良いんですよね?」
淡々とした口調に、長狭仁衛はもどかしい気持ちになった、もっと単刀直入に彼女が無事であるのか、命に別状はないのか、そういった所を聞きたかった。
長狭仁衛は肝心な事を医師に聞いた。
うわ言の様に呟き続けていた彼女の容態は意識が混濁とした重体だったと認識している。
「骨折故に発熱をしているが、一晩経てば意識は戻るだろう、若い肉体だからこそ、治癒再生能力も凄まじい……加えて特殊な人間であるから、完治をするのも予想よりも早いだろう」
医師は簡単な説明を終えた後に身支度を整えて颯爽と黄金ヶ丘邸を後にする。
一先ず、危機的状況を回避したと、長狭仁衛は医務室の中に入ろうとするが。
「長狭、今日はもう休んでろ。お嬢様がやられた後、お前も戦ったんだろ?……なら消耗している筈だ、お嬢様にはアタシが付き添ってやるから」
「いや、お前だって、返り血が多かった、戦ってたんだろ?」
「アタシのは、ある意味
其処まで言われてしまえば、大人しく辰喰ロロに任せる他無かった。
椅子に座り続ける銀鏡小綿は其処でようやく立ち上がると、長狭仁衛の肩を取り持った。
「では、戻りましょう、じんさん」
母親として長狭仁衛の体調を心配する銀鏡小綿。
「分かった。でも何かあればいつでも言ってくれ」
その言葉に辰喰ロロは振り向く事無く、片手を挙げてひらひらと左右に振った。
視線は未だに、黄金ヶ丘クインが眠る医務室に釘付けであった。
尾を引く思いではあるが、後は辰喰ロロに任せて、長狭仁衛は自らの部屋へと戻る。
「……今日はありがとうな小綿」
長狭仁衛は自称母親と称する幼馴染に労いの言葉を掛けた。
その言葉を受けた銀鏡小綿はさも当然と言った様子で何時も通りの鉄仮面の表情で愛する息子(仮)を見詰めていた。
「いえ、じんさんのお世話をするのが母の務めですので」
「いやあ……なるべく、お前の世話にならない様にしないとなぁ」
しみじみと答える長狭仁衛は、心の中で彼女からの自立を考えていた。
如何に自分の傍に死ぬまで添い遂げると確約しつつある彼女だが、それは長狭仁衛にとっては気が重いものであった。
出来る事ならば母と息子の関係性では無く、一人の男と一人の女としての関係で在りたいと願う。
しかし、その言葉に驚きの表情を浮かべる銀鏡小綿。
大きく目を見開き、人生の殆どを否定されたかの様な顔付きである。
「今、なんと仰いましたか、じんさん……母から離れると、自立すると言ったのですか?」
彼女の慌てようは我が子を殺された母親の様な鬼気迫る顔で、その勢いは長狭仁衛の顔に唇が触れそうな位置にまで近しくなる。
「待て待て、そういう意味で言ったワケじゃない、お前を捨てるなんて選択は俺はしない、どんな事があっても家族だからな」
「……では、母の早とちりと言う事ですか、それならば良いのですが」
安心した様子で銀鏡小綿はベッドに腰を下ろした、静かに吐息を吐いて心肺の安定を行う。
所作には見張るものがある、気品の良さは昔に比べれば完璧に近しい淑女と言えるだろう。
「……お前にとっては当たり前の事なんだろうけど、俺からすれば感謝しかないよ、何時も傍で支えてくれてさ、俺の為に一緒になってくれて……今は何か出来ないけど、それでも何時かはお前の為に何かしたいよ」
それは心からの本心であった。
長狭仁衛が実家から勘当されて、即座に彼と共に落魄れる道を選んでくれた。
一人で居る事は何よりも苦痛で、彼女が居なければ長狭仁衛はとっくに精神が壊れていたかも知れない。
「……感謝ですか、その様な気持ちは、母には不要ですが」
背中に向けて倒れる銀鏡小綿。
ベッドの中で横向きになると、目尻を細くしながら長狭仁衛を見詰める。
「けれど望むのであれば、久方振りに……添い寝を要求します」
中学低学年の時までは共に一つの布団の中で毎晩を明かし続けたが、思春期になれば流石に一緒に眠る事は無くなった。
時には銀鏡小綿に対して酷い言葉を掛けた事もあるが、全ての言葉は銀鏡小綿にとっては反抗期でしかなく、拒絶にまでは至らなかった。
「添い寝、かあ……」
長狭仁衛は大人になった彼女の肉体に視線を向ける。
成熟しつつある魅惑の肉体は、母性を擽る様に豊満な胸を蓄え、
何時でも出産出来る様に野太い臀部をしている。
肉付きは良く、抱き心地は良好、そんな彼女がベッドの中で横になり、愛する者を待ち侘びる。
「……ぅ」
彼女はじっと、視線を長狭仁衛に向けていた。
来て欲しいと、抱いて欲しいとも言わず、ただ息子の姿を目に焼き付けている。
「緊張してますか?……母に緊張などしないで下さい、それとも……」
表情筋が硬く鉄仮面を装着している程に無表情を貫く銀鏡小綿の表情が崩れた。
「もうそういったお年頃である事も理解しています、であれば、母も用意をせねばなりません……何時、異性の方を抱ける様に」
小さく笑みを浮かべて、長狭仁衛を見詰めながら唇を開く。
「母が筆おろしを務めましょう、そういった経験はありませんが、全てを母に委ねて下されば良いのです」
長狭仁衛は生まれて初めて銀鏡小綿が母親から女の顔になった瞬間を見た。
心を奪われ、喉を鳴らしながら据え膳を喰らおうと魔の手が伸びた最中。