エロゲ退魔モノな世界観で。退魔の家系に生まれ追放された後に術式を覚醒した主人公は化物を調伏する力で現代を謳歌する、現代ファンタジー 作:三流木青二斎
「じんちゃーんっ!!じんちゃんじんちゃんじんちゃぁん!!」
部屋の中へと突入してくる元気の良い中性的な声色と共に雪崩れ込んで来るゴシックアンドロリータなブラックドレスを着込んだ男の娘。
その言動はさながら腹を空かせた子犬が母親犬に母乳を求めてやってくる様なアグレッシブな行動力であった。
その邪気を祓う程の大声に、長狭仁衛の脳内に過っていた思春期特有の妄想が振り払われると、即座に扉の方に視線を向けた。
「な、あッ、シャロ?!」
永犬丸弥士郎こと、シャロの登場に、今まで何処にいたのかと言いたくなった。
後から追い掛けて来ると宣言して、数時間が経過していたのだ、思わずそう言いたくなってしまうのも無理は無かった。
彼の姿は何時も通りであり、何ら変わった様子は見受けられなかったが、それでも細やかな変化に対して過敏な反応を示す長狭仁衛は、長年伊達に親友をしていない。
「お前……血のニオイがするぞ?」
決してそれは、シャロが怪我をしたと言うワケでは無い。
察しの良い親友の言葉に、シャロは可愛らしい表情から極めて無慈悲な笑みを浮かべると自らの能力を使役し、影の中から一体の狼を出現させる。
「じんちゃんの目の上のたんこぶは、ボクが祓ってあげたんだからね、感謝してよ」
それはイヌが遊ぶのに最適なフリスビー……では無かった。
その円盤は、数時間前に長狭仁衛と戦闘を繰り広げ、黄金ヶ丘クインを斃して見せた、あの咒ヰ師の使役する能力の一部、UFO。
まさか、ここまで時間が掛かっていたと言うのは、敵を追跡して戦ったと言う事になる。
「それと、じんちゃん、悪いお報せなんだけどね?……コイツを雇ったのは、霊山家らしいよ」
その言葉に、長狭仁衛は薄々勘付いていた事実が露見された事で、ついぞ心の内に留めておいた感情が浮き彫りと化して来る。
「はぁ……ああ、そうか。俺のみならず……みんなに迷惑を掛けるつもりって話か、俺の血の半分は」
自らの体内に流れる血液、その半分は穢れた血であり、もう片方は由緒正しい清らかな血である。
しかし、長狭仁衛にとっては、霊山家こそ穢れた血であり、血の繋がりは何処までいっても続くものだと再三思い知らされた。
「そっちがその気なら……」
と言い終わる前に、黒電話の呼び鈴が廊下から響いて来る。
既に深夜の時間帯、加えて黄金ヶ丘邸に電話を掛けるものなど、そういない筈だ。
長狭仁衛はある人物を脳裏に浮かべながら、廊下へと繰り出すと、そのまま黒電話の元へ向かい出す。
「……」
黒電話の前に立ち、受話器を取ると通話が繋がる。
ゆっくりと耳に近付けた時、其処から聞こえて来る厭味ったらしい声色。
何やら話をするが、その内容は耳に入って来ず、最終的に長狭仁衛の決断は。
「帰りますよ、あんたの場所に」
敵と認定した領地へ戻る事を告げる。
それは屈したワケではない、内部から潰す為に、長狭仁衛はその道を選んだ。
「仁衛さん……本当に、戻られるのですか?」
名残惜しむ声が、長峡仁衛の耳に届く。
自然を前に建てられた豪邸、それを背景にしながら、長峡仁衛の前に立つ少女の姿がある。
紫陽花の様な黒髪。腰元まで伸びた長髪。
軽く巻かれた髪の毛が、左右に揺れた。
紫水晶の様な瞳が、長峡仁衛を見詰めている。
意識不明から回復した黄金ヶ丘クインは、片足を負傷して思うように動けなかった。
「あぁ……帰って来いって言われたから帰らないと、じゃないと、どうなるか分からないからね」
長峡仁衛は、先日の話を脳裏に浮かばせながら思った。
現当主の意向に、長峡仁衛は敢えて乗っかり、こうして召還に応じている。
不満を持つのは、長峡仁衛の身柄を買った少女だった。
「……嫌です」
その別れは二人の関係を裂くものだと黄金ヶ丘クインは思った。
折角、寄付金として、長峡仁衛の身柄を買収し、多額の金銭を霊山家へと送った。
それなのに、長峡仁衛を霊山家に戻せと言う暴挙。
腹立たしい事この上無く、黄金ヶ丘クインは悔しい思いをしながら拳を強く握り締める。
薄桜色の唇が震えながら、長峡仁衛とは別れたくないと言う意志を感じるか細い言葉が漏れ出した。
昂る感情が次第に涙となって瞳から流れ出る。
一筋の透明な雫が彼女の頬を通ると、身分も立場も忘れて、長峡仁衛の傍により、その体を強く抱き締めた。
「行かないで下さい、仁衛さん。……いえ、兄様」
兄様。
その呼び方は、幼少の頃に黄金ヶ丘クインが長峡仁衛が呼んでいた呼び方だ。
黄金ヶ丘家は、霊山家と利害関係で結ばれた仕事仲間。
その付き合いは長く、当時の黄金ヶ丘家当主は、幼少期の長峡仁衛の身柄を一度、黄金ヶ丘家へ引き取った事がある。
度重なる暴力。虐待とすら思えない少年の責め苦に苦言を漏らし、身柄を引き取ったと聞く。
その時に、長峡仁衛と黄金ヶ丘クインは出会っていた。
長峡仁衛は幼少の頃の記憶はあまり覚えていない。
精神を崩壊させる程の虐待と恐怖を思い出させない為に、自己防衛として忘れていた。
なので、黄金ヶ丘クインとは、あまり幼少の頃の記憶が薄れていた。
「兄様って……確かに、過去にお世話になった事はあるけどさ」
黄金ヶ丘クインは、顔を上げる。
愛しい人の顔を見詰めた。
灰色の髪に、灰色の目。
霊山家で鍛え上げた屈指の筋肉が、黄金ヶ丘クインを抱き留めている。
「此処で、平和に暮らすべきなのです。兄様さえ居れば、例え誰が相手でも、私は守って見せます。だから、どうか……行かないでください」
必死の願い。
それでも、長峡仁衛は首を左右に振る。
「いいや……それは、無理だ」
彼女の元から、長峡仁衛は離れようとする。
これ以上、彼女に世話になってはならない、甘えてはならないと思い、表情を作る。
「霊山家とは、いずれどうにかしないといけない問題だし……何よりも危険な目には遭わせる事は出来ない……それに」
長峡仁衛は目を細めて笑った。
「また戻って来るからさ」
長峡仁衛は、彼女に約束する様にそう言った。
「だから、俺の家族を頼んだ」
家族。
そう言って、長峡仁衛は視線を奥の方へと向ける。
真っ白な肌に、銀髪を三つ編みにしてまとめた、翡翠の瞳を持つ女性が、長峡仁衛を見ていた。
「じんさん」
銀鏡小綿は、長峡仁衛を愛称を口にしながら近づく。
彼女は、長峡仁衛にとって心の支えとなる人物。
「また戻って来る、だから、待っててくれ」
長峡仁衛の言葉に、銀鏡小綿は頷く。
「はい、了解しました。ですので、必ず、生きて戻って下さい。貴方が居なければ、母は存在する意味など無いのですから」
幼少期の頃から、長峡仁衛の母親代わりとして生きて来た。
長峡仁衛が勘当されて追放されても、それでも、彼女だけは長峡仁衛の後を追って来てくれた。
掛け替えのない家族に、長峡仁衛は手を伸ばして頬を触れる。
「帰って来るよ。心配しないでくれ」
「もし帰って来なければ……こちらから、貴方の元へ向かいます」
心配性な母親代わりな幼馴染に、長峡仁衛は頷くと、その手を離す。
そしていよいよ、長峡仁衛は旅路に着く。
「じゃあ、行って来る」
それを残して、長峡仁衛は豪邸から出て行った。
霊山家へと向かい、決着をつける為に、だ。
暗く湿気に濡れた路を、長峡仁衛は歩く。
此処は、霊山一族が所持する巨大な社、白純大社である。
全国に展開されている白純神社を統治する本部であり、霊山一族が住む総本山でもある。
長峡仁衛は、この神社へと通されて、霊山家現当主である霊山蘭と出会う。
そして、複数の従士と共に、長峡仁衛は地下へと駆り出された。
「(何処まで行くんだ?それよりも、此処は何だ?)」
周囲を見回す。
湿度が高い為か、長峡仁衛は汗を滴らせて額を拭う。
「此処は、選ばれた人間しか通れぬ通路……主に、次期当主となる人間が、この先へと向かう」
霊山蘭は口を開いて説明を行う。
次期当主、その名を聞いて、長峡仁衛は喉を鳴らした。
「(次期当主……風の噂で聞いた事があるな、当主候補は、試練と称する大儀式の場で、次期当主を決めるって)」
霊山蘭は老いている。
当然ながら、次期当主を定める事を視野に入れているだろう。
「貴様の術式は、我が霊山家の中では希少な術式よ。まさか、貴様の様な穢れた人間が開花するとは思わなかったがな」
彼がこの道を通されるのは、術式を開花させ、その希少な術式を持つが故に次期当主としての才覚を認められたからか。
だとすれば、すぐさま、長峡仁衛は可笑しい事に気が付く。
霊山蘭は、長峡仁衛を歓迎している様子ではない。
「それでどうするか考えた。貴様を野放しにし、その術式を霊山家以外が扱うなど沽券に関わる、しかし、貴様を術師として認める気にはなれぬし……貴様がその術式を持つ事が許されぬ事だ」
霊山蘭が止まる。
彼の目の前には、銀色の幕で覆われた壁の様なものがあった。
「其処で考えた。貴様をどうするべきか……此処は、『無限廻廊』と呼ばれる、封印結界による迷宮。基本的に、次期当主が此処に入り、覇気を競う……当然ながら、未熟な人間が入れば、必死は確実」
「っ、あんた。まさか」
長峡仁衛が霊山蘭に近づこうとした時。
「ようやく気付いたか間抜けめが、だから術式を持つ事が許されぬのだ」
その言葉と最後に、長峡仁衛は従士に蹴飛ばされる。
「初めからこうすれば良かったのだ、……去らば無能、一族の忌み子よ」
そして、銀幕の奥へと体が入り込み……そして落下する。
「ぐ、うっ」
地面に叩きつけられる長峡仁衛。
体は予め肉体強化を行っていた為に軽傷で済む。
しかし、その周囲には。
多くの、畏霊が存在した。
霊山一族が所持する空間領域。
其処は、怨霊、怪異、妖怪、それら総称して畏霊と呼ばれる疑似生命体を丸ごと封印した果てなき迷宮『
長峡仁衛は、人の身でありながら無限廻廊に追放された。
様々な畏霊が跋扈する結界内。
運悪く、長峡仁衛が落ちた場所は、化け物の群れだった。
鬼、獣、霊。
それらが捕食し弱肉強食を産む世界。
皆、餓えている。新鮮な肉を、濃厚な血を欲している。
其処に、長峡仁衛は投入された。
畏霊たちは、狂喜に満ち溢れる。
新しい肉を、貪る事が出来る歓喜を、覚えている。
「はぁ……まあ、簡単に逢えるとは思って無かったけどさ。俺も人が好過ぎる」
拳を構える。
目の前に迫る大勢の畏霊に対して、長峡仁衛は前方から迫る畏霊に蹴りを入れる。
「『
脳裏に過る術式の発動形式を纏め、神胤を放出すると共に対象を封印する。
「しっかし。殺す気かよ、……殺す気でやってるんだろうな。あぁ、畜生」
多くの畏霊が長峡仁衛を睥睨している。
長峡仁衛は肉体に宿る力を放出する。
彼が死に際で習得した術式。
「『
手を叩く。
肉体に流体する力を体外へと放出。
小さなデジタルドットが増幅する。
空間内で解像度が低すぎてモザイクの様に見える物体が、段々と鮮明と化す。
血に濡れた着物を着込む剣士の姿が出現する。
三本腕の剣士。二つの手で握り締める一振りの大太刀。
髑髏の様な干乾びた口には、刃毀れを起こす一振りの小刀を噛んでいる。
彼の術式……
対象に対してその存在を拘束、現世から隔離する封印する能力を持つ。
封緘術式には様々な種類が存在し、武器の類限定を封印するもの、人間の屍を封印するもの、自然現象を封印するもの、と様々な系統が存在する。
その中でも、長峡仁衛の術式は異質。
こと封印し、封印したものを『強化』『操作』『保管』する事に関しては右に出る者はいない。
封緘術式の中でも上位に値する異例の力。
それを穢れた血である長峡仁衛が発現した事により、周囲の人間は妬み憎悪を撒き散らした。
彼がこの無限廻廊へと落とされた事で、多少の溜飲が下がる事となるが。
しかし、彼らは理解していない。
無限廻廊に落とされただけで、長峡仁衛は死ぬ事は無く。
むしろ、彼がより術師として洗練される助長をしている事に。
「切り結べ『斬人』」
言葉として命令する。
落ち武者は頭部を握り締めながら刃毀れをした刀を振り上げる。
一人、化け物の群れに突貫する。
化け物を切り刻みながら、落ち武者は黒き体液に身を染めた。
「さて、……んじゃあ、俺も」
長峡仁衛は再び手を叩く。
彼が封じ込めた異能の化け物の名を口遊む。
「『
先程、長峡仁衛は封印した畏霊を召喚する。
封緘術式は、封印対象を強制的に調伏し自らの式神として扱う能力を持つ。
緑色の肌をした頭部に角を生やす小学生低学年程の身長を持つ小鬼が召喚される。
茶色い毛を持つ土竜の様な頭部をした、両手の爪が異様に発達した二足歩行の獣が召喚される。
淡い水色をした粘液性の肉体を持つ流動する水子の集合体が召喚される。
「どんどん来い、俺が全部封印してやる」
相手が多ければ多い程に、長峡仁衛はそれらを封印し自らの手駒に変える。
畏霊大発生状態であるこの環境下。常人ならば脅威であり危険な状態だろうが、むしろ長峡仁衛にとってはこの状況は好機でしかない。
「ここから出た暁には、もう誰も俺を止められないぞ」
長狭仁衛は無限廻廊の中でその様に呟いた。