※この作品はR-18です。

エロゲ退魔モノな世界観で。退魔の家系に生まれ追放された後に術式を覚醒した主人公は化物を調伏する力で現代を謳歌する、現代ファンタジー   作:三流木青二斎

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第九話

長峡仁衛の前に現れる畏霊。

それは、髪の長い女性の様な畏霊だ。

四つん這いになりながら移動して、長峡仁衛の方に目を向ける。

充血した瞳が、長峡仁衛を睨んでいた。

 

「怖ッ」

 

長峡仁衛は手で口元を抑える。

畏霊や、厭穢と呼ばれる存在には、瘴気と呼ばれる力を持つ。

これは、人類に対して精神的攻撃であり、瘴気を受けると恐慌状態となる。

恐れを抱き、恐れ過ぎて肉体が痙攣する事もあるし、嘔吐してしまう事もある。

最悪、精神を崩壊してしまう事もあるが、熟練の祓ヰ師であれば、精神耐性が付いている為に瘴気の影響は受け難いと言われている。

 

また、瘴気を喰らっても影響を受けない状態が存在する。

それは最初から精神が壊れているものであり、既に壊れているものを壊す事は不可能だ。

 

ゴキブリの様に、長峡仁衛の方へと迫る畏霊。

長峡仁衛が命令をするよりも早く、落ち武者の畏霊が間に入って攻撃を行う。

刃が削がれた刀では、斬撃では無く打撃となる。

四つん這いになっている畏霊は、長い髪の毛を操る。

落ち武者の刀や腕を絡めて、攻撃を制限する。

 

「(行動不能か)」

 

長峡仁衛はそう思った。

いや、まだ、手はある。

長峡仁衛は走り出すと、念の為にと持参した士柄武物、ナイフ型の無銘を引き抜き、髪の長い畏霊へと接近して、刃物を振るう。

 

「あいつ馬鹿だな……」

 

辰喰ロロは、長峡仁衛を見ながら紫煙を吐く。

 

「今、じんさんに馬鹿と言いましたか?」

 

近くに居た銀鏡小綿が反応して辰喰ロロの方に顔を向ける。

 

「封印出来る術式、まあ、まがりなりにも式神遣いなのに、自分が接近してどうするんだよ、普通は後方支援が鉄則だろ、普通は」

 

辰喰ロロは、ある程度、戦闘知識を蓄えている。

だから、長峡仁衛の行動は、自殺行為に等しいと、そう言っていた。

確かに、式神を使う以上、役割としては操縦者とラジコンの様なものだ。

ラジコンを動かす事が出来るのは操縦者が居るお蔭。

ラジコンが壊れても操縦者は活動出来るが、その逆は成り得ない。

操縦者があってラジコンは自在に動く事が出来るのだから。

 

「それは、普通の式神遣いであれば、の話です」

 

長峡仁衛は起用に刃物を使って切り裂くが、髪の毛が増量して、彼も身動きが取れなくなる。

 

「あーあ、危ないな、あれ以上は無理だ」

 

辰喰ロロが、長峡仁衛の救助に向かおうとしたが、銀鏡小綿が止める。

 

「まだ、じんさんが戦っています。ご覧ください、あの状況でも、前へ、前へと、接近しています」

 

だからなんだと言うのか。

辰喰ロロが助けに入ろうとした時。

長峡仁衛の手が、髪の毛を操る畏霊の体に触れる。

 

「すぅー……はぁーッ」

 

息を吸い、息を吐く。

地面を強く踏み締める。

力の衝撃が脚部に伝わる。

伝達される衝撃を、筋肉の移動を利用して増幅。

脚部、太腿、腰へと通り、腹筋、肩部、二の腕を通り、前腕、手首、指先へと衝撃が増幅され、指先から、衝撃が畏霊の方へと放たれる。

 

「(『零拳(ぜろけん)』)」

 

『卍武道《ばんぶどう》』と呼ばれる技術が存在する。

あらゆる達人が、技術を極めた末、世界の知識に匹敵する技量として発揮する。

神胤から発生する術式とは異なる、教授すれば誰でも扱える異能の技。

その内の一つ、『零拳』は、自身が発生した衝撃を肉体を加速装置として使用し、倍化させて放つ打撃の極み。

 

長峡仁衛は『零拳』を取得している。

基本的に接近戦となる場合は、この『零拳』を利用するが、得物を持つ相手には不利である為に、その場合は士柄武物を使用する。

 

「元々、じんさんは術式を持たずとも強いお方です、尤も、接近しなければ使えぬので、対人用にしかあまり使いませんが」

 

衝撃を受ける畏霊。

その直後、落ち武者が畏霊の首を思い切り突き刺した。

 

「(祓ってはいない……このまま、俺の式神所持数を調べるとするか)」

 

長峡仁衛は、その髪の毛の畏霊に触れようとした時。

近くに居た落ち武者の畏霊が髪の毛の畏霊に咬み付いた。

髪を食い千切り、皮膚を歯で裂き、髑髏の顎関節が動いて飲み込む。

霊体と化す畏霊を無理矢理喰い続け、そして跡形も無く消え、落ち武者の畏霊の力が、目に見えて上昇していた。

 

「食べましたね」

 

銀鏡小綿が言う。

辰喰ロロも頷いた。

 

「あぁ、食べたな」

 

長峡仁衛は、隻眼となって情報を確認する。

 

「(総量が増加した……畏霊の発する瘴気も、増加しているな……)」

 

長峡仁衛は辰喰ロロに話し掛ける。

 

「辰喰、封印している畏霊ってどのくらいある?」

 

淡い灰色の髪の毛を揺らしながら、辰喰ロロは長狭仁衛の顔を見て言う。

 

「あ?……あぁ、確か霊庫には実験用もあるし、沢山あるけど?」

 

霊庫は、祓ヰ師が畏霊を保管する封印倉庫だ。

この封印倉庫を持つ家系は、上位の術師家系しかないとされている。

辰喰ロロは、その出入りと持ち出し権利を黄金ヶ丘クインから頂いている。

その証拠として、首に掛けられた古鍵を長峡仁衛に見せた。

 

「俺の術式、畏霊を強化する事が出来るタイプかも知れない」

 

長峡仁衛はそう言うと、何故長峡仁衛が畏霊を欲しているのか理解した。

 

「へぇ、そりゃレアだな。共食いによる霊体の強化か」

 

辰喰ロロはレアと言った。

通常、式神として調伏する存在は調伏した時の瞬間が規定となる。

それ以上もそれ以下にもならない様に力を温存する。

これは術師の使役出来る能力の限界を上回らせない為だ。

一定以上の力を所持するとパワーバランスが発生する。

そうなると式神は暴走し、再び畏霊として人を襲う様になる。

 

しかし、中には能力値の上昇、強化が前提となる式神術式も存在する。

その場合は条件を付け加え、少数の所持、顕現時間の指定などが付け加えられてしまう。

長峡仁衛の術式は、畏霊を強化する事が出来る術式であるらしい。

 

「ちょっと待ってろ、霊庫から10ダース分持ってきてやる」

 

そう言った。

銀鏡小綿を置いて、辰喰ロロは車を操作して黄金ヶ丘邸へと急いだ。

 

銀鏡小綿は、長峡仁衛の怪我が無いか確認をしていた。

擦り傷があったので、絆創膏を使って傷口に貼り付けた。

 

「持って来たぞ」

 

バッグの中に入れた木箱を長峡仁衛の前に置く。

 

「凄いな……よくもこんなに」

 

沢山持ってきたな、と長狭仁衛は言った。

流石に此処迄多いとは予想していなかった様子であり、辰喰ロロは肩を叩きながら軽く体を逸らせた。

メイド服に、彼女の体の輪郭が浮き上がった。

 

「勿論低級の畏霊だ、数百体くらい居るし、お嬢様もこの位は使っても良いと言っていた」

 

と、そう言った。

長峡仁衛は黄金ヶ丘クインに、改めて感謝をすると、早速、所持畏霊の強化を行う事にする。

木箱から畏霊を顕現させ、長峡仁衛と落ち武者の畏霊による戦闘を行う。

 

三十体程必死になって倒し、畏霊が吸収した所で、変化が起きる。

髑髏の顔面に、次第に皮膚が生え出した。

その体に纏う襤褸の衣服は、幕末の志士が如き格好となり、頭部には笠が被られている。

 

「進化した……」

 

長峡仁衛は、隻眼となり落ち武者の畏霊の情報を読み取る。

 

「……『斬人(きりうど)』」

 

新たな名を持つ畏霊。

刃毀れを起こした刀は血に濡れ錆と化したが、刃が復活している。

 

総量三十七。

食べた畏霊の数程強化された新たな畏霊・『斬人』。

 

「とりあえずは強化は此処までにして……今度こそ、俺の式神所持数を調べるとするか」

 

長峡仁衛は、残りの木箱を開封して、畏霊の封印調伏をする事にした。

 

「これは……凄いな」

 

低級の畏霊を取り込み、その合計数は全部で六十七体。

それが長峡仁衛が封印調伏した畏霊の総数だ。

 

「……こんな力が、俺にはあるのか……」

 

長峡仁衛は自分で自分が恐ろしいと思った。

これ程の数を封印調伏しておきながらも、まだ余裕を感じる。いや、むしろ肉体に対してなんら影響を持たない。

封印調伏した畏霊は、長峡仁衛の肉体……臨核へと蓄積される。

そして、膨大な量であればある程に、畏霊から発生する純度の高い瘴気……呪いを身に受けやすい。

呪いを受ければ、精神を蝕み、日々、聞こえない声が聞こえたり、亡者の声が四六時中付き纏う事となるのだが。

 

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