「あらためまして。助けてくれてありがとう」
事後。交合の余熱に少しく浮かれながらも、制服とボディーアーマーを折り目正しく着込んだ少女が、深々と頭を下げて感謝の言葉を口にする。
大気の精霊めいた儚げな美貌は今にも空に溶けて消えそうな趣きがある。本物の妖精であるピクシーよりもどこか妖精染みていた。
ブレザーとスカートの制服はさておき、警察の特殊部隊が来ていそうな武骨なボディーアーマーが冗談みたいに似合わなかった。
再三の繰り返しになるが、綺麗なお姉さんだった。美人なJCという風情だ。身長はそれほど高くなかったが、顔が小さく足が長いので、頭身が高めに見える。
学園の女子は顔面の偏差値で選んでいると真しやかに囁かれる美人揃いだが、その中でも頭一つ抜けている。肉を灼く発情の熱に魘されて顔を歪めていた時ですら、それでも美しいと十人が十人答えるだろう。
大手の攻略倶楽部や学年のエリート男子に囲われていないのが不思議なほどだった。
「どういたしまして」
幸翔は美人が好きだった。ウキウキと言葉を返す。
「あ! そうだ。ボクは幸翔って言います。お姉さんの名前はなんて言うの?」
「幸翔くんですね。わたしは……」
名乗りかけて、途中で声を立てて笑いだした。
「ごめんなさい。お互いに名前も知らない状態であんなに激しく抱かれるなんて、考えてみると、なんだかおかしいなって」
言いながら目尻に浮かんだ涙滴を拭う。
情熱的なセックスだった。
女を狂わせる
今の自分ならば、あの強姦魔たちにどれほど犯されても、決して自分を見失う事はないと確信できた。
「たしかに!」
幸翔もかなり経験豊富なヤリチン小僧だが、名前も知らない相手とのセックスは数えるほどしかない。ないわけではない。セックスの最中に相手の家族や友達に見つかって、流れでそのまま相手も巻き込んでの3P、4Pに発展した事があるので。
「ああ。おかしい! 変なの! だって言うのに、わたし、なんだかとってもスッキリしてる。考えてみると、自分で心から相手を受け入れてエッチしたのって、今回が初めてだったと思う」
晴れやかな笑顔で悲しい事を言う。
「そんな顔をしないで。この学校の女子生徒にはごく普通の話だから。本当よ」
しゅんとした幸翔を笑い飛ばす。
下級生狩りのレイパー集団に対する怒りにしても、一年生を遊びで殺して死に戻らせていた卑劣な行為への怒りであって、強姦され
「もちろん腹は立つけど。そこは地上の学園でも一緒だから」
キリがないと苦笑する。
「そうだ! 名乗りの途中だったよね」
空気を換える様に手を打ち合わせる。そして話題を戻す。
「千晴って言います。数字の千に天気の晴れでチハル。よろしくね」
「はい! 千晴さんだね。覚えた!」
無邪気に返す幸翔に、こんな子とエッチしちゃったんだなあと千晴は思った。性的に破綻した学園だけど、なんやかんやでこれまで相手をして来たのは同年代から年上の先輩たちばかりなので、ぐぐっと年齢の下がった幸翔のチンポを咥え込んで、お腹の中を抉られて、あまつさえ中出しまでされた事実に空恐ろしい物を感じた。
なんとなく子宮の上を撫でる。生憎と服どころか装甲が守っている場所だが、胎内のザーメンの熱を掌に感じる様な心地がした。
大悦びでゴクゴクこの子の精液をがぶ飲みしていたが、もしダンジョンに潜ってなかったら、受精間違いなしだったなと思う。
もっとも。ダンジョンに潜らないという事はこの学園に入学もしないという事で、学園に来なかった世界の自分は、無事にフィギュアスケートを続けていられて、その場合は初潮が訪れていなかったかもしれないわけだが。
「なんて」
その場合はそもそも幸翔に抱かれる事がありえないから無意味な仮定かと自分で自分にツッコむ。ある種の現実逃避である。
「ええっと。それで幸翔くん……は同級生って事で良いんだよね?」
ぎこちなく確認する。
「うん。そうだよ。一年生。この学年章の通りにね」
ふふんとドヤ顔で左襟の
「ああ。なら同じ15歳……なわけないよね」
千晴自身、発育が遅くて二つ三つ年下に間違われがちな自覚があったが、幸翔のそれはそんな次元の話ではなかった。どう贔屓目に見ても10歳前後がいいところだ。
「あはは! ボク、幸翔、豊蘆原学園の一年の15歳です! なんてね。うそうそ。飛び級? なんかそんな感じで編入して来たけど、本当は9歳です。ここだけの秘密ね」
「きゅうさっ……わたし、一桁の子とやっちゃったんだ」
「んー。ボクとエッチした女の人はたくさんいるんで大丈夫だと思います」
「大丈夫じゃないよ! 思わずつっこんじゃったけど。納得。すっごく手慣れてたものね」
最近の子は進んでるなあと千晴はすっとぼけた事を呟いた。
「それで。幸翔くんは編入生なんだ。それも納得したかな。わたし交友関係はあんまり広くないけど、それでも幸翔くんみたいな子が同級生にいたら、流石に耳に入って来てたと思うし」
その割にはすごく強いなと千晴は思った。エンジョイ勢のカス共とは言え自分たちでは手も足も出なかった三年生の混ざったパーティを倒したかと思えば、セックス中に襲って来たモンスターも鎧袖一触やっつけていた。
それとも自分が特別に弱いだけなのだろうか。考えると情けない気持ちになってくる。
「あのね。本当なら年上として、学園の先住者として、幸翔くんに色々と教えてあげなきゃなんだけど。お恥ずかしながら、わたしはこれまで一度もダンジョンから生きて戻った事がありません」
見栄を張らずに千晴は告白する。
「だから。ダンジョンの中の事、授業や噂話で聞いた以上には何も分からないです。レベルについても、クラスの男子や先輩たちに抱かれた事で、ちょっとだけは上がってると思うんだけど、めっちゃ雑魚です」
今回のダイブもクラスメートの性処理担当として同行させられただけである。
「なので……すっごく恥知らずな事を言ってる自覚はあります、それでも、この千載一遇のチャンスをふいにしたくないの。お願いします。ダンジョンから締め出されるまでの時間、君に同行させてもらえませんか」
思いつめた表情で千晴はふかぶかと頭を下げた。ここで見捨てられれば本当に後がないと思われた。
「いいよ!」
それに対する幸翔の返答は気楽な物だった。
「と言うか! 最初からそのつもりだし。言わなかった? 助けてあげるって」
「それは……ありがとう! 本当にありがとう」
ぽろぽろと涙を流して何度も感謝の言葉を繰り返した。
「ほーん。なによ。あんたってば中々礼儀って物が分かってるじゃないのよ。気に入ったわ」
それまで後方姉貴面で黙って成り行きを見守っていた妖精さんがドヤ顔で話に混ざる。
「えっと」
「ピクシーよ!」
「ボクの相棒」
ピクシーの簡潔すぎる名乗りに幸翔が補足を入れる。ただ、それはそれで必要十分な説明が為されていたかと言えば疑問が残る物だったが。
「ぴく……ああ! "pixie"ですね」
西洋の童話に出てくる悪戯好きな小妖精。言われてみれば『ピーター・パン』のティンカー・ベルやC.M.バーカーの絵本『花の妖精』に出てくるそのままの姿をしている。イメージよりも少し、いや結構大きかったが、確かに見た目は妖精と聞いて思い浮かべる形である。
「しゃべるモンスター。幸翔くんは『
あたかも高度な個我を有する様に振る舞う妖精に千晴は圧倒された。それだけ稠密な魔力を内包している証左である。見た目はまったく強そうでないが、相当に高位のモンスターなのではと推察する。
編入生との話だけど、もしかして帰国子女なのかなと千晴は思った。
勘違いである。
幸翔がそのクラスに就いているかは分からないが、『文官』系の上位派生職に妖精の召喚使役に特化した『
「サマナーはサマナーでしょ」
「『
妖精本人が否定する。
「たぶん違うと思うかな」
「たぶん?」
そしてこれも違うと言う。
「『
「それはどういう?」
困惑する。外国のダンジョンにも学園の『聖堂』に類似した施設はあると習った。
「言葉通りだよ。一回もクラスチェンジしてないんだ」
実技が駄目な分、せめて座学だけでもと日頃から自学している千晴であったが。
「ちょっと何を言ってるのか分かんないかな」
千晴は理解する事を諦めた。
「それでは! ダンジョン探索を再開します!」
「いえーい!」
「わ。わー!」
男の子と小妖精の陽気なノリにちょっとついていけない千晴であった。
※ ※ ※ ※ ※ ※
見目芳しからぬ小人が棍棒を振りかざした。
「やあぁぁぁぁぁっ!」
「えいっ! やぁっ! 死ねっ! このっ! このっ!! 死ねぇっ!!!」
盾の下敷きになった小人に向けて、千晴は引き抜いた警棒をガツン、ガツンと繰り返し振り下ろした。盾からはみ出している頭部を中心に上半身を滅多打ちにする。
その度に体液が撒き散らされて、鼻を刺す悪臭が辺りに漂った。
手から発して体全体に広がる嫌な感触と併せて、千晴の心身に無視しえないダメージを与える。叶うならば今すぐしゃがみこんでしまいたい。
涙目になりながら、それでも千晴は殴るのを止めなかった。ここで逃げたら何の為に生き残ったのか分からない。
恐怖と興奮に逸る気持ちを抑えて、努めて冷静に殴打を重ねる。
そこに失着はなかった。
だからこれは運と言うほかにないだろう。
ギャアーッツ、ギャアーッツと耳障りな声で喚きながら、盾の下から逃れようとジタバタと小人が暴れまわる。
やぶれかぶれに振り回された棍棒が偶然、千晴の肩を強打した。
急な痛みと衝撃に、たまらず千晴が警棒を取り落とすと、その隙に小人は抑え込みから逃れる事に成功した。
攻守が逆転し、優位に立った
股間の悍ましい物をいきり立たせ、先走りの汚液を撒き散らしながら、ゲヒャゲヒャ笑って棍棒を眼前の雌に叩きつける。
雌を弱らせて犯す事だけを考えているので、当たり所が悪ければ殺してしまうだなんて思いつきもしない。
必死の形相で手にする盾で攻撃を防ぎ続ける千晴。
このままではマズい。意を決すると、千晴は防御を捨てて盾を高く振りかざした。二発、三発は喰らうのは覚悟した。事実、小人の振るう棍棒が二度三度と千晴の細い体を
「あああぁぁぁぁぁぁ……!」
怯むことなく千晴は盾の
頭を叩き割られて小人は死んだ。仮初の命が去った肉体は、たちまちその輪郭を失って、蛍火の様にパッと消えた。
「はぁっはぁっ。やった。やったぁ!」
肩で息をしながら、喜びを爆発させる。
千晴は半年に渡る学園生活で初めてのモンスター討伐を成し遂げた。
一対一の対戦をお膳立てされた上で、身体能力を向上させるバフスキルも使ってもらった結果とは言え、大いなる一歩であった。
「おめでとう!」
「うん。ありがとう。ぜんぶ幸翔くんとピクシーちゃんのおかげだ」
息を整えながら、見守ってくれた二人に礼を言う。
彼らが控えていてくれると思えばこそ、最後の捨て身の攻撃に踏み切れた。
「ああ。本当にすごい。わたしがこの手でゴブリンを倒したんだ」
感慨も
1レベルのゴブリンは一般人でも倒せる程度の雑魚モンスターだが、言い換えると健康な人間一人に等しい力を持っている。
千晴の独白の中のゴブリンと言う単語にピクシーは反応した。
「ゴブリン! 今のが! うげー。醜悪ー。あたしの知ってるゴブリンじゃないわね」
あいつらもっと小綺麗でかわいげがあると辟易した様子でピクシーが言った。
ダンジョンのゴブリンは、彼女が知るものとはまるで様相が違っていた。
「女を襲うにしたって、市や辻で甘やかな果実を餌に言葉巧みに誘うような、もっと蠱惑的な魔性の気品があったもんよ」
「翠先生から教えてもらったんだけど、ここ何年かで急激に性質が悪くなったんだって」
元々の学園ダンジョン浅層に出没したモンスターは
それがいつしか『ゲームに登場する雑魚モンスターの代表格』としてのゴブリンに置き換えられた。その上で、このポップカルチャー由来のゴブリンたちは、アダルトゲームやエロマンガで便利使いに付与された、女を犯し孕ませる都合の良い竿役の性質まで帯びていた。
そうあれかしと望まれた女の敵。学園ダンジョン屈指の嫌われ者。一番の雑魚でありながら、もっとも忌み嫌われるモンスター、それが現在のゴブリンの立ち位置だった。
女を前に逸物をいきり立たせて襲い掛かるのは、もっと下の層で出てくるオークも同様であるが、そちらは相応に力を着けた頃合いに挑む相手であり、人間とほぼ体格が等しいモンスターゆえに、ドロップする装備品をそのまま転用できるとして人気が高い。
「そう聞くと哀れな連中ね」
ピクシーが憐憫の表情を作る。
「始祖たる古のゴブリンは、あんな女と見れば即チンポコおっ立てて、尻を追いかけ回すサマナーみたいな連中じゃあなかったのに」
「ひどい」
いきなりの流れ弾に幸翔はビックリした。
「なんでそんなこと言うの」
「ふんだ。どうせそのミドリセンセーとやらもあんたの新しい女なんでしょ。あたしにはお見通しなんだからね」
鼻を鳴らした相棒の指摘に、幸翔は事実を叩きつけられてぐうの音も出なかった。
抱けー抱けーとけしかけたりするが、それはそれとして自分の知らないところで契約者が新しい女を作っているのは腹が立つピクシーである。
漫才の様なやりとりに、千晴はクスクスと笑った。
「ふたりは仲良しだね」
その言葉に、ピクシーは当然とばかりに胸を張り、幸翔は嬉しそうに笑った。
「うん。そうなんだ」