三人でのダンジョン探索は続いた。
出会ったモンスターが一匹ならばそのまま、集団と出くわせば幸翔が魔法で一匹を残して蹴散らして、千晴のレベリングと実戦での戦闘訓練を行った。
合間にレベルアップの酔いが千晴に回れば、その形の好い尻を掴んで慰めてもやった。後背位でショーツの隙間から捩じ込んで子宮口を虐めてやると、あんあんと鳴きながら気をやる。
精液を恵んでもらった後は、感謝を籠めて念入りにお掃除をするのも忘れない。熱が入り過ぎて二回戦に突入する事も多かった。
ときたま興奮したピクシーも混ざって来て、弟分の男性器を全身で抱擁して射精に導いたりもした。
精液を媒介にしての経験値の流入もあり、おそらく千晴のレベルは第一段階クラス獲得に必要となる10を超えた。
「来年度からは『電子学生手帳』と言う物が導入されるって話があるの。それを持ってダンジョンに潜ると持ち主が獲得したEXP値が分かるようになるのだとか」
ただし試験導入された先での評判は芳しくない。
そんな順調な探索の途上、玄室と玄室とを繋ぐ長い回廊を歩いている時だ。
「警戒。なんか妙なやつがいる」
最初に気づいたのはピクシーだった。第『壱』階層『既知』領域の薄い瘴気の中に不釣り合いなほど強く
「でも敵意は感じないよね」
逆に歓迎する意思すら感じる。
「判断に従うつもり」
手短に相談した結果進む方針で纏まった。
臆さず、されど油断せず進む事しばらく。
「いらっしゃいませー」
ド派手な打掛に簪をした遊女めく美女が煙管を燻らせながら来客を歓迎する。何人ともつかぬ顔立ちをして、蝶の翅か向かい合う扇の様な伊達な髷から笹穂の様に長い耳が覗く。
壁に埋まるようにその店はあった。女主人が座るカウンターの奥には時代も土地も様々な品が陳列されていて、傍目には博物館とも古道具屋ともつかなかった。
「ダンジョン七不思議。何でも売ってる『ダンジョン商店』」
千晴が呆然と口にした。寮の先輩から聞いた都市伝説めいたショップの話である。それは砂漠の蜃気楼めいて追えども辿り着けない幻の筈だった。
「こんにちは!」
「……あ。こ、こんにちは!」
「ん。よろしく。こんなとこにお店とはねえ」
元気よく幸翔は挨拶を返す。ドラマで見た花魁の様な装いの美貌の人外にも臆する事はなかった。一拍遅れて、千晴も慌てて挨拶を行った。ピクシーはしげしげと店内を見回す。
「はぁい、こんにちはぁ。お坊ちゃんにお嬢はんに……なんや、神さんみたいにお強い妖精はんも」
笑顔で順番に挨拶するエルフ耳の美女だったが、最後のピクシーに向けた時だけ、困ったように顔を強張らせていた。
「あんたね。商売人が初対面の客に対してその顔をどうかと思うんだけど」
「いや。ほんに、ごもっとも。とんだ粗相をば。勉強さしてもらいますよってに、どうか堪忍しておくんなまし」
一触即発とまでは言わないが、多少ピリついた空気が流れる。
「ただ。ただやで。お姐さん。ちょーっと考えて欲しいんやけどね、なんぼお客様は神様ですぅ言うたかて、ほんまもんの神さんとか、ましてやそれに匹敵するような妖精はんとか、まさか来るとは思いませんやん。あて、あまりの事に心臓止まるか思いましたわ。心臓とかないですけど」
「一理あるわね」
店主の言葉にピクシーは理を認めた。
「んー? お姉さんもしかしてヴァルキリー?」
「おやまあ。そっちの名前で呼ばれるやなんて」
着ている服が何故か和服なので眩惑されたが、改めて見ると見覚えのある半神的精霊だった。
言い当てられた店主がおどけて口笛を吹く。
「もしかしてお坊ちゃん、あての姉妹のうちの誰ぞかと会った事がおありで? まあ。姉妹言うても、おんなじ鋳型で鋳込まれた同一規格ってだけですけどぉ」
何がおかしいのかコロコロと笑った。
「あるよ」
今現在契約している手持ちの仲魔の中にはいないが、過去に『作った』事はあるので、【悪魔全書】には登録されている。
「だからいつでも喚べるの。召喚しようか?」
「……って。それは【悪魔召喚プログラム】やないですの」
スマホ片手の幸翔の説明に、店主は目を瞠った。
「それで合点が行きましたわぁ。お坊ちゃん。あんさん、さては【邪教の館】にアクセスもできますやろ」
「できるよ」
「それ見たことか。ドンピシャやドンピシャ。それで連れてるのがメギドラオンピクシーやなんて、お坊ちゃん、相当にやり込んではるねぇ」
メタメタしい物言いに幸翔は面食らった。これではまるで。
「お姉さん、もしかして『女神転生』って知ってる?」
「知ってますぅ。こことは違う世界で書かれた小説とそれから派生したコンピュータゲームですやろ」
あっさりと認める。
「それに。メガテンはやる夫スレとあんこスレでも定番の題材の一つですしぃ」
「それは知らない」
「なんや勿体ないねぇ。玉石混淆と呼ぶには石の割合が大きすぎるけど、傑作はほんまに傑作でしたのに」
そんな事を言われても、元の世界のネットに繋ぐ術など存在しない現状では、すっぱい葡萄どころではない。
「ローカル保存してある『オキニ』の中から、幾つか見繕ってコピー差し上げましょか?」
趣味を布教するオタクの呼吸で店主が提案する。国どころか世界を跨いだ上に
「じゃあ。折角だから貰っておこうかな」
興味を引かれて幸翔は欲しがる。
「まいど! ああ、いやいや。これは同好の士への贈り物やし、商品とちゃうからお代はいただきませんよ」
「わっ。すごい。ここWi-Fi繋がってるんだ」
画面を見た幸翔が驚く。あと千晴も。ダンジョン内はもとより地上の学園敷地内と門前の学生街でも無線自体が不通だったのに、何故かここだと繋がっている。
「ま。そこはね。最強は有線ですけど、やっぱり無線の便利さは捨てがたいですよって」
頑張りましたとニコニコ笑顔で自身の回線の強さを自慢する方向へ話を脱線させる。
次いでマイPCの性能、なぜこのパーツを選んだのか、組み立て上のこだわりポイント諸々を口早にトークする。
ふんふん、なるほど、そうなんだあと同じくニコニコ笑顔で相槌を打つ幸翔。正直、相手が言っている話はほとんど理解できなかったが、女好きのエロガキは、美人が楽しそうに喋っているのを間近で見られて喜んでいた。
「あかんわぁ。久しぶりのお客はんや思うと、ついつい興が乗って話が取っ散らかってしまいますぅ。かんにんへぇ。せやせや、あてら最初は『女神転生』に【悪魔召喚プログラム】の話してたんやった」
「そうだった」
「あれはねぇ。十年くらい前やったかな。一つの『
脅かすようにおどろおどろしい顔と声を作った店主が語る。
「10年前。ボクが生まれた前の年だ!」
「あっはっは。そうやねえ。それはなんとも奇遇なことで。なんて空っとぼけてもしゃあないわなぁ。お坊ちゃんはあての見たところ……ふぅむ。ちょいと観させてもろても?」
店主は一言断りを入れると、幸翔の中をじぃっと覗き込む。
「ああ。やっぱり。お坊ちゃんはその時一緒に来はったんやねぇ。俗っぽい言い方をしたら、当節流行の異世界転生モノの当事者ですわ」
曰く。『女神転生』が存在する世界で『
「へー。そうだったんだあ」
「いますごい衝撃的な話が語られていた気がするんだけど、軽くないです?」
それまで黙って二人の話を聞いていた千晴だが、話の成り行きにビックリして思わず口を挟んだ。
「んー。ボクはボクだしなあ」
「三千大千世界。一人の仏さんが受け持つ世界が十億個。これが仏さんの数だけあるんですぅ。それだけあれば、世界を跨いだ輪廻転生なんてごくごく普通の話ですわぁ」
「そういうもの……なの?」
いまいち釈然としない千晴だったが、当の幸翔本人がケロっとしているので納得する他なかった。
「それで、その時一緒に異界の理が幾つかこの世界に上書きされたんやけど、その一つが【悪魔召喚プログラム】やったんですぅ」
厳密には【魔界】から【悪魔】を召喚できるルールが追加された。そしてその悪魔召喚の魔法儀式を代行してくれるコンピュータプログラムこそ『女神転生』という作品の根幹をなす【悪魔召喚プログラム】である。
なお。その際は機械的に召喚を実行するだけなので、悪魔を従えられるかは全て使用者の器量次第となっている。
幸翔は実力で従えているが、場合によっては召喚した悪魔が制御不能になる。
「それでやねぇ。お坊ちゃんが
「お姉さんが作ったの!」
「あ。ちゃうちゃう。勘違いしたらあかんよ。あては別に中島はんやらSTEVENはんやら級の天才プログラマーとは違いますよってに。あんなトンデモプログラムはとてもとても」
顔の前で手を振って目を輝かせる男の子の勘違いを訂正する。
「あてがやらせてもろたんは簡単に言うとローカライズやねぇ。本家のプログラムがいくら優れてるぅ言うても、世界自体が違うとやっぱり大小の齟齬が出てくるんやわぁ。それをあんじょう丸めて、ええ感じに運用できるように、えいやってやっつけたんよ」
謙遜しているが、それはそれで十分にトンデモなんじゃないかなと幸翔たちは聞いていて思った。
「なるほどねえ。どこから来たのかずっと不思議だったから、お話聞けて良かったです。いつもとっても助かってます。だから。お姉さん、ローカライズ? だとしても、作ってくれてありがとうございます」
頭を深々と下ろしてお礼をする。
「そんな正面切って言われたら、なんやこそばゆいわぁ。あての方こそありがとうなぁ。まっさか生のユーザーさんとお目に掛かれるとは思いもしよらんかったさかいに、めちゃくちゃ感動してますぅ」
奇遇な事もあるものだと互いに顔を見合わせて笑い合う。
「ところで。その魔王って誰なの」
「いわゆる『閣下』とは別の魔王さんですぅ。安心しはった?」
「とっても!」
「あても、これが大魔王はんの肝煎やったら、きっと竦みあがってしもてた思うわぁ」
かんらからと花魁風情の精霊は高らかに笑った。
「さっきから、まるで理解はできないのに、とんでもない話を聞かされてることだけはなんか分かる」
「深く考えない方がいいわよ」
レイヤーの違う話を聞かされ続ける千晴の肩をポンポンとピクシーが叩いた。
「でな。その魔王はん。あてが納入したプログラムを世界中にばら撒きはってん。それがお坊ちゃんの手許にも届いたんやねぇ」
「えっ? あの。すみません!」
「はいはい。なんですやろかぁ」
「その【悪魔召喚プログラム】があれば、誰でも悪魔を召喚できるんですよね。つまり、それってダンジョンの外の地上に、それも学園の外の普通の人たちが暮らす世界に、悪魔が出てきてるってことですか!」
大惨事を想像し、顔を蒼褪めさせた千晴がたずねる。
「あれ。ごめんねぇ。ちょっと脅しが過ぎてしもたね。安心したってぇお嬢はん。この世界の地上にはほとんど瘴気……生体マグネタイトがあらへんから、喚ばれたところですぐに消えるか、そもそも召喚自体が不発に終わるのが関の山ですわぁ。最初に話の枕で持ち出した、降臨しはった神魔のお歴々も、皆さん、ダンジョンの奥底とか、自分で拵えた専用の
怯えを見せる千晴を店主は宥める。瘴気の結晶たるモンスタークリスタルを山と積んだり、生贄を捧げて場をMAGで満たせばその限りではないが、顕現に関しては原則的にダンジョンモンスターと同じ法則に縛られている。
「あれ。でもこの前、ボクたち赤おじさんと会ったよ。もしかして依頼者ってあの
「それはまた大物と出会いはったねえ」
原則として『真・女神転生』のプレイ経験者が言う赤おじさんとは魔王ベリアルの事である。
「まあ。その魔王はんとは別の方ですぅ」
「ちがったかぁー」
「でも、それはそれで気になりますぅ。よければ、その時はどないな顛末になりはったんか教えてもらっても?」
「えっとね。アリスーアリス―って探し回ってた。それでボクがサマナーだって分かると、自分を合体材料にしてくれていいから、この世にアリスを誕生させてくれって縋りついて頼まれた」
「あれま。それでしたげはったん?」
「うん」
「はぁー! お坊ちゃんもたいがいクソ度胸の狂った倫理観をお持ちのようやねぇ」
感心しきりの店主。ゲームならともかく現実で、本人に頼まれたからと言って魔王を合体材料にできる人間はそうそういるものではない。
「しかし。さよでしたか。魔王ベリアル――『聖なる邪炎』ベル・イアルはんが脱落しはったのは、あんたはんのお仕事やったんやねぇ」
「あれ。その呼び方って」
心当たりが一つあった。
「はいな。ベルの王の座を賭けた闘争に挑まれる際の特別な名前ですぅ」
シリーズの外伝的作品の一つ『女神異聞録デビルサバイバー』で語られた、ベルの名を持つ悪魔たちが、かつて分かたれた一つの偉大なる存在に返り咲かんと相克する決闘儀式の物語。
「魔王はんの目的はねぇ、こっちの世界に呼び出したベル神の皆さんらとあらためて儀式をやり直す事やったんやけど、ベル神の一角が儀式と無関係の所で消えてもうたって事で、魔王はん大慌てでしたわぁ」
さらっと世界の裏側でとんでもない出来事が進行中であった事をばらす。
「直前まで、前回こそはしてやられたが、此度の勝者は我であるぅ、言うて大層盛り上がってはったもんやから、その落差に、あて、腹筋大激痛。申し訳ないとは重々思いながらも、ねぇ」
その時の事を思い出したのか、カウンターをパンパン叩きながら、腹を抱えて大笑いする。
「あのさ。結局、その魔王って何者なのよ。もったいぶってくれちゃって。なんなのその芯を食わない話法は。焦らしてないでさっさと教えなさいよ」
匂わせに終始する精霊に苛ついた妖精が食って掛かる。
「あははっ。堪忍堪忍。他の知性体と会話するやなんてずいぶんとひっさしぶりのことやさかいに、会話のキャッチボールが心地ええんよぉ」
誰かが突っかかって来る事自体が楽しいのか、笑いながら詫びると「これお詫びの品ですぅ」と言いながら、カウンターの奥からお皿を取り出すとと、カットされた林檎を一同にすすめる。
「ほんまやったら顧客保護がぁ守秘義務がぁ言うところかも知れんけど。今回は当の魔王はん
そして、流石にちょっとしつこいなという場の空気を読んだのか、今度こそ本当に話し始める。
「本当はこうや『我はペオル山の主。アベル・シッテムの地にてモアブ人の崇めしベルの神。怠惰を拭いしベル・ペオルなり』やって」
すなわち。魔王ベルフェゴール。いわゆる『七つの大罪』の一つ『怠惰』の罪と関連付けられる事もある大悪魔である。
その後、一同は店主が出してくれた林檎を賞味しながら歓談した。
その間、幸翔はなにがしかを考え込んでいる様子だった。
「お姉さん」
しばらくして、決意を滲ませる声と表情で店主に呼び掛ける。
「はいはい。なんでっしゃろ」
「ボクの名前は折原幸翔です。前世の名前は【●●●●】らしいです」
至極真面目な表情をして、幸翔は本名、呪術的には真名と呼ばれる物を告げた。
告げられた店主の精霊は、それまでの余裕綽々とした表情を一転、ぽかんと大口を開けて幸翔の顔をじぃっと見つめた。
「幸翔くん!」
一呼吸遅れて、悲鳴の様な声色で千晴が叫んだ。
「……真名を前世のそれまで添えて捧げてくれはるんやね」
硬い声色で絞り出すように店主。何が望みだと目線で問う。
「ボクと契約して仲魔になってくれませんか」
「あ? はははははははっ。そう来たかぁ! お坊ちゃん。いんや幸翔はん。そない情熱的に求められて、あても女として悪い気はしぃひんけどな。それはもう押し売りと変わらへんよ」
煙管の先で無鉄砲な小僧の額をグリグリしながら嗜める。
「そこは先に契約を持ち掛けて、条件に折り合いがついてから、お互いに真名を交換するもんですぅ。分かりはったぁ? そも言う必要すらないわぁ」
「はい」
ガチ目のトーンで説教をされて、幸翔はしょんぼりトーンで返事をした。
「よろしい。以上。穿界迷宮YGGDRASILL、露店精霊スケッギョルドからのアドバイスでした」
そこへ真名の返報がなされる。幸翔はもしかしてと目を輝かせた。
「ええよ。仲魔にまでは成ってあげられへんけど、仮契約くらいなら結ぶのも
いたずらっぽく笑いながら、ダンジョンの精霊は言霊を結ぶ。
「私は精霊スケッギョルド 今後ともよろしく」
スケさんの口調、原作では「どこの地方とも言えない混ざった方言」「混沌とした謎方言」と説明されてるんですが、書いてて、気を抜くとただの関西弁になってしまって困りました