ハイスクールハックアンドスラッシュIF 偽りのギルドマスター 作:アイウ
意識が覚醒し、ゆっくりと目を開けると見覚えのない天井が見えた。
「君、意識はあるかね?」
しばらくぼーっとしていると、白衣をきた男の人が話しかけてくる。
「っ、、、は、い」
普通に返答しようとするが、口が、喉が思い通りに動かず上手く言葉が出なかった。
「返事が...先生!、これは成功ですよね」
「ああ、成功だ。やったぞ。数十年に渡る再生術研究がついに実を結んだ」
「おめでとうございます!先生」
研究者は複数人いるようで、正直騒がしく寝起きの人が近くにいることを配慮して欲しいところだ。
それにしても蘇生術って言ったのか?
「いやぁすまないね。つい興奮してしまって。 君何か覚えていることはあるかね?」
「っ、な、にを」
返事をすると、自分でも驚く程、かすれた声が出た。
同時にずきりと喉から痛みが伝わってくる。
「ああ、そうだね。配慮が足りなかった。YESかNo二択でわかる質問にした方が良かったね。
頷くか、首を振るか、楽な答え方をしてくれ」
言われたため、首を縦に振る。
「ふふ、ありがとう。ではまず君は、自分の名前はわかるかい?」
当然名前くらいわかる。
「そうか。では次に自分の年齢はわかるかな?」
この質問も知ってて当たり前だ。
なんでそんな質問をするのかが気になってくるが、
とりあえず頷くと、研究者は特に態度を変えず淡々と質問を繰り返す。
数十問にも渡る質問が終わった後、他の研究者から飲み物を渡される。
「あっあり、がとうござま、す」
「いやいんだよ。長い間点滴生活だったんだ。気にすることはない」
不穏なワードを感じ、自身の腕を確認する。
その腕の片方には、点滴の針がささっていて、肌色は青白く、細くて健康的とはお世辞にも言えない。
そもそも腕をあげようとすること自体が辛かった。
何があった?っと焦りながら自分の記憶を思い起こすが見覚えがない。
「大丈夫かい?蓮くん」
その名前で呼ばれた時、胸がドキリとした。
蓮って誰だ?
俺の名前は佐藤 司だ。 日本生まれ、年は23歳の普通の新卒社会人のはずだが…
「...か、かが、み」
「鏡ね。ちょっと待っててね」
研究者の一人に鏡を持ってきてもらい自分を写してもらうと、そこには見覚えのない男の子が写っている。
誰だよ!、いや、おかしい、そんなはずは...等のワードが頭の中でぐるぐる回ってくる。
「っ、あ、ざ、ます」
とりあえず取り繕って、お礼を告げた。
混乱する思考の中で、次第に今の状況が一つのワードが思い浮かぶ。
現代のアニメとかではよくある、異世界転生。
いや部屋を見る限り文明レベルは日本と同じだし、何より日本語を会話が通じている。
つまりはただの転生なのか?
そうなってくると問題なのは、ファンタジー系か、サスペンス系なのか?どっちなのかが問題だ。
どちらもフィクションに変わりがないが、片方では人間離れしたバトルが発生する世界なので生きづらさも変わってくる。
その後も、研究者から質問を受けたり、雑談を聞いていたり、飲食をさせてもらったりして情報収取を図る。
自身がどういう状況に置かれているのか?、この研究者達はなんなのか?
その疑問がはれるまでは、気を抜かないように心に決めている。
なぜなら色々と変なことが多いからだ。
覚醒してから最初に聞いたワード、再生術?という聞きなれない言葉。
それに覚醒してからずっと人ばかり警戒していたが、部屋自体も変だった。
窓がなく、他の患者もいない。
色々な設備はあるが、病院っぽくないものまで色々と置かれている。
不安が募ってくるが、それを表にしても状況は良くならないだろう。
心休まらない時間だったとしても、時間は過ぎていく。
研究者が帰った後は、眠りについた。
>>>
その次の日も似たような感じだったが、リハビリの時間が取れるようになった。
正直、辛かったが暇だったし、気がまぎれるので続けることができた。
さらに数日が経過し、この生活にも慣れたころのことだった。
夜の遅い時間にリハビリという名目でとある施設に連れてこられる。
初めて歩く道をさりげなく見まわすが、明治時代から昭和時代に立てられたような建物が沢山見える。
一つ一つが、かなり大きく施設も広い。
学校っぽい?
それに暗くなっており、人影は見えないが時々女性の喘ぎ声のような物が聞こえてくる。
治安はどうなっているのだろうか?
そんなことを思いつつ研究者に続いて歩いていると、西洋風の白亜の建物で礼拝堂のような建物が見えてくる。
中に入るとストーンサークルの遺跡っぽい構造をしていた。
天井付近のステンドグラスがあるが、夜なので今は意味がないようだ。
床一面に多重円や幾何学模様が描かれている。
等間隔に10本の石柱が立っており、しめ縄とかされてるのに何か違和感を感じる
和洋折衷な神殿って感じだ。
扉のついた岩のような構造物がいくつか点在しており、中でも手前の物は『王冠の祭壇ケテルオルター』と呼ばれているらしい。
なんとなく何処かで知っている情報な気がしてくるが、研究者に誘導されるため中へと足を進めていく。
距離がだいぶ近くなったら床の模様の線が発光し扉へ続いていく。
そしてガコンという音を立てて岩の扉が開いた。
研究者の方を見るとスマホのような端末を渡され、中へ入るように言われる。
中に入り、岩に手を触れると何となく体の何かが作り変えられるような感覚があったが、
直ぐにそれも終わったため研究者の元へ戻ってくる。
「学生手帳を出して」
一瞬戸惑ったが、先ほど手渡された物だろうと当たりをつけ手渡した。
画面を操作し何かを確認した。
その周囲に他の研究者が集まり、固唾をのんでいる。
「...クラフターだ」
「当たりですね。普通に」
「そうですよ。クラフターならあれが使えますよね」
「ああ、アーキタイプの中では最高の結果だ」
「そうだな。はぁ、だが以前の彼はイリーガルクラスだった。もっと未知のクラスが見つかると思ってたんだがな」
何と言うか、結果自体は良いが、期待以下というような反応をされる。
こちらとしては聞いたことがあるような、ないような情報ばかりで困惑するのだが、その反応には少しイラっとする。
さりげなく研究者に近づき、画面を覗きこむが、そこには俺のプロフィールが写っており、
その一部が職人と書いてクラフターと読み仮名が振られている項目があった。
他にも学校名が記載されており、と”豊葦原千五百秋水穂学園”書いてあった。
その情報から、先ほどから感じていた違和感の正体に気が付く。
(この世界、ハイスクールハックアンドスラッシュの世界だ)
転生前に読んでいたネット小説で、ハマった作品だから良くわかる。
現実の世界がベースで、モンスターが出るダンジョンがあるいわゆるローファンタジーの作品で、モンスターを倒したり、アイテムを集めたりしながら強くなっていくハクスラ要素がある世界観。
ダンジョンへの転移装置を管理している学園に、規格外の力を持っている主人公が入学し、
強くなっていく感じの作品で、変わった性格の主人公が、ズレた行動を起こすコメディー要素ありのバトル物の作品だった。
主人公が強いので鬱展開は少なく、主人公とその周りに対しては何かあっても、主人公が何とかしてくれるだろうという安心感を持って読んでいた。
世界観的には、腐った学園上層部や裏の組織が、一般生徒から色々搾取しているという一面がある。
そうなると今の俺の状況は、学園の裏組織の研究部門で使われているモルモットという状況ではないのだろうか?
(不味い、不味い、不味い)
この作品の学園を運営している連中は、ダンジョン内から出れなくなり行方不明になることや、寿命が短くなること、子供が産めなくなることなどデメリットを生徒達にわざと隠して、それらを知ってる上流階級の者だけが甘い汁を啜れるようにしているような奴らだ。
(なんとかしないと!)
この世界にはスキルという物が存在し、その中には格下の相手の精神に干渉して操るような物もあったはずだ。
職人クラフターで1段階目のクラスだから、周りの連中は間違いなく格上ばかりだろう。
できるだけ顔に出さず警戒を募らせるが、幸いその日は普通に帰らせてくれた。
>>>
次の日、いつものリハビリの訓練が終わったあと今までに入ったことのない部屋へ連れて行かれる。
そこの空気は変な感じがしたが、原作知識からすると瘴気というやつだろう。
だが、それをこの場に満たしたということは、スキルを使うか使わされる状況ということだ。
一体俺に何をする気だ?
「蓮君。君は昨日クラスを取得してスキルを使えるようになった。私の言っていることはわかるかね?」
「すいません。わからないです」
「いや、謝ることじゃないよ。だがやはり記憶が消えたというのは不思議な物だな。脳みそは変わってないのに...」
「先生?」
「すまない。思考にふけってしまったね。スキルというのは・・・」
研究者からスキルの説明を受けるが、大体原作知識通りだった。
説明が終わると、さっそく「ゴーレム」を召喚してくれと指示を受ける。
「召喚『強化外装骨格アームドゴーレム』 」
手を前に翳し、唱えると体長3メートルのゴーレムが現れる。
真っ先に浮かんだのがドラクエのゴーレムだったため、そのイメージがもろに反映されてしまっている。
「いいね。それでゴーレムにはね。人を乗せる機能がついているんだが、今回はこちらの人を乗せて欲しんだ」
そう言って、指さす先にはベッドで横たわって点滴を受けている男子生徒があった。
「え?どういうことですか?」
思わず問い返してしまった。
「だから、ゴーレムの中に収納するんだよ。いやゴーレムの入口を空けてくれたらこちらで入れるが」
「気にしているのはそこじゃありません。何のためにそんなことをするんですか?」
問われた研究者は、あくまでも落ち着いた声色で、何でもないことのように説明する。
「まぁ気になるよね。ゴーレムなんだけど、クラフタースキルの極地というべきか、ゴーレムと完全に一体化するスキルがあるんだけど、それを君のゴーレムと横たわっている彼で行って欲しい」
「な!っそれって、彼を飲み込むような物じゃないですか!」
「大丈夫だよ。彼はもう半分、いやそれ以上に心が死んでいるんだ。君が何もしなくても一生、植物人間のままで、まともに生きることはできない。だから気にすることはないよ」
「気にしますよ!動かないって言っても生きてますよね。植物人間だからって殺していいわけじゃない」
「はぁ~そうなるよね。うんうん。面倒だな。よし」
深いため息を吐いた後、表情を笑顔に変えた。
そしてその言葉とともに研究者は一歩近づいてくる。
その直後、腹部に強烈な痛みが入った。
「かっ、~~~」
あまりの痛みに呼吸ができず、腹を抱えうずくまる
「だめだよ~。大人の言うことは聞かなきゃ。悪い子にはお仕置きだ」
頭の上に足を置かれぐりぐりと動かしてくる。
「いや先生、調教なんて野蛮ですね。もうスキルでさくっと操っちゃいましょうよ」
「全くだ。こんな社会を知らない子供相手に、説得なんてやるもんじゃないね。やはり暴力だね」
身勝手にそんな話を続ける研究者達。
顔をあげると、それに気付いた目の前の男は足を振り被っている様子が見える。
その光景を最後に俺の意識は途絶えた。
>>>
それから日々は、あまり記憶がない。
朝起きて、食事をして、リハビリをして、時折部屋に連行され、その部屋で何かをされて終わったら部屋に戻される毎日。
目新しさなど全くない。
逃亡を考えたが、部屋は四六時中見張られていたため無理だった。
自殺も少しは考えたが、俺にそんな度胸はなかった。
抵抗の意思を示した時もあったが、そのたびに暴力で強制され、次第に抵抗を諦めた。
それに人間は慣れていく物で、当初感じていた苦痛や罪悪感がどんどん薄れていく。
毎日毎日、同じことの繰り返し。
変わるのは日に日に変わっていく気温のみ。
日に日に寒くなり、少し温かくなってきたかという頃、状況に変化が訪れる。
その日、研究者から一つの段ボール箱を渡される。
中にはスマホのような生徒手帳が一つと制服のセットと、普段着が何着か入っている。
「これは?」
「見てのとおり制服だよ。君にはこの春からその学校に入学してもらう」
「俺は元々、入学していたのでは?」
数か月前、生徒手帳を見た時、1年生という記載があったため疑問に思う
「大丈夫。その記録はないから。君は他の新入生に混ざって一から生活をしてくれ。期待しているよ」
これまた不穏なワードが飛び出たが、そこに突っ込んでも状況は変わらないだろう。
俺としても記憶がないのに、コミュニティーが出来上がってるクラスに入りたくないから、新入生として入れるのは好都合だ。
それに学校に通うということは、自身を強化できるということ。
つまりはこの研究者達よりも強くなれば、いずれ反逆の芽も産まれてくるだろう。
「俺は...何を期待されているのでしょうか?」
「大まかに言うと二つ。一つは強さの証明。二つ目は健康面での安全性の証明。
強さの証明って言うのは、我々の研究成果で能力を強化できることを証明してほしいんだ。
それも一般人とは圧倒的な格差をつけて欲しい。
具体的には...そうだな、まずは学園のトップを目指してもらおうかな」
簡単に言うが、原作設定からするとダンジョンはかなりの難易度だと聞く。
生物を殺す感覚と、自分が死ぬような痛い目に合うことを覚悟しないとやっていけないという話だ。
強くなるという目標自体は一致するためそこは問題ないとして、学園のトップ層はかなり強いらしいし、中には主人公のように規格外の化け物がいる可能性があるのだ。
その中で一番を目指すというのは、頷ける物ではない。
「頑張ってくれよ。そこでの5年間、大した成果を上げられなかったら君は処分されることを考えておきなさい」
そんな脅し文句を告げられたため、釈然としないが返事をする。
「はい」
「二つ目は定期的に診断を受けてもらうけど、基本は普通に生活して欲しい。もっとも普通というのはその学園の基準だが。まぁ安心してくれ。よっぽどのことがない限りは自由だ。君にとっても喜ばしいことだろ?」
これに関しては、素直に嬉しいので頷いておく。
ここでの生活は行動制限がされ過ぎているため窮屈だったから抜け出せるだけでもありがたい。
その後、学園の諸々の説明を受けたり、日課をこなすだけの日々を過ごし、入学の日が訪れた。