※この作品はR-18です。

ハイスクールハックアンドスラッシュIF 偽りのギルドマスター   作:アイウ

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11.有効活用とスキル検証

 羅城門につくと会いたくない人物がそこにいた。

 昨日、ダンジョンダイブに割り込んできたアイナのクラスの一人だ。

 

 彼は誰かを探すようにきょろきょろしていて、こちらの方に気が付くと表情を変えて近づいてきた。

 それに対し、アイナを隠すように俺が前に立って話を聞いてみる。

 

 「お前、今日授業サボっただろ?」

 「仮にそうだとして何だ」

 

 「お前に話してねーよ。すっこんでろ」

 

 「あなたこそ関係ない」

 

 関係のあるアイナ本人に、バッサリ言われぐぬぬというような表情を浮かべる。

 

 「な、ないことねーだろ、同じクラスメイト何だし、ほら心配してもおかしくないだろ?」

 

 「心配しているような物言いじゃないよな?」

 

 「うっ、うるさい」

 

 「いや、うるさいのはお前だ。俺はそんなに大きい声は出していない。まぁ、いいや。昨日といい、お前ら何がしたいんだ?」

 

 彼の無茶苦茶な言い分に突っ込んでいたら無駄に時間がかかってしまう。

 だから話を進めることにした。

 

 「何って、そりゃ...お前、他クラスの女に手を出してんじゃねーよ。このクズ」

 

 急に攻撃の矛先が代わり、罵倒されたが冷静に返す。

 

 「クズと言われる筋合いはないし、他のクラスの子と交流しちゃいけないルールはないだろ?」

 

 「あん?、あんだろ暗黙の了解みたいなもんが」

 

 「知らないな、そんなもの。そもそもお前に魅力がないのが悪いんだろ?、自分が女の子と付き合うチャンスが無くなるから手をださないで下さいっ言ってるようなもんだぜ。第一付き合いたいなら早くアプローチすれば良かっただろ。まぁ言動が阿保っぽいからしたところで玉砕するだけだろうが」

 

 「うん、だから無駄なことはしなくていい」

 

 援護は求めていなかったが、アイナさんから追撃が入る。

 それによって彼の顔は赤く染まり、早口で捲し立ててくる。

 

 「はぁ?、はぁ?、ふざけんなよお前ぇ!ちょっと顔が良いからって調子こいてんじゃねーぞ」

 

 凄むように顔を近づけて威嚇してくるが、俺は顔を逸らす。

 

 「顔近づけんなって、男の顔なんて間近でみたくねーよ」

 

 このまま離しても埒が空かないので、俺自身一旦落ち着いて、話を聞いてみる。

 

 「まず落ち着け、お前はどうしたいんだ?ダンジョンに行きたいのか?」

 

 「そりゃお前、アイナからお前を引き離すために決まってんだろ」

 

 「気安く呼ばないで」

 

 「アイナ、話が進まないから少しの間我慢して。それで俺がアイナから離れたって、君が彼女と付き合えるわけじゃないことは分ってるよね?」

 

 「あ?、お前に言われる筋合いはねぇ」

 

 「まぁまぁ、アイナと別れるとは言わないけど一つ提案がある。俺達は今からダンジョンに向かうが、君一人だけ一緒に来るなら歓迎するよ。丁度こっちも人手が欲しかったところだし」

 

 「あん?それって、俺を仲間にするってことか?」

 

 笑みを浮かべて見せると、怒っていた彼の表情が急変していく。

 

 「悪くない話だと思うよ。普通に生き残れば強くなれるし、そうなれば君に靡く女子は沢山出てくると思う。そうじゃなくても彼女と話せる機会ができる。戦ってる時に良いところをみせれば、彼女も見直してくれるかもしれない」

 

 なにを想像したのか?ヤラシイ顔をしている。

 ダンジョンに行けばルール無用だからレイプできるとでも考えているのだろうか?

 

 「本当だな。わかった。ついて行ってやる。装備を取ってくるから待ってろ」

 

 上から目線でそう言ってくるが、生憎待つつもりはない。

 

 「いや、時間が惜しい。俺の剣を貸してやる」

 

 「それだとお前が丸腰になるじゃねーか」

 

 「ナイフがある。それに俺は武道を習ってるから武器無しでも大丈夫だ」

 

 我ながら雑な嘘だが、幸い彼からのツッコミはなかった。

 むしろ二ヤリとした表情がさらに歪んでいる。

 邪魔者が危険な武器を外してるから、好都合とか考えているのかもしれない。

 

 さておき、納得してくれたので羅城門の転移魔法陣の上に移動する。

 転移前手をつないでいないといけないことを利用して、茜とアイナの間に割り込もうとした男子の手を掴み、足を進めた。

 

 「痛え、痛え、離してくれ」

 

 「一緒に来ることは許可したが、そこまでは許してないぞ」

 

 注意している最中に転移が始まり、俺達はダンジョンダイブを開始した。

 

 

 >>>

 

 ――穿界迷宮『YGGDRASILL』、接続枝界『黄泉比良坂』――

 

 ――第『弐』階層、『既知外』領域―― 

 転移が終わった直後、一緒にきた男子生徒は俺の手を振り払い、剣を抜くと俺に向かって振りかぶる。

 だがその動きは、第2段階目クラスの補正を受けている俺からすると遅すぎて、簡単に避けられる。

 避けたのと同時に顔に拳を当てると、鼻が潰れ血を吹き出しながらよろめく。

 

 「お前、刃を向けたってことはわかってるよな?」

 

「待ってくれ、頼む。軽い冗談じゃねーか」

 

 「・・・何でため口なの?」

 

 「あ、助けて下さい。お願いします」

 

 そう言って土下座で懇願する男子生徒。

 

 「はぁ、この後ちゃんと協力するなら助けてやる」

 

 「本当か!、ありがとうございます。なんでもするんで助けてくだせい」

 

 土下座で懇願する男子生徒。

 

 「蓮、コイツほんとに許すの?」

 

 「絶対変なことを企んでるよ」

 

 「いや、いいんだ。丁度スキルの検証に付き合ってくれる人が欲しかったから」

 

 その話をすると、ムスッとしていたアイナの表情が、ぱぁっと明るくなる。

 

 「やろう。さっそく」

 

 「そうだな。その前に出でよゴーレム、コボルト」

 

 ゴーレムとコボルトを召喚して、周囲の警戒に当たらせる。

 

 「あんた、もうスキルを」

 

 「ああ、お前も上手くやれば、今日でクラスを得られるまでレベルまで行けるぞ」

 

 「まじっすか?ありがとーございます」

 

 明るいテンションで直角にお辞儀をする男子生徒。

 

 「それじゃ早速。使うスキルの名は『技術伝授(スキルインストール)』というものだ。他の人にスキルを与えて使えるようにするスキルだ」

 

 「すごい。チート」

 

 「ああ、すげぇ、すげぇっすよ!。それがありゃ無敵じゃないですか!」

 

 若干持ち上げの言葉選びが雑な気がするが、今は突っ込まない。

 

 「蓮君、そこまで教えちゃうの?」

 

 「大丈夫だよ。色々考えてるから」

 

 今まで信用できる相手にしか教えられないと話していたため、茜がそう思うのは当然だ。

 だがその当たりのことを考慮しても、この男子に話しているため問題はない。

 

 「今からそのスキルを君に使っていく」

 

 「え?良いんですか?ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 「忠告しておくがスキルがあっても、補正はないからな。さっきみたいに身体補正の差でごり押しされたら、結果は変わらないぞ」

 

 「はい。さっきのは反省してますから、マジで、もう2度とあなた様に逆らうことはしません」

 

 「わかった。その言葉を信じるよ」

 

 「さっそく一つずつスキルを入れていく」

 

 「まずは『文官(オフィサー)』の『具現化(リアライズ)』だ。インストール!」

 

 男子生徒の頭に手を翳し、スキルの文字を送りこむイメージで唱える。

 すると魔力らしきものが手から流れて、男子生徒に流れていく。

 

 「体調はどうだ?」

 

 「いえ、問題はありません」

 

 ひとまず問題ないことを確認しメモを取る。

 

 「じゃあ、これを持って」

 

 「これってモンスターカードじゃないですか?すげぇ高価って聞きましたよ」

 

 「ああ。さっき入れたスキルで召喚できるはずだ。やってみて」

 

 「おお。それじゃ、出でよゴブリン!」

 

 彼が叫ぶと、目の前のゴブリンが現れる。

 

 「すげぇ、本当に出てきましたよ!」

 

 「何か命令してみて」

 

 「はい。それじゃゴブリン!手をあげろ」

 

 指示を受けたゴブリンが両手をあげる

 

 「違う右手だけだ!」

 

 自分のイメージと違ったためか、理不尽なことで怒る男子生徒。

 それでも指示を受けると、ゴブリンは左手を下ろし右手だけにした。

 

 「よし、問題なく使えるね。今度はカードに戻してみて」

 

 「はい。戻れゴブリン」

 

 言っても何も起こらない。

 

 「あれ、おい戻れ」

 

 「いや、良いんだ、戻らないのが正しい。次に入れるスキルでカードに戻せるはずだ」

 そう言って『抽象化(アブストラクション)』を与えて、行動を促す。

 

 「戻れゴブリン」

 

 そう言うとゴブリンはカードに戻った。

 

 「これも成功だね」

 

 メモを取っていると袖をぐいぐいと引かれる。

 

 「蓮、彼だけズルい」

 

 アイナが待ち遠しく思っているようだった。

 耳元に顔を近づけて、そっとささやく。

 

 「アイナはあとでね。今やってるのは検証だ。もし何か落とし穴があったらまずいだろ」

 

 アイナがコクンと頷いたことを確認し、次へ行く。

 

 「蓮君。メモは私が取りますよ」

 

 「あっ、私も手伝う」

 

 「ありがとう。じゃあ、アイナは時間を見ててくれ、一か所に留まるのは不味いから定期的に移動を挟みたい」

 

 ありがたく協力してもらい、検証に集中できるようになった。

 

 「さて、次は『職人(クラフター)』スキルの『組合(ギルド)』だ」

 

 「え?なんかもっと有用な、いえなんでもありません」

 

 口答えしてきたが、こちらがちょっと表情を変えるとすぐに取り下げる。

 扱い安くて助かるな。

 スキルを入れると質問がくる。

 

 「これはどう使うんですか?」

 

 「ああ、まずはさっき渡したゴブリンをもう一度召喚してくれ」

 

 「了解っす。出ろゴブリン」

 

 現れたゴブリンに、『組合(ギルド)』をインストールする

 

 「『組合(ギルド)』は、接続した相手と感覚を共有するスキルだ。これを使うと以心伝心になれる。さっそくやってみてくれ」

 

 「なるほど、分りました。接続!」

 

 そう言うって少しすると彼が首を傾げる。

 

 「うーん。これ俺がイメージしても何も伝わってないですよ」

 

 「あれ?、それじゃ、これはどうだ」

 

 ゴブリンの右耳を引っ張ってみる

 

 「痛て痛え、痛いっす」

 

 男子生徒も同じく耳を抑えて蹲っている。

 

 「すまない。俺がスキルの効果を勘違いしていたようだ」

 

 よくよく考えると原作で共有していたのは、痛みとか性的快感とかだった気がする。

 

 「OK、カードを戻して。どうかな?」

 

 「あっ、なんか感覚に違和感が無くなりました。何と言うか変な感じですね。あとすいません。トイレに行っていいですか?」

 

 彼は、いつのまにか前かがみになっおりそう答えた。

 許可を出すと小走りかつ内股で壁際に向かって行った。

 

 小便にしては少し長いなっと思ってると戻ってきた。

 戻ってきた彼の表情はすっきりしたような顔をしている。

 

 「ねえ蓮。彼、精液くさい。多分トイレじゃない。自慰」

 

 「うん...そんな臭いがするよね」

 

 アイナと茜からそんな指摘が入る。

 この状況で、そんな行動ができる図太さに呆れてものが言えない。

 ただ俺達が侮られるのは良くないので、一言注意しようと思った時、一つの推測が頭を過った。

 彼は先ほどまでゴブリンと、感覚を共有していた。

 ゴブリンと言えば、女を見れば犯すっというイメージがあるセックスモンスターだ。

 そんな発情しっぱなしのゴブリンと感覚を共有していたらどうなるか?

 欲望が抑えられなくなるのも当然だろう。

 だから隠すようにトイレに行き、自慰をするのは仕方ないだろう。

 

 二人を宥めておき、男子生徒にゴブリンとの感覚共有時に何を感じたか聞き取りをした。

 その結果、セックスモンスター系等の感覚に悪影響を及ぼすモンスターとの『組合(ギルド)』の使用は危険であること判断する。

 

 区切りが良いので、一度移動を挟むことに。

 移動の際は、俺と茜でモンスターを駆逐していく。

 幸い超越個体のような強敵は現れなかった。

 

 ゴブリンを狩っていく様子を見ていた男子生徒が、嬉しそうに燥いでいる。

 

 「本当にすげぇっすよ蓮さん。めちゃ強いじゃないですか」

 

 「クラス補正だよ。君だってクラスを取得すればできる」

 

 「こんなに早くクラス取れてるのがおかしいんですが、そうですね。俺も早くクラスを得て力になれるようになります」

 

 元気よく宣言する男子生徒。

 モチベーションが上がって協力的なのはありがたいことだ。

 この調子でどんどん試していく。

 

 『職人(クラフター)』の『強化外骨格(アームドゴーレム)』、『遊び人(ニート)』の『自慰(リジェネレート)』、

 『戦士(ファイター)』の『強打(バッシュ)』と続けてスキルを入れていく。

 

 『強打バッシュ』のインストール中に、スキルが不自然な止まり方をした。

 ステータスの表記は文字化けしており、ダメもとで彼に試させたが、案の定発動しなかった。

 最後に『遊び人(ニート)』の『脱出(エクソダス)』入れてたかったのだが、限界があることが分かったので良しとしよう。

 最後にその状態で、正常にインストールできたスキルを使っても支障がないことを確認してからお礼を告げた。

 

 「ありがとう。倫太郎君」

 

 心からの感謝を込め、初めて彼の名前を呼ぶ。

 

 「いや、それはこっちのセリフですよ。こんなにスキル覚えさせてくれたんですからありがっ、こひゅ」

 

 彼が礼を言い終わる前に、片手剣で彼の喉を切り裂く。

 

 その表情は驚愕に染まり、『何で?』と言いたそうにしていた。

 やがて彼は仰向けに倒れ、しばらくすると塵になって消えていった。

 

 「ありがとう。君の協力は本当に助かった」

 

 「蓮君...」

 

 「蓮...今のはない」

 

 茜とアイナの方を振り返ると、ドン引きしている様子。

 

 「え?、ちょっと待って、引かないで、え?彼のこと許したわけじゃないよね」

 

 想定外の反応に、慌ててしまう。

 あれ?、俺がおかしいの?

 

 「いや、ごめんね。あれだけ慕ってくれたのに笑顔でスパッといったので怖くなっちゃって」

 

 「うん。蓮、怖かった」

 

 「ごめんって。でもあいつからスキルの情報とか持ってかれたら困るでしょ?あいつのこと信用できた?」

 

 「信用は一切してない」

 

 「彼をここまで誘導したのは全部蓮君がやったことだからね。でもいくら信用度ゼロの彼でも騙されて懐柔されて、良いように使われて、役目が終わったら切り捨てられるのは、ちょっと可哀想だったかなぁ」

 

 茜の説明を聞いて考えてみる。

 たしかに...いやでも彼らがやったことは悪質な迷惑行為だ。

 なによりダンジョンに入って早々、俺を殺そうとしてきたし。

 既に一度ダンジョンで死に戻りしているわけだし、それが増えたところで大した差はないだろう。

 

 でも騙して利用したのは、俺の欲を出した結果か。

 色々葛藤した末、自分が悪かった部分があると反省する。

 

 「ごめん。スキル検証したい気持ちを優先して、良いように使いすぎたかもしれない」

 

 少しの間落ち込んでいると、彼女達も落ち着いたのか慰めてくれる。

 

 「...ちょっと急な出来事だったから。でも蓮君は私達の安全を考えて行動してくれたんだもんね。いつもありがとう」

 

 「そう。それに私達も止めなかった。それに得られた知識で得をするのは蓮だけじゃない。だから同罪」

 

 「そうだね。私達が責めれれることじゃなかったね。ごめんね蓮君」

 

 「ああ。いや、俺も全く相談せず勝手に好きに動いてた部分もあるし…」

 

 「それじゃ皆悪かったでこの話は終わり、気持ちを切り替えて再開しようよ」

 

 茜がパンっと手を叩いて、そう締めくくった。

 

 「そう。蓮、私も早くスキルが欲しい」

 「分かった。でもまだ分かってないことも多いから保険を考えて3個までにしよう」

 

 「3つ...悩む」

 

 「因みに私はどうでしょうか?」

 

 「茜さんは、既に『空間収納(アイテムボックス)』のスキルを覚えているから様子見の方がいいかな。精霊さんの話だとあのスキルは、俺に入れられないくらい容量が大きいって話だから」

 

 「でもそれだといつまでも使えないことにならないかな?私と同じ例の人がいるとは思えないんだけど」

 

 確かにそうだ。

 学園で一人だけ『空間収納(アイテムボックス)』持ちの男がいるが、物語の主人公の彼で検証などできるはずもない。

 未来にどんな影響が出るかわかったものじゃないから。

 

 「一理あるけど、無駄にリスクを負いたくない。だから1個ずつ慎重に決めようか」

 

 「うん。分かったよ。しばらく様子見だね」

 

 茜との話が終わったところで、丁度アイナさんの希望も定まったようだ。

 

 「決まった。とりあえず『文官(オフィサー)』のカードを召喚するやつで」

 

 「わかった。『具現化(リアライズ)』と『抽象化(アブストラクション)』だね。行くよ」

 

 「うん。来て」

 

 アイナの頭に手を翳し、スキルを送り込んでいく。

 何事もなく成功し、魔力が収まる。

 

 ゴブリンのカードを手渡すと、少し嫌そうな顔をした。

 

 「ゴブリン以外はないの?」

 

 「あるにはあるけど...」

 

 ゴブリン以外でもっているのは超越個体のコボルトソルジャーの3枚だ。

 連携が強味の三体なので、一緒に運用したいと思っていたが、どのみち俺も3体同時召喚をしていない以上、持て余しているから預けた方がいいだろう。

 

 「わかった。コボルトソルジャーっていうカードだ。俺が使ってるのと同じだな」

 

 そういってカードを渡す。

 

 「ありがとう。召喚」

 

 さっそくアイナがカードを翳すと、コボルトが出てくる。

 俺が持っているのは剣使いだが、彼女が持っているのは槍使いだ。

 

 「これで私も戦える」

 

 「ああ、でも過信は気を付けて。本人が弱いのは変わらないから」

 

 「む。やっぱり蓮のクラスを切り替えられるのズルい。そのスキルを貰うことはできないの?」

 

 お願いされるが、このお願いについては聞くことはできない。

 前提としてスロットにはめるクラスを集めないといけないが、それには『組合(ギルド)』を使って他者を取り込む必要がある。

 

 「ごめん、このスキルはスキル単体じゃ役に立たないんだ。前提にセットするクラスを集めないといけないだけど。その方法を詳しくは知らないから俺にはできない」

 

 「残念...わかった。諦める」

 

 凄くしょんぼりとしていたので、慰めに可能性の話をする。

 

 「もしかしたらあるスキルを使えば、俺の使えるスキルを共有化できるかもしれない」

 

 「本当に?」

 

 「あくまで可能性の話だけどね。ダメだった時に申し訳なくなるから、話半分で聞いて欲しいんだけど、スキルの中にSPやスキルを共有できる特性持つ人がいる。だからその系統のスキルを極めれば、スキルの共有化だってできるんじゃないかと思ってる」

 

 「そう。ならそれを早く確かめよう」

 

 「試すだけなら今日やってる。『組合(ギルド)』と言うスキルだ」

 

 「あの感覚を共有するやつ」

 

 「あれと同じで同調率を上げて行けばできるかもしれない。ただリスクは合って、同調率を上げ過ぎると、接続している人が融合してしまう可能性がある」

 

 「融合ってどういうこと?」

 

 「俺も見た実例を見たことがないから分らないけど、自我とか精神的な物が同一化するのか、体が一体化するのか。詳しくはわからないが、とにかくそういうリスクがあるスキルらしい」

 

 「同調率とかあるなら単純な比較検証ができないでしょ?それならもう私で試して」

 

 アイナはそう言ってくれるが、俺としてはできることはしておきたい。

 

 「ごめんけど、それも最低限、確認させて欲しいことがあるんだ。それまで待って欲しい」

 

 「...わかった。待ってる」

 

 潔く引いてくれて助かる。

 『組合(ギルド)』を入れる枠を残すため、他のスキルインストールは保留にする。

 何はともあれ、前衛が1体増えたので探索の安定感が増すだろう。

 それを試すのが楽しみに思いながらダンジョン攻略を再開した。

 

 >>>

 

 それからゴブリンを狩り続けること1時間弱。

 俺達は順調に既知外領域を進んでいた。

 とはいえ、先駆者のいない既知外領域では、次の階層へと繋がる階層門がどこにあるか分らないため、

 道が合っているのかすら分らないのだが。

 

 相変わらずこの階層はゴブリンしか出てこず、カード化したコボルトソルジャー3体以降はゴブリンしか倒してない。

 正直、普通のゴブリンなら一撃で屠れるレベルになったので物足りなさを感じるくらいだ。

 普通生徒だったら、2段階目クラスとはいえ『クラフター』系のクラスだからもっと苦戦するはずだが、特に苦戦することはなかった。

 その理由の大半を占めるのは『能力拡張(スロットエクスペンション)』のおかげだろう。

 セットするだけで、2クラス分のクラス補正を加算してくれる恩恵は想像以上に大きい。

 

 加えて、昨日ステータス画面を操作しながら確認したところ、スロットの候補に登録されてあるクラスのクラスチェンジができることが判明したのだ。

 まだ一つだけだが昨日の探索で、ほぼずっと設定していた『戦士(ファイター)』のクラスが、2段階目クラスの『闘士(ウォーリアー)』に変更できた。

 これによって、昨日よりもさらに身体補正が上がり、同時に俺の半身とも呼べるゴーレムも強化された。

 強化されたゴーレムはゴブリンの攻撃をものともせず、逆に相打ち前提で放った攻撃、一発で倒すことができる。

 コボルトの方は性能に変化はないが、アイナが召喚しているコボルトと連携することにより、

 絶え間ない攻撃連打で、次々とゴブリンを屠っていく。

 

 段々と戦闘という意識から、作業をしている感覚になって気が緩んだところでそいつを見つけた

 白い肌、赤い瞳のゴブリン。

 体型自体は普通のゴブリンと大差ない。

 武器は短剣で、両手に一本ずつ逆手で握っている。

 そいつは、同族のゴブリンに短剣で刺し殺し、その殺した同族の体に食らいついていた。

 

 「共食い」

 

 「うん、見るからに『超越個体(オーバーボーダー)』だね。どうする?戦う?」

 

 「ああ、なら俺達なら倒せるよ」

 

 そう判断し、前衛組が強襲をしかける。

 一番早いコボルトが先行し、その後ろをもう一体のコボルト、俺、ゴーレムと続く。

 白いゴブリンはこちらに気が付くと、獲物が来たとでも言いたいのか奇声を上げ、こちらに突進してくる。

 

 長剣をもったコボルトが、剣の間合いに入ってきた白ゴブリンに向けて振る。

 白いゴブリンはそれを僅かな動きで回避。

 その回避したところに、後ろの槍コボルトが追撃するが、それも上半身を捻って躱す。

 

 上半身を元に戻すと同時に左右の腕が動き、左右の刃でコボルトの首を切り裂いた。

 

 こいつ速い。

 そう警戒するがあっという間にゴブリンとの距離は詰まり、剣を振るうが交わされて腕の筋を斬られ、続く攻撃で首筋を裂かれる。

 

 「っ~」

 

 痛みで呻き声が自然と出てくるが、白ゴブリンを倒さないといけない。

 

 『自慰リジェネレイト』で回復しながら後ろを振り返ると、ゴーレムの追撃も当然のように躱され頭部に蹴りを食らったところが見えた。

 

 その威力は想定外で、ゴーレムの頭部が吹き飛び、ゴーレムは魔力の塵となって消えてしまう。

 

 「逃げろぉぉぉ!」

 

 このままだと全滅だ。

 すぐにそう判断してそう叫ぶが、後衛クラスの茜とアイナでは逃げ切れるかどうか。

 アイナが先に反応し、茜の手を引いて逃げようとするが、茜が動かない。

 茜の方は、手を前に翳し魔法を使って応戦するつもりのようだ。

 

 あと数歩で白ゴブリンが茜さんのところに到着するところで茜が「フラッシュ」と叫んだ。

 次の瞬間視界が真っ白になり、反射的に目を瞑る。

 

 そして次に聞こえたのは『アイテムボックス』という言葉だった。

 

 視界が回復し、おそるおそる目を開けると白ゴブリンは消え、茜とアイナの姿だけがそこにあった。

 

 「大丈夫?蓮君」

 

 「あっ、ああ、大丈夫だ。ありがとう。助かった」

 

 「私が治すからじっとしてて」

 

 アイナさんに治療してもらいながら状況を整理する。

 相手の力量を見誤り、返り討ちにあった挙句、守るべき彼女に助けられたという状況。

 危機的状況を逃れ安堵した気持ちになった後、情けないという気持ちになってきた。

 

 「茜、いつの間にあんな魔法を覚えたんだ?」

 

 「う~ん。火を出せるなら光も出せるかなって。それにアルビノって目に入る光の量を調整しずらいって聞くから、目つぶしが利くかなって思ってたんだけど、思いのほか上手くいったよ」

 

 「ああ、凄かったよ。本当に助かった。無様な姿をみせちゃったな。恥ずかしい」

 

 「そんなことないよ。私もあんなに強いとは思わなかったもん。私の使えるスキルと相性が良かっただけだよ。あとは『空間収納(アイテムボックス)』のおかげかな」

 

 茜は、嫌な顔をせずフォローしてくれる。

 優しい。

 だがその優しさにずっと甘えているわけには行かない。

 

 「ごめん。前衛が全員で突っ込んで、壊滅してくるなんてあっちゃ行けない話だ。今後はもっと慎重に行くよ」

 

 そう謝罪して、この後どうするかを考える。

 ゴーレムが倒され、モンスターカードも倒された。

 どっちも使い手のSPを消費して顕現するため、再び召喚するのはSPが心もとない。

 特にゴーレムに関しては、使い手のSPを半分持っていくため、一度倒されたら2度目の召喚はないと考えた方がいいだろう。

 

 「今日この後は、ゆっくり進んでいこう。できるだけ戦闘を少なくして、生き残ることを最優先に考えよう」

 

 ダンジョンの強制帰還まで、あと一時間強ある。

 またさっきの白ゴブリンみたいなのが現れたらパーティーは壊滅だ。

 『超越個体(オーバーボーダー)』と遭遇しないことを願いながら進むしかない。

 

 二人が頷いたのを確認してから無事なコボルトをアイナに召喚してもらう。

 SP残量の問題で、既に俺のSP残量は2割を下回っており心もとなかったのでアイナにお願いした。

 

 玄室を移動する度に、すごくドキドキしたが幸い普通のゴブリンだった。

 ダメージを受けないよう、気を使って攻略を進めていく。

 

 茜が、SPを温存してくれていたので数が多いときは魔法で削っていって慎重に倒していく。

 やはり白ゴブリンが強すぎただけで、普通のゴブリン相手なら問題なく倒せるくらいには俺達は強い。

 少し自信を回復させつつ道を進んでいくと次の玄室に大きな扉が見えた。

 次の階層に進む、階層門で間違いないだろう。

 

 その門の前には道を塞ぐボスがいるので、下手に近づくのは不味い。

 万全の状態なら挑んでいたかもしれないが、少なくとも今は無理だ。

 情報収集のためにも見るだけならとも考えはしたが、不要なリスクは踏まない方が良い状況だと、判断して他の道を探した。

 

 もちろん位置情報の登録は済ませてあるので、挑もうと思えばいつでもできる。

 準備ができたら挑むつもりだ。

 それがダメなら既知領域に行って階層を進める手段もあるので、その場合はその方向で考えることにしよう。

 次へ次へと攻略を進めたいが、ゲームじゃなくて現実なんだ。

 セーブ&ロードができない以上、慎重に進めていくしかない。

 

 その後も探索を続けたが、幸い何のイレギュラーもなく探索を終えて現実世界へ帰還できた。

 

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