ハイスクールハックアンドスラッシュIF 偽りのギルドマスター 作:アイウ
1限後の休憩が終わり、実習の時間になった。
最初に全員に長めの警棒と、プラスチック製の盾が配られた。
その後先生の案内で、神社にありそうな門やら柱、建物がある道を通り、いくつかの物ものしい扉の中に入り、地下へと進んでいく。
幾つもの朱い鳥居が並び、その先に設置されている羅城門。
その正面に5つの門が並びたっている。
原作知識から、一つは新規登録用、一つはレイド用、残り三つは通常のダンジョンダイブで使う門だったと思う。
その前で止まり、先生が説明を開始する。
「この門が羅城門と言われているもので、世界に穴を空けるゲートと考えられてます。
同時にあなた達の身の安全を守るセーフティ機構でもあります。今日は特殊実習はそのシステムにあなた達を登録することが目的になります。もし中でちゃんと死んでも戻ってこれます。安心して挑んでください」
原作の担任、翠先生は辛そうな憐れむような説明していたという描写だったが、この担任は割り切ってるタイプなのだろう。
別に彼女が悪いとは思わない。
先生達も同じ境遇の学園生活をして、今でも生徒達の性処理に使われている。
そんな境遇なら、他人を思いやる気持ちを持っている方が、少数だと思うから。
「いよいよだね」
近くにいた美咲さんが、緊張した様子で話しかけてくれる。
彼女は茶色に染めたポニーテイルが特徴的な女の子で、
俺がアプローチしている茜さんの近くにいた友達で、俺が誘った時に加勢してくれた子だ。
「うん。頑張ろう」
不安が少しは和らぐかなっと思い、並べく明るい返答をした。
「どんな感じなのかな」
茜さんが不安そうに呟く。
「記憶がなくなるって、逆に怖いよね」
それに続いて3人目のダイブメンバー 穂乃果さんが言った。
彼女は、黒髪のショートボブでメンバー内で一番小柄だ。
「ここはカッコよく俺がいるから大丈夫って言いたいところだけどね。う~ん」
「はは、期待してますよ。男子!」
背中をポンと叩く美咲さん。
前のグループから順番に入っていき、とうとう俺達の番だ。
手を繋ぎ、足を進める。
視界がぐにゃりと歪み、視界が暗転する。
そして原作通り視界に色々な言語の文字列が流れていき、それを見てるとなんだか気持ち悪い。
―――汝等この門を潜る者一生を破棄せよ―――
原作主人公 叶馬の感想どおり、最後の一文その意味だけは分かった。
そして逆再生のように視界が戻っていき、薄暗く広い長方形の空間にいた。
天井は低くはないが凄い圧迫感を感じる。
隣をみて、茜さん、美咲さん、穂乃果さんの3人がいる。
ちゃんと転送されたようだ。
周囲を確認し、とりあえず魔物がいないことをほっと息を吐く。
握っていた手の力が緩むのを感じて、なごり惜しさがあるが手を放した。
「いや、不思議な感覚だったね。皆大丈夫?」
「うん。大丈夫」
「私も」
「大丈夫です」
「良かった。それじゃ一か所に立ち止まると不味いらしいし、ゆっくり進んでいこうか」
「...」
声をかけたのだが、彼女達は戸惑ったような顔をしていたり、何かを言おうか迷っている表情をしている?
「どうかした?」
「ごめんね。教室で言ってもらった”生き残りを目指して頑張ってくれる”っていうのを信じきれてなかったというか...」
「まぁ、そうだよね」
気まずそうな表情で告げる彼女達。
「ああ、そうだね。俺も先輩からそう聞いたし身構えるのも無理ないと思うよ。気にしないでくれ」
彼女の言っていることは正しいし、俺の方が少数派だと思う。
俺だって原作知識から死に戻りのリスクを知らなければ、生き残りは狙わなかったかもしれない。
この情報を伝えるべきか?
下手をすると噂や裏切りで学園側にバレるリスクが上がるから注意が必要だ。
だが仲間にはちゃんと共有しておきたいし、どうすべきか悩んでしまう。
「...」
「どうしたの?」
「いや、あのさ。表は禁句になってるワードだけどロストって知ってる?」
「え?ロスト?」
「昨日、先輩から聞いたけど」
「知らないです」
反応は3人それぞれだ。
「学園での禁句ワードで、ダンジョンから帰ってこれなくなることを言うんだ。取り締まりが厳しいからダンジョン以外で話さない方が良いらしい。...それで正直さ、俺は思うんだよ。学園が言ってるリスクって軽視していいものじゃないって。...だから俺は死にたくない。できるだけ足掻いて生き残りたいって思うんだ」
できるだけ学園の生徒達が知っててもおかしくないワードで説明をする。
ただそれが新入生が知っているようなことなのかは怪しいところだ。
「「...」」
「うん。そうだね。私も死にたくない。だから努力でどうにかなることは頑張りたい」
少しの沈黙の後、茜さんから返事を貰う。
視線が合い、その真剣な表情から真面目に考えてくれたことが伺える。
「ありがとう。それにごめん。不安にさせるようなことを言って」
「だっ、大丈夫です。私も頑張ります」
「私も頑張る!」
先ほどまで黙っていた二人もそう声をあげる。
方針を固めたところで、次の玄室に足を進めることにした。
>>>
ギャァ、ギャっと、緑色の人型生物がこちらに突っ込んでくる。
それを俺は、警棒で胴体を叩き吹き飛ばしていく。
数は2体。
初戦闘はもっと苦労しそうだと思っていたのだが以外といけることが分かった。
まぁおれは既に『
つまりはある程度EXPを所持していて、その分身体強化されているからだろう。
近づいてくるゴブリンをあえて頭部は避けて殴り飛ばしていった。
急所を外す理由は、死体がグロテスクにならないようにするためだ。
暴力行為には変わらないから気休めにしかならないと思うが、やらないよりかはマシだろう。
先に進むと相手も強くなり、そういう配慮ができなくなるだろうが、メンタルは徐々に慣らしていくしかない。
「すごい!すごい!蓮君、強ーい!」
ハイテンションの美咲さんが褒めてくれる。
ありがたいが今は戦闘に集中だ。
女性陣を庇いながら、またはできるだけ内臓へのダメージで死ぬように注意しながら1体が動かなくなる
まで相手をする。
そして最後の一体も、武器を持てなくなるまで腕に攻撃を続ける。
武器を手放した後、転ばせてから足で踏みつけ地面に抑えつける。
「最後の一体、誰か倒す?」
俺が聞くと、ぎょっとしたような顔をする美咲さん。
「へ?えっと...」
「...じゃあ、私がやって良い?」
茜さんが小さく手をあげながら前に出る。
その警棒を持つ手は震えていた。
虫ならともかく、ある程度のサイズがある生き物を殺したことなどないだろう。
だが気遣ってばかりもしていられない。
この学園で強くなるために魔物に止めを刺すのは、絶対に必要な行為だ。
「うん。頑張って。怖かったら最初の内は目を瞑ってもいい」
彼女は、足元で暴れてるゴブリンに警棒を振り下ろす。
初心者の攻撃一回では死なない。
何度も何度も繰り返すしかないのだ。
ゴツ、ゴツっと鈍い音を慣らしながら警棒を振り下ろす茜さん。
やがてゴブリンの動きは止まり、それから少しすると粒子となって消えた。
「凄いね。茜さん。良く頑張ったよ」
「凄いです。茜ちゃん」
「うん。うん。本当凄いよ茜」
「いえ。あれだけ蓮君にサポートしてもらってるんです。このくらいはやらないと」
「...でもそれが上手くできない上級生が沢山いるんだ。凄いことだよ」
「そうですね。ありがとうござます」
「ねぇ、ねぇ次は私も良い?」
茜の姿を見て覚悟を決めたのか美咲さんがそうおねだりしてくる。
「うん。まぁ上手いこと無力化できたらね。さすがに敵が沢山いたら対応できないから逃げないと」
「それでも良いよ。よろしくね~」
「わかった。先に進もうか。 あっ穂乃果さん魔石以外のドロップ品は回収しなくて良いよ」
「へ?わっ、わかりました」
「今後の学園生活では必要なことだけど、もし仮に今日生き残って、ドロップ品を持ったまま帰ったら凄く目立つからね」
「え?目立つのって良くないの?」
「今の俺達の状況からすると良くないと思う。学園側はきっと俺達全員が死に戻ってくると想定しているから、生き残れたことがバレると不味い。だから戦利品回収はなしだ」
「はい。わかりました」
「うん。わかったよ。気を付けま~す」
穂乃果さんと、美咲さんの返事を聞いて頷いた後、次の玄室に向けて足を進めていく。
次の玄室にもゴブリンがいたが、やつらは交尾の最中であった。
2体のゴブリンが、一人の女子生徒の前後に立って犯している。
俺が慎重に近づいていってもセックスに夢中でこちらに気付く様子はない。
好都合なので、ゴブリンの肩を目掛けて思いっきり警棒を振り下ろした。
不意打ちを食らったゴブリンはこちらに振り返るが、続け様に警棒を二の腕に叩きつけ突き飛ばす。
もう一体のゴブリンは、自身の性器を女子生徒から引き抜き、地面に落ちている武器を拾うが俺の攻撃の方が早かった。
肩を狙い警棒を狙うが、謝って頭を殴る。
グチャッという音がなり、血のような液体がゴブリンの頭から吹き出てくる。
ゴブリンは片手の力が抜け、武器を手放していたが、念のためもう一発殴ると横向きに倒れて動かなくなった。
残った一体も予定通り、取り押さえて美咲さんに止めを刺させた。
「聞いていたけど、本当にするんだね。ゴブリンは」
何を の部分が抜けているが、そこを聞くのは野暮だろう。
やはり女性人にとっては、女相手なら性行為をするゴブリンに思うところがあるらしい。
「まぁ、そうさせないように頑張るよ」
「ありがとう。蓮君。期待してるよ」
「あっあの!、ゴブリンに犯されてた子はどうしますか?」
言われて、穂乃果さんが指刺す方を見ると横たわる女の子の姿があった。
今ダンジョンダイブをしているのは、1年乙組のクラスメイトのみだからおのずと同じクラスと分かる。
服はボロボロになっていて、下着ははぎ取られ、股の間から白く透明な液体が流れ落ちていく。
「君たちは、彼女のことを知ってるかい?」
「軽く挨拶くらいなら」
「私もそのくらい。たしか名前は恵ちゃんだったっけ?」
「俺としては助けてもいいと思うけど、どうかな?」
「賛成」
「私も」
「良いと思います」
ここは男の俺がやるより同性に任せた方が良いだろう。
茜さん達に介抱してもらう。
介抱といっても、バックバックに入れてきたハンドタオルで、体についたゴブリンの精液をふき取って
服をできる範囲で整えてあげるくらいだ。
それが終わったら、彼女を俺が抱えて次の玄室へ向かう。
そこから移動、抱えてる女の子を降ろす、戦闘、止めを譲る、女の子を抱え直して移動、という行動を繰り返す。
3巡目の戦闘が終わった頃に、助けた女の子の意識が覚醒した。
「ここは?」
「ここはダンジョンだよ。覚えてることはある?」
「えっと、あっ、私ゴブリンに襲われて、そっそれからいいようにされて」
思いだし、周囲の様子を確認しながら慌てて説明をしてくれる。
そして周りにゴブリンがいないことを確認してから、ほっと安堵するようになった。
「ねぇ。恵ちゃんだよね。ダンジョンには一人で来たの?」
「いえ、女子がもう一人と男子が二人できました。...でも男子達はゴブリンに殺されてしまって、もう一人の子は男子が襲われている内に逃げだしてしまって...」
「ありがとう。状況はわかったよ」
そう言って、安心させるように微笑みかける。
その後、後ろを振り返り声をかけたところで息を飲み込んだ。
「っ、後ろ!」
俺の言葉に、驚きつつ女子達は振り返る。
彼女達の後ろには人の影が立体になったような、ただ黒い人影が立っていた。
その姿をみた瞬間、背筋がゾワリとして自然と身震いした。
その人影の腕らしきところから伸びた鋭い爪が、穂乃果さんに向かって伸ばされる。
穂乃果さんは、咄嗟に腕で防ごうとするが、爪が腕ごと貫通し彼女の体に突き刺さった。
「ごひゅっ」
穂乃果さんは、口から大量の血を吐き、声を出そうとしている。
「きゃぁぁぁぁ」
「いやぁぁぁぁ」
女の子二人の悲鳴が聞こえる。
こいつが『
そんなの留まってないのになんで出てくる?
疑問が湧いてくるが、思考を切り替えて今は戦闘に集中だ。
黒い人影は、口らしき箇所を大きく広げ、白く鋭い牙が露出している。
そしてその口で、穂乃果さんの頭に噛みついた。
ゴリゴリという、骨が砕けるような咀嚼音が続いたあと、黒い人影が顔をあげると穂乃果の首はなくなっており体の動きが止まる。
黒い人影が爪を引き抜くと、ぼとりと体が地面に落ち、首なしの体が横たわった。
「ひっ」
上がった悲鳴は誰のものだったのか。
ただ動かなければ仲間が、茜さんが死んでしまう。
振るえる足を殴って、気合を入れて仲間の救援に向かう。
黒い人型は、2本ある腕を1本ずつ茜さんと美咲さんに向けて伸ばしていく。
二人とも避けようと身じろぎをするが、茜さんは肩に、美咲さんは左胸を爪に貫かれてしまう。
遅れて俺が二人に近づくと、黒い人影は爪を引き抜いて、俺目掛けて伸ばしてくる。
それを横に避けて茜さんの下にたどり着く。
『
今まで隠していたスキルを使用し、ゴーレムを呼び出し、俺達と黒い人影の間に置いた。
俺の記憶の中では2度目の召喚だが、ゴーレムの形は大きく変わっており、物質的な見た目から、人の体に近い見た目になっている。
ゴーレムというよりは、巨人というのが近いだろうか?
肌色で皮膚のような装甲に、装甲の継ぎ目がない。
だが調べるのは後。
背中のハッチを開き、茜さんを抱えて乗り込む。
乗り込んでいる間も、人影の攻撃はやまず、腕や足に痛みが走るが気合で堪える。
搭乗が完了した後、ゴーレムの腕を払って黒い人影を追い払う。
だが黒い人影は黒い腕を、ゴーレムの腕に巻きつけ絡みついた。
俺はゴーレムの腕を動かし、黒い人影を下にして地面に叩きつける。
それを受けても黒い人影は動きを止めない。
『
対して俺は、非戦闘職とはいえ、1段階目のクラスチェンジをしているため有利な状況のはずだ。
倒せるの可能性にかけて、ひたすらゴーレムの腕を地面に叩きつける。
何度も何度も、ただ殺されたくないという一心でゴーレムの腕を動かした。
何発殴っただろうか?気付いたら黒い人影は、真っ黒な布のようになっており、身動きをしなくなっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
荒くなった息を整え、周囲の様子をゴーレム越しで確認する。
美咲さんと目が合った時、彼女は怯えた様子で後ろに身じろぎをする。
だがその背後からゴブリンが現れ、持っていた槍を美咲さんに突き刺した。
吐血し、驚愕に染まった美咲さん。
その表情に胸を締め付けられながらも、小回りの効かないゴーレムでは何もできなかった。
やがて美咲さんの体は、その輪郭を蛍火のようにパッと散らせて消えていった。
それによって美咲さんの背に近づいていたゴブリンの全体が見える。
俺はゴブリンに対し、全力のゴーレムパンチを放った。
ゴブリンは吹き飛び、壁にぶつかってベチャリという音を立てた。
地面にずり落ちその体が消えたのを確認して、再び周囲を警戒するとゴブリンから助けた女子 恵さんの方もゴブリンが群がっており、凌辱されていた。
「くっそ」
ゴーレムで近づき、並行してハッチを空ける。
降りようとしたところ、後ろから掴まる腕の力が強まり抵抗を感じる。
「いやっ、行かないで」
俺の背中から腕を回してしがみ付いていた茜さんが、か細い声でそう言った。
ハッチを閉めて、慎重にゴーレムを動かしてゴブリンを追い払おうとする。
だがゴブリン達は無駄に賢く、恵さんを盾にして守る。
とはいえ、3体いるゴブリンを庇えるほど恵さんは大きくない。
慎重に一体ずつ取り払って、最後の一体になったところで恵さんごとゴブリンを掴んで、
もう一方の手でゴブリンを引き抜く。
引き抜いた後、ゴブリンを地面に叩きつけると動かなくなった。
「茜さん。落ち着いてもう敵はいないよ」
震えてる彼女にできるだけ優しく声をかける。
それでも彼女が動く様子はない。
仕方なくハッチを開き、おんぶの体勢で一緒に外に出た。
恵さんは犯されただけではなく、刃物で斬られたり、噛みつかれたり、引っかかれたりしていて痛々しい状態で、出血量も凄い。
それでも応急処置をしようと、彼女の傷口を拭いたり、包帯を巻いていると彼女の体が蛍火のように消えていった。
「ゴメン助けられなかった」
聞こえるはずもないのに、そう呟かずにはいられなかった。
せめても、と彼女が消えた場所に残った水晶、ソルデバイスを回収し立ち上がる。
ここで死んだのは彼女だけじゃない。
穂乃果さんと美咲さんの分もあるはずだ。
「茜さん行くよ」
「うん」
俺の背にくっついている茜さんにそう声をかけ、隣に誘導して腕を組むようにしながら歩く。
穂乃果さんと美咲さんが死んだ場所は近く、その周りには倒したモンスターのドロップ品があるはずだ。
それを目印に探すと、直ぐにソルデバイスが見つかった。
「...そっ、それって何なんですか?」
「俺も詳しくはしらないが、ソルデバイスと言われてる物だよ。この世界で最初に死ぬと落としてしまう物らしい。ざっくり言うと彼女達にとって大切な物だ。必ず持ち帰ろう」
「はい。わかりました」
回収が終わった後は、次の玄室へ向かう。
さすがに『
アレを倒した時にドロップした布がゴーレムに張り付いて取れなくなってしまったのだ。
ゴーレムを通して、体の熱を奪われるような嫌な感覚と同時に力が湧き上がってくるような感覚がある。
原作だと、主人公も拳に纏って、ダンジョンショップにたどり着くまでゴブリンを蹂躙して回っていたが、
その時の描写から、この布を纏っていると理性を奪われているという話だ。
原作での対処方は、ダンジョンショップでこのぼろ布を引き取ってもらうことだった。
ダンジョンショップはランダム出現という話だが、原作主人公はドロップ品のぼろ布によって強化された感覚を使って露店精霊の位置を特定していた。
なんとなく感覚を開放させて索敵する。
思考錯誤の結果、なんとかできるようになってこのフロアにいるであろうゴブリン以外の大きな気配を捕らえる。
その方角を指さし、茜さんに伝えた。
「あっちの方に、多分ダンジョンショップがある。そこであのゴーレムに張り付いた黒い布を回収してもらおうと思う」
「...わかりました」
彼女は、戸惑ったような表情を浮かべるも、了承してくれた
>>>
ゴーレムを前進させ、回廊を移動してはゴブリンを蹂躙していく。
ゴーレムの性能は高く、ゴブリンくらいなら一撃で倒せる。
そして反対にゴブリンの攻撃は、ゴーレムには大してダメージを与えられない。
だから強引にゴブリンに突っ込んでいって、叩き潰していく。
その動きはだんだんと洗練されていき、ゴブリンの殲滅を含めたゴーレムの行動よりも、
俺達が回廊を移動する方が時間がかかっているくらいだ。
「ふぅ~、ふぅ~」
体力的には問題ないが、寒気に体が震え、深呼吸をして息を整えていく。
なぜだか何故かゴブリンをめっちゃめちゃにしたいという欲求が湧いてくる。
それを抑えるために心を落ち着けているのだが、治まりそうにない。
俺の感情に合わせ、ゴーレムの攻撃も荒々しくなり、ゴブリンの惨い死体が出来上がっては消えていく。
だんだんと悪化する衝動を抑えながらも足を進めていく。
最初の内は俺が茜さんを誘導するように移動していたが、だんだんと意識が朦朧としていくにつれ、足取りが覚束なくなり、気付いたら茜さんに手を引いてもらっていた。
既にいくつの玄室を歩いたかわからない。
朦朧とする意識の中、俺の右腕に絡めている茜さんの手から温かみを感じ安らぎを感じ、意識を取り戻す。
(こんなところで倒れるわけにはいかない。彼女を守らないと...彼女を守る。彼女を守る。彼女を守る)
他の思考を放棄し、心の中で繰り返しそう念じ続ける。
何度念じたか分らない程、繰り返す。
どれほど時間だたったのだろうか?
気付いたら突然視界がクリアになって目の前には、着物姿でキセルを吹かす耳の長い女性がいた。
見た目は花魁といった感じだが、不思議と彼女が放つ存在感から圧倒的な格上ということが分かった。
「おはようございますぅ。浸蝕具合が酷くて自我を失ってらっしゃるようでしたので、この黄泉衣は預からせていだだきますぅ。特別サービスですよぉ」
「露店精霊...あっ、ありがとうございます」
気圧されながらも何とかそう返すことができた。
周りを確認すると隣に茜さんいて、震えながら
「ふぅむ。それにしてもぉ、黄泉醜女を倒しなすったのは凄いですねぇ。
どうやったんかちょいと見して貰いますぅ。...ふぅむ。あんさんの中に神殺しの魄がありますなぁ。あんさんの本意やないかもしれへんけど、人間は恐れ知らずといいますかぁ面白いことを考えますわぁ」
「そうなんですね」
なんのことか分らない話をされるが、とりあえず適当に頷いておく。
「はぁい、そうなんですぅ。まぁ取り込んだ人間の魂は、全てすり減ってますから今のあんさんの精神に影響はないですよぉ」
「なるほど、情報ありがとうございます。...いくつか質問いいですか?」
精霊が頷いたので質問を始める。
まずここで取引した場合に露店が移ることはあるか?を聞く。
これに関しての回答はNoだった。
露店移動のタイミングは基本一定らしいが、精霊の方でもコントロールできるらしい。
なんでも他世界だと暇らしいので、この世界のインターネットの娯楽にどっぷり使った後だと耐えられる訳がない。なんとしてもしがみ付くという熱い思いを語っていた。
質問の意図としては、明日の主人公のダンジョンダイブ時に露店精霊と出会えなくなると原作の展開が大きく変わってしまうため確認した。
でもそもそも主人公が取引したのがこの場所だったのか?わからないから気にしても仕方ないのかもしれないが...
「ありがとうございました。では次に取引をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええですよぉ、チート武器でも、レアアイテムでも売らせてもろてますぅ」
「頂きたいのはスキルです。黄泉衣を対価に、『
「...驚きましたわぁ。そんな生まれたばかりの概念スキルを所望されますなんてぇ。それも価値もなかなか良いとこをついてきますわぁ。どこで知ったのか聞きたいところやけども...ふぅむ。あんさんは、その体に憑依されてはるだけで所有権は持ってませんやん。その状態じゃスキルをインストールできんのですわぁ」
「その所有権を俺に移すことは?」
「ふぅむ、できますよぉ。ただ、それにはこの対価じゃ見合いまへんなぁ」
「では、代金として俺の記憶。いや記憶情報の閲覧を許可します」
「いややわぁ、そんなものにいかほどの価値が」
「さっき不思議に思っていたことがありますよね?なんで新しくできたスキルを知っていたのか?僕はこの世界の知識を持ってます。おそらくあなたでも知らない異世界の」
「...面白いお客さんやなぁ。でも価値がわからん物を交換することはできんのですわぁ」
「では先に、記憶の閲覧を許可します。その閲覧して取得した情報に見合う対価を下さい」
「あかんよぉ、そんなんしたら買いたたかれてまいますよぉ」
「大丈夫です。あなた達の取引は真摯だ。こちらがなんと言おうが価値に釣り合うものを返してくれるはず」
「...そう信じてはる理由も記憶のなかにあるんでしょかぁ、ほな取引成立ですぅ」
その言葉とともに精霊の手が俺の頭の上に置かれた。
おそらく記憶を読み取っているのだろう。
待つこと数分。
読み取りが完了したのか手を離して、返答をくれた。
「ええでしょ。あなたの魂をその体に定着させてあげますぅ」
今度は胸の上に手が置かれて、体の中が書き換えられるような不思議な感覚に耐える。
「正直、これでもまだ足りひん。あとはスキルでもつけましょかぁ」
「ありがとうございます。ではあなたが行ったように、スキルを伝授するスキルを頂けないでしょうか?」
これはもし主人公の叶馬が、スキルを手に入れてなかった時に、軌道修正をするために依頼した。
まぁ、そうでなくても普通に有用な能力だとも思うが。
「ええでしょ。『
再び手で触れられると、今度は体の中に文字等の情報が書き込まれる感覚に陥る。
それも落ち着いたところで、『
しかし空間収納アイテムボックスのインストールの前に問題が発生した。
なんでもスキルの容量が大きすぎて俺にインストールするのは無理とのこと。
対策について色々考えていて、ふと一つ思いあたった。
「彼女の方は、どうでしょうか?」
その言葉で精霊さんが、今まで静かにしていた茜さんの方を向き、彼女はビクッと体を大きく震わせた。
「ふぅむ。おお、そこのお嬢さんかなり薄いですが神さんの血を引いてらっしゃるんね。彼女の使ってへん神格であれば、ギリギリ権能としてインストールすることならできますよぉ」
それを聞いた後、思考を巡らせる。
もし今後もずっと彼女と組めるのであれば問題ない。
だがもし、パーティーが瓦解して別れたりしたら俺の大損だ。
彼女はめっちゃタイプの容姿をしているが、今日会ったばかりなのでまだ性格面の把握できてないから不安が拭えない。
だが無いものねだりをしても仕方ないだろう。
考えたところで俺には取得できず、彼女なら取得できる。
そしてアイテムボックスは超有用。
それだけが事実だ。
今のところは彼女と上手くやれてる...と思う。
それに上手くやっていけるかどうかは、俺の努力の問題でもあるだろう。
そこは全力で頑張ろう。
覚悟を決め、茜さんへ提案する。
「茜さん。断ってもいいくれてもいい。だけどもしこの先、ダンジョン探索に力を入れて行きたいと思っ
ているなら引き受けて欲しい。アイテムボックス。ゲームとかで出てくるような自由に物の出し入れをできる異空間だ。
それがあれば、このダンジョンでの戦利品をいくらでも持って帰れる。逆にダンジョンに備品をいくらでも持ち込む事だってできるんだ。有用なスキルに間違いはない」
震える彼女の手を握り、俺の思いを伝える。
「...蓮君が望むなら、お願いします。」
「ほな、取引成立やねぇ」
精霊が茜さんの手を取り何かが流れていくのが見える。
ひとまず、彼女が了承してくれたことにほっと息を吐いた。
少し時間がかかるだろうからその間にスキルの試運転をすることにした。
インターフェースを使い自身の情報を読み取る。
名称、『神崎 蓮』
種族、人間
属性、霊
階位、10+11
能力、『
存在強度、☆☆
「神殺し」「豊葦原学園壱年乙組男子生徒」
▼組合ギルド接続中
・木村 健司
・山田 愛子
・松本 大輔
・清水 麻衣
・森本 拓也
・池田 聡子
・林理 沙
・・・
視界一杯に文字情報が移り、視界の大部分が見えなくなる。
邪魔だと思うと、思考にあわせて画面の位置が変わり、ゲーム画面のように端っこに表示されるように調整した。
そして大半を閉める人物名については、俺のゴーレムが取り込んでしまった人たちの名前だろう。
クラフターのスキル組合。
職人が持つスキルで感覚やSP等を共有して使える技だ。
ただ名前を並べられても情報の使い道がない、必要な情報をまとめれないかと試行錯誤したらこうなった。
▼組合ギルド接続中
『
『
『
『
『
『
『
『
だいぶすっきりした表示になっただろうか?
数が少ない順で並べたがニートが多すぎるな。
まぁ俺が取り込まされたのはこの学園の療養棟送りになった人達で、ダンジョンで死に戻りし過ぎた人間だ。
だから必然的に非戦闘職、特に取得率が高いニートが一番多くなるのは当然かもしれない。
そもそもギルドを使えないクラフター以外のクラスが混じっているのは謎だが...
さておき、これは大きなアドバンテージになるのかもしれない。
召喚したゴーレムは、ゴブリンを物ともしない性能だった。
それに精霊さんの話からすると神殺し、おそらく『神殺し見習いジューダスサン』の所有者を取り込んでいたことにより『
であれば色々なクラスの特性を活かせるのかもしれない。
想像が膨らみ色々試したくなってくる。
だがまずは精霊さんとの取引だ。
ちょうど茜さんへのスキル伝授は終わったようだ。
「精霊さん。俺はスキルで多くの人を取り込んでいるんですがこの状態のデメリットは何かありますか?」
「ふむ...ありますよぉ。たとえば...」
ダメもとで聞いてみたが、精霊さんはあっさり答えてくれた。
精霊さんの説明は長くなったが知りたいことは把握できた。
原作でも思ったが、大分親切に対応してくれる。
精霊さんの説明を要約すると以下の3点のデメリットがあるようだ。
1.取り込んだ人数分 経験値が分散される。
2.経験値取得により、取り込んでいた人達の精神が回復し、自我に影響が出て、最悪乗っ取られる。
3.ダンジョンにカウントされる人数は、取り込んだ人数分になる。
言い換えると密集している判定をされ、『
その対策を相談したところ、取り込んだ何名か(主にニート系)を引き取ってもらうことに。
同時にその対価として俺が抱えてるリスクへの対策や、単純に有用なスキルを伝授してもらうことにした。
俺にとって要らないものを売って、必要な物に変えてくれるなんて都合が良いと思ったが、
取引のおける価値基準は不変で、俺の価値感や需要は関係ないとのことだ。
取引の結果、追加で伝授してもらったスキルは以下の3つ
・『
・『
・『
そして残った人数の人格に対して、『
取り込んだ人達を利用すると考えると罪悪感があるが、俺自身の安全と強化を優先させてもらう。
『
これによってより能力を引き出し易く、必要に応じてON,OFFを切り替えるようになった。
同時にこのスロットという枠組みが、フィルターになって俺とそのクラスの持ち主の人格が混ざらないようになるとのこと。
それに仮に取り込んだ人が経験値取得により活力を取り戻しても、上書きしたことで俺と同じ人格が増えることになり、影響は少なくなるっという2段構えの対策になっている。
残り二つは、クラフター用とオフィサー用のスキルで有用そうで対価が払える範囲のものを選んだ。
この二つを選んだ理由は、直接戦闘するクラスではなく、ゴーレムかモンスターを召喚して戦わせるスタイルが俺に合っていると思ったから。
正直、前世を含めた自己評価から運動神経は平凡で、戦闘のセンスがあると思えなかったから、
そっち方面を強くしたいと考えて選んだ。
夢中で精霊さんと話していたら、時計の針は14時を過ぎたところを示していた。
随分と長いこと話していたが、羅城門の閉門時間まで1時間あり、他のやっておきたいことがある。
「色々と教えて頂きありがとうございました。すいませんがこの辺で失礼します。」
「毎度ありがとうございますぅ。久々に知的生物と会話できて楽しかったですわぁ」
「こちらこそ。私は蓮と申します。機会があればまたよろしくお願いいたします」
「あ、ありがとうございました!」
俺と精霊さんのやり取りに茜さんも慌てて続く。
その後、露店精霊さんに見送れながらその玄室を後にした。