※この作品はR-18です。

【魔女は復讐の夜に】絶望は復讐の夜に焚べられて【ダクソ2】   作:仮面巨人

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序章 嵐の夜に

 

 

 雨が。

 雨が降り注いでいた。

 嵐の夜、雨が降り注いでいた。

 

「はぁ」

 

 息を吐く。

 荒く、息を吐きながら走っていた。

 女だ。

 美しい女だった。

 

「は、は、はっ」

 

 黒い髪。

 雨に濡れてなお艷やかな、文字通りの烏の濡れ羽色。

 片側だけ長く結いた髪を揺らし、琥珀色の瞳を激しく動かしながら、女は走っていた。

 その格好は悲惨としかいいようがなかった。

 泥に塗れ、切り傷と滲んだ血に汚れ、そして大きな胸。

 大人の手の平よりも大きく実った胸が露わに揺らしている。

 一歩、泥まみれの大地を走る度に上下に揺れる。

 音が鳴りそうな胸を揺らしながらも、黒髪の女は隠すこともしない。

 羞恥がないわけじゃないのは、その頬を染める紅潮で。

 それよりも証明するのは手に握られたものだった。

 

 黒髪の女は握っていた。

 

 左手に年代物の長銃を。

 右手には大きな剣を。

 大剣と呼ぶべきだろうどこか古めかしい意匠の儀式剣。

 それは激しい雨でも流しきれないほどに血に濡れて、今は泥に塗れていた。

 

(まだ追ってくる!)

 

 走る。

 何故走るのか、それは逃げるためだ。

 

 後ろから追跡してくる小さな人影たち。

 緑色の肌、それは子供ではない。

 小賢しい子鬼共だ。

 粗末な刃物を手に、かつては女性の服だった布切れを股間や足に巻き付けて、引き千切った女の髪にて結んだ異形の姿。

 かつては若者や、性欲逞しい童だったものが()()()()()()()姿()

 そう、悪魔堕ち。

 そう呼ばれる現象が、この村に、いや、この国に起きていた。

 人が悪魔へと堕ちる現象が、この国に混乱を起こしていた。

 そして、それは怨嗟の螺旋へと繋がっていった。

 

 女は、それを()()()()()()終わらせるために戦っていた。

 

(体力が、もう持たない……!)

 

 息を吐く。

 疲労と傷を癒す秘薬はすでに使い切っていた。

 この追ってくる子鬼共の長、大鬼を斃すために。

 

 女は悪魔堕ちを討つ者であった。

 

 その旅の始まり、悪魔堕ちの被害から”教会”に打ち捨てられた棄村。

 そこを足がかりに調査、使える物資の回収などを行っていたところ、本来ありえざるものが起きてしまったのだ。

 

 人が捕まっていた。

 

 それも女が、何人も。

 どこかの街か、村からか襲われて拉致されたのだろう若い女たちが玩具にされているのを、彼女は放置出来なかった。

 見捨てるべきだった彼女たちを悪魔堕ちたちから救い、逃げるための道を切り開き、そしてまだ見つかっていない女。

 ”同胞”である女が、子鬼たちの洞窟に囚われていると。

 その本拠地に乗り込み、子鬼たちを蹴散らし、最後には大きな鬼と死闘を繰り広げた。

 命もからがら、服も体力もずたずたになるほどの激闘の果てに助け出した少女だったが、大鬼を討ち果たしても、敵は多かった。

 頭領を殺されて怒り狂ったのか、あるいはむしゃぶりつきたいほどに瑞々しい女に興奮したのか、無数の子鬼たちが追ってきた。

 

 黒髪の女は助け出した女を岩陰に隠して、1人引き寄せるように逃げ出した。

 そして、追われながら追いつかれそうになる度に斬り伏せて、走って、斬り伏せて、数を減らして、減らして。

 

(あと、少しだけのはず……!)

 

 後ろから聞こえる足音は、随分と少なくなっている。

 完全に足が死ぬ前に、一か八か迎え撃つか。

 そう、足を止めようとした時だった。

 

 雨に濡れた藪から棒が飛び出した。

 

「なっ」

 

 それが、農具のフォークの柄だと気づくより早く、衝撃が頭を打ち付けていた。

 

「がっ!」

 

 黒髪の女の身体が地面に叩きつけられる。

 グラグラと揺れる視界。

 ぼやける世界に、映るのは藁の塊。

 案山子が、農具(フォーク)を手に歩いていた。

 声はない。

 かつては農民だったのだろう者が、農具と、あるいは案山子に取り込まれた、悪魔堕ち。

 それが何体もの鳥獣を、あるいは人間を、解体して汚れたのだろう前掛けを貼り付けて、女を覗き込んでいた。

 

「やめ、ぎゃ!」

 

 とっさに身体を起こそうとして、その腹に拳が叩き込まれた。

 木製の、木の塊だった。

 うめいた。

 

「ぎ、ぎいぃ♪」

 

「GIGI、GUGU!」

 

 子鬼共の声が、すぐそばでした。

 取り囲む、女の周囲に駆け寄っていて、すでにボロボロだった女の服を汚れた指で引き千切った。

 

「やめ、いやあ!」

 

 制止する声が、またたく間に悲鳴へと変わる。

 悪魔へと堕ちたケダモノ共に、なにをされるか。

 その荒い息と全身にべちょりと押し付けられた――生々しい臓物で理解したからだ。

 やだぁ! という悲鳴は、頬を殴る子鬼の平手で掻き消えた。

 剥き出しにされた女の股が、恐怖と反射反応で水音を零す。

 

「ぁ」

 

 女の本能の伝える光景に、僅かに声と体液を漏らし――濁るはずの目が見開かれた。

 

 獣欲に染まっていた子鬼の目から、棒が飛び出していた。

 矢だった。

 鋭い鏃の形に加工された木の矢だった。

 

 ガクンという不自然な揺れ方と共に、子鬼の怒張から白い液がこぼれ落ちて、横に倒れる。

 

「ギィギィ!」

 

 寄りかかられた子鬼がうざったそうにそれを引き剥がすように押しのけて、見た。

 案山子憑きの頭から脊髄にかけてなにかが飛び出している。

 剣だった。

 頭上から刃を突き立て、それまでいなかった影があった。

 

「GU」

 

 それを指そうとした手が出なかった。

 声も出なかった。

 何故なら、その手と声へと繋げる首がなくなっていたから。

 輪切りだった。

 回転する影が繰り出した大剣――その斬撃が、子鬼共全員を両断していた。

 

 女は全てを見ていた。

 

 地面から雨の降り注ぐ空を仰ぎ見てたから。

 影は、木の上から飛び降りてきた。

 猫のようなしなやかで飛び降りて、案山子憑きを即死させ、流れるように右回りに回転した。

 そして、全員死んだ。

 

「ぁ……あ?」

 

 散らばった臓物と血、生暖かいそれらを剥き出しの肌で浴びながら、彼女は浅く、浅く、何度も息をして。

 

 伸ばされた手に気付いた。

 

 

「無事か?」

 

 手甲に覆われた手を。

 

「あ、ありがとう?」

 

 彼女は掴んだ。

 

 

 それが出会い。

 

 

 魔女と不死。

 全てを失った復讐の魔女と全てを選ばなかった探求者。

 

 【復讐の魔女】と【絶望を焚べる者】との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ――

 

「銀猫の指輪」

 

 飛び跳ねる猫を象った銀色の指輪

 装備者の落下ダメージを軽減する

 

 古い言い伝えによると、年経た猫は魔力を得て

 「別の何か」になるのだという

 

● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ――

 





 高いところに登って、弓を撃つマン。
 足音以外の音は隠せない。
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