【魔女は復讐の夜に】絶望は復讐の夜に焚べられて【ダクソ2】 作:仮面巨人
ボゥッと火が灯る。
――
その火を灯した甲冑の男は篝火の前に、慣れた仕草で腰を降ろした。
その温かな温もりの火を、黒髪の女は部屋の隅で呆然と座ってみていた。
あの後、二人は一つの民家へと避難していた。
打ち捨てられた村の放棄された家の一つだろう。
内部は踏み荒らされ、めぼしい家財も残っていないが、雨風を凌ぐのには十分だった。
先に踏み入った男は左手に中盾を、右手にはどこからか取り出した鉄槌――聖職者の用いるメイスのようで黒髪の女は少し警戒を増した――を構えながら中を確認し、入るように手で招いた。
左手で胸を隠しながら恐る恐る入った黒髪の女に、甲冑の男は目もくれずに壁をベシベシと拳で叩いていた。何故だ。
何をしているのかと尋ねれば、幻かもしれんという返答。
意味がわからなかった。
さらに安全が確認出来たからだろう、大きな居間だったろう部屋の中心の床にいきなり剣を突き立てて、火が点いた。
わけが分からなかった。
そんな室内の篝火に、甲冑の男と殆ど全裸の女が温まっている。
うん、まるでわからない。
「はぁ」
距離を取った位置、壁際に腰掛けながら彼女は息を吐いた。
篝火を見る。
それは捻じくれた剣だった。
螺旋の剣……とでもいうべきだろうか、刀身そのものがまるで薪のように火が灯り、燃え尽きることなく燃え続けている。
何らかの奇跡か、魔法の道具なのだろうか。
育ての親からそんなものがあると、うず高く積まれた本と共に学んだような覚えがある。
それから視線を動かし、彼女は男を見た。
甲冑の男だった。
鋼鉄のように見えるが炎に照らされるものはまた少し違う色合いの金属甲冑に、背嚢や矢筒と繋がった大きなベルトを肩から腰までに結ばれていて、両肩には毛皮のサーコートを身に着けている。首元には何処かの紋章なのだろう鮮やかな緑色のスカーフが巻き付けられている。
その顔は、兜に覆われていていた。
頭全身を包み込む金属の兜に、Tの字のスリットが僅かに開いているだけで、中は薄暗く見えない。
どこの騎士なのか。
育ての親から教わった騎士や兵士、教会の者共の装いとも異なるそれに、女は頭の中の知識を掘り返すがとんと引っかかるものがない。
果たしてどこの騎士なのか。
そう考える彼女の目線も気にせず、甲冑の男は背嚢から取り出したボロキレで背負っていた剣やメイスの水気を拭い、どこからか取り出した箱からキラキラと光る粉をかけていた。 ……粉?
「……なにをしているの?」
「修復している」
手入れという意味だろうか。
「殆どの武器は脆い。殴り過ぎるとすぐにくたびれる」
どこか苦労しているような声音だった。
傍目から聞くと物騒この上ないが、こんな時代だ。むしろ頼もしさを感じる。
「そういえば」
女はすぐ手に取れる位置に剣を立てかけてから、空いた手の平から開いた。
小さな砂のような粒が乗った手の平を。
「ごめんなさい、この石もう殆消えてしまったわ」
それは怪我を負っていた筈の女の手に握らされた”石”の残骸だった。
あの時、怪我を負っていた彼女にこの小さな石を甲冑の男は握らせて、砕いたのだ。
そこから見る見るうちに傷が治っていった。
まるで”秘薬”のような力。
いずれかの奇跡かと思ったが、砕けたそれから感じ取れる力はどちらかというともっと根源的なもの。
……”イデア”だろうか。
「雫石だ」
女の疑問を感じたのだろう。
短く、篝火に照らされながら男は告げた。
「聞いたことがないわ」
「今では殆ど取れなくなった。火は陰っていないからな」
貴重な品だったのだろうか。
「元から使い捨てだ」
そう男は告げて、沈黙。
静かな時間が流れる。
……男はあまりおしゃべりが好きじゃないのだろう、必要なことは告げ終わった。
そんな態度だったから、少し息を吸ってから女が口を開いた。
「アラディア」
告げた言葉に、男は篝火におそらく目を向けたままやがて首を傾げる。
はぁ、と名乗った女は息を吐いた。
「私の名よ。貴方は?」
アラディアは男の名前を尋ねる。
それに男は静かに、首元のスカーフに指を当てながら、少しだけ上へと兜を上げる。
「……ストレイド」
「
「――……は、知り合いにいたな」
??
アラディアが困惑して眉をひそめる。
「ファーナム」
「ファーナム?」
「ファーナムでいい」
で、いいってなんだ。
甲冑の男――ファーナムは、それで解決したと思ったのか、上を向いていた兜が前に向いていた。
「……ありがとう」
「?」
「改めてお礼。助けられたから」
得体のしれない甲冑の男だが、命を救われた。
あのままでいたらそれ以上の。
死ぬよりも酷い目にあっていただろう。
それ以上に――復讐の道が途絶えてしまった。
床につけていた足を、ずぶ濡れのまま履いた靴だけの爪先を組み替える。
休む姿勢から、なにかあれば立ち上がれるような姿勢に。
同時に隠していた左足の太ももの内側に刻まれた
「私は【魔女】よ」
アラディアは告白した。
その後に、何が起きるかも覚悟しながら。
命を助けられた恩人に、その罪深さを伝えるために――あるいは巻き込んでしまう罪悪感を伴って。
ファーナムは。
「そうか」
動かなかった。
ただ座って、篝火に当たっていた。
「……驚かないのね。もしかしてわかっていた?」
お尻の後ろ、壁際に隠しながら水だけ抜いた古めかしい長銃。
魔女の銃。
フリントロック式のそれに魔力を篭めながら、アラディアは慣れていない蠱惑的な笑みを浮かべて告げた。
「いや」
ファーナムは動かず、静かに。
「納得しただけだ」
「そうね。こんな嵐の夜に外を歩き回るなんて魔女ぐら「暗い中ででかい剣を振り回して、そんな格好で暴れるのは魔女だろう」なわけないでしょ!?」
顔を真っ赤に染めて思わず叫んだ。
「……違うのか」
「違うわよ!」
そんな格好ってなんだ!
こっちは好きでこんなボロキレな格好になったわけではない。
伝説の魔女、茨の魔女リスペクトで着けていた左の黒手袋だけは残ってるが、それ以外のチクチク頑張って編んだ装飾に、育ての親から譲り受けた動きやすい旅装束は元はそれはもうかっこいいものだったのだ。
ズタズタにされてしまったし、今もおっぱいも剥き出しの悲しい格好だが。
決して痴女ではない!
「では胸の谷間を剥き出しに、太もも剥き出しのスケベな格好で、ほいほい近寄ったところを火の呪術を放ってくるタイプか」
「それもちが」
一瞬アラディアは考える。
まだ未熟だからそういうのも使えないが、魔女術によっては火はある。
だから否定はし切れないが。
「私は……そういうのではないわ」
控えめに、そう、貞淑に否定しておいた。
「そうか」
「本当にわかってる?」
「わかってる」
「絶対わかってない返事!」
顔も赤く、年若い少女のように――実際、二十にもまだ満たない――のだが、女性にしても背が高く、大人顔向けの肉感的な体つきで、そう見えないアラディアは叫んだ。
雨の夜、止むことの雨音と篝火のはぜる音が入り混じる室内は、不釣り合いに騒がしかった。
ぎゃーぎゃーと騒ぐ声に、たまらんと兜の両側に手を当てながら肩をすくめるジェスチャーをするファーナム。
「雨が止まないな。もう寝ろ」
民家のどこからか見つけ出したのだろう毛布を、アラディアに放りながらファーナムは告げた。
「……見張りはどうするの。まだ悪魔堕ち共が、そこらをうろついてるかも」
「自分が見張っている」
「でも」
まだ相手を信用しきれたわけじゃない。
得体のしれない相手を見つめながら貰った毛布の少し埃臭い臭いに顔をしかめるアラディアに、彼は兜も向けずに言った。
「
そう。
静かに言った。
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「雫石」
ソウルが結晶化してできた小石
HPをゆっくりと少量だけ回復する
うち捨てられた亡骸のそばで見つかることが多く、
この石はソウルの亡骸とも言える
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目を開くと、まだ雨は降っていた。
「ッ」
いつの間にか眠ってしまったのだろう。
慌てて身を起こすが、目に入ったのはパチパチと小さく火が点いたままの薪。
あの螺旋の剣はなく、ただの薪で組まれた普通の篝火。
そして、部屋の中には誰もいなかった。
「ファーナム?」
名前を呼ぶが、返事はない。
気配は感じない。
改めて身体を改めるが、何もない。
毛布を被ったままの、ありのままの……殆ど服も着ていない恥ずかしい格好のままだ。
それと改めて実感して羞恥に顔を染まりそうになるが、ブルブルと顔を左右に振る。
それどころじゃない。
「……眠るつもりはなかったのに」
それだけ疲労が溜まっていたのだろうか。
アラディアはこの旅を始める前、一つの盗賊団のアジトを単身で壊滅させたぐらいの強さはある。
だが、旅には慣れていない。
大鬼との死闘に、子鬼たちとの逃亡劇、雨に濡れ、戦いの緊張感と疲労に、強い意志でも負けてしまった。
「いかないと」
一晩眠って、疲労はすっかり抜けた。
魔女装束は、祭壇を見つけて改めて編まないと戻らないが、相手はどうせ悪魔堕ち共だ。
恥ずかしがっている暇なんてない。
出発をしようとして、篝火の側に落ちていたものに気付いた。
「うん?」
眠る前、ファーナムが座っていた近くに、畳んだ服が落ちている。
手にとって確認すると、女性もの服のようだ。
「もしかして、私に?」
キョロキョロと左右を確認する。
「ま、まあ着るものもないし」
誰に言い訳しているのか。
自分しかいない。
それに、アラディアは殆ど残骸だった布切れを脱ぎ捨てて、その置かれた衣服に袖を通した。
結果。
アラディアは着替えていた。
両手には真っ黒で肘まで覆う手袋を。
胸元は大きく実った胸元を露わにする胸当てを。
下半身には前後に大きく布を垂らして、けれども左腰には足を剥き出しにするスリットが。
どちらもどこかの民族のものだろう文様と色鮮やかな赤い染色の施された衣装。
靴は大きく肘上まで覆い隠す革のブーツで。
頭の装備はなかった。
それはまるで夜の酒場にて踊る踊り子の衣装だった。
「……」
叫び散らしたくなって。
けれど、全裸よりはマシだと思って我慢をして。
しかし、こんなのをあの男は所持していたのかという事実に、頭痛を抑えて。
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
アラディアは色々な、本当に色々な気持ちを込めたため息を吐き出した。
そして強い意思を込めて旅立った。
それはともすると復讐の旅を始めた時よりも強い意思だったのかもしれない。
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「砂の魔術師の上衣」
異邦ウーゴから伝わった魔術師の上衣
ただの薄い布に見えて、大きな魔力を持つ
砂の魔術師たちは魅力的な外見をしている
だがそれは敵を欺くための詐術であることは
賢明な者ならば察しがつくはず
だからと言って誘惑に耐えることができるかは
別の問題であるが
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彼は二回マラソンした
一度目はコレクション目的に。
二度目は困った女性に渡すために。
頭装備だけは手元に残っている。