【魔女は復讐の夜に】絶望は復讐の夜に焚べられて【ダクソ2】 作:仮面巨人
「不死? 本当にそう言いおったのか」
「ええ……」
ふぅむと顎に手を当てて、銀髪の少女然とした女は眉をひそめた。
そこは教区。
その廃棄され、打ち捨てられた元教会。
そこにアラディアと彼女は拠点としていた。
背丈と見た目は十代な半ばの少女のようで、その乳房だけが年齢に不釣り合いなほど大きい。
牛のようだ、と言われれば憤慨するアラディアにも負けないほどの豊かな胸。
そして、その若い声音から出るのは年老いた老婆めいた喋り方。
彼女はヴェンデッタ。
アラディアの育ての親であり、魔女だ。
あの棄村の奥、巨大な八つ手の悪魔を滅ぼしたあと、アラディアはファーナムと別れて拠点へと戻った。
彼と別れた理由は簡単だ。
――俺は不死だ。
そう告げるやアラディアの返事も聞かずに、彼は去っていってしまったからだ。
おかげで着ていた踊り子めいた衣装を返すことも出来ずに、着たままで祭壇を通して戻ってきたのを迎えたヴェンデッタに爆笑されるという辱めを受けた。
譲られたイデアなどの恩はあれどもそれはそれ、一発ぐらい叩いても許されるだろう。
そして、溜め込んでいたイデア……”本質”とも”存在”とも言えるそれを用いて、ヴェンデッタに武器の強化と自身の
そんな中に、ファーナムから言われた言葉を相談してみたのだが。
「不死って、あり得るのかしら」
ふし、と言われて頭に浮かんだのは不老不死の不死。
死なないこと。
死を超越したもの。
そんな言葉だが、ありえるのか。
魔女という立場であり、悪魔堕ちとも剣を交えながらもアラディアにはどうにも半信半疑だった。
魔女は死ぬ。
魔女狩りという凄惨な歴史、今現在で続いていく教会による悪逆がそれを証明している。
アラディアの里、魔女とそのパートナーが隠れて済んでいた隠れ里でさえ教会の魔女狩り共の手によって滅ぼされたのだ。
その絶望と死を忘れることはない。
悪魔も死ぬ。
剣を用いて、術を用いて、教会も魔女も悪魔に堕ちた者たちを殺している。
だから不死ではない。
斬って燃やせば死ぬのだ。
「聞いたことがあるな」
「本当?」
「ああ。わしからしても御伽噺じゃが」
コツコツと踵の靴を鳴らしながら、ヴェンデッタは一つの本棚に足を向ける。
重たげに、胸を支えるような姿勢で目線を動かし、やがて一つの本を掴み出した。
「ああ、これじゃこれじゃ」
「それは?」
「古い御伽噺、失われた王国の話じゃ」
パラリと乾いた音を立てて、ヴェンデッタは本を捲った。
――遙か北の血、貴壁の先――
――かつて偉大な王の名の元に築かれた古の国があった――
――王の名はもはや失われ――
――それは白く凍てついた国であり――
――それは燃え盛る鉄の国であり――
――無数の国が幾度も興り、滅んだ北の果てであり――
――それは呪われていたという――
「呪われていた?」
「うむ。その呪い曰く、”不死”という言葉が幾度も出ておる」
丁寧にページを捲りながら、銀髪の魔女は重たげに告げた。
「死なない不死者、死ねずの亡者、心を亡くし彷徨う亡霊、呪われた烙印を背負う者。それが不死だと」
「呪われた烙印……」
「教会いわく、これを”魔女”のことだと言ったこともある」
「なにそれ! 私たちは不死じゃないわ」
「うむ。だから死ぬかどうか拷問し、確認する。所謂魔女裁判の根拠の一つじゃ」
ゆっくりと本を閉じ、ヴェンデッタはその背表紙で凝りやすい自らの肩を叩いた。
「この不死じゃが、おそらく悪魔堕ちのことじゃろう」
「悪魔堕ち?」
「そうじゃ。百年前、茨の魔女が立ち向かった悪魔との戦争……教会と魔女が、国を滅ぼさんとした化け物どもと戦った大戦」
ヴェンデッタは遠くを見るような目をした。
「それから少しして大飢饉が発生し、連なるように大量の悪魔堕ちが起きた。それは知っておるな」
「ええ。魔女なら誰だって知ってる真実の歴史。その原因が魔女にあるなんて、教会が魔女狩りを始めたのも」
「そうじゃ。魔女の呪い、悪魔堕ちは魔女が生み出したもの。この国にかけた呪い、などという民心集めの妄言じゃ」
忌々しそうに、銀髪の魔女は告げる。
「だが、その悪魔堕ちを何も知らぬ者は見ればなんだと思う?」
「何も知らぬ者?」
「刃で刺しても、火を付けても死なぬもの。亡者、あるいは不死者とも呼べるのではないか?」
そこまでいってアラディアにもどういうことかわかった。
「なるほど。つまり――名前が違った、だけ?」
「うむ。わしも、この本や伝承を調べたのは当時の悪魔共に対抗する術を探したもんじゃ。メルヴィアの魔法大学*1……ヴィンハイムの竜の学院*2……それに、リン……ああ、そういえば知っておったか? 教会の連中の紋章術、あれは”古竜院”とやらから齎されたものという話じゃ」
「それはもう授業で何度も何度もなんども聞いたわよ」
あらゆる武器に対する扱い方、そして魔女の魔法に、それらに伴う知識と背景。
それらを教え込んだのは目の前のヴェンデッタである。
(教えたことを何度も繰り返すあたり、歳かしらね)
アラディアが子どもの頃から、まるっきり見た目も胸の大きさも変わっていない
はたして何歳なのか、気になることもあったが。
「今なんか考えおったか?」
「いえ、何も」
女の勘か、ギロリと鋭い目線がアラディアに向けられた。
(何歳にもなっても女ということなのかしら、歳なのに)
「そういえば村の小鬼どもに苦戦したとか言っておったぅ……強化した身体の慣らしじゃ、少し訓練していくか?」
「いえ、もう行くわ!」
ぶんぶんと首を横に降って、アラディアは研ぎ磨いたばかりの魔女の剣を手から格納した。
旅の支度はすでに済んでいる。
格好も当然直したばかりの魔女の装束だ。
あの踊り子のような衣装は一応返すために取り込んでいるが、二度と着るつもりはない。
「アラディア、気をつけていけよ」
出入りのための魔女の祭壇――過去の魔女たちが魔女狩りから逃れるために秘密裏に設置した転移の祭壇――の前に、立ったアラディアに、ヴェンデッタは心配げに顔を歪めた。
「辛くなったらいつでも戻ってこい。わしはここでいつでもお前を待っておる」
「……ありがとう、ヴェンデッタ。またイデアが溜まったら戻ってくるわ、力を得るために」
「ああ」
立ち止まるつもりはないのだという意思。
慣れたくもなかった。
だから最後に。
「アラディアよ。例の男には、注意せよ。この度の悪魔堕ち共は何かおかしすぎる」
「ええ」
ヴェンデッタはおかしいと感じていた。
小賢しい子鬼共に、アラディアが苦戦したという話。
自分から直々に鍛え上げ、悪名高い盗賊共の単身で全滅させた魔女。
ありえない。
素養のないただの若者や農民が悪魔堕ちした程度で束になって襲いかかりでもしない限り、鍛えられた魔女が苦戦するわけがない。
そんな隔絶した強さだったなら百年前の悪魔との戦争で、人間は全滅していた。
ヴェンデッタも、この廃教会でただ隠れ潜んでいるだけではない。
教会の異端狩り共や悪魔共に対抗するために鍛錬は欠かしていないし、生活の糧と腕を鈍らせないために小さな依頼を受けて日銭稼ぎに荒事に出る。
この教区の見回りも、迷い込んできた浮浪者や悪魔堕ちの排除も、彼女の習慣であり日課だ。
だからわかる。
「悪魔共が力を増している」
遭遇した雑魚の悪魔堕ちでさえヴェンデッタが一蹴出来ないほどの強さだったのだ。
今はまだヴェンデッタでも油断さえしなければ負けることはない。
だが、これからは?
人の欲望と悪意が増してくる国の、教会の奥へと向かえば?
そして、それらの悪魔を造作もなく蹴散らしたという騎士の男は。
「自分を不死などと言う男じゃ。よもやすると、既に正気ではないかもしれん」
「大丈夫。彼には……ファーナムには私も気をつけるわ」
そう告げて、アラディアは消えた。
祭壇移動。
光の粒子を残して、愛しく大切に育てた我が子のような魔女は消えた。
「ファーナム?」
そして、ヴェンデッタは……それに、首を傾げた。
「確か、その名前は」
先ほど閉じた本を手に取り、一つのページを開く。
そこには描かれていたのは。
「ファローザの騎士団。重装ながら二刀流の名手として武威を振るった獅子騎士団……その装備の名は……」
「とうの昔に滅んだ国じゃ」
存在しないはずの、断絶したはずの名前。
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「ファーナムの鎧」
戦神の名を冠した鎧
フォローザ獅子騎士団の甲冑は
祖国が滅んだ後も失われず
幾つかの伝承にその姿が語られている
絶望を焚べる者の名と共に
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バランスがいいので、普段使いをしているが
たまに味変と本気を出す時に色々着替える、身だしなみに気を使う男。
砂漠の魔術師装備も一度着たことがある。