※この作品はR-18です。

【魔女は復讐の夜に】絶望は復讐の夜に焚べられて【ダクソ2】   作:仮面巨人

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ヤーナム市街をリスペクトしています


四夜 見せしめの入口

 

「なにこれ」

 

 その光景を見て、アラディアが絞り出せたのはそれだけだった。

 教区教会。

 そこから新しく繋がった祭壇、それを介してようやく辿り着いた街――教区の入口。

 教会の支配下に置かれた市街、そこへと繋がるただ唯一の道。

 

 通称、見せしめの入口。

 

 教会の圧倒的な支配力を見せつけるための入口は、血に塗れていた。

 死体、死体、死体、転がる死体。

 血に塗れた棘の山に、串刺しにされた死体に、むせ返るような腐敗臭が立ち込めている。

 普通の人間は誰一人として歩いていなかった。

 

「なにがあったの?」

 

 当然、普通ではない。

 教区――教会の支配力が強い市街などは、隠れ潜んでいる魔女であるアラディアは殆ど近寄ることもない。慎重にヴェンデッタと共に、食料や情報収集などで何度か同行をしたことがあるだけだ。

 いずれは教会へと繋がる地下教区から、彼らでも支配しきれていない闇街である不夜街の裏道を通り、教会本部へと繋がる鎮魂の森を抜けて、教会へと忍び込む。

 そして、奴らを滅ぼして、隠れ里の皆を、父と姉の仇を取る。

 それがアラディアの願いだった。

 しかして、関係のない人間全てを皆死ねだとか、悪魔に堕ちろだんて願っていない。そんなやり方も知らない。

 だからこの惨状は理由がわからなかった。

 それでも足を止めるわけにはいかない。

 

 一応の市街ということで抜くつもりのなかった魔女の剣を取り出し、アラディアは進んでいく。

 

 周囲の警戒をしながら進むうちにわかったことがある。

 

「罪人奴隷ね」

 

 転がっている死体の一部に、市民のものとは思えないみすぼらしい格好をしているものが混じっていた。

 顔を覆い隠す黒い頭巾に、腰などの一部だけを隠すだけの最低限の格好、そして靴も履いていない素足。

 殺人、強盗、強姦などの死罪を待つだけの罪人。

 それを教会が魔女狩りの兵として解放しているという噂があった。

 

 噂は真実だったというようだ。

 

 どれだけ教会は手段を選んでないのか。それだけ腐敗しきっている、あるいはそれだけ余裕がないのか。

 そんな死体を見て、アラディアは二つ気付いたことがあった。

 一つは罪人奴隷の武器。

 粗末なナイフを近くに転がっているが、その右手にあるのは十字弓(クロスボウ)だった。

 

「正気かしら」

 

 百年前の大戦で、悪魔に対抗するために火薬式の大砲から発展し、銃などが発展していった。

 弓はおろかクロスボウなんて廃れた古い武器だ。

 しかし、それでも武器は武器だ。複合弓であるクロスボウから放たれるボルトは、騎士の甲冑を貫く威力がある。

 その強力さからは、かつて教会などは非人道的だとして所持と製造を禁じていたほどだ。

 そんなものをただの罪人奴隷に貸し与えているとすれば、どれだけ手段を選んでいないのか。

 もう一つ気付いたことがある。

 

「……撃たれて死んでる」

 

 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 それも複数。

 顔や胸など、クロスボウが放つ短く太いボルトが連なって突き刺さっている。

 何人ものクロスボウ使いに撃ち殺されたのだろうか。

 しかし、妙に正確に同じような箇所に突き刺さっている。

 そんな死体があちこちに転がっている。

 不気味に感じながら、アラディアは進んでいった。

 表通りは出来るだけ避けて、路地裏などから飛び上がり、屋根の上を飛び渡っていく。

 

 一斉にクロスボウで狙われたら一溜りもないわね。

 

 例え銃だろうが、弓だろうが、視認さえしていれば躱して見せるアラディアだが、それも気づいていればという前提条件。

 地上から狙われた場合の射線を切れるように、低い姿勢で、飛び渡っていく。

 

(……悪魔堕ちの死体もある)

 

 悪魔堕ちが発生したのだろう。それも小規模な範囲ではなく。

 地上に転がる死体の中に、明らかな異形のものがあった。

 

 そして、その中に混じる細く白い手やそれが繋がってただろうパーツがあったことからは目をそらす。

 悪魔堕ちの発生に対処するために、罪人奴隷などを送り出した。

 その巻き添えに市民に被害が出た。

 だから誰も彼も家から出ないように閉じこもっている。

 

 アラディアは渡る屋根の下、家の中から気配がするのに気づいていた。

 着地する度にゴトリと怯えるような気配を感じるから生きているのは間違いないだろう。

 それがどれだけいるのか。

 

(あるいはどれだけ続いているのか)

 

 道に散らばった血は幾つも乾いている。

 昨日今日の惨劇ではない、だとしたらどれだけか。

 市民が出歩きも、補充もせずに耐えきれるように終わるのか。

 

「いやあああああああ!!!」

 

「悲鳴!?」

 

 女性の叫び声。

 とっさにアラディアがその方角に向かって跳んだ。

 

 降りた先、そこには破壊された家屋の扉があった。

 

「やだ、やだぁあ!!」

 

 悲鳴は中から響いているようだ。

 周囲を見る。

 誰も出てこない。聞こえていないのか、それとも無視しているのか。

 

 いくしかないと判断する。

 

 玄関から踏み入り「ぁ゛ん」見張りをさせられていたのだろう黒頭巾の罪人奴隷の顔面に、剣を突き立てた。

 即死。

 悪魔憑きではない推定人間を殺しても、まるで動揺しなかった。

 音を立てて崩れ落ちる死体を無視して、中へと突き進む。

 

 そこには、カラスのような仮面を付けた男――異端審問官共とそれに囲まれて、犯されている女性がいた。

 

「ん゛」斬る「だ」斬「邪魔」斬る。

 

 下半身も丸出しに、異端審問官の服装をした男共の首を三度刎ねた。

 

「んだ、でめえ!」

 

 奥にて物色をしていたのだろう。

 金品を片手に持った異端審問官が出てくる。

 その逆手には異端審問官の銃――散弾のものに、突っ込む。

 

「死ね!」

 

 火が吹いた。

 とっさに魔女の剣を盾にするが、受け損なった銃弾が身体に食い込む。

 鈍痛。

 魔女の装束が,散弾の銃弾を受け止めるも痛い。

 

 けれど、後ろの女性は庇うことが出来たようだ。

 

「魔女か!」

 

 異端審問官が声を荒げて、金品を放り投げてなにか腰に付いていたものを掴んだ。

 

「くら」

 

 小さな壺。

 それを振りかぶったところに魔女の銃を撃ち込んだ。

 

「ぶべっ」

 

 銃撃に怯んだ――分厚いハードレザーの装束、銃でも即死しない。

 だから懐に突っ込んで、刃を突き立てた。

 

 ――復讐の一撃(致命の一撃)

 

「死になさい」

 

 内臓を破壊するように柄をねじり、引き抜いた。

 異端審問官、否、死体は音を立てて倒れた。

 

「ふぅ」

 

 死体の手からこぼれ落ちた小さな壺を見る。

 

「これは?」

 

 中からどろりと血のような液体が零れて、なんだろうと手を伸ばして。

 

「やだ、やだぁ!」

 

 後ろから聞こえた悲鳴に振り返る。

 そこでは自分を犯してただろう男の死体を押しのけた女性が悲鳴を上げていた。

 

「落ち着いて! 私は敵じゃないわ」

 

「やだ! なんで私、私ばかりが!」

 

「もう大丈夫、おちつい……あら?」

 

 狂乱している女性を落ち着けせようと武器を置いて近づいたアラディアは気付いた。

 立派な乳房とふくよかな体つきから大人だと思ったら、その顔つきは思ったよりも幼く。

 そしてなによりも見覚えがあった。

 

「あなた、ヒナギクちゃん?」

 

「え」

 

 それはアラディアがかつて盗賊のアジトから助けた女の子だった。

 

 

 

● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ――

「魔女の銃」

 

 魔女に伝わるフリントロック式の魔力銃。

 

 弾に魔力を込めておくことで、魔力が弱い者や少ない者でも一定の威力を出すことが出来る。

 技術力が高く扱いに長ける者は相応の威力を出すことも可能。

 

 

● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ――

 

 

 

 

 

 落ち着かせた彼女――ヒナギクから聞いた話だとこういうことらしい。

 

「つまり私が助けて家に戻った後、家に魔女の疑いでこいつらが押しかけてきたのね」

 

「は、はい……私、あれから家にずっと引きこもっていて、そしたら誰かが魔女じゃないかっていったみたいで」

 

 誰かが密告したのだろうか。

 身体も心も傷ついて疲れ果てている彼女に追い打ちをするような残酷なことを。

 

「……ごめんなさい。ちゃんと貴方が安心できるまで世話をするべきだったわ」

 

「い、いえ、アラディアさんには、あの地獄から助けてもらいましたから」

 

 口を濯ぎ、簡単だけど身を清めたヒナギクはぎこちなく微笑んだ。

 ……強い子だ。

 不幸の連鎖のような目にあったというのに、人を思いやれる心がある。

 

「でも、もうここにはいられないです、よね」

 

 そう言うヒナギクの目は、シーツを被せた男たちの死体を少しだけ見て、すぐにそらした。

 さすがに複数の死体が転がった家で暮らすなんて一般人には無理だ。

 他の悪魔憑きや魔女疑いに他の罪人奴隷や異端審問共が追われているのだろうが、いつまでも戻らなければ異変を感じて様子を見に来る可能性もある。

 

「どこか行く宛はある?」

 

 最悪ヴェンデッタに頼んであの廃教会に匿ってもらおう。

 彼女は魔女じゃないが、魔女の疑いなんてかけられたらどんな目に合うかもう実証されている。

 

「それなら、おばあちゃんのところに行こうと思ってます」

 

「おばあちゃん?」

 

「はい。私、よく看病にいっていて……ここ最近ずっといけなかったんだけど、顔を見せに行こうと思います。少しぐらいならあそこで一緒にいれば」

 

「そうね、それがいいわ。家族がいるならそのほうがいいわ」

 

 アラディアは深く頷いて。

 

「それと、今のこの街どうなってるか知ってるかしら?」

 

「それが……私もここ数日引きこもっててよく知らなくて……ただ悪魔憑きが起きたらしいんですが、こないんです」

 

「こない?」

 

「はい。地下聖教会から修道騎士の人たちが出てこないって。お父さんは教会に助けを求めに行くっていってたけど、全然戻ってこなくて……」

 

「大丈夫、ごめんなさい。辛いことを言わせてしまって」

 

 顔を覆って泣きだしてしまったヒナギクの背を擦る。

 地下聖教会。

 教区である街に建造された大きな教会であり、このあたりを支配する修道騎士たちの本拠地。

 普通の教区であれば悪魔憑きが出れば直ちに修道騎士たちが鎮圧するはず。

 間違っても魔女狩りなどを行う異端審問官や、使い捨てだろう罪人奴隷などを出すわけがない。

 だが、その二つが我が物顔で市街をうろついていて、肝心の修道騎士が出てこない?

 

「それで、みんな教会から見捨てられたんじゃないかって。外から悲鳴とか、叫び声とかずっと聞こえてたんです。あちこち燃えたりして、私怖くて、扉も閉めてたんですけど」

 

「なのに異端審問官共が来た、と」

 

「はい」

 

 悪魔憑き自体は殆ど見かけていない。

 だけど、罪人奴隷や異端審問官共が歩き回っている。

 これは……どういうことだろうか。

 

(確認する必要があるかも)

 

 どちらにしろ自分の目的地ではあるのだ。

 教会の本部、そこには結界が張られていて普通の手段では入れない。

 魔女である自分ではなおさらだ。

 それを突破するための道具や、詳しい位置が載っている地図なども手に入れたい。

 だから向かう必要がある。

 

「……ともかく、近くまで送るわ」

 

「そ、そんな。アラディアさんまで」

 

「いいの。まだ罪人奴隷に、悪魔憑きもいるかもしれないし」

 

「あ、それなら……外には気をつけてください。変なのを投げつけられたんです」

 

「変なの?」

 

「はい、こうなる少し前なんですけど……私、食料を買おうとして歩いてたら、路地から変なのを投げつけられたんです」

 

 その、といって小さく手で丸を描いて。

 

「小さな瓶だったんですけど、そこから男の……アレみたいなのが飛び出してきたんです。それで、私わけがわからなくて、いきなり巻き付かれて」

 

「……それで?」

 

「あっという間に服とか破られて、また酷い目に合うって思ったら。悲鳴が上がったんです」

 

 悲鳴?

 

「鎧を着た男の人が路地から出てきて、私の絡みついてた奴を斬って、その助けてくれました」

 

「鎧……修道騎士とか鎮魂騎士じゃなくて?」

 

「その、見たことがない鎧でした。腰布が緑で、えっと肩に毛皮があって」

 

 ヒナギクが言う鎧に、アラディアは心当たりがあった。

 ファーナムだ。

 あの不死と名乗る男がここに?

 

「彼はどうしたの?」

 

「わ、わからないです。ただすごい血を浴びてて、怖くなって逃げちゃって……助けてもらったのに」

 

「それは……しょうがないわ」

 

 話を整理すると、彼女は何者かに襲われた。

 それも怪しい瓶のようなものを投げつけられて。

 その投げつけた誰かをファーナムが倒して、さらに捕まっていた彼女を助けた?

 

「もしかしたら悪魔憑きの仕業だったのかも」

 

 彼女が告げる瓶に心当たりがあった。

 先ほど刺し殺した異端審問官が持っていた瓶だ。

 

「そうね……気をつけていきましょ」

 

 一般市民を教会の人間が実験台にしている。

 なんてさすがに今の彼女に伝えるわけにはいかない。

 その転がったものを、彼女が見えないように誘導しながら外に出る。

 

「おばあさんの家は?」

 

「あっちです。向こうの小さな丘が見えるお家にあって」

 

「わかったわ」

 

 周囲に悪魔憑きや罪人奴隷がいないかどうかアラディアは見渡して。

 

「いきましょう」

 

「はい」

 

 ヒナギクの手を掴んで、道を歩きだした。

 

 その時だった。

 

 アラディアが発砲したのは。

 

「ひゃ!?」

 

 びくんとヒナギクが跳び上がって、慌てて振り返る。

 アラディアが、どこから取り出した銃口を路地へと向けていた。

 

「な、なんです!」

 

「いや……気の所為だったみたい」

 

(粘っこい、監視するような視線を感じたんだけど……誰も出てこない)

 

「な、なんですかぁ」

 

「ごめんなさい。いきましょ、私が先を歩くわ」

 

「おねがいします」

 

 二人はゆっくりと、静かに歩き出した。

 

 

 そんな二人に向かって、路地の中で腹部を押さえながら手を伸ばしていた名も無き男がいたのを誰も見届けることはなかった。

 

 

 

 

 

 

● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ――

「アヴェリン」

 非常に珍しい、連射式のクロスボウ

 ボルトを三連続で発射することができ、

 続けて命中させれば、高いダメージが期待できる

 

 書物でのみ存在が確認されていたものを

 ヴォルゲン随一の富商と言われた

 フォルロイザが再現させた

● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ―― ● ――






「なんだあいつは!?」
「で、でかい盾だ!! 盾を持ってやがる!」
「片手にクロスボウだー! たくさん撃ちやがる! 駄目だ、駄目だ! 逃げろ!!」
「後ろから撃っても効いてなぎゃああ!」

 左手に岩の如き盾を構えて、右手にアヴェリンを。
 背中には怪しい亡霊を背負ってノシノシと歩く。

 撃ち合い必勝の形である。
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