アークナイツ:不本意姦短編集 作:片腕チェーンソー
「ははは、このような辺鄙な街には目ぼしいものなどないと思っておりましたが、まさかこの街の統治をされているのがあなたのような麗しい方でしたとは」
当然のように組んでくる肩を、アイリーニは拒むことができない。彼女は困ったように少し笑い、しかしそれでも商人の男に酌を続けていく。そこには明確な力関係の差があり、ジョディはぎり、と唇を噛んだ。
審問官アイリーニと、書記官ジョディがこの街に滞在するようになったのは少し前のことである。これまでは深海教会の対応などでイベリア各所を飛び回っていた彼らであったが、審問官の職務はそうした遊撃めいたことに限られず、街をささえる統治官としてのものも存在している。その一環として、ある砂漠地帯の街の審問官が病で亡くなってしまったため、代わりの審問官が送られてくるまでの一時的な代行としての街の統治が彼らに言い渡されたのであるが──
「アイリーニさん、この状況は……」
「みなまで言わなくてもいいわ、ジョディ。分かっているから」
井戸は枯れ、作物も育たない。人々の栄養状態は当然芳しくなく、ただでさえそう多くない住民は少しづつ数を減らしていく。イベリアにおいてもぽつんと孤立したこの街は、主たる隊商の商路からも外れ、またこの地に対価もない以上、商人が新たに物資を届けるメリットがない。そしてイベリアという国自体に、この街を物資でもって支える余力はない。
「……八方塞がりね」
もとよりただの審問官と書記官であり、街の統治に詳しい見識があるわけでもない。そして仮にあったとしてもどうしようもない手詰まりの状況のなか、じりじりと住民の命が削られていく苦しさを二人が感じていたとき、その隊商は現れたのであった。
当然ながら、彼らはこの街を目指していた訳では無い。なんせ利益がない以上、街を不憫に思ったとしてもそれで手を差し伸べるほどに情もないのがこの地の商人であり、そんな情を許さないのがこの地の環境である。彼らがこの地にたどり着いたのは、単なる偶然。強い砂嵐の迂回の一端に過ぎず、そしてアイリーニたちにとっては、この偶然は決して逃せない蜘蛛の糸であった。
──そしてそのことは、利益に目ざとい商人たちもまた、よく把握していた。
「いかがでしょうか、この街の酒は」
「はは、正直にいってしまえば質がよいとはいいませんなあ……ただし、このような麗しい審問官殿に酌をしていただけるとあれば、格別に染み渡るというものです」
「……光栄です」
肩に回されていた手が、ゆっくりと降りていく。背、腰をつうと撫でていくと、尻までさすさすと撫で始めていく。イベリアを支える裁判所の審問官に対するあまりにも礼を失した行為。しかしそれを咎められないことは、お互いに分かっていた。
「ふむん、しかしアイリーニ殿。この街において大々的に取引を行うというのは厳しいものがありますが……あなたのような麗しい方相手なら──特別の契約もご提案できますよ」
男はアイリーニを引き寄せ、そう嘯く。アイリーニの肢体を、その衣服を見透かすかのように舐め回すように見る男の視線に、アイリーニは思わず鳥肌がたつ。しかし持ち前の精神力で生理的嫌悪感を飲み込むと、ジョディが商人の発言に物申さんとするのに対して片手をあげて制する。
ジョディの思いは正当だ。審問官に、否、審問官ではなくともこのような誘いをすることは礼を失しており、本来なら糾弾されるべきであり、部屋からつまみだされても文句はいえない。だが、アイリーニは、そして彼女が守るべきイベリアのこの街には、もはやそんな力も余裕も残されていないことを彼女は理解していた。
生来の彼からは考えられないような不満と、そして怒りが滲み出ている姿に、ふと彼と最初に出会った時のことを思い出し、随分とたくましくなったのねと内心でひとりごちる。随分と長く職務をこなしてきたがゆえのアイコンタクトを交わすと、ジョディは強く拳を握ったまま顔をうつむかせる。他に現状を打破する道がないことを理解できないほど彼は愚鈍でなく、そして彼にとって尊敬すべき上官であるアイリーニは、こういう時に自らを曲げることはないと知っていたからだ。
アイリーニはそんな彼を見て僅かに微笑んでから、商人に向き直る。
「そのようなお話があるなら、ぜひお聞かせください。至らない身ではありますが、力を尽くさせていただきたいです」
商人はそんな彼女たちの一連の動向をみて、にやりと微笑んだ。
※
──ぴちゃり、くちゃり
僅かな水音と、時折可憐な、しかし苦しみを訴えかけるようなえづくような声が響く。
「えお……うぇ……ぐう…」
「はは、悪くはありませんが、もっと奥までなめていただけますかな?この砂漠地帯を越えてきたのです。審問官どのにはもっと労っていただかなくてはねぇ」
アイリーニは吐き気をこらえると、商人の腰に手を当て、再び顔を近づけていく。背けたくなる臭いにも耐え、引きつった表情のままアイリーニの舌が、商人の尻穴を舐め回す。商人にとっては拙い奉仕であるがしかし、仮にも審問官たる女──しかもアイリーニほどに美しい女に尻穴を舐めさせているという事実に、商人はいたく興奮していた。
「ぉぇ、わかって、います……んえ」
「……しかし、アイリーニ殿は本当によろしかったのですかな?書記官殿とは随分と仲睦まじそうに見えましたが」
「……んぇ、彼とはそのような仲では、えお、ありません」
「はは、そうでしたか、いやそれは失敬──」
──ガキの青臭い恋路というわけかね
商人の男からすれば、彼らの仲はあまりにも容易に推察でき、そして彼女の言自体は真実なのであろうということも理解できた。
(くく、何事もなければいずれはくっついてたんだろうが……こいつは良い拾いもんだ。しかし、となるとこのガキがあのエーギルとファーストキスをする前に俺の尻穴を舐めさせちまったってことになるわけか)
僅かに頬を染めたアイリーニが、同じく頬を染め、はにかんだ様子のジョディの顔に近づいていく。ジョディは僅かにかがみ、アイリーニは背伸びをしたまま二人は甘いキスをかわす──
あり得た事象──しかし現実において、アイリーニの舌は男の尻穴にある。
(それが初対面の男の尻穴を舐めさせられて……いざキスをする時にも思い出しちまうかもしれんなあ)
彼女がキスをする最中に尻穴をねぶる感覚を思い出し、えづきそうになるところまで考え、商人の男の一物がさらに隆起する。
「ああ、素晴らしいですよアイリーニ殿。では、そろそろメインディッシュをいただいても?」
苦悶の表情で男の尻穴を舐めていたアイリーニは言葉を返さぬままゆっくりとベッドにうつぶせになり、自ら股を開く。顔を見せないのは自身へのせめてもの抵抗か、そう思いながらも一切の容赦なく、商人はその欲望のままに彼女を貪った。
アイリーニが自身の館に戻ったのは、早朝のことだった。
※
「お会いできて光栄です、審問官アイリーニ」
「こちらこそ、はるばるお越し下さり感謝しかありません」
どのような地域においても、人と人のつながりが絶えぬように。砂漠地帯においても、商人にはコミュニティが存在する。かの商人に身体を売り渡して以降、アイリーニの街には複数の商人が訪れるようになった。
しかし、商売の対価にアイリーニの身体を求めるような商人のコミュニティがまともな道理はない。取引によっては身体を差し出す審問官がいる、という噂を原因として集まった彼らにとってアイリーニは僻地に存在する高級娼婦でしかなく、彼女はただの餌でしかなかった。
残酷なのは、それが分かっていても彼女にとって他に取りうる手段がなかったことであり──
「おぉっ、ぐ、はあ、うう……」
「違うでしょうアイリーニ殿、なっさけない声を出すのではなく、ちゃあんと『イく』といいなさい」
「あっはあ、イ、イく──」
「ははは、すごい潮吹きだ。やはりあなたには才能がありますよ、アイリーニ殿。しっかり躾けてあげましょう」
「ふふ、どうですかな、電気を流しつついいところを刺激するでしょう。儂のとっておきでしてな、これで開発されたおなごは電気だけで絶頂するようになるのです」
「ああ、イく、イく、もうイってるのに、なんでやめて、もう気持ちいいのむりだから、イ、イくッッ!」
「審問官様ともあろうものが情けない。夜が明けるまでしっかり楽しませてあげますからな」
「ふ、ひひ、こんな格好で日中は業務をしていたのですねぇ、アイリーニ殿?上着の下はこんな娼婦でも身に着けぬ犯されるための踊り子衣装とは、書記官殿も思いもしませんでしょう」
「……あなたがそうさせたのでしょう」
「んふふ、どうやら寝屋での雄への態度はまだまだ勉強中というところですか?大丈夫、このわたくしがたっぷりと教えて差し上げますよ」
「オラ、オライき死ね、雑魚リーベリが!」
「う、ぎゅう、イ、イく──ご利用、ありがとうございました、ご寵愛を授かれて、嬉しいです」
「へへ、どうやらだいぶ躾けられてきたみたいじゃねえか。んじゃよお、あのナヨナヨした書記官と俺のどっちが雄として優れていて、どっちのことを愛してるんだぁ?教えてくれよ」
「……彼のことを悪く!?イく──そ、それはイく!イく!うっ……」
「へへ、あのじいさまから借りてきたんだが、本当に簡単にイくじゃねえか。これじゃあガキにも勝てないんじゃねえの?んで、なんだっけか」
「……イく!待って、イく!やめて、それは本当にむりだから、イぐ、イく、イってるから、わかった、言うから、やめてください……」
「あーあー泣いちゃって。素直じゃねえなぁ、さっさと言わねえ罰としてしっかり媚びて言えよ、ぬるいセリフなら一晩中流し続けるからな?」
「う……はい。あ、あなた様の方がジョディよりも雄として優れています、あなた様の方がチンポもおおきくて、雌を気持ちよくさせてくれて、す、素敵です……あんな、ナヨナヨした男よりも、あなたの方を、あ、愛しています♡──イ、イくッ!なん、で?媚びたのに、イく、イく!」
「バカか?雄を楽しませるおもちゃなんだからこうなるに決まってんだろ──ひゃはは、泣きながらキレてんのか?つってもそんなにイくイく言ってたらちっとも怖くありませんよ〜」
※
「はあ……」
ため息をこぼす。今日は[[rb:素晴らしいことに > ・・・・・・・・]]商人たちは訪れておらず、アイリーニは久々にゆっくりとした夜を過ごしていた。
しかし──
「う……」
男たちに躾けられた事実は変わらず、彼らに貪られた記憶は忌々しい記憶として彼女を苛み、そしてその証と言わんばかりに、彼女の身体はふつふつと肉慾の昂りを訴える。
(私は、変えられてしまったのね、こんな体たらくじゃ、もう──)
自己嫌悪と、諦観。それがアイリーニを満たさんとする中で、ガチャりと扉が開かれる。
「ジョディ?」
「アイリーニさん、よかったまだ残っていましたか」
ジョディはどこか悲しげな、しかしそれでいて決意に満ちた目で彼女を見据える。そういえば彼としっかり喋るのも久々な気がするな、とアイリーニは思い、それと同時に彼をも商人たちの遊びのスパイスとして消費させられていたことを思い出し、罪悪感が胸を焼く。そんなアイリーニを見ながら、ジョディは資料を差し出す。
「これは……ジョディ……」
その資料は、この街を含む大規模な商路の新設や、新たな特産品の開発の成功を含めた、この街の状況を根底から覆すものであり、それはつまり、この街が一部の商人に頼らねばならない状況からの脱却を意味しており──
「まあ、ロドスのみなさんだったり、街のみなさんに助けていただいたのがほとんどなんですが……」
──それでも、と若き書記官は、はじめて会ったときとは比べものにならないほどに力強い目をしてアイリーニに告げる。
「もう、アイリーニさんだけが無理をする必要はないんですから」
「……ほんと、生意気になったわね、あなたも。でも──」
ありがとう、ジョディ。
そう言ってアイリーニが浮かべたのは、この数ヶ月は見せたことのないようなやわらかい笑みであった──
かくして街は新たに盛況を取り戻し、アイリーニたちは後任の審問官が任命されたことでお役御免として、かつての仕事に戻ることとなった。
苦難を乗り越え、これを糧としてアイリーニはまたこれまでのように審問官としてイベリアに尽くしていく、そのはずであった。
※
(くそ……完全にしてやられたわね)
アイリーニとジョディが街を離れてしばらくのことである。住民が失踪しているとの話を聞き、個別に捜査をして回っていた二人であったが、聞き込みの最中に一服盛られ、意識を失ったアイリーニが目覚めるとそこは檻の中であった。不本意な姿になっていることへの動揺を抑え、アイリーニは猛獣の運搬で用いるかのような小型の檻と、その下に移動用のキャスターを確認しながら思案する。
(でも、おそらくはここが住民失踪の元凶。なんとかこの拘束を解いてここから出られれば──)
「皆様方!こちらが本日最後の出品となります!これなるはイベリアの審問官にしてかつては街の統治官まで担ったことのある麗しき雌リーベリ、アイリーニです!」
耳障りなアナウンスとともに、彼女の檻が移動させられ、表舞台に立たされる。
「……あなた、たち」
ギロリと観客を睨むアイリーニの姿は、とても威厳のある姿とは言えなかった。衣服はすべて剥ぎ取られ、首輪の他は一糸纏わぬ状態の上、両手両足は拘束されており、かつ両足は器具により強引に開脚させられていることで、観客に対してはガニ股で自身の股間を見せつける形となっている。
しかし彼女を占めたのは羞恥でなく、怒りであった。彼女の前の観客のいくらかが彼女の見知った顔──かつて彼女を弄んだ商人たちであったのである。にたにたと笑う彼らの姿からは、彼女の捕縛が誰の差し金であったかをうかがわせる。
「……随分と余裕そうな表情だけれど、それは大きな間違いよ。この拘束なんて大したものじゃないし、イベリアの潔白と美徳を守る審問官としてあなたたちの犯罪行為は決して──ぐぎ!?イ、イく!イく!イっぎゅう〜〜〜!」
絶頂。
誇りある審問官としての啖呵は首輪から流された電流で強制的に中断させられ、たったそれだけの措置であるにも関わらずアイリーニの身体は肉欲のままに潮を吹き出し、彼女の視界は明滅する。
(あ、え……?なんで、わたし……?)
「おいおい、あれは拘束用の電流だろ?なのにあの有様とはねぇ」
「くくく、儂の調教の成果がまだ残っているようだ」
「いやはや、もともと淫売の素質があったのでしょう、きっとあれからも貴方を思って必死に自分で慰めていたのでは?」
「違いない!」
嘲弄、嘲笑。下衆から寄せられる蔑如と性欲にまみれた視線に、アイリーニの頭が沸騰し、しかし審問官として鍛え抜かれた確固たる意志がそれを鎮める。
(そうよ、私はイベリアの誇りある審問官。『審問官の灯りが放つのは、心に宿る信仰の光である』、私は決して諦めることなく──)
「イく!イっぐ!どう、してこんなにああっ、だめ、イく!止めて!これを止めな、う、ぁぁぁ~!」
思考は中断させられる。連続的に浴びせられる電流はアイリーニの冷静さを奪い、身体を強制的に疼かせる。認めたくはなく、そして認めがたいことであったがしかし、かの商人の言うように、アイリーニの身体があっけなく快楽に飲まれていくのは、その調教が確かに寄与していた。
主催もこのほうが観客の興をそそるとかんがえたのであろうか。電流を流したまま進行を続けていく。アイリーニの嬌声、そして次第に紛れる泣き言を背景にしたままオークションは進んでいく。
焦点の合わなくなってきた眼、口からは覚え込まされた媚びが無意識に漏れると同時に、だらしなく開いた隙間からはよだれが滴り落ちる。薄い胸板に乗せられたピンクの蕾はいたく屹立し、へこへこと情けなく揺れ動く腰に、股間からは潮とともにこらえられない尿が垂れ流されていく。
(ああ、わたしは……ここでおわってしまうの、ね)
ぼんやりとした意識の中で、アイリーニは自身の審問官としての終わりを予見する。邪悪を前にしても後退せんと誓った彼女はしかし、悪意の大波にさらわれていくのであった。
※
「……審問官アイリーニの行方不明事案については、失踪確認より数か月が経過した現在においても、その所在を特定するに足る有力な情報は得られていない。
失踪地点一帯において活動する商人らについては、本件への関与を疑わせる状況が一定程度認められる。しかしながら、当該勢力は現地社会・物流に対して極めて強い影響力を有しており、現時点において裁判所がこれと直接対立することは、組織運営上の観点から得策ではないと判断される。
また、複数の都市間ネットワーク上において流通が確認された、リーベリと駄獣による性的行為を記録した映像について、映像内のリーベリは審問官アイリーニとの外見上の類似が認められるものの、映像品質は著しく低く、本人であると断定し得る客観的証拠とは認められない。
加えて、現在は深海教会に関連する複数事案への対応を最優先としており、人員・資源ともに著しい制約下にある。この状況において、本件に対しこれ以上の捜索資源を投入することは困難である。
以上を総合的に勘案した結果、本件に係る積極的捜索活動は本報告をもって終了し、新たな有力情報が確認された場合に限り、再調査を実施するものとする。」
──イベリア裁判所の内部文書の一部より抜粋