アークナイツ:不本意姦短編集 作:片腕チェーンソー
──イベリア
かつては栄華を極めたこの国も、『大いなる静謐』という未曾有の災害を経て斜陽の時を迎えていた。それは単にシーボーンの脅威による直接的被害のみを示すものではなく、社会不安や貧困による人心の荒廃がもたらす社会的治安の悪化によるものも大きい。沈みゆくイベリアにおいて唯一国を引き上げんとする裁判所においても、それを救い続けることは、できない。
「ふう、ここもずいぶん変わってきたみたいね……」
年季の入った建物が並ぶ路地にて、くるり、とあたりを見回しながら、リーベリの若い女性──審問官アイリーニがどこか寂し気に独り言ちる。
「以前にもこの町を訪れたことがあったんですか?」
「ええ、といってもロドスに加入する前のことだから、もうずいぶんと昔のことだけど。あのときこの町は深海教会の一派が入り込みかけていてね……師匠と一緒になんとか彼らを撃退することができたのだけど、そのときのこの町の賑わいはいまとはずいぶんと違ったものだったわ」
──ま、当時の私は戦いに精一杯でそうしたコトを見落としていたのだけれど
ぽつりともらされた彼女の言葉に含まれたわずかな悲しさをくみ取りながらも、彼女の補佐として随行する若きエーギル、ジョディ・フォンタナロッサはそこに踏み入らぬまま答えていく。
「そうなんですね……僕はロドスに向かうまであの町から出たことがなかったから、以前のことは詳しくわかりませんが、それでもかつては活気があった町だったときくと、少し寂しくなりますね……」
「この町に深海教会の息がかかっていないことは確認されているし、それ自体は喜ばしいことだけれど、それ以外にもこの国には課題が山積していることを突き付けられているようで、どうにも──」
「アイリーニさん?」
「ジョディ、あそこの裏手、誰かいるわ。私が先に行くから慎重についてきて」
「……了解です」
確かに彼女の言う方向に何者かの気配を感じ取れる。ジョディは自身の未熟を恥じながらも慎重にアイリーニに追従していく。じわりじわりと気配のもとに近づいていきながらジョディは気配の主の正体に頭を巡らせていく。イベリアにおいて審問官とは大きな権力を有する者であるが、それゆえに敵も多い。いずこからかの刺客が彼らを襲ってきたことも何度もあるし、つい先日滞在していた町でも、アイリーニを狙った襲撃があったのはジョディの記憶に新しい。当然審問官の主敵である深海教会、ひいてはシーボーンの一種の可能性もある。アイリーニは深海教会の影響がこの町には及んでいないとは言っていたが、彼らはいまだ底知れない存在である。警戒するには十分なものであった。
そうしてゆっくりと先を行くアイリーニが気配のありかに接近し、その気配の主が動かないことを確認すると彼女は一気に武装を構えながら回り込み──
──そこにいたのは息も絶え絶えな女性であった。
「な!?大丈夫ですか!?意識はありますか?」
「う……ああ……」
この町に入るまでの連日の戦闘と、先の町における襲撃で気が立っていたのか、傷病者と敵対者の気配を誤認した自身に舌打ちをしながらもアイリーニは周辺にほかの存在、あるいは罠がないことを瞬時に確認して女性に駆け寄る。
「ジョディ!手当の準備はある?」
「もちろんです、ただ彼女の場合──」
「あ……ひっ!」
アイリーニについてきていたジョディをみて倒れていた女性が引き攣った声をあげる。そこには確かに嫌悪、拒絶、そして恐怖の感情が込められており──
「いったん他の方を呼んできます!アイリーニさんはそこで見てあげていてください!」
女性の身体から漂う臭いと彼女の衣服の乱れた様子をうけて彼女の状況を察したジョディが、その痛ましさからすっと目をふせて立ち去っていく。遅ればせながら彼女の被害の性質に気づいたアイリーニがこくりとうなづき、女性に寄り添う。
「おびえさせてしまってごめんなさい。でも安心して、私たちは──」
※
女性を病院にまで送り届けた二人は、少しばかりの疲れとともに町のはずれにあるカフェに訪れていた。
「はあ……まさかあんな犯罪が、しかも今回だけじゃなくて何件か出てしまっているだなんて……この町はイベリアのなかでも穏やかな安心できる街の一つだったはずなのに……」
「……あってはならないことですが、そう気に病まないでください。どんな地域においてもこうしたことは、残念ながら起こりえてしまいますからね。ひとまず彼女が一命をとりとめていてよかったと思いましょう。」
「そう……なのかもね」
からん、とアイリーニが飲んでいた紅茶のカップを下ろし、少しばかりのため息をつく。二人が彼女の様子を見て想起したのは、数ヶ月ほど前であろうか、深海教会の拠点に立ち入ったときに囚われていた女性たちのことである。『母体』を用いたさらなるシーボーンの増加──そんなおぞましき研究の犠牲者たる彼女たちは、大半が心神喪失の状態にあり、数少ない意思疎通が可能な状態にある者も、当初は怯えからこちらの救助に応じてはくれなかった。そんな彼女たちを落ち着かせることに時間がかかったことで一部の深海教会の連中には逃げられてしまったことに──それは当然犠牲者たる彼女たちのせいでは決してないのであるから──二人は被害者へのケアという点で至らないものがあったと深く反省しあったのは記憶に新しい。
過去を振り払うようにアイリーニが窓から外を眺めると、以前に比べると整備の行き届いていない街並みが彼女の注意を引き付ける。
「……ままならないわね。」
ロドスとの提携から数年がたち、再びイベリアにて審問官としての職に復帰したアイリーニは、ジョディを書記官に迎えると、各地に赴いて深海教会やシーボーンからイベリアを守り続けていた。目覚ましい活躍を続ける彼女であったがしかし、以前からダリオに付き従って各地を巡っていた彼女だからこそ、イベリアにおける新たな問題の出現を感じ取っていた。
(明らかに治安が悪くなっている……シーボーンたちによる直接的なものだけじゃない。あいつらによって社会自体が間接的に壊されようとしている……)
シーボーン。群体の意思のもと、絶えず進化と適応を繰り返す、イベリアの──否、人類の敵。彼らがイベリアにもたらさんとする被害の大きさは『大いなる静謐』をふりかえれば明らかであるが、彼らがもたらしたのは単なる物理的な損害だけではなく、イベリアという国家、社会の失墜をも含められる。
黄金期が過ぎ去り、活力に満ちて将来に希望のあふれていた社会が失われて久しい。イベリアを今なお先導せんとする裁判所においても、シーボーンという外患、深海教会という内憂の対処で手一杯であり、イベリアの民にまで目をむける力はない。それが、仇となってきている、とアイリーニは臍をかむ。
(審問官となったときから当然法に従い人を律する心は持ち合わせてきた。でも──)
彼女は先の状況を反芻する。
(前回のときもそう……性的暴行を受けたと思しき女性に対して、私はうまく対処ができなかった。それはひとえに経験不足が原因で、ロドスを離れてからは人とのかかわりよりもシーボーンとの戦いばかりが生活の主になってしまったことがあるうえに……私自身にそうした経験がない……ってことも、もしかしたら──)
「──お姉さん、美人だね、俺ともお茶してくれない?」
ずい、彼女の思考を妨げたのはいかにもな様子のちゃらついたリーベリだった。年のころはアイリーニと同年代、あるいは少し下であろうか、どこか浮ついた様子であり、その顔には下心があふれている。ジョディがそばに控えているというのに、よくもまあ声をかけてくるものだ、などと悪感情を抱く前にあきれてしまったアイリーニだったが、その様子を脈ありとみたのか、男がさらに彼女に近づいていき──そばに座るジョディの腕に遮られた。
「……あんたじゃなくて俺はこの姉ちゃんに話しかけてんだよ、どきな。おい姉ちゃん、俺ならこんな優男よりも満足させてやれるぜ?」
「お言葉ですが──」
ずい、と立ち上がったジョディに男が一歩後ずさる。長身のジョディは男より一回り大きかったが、男が気おされたのはそれだけではなく、ジョディが持つ気迫にもあった。
「私と彼女はそういう関係ではありませんが、彼女は多忙につきあなたとの時間はありません。申し訳ありませんがお引き取りいただけますか?」
「な……俺は……」
「お引き取りいただけますか?」
「……チッ」
すごすごと、しかしジョディに対する反発は隠さずに男が去っていくのを見届けると、ジョディはふうと一息ついて脱力する。
「すみません、勝手でしたか?」
「いいえ、大丈夫よ。にしてもずいぶんとたくましくなったのね?」
にやりとアイリーニが指摘すると、ジョディも勘弁してくださいと赤面する。からかうような様子のアイリーニだったが、その実、感心しているのは事実だった。
(グランファーロにいたころとは大違いね。それに対して私は……本当に変われているのかしら?)
ジョディの成長を感じることによる喜びが自身に対する不安へと変わり、彼女の心を暗くしていく。
「少しお疲れですか?宿にまで戻りましょう」
「……そうね」
そうした様子が見透かされてしまったことさえ、今の彼女には自身の未熟をとがめられているような気がしてしまっていた。
※
「ふう、到着しました。なんだかいろいろあって疲れましたね。今日はもう宿でゆっくりされますか?」
「……」
ジョディの運転する車が宿に到着してもなお、彼女の心は切り替わることがなかった。しとしとと小雨が降り始めた外の様子を、車窓からじっと見つめていくうちに、様々なことが頭の中を駆け巡っていく。
イベリアの現状、社会全体での不安、相方の成長、師との思い出、審問官としての重責……
(あれから、本当になにか私は変われたといえるのかしら?)
当然、アイリーニもまた成長を続けていることは明らかであり、それは彼女を知るものならば誰しもが認めることだろう。しかし、自身の失態、相方の成長、そしてイベリアという国家が没落していっているという事態の認識は彼女に焦燥感を募らせ、冷静さを欠いた思考の渦へとおいやっていく。
(私も……なにか変わらなくちゃ……なにか……あ──)
ふと思いついた、常ならばばかばかしいと判断しているはずの考えが、理性を通さぬままにアイリーニの口からあふれでていく。
「……ジョディ・フォンタナロッサ書記官」
「なんですか、急に改まって?」
苦笑いを浮かべるジョディに対してアイリーニはぎこちない様子のまま、わずかに顔を染めてうつむき、されど言の葉の勢いを緩めぬまま──
「私と性交してくれないかしら」
「……は?せ、いこう……?」
ジョディの全身が硬直する。その様子を見ることすらなく、アイリーニはつづけていく。
「今回の暴行被害者のケアにおいて、私はあなたに対して劣っていたわ。前回のときもそう。そしてこれからもこういうことはありうるだろうし、私自身がそういう経験がないことで誰かを救う妨げとなるなんて、審問官としてあってはならないことだわ。今さら貞操なんて惜しくもない……だから──」
私と、性交してもらえる?
彼女の言葉が空に消え、車内には沈黙が訪れる。張りつめた空間において時計の針は極めてゆっくりと進んでいく。うつむいたまま動かないアイリーニを前にして、ジョディはなんとか頭を回そうとするが、恐魚の毒をくらったかのような注意散漫さが惹起され、思考が全くまとまらない。
(アイリーニさんが?僕と?なぜ?カフェでのことを気にしたからか?そんなことがあるはずが……こんなことはおかしい、アイリーニさんと僕が……、こんなことがあっていいのか?いや、しかし──)
時間としては短く、しかしジョディのなかでは恐ろしく長い時間の静寂を経て、彼はゆっくりと、しかし決然とした様子で口を開く。
「……アイリーニさん、そんなことをおっしゃらないでください。以前の深海教会……そして今回の件で気に病んでいることはわかりますが、あなたは……もう十分すぎるほどに立派にやっています。それに──」
ジョディは以前救助が間に合わなかった犠牲者たちのことを思い出し、なにかを押し殺したように言葉を続けていく。
「──あなたを、そうしたことから遠ざけたいと思う人たちがいることや、ご自分がどれほど人の目を引くのかとか、僕が……今僕がどういった気持ちでこうしたことを言っているのかとか、とにかくそういうことを、少しばかり考えてくれれば、嬉しいです。」
だんだんと小さくなっていく声の一方で、しっかりとした意思を持って、彼なりに真摯に向き合った返答を聞いたアイリーニはうつむいたまま、ゆっくりと口を開く。
「……そう、ね……ごめんなさい」
しとしとと降っていた小雨はゆるやかにその雨足を強め、ざあざあと車窓に打ち付けていた。
※
(……やってしまった)
宿に入ってからすぐに古い友人を訪ねてくる、などとうそをついて部屋を出てきたアイリーニは、思わず頭を抱えていた。
(いまさらどんな顔をすればいいのかわからないわ……どうしよう……)
ふらりふらりとすでに日の沈んだ町を歩く姿は生気に欠いており、小心者が見れば幽霊と見間違うかのようなものであった。傘に打ち付けられていく雨の音を聞きながら、それでもあてどなくさまようアイリーニの思考は先よりも散逸しており、冷静な思考が妨げられていく。
彼女自身には自覚はなくとも、彼女の提案は無意識のうちに憎からず思っていたジョディに対してだからこそ行えたものであり、それを彼自身に拒絶されるという形になったことが、彼女の心情を自暴自棄なものへと追いやっていたのである。
「──さん、お姉さん!」
「っ!」
「どうしたんだよ陰気な面して。さっきの男と喧嘩でもしたのか?俺でよければ話聞くぜ?」
アイリーニに声をかけてきたのは、先にカフェでアイリーニをナンパしてきたリーベリの男であった。なれなれしく肩に回された手を払う気力もないアイリーニは、この距離まで一般人たる男に接近をゆるした己のふがいなさに目を閉じる。
(ああ、私本当にこのままじゃ……)
「……ねえ」
焦り、くやしさ、悲しみ。そういった感情が募り、普段なら絶対に取らないような選択をアイリーニは取らされる。
「今晩、私と性交してくれる?」
ある程度の覚悟があったとはいえ、ジョディであったからこその頼みを彼に拒絶されたことで、自身の貞操の価値をあらためて低く見積もった彼女からすれば、もう自身が成長するためになら相手を選ぶことなどできないとまで考えてしまい──
アイリーニの無抵抗をいいことに肩に回した手を腰にまで持って行っていた男は、その好色に満ちた顔をわずかに硬直させたあと、にやりと歪めた。
※
(少し、怒らせてしまったのかな)
宿にてジョディはそう頭を抱える。彼なりに誠実さを用いて返答したつもりだったが、気まずさが残り、アイリーニが宿を出ていってしまったことに罪悪感を覚えているのだ。
(くそ、僕は……)
彼が何よりも罪悪感を覚えているのは、返事自体は嘘偽りのないものであるがしかし、あの瞬間、そして今に至るまで、アイリーニと自身が性交する想像が頭から離れないことであった。グランファーロで出会った時よりも成長し、少女と女性のはざまにあるとはいえ、比較的長身なルーメンにすっぽりと収まりそうな小さな体を組み敷く自分。あの白く美しい体を暴き、そこに自分が──
(馬鹿!アイリーニさんが出ていってくれて助かった……なんとかして気持ちを静めておかないと。彼女は審問官であり、この国を守る盾なんだから、そんな想像するなんて──)
「ひゅう!カフェで見た時から思ってたけど本当に美人だなぁ。かわいい体してるじゃん」
「別に私はあなたに体の評価をされにここまで来たわけじゃないわ。それと──」
ずい、と顔を近づけてきた男の顔を止める。
「キスはやめて。私は性交の経験が積みたいだけなの。それと先に謝っておくけど、私、あんまり感じないタイプだから。あんまり気持ちよく振舞えなかったらごめんなさいね。」
「……りょーかい」
※
(……なかなか眠れないな)
ふと時計をみると、アイリーニが宿を出ていってからずいぶんと時間がたっていたことに気づく。
(今晩は帰ってこないのかな?明日にはしっかり謝らないとな……)
一瞬再び彼女の艶姿が脳裏によぎり、必死にかぶりをふってその妄想を打ち消していく。
(まったく、アイリーニさんがそんな風になるわけないんだから、早く寝よう。)
「ぐ、あっ……ふんっ……ううっ……」
「ちょっと待ってよアイリーニちゃん、感じにくいって何だったんだよさっきからイきまくるじゃんかよ」
「うる、さい……イってなんか……ないから、続けなさい、あおっっ!?」
「おおっと失礼……だとするとぉ、このあたりかぁ〜」
「んんっ!っっぐぅ!ああっ、ぜ、全然大した事ないわね、あなたやっぱり下手くそなんじゃなっっぐぅ!おっっ!」
「……へへ、審問官と聞いてちょっとビビッてたんが馬鹿みてえだ……そんだけ言うなら好きなだけよがらせてやる、よっ!」
「おおっっっ!が、あ、あああああああ、あん、ああ、はっ、あああああああああぁ──」
「はは、足の先まで真っすぐじゃねえか!たっぷりイく感覚を覚えさせてやるからな」
※
「んん、ダメだな。寝付けないや」
むくり、とベッドから起き上がると、ジョディは隣の整ったままのベッドをみる。
(古い友人に会うって言ってたけど、どんな方なんだろうか……)
ごくり、と一口水を含むと、どっかりとベッドに腰を下ろし、おもむろに天井を見つめる。
(もし、男の人だとしたら……)
アイリーニの発言を再び思い出し、少し、胸騒ぎを感じる。
(はは、まさか、ね。あのアイリーニさんがそんなこと、しないよね)
そう、あの問いかけは彼女の疲れから出た気の迷いに過ぎないのだ、そう、そのはずなのだと懸命に思い込もうとするも、そう念じれば念じるほど、自分の選択に自信がなくなっていくことを、ジョディは感じ取っていた。
「が、ああ、ご、ごめんなさい!ごめんなさい!本当はもうイってるから、もう無理だから、お……ほぉっ!」
「馬鹿か!てめえがイきまくってるのなんざずっとわかってるんだよ、やーっと認めやがってこのどすけべ女が!くく、初体験とは思えない淫乱さだぜ、褒美として、おまちかねのチンポをくれてやるよ」
「あ、が……あ、はぁぁぁ、あん、ああ、あ、へぇ」
「はは、白目向いて舌付きだして、立派なアへ顔じゃねえか。これが審問官様とはとても思えねえや!今日でしっかり雌肉として仕上げてやるからなぁ」
「おおっ、イく、イく、もう、ずっと、おぉ、あ、頭がおかしく、もう、やめ、はぁぁん、ああっ!」
※
「おっ、おおっ!」
「はは、もうベッドがびちゃびちゃだなあ……おい、アイリーニ、舌出せよ!」
「っ!ま、まって、キスは、駄目だって、あ、あ゛あああああっ〜〜〜〜〜〜〜」
ぎゅう、と男がアイリーニの乳首をひねり上げたことで彼女は叫びながら絶頂する。そんな彼女を尻目に、男は彼女に叩きつける腰の勢いを増していく。
「や、やめて、もうイキすぎておかしくなってるから、お゛おおっ!お願い、もう無理だから、ゆるし、イくッ!」
「はは、だったらどうすりゃいいかわかってんだろ?スケベな審問官様よお!」
アイリーニの嘆願を気にもとめない男に、アイリーニはいやだいやだと身を捩らせるものの、本来なら簡単に振り払えるはずのチンピラの制圧を振り払えず、積み重なっていく快楽に耐えられなくなっていく。仮にそれが痛みであれば彼女の強靭な精神力でどうにでもなったであろうがしかし、それは彼女にとって未知であった快楽であることでその精神力さえも融解していく。
(ああ、ごめんなさい、ジョディ……)
浮かされた頭でなぜ謝ったかもわからないまま、荒い息を整えて彼女はそっと目をつむり、つん、と顔を向ける。
「……もう、好きにしていいから、もうちょっと、やさしく──」
「おいおい……エロすぎだぜ、審問官様!」
ごくり、と男がその淫靡さに固唾をのむと、一気に彼女にのしかかり、舌を貪っていく。気の強そうな、しかもまだ自身と年の近い頃であろうに審問官にまでのぼりつめた優秀な女に自らキスを求めさせたことで男の興奮は最高潮に達し、腰の勢いは増していく。
「ぶん、んぐ〜、んん!?」
男の勢いがましたことに耐えられずアイリーニはもがくものの、がっしりと男に頭を抱え込まれ、男に口内を蹂躙されている状態で快感がさらに強まり、その抵抗はどんどんと弱まっていく。
「ん、ぷはあ、出るぞ!審問官様、いや、アイリーニ!なかに、全部、出す!」
「ッ〜〜〜〜〜」
もはや声にならない絶叫とともに、彼女の秘部から愛液が噴き出す。それと同時にアイリーニのなかにどくりどくりと男の精液が送り込まれていく。優れた審問官たるアイリーニにつり合うとは到底言えない町のチンピラに過ぎない男の精が、しかし確かにアイリーニに注ぎ込まれ、彼女と混ざり合っていく。
荒い息とともに焦点が合わなくなった目をぼんやりと天井に向けるアイリーニとは裏腹に、男は彼女の肢体に興奮が収まらないようであり──
「よし、んじゃ二回戦といくか、安心しろよ、『今日のところは』朝までに返してやる」
「……え?ま、まって」
「待たねえよ、きっちり頼まれた分は果たさないといけねえしなあ、しっかりと男ってものを覚えさせてやるよ……へへ、審問官って聞いた時はとうとうやべえと思ってちょっとばかし焦っちまったが、とんでもない淫売だなぁ。こんないい女ぜってえ逃さねえからなぁ」
なにか、聞き落とすべきではないことを男が言っているようであったがしかし、快楽で浮ついた彼女の頭にはそれを判別する力もなく、そして彼女には覆いかぶさる男にもう対抗する力は残されておらず──
※
「ジョ、ジョディ、まだ起きていたの!?」
「い、いえ、アイリーニさんこそ、泊まっていかれなかったんですね……」
眠れぬまま早朝を迎えたジョディは妙な時間の帰宅に目を開く。どこか内股で息の荒いアイリーニは常の様子とは明らかに異なっていたがしかし、その色気がジョディに余計な口を挟ませない。
「ええ……ちょっと事情があってね……。あ……そ、それと──」
少し言葉を区切り、アイリーニはつい先程の男との会話を思い起こす。
『──アイリーニちゃんよぉ、俺ならもーっと凄いことさせてやれるし、今度は俺のダチにも会わせてやりてえからよぉ、明日も来いよ』
『悪いけど、私たちには仕事が、はっあっ、イくっ!』
『そりゃわかってるけどよぉ、いますぐ出なきゃいけないってわけじゃねえんだろ?それに俺はアイリーニちゃんの頼みを聞いてやった立場なんだぜぇ?ちょっとぐらいお礼としてもうすこーし深いお付き合いをしてくれたっていいだろうが、なあ?』
『んぐ、で、でも、あっやめっ、わかった、わかったから、おねがい、もう気持ちいいの嫌なの──』
喫緊の予定があるわけではないのは事実、つい先日まで働きづめであった以上、効率化のためには多少の休息がジョディにも必要、なにより自身が依頼を申し込んだのだから男にお礼をしなくてはならないのは確かだ──
頭の中で正当化理由をならべ、自身が快楽に流されたわけではないのだと理論武装を行う──そのこと自体が快楽に流されている証左であるというのに──を行ったアイリーニは、ゆっくりと口を開く。
「──こ、この町の滞在期間をもう少し延長することにしたわ。私たちもずいぶんと長いこと任務についていたし、少しばかしの休暇ということで……ね?」
「え……?あ、ああ、わかりました」
うしろめたさを感じるようなほほえみを浮かべるアイリーニに対しわずかな疑念を抱くジョディだったが、どこか妖艶な彼女の様子に夜の妄想が顔を出してきたことで雑念が追求を妨げる。
(いや、まさか大丈夫、あのアイリーニさんが、そんなこと……あるわけがないのだから……)