とある性教の雌女昇格(メスメライザー) 作:無ければ作れ(Invenire404)
「(おかしい……)」
上条当麻はそれをひしひしと感じていた。
今、己が横たわっているベッド。来場者数ナンバーズで貰った旅行パンフには書いていなかったサイズで、書いていなかった材質で……蕩けるような眠さを提供してくる最高品質。
インデックスとは扉一枚を隔てた別部屋─つまり部屋が繋がっているタイプのルーム─にいて、彼女は彼女で現在ルームサービスの食事を堪能している頃だろう。
「(おかしい……絶対に……)」
キングサイズのベッドを転がり、ベッドサイドにあるドリンクへ手を伸ばす。
こんなことをすれば、突然来訪者が来たり、あるいはインデックスが突撃してきたりして、ドリンクが零れてふかふかのベッドが台無しに、なんてことも考えられる。
しかし──そんなことは起こらず。
美味なるトロピカルなドリンクは勿論、昼に食べた様々がどーたらこーたらでお腹がぴーひゃららする、ということもなく。
「実に……実に、幸運……。なんだこの充足感は……いやむしろ焦燥感さえある……!」
総じて──五泊七日のドイツ旅行。一日目は、ひっじょーに有意義且つスウィートなものになったと言えよう。
異国の地で、お金に困ることも、言葉に困ることもなく……出会う人は陽気であるかプロフェッショナルであるかで、不快な思いをすることもなく。
「楽園だ……最早ここは……。……楽園、は。……使わない方がいいか?」
するりと出た言葉を、けれど最近よく耳にする……というか先日関わったばかりの魔術師の通り名を思い出し、自重する。
今のところ上条当麻本人への実害、というものが確認されていないし、なんなら助けてもらった気がする。正確には予め危険を取り払ってくれた、が正しいか。
だからイマイチ危険さ、というのがわからないのだけど、インデックスもステイルも建宮も、なんならあの時いなかった土御門も神裂までもが「甘く見るな」と言ってくる。
じゃあどういう魔術を使うのか教えてくれ、と言えば、途端にみんな押し黙るのだ。言いたくないのか、言うのがマナー違反なのか。もしくは知らないのか。
詳細を知らないのに悪い奴認定なんて上条さんにはできませんよ、と胸中で何度吐いたことか。
「……うん。やっぱり俺の中では、まだ楽園は悪い言葉じゃないし……ここは楽園だ……」
そう、結論付けた。
さて、そんな時である。
彼の携帯端末にメールが届く。差出人は安東だ。
" すまん、ちょっと知人に会ってくる。朝飯はルームサービスで出すように指示してあるが、足りなかったら追加入金しといたからこれでなんか食ってくれ"
内容はそれだけのもの。
……普段の上条当麻であれば、まぁ彼にとっては故郷なわけだから、そういうこともあるだろう、と流したかもしれない。
「(……今俺がこんだけ幸運で……その最中に 安東さんが出掛ける、って。……ちょっと……怖くないか?)」
もし彼の身に何かあったら。
勿論上条はそれを「不幸だ」なんてラベリングはしないけれど、「上条当麻が不幸になるための巻き添え」を食らう、という可能性は、それだけで見過ごせないというか。
もし安東が戻ってこられなかったら、あのインデックスとの二人旅になったら。
絶対に迷子が多発する。あのアプリがあってもどーしようもないような迷子が。そして食いまくるインデックスによって路銀は底を突き、果てにはパスポートを失くしたりなんかして不法入国者扱いになり、なんやかんやあってローマ正教とかその辺が出張ってきてお尋ね者に……みたいな流れが一瞬で想像できる。
そしてそうでなくとも……ここまで良くしてくれている安東が危険な目に遭うかもしれない、というのは、やはり看過できない話で。
上条は素早くメールを返信した。
" あの、ご迷惑でなければ、俺もついていっていいですか?"
" 構わんが、本気で知人と会うだけだぞ? だから日本語もほぼ話さないと思う"
" 最近語学に興味があるお年頃でして……"
" よくわからんが、承知した。禁書目録ちゃんに一言告げて、ホテルのロビーに来ると良い。"
しかし、この安東気朔という男、なんと寛容なことか。
ほぼこちらの都合の旅行の同伴。確かに一緒にドイツ旅行へ行ってもらえる大人、というのは思い付かなかった─両親を誘うならもう一枠欲しいし、小萌先生は普通に用事があった─から、適任ではある……のだが。
大覇星祭後の七日間を拘束したにもかかわらず、旅行の準備やホテルの下調べ、交渉、金銭面に迷子ケア。いやはや、あの瑞折が慕うわけである。
上条は「デキるオトナ」というのはああいのを指すのだろうなぁ、と独り言ちる。
──して。
彼は意を決し……猛獣の檻へと入る。あの猛獣の食事を邪魔するとはそういうことだ。
いざ。
「……ふむ。全身に噛み痕。歯形からして類人猿。南部にはバーバリーマカクという猿が暮らしているが、この辺に来ることはないはずだが」
「いえ、ライオンです。白い雌ライオン……」
「とうまが悪いかも。食事モードの私の前に現れたら、追加のメニューかと思って食べようとしておかしくないんだよ」
「上条は……筋肉ばかりで脂身が無いから、そこまで美味しそうには見えんな」
「ちょーい怖い怖い怖い! このお話は終わりで! ……で、そう、インデックスもついてきたいらしいんだけど、いいですか?」
「構わんが、夜だから、ツッコミの音量はほどほどにな」
「知らないの、とうま。ドイツの夜はね、法律で静かにしないといけない、って決められてるんだよ」
「おお、良く知っているな。そう、その通り。『
「……努めて静かにシマス」
「日常会話程度なら大丈夫さ。……さ、行こうか。車もこの辺りは30km/hくらいまで速度制限されるから意味がないんで、徒歩で行くけど……疲れたら言ってくれ。一人くらいなら負ぶってやるから」
「歩くのは慣れているから大丈夫かも」
「そうか。それと、そこそこ寒いから……閉店法で閉まる前に、服屋でコートか何か買うか」
考えてみれば当然であるが、知らない法律だらけである。
無論学園都市とて日本の法律を完全に守っているか、というと微妙なところなのでなんともであるが、こういうところも「外国にいるんだな」感の種だなぁ、なんて上条は独り言ちた。
そうしてホテルを出てみれば、本当に肌寒い。
100ユーロくらいのコートを上条とインデックスに買ってもらい、「俺は慣れているから平気」という安東が本当に寒そうにしないところに「生まれ育ったってこういうことなんだろうなぁ」なんてことを実感しながら歩くこと十分ちょっと。
ほとんどの寄り道無く辿り着いたそこは──『Zuvörderst』と書かれた看板の、ビリヤードやダーツなどが楽しめるBAR、らしかった。
「ズヴォーデースト……」
「旅行行く前に教えたよね? zuはズじゃなくてツォ! だから、ツォー・フェルダースト、かな」
「正しいが、この辺の奴らはツォー・フェルダールストって読むな」
「へえ。じゃあ南部の人達が多かったりするのかな」
「ああ、正解だ。俺もだが、正直ドイツより南部周辺国の方が馴染み深かったりする程度にはな」
「……えと、それで、どういう意味なんでせうか」
「日本語だと……『何よりも一番に』。『絶対最初に』みたいな意味かも。愛されるBARって感じがするよ」
そんな……おしゃんなお店に入っていく安東。当然の顔をしてついていくインデックスに遅れぬよう、上条も後へと続く。
「*来たぞ、メリンダ」
「*──おんやまぁ。本当に総支配人じゃないか。この国のことなんかとっくに捨てちまったんだと思ってたよ」
「*日本が住みやすくてな。……そして、メールした通り、この二人が今預かっている子供たちだ。あんまり余計なことは言ってくれるなよ」
「*わかってるって。……。……ツンツン頭の子は、純日本人、って感じだけど……シスターの子は違うのかしら?」
「*イギリス人だ。といっても語学に堪能でな、日本語もドイツ語もペラペラだよ」
突然始まった会話は当然ドイツ語である。最近語学に興味のある上条は──当然のように聞き取れていない。
ちらっと彼がインデックスを見れば。
「*総支配人? アンドーはどこかの責任者だったの?」
「*ああ、そうだよ、お嬢ちゃん。この人、この国にいた頃はホテルの総支配人だったのさ。そのホテルは今もうないけど、ここにいる奴らはみんなそのホテルで寝泊まりしたことのあるやつら、ってわけさね」
「*寝泊り、ねえ。マトモに宿泊料を受け取ったのは数回だけだった気がするが」
「*あの頃はみんな貧乏だったからさ。恩を忘れたつもりは無いから、いつかちゃんと返すよ。いつかね」
当然のような顔をしてドイツ語での会話に混ざるインデックスにがっくりする上条。
「とうま、アンドーは昔ドイツでホテルの支配人をやってたんだって。ここにいる人達はみんなそのホテルの利用客なんだって」
「それは……へえ、凄いな。そんな……言っちゃなんだけど細い縁が、今日までずっと続いているあたり、安東さんの人徳が窺えるっていうか」
「……けど、ここの人達」
少し小声で。ぽつり、と。
「どうかしたか? インデックス」
「……ううん。なんでもない。……それより、BARってことは、お食事もできたりするのかな」
「いやいや、旧友との語らいの場を邪魔するもんじゃありませんよ」
「*メリンダ、お前、創作エスニック料理とかやってたよな。この子は美味いモンにメがないんだ、食わせてやってくれ」
「*いいの!?」
「*いいけど、ちゃんとお代は貰うよ?」
「*寝泊り代をそれで払う、とかしろよ。まぁ払ってやるけどさ」
「*おっとその手があったか」
言葉はわからない。が、なんだかインデックスに都合のいい展開になったらしい。
しかし……と、安心する上条。
この店で不幸が起こることなど、早々にはなさそうである。杞憂であったのならそれが一番だ。
しばらくして出されたる料理は、美味しそうなエスニック料理の数々。
ドイツ料理ではないものの、その香りは食欲を促進する。
「*そっちのコの分も作ったから、たんとお食べ」
「とうまの分もあるって!」
「ありがとうございます!!」
「*このご恩は一生忘れません、だって」
「*なんだい、オーバーなコだねぇ」
若干の翻訳ミスはあったものの。
そして……これは「子供達には料理を食べてもらっていて、私達はあっちで昔話を」という意味だと空気を読んだ上条は、いただきます、をするのであった。
宴もたけなわ、盛り上がりがピークになってきた頃合いに……その男たちは店へと入ってきた。
一瞬で冷え切る店内。その剣呑な様子に、やっぱりついてきてよかったと思い直す上条。美味という意味でも思ってはいたのだが。
……あるいは自身が来たことでこれを招いてしまったのかもしれない、とも考えたけれど、すぐにその思いは振り払った。
三人の男。その内の一人が、安東を無理矢理にどけて、カウンターに頬杖を突く。
「*いつにもまして盛況じゃないか。儲かっているし、客もいる、というアピールか? メリンダ」
「*……エリーアス。言ったはずだよ、この土地は譲らない、って」
「*そいつは困る。つか、お上は20万ユーロも出してくれてんだ。こんな寂れた店なんざ捨てて、別のところに店を買えばいいだろう」
「*そういう話じゃないって伝えたはずさ。……客でもない奴がこれ以上居座るんなら、こっちだってやることをやるよ」
「*ほう? 何ができるっていうんだ、逃げるしか能のないあそこの出身者が──ぶっ!?」
コップに入った水が男にかけられる。これまた言葉がわからなくてもわかる。なんらかの交渉が決裂したのだ。
「*……クソアマが! ナメてんじゃねえぞ!!」
激昂した男が腰に手を伸ばす……も。
その手は、空を切った。
「*なにっ!?」
「*ふむ。お探しのものはこれか?」
早業である。
いつの間に抜いたのか、安東の手に一丁の拳銃が収まっているではないか。
……というかまさか撃つ気だったのか!? と、戦慄する上条。
「*てめぇ、返しやがれ」
「*無論だ。落し物は持ち主のもとに返さなきゃな」
放り投げられる拳銃。それがすとんと男の手に戻った……が。
「*この軽さ……テメェ、弾抜きやがったな!」
「*そんな暇は無いさ。落としてきたんじゃないか? 道中で」
「*そんなわけがないだろう! クソが、この俺をこけにしやがったな!?」
「*今は『
何か舌戦が行われているのだろう、ということはわかる。
証拠に男の顔がどんどん赤くなっていっているから。
ただ、彼の背後に立つ二人の男は、むしろ不気味なくらい何も言わない。直立不動に近い。
「*ハッ、だったら、かくなるうえは──旅をする者、明かりを目指す者!」
「*はいそこまで」
「*ぐぉ!?」
インデックスが口を出す……寸前のところで動いたのは、客の一人。
彼は男の腹部に強烈なパンチを入れ、担ぎ上げた。
「*イシュ。殺すなよ」
「*わかってるわかってる。『休息時間』を妨害したことを通報しにいくだけだから」
明らかに今、魔術を使おうとしていた。
交戦経験こそまだまだ少ないものの、そういうのがわかるようになってきた上条は、その事実に戦慄する。
店内で。しかも魔術を知らない相手に……。
「魔術はね、隠匿すべきものなのはその通りだけど、ああやって……脅しに使ったり、力を誇示するために使う人も、いるにはいるんだよ」
「……そっか」
「それに……あの後ろのでっかい人達も、多分ゴーレムか何かだと思う。とうまが触れば一撃で壊せるだろうけど」
「……危なそうだったらやるよ。今は……無暗に手を出すべきじゃないと思う」
上条とて出ていきたい。今すぐにでも。
けれど──今しがた出てきた客の一人。
あれは、マズい。今の今まで気付かなかったけれど、「ちゃんとした」、「本業の」人間だ。
防御や迎撃の行動を取るわけでもなく、担がれた男に追従するようにして歩く二人……二体のゴーレムも、恐らく自動制御のようなものはできていないのだろう。
ここは上条の出る幕ではない。それがわかった。
「*で。……なんだ、メリンダ。金に困ってるってわけでもないだろう。話を聞くに、地上げ屋のようだが」
「*ここに建てたいモノがあるらしいね、曰く」
「*その辺の法整備はされていたと思うが」
「*連中がそんなの気にするわけないだろ。毎日ってわけじゃないけど、あのエリーアスってやつが来ては"ままごと交渉"をさせられているよ」
「*ふぅん。俺の助けはいるか?」
「*総支配人が何を助けてくれるっていうんだい? まさか、連中をも黙らせる金額を提示する、とでも?」
「*残念ながらそこまで金持ちじゃないが、できることも無くはない」
「*よしとくれ。私らはもうとっくに巣立ったんだ。親鳥になったやつだっている。いつまでもアンタに寄っかかってる場合じゃない」
何か……恐らく救援を提案した安東の言葉も、メリンダと呼ばれているその女性は、遠慮するように断ったらしかった。
安東を巻き込みたくないのだろう。言葉が分からなくても、それは伝わる。
「*……死ぬなよ。もうモーニングコールがしてやれなくなる」
「*そんなの受け取った覚えはないけどねぇ。……ま、この後何があるかわからないし、子供連中を引き連れてとっとと帰りな。会えて良かったよ、総支配人」
「*イシュ含め、頼れるやつにはちゃんと頼れよ。それができるように教育したつもりだからな、こっちは」
「*わかってるよ。既に散々頼ってるさ」
「*ならいいがな」
席を立つ安東。
彼は上条たちの座っているテーブルを見て……ポン、と手を打った。
「*メリンダ、何か包むもの──」
「*
まだ三分の一ほどが残っていた料理が、秒と経たずにインデックスの胃に収まる。
もはや手品の領域であるそれに、周囲のテーブルからパチパチと拍手が起こった。
ふふん、とどや顔のインデックスに、最早額に手を当てるしかない上条である。
「*あらら、のどに詰まらせないのかい? 健啖家だねぇ」
「*健啖家関係ないだろ。……じゃあな」
安東は二人のテーブルまで来て、ようやく日本語を話す。
「すまんな、妙な事に巻き込んだ。面倒になる前に帰ろう。俺はどうか知らんが、お前らはそこまで記憶されていないだろうから心配は要らんよ」
「その……本当に大丈夫なんですか? 安東さんもだけど……このお店は」
「大丈夫じゃないと思うが、あいつも頑固なやつだ。そんで、さっき腹にグー入れて人一人を持ってった奴含めて、この店の常連にはこういうトラブルに強い奴が多い。ま、なんとかなるよ」
お金の問題。あるいは土地の問題。権利の問題。
そういうのは上条ではどうにもならない。
店を出る三人。
来た時より一層寒くなっている外気に驚きつつ、来た道を戻る。
そのさなかで──インデックスが、口を開いた。
「ねえ、アンドーって実は魔術師だったりするのかな」
「ちょ、インデックスさん!? な、何言って」
突然にもほどがあるし、色々隠匿しないといけないことじゃなかったのか。
そういう思いが彼の中を駆け巡る中で。
「マジュツシ、というのは? 魔法使いの事で合っているか?」
「それでもいいけど」
「だとしたら違うな。とはいえ真似事はできるぞ。テレレレッテレー。翳すと不思議なことにお金が湧いて出てくるお札~」
「いや湧いてでてきてるわけじゃない……っていうか、多分インデックスにはあの青狸伝わらないです、多分」
「なに。国民的アニメだろう。最早四次元ポケットとどこでもドア以外は大抵学園都市が"夢をかなえて"いる気がするが」
「学園都市ならちきゅうはかいばくだんまで作れておかしくない……」
「俺は独裁スイッチが欲しい。騒音対策に便利だ」
「二人とも、何の話をしているの?」
「驚いたな。本当に知らないらしい。……で、なんだったか。マジュツシ、だっけ。それじゃないぞ、俺は」
「……そっか」
脱線しまくった話を戻し、そこで一度会話が途切れる。
こそこそとインデックスへ耳打ちするのは当然上条だ。
「ちょっとインデックスさん? なんですかなんなんですかいきなり」
「だって……さっきのお店にいた人達、多分九割くらいが魔術師だったんだよ。その古い知り合いなアンドーが何も知らないって、ちょっと考えにくいかも」
「そうだったのか……。……けどよ、インデックス。安東さんって現地名があるにもかかわらず、そっちをパッと思い出せないくらいにはこっちに帰ってなかったって話だろ? アンドーさんの年齢感から考えて、多分十代のことだから……そういうことがあるのも不思議じゃないんじゃないか?」
「十代でホテルの支配人?」
「ぅ。……でもそういう人だっていなくはないだろ」
「それに……旧友の中に魔術師が一人二人混じっていた、っていうのならともかく、あれだけの人数が一堂に会していて、本来とうまと私は来る予定が無かった、ってところが……ミソかも」
「つか、仮に安東さんが魔術師だと何かあるのか? 別に良いだろ、何か悪事を働いているってわけでも──」
その……ぽやっとした言葉に、インデックスは眉間の皺を深めた。
「正体を隠した魔術師が学園都市に潜んでいる、ってだけで、普通に危険かも。とうまは麻痺しちゃっているんだよ」
「それは否定できない」
赤髪不良神父、アロハシャツグラサン陰陽師、眼前のアイアンメイデンシスターに、魔術的に意味があるのだとしてもやっぱり露出多すぎませんか衣装の聖人。
その辺に慣れ過ぎている、というのは確かにその通りだ。それだけでなく、シェリー=クロムウェルや闇咲逢魔なども当然の顔で侵入してきている。敵対しているとはなんだったのか、というほどに。
「アンドーはご飯をくれる人だから、あんまり疑いたくはないけど……とうまの疑わなすぎもちょっとキケンかも」
「……だとして、やっぱり安東さんはまだ悪いことなんかしてないから、信じたいけどな」
「……うん、じゃあ、とうまはそれで良いと思う。それがとうまの良いところだし」
どうか。
このまま何事も起こりませんように、と。
そう願うしかない──そんな夜の出来事だった。
……事件が起きたのは、その次の日のこと。
二人が起きた時には、安東からの書置きがあって。
十時ごろになって彼が帰ってきて、ようやく詳細を知ったのである。
「そ……そんな」
「すまん、本当に……完全に巻き込んだな」
「……」
マイン川下流にてエリーアス=ヴァーグナー、そしてイシュ=ホフマン……この両名が遺体の状態で見つかったというのだ。
それで、昨晩共にいた全員に当局が事情聴取を行っていて、それで呼び出されたと。
「……誰かに殺された、って……ことですか?」
「ああ。エリーアスの方は頭に一発貰っていて、イシュの方は何か鋭利なもの……刳り貫きを行う道具のようなもので心臓が刳り貫かれていたらしい。人間の心臓サイズを刳り貫ける道具を俺は知らんがね」
「……殺人」
上条当麻が、あまり関わってこなかった事件だ。
命のかかった戦いはたくさんあった。命を粗末に扱う実験も潰した。
だけど、誰がが殺意を以て誰かを殺す、という場面には。
「念のためホテルも変える……というか、フランクフルトを離れようか。これ以上面倒に巻き込まれると、旅行どころじゃなくなる」
「……ごめんなさい。ついていきたいってあの時俺が言い出さなければ」
「お前さんの有無で二人が助かった、とでも? ああいや、責めているわけじゃない。だから、気にしなくていいって話だ」
「とうま。……人が人を殺すのも、人が人に殺されるのも、不幸じゃないよ。……わかってると思うけど」
「ああ、わかってる。……これ以上迷惑をかけるのも悪いから、フランクフルトを離れるには賛成します」
「なら、少し北部の方へいって、アイスヴァインでも食べるか」
「アイスヴァイン! とうま、知ってる?」
「いや。氷菓、なのか?」
「塩漬けの骨付き肉をスパイスで煮込んだ料理さ。ビールにぴったりなんだが、流石にお前さんらには飲ませられん」
「……う、聞いてたらお腹空いてきた」
「ははっ、責めてるわけじゃないが、事件の詳細を聞いた後にそれになれるんなら、肝が据わってるな。……朝食代わりにルームサービスを頼んでからホテルを出るとするか」
「じゃあ朝ごはんでメニュー全部食べ尽くすんだよ!!」
──果たして。
彼らはまだ知らないのだ──これがこの「散々なドイツ旅行」の幕開けでしかなかった、ということを。