※この作品はR-18です。

とある性教の雌女昇格(メスメライザー)   作:無ければ作れ(Invenire404)

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エロ微


12.九月二十八日『三つ子の魂百まで』 - A leopard never changes its spots.

 午前8時10分。

 一方通行はそこ……電話の発信元と思われる雑居ビルへと辿り着いていた。

 しかし、無人。二階建てのどこにも人の姿は無いし、生活の痕跡もない。掴まされたか、なんて考えつつ、地下一階へ向かえば──そこで突然扉が電子ロックにより施錠され、閉じ込められる、という展開にブチ当たった。

 思わず口角を上げる一方通行。このまま手掛かりなしにしておけば諦めて帰ったかもしれないのに、わざわざ尻尾を出してくれたのだ。笑わないのは難しい。

 

 して、そこにあったのは。

 

「……原始的にもほどがあるだろォが。……いや、オレの逆探知をわかってての行動だとでも言うつもりかァ?」

 

 向かい合うようにしておかれた二台の通信端末。

 この物理的且つ原始的な「中継」を噛むことで、本当の発信元を偽装していたらしかった。

 

 一方通行がその二台を手に取った──その瞬間。

 ダクトから真白の気体が噴霧される。催眠ガスか、液体窒素か。

 どちらにせよマトモに受ける理由は無いとして、直上へ飛びあがることで脱出を図る一方通行。そのせいで雑居ビルが倒壊したが、彼の気にすることではなかった。

 

 

 午前9時50分。

 三度にも及ぶ同じ手口での「中継」にそろそろ苛立ちがピークに達しそうだった一方通行だが、最後の発信元がそこ──何の変哲もないファミリーレストランであることを察知し、近くのビル上に着地する。

 今までと同じ無人ビルであれば問答無用で破壊していただろう。しかしそこは、一般人が多く出入りする場所。平日であるしオープン前なので人は少ないが、それでも彼のような()()()が関わっていい場所ではない。

 

 別の方法を考えるか、あるいは計算ミスの可能性を考えるか──というところまで考えた一方通行の目に、黒煙が入ってくる。

 ボヤ。発生元は──件のファミレス。

 

「チ……証拠隠滅か、口封じか。なんにせよ気質に対して迷惑かけてンじゃ……あン?」

 

 ブチ切れそうになった彼だったが、違和感を覚えた。

 ボヤに対して焦っている従業員たちは良い。彼らにおかしな行動は見受けられない。

 

「なンだ? ……黒煙がファミレスの全体から出てやがる。ああなるってことは、見える範囲に火元があっておかしくはねェが……」

 

 多少近付いて音を拾っても、「火元を探せ」と叫ぶ従業員の言葉が聞こえてくるばかり。

 見つからない、なんてことは。

 

 

「つまり、さっきと同じ、いや逆で、この地下から上層に煙が昇っていっていた、っつゥわけだ。……しかも違法建築くせェなこりゃ。ファミレスに無断でアリの巣でもこさえていたってかァ?」

 

 ファミレス付近にあったマンホールから潜入したそこ。地下。

 黒煙の満ちている場所ではあるが、「何かある可能性」を考えて持ってきていた小型酸素ボンベを口に当て、煙をフィルターして吸い込まないようにしながら歩く一方通行。

 火の手は片っ端から酸素を奪って消火し、閉じた扉は蹴破り、ということを続けていく先で──ソレを見つける。

 

「……死体。に、拳銃と……カード?」

 

 半分以上焼け焦げている死体。その手元には拳銃と、見慣れない絵柄のカード。

 溜め息を吐く一方通行。恐らくこの火は、この死体を隠滅するためのもの。誰にも迷惑のかからない手段ではなく、こうまでも迷惑を振りまく手段で死体を処理しようとした誰かがいる、ということだ。

 

 これを見て。

 あのヒーローは、どう行動しただろうか。

 

「……うるせェ。ああクソ、第七位もあの最弱も、脳裏に住み着くクセをやめられねェのか」

 

 ガジガジと後頭部を掻いて。

 一方通行は、拳銃とカードを回収し、火の手の全てを消し去ったあとで、死体を担ぎ上げ……その場を去っていった。

 

 

 で。

 午前11時。芳川桔梗のもとへ戻ってきた一方通行である。

 

「……今更半焼死体なんて見ても驚きはしないけれど……これの身元を洗え、という話で合っているかしら」

「じゃなきゃわざわざ人目を盗んで死体運びなンざしねェだろ。……ガキは?」

「ウイルスと思われる微弱な電波以外の調整は完了したけど、その微弱な電波からの干渉がダイレクトになりつつあるみたいで、酷く消耗しているのよ。だから今は点滴に繋いで寝かせているわ」

「ダイレクトになりつつある、っつゥのは」

「本格的にウイルスになりつつある、ってこと。……出たわ。泡機(あわき)沁夜(しんや)。『人工代替(オルタナティブマトン)計画』及びサイボーグ技術関連の研究者ね」

 

 大抵の建物は屋上伝いで行けば視認されないものの、芳川桔梗の研究室へ死体を運び込むことに関しては通常の手段を取らざるを得ない。

 そのための人払いや隠蔽工作に時間がかかったものの、これにより「光を捻じ曲げて物体を隠す」という技法を獲得した一方通行であったとか。

 

「『人工代替(オルタナティブマトン)』?」

「一人の人間をバラバラにして、失った箇所をサイボーグ技術で代替。それを行うことで二人になった被験者に一年間を過ごさせたあと、生体パーツを繋ぎ合わせる。そんな実験のサブプランね」

「……その実験は実験でどォかしているようにしか聞こえねェが、サブプランっつゥのはなンだ」

「生体パーツの繋ぎ合わせを行った被験者にはサイボーグ技術の更なる躍進みたいな話で丸め込んでいたみたいだけど、研究者たちが本当にやりたかったのは魂の生成……。つまり、一年間人間の代替をしていた機械パーツを組み直し、そこに人間としての記憶を入力することで、『二人目』が生まれ出でるかどうか、というところを目指していたみたいね」

「……はァ。いつから学園都市はそォいうオカルトばっかがのさばるよォになったンだァ?」

「私はこの事例しか知らないけど、あなたにとってはそうではない、ということかしら」

「あァ。つい最近も魂だの完全だのの話に触れたばっかだよ。……で? なンでソイツが俺の端末にワン切りなんてことをしやがったのかについては、どォだ」

「それについてはまだわからないけれど、このカードについてはわかった。これは最近学園都市で爆発的な流行を見せている、『インディアンポーカー』というカードね」

 

 インディアンポーカーについての説明をする芳川。その芳川も、そして一方通行も、話の最中で気付く。

 

「まるで学習装置(テスタメント)だなァ」

「ええ、説明していて私もそう思ったわ。……睡眠学習を学習装置の催眠効果にすり替えたものだとすれば……想像以上に危険なものかもしれない」

「あるいは、拳銃自殺を図り、自分の死体を焼くトリックまでそいつに仕掛けさせる、的なことまで洗脳可能か、そいつは」

「どうやってその夢を作るか、というところではあるけれど……行使可能かで言えば、YESよ」

「つまり、コイツは口封じにその夢を見せられたか、あるいはこの夢が封入されていると知らずにカードを使ったか、あるいは復讐されたか、ってところかァ?」

「復讐? 誰に?」

「その実験の被験者に決まってンだろォが。被験者か、最高傑作の方か、どちらかは知らねェけどな。人一人の人生をメチャクチャにした代償が死ってのは、ありふれている話だろォが」

 

 悔いるように。恥じ入るように。

 その言葉に、何も言えない芳川。

 

 さらに……。

 

「……」

「なンだ。隠すンじゃねェよ」

「……ごめんなさい。これを見たらあなたは……怒りが制御できなくなると思ったの」

「見せろ。心配しなくても、今ここで暴れるなンてこたしねェよ」

 

 芳川が隠そうとしたもの。

 それは、この男の取引記録らしきもの。

 

 そこにあったのは。

 

「……『とある計画に使用されるはずだったクローンの横流し』……ね」

「ええ。原価そのまま、十八万円をかける四体分……微弱な電波の発信元の数とも一致するわね」

 

 成程、だってうってつけだ。

 何かと足の着く人間一人を被験者にするより、安価で足のつかないクローンを材料にした方が、よっぽど。

 

「だとして、俺にワン切りをかけてきた奴は、じゃァどこのどいつだって話だなァ」

「れ……冷静ね。もう少し……荒ぶるかと思ったわ」

「ハラワタは煮えくり返ってるが、オマエにキレたって仕方ねェだろォが。ガキが寝てるってのもあるが、怒りは吐き出すべき奴が眼前に来るまで取っておくンだよ」

「そう。……そういうコントロールができるのなら、私から言うことはないわね。……これを」

「ン……住所?」

「ええ。このカードの売買相手……トレーダーと思しき人間の住所よ。……前の君には殺人教唆になりかねないから教えられなかったけど、今の君は、大丈夫そうだし」

 

 あるいはそれは、曲がりくねった"信頼"なのやもしれない。

 一方通行はそのトレーダーのもとへ向かう──。

 

☆☆☆

 

 右を見る。

 

「あぁ……そ、その。宵明さん、あなたの首元の汗……よろしければ、私が拭いてあげましてよ?」

「あら、それは……お手元のタオルで? それとも……あなたの舌で?」

「お許しになられるのであれば……私のこの、舌で、首元だけでなく全身の……!」

 

 左を見る。

 

「んん……いつも抱き着いているのに、今日は格段に……良い匂いだし、……美味しそう」

「ちょっと、もう、どこに手を回しているのよ。……抱き着くなら、素肌で、ね?」

「ええっ、いいの? 今日のあたし、手加減とかできなそうなんだけど……」

 

 溜息を吐いて、突っ伏す。

 午前11時10分──常盤台中学、現在地獄。

 

 食蜂操祈はもう早退したい気分でいっぱいだった。

 あのお淑やかで健全な常盤台中学が、どこもかしこもピンク一色に染まっている。

 

 理由など論ずるまでもない。インディアンポーカーだ。恐らくそれを常盤台中学に流行らせた存在が、ソウイウ夢を大量に持っていて……結果がこれである、と。

 元から仲の良かった者達が一線を越えて乳繰り合い、しかもそれをはしたないことだと思っていない様子は、食蜂自身がおかしくなってしまったんじゃないかと錯覚するほどナチュラルに行われている。

 

 食蜂派閥での使用を禁じたのは今朝の話。だから、今朝分の夢にまでは手を出せない。

 たった一日でここまでの規模が淫靡に堕ちていること自体が頭痛モノであるが、最早これは『外装大脳(エクステリア)』を使用し、常盤台中学を一括で操作するくらいしないと止められないのではないかと思い始めた食蜂。

 

 その背後から忍び寄る影があった。

 

「女王、お疲れ様です」

「ひゃあああ!?」

 

 自然な手つきで──背後から近付いてきた女生徒の一人が、食蜂の豊満な乳房を両手で掴み上げ、人差し指と中指で乳首を挟み込んだ。

 

「ちょ、この──やめなさい!」

 

 咄嗟にリモコンを向けて休眠状態(スリープモード)に移行させ、難を逃れる。

 だらん、と手足をぶら下げた女生徒に、さらに追加で命令をする食蜂。

 

「どんな夢を見たのか言いなさい」

「……。女王は、人前で辱められることが好きで、陰核と乳頭に電気のような刺激を与えられることを好むため、背後から近付いてその三点を強めに責めつつ、服を破る、たくし上げるなどして露出させてあげれば、涙を流して喜びます。では実際にやってみましょう。……情報通り、女王の悦びようは普段の比ではありません。そしてその快楽はやがて、私にも伝播し、お互いが快楽の極みへと……」

「……それが、夢? ……やっぱりあまりにも具体力高めというかぁ、私をピンポイントに狙いすぎていうかぁ」

 

 もしかしたら、無作為に流行っているわけではないのかもしれない。

 そう思い始めた食蜂。そんな彼女の耳に、はふぅ、という息がかかる、

 

「……!?」

「おはようございます、女王。今朝は移動があったためにご挨拶に赴けず誠に申し訳ありませんでした」

「わ、わかったから耳元でささやかないで頂戴!」

 

 不要に思いつつはあるものの、まだ必要な通信端末……その中に登録されているSNSアプリ。

 派閥用のそこに、一枚の画像がアップロードされる。

 

 ──それは、絵画だった。紛れもない──食蜂操祈をハダカに剥いて、タコのような軟体生物と絡み合わせている春画。

 

「なななな!?」

「あら、よく描けていますわね。この子は絵画専攻ですし、今朝の着想から描き上げた、ということでしょうか」

「肖像権の侵害、っていうか、名誉毀損だし侮辱罪でもしょっ引かれるわよぉ!?」

「女王の肖像画はメンバー全員がロケットのような形で身に着けておきたいと前々から考えておりましたから、この画像をプリントし、ロケットや手帳の中などに入れることとしましょうか」

「私を無視とは良い度胸……って、もしかして本当に聞こえていないのかしらぁ? ……直ちに私のためを思った行動全てを中止しなさい」

「けれど、この絵画は少しだけ胸部が小さいような。実物を見せてあげたほうがよいかもしれません」

「そうと決まれば、女王、失礼し──」

「──」

 

 面倒臭くなったので、周囲にいる人間全員から意識を奪う食蜂。

 今朝、帆風潤子とは話が通じたことを覚えている。恐らくインディアンポーカーの使用深度のようなものが存在するのだろう。あるいは夢の内容そのものか。

 食蜂操祈と軟体動物……つまり触手のようなものが絡み合う、という夢自体、やはり10039号が関わっているとしか思えない食蜂である。その10039号、及び『アルモニ屋』には今通信が通じない。

 煮えくり返る臓腑を感じながら、手をワキワキさせた状態で停止している派閥メンバーの身の回り品を探り、ソレ……インディアンポーカーを手に入れる食蜂。

 

「……やっぱり。なんとなくそうじゃないかとは思っていたけどぉ、『才人工房(クローンドリー)』の、偉人に対して知識記憶を流入させる装置が元になっている感じねぇ。……つまりは、睡眠学習式の『学習装置(テスタメント)』。それと」

 

 今しがた届いたメール。その差出人は、食蜂が個人的に雇っている傭兵カイツからのもの。彼のことはひょんなことから手に入れたが、結構有能な傭兵である。

 彼には直接的なインディアンポーカーの流通元を探らせていた。御坂がそこまでするのなら、というアンサーが彼の稼働である。

 

「……操歯涼子。サイボーグ技術関連の研究者。『人工代替(オルタナティブマトン)計画』の被験者。三か月前に葬儀完了済み……ですってぇ? 死人がこれを流行らせたとでも……ドッペルゲンガー、ってこれ……」

 

 彼女の背後。

 忍び寄る影は──。

 

「"よっ、とぉ!"」

 

 教室の空調から出てきた、どっかの誰かを彷彿とさせる液体金属が壁になり、防いでくれた。

 

「……ちょっと、ここまで入ってくるってどういうつもりかしらぁ?」

「"酷いなぁ助けてあげたのに。まぁそんなことはどうでもよくって、一度胤河製薬に帰ってきてほしいんだよねぇ"」

「なぜ?」

「"今は私含め、レベル3とレベル4で防衛線を築いているからまだ保つけど、さっきから謎の勢力が侵入しようとしてきててさぁ~"」

 

 液体金属に埋め込まれたスピーカーから出る声。

 それは、かつては『極楽(エデン)』内のスライムとしてシステム化されていた大能力者(レベル4)、『液化人影(リキッドシャドウ)』の能力者、警策看取である。

 彼女と、そして食蜂の共通の友人であるドリー。この三者間の蟠りは既に解けている。胤河製薬を乗っ取ったあの日に解けた。

 現在は胤河製薬の防衛機構として働いている彼女が、こうして能力の一端を外部に向ける、というのもそこそこ珍しい話で、しかも食蜂との繋がりを匂わせることも、慎重派の彼女からしたら大胆がすぎる行動である。

 

「謎の勢力、というと?」

「"だから、ナゾなんだよねぇ。今のところ共通点はないんだけど、ショクホウを出せ、ショクホーを出せ、ってうるさくてさ。知り合いにショクホーって苗字がアンタしかいないから確定でアンタが探されてて、そのとばっちりがこっちに来てるって認識なんだけど"」

「だったらなおさら帰りたくないんですけどぉ?」

「"何言っちゃってんの。そこにいたら常盤台中学自体が戦場になりかねないよ。連中マジで躊躇ないから。さっきも──"」

 

 液化人影のスピーカーから、手榴弾を思わせる破砕音が響き渡った。

 

「ちょっと……大丈夫なの?」

「"『極楽(エデン)』のコたちは色ボケしてなけりゃ一端の能力者だから大丈夫。けど、このままじゃ連中ロケランとかまで持ってきかねないから、早い所原因やら何やらを突き止めたい所って感じ? 心理掌握じゃないと思うけど、連中もなんか操られてるっぽいんだよね~"」

「……わかったわぁ、早退してそっちへ行くから。それと、余裕がある時で良いから、『才人工房(クローンドリー)』出身のコたちに操歯涼子という研究者について知っていることがないか聞いておいてくれるかしらぁ」

「"ジョオーサマの命令とあらばリョーカイ、ってね。あ、ドリーは一番奥の奥にいてもらってるから安心して"」

「ええ、ありがと」

 

 いなくなる液化人影。

 食蜂はもう一度溜息を吐き……派閥メンバーから丁寧に記憶を抜き出したあと、早退手続きをするのだった。

 

 

☆☆☆

 

 

 午前10時20分。

 御坂美琴は佐天からのメールを開く。

 平日の午前中である。当然佐天にも学校というものがあり授業というものがあるため、恐らく休み時間をフルに使って調べてくれていたのだろう、御坂からの依頼……『インディアンポーカーに関する怖い噂話』を一つの話ではなく箇条書きにしたものが送られて来た。

 

「……自殺者、殺人者の夢を見ることで、自身が後追いをしてしまう、か。……あの夢の効果を考えれば、充分あり得る」

 

 怖い夢を見れば一定期間恐怖に怯える人がいるように、楽しい夢を見ればその日一日楽しく過ごせる人がいるように。

 狂気的な夢ならば、そのまま狂気に浸されてしまっておかしくない。

 また、食蜂が「そういうの詳しい人に聞いてみる」と言って返ってきた話であるものも、飛躍しすぎかもしれないが、当てはめることができるように感じていた。

 

 食蜂からの翻訳文は以下。

 

" 『不明信号』について。

 我々が数々の実験を経て作り上げたる『ロゴスの自己成就(オラクル)』(という名のウイルス。性質としてはルートキットとかファイルレスマルウェア系だと思うわぁ)。

 あの憎きミサカネットワークのファイアウォールが文字通りオーバーヒートしちゃうことになる。

 計画実行の際には(諸々が明るみに出やすくなるから)襲撃も考えられる。

 さすれば『天上の果実』(これは最後までわからなかったけど、多分報酬のことよねぇ)が我らに与えられん。"

 

 つまり、誘拐した妹達(あの子達)を用い、ミサカネットワークにウイルスを感染させて何かをしようとしている。『天上の果実』という目的のためのついでにファイアウォールの役割を担っている子を潰すことなども考えている、ということだ。

 この学園都市でわざわざこれら情報をどこどこの神話に当てはめて話していること。あるいは存在さえ怪しい『天上の果実』なる報酬が眼前にあるかのような文書は、狂気を覚えさせる。

 

 もし……たとえば、関係者全員が共通の夢を見せられ、『天上の果実』という不在の報酬を前提に動かされていたら。

 ミサカネットワークは研究者に不利益を齎すとも思えないから、あの憎き、という部分もまた洗脳だとしたら。

 ウイルスの製作自体も狂気によるものだとするならば。

 

 確証バイアスの入り混じる負のスパイラルに入ろうとしていた御坂。そこへ、不意に、影を差すものが現れた。

 彼女が顔を上げれば──そこにいたのは、西洋人形のような顔の少女。

 

「グッドモーニングです。と、モリヤは平日の朝から呼び出しという学校に通っていないムーブをかましてきた御坂様に挨拶をします」

「おはよう。……学校には通っているけど、ちょっと緊急事態で、今日は早抜けした感じ。……そういうあんたは、学校行ってないの?」

「モリヤの学校は第一四学区にありますが、今日はお休みでした。振替休日か何かだったと記憶していますが、休みだったことしか記憶していないので詳細は覚えていません。と、モリヤはこれ以上探られても適当なことしか言えないアピールをします」

「いや探ってるわけじゃないから……。……ま、座ってよ。ちょっとお話聞いてみたかったの」

 

 大覇星祭期間中、誘拐された彼女を助けた御坂である。助けた時の詳細は、実はよく覚えていない……のだが、気付けば食蜂と彼女がそばにいたし、そこでお礼も言われていた。

 何かの縁ということで交換した連絡先であったが、普段携帯端末を携帯していないとかいう常軌を逸した生態であるらしいモリヤ。その彼女への呼び出しは一か八かになるものだったが、ちゃんと呼び出されてくれたようで何より、という次第である。

 

 テーブルにつき、招いた側としてソフトドリンクを一杯差し出し。

 

「まず、インディアンポーカーって知ってる?」

 

 と、切り出す御坂であったが──。

 

「──以上がトランプゲームインディアンポーカーに関する説明です。と、モリヤは自身の持つ知識を披露し、ドヤ顔をしてみせます」

「ドヤ顔って、アンタ基本無表情じゃない。……っていうかそうじゃなくて。原義のインディアンポーカーはどうでもいいのよ。……ま、その様子で知らない、っていうのはわかったけど」

「創作物等々におけるインディアンポーカーは確かに知りませんが、目の前で無駄足か、みたいな溜息を吐かれるとこちらとしても謝罪の意が勝ります。と、モリヤは以前のお礼にはならないことを痛感します」

「ああ、お礼とかはよくって。……ごめんね、呼び出して……こんな態度で」

「とりあえずなぜモリヤを呼び出したのかをお聞かせ願えますか? と、モリヤは最初の問題に立ち返り、問いをします」

「ああ、それは」

 

 シンデレラのインディアンポーカーにおける配役の説明をする御坂。

 モリヤは終始首を傾げていたけれど、一応は納得した様子であった。

 

「それを聞いてもやはりモリヤでは力になれそうにありません。と、モリヤはおかしな希望を持たせないようずばっと言います」

「そうよね。……うん、わかった。ありがとう」

「ですが、そういうのに詳しい方に聞くことはできます。と、モリヤは"よほどのことがあった場合にだけ使うように"と渡されていた緊急回線通信の電源を入れます」

「ちょ、それはやりす──」

「"どうした、何事だ。これを使うっていうことは、命の危機レベルだと判断するが"」

 

 聞こえてきたのは男性の声。

 モリヤが首に提げていたロケットのようなものから聞こえてくるそれは、スピーカー越しの声とも違う、不思議な印象を与えるもの。というか電子機器という様子もないが、はて。

 

「命の危機はありませんが、尊厳の危機です、所長」

「"……はぁ。無駄に身構えさせやがって。……説明した通り、それ一回こっきりで、もう一度使うには俺が帰ってからじゃないといけない、っていうのは理解した上で使ったんだな?"」

「はい。モリヤの尊厳的に、御坂様に頼られるケースでは十全以上の価値を発揮したいので」

「いやだから、そこまでしてくれなくていいってば。……それに、聞いた感じ使い切りの緊急回線って感じだし……ごめんなさい、この子に無茶させちゃって」

「"ああ……いや、良い。そこまで値の張るモンというわけでもないからな。御坂美琴、で合っているか? 超能力者の第三位"」

「はい。というか、どこかでお会いしたことがありますか? 聞き覚えがあるような……」

「"直接の面識はないはずだが。……お初にお目にかかる。俺の名は安東。楽器店『アルモニ屋』の店長兼、『磁性流体研究開発局霊磁性体研究所』所長をしている。モリヤはそこで能力等々を見ている生徒でな、あるいはどちらかの肩書きから俺を知っている、という場合もありけりだが"」

「どちらも聞いたことあるような無いようなで……ごめんなさい」

「"謝る必要はないさ。……で、まぁ、現在俺は海外にいてな、特に何かをしてやれるって話でもないんだが……。モリヤ、何用で俺に繋げたんだ?"」

 

 会話を切ってから、『アルモニ屋』が確か白井たちの追っていた事件の、でも結局関係なかった……そして食蜂操祈がなぜか店番をしていた場所、という記憶が掘り起こされる。

 さらに先日モリヤとの会話に出てきた「ホームステイ先の方々が全員家を空けている」、「食蜂操祈に預けられている」というところから、その「ホームステイ先」が彼で、彼が海外旅行に行っているからこうなっているのだ、と……点と点を線で繋げる御坂。そういえば食蜂自身も「ちょっと事情があって『アルモニ屋』店長から預かっている」と言っていたか。どうしてそうも迂遠な言い回しをするのか、溜息を吐く御坂である。

 

「御坂様の現状陥っている状況から、何か打破が見つからないかとモリヤが頼られまして。しかしモリヤには何の解決手段もなかったため、所長ならば何かしらの答えをくれるだろうと連絡を差し上げた次第です。と、モリヤは所長に対する全幅の信頼を見せながら言います」

「"全幅の信頼って……聞こえは良いけど、こいつに丸投げすれば大抵なんとかしてくれるだろ、って意味だろ、それ"」

「モリヤはそれを全幅の信頼と呼んでいます。と、モリヤは悪びれもなく告げます」

「"はぁ。……ま、これでもそこそこ知識はあるつもりだから、話せることがあれば話してみるといい。話したくないことまでは話さなくていいから"」

 

 本来であれば御坂は初対面の人間を巻き込もうとはしない。いや、モリヤや佐天に対しても情報を限りなく絞り、余計な手出しが向かないようにしている。だからここで「いえ、遠慮しておきます」と言うのもいつものことだった。

 しかし、相手が海外にいることと……本当にモリヤが全体重を預けているところが、どうしてか、自身もそうしていいような気になって、今自身が追っているあれそれについてを話してしまうのである。

 

 果たして。

 

「"話を整理すると、1.御坂さんの知人四人が行方不明である。四人は家族同然の仲であり、顔立ちも似ているため、御坂美琴と間違えられたか、御坂美琴に対して強請りや脅しをかけるために攫われた可能性がある。2.攫われた四人に関する狂気じみた文書を発見。内容を知り合いに翻訳してもらったところ、彼女らが所有する能力者固有のネットワークのようなものを侵すウイルスに関する話らしかった。3.現在学園都市で流行中のインディアンポーカーという道具は、夢を見た者に技術や記憶、そして感情まで植え付けることが可能であり、そこには狂気も含まれると考えられるため、狂気じみた文書と関わりがあるかもしれない。4.同じくインディアンポーカーでシンデレラの物語を夢見た御坂さんはその配役に違和感を覚え、モリヤを呼び出すも、当のモリヤは完全なる無知で使い物にならなかった"」

「所長。モリヤは所長と御坂様とのハブ役になったので、使い物にならなかったは言いすぎです。と、モリヤは苦言を呈します」

「"ああ、封殺する。……整理するとわかることが一つあるな"」

「わかること?」

「"ん、客観的立場だからか? この3.の内容、明らかに『学習装置(テスタメント)』だろう。よくわからん実験の副産物で、裏で横流しされているという装置。モリヤの言葉がおかしくなった原因"」

 

 言われてみれば、確かに。

 妹達(あの子達)の人格を整えるため、布束砥信によって開発されたソレ。

 インディアンポーカーの性能と酷似している。

 

「"そして……あー。……俺が内容を知っている、というのは些かマズくてだな。絶賛秘密にしてほしいというか。……その、御坂美琴。お前さんの……"」

「そ。やっぱり知っている人は知っているのね。……大丈夫、知っていることを理由に脅したりなんだりっていうのは、少なくとも私はやらないから。……あなたも知識の拡散はしないでくれると助かるけど」

「"無論だ。というか俺はもう学会からは大分干された身でな。俺の話に耳を傾ける奴は数人しかいない。……なんて俺の話はどうでもいいんだ。……えーと。だから、その『最終目標のよくわからん実験』と『学習装置(テスタメント)』には当然密接な繋がりがあるし、1.の……顔の似ている四人、というのは"」

「ええ、そう。そういうこと。……だから、この1.から3.までの話は全て同じ話である可能性が高いってわけね。横流しされた学習装置。それを流用したインディアンポーカー。ネットワークを害そうとする計画書には、ファイアウォールをどうこうする、って内容もあった」

「"件のネットワークは件の実験の成果物……っと、すまない。被験者しか接続できないはずだ。だから……俺は知らんが、いるんだろう。ファイアウォールの役割を担う個体が。その子が喫緊で危ないのがまず一点。連絡手段があるなら連絡を入れておいた方が良い。インディアンポーカーも相当危険な代物と見ているから、できる限り回収の流れを作った方が良いな。それこそ恐ろしい夢を見るとそれが実現する、みたいな都市伝説を流す、とかで"」

 

 どんどん進んでいく話。先程までの詰まりが嘘のようだった。

 配役……最も厄介な存在として御坂はモリヤを継母に置いていたけれど、あるいはこの安東という男の姿を見たことがない故の代役だったのかもしれない、と考える。

 だって、暗中模索の打破という状況そのものだ、これは。食蜂操祈を通り越して彼が妖精さんまである。

 

「"4.の話も少し気になっている。聞いた感じ、インディアンポーカーというのはあくまで他者が見た夢を見ることのできる装置だろ。だが、御坂さんの見たシンデレラの夢は、配役が無意識の表れになるというフレキシブルなもので、しかもそういう夢であることを御坂さんにそれを渡してきた人は知っていた。つまり同様の夢を量産できるやつがいるってことになる。……そんな完璧な物語仕立ての夢を見る、っていうのは……難しくないか。夢っていうのはそもそも無軌道乱雑なものだと俺は思っているんだが"」

「確かに、そうね。……夢に関連する能力者がいれば、それも可能になりそう」

「"ああ、そっちもあるか。それは失念していた。俺が考えていたのは『学習装置(テスタメント)』を弄る技術やインディアンポーカーを製造できる技術があるのなら、特定内容の夢を作る、ということくらいは造作もないんじゃないか、という話だ"」

「……つまり、シンデレラのカードを作ったのは……インディアンポーカーの流通元。販売者、ってこと?」

「"それも無意識の鮮明化とは別の意図があって、と見るべきだろう。こうも爆発的な流行を見せているところから考えても、インディアンポーカーの作者には何か別の目的があり、カードやカードによる洗脳を受けた人間が学園都市に溢れかえること自体を狙っているように思う。──さて、共通の夢……つまり共通の脳波を複数の能力者が共有する、という事例に対し、思い浮かぶものは?"」

「……嘘、『幻想御手(レベルアッパー)』まで出てくるわけ?」

 

 幻想御手。それに纏わる事件は数か月前に解決されたはずだった。しかし。

 

「"俺はその事件については概要しか知らんが、木山春生の論文なら幾つか読んだことがある。で、ここまで考えると浮かぶのは、二つの黒幕だ"」

「……あの子達を攫い、『ロゴスの自己成就(オラクル)』っていうルートキットウイルスに仕立てあげようとしている連中と、インディアンポーカーで学園都市全体を使ってどうにかしようとしてる連中は、別……ってわけ?」

「"と、睨んでいる。あまりにも目的が違い過ぎるからな。前者の目的は生体ファイアウオールの子に一泡吹かせることと、『天上の果実』なるものに辿り着く……『ロゴスの自己成就(オラクル)』の効果発揮を以て、何某かから与えられる、つまり認められる的なニュアンスに聞こえる。後者はもっと能動的に学園都市へ揺さぶりをかけ、学園都市に無数の超能力者がいる、ということを下地に何かとんでもないことをしようとしている、という風に聞こえる。切り分けをするなら、1.から3.までがその『不明信号(ミッシングノイズ)』という事件であり、その一部にインディアンポーカーが紛れ込んでいただけ。4.のインディアンポーカーそのものは全く別の事件、という話だ"」

 

 正しい切り分けであるように感じられた。

 モリヤが全幅の信頼を寄せる相手。寄せられるだけの頭脳はあるらしい。

 

「つまり……インディアンポーカーに関する話を追っても、私が求めていることには辿り着けない可能性が高い、ってことよね」

「"ああ。警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)にとりあえず投げておいて、解決しなかったら後日関わる、くらいでいいだろう。聞いた感じ広くへ浸透しなければ意味をなさないタイプっぽいから、普通のインディアンポーカーに紛れてそういうのがある、って分にはまだ大丈夫だと思う"」

「……そうね。私も……そう思う」

「"じゃあこの話の出口がどこかと言えば、このウイルスがルートキットの振る舞いを見せている、という点だろう。ルートキットを洗い出す方法はわかるか、御坂さん"」

「一般的に言えば、オフラインスキャンをかけるか、整合性チェックをするか」

「"その通り。とはいえ件のネットワークは能力固有の仮想上にあるようなものだし、それに接続している人数は万に近いわけだから、オフラインスキャンをかける、っていうのは難しい。よって整合性チェックが一番の近道だ。絶対にウイルス感染していないと言える被験者の脳波を正規とし、その他の被験者の脳波を比較する。恐らく生体ファイアウォールと呼ばれている被験者は常日頃これをやっていて、そろそろオーバースペックに陥るんだと思うが……被験者の脳波データをコード化し、それを比較する、っていうのは、御坂さんの頭脳があれば可能か?"」

「いや、人力でやるものじゃないわね、それ。あくまで偽装するのが振る舞いだけなら、普通に機械にアウトプットして比較した方が早いし確実よ。……確かに私は学園都市の第三位だけど、そんなスパコンみたいな性能を求められても困るから」

 

 一瞬間が空く。まるでスパコンの代替になれる人間を知っているかのように。

 

「"そうか。いやすまん、俺自身は超能力者でもなんでもないただのおっさんなものでね。夢を見過ぎた。……とにかく俺から言えることはこれくらいだ。正常じゃない脳波を出しているやつがいれば、割と簡単に辿り着けはすると思う。所在地自体にはな。……ただまぁ九割がたどっかの研究施設だから"」

「危険は承知の上よ」

「"そうか。……俺は一応指導者だから、行け、とは言えないが。……死なないでくれ。流石に俺の助言のあとに死なれると寝ざめが悪い"」

「そうバツの悪そうな声になる必要なんか無いと思うけど。この整理だけでもかなり助かったし、解決の糸口を導いてくれたことには感謝しかない。……海外にいるって話だったけど、そっちこそ気を付けて。このままだとモリヤさんっていう純朴そうな子が、妖怪蜂蜜爆乳女の毒牙にかかっちゃうから」

「"ははは……食蜂のこと、嫌っているわけではないんだろう?"」

「ええ……まぁ。色々助けてもらったし」

「"あいつはツンケンしているし、友達なんて要らないと口先だけでは言うけれど、本質的にズカズカ踏み込んでくるタイプには弱い。突っぱねられても気にせず突っ込んでいけば、受け入れざるを得ない。そんなことはお前さんに言うまでもないか"」

「そうね。概ね同意見よ」

「"ならいい。あいつの保護者の縁で面倒を見たりなんだりしているが、本質的に俺は他人だからな。御坂さんみたいな同年代の友達がいると思うと頼もしいよ。……さて、そろそろ話を締めよう。モリヤ、お前さんからは何か言い残したことはないか?"」

「存在を忘れられたわけではなかったのですね。と、モリヤは自分からハブになることを言っておきながらハブられたことに多少憤慨をしつつ、返事をします。そして、言い残したことですが、結局『天上の果実』なるものは所長的になんだと睨んでいますか? と、聞いていないフリをしていても聞こえてきてしまっていた内容に踏み込んで問を掛けます」

 

 確かに、と唇を噛む御坂。なぜか全体重を預けて赤裸々に話してしまったけれど、モリヤにここまでを関わらせるつもりはなかった。

 ……守る対象にモリヤも追加する御坂。巻き込んでしまった以上は、だ。

 

「"ふむ。……学園都市には馴染み無いだろうが、『天上の果実』といえば、やはり旧約聖書に出てくるアダムとイヴの口にした禁断の果実だろうな。神の創りしはじまりのヒト、アダムとイヴ。神は二人に、他のどの木の実を食べても良いが、善悪の知識の木の実だけは食べてはならない、それを取って食べると、あなたは必ず死ぬからである。と命じた。しかし、賢き蛇が、実を食べても死にはしないし、神になることができると、二人を唆した。唆された二人は実を食べ、善悪を得て、無垢を失い、羞恥を覚え、神から追放された。元来不死であったはずの二人には寿命が課され、蛇もまた追放の刑を受けた"」

「概要くらいなら知っているけれど……作り話のそれが、本当にあるってこと?」

「"流石に何かの例えだろう。他がそうだったわけだし。……禁断の果実の特徴は、言ってしまえば『目隠しされている常識を取り払い、真実を与える』というものだ。学園都市にそれを当てはめると……まぁ、該当しそうなのは一つだよな"」

絶対能力進化(レベル6シフト)……」

「"こっちは憶測の域を出ないがな。蛇の名前がサマエルとか、善悪の知識の木とはダアトの物質化であるとか、世界的に散見されるカリギュラ効果の『見るなのタブー』とか、言える内容はいくらでもあるが、多分その辺はお呼びじゃないだろう。つか調べたらすぐ出てくるだろうし"」

「え、ええ。あんまりオカルト染みた話だと頭に入ってこないカモ……」

「"……ひとつだけ。行動系禁忌っていうのは世界中に散見されるが、対象が『果実』且つ『食べる前と後で状況が一変する』ものだと、たったの二件にまで絞られる。その内の一つが今しがた話した禁断の果実だが……もう一つは、ケルト神話における『妖精の果実』だ。こっちは食べると人間の国に戻れなくなる、という食物的禁忌を取っている"」

「人間の国に……」

「"『天上の果実』だけじゃどっちのことを指しているのかまでは判別つかないってこと。それはだから、こいつらが禁断の果実(レベル6という知識)を目指しているのか、それとも妖精の果実(違う世界に行くこと)までかはわからない。……体感、前者ならまだ学者連中っぽいが……後者の場合、死を扉として認識しているパターンが多いように思う"」

「後者の場合、カルト具合が跳ね上がる、ってことよね。……わかった、充分に気を付けるわ」

「"再三だが、死ぬなよ。食蜂の友達が死ぬ、というのも……中々受け入れられんからな"」

「ありがとう」

 

 そうして……うんともすんとも言わなくなるロケット。

 

「私の質問だったのに勝手に切られたことに多少の憤慨を覚えつつ、モリヤは御坂様の安否を心配する視線を向けます」

「大丈夫よ。これでも第三位だから。……ただ、これ以上は危ないから、呼び出しておいて悪いけど、家に帰ってほしいの」

「……わかりました。普段なら食い下がりますが、のっぴきならない状況のようです。と、モリヤは潔く承諾を返します」

「全部解決したら、事の顛末を教えるから。その時また……ゆっくりお茶でもしましょ」

「はい。と、モリヤは御坂様にエールを送り、この場を後にします。リンゴジュース、ごちそうさまでした」

「じゃあね」

 

 時刻は11時を回っている。御坂はカエル顔の医者にファイアウォールとルートキットの旨を伝える通信を入れつつ、食蜂にまた通話を繋げるのだった。

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