※この作品はR-18です。

とある性教の雌女昇格(メスメライザー)   作:無ければ作れ(Invenire404)

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エロ微


13.九月二十八日『木乃伊取りが木乃伊になる』 - Go for wool and come home shor.

 ICE……ドイツの高速鉄道に揺られてベルリンまでやってきた。午前十一時にフランクフルトのホテルを出て、こっちのホテルについたのがが午後三時。一回昼食用に途中下車したけど、そこまで時間を取られずに済んだかな。

 しかし、その昼食では足りなかったのだろう。チェックインを済ませるなり禁書目録の腹の虫が喚き立ててきたので、近くのレストランへ。目的のアイスヴァインにもありつけた。

 その食後すぐ……俺達が会計を済ませて店を出ようとしたその瞬間だった。

 

 表の通りで、車が車に突っ込んで大爆発大炎上、なんてサスペンスもびっくりなアクションが繰り広げられたのは。

 咄嗟に近くにあったテーブルクロスを引き抜いてガラスの破片をガード。

 

「なぁ……!?」

「フツーに速度超過……だが、ブレーキ音が聞こえなかったな」

 

 俺がそうしたように、上条当麻も咄嗟に禁書目録を守ったらしく。やるねぇ、ヒーローは。

 

「*素晴らしいお手並みですが、お客様、お怪我はありませんか?」

「*ああ、問題ない。それより早いところ救急と警察に通報を」

「*承知いたしました。状況は私どもがお話しますので、お客様はお帰り頂いて問題ありませんよ」

「*子供達がいるんでね、そうさせてもらうよ」

 

 アルバイトなどを入れていないちょっとお高めのレストランにしたからな、こういう際の対応もばっちりなんだろう。

 ……しかし、上条当麻は……少しナイーヴになりかけているな。さもありなんだが。

 禁書目録がいる手前下手に使い魔を飛ばせないので、後で接続して組み立てる用の『霊磁性流体』を茂みに隠しておく。

 

「あとは店で対応してくれるそうだ。俺達は退散しよう」

「……俺が」

「とうまのせいじゃないよ。というか、とうまの不幸一つでそんな簡単に人死にが出るんなら、学園都市の総人口は今の四分の一くらいになっていたかも」

「先日から不幸だ不幸だと言っている程度には不幸なのやもしれんが、俺も禁書目録ちゃんに同意見だ。というよりお前さんのそれはネガティビティ・バイアスに聞こえるよ」

「ネガティビティ・バイアス?」

「良いニュースや褒め言葉より、悪いニュースや批判的な意見に目がいきがちである心理・認知的現象のことだ。注目の偏りだけでなく、記憶への残りやすさもそのケがある。お前さんは自身と自身の周囲に起きた不幸を逐一不幸だと認識しているようだが、周囲で起きた良いこと、良かったことについては"起きて当然のこと"とばかりに認識しない」

「あ、いや、そういうわけじゃ……」

「偶さかドイツに着いてそうそう殺人事件に出くわし、偶さかその次の場所で暴走車事故に出くわした。その二点だけをピックアップすれば、まるでお前さんが事件や事故を引き寄せているように見える。だが、たとえばこの店がいつも通りに食事を出すことができた、という小さな幸運も、今俺が引き抜いたテーブルクロスによって割れた食器類が無いという小さな幸運も、あるいは遅延が出やすいICEの列車を途中下車したのに遅延なく目的地に着けたという小さな幸運も経験しているというのに、お前さんはそれを"自身がいたから起きたこと"には数えない」

 

 学園都市は上条当麻専用の「そういうことが起きやすい場所」である。そして、学園都市に来る前の上条当麻も不幸に見舞われていたというから、確かに他者よりは不幸であるのやもしれない。

 だが、同量かそれ以上の奇跡を……こいつにとっても他者にとってもそうとしか呼べないものを起こし続けるこいつを誰が「不幸の塊」と形容できようか。

 本人にだけ自覚がない、というのは、怠慢である、としか俺は考えない。

 

「お前さんがもし運勢に関する何かを引き寄せているのだとしたら、今の一瞬でこのレストランにいる存在の誰一人として怪我しなかった幸運も引き寄せたと考えるべきだ。目の前で誰かが転んだことは、決してお前さんのせいじゃあない。いいな、上条」

「……」

 

 む。ぽかーんとしてらっしゃる。

 ……言いすぎたか。というか、知っていることを喋りすぎたか? なんでお前みたいなほとんど関わりの無いおっさんがそこまで知ってんねん案件か?

 

「さて、移動しようか。州警察に捕まると長いぞ」

「……あ、ああ。……なんでだろ。ちょっと……嬉しい自分がいたり」

「嬉しい?」

「ん。んー……。大人が周囲にいない、ってわけじゃないけど……俺の不幸を理解した上で、それでもそれだけじゃない、って言ってくれる大人が……両親以外には、いなかったからかな。今回の旅行の保護者枠、安東さんに頼んで良かったかも」

 

 ……。光属性め。

 おっさんの小言など聞き流せば良いものを。

 

「むぅ。私だってほとんど同じことを言っているのに、アンドーだけズルいんだよ」

「そこは流石に大人の含蓄、というか説得力かもしれん。まぁ文句は後で聞くから、行くぞ」

「はーい」

 

 そんな感じでレストランを離れた俺達……だったのだが。

 

 

 通信端末を切る。

 電話の相手はメリンダ。内容は、また殺しがあった、というもの。

 殺されたのはトビーという、これまたあの店にいた……そして巣にいた奴の一人。

 

 連続殺人事件、というやつになるのかね。

 

 これを上条たちに言うか言うまいかを迷っていた午後4時頃、ホテルの部屋を訪ねてくる存在が。

 色々警戒して出てみれば、州警察と来た。

 件の事故の目撃者として話を聞きたい、ってことで、店にあったレシートから今の俺達の所在を突き止めたらしい。

 

 まぁこれに関しては疚しいことなど一つも無いので状況を事細かく説明したら、とても助かります! なんて言って帰っていった。本当に情報収集をしていただけのようだ。

 しかし、そうしてくるということは……運転手はどっちも死んでて、ドラレコもお釈迦か最初からつけていなくて、かな。

 

 さて。

 ……上条当麻の不幸体質がどうのこうのが多少なりあるのだとしても、大元はどっちかっつーと俺だと思うんだよね。

 死しているのがかつての巣にいた者たちであるというのなら、その巣に迷惑を被った組織が、という線もあり得るだろう。少なくとも「上条当麻がいたから」なんて理由よりはずっと有力だ。

 残念ながらかつて巣にいた奴らが今どこで何をしているのか、というのは俺には探りようがない。だから守るなりなんなりもできない……んだけど。

 気になるのは、どうしてトビーが単独行動をしたか、である。

 記憶にある限りの彼の性格は「人懐っこく、群れたがり、怖がり」であった。イシュが死んだ局面で単独行動を取る性格には思えない。

 可能性があるとすればイシュとトビーが恋慕的な関係にあった場合くらいか。つまり、動こうとしない周りに対し、もういい、自分で調べる、となってしまった場合。

 ……とはいえトビーの性格を知っているのが俺だけってことはない。知っていながら放置した理由を考えると、あいつが内通者だった、という線も浮上するわな。

 そして、ネット検索ではエリーアスの名前と不動産関連で検索しても情報はほぼ落ちなかったけど、公的監視カメラには一致画像……一致映像が幾つかあった。ドイツの監視カメラは他国と比べるとかなり少ないから願掛けレベルだったけど、エリーアス君が日の当たるところを嫌って歩いていてくれて良かったよ。ドイツの公的監視カメラは基本「過去に犯罪が多発した危険区域」じゃないと設置できないからな。駅構内とかは死ぬほどあるけど。

 

 結論から言えば、イシュが殺された日の前日。つまりエリーアスが『Zuvörderst』に来た日の午前中に、トビーとエリーアスがこそこそと何かを話している場面が取れた。取れてしまった。普段なら自動消去される監視カメラの映像だけど、州警察が動いているからな、とりあえず消されていなかったことを喜んでおこう。

 会話内容は読み取れる画質じゃなかったけど、恐らく金関係の話。エリーアスが親指と人差し指をこすり合わせるジェスチャーをしていたからな。

 察するには流石に情報が足りなすぎるけど、こうなってくると謎になるのはイシュの死だ。エリーアスはメリンダ一派から恨みを買っていたから、という理由で尤もらしい。トビーはそのエリーアスと繋がっていたから粛清された、で十二分。

 しかし、イシュはどうして殺された。巣の関係者が次々に殺されていく連続殺人事件ではないのだとしたら……。

 

 メール。

 件名は「借りだと思ってやるから何かで返されに来い」。本文無し。

 ……いや全く、街道まっしぐらなようで何より。

 

 続けてもう一通のメール。

 差出人は……ローラ=スチュアート、って。……メアドとか持ってたんだコイツ。

 こっちは件名なし。本文にあるのは……水を象徴とする円形の陣? ……ああ、成程。通信機か。

 陣を画像としてフルスクリーンにした状態で、禁書目録に気付かれないよう細心の注意を払って励起させる。

 

 映るのは金髪の女性。知識以外の部分で対面するのは、これで三度目かな。

 

「*なんだ、イギリス清教。預かり物についての話か?」

「*流石、話のはやかりけること、助かりたるけることね」

「*……お前さんの日本語がちょいと古典染みている、というのは風の噂で聞いていたが、どうして英語までそうなる」

「*え、何かおかしきことでもありけるのかしら。まぁ、そんなことはどうでも良い話になりけるでしょう」

 

 いーや? すっごい気になるよ。でもいいよ話を続けよう。

 ……みんなこういう対応だからどんどんおかしくなっていくんだろうなぁ。

 

「*魔女の夜宴の角山羊さん。あなたへ、我らイギリス清教より正式な依頼を出し申したりけるの。上条当麻と禁書目録の身柄を明け渡しなさい」

「*それは依頼ではなく脅しだが。理由は?」

「*今のドイツで起きている事件は、その二人が向き合うには些か時期尚早にてありけるのよ。なにゆえアレイスターが唐突に方針を変更したのかは知らないけれど、そのまま事件に巻き込まれ続けると、最悪ローマ正教と学園都市の正面衝突がおきかねない」

「*……ローマ正教絡みなのか、この事件。やっぱり騎士団か?」

「*ローマ正教とあなたのしがらみのすべては、こちらでは詳しく把握しきれていないけるけれど、あなたとしてもあの戦力へ正面より突き入りたりける事態は避けたきものにてあらむでしょう?」

 

 避けたいのはあちらだとは思うが。

 ……ふーむ。まぁ、わからんでもない。

 この事件、ちいとばかし死が隣人すぎる。アレイスターが差し向けたにしては違和感がある、というのはその通りだ。

 第三次世界大戦が始まって、色々覚悟が決まり切ったあの上条当麻ならともかく、大覇星祭すぐあとの彼をこの酷烈な環境に放り込む意味がまるで分からない、というのは同意する。

 

「*俺の名を出さないこと。やむを得ず俺のもとから離脱し、後で上条当麻から、なにか無理矢理な文章でもいいからメールを送らせる、という手段をとること。これに同意するなら、明け渡すよ」

「*また、いと妙に遠回りなる手立てを取りけりたるものね。やはり魔女の夜宴の角山羊さんも、禁書目録に正体を明かしたりけるのは恐ろしいことになりけるのかしら」

「*なんだ、俺の弱みでも握りたいのか?」

「*それは当然のことにてありけるわ。あなたを無力化し、捕らえたる暁には、ローマ正教のもとへ突き出すだけで、イギリス清教とローマ正教とのパワーバランスが激変するほどの恩を売れたりけることなのだから」

「*そうか、こちらの要求を呑んでくれないというのなら、お前さんが女性というカタチを取っていることに後悔を覚える結果になると思うが」

「*何を──ひぅっ!?」

 

 突然甘い声を出すローラ=スチュアート。

 何が起きたのかわからない、という顔で、俯いて……自身の首から下をキョロキョロと探している。

 続けて、「ひ」、「ぁ」、「ちょ、なにがっ!」と反応してくれたところで、話を続ける。

 

「*いや何、勿体ないだろう。折角そういうカタチを持っているのなら、それを知らずに生涯へ蓋をするなんて。──しかし、随分弱い乳首をお持ちのようだ」

「*ちょ、ちょっと待って、待ちなさい、要求を呑まないとは申しておらぬのよ。というか、如何なる方法で私に魔術を使いたりけるのかしら!?」

「*どうやってって、視覚的に繋がりがあって、魔術的に繋がりがある、なんて状態で俺と対面してんだぞ。俺の代名詞を知らんわけでもあるまいに、ノーガードでいる方が馬鹿というか」

「*……万物催眠(メスメライザー)」

 

 それは通り名である『楽園築き(パラディスヒール)』の方ではなく、あくまで代名詞の方だけど。

 最後に一度、中指でピンと弾いて、「あうっ!?」術式を終わりにする。

 驚いただろう。というか、二重の意味で驚いてくれたはずだ。

 まさか霊媒(アバター)の感覚がダイレクトに伝わってくるだなんて思ってもみなかっただろうから。

 

 ちなみに方法は、いわゆるラバーハンド錯覚というやつだな。それと、以前使った「宗教上の禁忌の認知不可」を混ぜている。

 あっちの視界に入っているはずのこの『霊磁性流体』製トルソーを己の身体だと錯覚し、その各所を弾かれることで、実際に刺激されたような気になる、ってスンポーよ。

 だから霊媒(アバター)が実際に感じているかはともかく、そういう意識を霊格に植え付けている、が正しいかね。

 

「*忘れないことだ。お前さんの目の前にいるのは秩序と倫理を平気で踏み割ることのできる人間である、ということを。ローマ正教が恐れる俺の名の通り、お前さんを俺の巣の信徒にして、イギリス清教を内部から瓦解させることもできなくはない」

「*ええ、そのようね。忘れておりたりけるようだったわ。……要求は然りと呑む。その上で、今日の夜にでもホテルから彼らを攫いたりけるから、その刺客の邪魔をしないでほしきものなりけるわね」

「*承知した。なお、彼らが身に着けている指輪は俺の霊装だ。安全保護目的のな。特に理由が無ければ外させたりしないように」

「*こちらも承知したりけるのよ。……さて、堅苦しい話はここまでにして……一つだけ、良きことかしら」

「*なんだ」

 

 ローラ=スチュアートは……「良いことを思いついた」という顔で。

 

「*先の魔術、私に効果があるということは、アレイスターにも効きたりけるのかしら」

「*まぁ、自信はあるが」

「*ぜひやって、是非録画しておきたりけることを願いたきものなのだけど!」

「*別に俺はアレイスターと普段から交流があるわけじゃないからな……。ま、聖人にも効くことは立証済みだ。機会があれば、だな」

「*なら神裂を差し出したりけるから、是非その痴態を録画しておきたりけることを願いたきものなのだけど」

「*俺が絶対に危なくない状況を作れるんならいいけど、良いのか、アレを俺の信徒にしてしまって」

「*む。……流石に戦力が低下したりけるものに思うわね。アレのよがり狂うさまは一度見ておきたかったのだけど……」

 

 アレイスターなー。

 やるとしたら分裂後……だけど、その時俺は果たして上条当麻の近くにいるのかどうか。

 

「*上条当麻と禁書目録の誘拐は見逃すが、刺客が俺に襲い掛かってきた場合は別だ。その辺、間違っても間違わせるなよ」

「*無論よ。……それでは、魔女の夜宴の角山羊さん。こうして対面するたびに私を驚かせてくれるあなたが、次に相まみえたりける折、いかなることをしてくれるか、楽しみに待ちおりたりけるのよ」

 

 驚かせているつもりはないが。そっちが勝手に驚いただけじゃん前回の二回は。初回は「*……驚いた。本当にこちらへ来ていようとは。お久しぶり、あるいは初めまして、魔女の夜宴の角山羊さん」。次が「*……驚いた。ローマ正教きってのお尋ね者が、お膝元もいいところで堂々と巣作りをしている、だなんてね」である。

 どっちも俺が意図的に驚かせたわけじゃない。だから次を期待されても困る。

 

 魔術が切れる。……まったく。

 しかし。

 

 上条当麻たちが拉致を拒否して抵抗した場合、についてを敢えて詰めなかったけど……その時はバリバリ妨害してこいって認識でいいのかね?

 

 

☆☆☆

 

 

 美味とモヤモヤの交錯するドイツ旅行二日目の夜。

 上条当麻は──。

 

「お、おわーっ!?」

「この、大人しくなさい、上条当麻!」

「いやいや無理がある無理がある! まずワケを話してくれそれができる間柄だろ俺達!」

「問答無用!!」

「無用にしないで!?」

 

 逃げ回っていた。自身にあてがわれた部屋の中で。

 相手は最早顔なじみ、神裂火織である。顔なじみの聖人である。

 

「どんな用事か知りませんけど、今は無理なんですよ神裂さん! この旅がインデックスとの二人旅ならともかく、もう一人保護者をしてくれている人がいるんですここで俺とインデックスが攫われたらその人は絶対に探してくれるけど普通の人なんです良い人なんです迷惑かけたくないんです!!」

 

 怒涛の懇願……及び大人しくついていけない理由を聞いて、「ぅ」と手が止まる神裂。

 一般人。善人。迷惑をかけたくない。……というワードだけでなく、この話がつい数時間前に最大主教(ローラ)から「ついでにドイツのベルリンにいる上条当麻と禁書目録を回収してきてほしくありけるのだけど」というかっるい依頼であったことが祟ったのである。

 天秤は、比重は、当然のように。

 

「……なんとか言い訳をすることはできないのですか。こう……知り合いに会ったからお世話になる、というような」

「いやいやいやいや神裂さん? よく考えても考えなくても無理ってわかるよな。わかってくれるよな。子供だけだとダメ、って理由でつけられた保護者を一人置いて、現地で知り合いを見つけたからそっちに合流する、っていうのは無理があるにも程がある!」

「それは……そうですが」

「もう一度、どんな用事かを改めてお教えいただけませんかね!」

「……イギリス清教、というか『必要悪の教会(ネセサリウス)』曰く、現在この地はローマ正教による"是正"が行われている最中であるらしく、それに巻き込まれると、最悪ローマ正教と学園都市の全面戦争になりかねないため、上条当麻及び禁書目録を丁重に保護し、速やかに学園都市へ送り返すように、だそうで」

「"是正"?」

「簡単に言えば、認可外の魔術師……特に私用で魔術を濫用する魔術師を対象にした広域粛清です」

 

 それを聞いて、昨晩の一件を思い出す上条。

 なればあの事件は、ローマ正教によるものなのか。

 

「……なぁ、神裂。その……戦争の火種になりかねないから、って理由なら、帰るのは吝かじゃない。けど、俺達だけでじゃなく、その保護者の人も連れていきたい。それくらいの都合は合わせてくれるだろ」

「そうですね。話を聞くにこの地へ残していく意味も無さそうですし」

「あと……あとさ。……その是正とかいうのの正当性についちゃ、俺は知らない。秩序を守るためだからって何やってもいいってわけじゃない……なんてのが青臭い理想論だってのはわかってる。……けどさ、お世話になった人が今死ぬほど思い詰めてて……それを、できれば……晴れやかにして、帰りたい」

 

 対話の空気が得られたことを幸いとばかりに上条が現状を話す。話せば話すほど、神裂の顔は曇っていく。

 やがて。

 

「……状況は理解しました。禁書目録……彼女の見立て通り、昨日あった殺人事件と事故、及びここ数日で起きている連続殺人事件の全てに魔術が関係していることは確かでしょう」

「ここ数日で起きている連続殺人事件?」

「上条当麻、あなたが来てから連続殺人事件が始まった、というわけではないのです。ここ数日……連日心臓を刳り貫かれるという殺し方で殺人が繰り返されています」

「……じゃあ、俺のせいで何かが起きたってよりは、本当にたまたま旅先で……そういう大型の事件にぶつかっただけ、ってことか」

「はい。……。……? 今の問いは、どういう意味でしょうか」

「いや。……ちょっと、自意識過剰だっただけだ。……それで、どうかな、神裂。もしその"是正"っていうのと連続殺人事件が関係あるのなら……俺が関わるのは、やっぱりダメか」

「あなたには彼女を連れて早く帰ってもらいたい、というのを念頭に置いたうえで話しますが、心臓の刳り貫きという殺害方法がローマ正教と重なるかというと微妙ですね。というか、ローマ正教の仕業と考えるには後処理が雑過ぎます。私達もそうですが、死体なんてものは真っ先に隠蔽するもの。川に流してはい終わり、など……あり得ません」

「……それは、確かに」

「恐らくですが、この事件は二つの事件が重なっているものかと。第一の事件が連続殺人。イシュなる人物を含めたなんらかの共通点を持つ方々が、心臓の刳り貫きという異様な手段で魔術師によって殺されています。第二の事件がローマ正教による"是正"。エリーアスという魔術を濫用する魔術師の是正。死体の処理は杜撰……あるいはなんらかのアクシデントにより身を隠すことを優先した、という形で発見されたもの。頭蓋を撃ち抜かれていたというのはむしろカムフラージュに聞こえます。死傷の無い殺し方をしたが故に頭をカムフラージュに死体の頭蓋を撃ち抜いた、というような」

 

 神裂火織の口から出てくる非日常的な言葉に対し、上条は……恐る恐る、言う。

 

「正直……人が人を殺すことを直視するにあたって、俺には覚悟ってものが足りていないんだと思う。でも……やっぱり安東さんの悲しむ顔は見ていたくない。巻き込むべきじゃないのはわかっているし、戦争なんか起こしちゃいけないのもわかるから……できるだけこっそりと」

「上条当麻。その志は立派だと思います。思いますが……仮にこの一連の出来事を企てていたのが殺人を目的とする魔術師であった場合、あなたはどうするのですか?」

「殺人を目的とした……?」

「何かを成すために殺人に手を染めている、という相手であれば、あなたの拳は届くやもしれません。しかし、殺したくて殺している場合……恨みの有無もあるでしょうが、命を奪うこと自体が目的である場合、その相手にはあなたの拳も言葉も届かないでしょう。特に言語も通じない相手となれば、なおさらです」

 

 無論、神裂とて上条当麻という男の性質は理解している。

 理解した上で、言う。此度は手を引くべきだと。

 

「……わかった。……安東さんに、話してくるよ。言い訳は……海外に住んでいるあしながおじさんの友達が、今のドイツは危ないから早く帰れ、って……飛行機代をくれた、みたいな言い訳で」

「ええ、それが良いでしょう。私が最大主教から仰せつかったのはあくまであなたたちの保護。あなたたちが無事に帰るというのなら、その安東という方と引き裂かずに済みます」

 

 決して意を決した顔ではなかった。上手く咀嚼できた顔でもない。

 普段の彼ならば「そんなこと知ったことじゃねえよ」で突っ込みにいける局面であっても、己が身一つではない状況、というのは明確に彼の足枷となるらしかった。

 

 上条は部屋を出て。

 

 ──そして、すぐに戻ってくる。血相を変えて。

 

「神裂! ちょっと来てくれ!」

「はい?」

 

 誘われるままに彼女が底へ向かえば。

 

 鋭利な刃物らしきもので切り裂かれたホテルのドア。縦横無尽に走る切断痕跡。破られた窓。誰もいない部屋。

 

「……初めに言っておきますが、私ではありませんよ」

「そんなこと疑ってねえよ。……殺されたのは全員安東さんの知り合いでもあった。……まさかは、無いよな」

「っ、彼女は……い、ますね。眠っているようです」

 

 気配を読んだのだろう、胸をなでおろす神裂火織。

 しかし、上条の心境は大嵐である。

 

「携帯など、何か彼の位置を探れるものはありませんか?」

「……そうだ、アプリ!」

 

 それは到着時に渡されたもの。本来は禁書目録が迷子になった時用のもの。

 

 開いたアプリに表示されるは、赤青の二点と──もの凄い勢いで遠ざかっていく緑点。安東だ。

 

「学園都市の技術ですか。敵が魔術師であるのなら、それは盲点になり得ます。……止むを得ませんね。私があなたを背負い、この点を追う。これで良いですか、上条当麻。彼女には護衛をつけます」

「でも、お前は何の関係もないだろ」

「あなたたちの保護をしなければなりません。あなたたちがこれから危険なところへ赴くというのであれば、最も安全な場所を提供しなければなりません。──それが私のそばであることを実現するために、私は今ここにいます」

 

 迷っている時間はない。

 

 上条当麻は、その提案に肯首を返すのだった。

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