とある性教の雌女昇格(メスメライザー) 作:無ければ作れ(Invenire404)
その夢を見た者を自殺に追い込むインディアンポーカー。
それを売っていたトレーダーは、残念ながらシロだった。
「ごべ……ごべんばはい……ゆ、ゆるじで……!」
「……さっさとどっかに行け。もう俺の視界に入ってくンじゃねェ」
そもそもが使い捨てのインディアンポーカーである。であれば、どうやって夢の内容を事前に知るのか、というのは、夢の製造者を信頼して仕入れ、購入者の反応を見て信頼を厚くしていく、という方法しかない。
このトレーダーが知らされていたのは「心の不安を取り除く」という内容である、ということだけ。それが肉体からの解放と知って、トレーダーは酷く怯えていたし狼狽えていた。すぐに購入者へ連絡を入れようとしていたところまで含めて、心底善意でこれを売っていた、ということもわかる。
外れだ。少なくとも
これにて芳川桔梗の示した手掛かりも途絶えた。
無くなった手掛かりは──しかし、
「(……
しかしここで躊躇が発生する。調査のためだけとはいえ、あんな日向の存在を巻き込んでもいいのか、という躊躇だ。答えは当然否である。共にいるところを見られた程度で「
ナシだ。そう割り捨てた──直後のことである。
午後12時20分。路地裏から大通りに出た
「おや? あなたもお昼時ですか? と、モリヤは大覇星祭ぶりの真っ白さんに挨拶をします」
「……挨拶になってねェよ。……第五位の言葉が正しいってか、オイ」
「第五位。食蜂操祈がどうかいたしましたか? と、モリヤは」
「うるせェ。……ああいや、昼時、っつったか。丁度いい、昼飯を奢ってやるから、ちょいと話を聞かせろ」
「おお、これがナンパというやつですか? と、モリヤは今生初めてのナンパに目を輝かせます」
第五位の言葉。それはあのバケモノの中で全くの偶然にも邂逅を果たした超能力者三人の場面で彼女が吐いた言葉だ。
──「運命力が高すぎるとろくなことにならないってことかしらぁ……?」、と。まったくその通りなのやもしれない。ヒーローというのはなんでもかんでもに首を突っ込みたがるモノの総称だと
困っている人間がいれば、偶然にもその場に居合わせてしまう性質。首を突っ込まざるを得ない者達。
ナンパ、というワードの頭の痛さをガン無視して入ったファミレス。人入りはまばらで、この程度ならば無意識の処理で音のベクトルの「壁」を作ることができる。自身が発生させる音を使った簡易アクティブノイズキャンセリングだ。
料理が揃ったあたりでそれを実行し、話が外に漏れないよう対策をした後で。
「それで、お話とはなんでしょう。と、モリヤはオムライスをスプーンで掬いながら問います」
「あァ、大した話じゃねェ。オマエの日本語学習に使ったっつゥ学習装置。その出所……どっかの馬鹿な研究者、っつゥのが誰かってのが気になっただけだ」
「それでしたら、私が使ったサイトと、所長が突き止めてくれた研究者についての情報をお渡しする形で大丈夫そうですね。と、モリヤはファミレスのアンケート用紙の裏面にメモを書き始めます」
「……所長。そォか、オマエ……あの流体の研究所にいるンだったか」
「はい。能力開発及び衣食住も彼に預けています。ちなみに元の所長はあんな流体ではありません。と、モリヤはメモを渡しながら驚きの新事実を明かします」
「何も驚かねェし新事実でもねェよ。……あいつに連絡を取る、ってのは、無理か」
「つい先ほどまではできたのですが、できなくなってしまいました。と、モリヤは緊急事態発生時用連絡先のロケットを見せます」
メモを受け取りながら、
モリヤが首にかけているもの。一見何の変哲もないロケット。電子機器ですらない。……つまり。
「それは……」
「一回限りですが、私がどのような状況……たとえコンクリートに詰められて地中深くに埋められていようとも通話可能な通信機、だそうです。仕組みは知りませんが、現在ドイツにいるマ……所長とラグのない明瞭な会話ができました。と、うんともすんとも言わなくなったロケットを見せながらモリヤは言います」
「緊急事態ってのは、なンだ。何かに巻き込まれたのか」
「いえ、御坂様が私を頼ってきてくれたのですが、私からは特に返せるものがなく。そのため所長に繋げた結果、御坂様は得るものがあったようで、モリヤも満足した、という次第です。と、モリヤは自分のお役に立ち度に胸を張ります」
額に手を当て、大きく溜息を吐く
どうしてこう学園都市の日向連中は脳内花畑度が高いのか。そォじゃねェやつらとの差が激しすぎンだろ、と。
緊急連絡手段をそんなことで使うあたりが平和の側にいる人間だ。やはり巻き込むわけにはいかない、とも。
「……もう使えなくなったってンなら、固執しても仕方ねェか。この情報だけでもありがたかったと思うべきだな」
「ふむ。所長の連絡先を知りたいのであれば、それこそ食蜂操祈を頼るのは手かもしれません。と、モリヤは指を立てて提案をします」
「あン? なンでだ」
「平時から彼女は所長とメールのやり取りをしているからです。親密、というよりは腐れ縁という印象を受ける二人の関係性ですが、悪意や害意なく所長を頼りたいだけ、というのであれば、食蜂操祈もそれを明け渡すものかと。ネットリテラシーという点においては最低域を突破しますが。と、モリヤはちょっとばかり常識人ぶりつつ詳しい話をします」
「……まァ、アリ、だな。第五位は……常盤台の中学生だったか。あそこは外部の人間が入るにゃ面倒臭ェ場所だが……」
「私が連絡先を知っているので、ここで通信をかけるのはどうでしょうか。と、モリヤは各勢力へのハブになっていることに若干の誇らしさを覚えながら言います」
「……誇らしく思えンのなら良いけどな。あァ、第五位に繋げてくれ」
そうして、繋がる。
若干イライラしていた第五位、食蜂操祈。モリヤを相手にすると思っていた通信端末越しに第一位の声が聞こえてきた時は相当驚いていた様子であったが、内容を聞いて溜息を吐いた。「あのおじさん、ほとほと超能力者に人気ねぇ」なんてボヤきながらも、特になんの忌避も覚えることなくメールアドレスを吐き出し──。
「"そういえば第一位、アナタって荒事対処を引き受けて……ああいえ、やっぱりなんでもないわぁ"」
「そンな掃除屋みてェなことはしてねェが、なンだ。殺すしか能のねぇ力が入用か?」
「"……いいえ、アナタに頼るほどのことでもなかったから、気にしないで。……それと、改めて一応言っておくけれど、私やアナタみたいな日蔭力高めの存在と違って、その子は"」
「あァ、わかってる。巻き込んだことは悪かった。これでコイツが何か危ない目に遭うってンなら、俺はその解決に尽力する」
「"ふぅん。噂に聞く情緒不安定な精神異常者、というのは誇張に誇張を重ねた話だったのねぇ。前は過剰に怖がって悪かったわぁ。アナタの能力の応用範囲にない心理の話についてなら、この第五位がお話を聞いてあげなくもないんだゾ☆"」
「対話の余地があると見切りをつけるや否や余裕ぶるクチか、オマエ。面倒くせェと切り捨てて通話を切るのも手だったが、二つ、『
若干のウザさを感じて通話を切りかけた
「"なにかしらぁ?"」
「その前に。女、オマエはここから先は聞くな」
「どうしてですか、と食い下がることも視野に入れましたが、声から心配の色が伝わってくるため大人しく引き下がります。モリヤはお手洗いに行っているので、その間にお話をお済ませください。と、モリヤは
「あァ。……待たせたな。第五位、今学園都市に蔓延してるインディアンポーカーってのは知ってるか」
「"ええ、絶賛被害を受けまくっているわぁ"」
「それなら話が早ェ。俺が追っている事件で、"拳銃自殺の夢を見た奴が後追いで自殺した。さらに自身の死体を焼くトリックまで仕掛けさせた"、っつゥのがあった。それはインディアンポーカーの性質として可能か? そンで、その夢はどう作るものだと思う?」
息を呑む音が響く。自殺。死に纏わる話は、中学生には早かったか、なんて反省が
「"わかっていると思うけれど、あれはあくまで夢。起床後の行動を強制するものではないわぁ。死ぬ夢を見たからその死を再現しなければならなくなった、なんて奇妙な話は聞かないでしょう?"」
「あァ、その通りだ。こっちで抱えている研究者が言うには可能って話だったが、心理のスペシャリスト目線では無理か」
「"夢だけじゃ、無理ねぇ。インディアンポーカー程の洗脳力があっても、できるのはせいぜいアイデアのもとになることだけ。つまり、初めから自殺しようとしていた人間に、首吊りや飛び降りではなく拳銃自殺を、という択を与えるくらいはできても、死ぬ気の無い人間に拳銃自殺をさせて、死因隠蔽までさせる、っていうのは範疇外"」
言われてみればその通りだ、と納得する
能力の応用範囲外。あの流体の言うところの、「優れた念動力」以外の部分におけるトップ。否、水分操作は「念動力」の一部やもしれないが、少なくとも
そういう意味で、足りない部分をカバーし合う、という点においては、確かに頼るべき相手であるのだ。
「"でも、その事件に私のような精神操作系が絡んでいるなら話は別よぉ。特に認知を……グレネードを好物の林檎に見せかける、とか。それこそ拳銃を読みかけで続きの気になる本に偽装する、とか。そういうことをしてあれば、インディアンポーカーの洗脳とダブルの効能で、拳銃自殺をさせる、ということくらいはできてもおかしくないわねぇ"」
「認識操作……。オマエ的に見て、強度はどれくらいだ」
「"そうねぇ。分類としては読心能力の派生で、強度は
「なンだ、学園都市はいつから希死念慮の塊になりやがったンだ?」
「"ホントよねぇ。……そうだ、一つ、私からもアナタに問い返したいことがあるのだけれど"」
「俺からの問いを解消してからだ。問いのもう一つ、オマエは電気系能力者の頭ン中に埋め込まれたウイルスを安全に除去する方法ってやつを知ってるか?」
「"ウイルス……。同系統且つ高位の電撃使いに頼むのが一番だと思うけれどぉ、やろうと思えばアナタにもできるんじゃないかしらぁ?"」
「あァ、できる。だが、万全じゃねェし、俺ができるのは正常な状態を知っている状態でそいつの脳内の電気信号を正常状態に合わせるってな力業だけだ。そいつはリスクが高い」
「"その相手が私の操作を受け入れてさえくれたら、私ができるわねぇ。……あとは、その子が所長と呼ぶ相手もできるはず"」
「……あの流体野郎の妄言を、オマエも信じてンのか」
「"全部を信じたわけじゃないし、よくわからないオカルト話や海外の歴史には微塵も興味ないけどぉ、実際に言うだけのことはある事象が起きていて、結果が伴っている以上は、底に何かしらの原理があると見るべきよねぇ"」
魔術。魔術師。
科学の精粋たる学園都市でのその言葉は、事件から離れれば離れるほどけったいなものに感じてくる。
それでも──存在する事実であるということは、変わらない。
「最悪、頼る。この際だ、オマエの連絡先も貰っておく」
「"うぅ、第一位とのコネクションが出来たことを喜ぶべきか、首に首輪がつけられたことを嘆くべきか……"」
「安心しろ。オマエが日向にいる内は手出ししねェよ。お前もまたヒーローの欠片だ。俺みてェな小悪党に絡むべき存在じゃねェ」
「"ヒーローの欠片? 小悪党?"」
「なんでもねェ。で、なンだ。オマエの聞きたいこと、ってのは」
「"ああ。アナタ、木原一族についてをどれだけ知っているのかしら"」
その。
今後の人生で聞くことはもうないだろうと思っていた名前に、短い怒気が出た。
「"な……何か、逆鱗に触れることを言ったかしらぁ?"」
「……なンでもねェ。木原。……俺が知ってンのは木原数多っつゥクズ研究者だけだ」
「"そう。……前のバケモノに関する事件の資料や人材を洗い直していたら、その時々に木原相似という存在が見え隠れしていて……アナタなら何かを知っているのかと期待したけれど"」
「あァ、知らねェ。だが、今回の情報分もある。何かわかったら真っ先に知らせてやる」
「"そうしてくれると助かるわぁ。……それじゃあ"」
「あァ、じゃあな、第五位」
通話を切る。
一方通行は溜息を付き……ファミレスのトイレの前でこちらを伺っているモリヤに、話が終わったことを伝えるジェスチャーをしたのだった。
さて、件のモリヤとも別れ、一度芳川の研究室へ戻った一方通行。
端末でイグジットAppに関する話を調べながら、待つこと30分ほど。
そのメールが来た。件名は「考察結果」。
" 結果から言えば、『
だが、死霊術の大家といえるローゼンタール家が関わっていないというのなら、あるいはその結果だけを掠め取った科学サイドの話で完結している可能性も高い。そんでもって、俺自身の情報筋から手に入れた、お前さんが追っている事件と思しきものについての情報を共有しておく。
(添付資料)
列挙されている計画のすべてが超能力者第三位・御坂美琴に関連する計画であることから、ミサカネットワークを用いた計画であることが読み取れる。
なお、オラクルとは神託のことであり、ロゴスの自己成就とは"人々の期待や思い込みが人々の行動を変化させ、結果として神託通りの現実を作り出す現象"のことだ。つまるところ、妹達の一部をルートキット化する、という話であると思われる。
憎き生体ファイアウォールは、まーどう考えてもあの子のことだろう。なお、ヘイムダルというのは邪神ロキと戦い、相打ちになって死する定めにある北欧神話の神だ。まさにファイアウォールのような働きをする。
計画実行の際には襲撃も、と言っているあたり、実行開始タイミングでは相当目立つんだろうこともわかる。恐らくはどこかの電波塔か、高所でことを始めるものと思われる。
この『天上の果実』についちゃなんとも言えんが、こいつらがトップの組織じゃない、ってこともわかるかね"
聞いていないことがつらつらと綴られたそれは、しかし足りなかった彼の情報の穴を埋めるもの。
ふざけた内容に煮えくり返るハラワタを抑えながら、彼は「方法」を考える。
実行タイミングで所在がわかるかもしれない、なんて話に乗っかるつもりはない。実行させないで終わらせるべきであるからだ。
であれば、学園都市に存在するありとあらゆる電波塔・高所を調べる必要が出てくるが──。
「ルートキット、ね。……現時点のガキの脳内を探索して、妙な振る舞いをする発信源を叩けばいい話に聞こえるが、違ェのか?」
「君の常識は、時に他人の考えつかないほどに高度なものであることも多いから、やれることはやれるだけやってみるといいわ」
「……あァ、そォする。つゥか、初めからやるべきだったか。……それもこれも、あのワン切りクソ野郎のせいだなァ」
今度は、銃弾が迫ってきているとか、おかしな流体が誰ぞかを食うなどのアクシデントの無いままに……
そうして、午後13時20分。
不明信号編はあと少しで終わりです