とある性教の雌女昇格(メスメライザー) 作:無ければ作れ(Invenire404)
結論として。
「洗脳力は欠片たりとも感じられないわぁ。どちらかというともっと原始的な……内外から引っ張って動かす、ってタイプの念動能力に近しい類ねぇ」
「ナルホロ? つまり、ドユコト?」
「だからぁ、精神操作系の能力でどうにかなっているんじゃなくて……発想としては気色悪いことこの上ないけどぉ、何かに寄生されてこうなっている、って感じかしらぁ。私の能力は知的生命体に対しての万能力がある自信があるけれどぉ、微生物やら寄生生物やら、意思があるかどうかもわからないもの相手には無力なのよねぇ」
「対策は、じゃあその寄生生物をどうにかすること……高温消毒定温消毒的なアレソレ?」
「うーん。発火能力はちょっと効果があったみたいだけどぉ、水流操作をあれだけ浴びせられて一切の減退が無いあたりぃ、温度変化によるアレソレはあんまり効果が無い可能性が高いわよねぇ。でも、ただの寄生生物なら、食蜂を出せ、なんて明確な言葉は操れないはず。つまり」
「その寄生生物を操ってる奴がいる、ってことか。能力だと思う? それとも科学者?」
「この規模のことを道具一つで引き起こせる科学者がいれば、その勇名が私の耳に届いていてもおかしくは無いと思うからぁ、能力者の線で考えたいところねぇ。……微生物を操る能力というと、『
食蜂操祈は『
すでに防衛システムに回っている能力者たちは遠中距離攻撃系と直接触れることのない能力者のみが行動している。
「……これ、このビルに寄生された場合が厄介ねぇ」
「無生物にも寄生できんの? っていうかそれ寄生っていうわけ?」
「監視映像を見てたけどぉ、風力使いの風で纏めあげられた火器が、人間の手にひとりでに戻っている。彼らがそういう能力者じゃないのなら、誰かが遠隔で操っているってことになるわぁ」
「うーわほんとだ。……私の『
「アナタ単独でないのなら、どうかしらぁ?」
「……あ、そっか」
13時40分。胤河製薬及び併設研究所が、複数の液体金属・液体の混合物にて覆われる。
これにより防衛戦は終了。群がるゾンビのように胤河製薬へ集まる人影たち、あるいはそれを操っていた何者かもその無意味さに気付いたのだろう。
一人、また一人と、人影が倒れていく。力を失ったように。意識を失ったように。
「……で、こうなったってことは、そろそろ私らは元の独房に戻される感じですか?」
「そうねぇ。そうしたいところだけどぉ、あのおじさんに防衛力を引き継いでからが良いから、あのおじさんが戻ってくる一週間後までは有事に備えて『
「……じゃあ久しぶりに普通の食事を超所望します。栄養剤だけだと味わかんないんで」
「結局こういう時に一番食べたいのはサバ缶な訳よ!」
「いやフツーにジャンキーなモノの方が良いのでは……?」
彼ら彼女らは知らない。
件のおじさんの旅行がキャンセルされて、明日の朝頃には帰ってくる、という事実を。
そのおじさんも知らない。一週間の休憩が一日弱にまで短縮されたことへのストレスが、そのおじさんへ向かうことを。
全てを知っていて特に対処しなかったのは、いつもいつも割を食わされている便利リモコンだけだった──とか。
「……看取さん」
「わかってる。下手人の捜索でしょ。そういうのこそ『
そして──やられっぱなし、というわけでは、勿論ないのだと。
☆☆☆
「(どこだ……どこに居やがる……!)」
突然起きた複数のポンプ室の故障に客足がごそっと減っていっている中で、一方通行はソレを探していた。
電波の発信源。高所。この二つに該当する場所など数えるほどしかない。
だというのに、いない。『
あの男の推理が間違っていたのか。今からでも地下を探すべきかと逡巡する。
目玉である巨大ウォータースライダーのどこにもいなかった。周辺にある高い施設のどれにもいなかった。
焦り。そんな一方通行の耳に、ギィン……というスピーカー特有の音が入り込む。
「"当施設はこの後、緊急メンテナンスを実施いたします。ご来場のお客様におかれましては、安全確保のため速やかなご退場をお願いいたします。なお、返金対応は入場窓口にて承っております。お手数をおかけいたしますが、ご理解とご協力をお願いいたします"」
放送。ポンプ室の故障を受けて、プール側が下した選択。
そんなことはどうでも良かった。ただ、一方通行が引っかかったのは。
「(このアナウンス……どこから)」
ざっと見渡して、音響施設らしきものがどこにもない。
違う、施設と一体化しているだけだ。主に高所施設の側面にスピーカーらしきものが設置されている。
「(待てよ……確かプール施設の電力設備ってのは、感電リスクの関係でかなり厳しめの措置が取られてたはずだ。水面からそれなりの距離を離さなきゃ設置ができねえ。
該当箇所は。
大々的な破壊をするわけにもいかないので、整備区画からそこへと侵入する一方通行。
ウォータースライダーの音響設備。それが納められた小さな区画。そこに。
「……誰だ? プールの客か?」
「どういうことだ。ここには誰も……」
いた。これでもかというほどに研究者然とした者達。そして……半ドーム型の装置で頭部の上半分を覆われた、一糸纏わぬ四人の
一方通行の眉間に青筋が通る。
「なんにせよ、止むを得まい。あと少しでオラクルは完成する。迷い込んでしまった一般人だというのなら──」
「アーアー。なンだ、俺の知名度ってやつもそう大したことねェのか? 『
「なに……? 待て、真白の髪と肌に、赤い目──」
「どうでもいい! お前がどこの誰であろうと、我らが悲願の成就の前には塵芥同然! 殺せ!」
端末に向き合って作業をしていた一人が何かに思い至りかけたのを遮るようにして、短気そうな男がその指示を出す。
これを受け、研究者然とした者達が一斉に拳銃を取り出し、また無手であった少年がその眼孔を光らせ──。
「ギ──ゃあああ!?」
一斉に仰け反った。
「な……何が」
「昨今俺に対して銃火器を向けるってな相手も減ってきたと思っていたが、なンだ、研究者ってのは馬鹿でもなれンのか?」
「──やはり、ベクトル操作……! 気を付けろ、こいつ……第一位、
「な……なぜ、そんな奴がここにいる」
「ア? ナゼってオマエ、チっとはアタマを使えよ。そこで寝てる奴らは俺のために製造されたモンだろォが。それが横流しされたとあれば、持ち主が奪い返しにくる……なンて、寝ぼけた猿でもわかる論法だろォがよォ」
「はは……は! 持ち主だと? 既に『
「アー、そォか。猿に話しかけてる時点で俺がアホだったなァ。反省反省。最近ちっとは……小指の爪先程度は"頼りになる"と言える大人が現れたせいで、勘違いしていたが……そォいやオマエら研究者ってのはクズの集まりで、自分の研究内容以外は見えねえ視野狭窄の塊だったことを思い出したぜ」
その瞬間──拳銃の暴発、否、返ってきた弾丸による拳銃の爆発で手を焼かれて苦しんでいた研究者の全てが、短い悲鳴と共に意識を失った。
「アタマ揺らして意識を刈り取っただけだ。殺してねェよ。……ンで? 今なお端末を操作する手を止めねェオマエと、俺から反射した光で自分に能力使っちまったオマエは、これ以上抵抗する気あンのか?」
「……!」
「ま……待て、
声を荒げたのは、眼孔を光らせていた少年。光学操作系の精神操作能力者なのだろう。水分操作とは違うから、電気系能力者に作用できたのか、あるいは
「このクローンは無傷で君に返す! 落とし物を持ち主へ返却する……それだけだ! それで、ただ、我々に横流しを行ったある研究者が、クローンの脳内にゴミを流し込んでいて、我々はそれを掃除しているだけで──」
「あァ、捏造話も即興劇も好きにやってりゃいいがよォ。この俺がオマエらの言葉一つで行動方針を変えるとか、本気で思ってンのか?」
「いいや聞くべきだ! 聞かなければならない! だって君は、あの『生体ファイアウォール《ヘイムダル》』と
「はァ?」
「──だったら、残念だが、タイムリミットだ」
あまりにも見当違いなことを言い放った少年に嘲りの声を向けていた一方通行だったが、端末と向き合っていた男の発したその声に、胡乱な目を向ける。
「時間稼ぎに付き合ってくれてありがとう、第一位。だが、『
「……なンだ。脅しのつもりか? 俺が……そのクローンのために、退くとでも?」
「退くさ! だってアレでお人形遊びをするのが好きなんだろうキ、」
言葉は最後まで紡がれない。腕を振った
ドシャ、と崩れる少年。
「こいつは用心棒かなンかか」
「あぁ、我々の研究に必要な能力を有していた、暗部で燻っていた使い捨ての能力者だよ」
「暗部、ね」
「そうか、君はまだ日向側の存在だったな。暗部という言葉に聞き馴染みが無いのか。いやいや、10031のクローンを殺害した時点でこちら寄りだと勝手に思っていたが、どうやら──」
「アイツもそォだが、歳を取ると聞いてもねェことをペラペラと喋り、話が冗長になってく、ってのは……万人共通事項なのか? 歳は取りたくねェなンて言葉はチープだが、オマエラを見てると心底共感するなァ」
この場にいない中年が何故かダメージを受ける。
「一つ。俺は別にそンなガキの事どォだって良い。俺がアレを手元に置いてンのは、オマエの言う通り上位個体だからだ。生憎と俺の家はそこまで広くねェ。一万人ものクローンを保管できるスペースが無いンでなァ、上位個体一人で一万人をコントロールできるってンならそれに越したことはねェだろ」
「な……に。……ならばまさか、お前も……『天上の果実』を与えられる立場にいるというのか?」
「さァ、どォだか、な!!」
何を言っているのか、ということを問い質すことも視野には入れたが、
突然のことに、しかし、研究者の男はその指をタブレット端末に伸ばし──。
「ギャア!?」
直後走った電流に、それを取り落としてしまった。
電流の走ってきた方向。そちらを見れば。
「……なンだ。迷子か、第三位」
「あのねぇ。拳銃の発砲音があったら、ドンパチが此処で行われるなんて誰でもわかるわよ。……殺してないのね、誰も」
「殺してェやつがいるンなら言え。やってやる」
「そういうことじゃなくて。……そういう分別がつくようになっただけでも……成長と呼べるのかしらね」
「あァ?」
「なんでもない。で? そこの人が今回の黒幕? この子達……って、なんで裸なのよ……こ、こら見るな! 何か布……こいつらの白衣で……」
「あー……そォか。そいつらはオマエのクローンなわけで、こいつらのハダカはオマエのハダカと同一」
「るっさい! 冷静に分析すんな!!」
全裸どころかその
また、クローンの体はオリジナルよりも肉付きに優れない。浮いた
「まァいい。……オラ、オラクルウイルスとやらの解除コードをとっとと吐きやがれ。死にたくねェだろ?」
「あ、ががが……が」
「オイ第三位。ちぃっとコイツにかけてる電撃緩めろや。感電しちまってて話にならねェ」
「え? かけてないわよ? 最初にタブレットを落させた時だけで、それ以降は何も」
「何?」
研究者の男は……下顎をがくがくと震わせながら、白目を剥き、そして口から泡を噴いて、気絶する。
「今のは……。……ッ、くそ!」
何かに気付いた
使い捨ての能力者。この男はそう言っていたが、果たして本当にそうだろうか。電気系能力者に対して充分な催眠が可能な精神操作系の能力は、そこまで頭数を揃えられるとは思えない。
それがこの男のブラフでないのであれば──この研究者たち全員が。
「第三位、ともかくソレがクローンたちをルートキットにしてる根源だ。なんとかして停止させろ。余計な動作を残さねェよォになァ」
「簡単に言ってくれるわね……でも、任せなさい。得意分野よ。……アンタは?」
「さっきまでここに居た能力者がいねェ。それだけで嫌な予感がしやがる。俺はソイツの足取りを追う」
「そ。……動機がなんであれ、この子達のために尽力してくれることには、素直にお礼を言っておくわ」
「アァ? だからオマエは……。……いや、もういい。トチンじゃねェぞ、
だからお前は、もっと俺を嫌っているべきだ、と。そう続けようとしたけれど。
無駄な問答は逃亡の可能性を高めるだけだと判断し、
残された御坂は──。
「……第三位から、超電磁砲。……あいつが私を御坂美琴って呼ぶ日はいつになるのやら」
なんて不満げに漏らしたあと、装置へと向き直り。
「さて……じゃ、始めましょうか」
電撃使い最強としての能力を、遺憾なく発揮しはじめる──。
流血自体はしている。それはまやかしではない。
だが、
その対策を構築しながら、血痕を辿ること数分。
そこには。
「……こりゃ、また」
扉があった。扉と、その枠組みが、ぽつんと設置されている。
その周囲には円形に描かれた何かしらの紋様。その中心に……件の少年がいる。
対象が『果実』且つ『食べる前と後で状況が一変する』ものは、マジュツ世界においてたったの二つだけ。
アダムとイブの『禁断の果実』と、ケルト神話における『妖精の果実』。禁断の果実ならば、『
扉。木製の扉だ。
「……オマエはじゃァ、魔術師なのか?」
「……ハ。驚き、だな。学園都市の……第一位が、魔術について知っている、だって? ……どこの馬鹿が漏らしたのやら」
「そこまで知識があるわけじゃねェけどな。概要は知ってる」
「君ほどの頭脳が理解する概要は、我々の一生分の知識に匹敵しそうだ。……悪かったよ。御坂美琴のクローン……それと、生体ファイアウォール。彼らはその突破に熱を入れていたけれど、我々的には別に、そこが達成されずとも良かったんだ」
「我々、ね。オマエは一人じゃねェとでも?」
「耳聡いな。けど、気にすることじゃない。我々はこの肉体に対して記憶と人格の埋め込みを行った。ゆえに群体である振る舞いをしているだけで、この肉体に仲間と呼べるものはいないよ。記憶と人格の埋め込みを行ったある魔術結社の総勢、その肉体は、とうに朽ち果てているしね」
先程の部屋にいた時とは打って変わって、酷く落ち着いた、老成さえも感じられる声と言葉だった。
魔術結社、という聞きなれない単語が出たものの、つまりマジュツ社会における暗部か、という納得をして流す
「オマエ的にはあいつらを使う意味は無かった、てか?」
「いや……アレらには七体いてもらうことが必要だった。そのために横流しを依頼したのだが、我々の手元に入ったのは四体だけ。残りの三体は、『
「条件を……。……七体の……そンでもって、わざわざプールパークで……。……クソが。殺しても生き返るなンて、本気で思ってンのか?」
「それは……驚いたな。
煮えくり返るハラワタ。それを務めて無視して、冷静に思考を回す
「はン、マジュツ自体は使っちゃいねェが……、知識の収集が仇になるケースは早々に無ェだろォと判断した。オマエらが神話になぞらえて行動してると知ったンなら、関連知識の収集くらいはする。ギリシャ神話、北欧神話、十字教関連……そして、ケルト神話。移動しながらの
マジュツ。魔術師。
使えなくされている、という話自体気に食わないが、神話に関してを検索しても妙に浅い層の知識しか得られないことに気が付き、隠蔽されているそれを紐解いて、必要になりそうなすべてを頭に叩き込んだ。
流し読みとは言っているけれど、学園都市第一位の頭脳が行う流し読みであれば、それは一字一句精確な記録をしていることと何ら変わらない。
守ると決めた。この壊すことにしか作用しない能力を使って、守るのだ。
なれば、いくらどうでも良かろうと、気に入らない法則だろうと……なんでもかんでも吸収しなければ、辿り着けない。
その場にいるだけで世界をどうこうできる能力を有しておきながら、小さな命を守ることの途方もない難しさを知ってしまったから。
ヒーローになれないのならば、その他の全てで追い縋るしかない。
「は……ははは。……あるいは君は、科学サイドでありながら、魔神の域に足を突っ込むのやもしれないが……そんなことは、いいか、どうでも。……そう、これは『マナナン・マクリルの魔法の豚の術式』。マナナン・マクリルとは海の神。プールパークじゃ彼も、ご立腹だろうが……その外縁部……光の当たる場所の真裏に置かれたこの林檎の木の扉は、即ち人間界と異界を繋ぐ境界線となる。我々はこの扉を通ることで、ティルナローグ……常若の国へ向かうのだ」
「『不明信号』に関する情報や『天上の果実』ってモンをクソ研究者どもにちらつかせたのはオマエって理解で良いのかァ?」
「そうだ。『
「聞いてねェよ。つまり、俺にワン切り仕掛けてきたのはオマエじゃねェってことだなァ」
「ワン切り? 一体なんの──」
「あァ……そォか。俺としたことが、まんまと騙されたぜ。端末と端末を向かい合わせる方式の中継は、分岐先が別ものになっていても気付けねェじゃねェか」
もし、あの二台の携帯端末が……この事件に
完全にそいつの思惑通りに踊ってしまった、ということになる。どの道
「ま……まぁ、いい。さぁ、少し離れてくれ。我々は今奇跡を──」
「あァ? 発動なンてさせるワケねェだろォが。言ったはずだ、マジュツの概要はある程度知ってンだよ。だから、偶像の理論だろォとなンだろォと、術式ってモンに巻き込まれて消費されりゃ、タダじゃ済まねェってこともざっくりとだがわかってる。俺はあいつらを回収しにきたンだから、みすみす使わせるワケがねェだろォが」
「そうか。──だとしたら、もう、手遅れだ」
光が零れる。
投光照明、ではない。
その先の存在しない扉から……人知の及ばぬ光が零れ始めているのだ。
伴い、能力者の少年の五体……全身の血管が隆起し、地面に叩きつけられた水風船のように……ぱぁん、と、破裂した。
「な……」
能力者が魔術を使用した際のリスク。
あの流体に言い含められていた、直感的に「マズい」感じがして、知識の収集だけにとどめていたこと。魔術の行使。
その結果が、目の前に熾される。
もはや原形を失った肉体から薄靄のようなものが浮かび上がり、扉を潜り抜け──。
「クソ……あいつら、を!?」
直後、
あの最弱と戦った時のようなダメージは無い。ただ、相手を弾き返せなくて、自分が弾かれた、というような感覚。
扉を見てみれば。
「な……ン、だこりゃァ」
小さな扉だ。人間大の扉。
そこから……目に見えぬナニカが、出てこようとしている。
わかる。力の塊だ。あるいは第七位が使っていた力にもよく似たもの。
すぐさま「その力がかかっていない場所」だけをフィルタリングし、上手く見ることのできないソレを認識する。
手……否、指、のように見えた。何か、超巨大なものの指が……とっかかりを探すようにして這い出てきている。
扉。妖精の果実を食べた人間が異界へ赴くための扉。
けれど──もし、異界側で、扉が開くその時を今か今かと狙っている存在がいたら。
「
「あァ?」
「あの子達の脳からウイルスを除去することはできたけど、突然苦しみ出して……アンタが追っかけてたっていう能力者が何かやってるんじゃないかって」
第三位。御坂美琴。
その言葉を処理するのにかかった時間はコンマ一秒にも満たない。理解はしている。そして、その上で。
不可視のソレが、御坂美琴へ向かうのが、見えた。
「おぉぉおおおらァ!!」
注意勧告の暇は無いと判断し、近くにあった自販機に腕を突っ込み、それを投擲する
御坂はそれを自身への攻撃と勘違い……は、しない。しっかりと外れたコースだったからだ。
だが、自身の真横を通り抜けるはずだった自販機が、中空でぐしゃりと拉げたのなら、そしてそれが己に向かってきているとあらば、そこに不可視の何かがいることは察知できるだろう。
すぐに大きく距離を取る御坂。その隣に
「えっと……なに、あれ」
「光学操作系の精神操作能力者、ってのがソイツだったはずだがなァ。訳の分からねェ妄言を並べたかと思えば、自ら命を絶って、出てきたのがコレだ。不可視でありながら自販機を拉げさせるほどの斥力を持つ能力ってモンを俺は知らねェが、俺も能力の全てに詳しいわけじゃねェ。あるンだろォ、そォいうのも」
「自殺することで……なんで『
「その原理の究明は、今必要かァ? 俺達の知らねェ能力と、俺達の知らねェ法則があり、そンでそいつが維持されている限りあのクローンたちは苦しみ続ける。この関係性がわかってりゃ、やることなンざあと一つしかねェだろォが」
マジュツ関連なら、第三位はどォやったって紐解けねェだろォしな、なんて嘯いて。
「……そうね。やることは一つだけだった。……磁力線を見たけど、あのおかしな力、あの扉から外には出られないみたい。私達に向かって……ちょうど、人差し指でも伸ばしているかのような形で存在してる」
「つまるところ、全力で押し込ンで、扉を閉めちまえばこっちのもンか」
「扉を閉めることがどれほどの効果になるのか、っていうのはわからないけど……扉が開いたことがトリガーなら、可能性はありそうね」
勝利条件はこのナニカを押し込み、扉を閉めること。
敗北条件はこのナニカを外に出してしまうこと。そして……妹達が死ぬこと、だろうか。
そんなもの。
「……第三位。オマエの超電磁砲、弾丸にするモノの材質で射程や威力は変わる……ンだったか?」
「そうだけど……」
「なら、弾丸にはこれを使え」
「……なにこれ。飾りナイフ?」
「あァ、元々は『舜帝の剣』なンて大層な名前だったモンだが、今はなンでもねェ丈夫な剣だ。解析と比較用に持ってたンだが、もう使い道もねェはずだからな、良いだろ」
それは
あの流体曰く、もう使い道が無い剣。一族の術式が刻まれたものとしてローゼンタール家はそれを欲するかもしれないけれど、血眼になって探すほどじゃないもの、であるらしい。学園都市の外の技術で鍛造されたものでありながら、非常に丈夫なつくりをしているそれは都合が良い。不明なベクトルには不明なベクトルをぶつけて相殺するのが一番だから。
「オマエの
「……間違っても扉の向こうに地面が無い角度にしないとね、それ。……迷っている時間は無い、か」
大きく距離を取り、砂鉄で不可視のナニカを包み込む御坂。
その全貌を露にし、与えられた飾りナイフを眼前に浮かべ、電磁気力のレールを組み上げていく。
レールの中、『舜帝の剣』へと手を伸ばす
空気抵抗や反動など、作用・反作用の法則で生まれる「力の逃げ場」のすべてを一点へと集中させ、エネルギーロスを可能な限り減らし。
「行くわよ──!」
掌底。それが『舜帝の剣』の柄に当たったその瞬間、その一撃は完成する。
最終速度は光速の13%──もしここで
突き刺さった……が。
「う……嘘!? 押し返され……こんのぉおおおお!!」
バチバチと放電を始める御坂。そうだ、そうするしかない。
おかしな事象が目の前にあるというのなら──それでも、最初に決めたことをやるしかない。
それは創作物の表現に見られる「完全に静止しているボールが力負けしたバットを突き破って再度加速する」というような光景に見えた。
放たれた『舜帝の剣』は不可視のナニカに衝突したまま静止している。だが、明らかに不自然な静止だった。あの剣に乗せられたすべての力は生きている。だというのに、止まっている。ゆっくりと……その力を分解しようとするかのように。
そして、御坂による雷撃を受け、また元の力を取り戻し、進もうとしているようにも見える。
一方通行は思い出す。あの流体が言っていた話を。
もし、神なんてものが相手なのであれば、人間が何千年かけたって枯らすことのできないエネルギーを持っている。
だけど、そうではないのなら、削り切れる。
流石にネット知識を読み齧っただけの浅い知識では、目の前に現れようとしている不可視のナニカが本物の神か、そうではない力の塊か、なんて判断はつかない。
なれば、後者であると信じて力比べを続けるしかない。
あるいは。
「(リスクを度外視して……アイツのマジュツとやらを)」
概要を聞いたわけではない。外側の見た目から判断したカタチと知識を組み合わせただけのもので、どれほどの効果が見込め、そして……どれほどのダメージを負うのか。
強大なものの弱体化のマジュツ、だというソレを。
雑念だ。今は、今できることをするために、