とある性教の雌女昇格(メスメライザー) 作:無ければ作れ(Invenire404)
幸か不幸か。
否──その実力差を鑑みれば、不幸と言う外なかったのだろう。
この混迷の学園都市にあって、ゾンビ被害と無縁である第二三学区。
とはいえ学園都市の事情を把握していないわけではないようで、入り口に警備ロボットがこれでもかと配置されていた。
だから男……黒妻綿流はできるだけ外縁部を選び、そこへ侵入した。
ここに何か、この学園都市を救済に導ける一手があると願って。
果たして──彼は、鉢合わせる。
「*ここが学園都市。なんとも……歪な場所であるか」
「*ええ、そればかりは同意しますねー。直視することさえ汚らわしい、異端と異形の集合体。こんな場所が我々の立つ大地にあるというだけで怖気が走りますねー」
日本語でも英語でもない言葉で話す、そのおかしな二人。
緑一色の男性。筋骨隆々の男性。前者の男性が担いでいるのは、巨石に取っ手がついている、みたいな見た目の何か。布が巻かれている。
「*そのために来たのである。準備をせよ、テッラ」
「*はいはいー。──それではー、獣欲に塗れた学園都市よ。その煩悩の全てを懺悔なさいー」
紐解かれていく巨大なそれに、並々ならぬ悪寒を覚えたからだろう。
黒妻は──普段の彼はこんなことをしないが──乗っていた単車をそれにぶつけんとする、という手段を取った。
取った、はずだった。
「ふん。……やはり邪魔立てが入るか。テッラ、霊装の守護に注力せよ。それは脆い」
「はいはいわかっていますよー」
あろうことか──大型バイクによる激突は、筋骨隆々な男の片腕によって止められ、しかも握りつぶされる。さらには後方へと投げられた。
人間技ではない。
それを理解して──尚、黒妻はファイティングポーズを取る。
「理解不能だ、青年。超能力とやらを使わない気か。……否、何にせよ、理解できていないわけではあるまい。私が如何に生物として貴様を上回っているか、が」
「……ああ、そうだな。俺はここで死ぬのかもしれないが……それでも、あいつらの住むこの場所を滅茶苦茶にされて黙っていられるほど大人でもないんでな」
「そうであるか。ならば致し方ない。──来い、学園都市の尖兵」
その、決着、など。
だらんと垂れ下がった手足。頭を掴まれて持ち上げられたソレを、果たして人間と呼べるのか。
「増援も無し。どこかに狙撃手がいるということでもなし。まさか本当の意味で尖兵であったとは。学園都市は、こうも子供を使い潰すか」
「まぁまぁ、良いじゃないですかー。私としては、私の手が汚れなかっただけで儲け物というものですからねー」
「……そうであるな。青年、貴様は努力した。私達に数分を使わせたことを誇り、逝くが良い」
その手に力が込められて。
「──クソやろォが」
大男の頭蓋が、とてつもない勢いで地面に突っ込んだ。
「……オイ、生きてっかァ、一般人」
「……あ、あ」
「意識を失ってねェのか。そりゃまた、どォなってンだよこの都市は」
「……あ、れ。が。大切な、もの、らしい。脆いと……言って、いた」
大男の手から奪い返したその「かろうじてでしか人と呼べないもの」は、それでも、情報を残す。
目の前に来た存在が、自らの意思を継いでくれると信じて。
「あァ……最高の働きだ。そのまま寝てろ。死ぬンじゃねェぞ。オマエは、俺達が辿り着くまでのほんの僅かな……そして最も偉大なる数分、ってやつを稼いだンだからよォ」
「はは……ああ……頼んだ、ぞ」
意識を失った男をできるだけ平な場所に寝かせて。
「──第三位! あの布の巻かれたでけェモンが今回の騒動の中心だそォだ。これでもかッてくらい執よォに狙ってやれ」
「そう言うってことは、あんたは戦わない気?」
「いや。俺の相手は、こいつみてェだからなァ」
大男が……立ち上がる。
何事も無かったかのような顔で。
「ようやく援軍か。そして貴様の言う通り、あの青年は偉大なる時間稼ぎをしたようだ。敬意を述べるとする」
「……ったく、どォいう身体をしてやがる。4tトラックとの正面衝突くらいの威力は出てたはずなンだがなァ」
「ああ、奇襲として出た威力ではなかった。ただ、私の肉体の強度の前に歯が立たなかったというだけである」
「それをどォいう身体をしてやがる、っつってンだよ」
降り立った存在は、ふと、近くに通信端末のようなものが落ちているのを見つけた。
あの青年の持ち物だろう。
ただ……何か、最近知覚したばかりの力が働いているような気がして、それを拾い、丁寧に自身のポケットへとしまい入れた。
「貴様は尖兵ではない。紛れもない強者、学園都市の武人であると見受ける。──私の名は、『後方のアックア』。他の名もあるが、今の名はこれで良い」
「そォか。学園都市の
第一位と聞いて眉間の皺を深くしたアックア。該当するワードを脳内で検索しつつ、必要な演算を行い始める
両者が動きだしたのは、全くの同一だった。
影から取っ手の出ていた彼の武器──を、取り出す暇は与えられない。
砲弾を思わせる右拳に対し、
刹那の交錯。互いに思考する時間はあったはずなのに、理解できないという顔のアックアは──そのまま、彼の込めた力のままに
「む、ぅ……!?」
「ハ……やっぱりてめェも"
「なん、であるか。打撃の威力が……反射された……?」
「あァ、そうさ。実を言うと、つい最近……つゥか昨日まで上手くできなかったンだがよォ。学園都市の、
腰の入っていない右ストレート。そんなもの防ぐ意味も無い。
そう判断できるアックアではない。全霊を込めてガードし──弾き飛ばされる。
「小悪党だの、ヒーローだの以前に……ちィっとばかし、恰好がつかねェだろォ? ……だからよォ……もう、"それに類する力"で……好き勝手できると思うンじゃねェぞ、三下ァ!」
足元の瓦礫等々を蹴って、追撃をする。
マジュツに関する誤差修正は良好だ。お手本が二つ。昨日見た巨大な力と、今ポケットに入っている微弱な力。
辞書は無かれど、教科書を開き得る状態で受けるテストで、毎度毎度できないと思われる、というのは──いくら「ヒーローに焦がれた」
寝かせている、名も知らぬ一般人。恰好からしてともすれば
あの、強大に。見たことも無いようなチカラを使う暴虐に。
たった一人、増援が来ると決まっていたわけでも、応援がいたわけでもない場所で……逃げずに、戦い抜いた、ヒーロー。
一度でも。
その、暴虐の側に。理不尽の側に立っておきながら──。
結局、ギリギリにしか、間に合わない。怪我をさせる前に。苦しめる前に。
未然に防いでやる、なんて簡単なことが、どうしても、どうしてもできない。
奥歯を噛む
その彼の耳が……あり得ない音を聞く。
「ふぅ……成程、これが超能力であるか」
「……ア? な……ンで、五体満足で生きてンだ、てめェ」
「言ったはずである、超能力者。君の力は、私の肉体の強度の前に歯が立たなかったというだけである」
そんなはずはない。拳への『反射』は元々アックアの力だ。
それがそんなにも軽傷であるということは。
「……てめェ、最初から遊びだったとでも言うつもりかァ?」
「小手調べであったことは認めよう。先の青年を相手にした時、力加減を間違えた。ゆえに下方修正した力で戦っていた。自らの力が自らに返ってくるというのについても、同様の術式は溢れている。それらのどれも私の肉体を傷つけるには至らない。なにより私は聖人。十字教において自殺は重篤な大罪なれば、自らの力で自らを殺すなどということは起き得ないのである」
「……聖人、ねェ。言葉の意味は知っちゃいるが、マジュツ的な意味は知らねェな」
「なんと。そこまでの初学者が第一位を名乗っているのであるか。否、そこまで学園都市では魔術に関する知識が規制されていると見るべきであるか」
とにかく肉体的強者であるもの。そして十字教において自殺が罪、という話から、仮想対策を練り上げていく
「(とりあえず調べた限りの聖人と呼ばれていた人間・そして神の子そのものの要素を持っていると仮定すりゃいい。地面に力を通しているみてェに強靭な肉体と、最初の踏み込みで見せた速度。そンでもって今取り出した、バカみてェにでけェ棍棒)」
「しかし、そちらが無傷というのは私の矜持に関わる。気持ちの良い運動をさせてくれると助かるのであるが」
「あァ、そのまま昇天させてやるよォ」
「それも、楽しみにしておく。──参る」
再度、激突する。
限界まで口角を上げた
「ヒヒャハハっ! 聖人つったってニンゲンであることにゃ変わりねェだろォがァ! だったら血流でもなンでも逆流させちまえば、水風船みてェにパチンと──」
「品の無い笑い方である」
「っ!?」
大きく吹き飛ばされる
吹き飛ばされて、それを疑問に思った。
「(な……ンだ? 俺にダメージは入っちゃいねェが、吹き飛ばされた? 『反射』は切ってねェぞ。どォやって俺に運動エネルギーをかけた)」
「……大気を蹴って、浮いているのであるか。その漂白されたが如き月白の容姿は、天使をさえ思い起こさせるであるな」
「はッ、例えるものなンでもかンでもそっちの話題にすンじゃねェよ。……ンで、だったら──こォいうのはどォだ」
蹴っている大気から。体が上下するたびに体表を流れる気流から。
その全てを、掌握する。
かつてあの最弱と戦った時の不完全さはない。
世界を理解せねばと全てを取り入れた。
周囲に満ちる全てが教材なのだと理解した。
たった一人を完膚なきまでに守るために、
「(思考リソースを割く必要は無ェ。
やがて……それが。
くしゃくしゃにした紐のようになっていたプラズマが、押し固められ……そして、槍を形成していく。
理性を保つ。理性を保つ。
誰かが当然のようにできることを、理性を飛ばさねばできない、など。
魔術の分野ならともかく、科学の分野で……そんなことがあってはならない。
パキ、と。
漆黒の結晶のような、一対の翼が構築され始める。
ただ……足りない容量を付け足すかのように。扱おうとする力に肉体が合わせるかのように。
羽化、していく。
「……まさか、本当に天使であるとでも言うつもりであるか」
「さァ、どォだかなァ。──聖人、っつったか、てめェ」
アックアは、そこで、その事実に思い至る。
眼前……否、見上げるところにいるこの純白と漆黒の存在。
性別が、掴めない。男なのか、女なのか。
天使とは、雌雄同体の神の尖兵。神の力の代行者。
聖人とは、身体的特徴が神の子と「似ていた」が故に神の力を引き出せる存在を言う。
本来の天使と神の子であれば、神の子が圧倒的に勝る。地位という意味でも、力という意味でも。
だが、本物の天使と、紛い物の神の子では。
「──面白い」
だが──アックアは、聖人でありながら、『神の右席』でもある。
神の右席とは『神の力』とその耐性を得るもの。この存在が天使に近付いていけばいくほど、『神の右席』に勝ちうる道理は消えてなくなる。
「不勉強で悪ィが、俺の浅い知識に依りゃァ、神の子、ってのは磔にされて、脇腹を槍で貫かれて死ンだ……って話で、合ってるかァ?」
「正しい。そして、聖人をよくぞ神の子に結び付けた。初学者の身で、素晴らしい洞察力である」
「偶像の理論、ってやつだ。このプラズマの槍で、てめェを貫く。聖人であるてめェは避けられもしねェし受け止めるしかねェ。この理解はどォだ。合ってっか」
「否、そのような制約は発生しない。なぜなら神の子が死した理由は飢餓と渇水、そして呼吸困難であり、槍は死亡確認のために使われたにすぎぬからだ」
「そォかよ。勉強になるぜ。……で? 受ける必要が無ェのに、どォしててめェはそんな場所で構えてやがる」
「貴様の力の全て。学園都市の頂点の力が、我が肉体に何の傷もつけられぬと証明するためである。貴様にとっての最高の一撃、悉くを凌駕し、無傷のままここに立つことを誓うのである」
そォかよ、と小さく呟いて。
当然あちらの戦場に余波の届かぬよう、ボロ炭のようになったヒーローに届かぬよう演算したうえで、だ。
果たして、プラズマの槍は。
「オオオオッ!!」
衝突する。
地に向きて刺さる光の槍と、手を仰ぎて迎え討ちたる武骨なメイスが。
その勝敗は──圧倒的な温度と威力で、槍がメイスを中頃から溶かし折って、プラズマの槍の勝ち。
けれど。
「ォオォオオアアアッ!!」
その槍は……アックアの肌を焼くことさえせず、その肉体に阻まれ、雲散霧消する。
「……」
「どうしたのであるか。効かぬと告げてあったはずであるが。それとも、信じられぬのであるか。私の──」
「うるせェ。いつまでもてめェだけを眼中に入れているわけねェだろォが。……あァ、いや待てよ? オイ、聖人ってのはよ、ちょいと待ってくれ、なンて言ったら待ってくれるモンなのか?」
「……恐らく聖人君子という単語を連想しているのやもしれないが、そのような道理は無いのである。ここが戦場なれば、なおさらの事」
「戦場? 何言ってンだ、せいぜい人ン家だろォが。不法侵入者に対してむしろ過分な迎え入れをしている方だろォがよ」
「ふむ。……確かに、至極尤もである。本来であれば学園都市とローマ正教の間で起きていたはずの戦争そのものが止められている以上、ここを戦場と見做すのには無理があるか」
「じゃあ、待ってくれや。俺はちィと通話をするンでね」
「む。……このような場でまで端末か。学園都市の子供は誰しもが端末遊びに夢中と聞くが、嘆かわしいことであるな」
そういうことではないが、否定するのも面倒臭いので
ボロボロになっていたあの
そこに、少し前から何度も何度もかかってきていた着信。
それをタップすれば。
「"良かった、繋がった! 大丈夫か!? そこには
「あァ、待て。俺はそいつじゃねェ」
音質はすこぶる悪い。恐らく魔術の技術と科学の技術を融合させようとしたか何かだろう。学園都市で最もランクの低い通信回線でもこうはならないから、そのあたりがジャミングになっているものと思われる。
通信相手はどうも、あの一般人の知り合い、ないしは顔見知り程度の関係性であると推察できた。突き抜けるようなお人好し……そんな印象を受ける声だ。聞き覚えがあるような気もするが、こういう声を持つ者がこの学園都市にはごまんといることを知った今、判断はできない。
「"な……じゃあ"」
「これの持ち主は無事とは言えねェが、戦場からは隔離してある。俺はそいつの意思を継いで外敵と戦っている、学園都市の」
「"そいつ! 何か大きな、布とかで巻かれたものを持ってなかったか!?"」
「アー、叫ぶンじゃねェ。聞こえてるが、耳が痛ェよ」
「"あ、ご、ごめん"」
「そンで、布で巻かれたもの、っつゥのは霊装であってるかァ?」
「"あ、魔術のわかるやつか。そう、『神の右席』、『左方のテッラ』が持っているらしい霊装で、そのまま使われると学園都市がやばいかもしれない代物だ。あんた、魔術師ってことでいいんだよな"」
「いや、マジュツに関しちゃ見習いも良いところだ。情報があるならなンだって知りてェ」
「"代わってください。……形状や大きさを教えてください。それで、幾らかの判断はできます"」
通話先の相手が変わったらしい。音質が悪くても分かる、凛とした声の女性。
「1.5mくらいのでけェ岩と、それに突き刺さった……釘か何か。布越しだが、そォ見える」
「"であればそれは、『聖ヒエロニムスの岩と棘』であると推察できます。ご存知でしょうか"」
「あァ、それなら読ンだ。如何に高尚で如何に聡明か、ってのをくどくどと書き連ねている文章だったが……なるほど、『獅子の刺抜き』と『砂漠の苦行』の話だなァ?」
「"よく勉強していますね。その通りです。聖ヒエロニムスは自らの煩悩に打ち勝つため、砂漠にて四年間の修行を行った。その際に自らの胸を岩で叩き、数多くの懺悔を吐き出したと言われています。よってその霊装の岩の方は、『叩いた対象から欲望という感情を除去する術式』であると推測できます」
「"なんだ、それ……ふざけやがって……"」
思わず同じ言葉を吐きそうになった──もし目の前に最初の通話相手がいたのならハモっていた可能性まである。
ふざけやがって、だ。外からやってきて、欲望を消し飛ばさんとする、など。
「"冷静に聞いてください。もう一つの霊装は『獅子の刺抜き』における棘そのもの。修道院に現れた足を引き摺った獅子を恐れることなく治療し、その足から棘を抜き切って治療した。その後、感謝した獅子が周囲の野生動物の世話をしたり、ヒエロニムスに生涯寄り添ったという伝説。岩の文脈からして、『敵と定義したものに突き刺し、再び抜くことで隷属させる術式』でしょう"」
それもまたふざけやがった霊装だ。
だが。
「オマエらは、どォにも魔術に詳しくて、こいつらを止めようってハラなンだろう。今聞いた二つの術式は確かに厄介で学園都市に入れるべきじゃねェとは思うが、そうも焦るほどには思えねェ。他に何がある」
「"まだ話は終わっていません。ヒエロニムスの伝承をなぞった二つの霊装を持っているのなら、もう一つを隠し持っていて不思議ではありません。『ウルガータ』。
「……この都市の、能力開発を受けた一八〇万人をまるごと十字教の一員にしちまおう、ってハラか」
「"ええ。十字教……それも、ローマ正教の信徒にするつもりでしょうね"」
「一応聞いておく。そいつは俺達にどォ作用する」
「"能力者は魔術を使えないそうです。私は能力開発を受けていないので詳細を知りませんが、魔力生成と能力演算が互いを引きちぎり合って、内側から爆ぜてしまうのだとか"」
「あァ、知ってる。……まさか、教義をすり替えられただけで……すり替え後に能力者が……なんか、魔術的な行動を取った……取らされでもしたら」
「"……はい。最悪の想定ではありますが"」
知らぬうちに神を知っていることにされ。知らぬうちに魔力を生成したことにされ。
それが罰とでも言わんばかりに──縊り殺される、など。
「ふざけやがって。……フザけンじゃねェ」
「"あんた、今そいつらと敵対してんだよな!? 俺にはその霊装をブチ殺す手段がある! 頼む、こんなこと……頼むべきじゃないってのはわかってるけど。……もし力を貸してくれるなら、それを奪ってほしい。……無理はしないでくれ。あと"」
「うるせェ。耳元で叫ぶな、っつったろォが。……そンで以て、安心しやがれ。俺はちょいと、今回の事件に縛りを課してンだよ。……今まで、ずっとずっとできてなかったが……そろそろできるよォになるべきだ、ってなァ」
突き抜けた声の誰か。
その声が、どうしてもあの最弱を思い起こさせるから。
八つ当たりには近くなるが、最弱に向けて、告解するように。
「取りこぼし無し、だ。この端末の元の持ち主も、ここより後に発生したのであろう被害者ってやつも。どの命も等しく見捨てねェ。守り切ってみせる。それが……俺みてェな小悪党にできる、最大限の償いだと信じている」
「"小悪党? 何言ってんだよ! 話を聞く限り、っつかその行動は誰が聞いたって──ヒーローってやつだろ! 信頼してる! 全面的に頼る! 俺も急いでそっちに行くから、無茶だけはするなよ! そんで、
「……。……耳元で叫ぶな、っつったろォが。……あァ、待ってる。道中でゾンビに纏わりつかれて固まっちまゥのだけは避けろよ、
「"ああ。じゃあな、
通信が切れる。
なんだ。
なんだろうか、この。
「長い話であったが、話は終わったであるか」
「ン、あァ。……おかしな気分だ。……あいつじゃねェ。それはわかってる。似たよォな口調で、似たよォな輝きを持つやつが腐るほどいる街だってわかってンのに……」
「では──こちらからも行くぞ、科学の街の天使」
「どォしてか。……少しばかり、報われたよォな気分なンだ。俺にそンなもン、与えられるべきじゃねェのにな」
小悪党ではなく。悪党でさえなく。
この街を……彼らのような者が住まう場所を守護する者として。
たった一人も満足に守れないこの両腕は、なら、この街の全て程度であれば、守れるのか。
難題だ。難しいことを知った。だから抱く範囲を狭めてきた。
けれど。
それは──学園都市第一位のやることなのだろうか。
「難問があれば、飛びついてでも解く。……あァ、そォだ。最初……本当の最初は」
水道管にでもアクセスしたのか、間欠泉のように吹き上がり、槍となって、ガブリエルの力となって襲い来る水流を。
「問題を解くことが好きなだけな、ガキが……いたンだったなァ」
結晶の如き黒翼は。
真実──翼へと。
黒き翼を持つ者。過去・現在・未来の知識を持ち、秘学の秘密を解き明かす強大なるもの。
アックアによる打撃。水と重なったそれは、一切の意味を成さない。
「これは……天使、ではなく。……ゴエティアが29柱目。地獄の大公爵──アスタロトであったか」
水は。
神の力を含む水は──その全てを掌握し返される。
さらには、再度発生したプラズマの槍が、その水と衝突し──そこに大量のエネルギーと、ラジカルを放出する。
OHラジカル──とりあえずなんでもなかんでも有機物質を分解したがるソレが、ベクトルを整えられた衝撃波と共にアックアへと降り注ぎ──。