とある性教の雌女昇格(メスメライザー) 作:無ければ作れ(Invenire404)
巨大。巨大。
学園都市の敷地面積の約四分の一はあろうかというその体躯。体高は目算で4,000m──魔術の秘匿とかいう次元に無く、科学の結集というステージにも無い。
等しく怪物。正しく怪物。
「……これが……あなたたち『神の右席』の呼び出したかったもの、ですか?」
「濡れ衣は止せ、
「……ただの高校生です」
「そうか。我々はそのような者達の肩に体重を預けねば、前に進めなくなっていたのであるか」
巨大なメイスの柄。それを掴み、ゴキゴキと肩を鳴らすアックア。
「……たとえ聖人の力を以てしても、あれとまともにやり合うのは」
「だが、子供だけを戦わせて、その傷ついていくさまを見上げるばかりというのは肌に合わぬ。……『
「それが……『後方のアックア』としての言葉、ですか?」
「否。──これはある一人の流れ者の言葉である」
と。
そこで、神裂の通信端末に通話が入った。
この空気の読まなさ加減には覚えがあると神裂が出てみれば。
「"やっほーねーちん。絶賛ぶっ倒れ中のクソザコ陰陽師からの見解、聞く気はあるかい"」
「その口調でかなり削がれました」
「"おおっと切らないでくれ。それと、できればそこにいるもう一人の聖人にも聞いてほしいぜよ"」
「……私であるか?」
「"そう、アンタ。『後方のアックア』、あるいは英国の英雄ウィリアム=オルウェル"」
神妙な声を作る電話先の男……土御門に、最初からそれをやりなさい、という怒りが湧く神裂。また、こういうものが苦手な彼女が一瞬にしてスピーカーモードをオンにできたことは褒めたたえられるべきか、天草式十字凄教の元女皇なんだからできて当たり前というべきか。
「"この病室からでも見えてるけど、あれはちょっとやべーもんがやべーもんを取り込んだ結果って感じだにゃー。ベースとなっているのはブエルのシジル。そこにアブラリメン書の魔方陣が組み合わさった素人創作術式が土台だ。が、ブエルが呼び出される日はもう少し後だし、魔方陣を正しい形で見えるところに術者がいなかったってのがキーワード。つまりぃ? 学園都市全体を使ったクソデカシジルの制御部分が斜めから見た魔方陣で、その動力源が『神の右席』二人のテレズマと、『左方のテッラ』がおかしくしてくれちまった学園都市第三位による『科学を魔術で制御しようとしたこと』から生まれる特大の『説明できないチカラ』。この三つの接合剤に、学園都市の科学の闇……あるいは最も細やかなる『母親の病を治したい』という意思から生まれたドッペルゲンガーが融合して生まれたのが、アレ。伝承の少なさと特性から俺っちはアレをウェンディゴと称しているぜよ"」
「先住民族の……人肉を啜り巨大化する怪物であるか」
「"そうだ。強靭な肉体と再生能力を有するウェンディゴは、肉体をバラバラにして全て灰になるまで焼き尽くすくらいでしか倒せないとされている。ただしやり方はもう一つある。熱い湯や油を口へ流し込み、凍り付いた心臓を溶かすことで呪いそのものを消し去っちまうって方法だ。あれが学園都市の素人による作品として、無形の怪物として顕れている今なら、こっちから先に名前を付けてやることで弱点の付与まで可能なはずだぜぃ"」
具体的で、現実的で。
そして、夢物語も良いところな話だった。
「……土御門。敵はあなたが考えているよりずっと大きいのです。熱い湯を口に放り込んだところで、心臓部まで達するのにどれほどかかるか」
「"いるだろう、全員。大量の水を呼び込める者も、それを特大火力で熱し得る者も、そしてそれの一切を漏らさずに空中まで運んでいける者も"」
「……名乗る名を変えた直後に、元の名を名乗れというのであるか。……人使いの荒い男である」
「土御門、ステイルの位置はわかりますか?」
「"第二二学区だ。禁書目録もそこにいるらしい"」
「らしい?」
「"結局これらの現場情報を与えてきたのがその一切を漏らさずに運べる奴だからニャー。俺達は楽園の手の平の上ってわけですたい"」
知らず唾を呑み込む神裂。
上空を飛ぶ透明な鳥の群れ。その向こうにいる存在は、果たしてどれほどの思考を有しているのか。
「ステイルを……特大火力を持つ魔術師を呼んできます。この少女はここに寝かせておきますが、不埒な真似はしないように」
「……私を何だと思っているのであるか、という問いは、数瞬前に私達がここへ行いに来ていたことを思えば容易く打ち砕かれるものであるな。誓おう。手は出さぬし、出させぬと」
「良い誓約です。──では」
消える神裂。一気にトップスピードまで行ったのだろう。
それを見てアックアは、「速力の面だけで言えば、あるいは」とか思ったとか。
☆☆☆
そげぶの動きをサポートする。彼へ向かう攻撃を受け止め、彼が殴りに行きたい時に道を付ける。
よろけた際にはその手が『霊磁性流体』に触れないよう調節し、すぐさま回避行動に遷移。
反面、セロリマンは手がかからない。自分で飛べるし突っ込みすぎたら帰ってくるし、ちゃんと回避をする上でし損ねても問題ないし。
天使のベクトルを理解した彼にとって、残る障害は魔力のベクトルによる全方位攻撃くらい。つまり、あの巨体に掴まれて握り潰される時が一番やばい。
そして、そうでなくとも。
「チッ、どォなってやがる。堅いにも程があンだろォが。尋常じゃねェ再生力も面倒臭ェし」
「多分だけど、どっかにコアみたいなモンがあるんだと思う。……けど、俺の右手はこいつの全てを破壊するには至らない……というか、破壊される前に自切してるって印象だ」
「コアね。……じゃァこォいうのはどォだ」
そげぶを巻き込まないようにして、それでいながら俺には一切配慮しない形で……もう形成に慣れたか、プラズマの槍を数本作り出すセロリマン。
そしてそれを一斉に射出した。
結果は。
「無傷かよ。傷つくぜ」
「やっぱり、一か八か、俺があれの中に入って……」
「そりゃ一か八かがすぎる。一寸法師のあれは、胃に入るまでに障害のねェつるりとした食道であればこそだろォが。その上、あるかどォかもわからねェコアのために一生を捧げるなンざどォかしてるぜ、
「そうか? まぁ確かに、俺の人生っていうのはそういうのの連続で、傍から見れば頭のおかしい道行きなのかもしれないけどさ。その"無茶"や"無理"ってやつを通し切れるのが俺の『
「……」
ああ……毒だろうなぁ。
今の……取りこぼしをしない宣言をしたことで、上条当麻をもその勘定に入れようとしていたセロリマンにとっては。
まっすぐ、迷わず。
障害があれば迷わず打破しに行って、己が手に入れようと思った結果を何が何でも掴みにいく。
同じ一方通行の形でありながら──なんという。
「……やっぱオマエ、おかしいと思うぜ。頭ン中のネジが数本どころじゃねェくらい抜けてる」
「じゃあ、止めるか?」
「俺は……どっちかっつゥと理屈側の存在なンだがなァ。理屈と理論を通してこそ現実がある。そォ考える奴だ。……だが、オマエの言葉を聞いていると……そォじゃねェんじゃねェかって思えてくる。この世界ってのは、まずなによりも先に行動があって……それに追従する理屈と理論があるんだ、ってよ」
「どっちでもいいだろ、そんなの。理屈と理論が先の理屈と、行動が先の理屈が並列で走ってるってだけだ。どっちが正しいかなんか知らねえし、興味も無い。そういう判断は"後世の歴史家"とかがやるんだろ。あーだこーだ批評をつけて、その時の人達の気持ちも知らないで。そんな奴らのことまで気にしなきゃ足を踏み出せねえってんなら俺がその幻想をぶち殺してやる。けど、お前はもう違うんだろ、
無粋にもパンチを入れてくる怪物の拳を『霊磁性流体』で包んで防いで、と。
セロリマンは……いや、
穏やかな顔を一気に崩し、獰猛に笑う。
あるいは一番「らしい」顔かもなぁ。
「そォだ。……どォにもまだ頭が固ェ。マジュツなンていうものにも理論があることを知っちまったせいで、勘違いしてた。行動が通るのはそこに、常識からは考えられねェほど……無茶や無理だと叫ばれるほど画期的な法則がしっかり存在しているからだ。どっちかじゃねェ。どっちもなンだ。この学園都市第一位っつゥ井の中の蛙は、どォにも、その事実ってやつをすぐに忘れちまうらしい。俺の思い通りになることが、この世に何一つとしてねェンなら。せめて良い方向に……期待を上回る方向に転ばしてやらねェと嘘だろう」
んで、と。
折角友情演出をしてあげていたというのになんだなんだ。
「オマエのことだ。もう対策だのなンだのは思いついてンだろ。現実として
「"驚くことに少なくはない。だが少し待て。今、お前たち以外の者達がこの巨人殺しを成し遂げようとしていて、できるのならばそれと同時にが好ましい"」
「やり方が似ている、ってことかァ?」
「"正しい。この怪物は学園都市の魔術素人が生み出した無形の怪物だ。こんな存在はどこの神話にだって存在しない。そこを逆手に取り、とあるグラサン陰陽師が打ち出した計画がこれ"」
と言って、"ウェンディゴの討伐"に関する概要を二人に話す。
偶像の理論を敵の魔術に当てはめて攻略するやり方は、実は結構ポピュラーだし成功率も高い。
これでちゃんと敵に弱点が設定されていたら意味ないんだけど、頑張って完全無欠にしようとしたっぽいし、大丈夫だろう。
「大量の熱湯を飲ませる。それで氷の心臓を溶かす、ね。……マジュツってのはなンつゥか、時折幼稚だよなァ」
「"幼稚さこそが世界の真相だ。シンプルな世界にこそ深奥が眠っている。そして、心臓部の外殻がこれによって壊し尽くされたのなら、お前の出番だ、上条当麻"」
「呪いが解けて、人間と同じになっているそいつに触れて……この馬鹿げた騒動を終わらせる」
「"正しいが、一つ。別にお前さんだけで行く必要はないだろう。道中も付き添ってやれ、
「……外側の守りはどォする気だ。腹に異物の入った巨人が暴れ散らかしでもしたら、止められる奴がいねェだろ」
「"そうか? 学園都市というのは、隅から隅までお前が守ってやらないと簡単に手折れてしまうような、そんな儚い場所なのか?"」
ならば、と。
無線機を一つ、上空から落とす。
そこから響き渡るは。
「"全
「"
「"承知した。
「"通報が! 高圧ガスホルダーが浮いていたとの情報アリ!
「"有効な通報ね! そういうのはばんばん貰ってちょうだい!"」
この街が、今まさに立て直そうとしている……そして自衛を行おうとしている声。
「ははっ、『
「良い奴かどうかは措いて擱いて、頭ン中が花畑なのは間違いねェな。なンでもかンでも物語調に仕立てあげりゃ俺達が従ってくれるとでも思ってやがンのかァ?」
「"いやぁ、だってお前さんら、俺が彼らは立て直し、お前らの援護をしようとしてくれているよ、なんて言っても信じないっつーかああそうかい、で済ませてしまうだろう? 子供を説得する方法として最も効果的なものが、実際の現地の声を聞かせることだ、と。俺はそれを知っているだけさ"」
「……チッ。教師気取りかよ。だりィ」
またもパンチが……いや。
拳の速度を乗っけた──無数のスパイク!
「邪魔だァ」
それを、腕の一振りで……恐らく風などを操って叩き落す
「演出好きは面倒臭ェが、野暮な奴も同じくらい邪魔臭ェ。……どうするよ、
「何言ってんだ。みんなが力を合わせて俺達の道を切り開いてくれる、って……そういう作戦だっただろ。命を張るとか危ないとかそういう問題じゃない。もしかして経験が無いのか?」
今、この時、この場で。
最先端を歩く二人の両肩に──期待というものが乗っている。
明日を切り開くことを託さんとする想いが。
「さっき言ったろ、任せていいか、って。俺にさ。……今、みんながそれをお前と俺に思ってる。死力を尽くして頑張るから、手を伸ばして届くところにいる俺達に最後を任せてもいいか、ってさ。そんなことの答えは、一つしかないだろ!」
左手の握りこぶしを突き出す上条。
だからまぁ、平行の高さになるように上条を移動させてやって、と。
「……そろそろぶちのめすぞ演出家気取り」
「"青春ってやつだ。受け入れろ"」
白い歯を見せて笑う上条当麻に……折れるしかない
トン、と。ベクトル反射を切った右拳で、それを合わせた。
「"さぁ、準備が整った。ああそれと、熱湯を飲ませるにはまず口を開かないといけない、というのを伝え忘れていたな"」
「顎を砕けばいいンだろ。行くぜ、上条」
「おう!」
二人が……今度は明白な目標を持って、そこへ突っ込んでいく。
さーて地上の方は。
*
用意された球体になみなみと注がれていく水と、その下で両腕を上げ、我が子でも描き抱くかのようなポーズをしている
「わからないものだね、人生というのは。……まさか『神の右席』との共同戦線を張ることになるなんて」
「全く同じ言葉を返そう、
違和感。
神裂はその現場を見て、それを抱いていた。
「……ステイルの物わかりが良い……あるいは、アックアの親和性が高い……?」
「かおり?」
「あの二人は……なんというか、もう少しわからず屋といいますか。状況を理解していても、敵の脅威を理解していたとしても……それでも己の矜持を優先するというような存在だったと記憶しているのですが」
「でも、二人ともオトナだと思うよ?」
「それはそうなのですが」
何かが違う。何かがおかしい。
まるで──心というものが、矜持というものが作り出す"壁"が、どろどろのぐずぐずに溶けてしまっているかのような感覚。
手を取り合うにおいては良いことであるはずなのに、どこか。
危うさが。
「"230℃。俺の使い魔がギリギリはち切れない圧力だ。これが限界"」
「あとはそれを、ウェンディゴの攻撃を避けつつ奴の口に運ぶだけ、との話だけど……その使い魔、回避性能はどれくらいあるんだい」
「"一切無い。助けてくれ、魔術師。この鳥たちが砕かれでもすれば、一瞬で落下するだろうな"」
「なんともまぁお粗末な泥船に乗せられたものである。同時に、先程の使い方を見るに、我ら聖人が蹴っても問題のない足場を作ることはできるようであるな」
「"手加減はしてほしいけど、できる。聖人と二重聖人の護衛とか、この先もう見ること無いんじゃないか? 歴史的瞬間ってやつだな"」
「三百年以上を生きる怪人がくだらないことを……。……どの道僕にぴょんぴょんと飛び回る足はない。彼女を守りつつ、地上からちまちまと削らせてもらうよ」
「可能であれば、そちらで気絶している少女と、私が傷つけてしまった青年も守るがよい」
「なんで僕が……。……君と一緒に入ってきたもう一人はいいのかい?」
「そんな者はいなかった。事実はこれだけである。──行くぞ、『
この透明な鳥が、まるで。
全員の心の中に……溶け込んでいるかのような。
「かおり」
「……どうしましたか?」
「とうまをお願い」
「ええ……そうですね。わかりました」
この子は。
このようなお願いを、躊躇いなく、する子だっただろうか。
ひたり、ひたりと。
身体の芯に、ナニカが──。