※この作品はR-18です。

とある性教の雌女昇格(メスメライザー)   作:無ければ作れ(Invenire404)

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※エロ無
第一七七支部及び風紀委員の校外管轄についてはアニメ超電磁砲の設定にしています。


6.八月二十日『李下に冠を正さず』 - Avoid even the appearance of evil.

 八月に入ってからのことである。

 学生が口に出すには多少憚られる事件、『快楽自切(バズキルセルフ)事件』の収束の前後において、その奇妙な現象は学園都市全域で確認されていた。

 その現象とは。

 

「スキルアウトを見かけない、ね。……本来なら、喜ばしいことなんだけど」

「スキルアウトと言っても不良行為をしている方々からただ路上で駄弁っているだけの方々まで幅広いですから、喜ばしいかどうかは微妙では?」

「それでも何もせずにいるよりは良いことだと思うけれどね。……問題は、家にもいない、ってところ」

 

 スキルアウト。明確な定義は存在しないが、無能力者(レベル0)低能力者(レベル1)が集まって作られる武装集団、というのが概ねの認識である。

 しかし今白井黒子が述べた通り、そういう武装集団から目的を有さないままにただドロップアウトしただけでもスキルアウト認定されてしまうため、それらがいなくなったことが喜ばしいかどうかは判別が難しい。

 そして此度の事象においては、そのスキルアウトが家にも帰っていないというのだから……誘拐や拉致を疑うのも無理の無い話である。

 

 風紀委員第一七七支部……今ここにいるのは、白井黒子、初春飾利、固法美偉の三人。

 

「さらに同時期に起きている……各中学・高校で、スキルアウトと交流のあったと思われる生徒もまた消えている、という話。……これ、警備員(アンチスキル)はどう対応していますの?」

「明確に何かがあるまで動けないらしいわ。現状身代金なんかが要求されてきているわけでもないし、一部なんでもないような顔で帰ってきた生徒に話を聞いても、遊びに行っていただけ、としか言わないし」

 

 学園都市全域、一般校だろうとお嬢様学校だろうと……その形がどうであれ、スキルアウトと関りを持っていた学生、というのは少なからずいる。

 此度の現象ではそれら生徒……スキルアウトと呼べるかどうかすら怪しい者達まで消えているものだから、各学校の寮長や大家さんが捜索願を出して、ようやく全容が見えてきた、という段階だ。

 

「……あんまり取りたくない手だけど、もう一度先輩を頼ってみようかしら」

「ああ、件の」

 

 八月の初め頃に発生した『無能力者狩り事件』。その際に『ビッグスパイダー』やら『黒妻』やらの話があった。

 固法美偉……彼女がかつてビッグスパイダーというスキルアウトに属していたことは、ここにいる皆が知っている。ここにいないのだと、佐天涙子、御坂美琴も知っている。

 ビッグスパイダーは解散した。だが、同じスキルアウトであれば、何かがわかるかもしれない。無論固法の先輩……黒妻は長らくスキルアウトから離れていたし、今は捕まっているために、何も知らないかもしれないが──。

 

 

 果たして。面会の場で……黒妻綿流は、とても口ごもんでいた。

 言いづらそうに。普段の彼からは想像できないほどに歯切れの悪い言葉で。

 

「そうだなぁ……多分問題ないとは思うが、何かあったらコトだ。……瑞折(ミズオリ)水城(ミズキ)っつー、ニット帽を被った糸目の高校生。そいつを探しな」

 

 と、助言をくれた。

 

 これを受け、再度第一七七支部に戻った固法が『書庫(バンク)』で彼についてを調べ──そこそこの紆余曲折を経て、第一〇学区にて彼を見つける。

 

「んぁ? ……なに、キミたち。オレっちになんか用?」

「……よくわかりましたわね、わたくしたちが来たことに」

「ああオレっち、強度(レベル)は0だけど、『変温嗅覚(サーモピット)』って能力を持っててさ。周囲の温度変化が匂いでわかるっていうあまりにも使いどころのわからない能力だけど、だからこそ匂いにはビンカンなんさ。……特にキミたちみたいな、普段第一〇学区に来ないような人がきたら、スグわかる」

「成程、ですわ。……瑞折(ミズオリ)水城(ミズキ)さんでお間違えありませんわね?」

「おう、そうだけど」

 

 ニット帽を被った、糸目の少年。第一印象は「陽気なヘビ」である。

 白井と固法の二人─初春飾利はデータ収集─は……注意深く、周囲をケアする。

 

「あなたはスキルアウト……あるいはスキルアウトの関係者ですの?」

「無能力者のことをスキルアウトって言ってるんならそうだけど、銃とかスタンガンとか持ってる連中をスキルアウトって言ってんなら違うよ」

「前者ですわ」

「なら、そうなるかな」

「では──八月に入ってから起きている、学園都市全域からスキルアウト及びその関係者の足取りが掴めなくなる、という事件について、何か知りませんの?」

「え。……フツーにオレっちとオレっちの周囲のダチは今でも連絡取れると思うけど」

 

 これは外れですわね、と白井黒子は胸中に吐き捨てる。

 彼はただの少年だ。事情を知らない一般人。

 それでも固法は、なぜ黒妻が彼を探せと言ったのかについてを知るために、白井よりも少しだけ粘るつもりでいた。

 

「おー……おわ。え、ホントじゃん。……みんなどこ行ったんだ?」

 

 携帯端末で片っ端から通話をかけたのだろう、その全てが全滅し、流石に焦ったような顔を見せる瑞折。

 

「お……かっしいな。昨日や一昨日見かけた連中にまで繋がらない」

「そんなに直近に会っていたの?」

「え、うん。連絡先知ってるのだと十五人くらいとは会ったよ。別段なんか変わった様子とかも無かったと思うけど……って、あれ。いんじゃん」

 

 くん、と鼻をヒクつかせた瑞折が、明後日の方向に顔を向ける。

 そこには、女子生徒が一人いた。行方不明者リストにあった少女だ。

 

「おーい、弭間(ハズマ)ー」

「ん。……なに、瑞折。……それと、女二人。ようやく彼女できたの? おめっと」

「ちげーって。なんかお前ら行方不明らしくてさ。オレっち今事情聴取? みたいのされてんの」

「行方不明? ……ああ、しばらく家に帰ってないからか。……大げさだなぁ」

 

 サバサバとした印象を受けるその少女は、第七学区のスキルアウト関係者の一人だ。スキルアウトではなく、関連人物として名前の上がっていた少女。

 

「少し、お話を聞いても?」

「えー。めんど。……いけど、よく見たら風紀委員の腕章つけてんじゃんウケ。……あなにこれ断ったら逮捕される?」

「そんなことはしないけれど、お話を聞きたいの。家に帰っていない子が無数にいて、今騒ぎになっているから」

 

 という固法の嘆願に、弭間は「ま、ならしょーがないかー」と、悪びれる様子も何かを隠す様子も無く、対話に応じてくれた。

 

「まず……どうして彼からの連絡に出なかったの?」

「連絡? ……ああ、だってケータイ最近使ってないから、電源切ったっきりだっただけだよ」

「オレっちの知ってるやつらみんなそうなんだけど、なんか心当たりないか?」

「だからみんなあたしと同じでしょ。むしろ瑞折がまだ持ってることに驚きっつーか。ああ、アンタ働いてるだけで使ってないんだっけ?」

「あー。……成程。それで……人生にゆとりが出て、ケータイ使わなくなったって話か」

「ゆとりて。言い方ジジ臭っ」

 

 何か、固法たちの知らない共通言語がある。

 そう感じた。

 

「何の話をしていますの?」

「ああそりゃ……。……待って、風紀委員は……ダメか」

「ダメだけど、ダメって言うことがまず……みたいなことあるよな」

「──詳しく聞かせてくれるかしら。風紀委員(ジャッジメント)に言えないことって、なに?」

 

 瑞折と弭間は互いに顔を見合わせ、アイコンタクトのみで頷き合う。

 そして──いっせいに駆け出して。

 

空間移動(テレポート)相手にただ逃げるだけを選ぶ度胸は買いますわ」

 

 一瞬にして制圧されるのである。

 

 

 さて、このまま二人がゲロってあわや──ということには、ならなかった。

 頑なに口を割ろうとしない二人に痺れを切らした白井が「少し手荒な」手段を用いようとした時のことである。

 

「さっきからなんだ、騒々しい。つかな、瑞折。お前シフトの時間だぞ」

「え、あ、店長!? それはすんませんけど、今はタイミングが悪い……!」

 

 働いているだけで使ったことがない。

 何の話かは言えない。

 それだけで──二人が非合法な施設を利用している、ということは推察できる。

 だから白井も固法も、現れたその中年男性に、初めから容疑をかける目を向けた。

 特徴の無い中年男性。多少顔立ちが日本人っぽくないことくらいが特徴だが、それ以外に取り立てる要素が無い。

 

「アナタは?」

「近くで『アルモニ屋』っていう楽器販売店をやってる店長さんだよ」

「楽器販売店? ……初春、『アルモニ屋』で調べてくださいな」

「"はい。……出ました。第一〇学区に()()()()()楽器屋さんですね。学生向けのリーズナブルな価格で中古~新品の楽器を売っているようです。店長さんは、安東(アンドウ)気朔(キサク)さんですね"」

「昔からある……違法営業などではなく?」

「"そういう痕跡は見受けられないですけど……詳しく調べてみますか?"」

「ええ、お願いしますわ」

 

 違法ではないのならば、二人の動揺の意味が分からない。

 叩けば埃が出るものと──風紀委員が誇る守護神(ゴールキーパー)たる初春飾利ならば、何かを見つけてくれると。

 しかし、待ってみてわかったのは。

 

「"うーん、サイトができた十年前から然程サイトに変更履歴が無いこと以外は怪しいところはないですね。ただこれも……単純にメンテナンスしてないだけって感じもします"」

 

 ネット上での手掛かりがゼロである。

 であるのならば。

 

「失礼。その『アルモニ屋』というの、伺わせていただいても?」

「ああ、構わないけど。どうせ客なんてほとんどいねーしな」

 

 ちら、と固法が二人を見れば……口を固く結んではいるものの、相当に焦っているのが見受けられた。

 反対にこの安東という男性のなんとどっしり構えたことか。

 

「案内は良いんだけど、瑞折たちの拘束を解いてやってほしいんだが」

「あなたの疑いが晴れた後に、ですわ」

「そうかい。すまんな、瑞折、弭間ちゃんも」

「い……いえ、オレっちは……なんでもなくて」

「ほんと、あたしらのこととか気にしないでいいっていうか……」

 

 噛み合わない温度感と空気感。

 それに大いなる違和感を抱きながら、安東に追従する白井と固法。

 

 二人は……二人だけに聞こえる声で、話し合う。

 

「気付いている? 白井さん」

「ええ……とんでもない数がいますわね。……それに、行方不明者リストにあった顔ばかり」

 

 囲まれている。白井たちを含めた五人を監視するように──少しでも間違いがあったのならば、その全員が襲い掛かってくる、というかのように。

 何があればスキルアウトがここまで統率の取れた行動をするのか。弭間にしても瑞折にしても、薬物などを使われて精神に異常をきたしている、という感じはしない。

 それでもここは学園都市。精神操作系の能力者の可能性もある。

 だから、慎重に、心してかからねばならない。

 

「ここだよ。『アルモニ屋』。学生用のリーズナブル価格な楽器しかないが、それでも高い奴はいくらかある。ああ、店内では暴れてくれんなよ、って話ね」

「……固法先輩」

「ええ」

 

 一見して何の変哲もない楽器屋だった。多少寂れているし、多少修理の必要そうな部分は見受けられるが、第一〇学区という場所の特性を考えれば特に妙なところはない。

 表向きは、だ。

 

 彼女──固法美偉は、強度(レベル)3の『透視能力(クレアボイアンス)』である。

 その能力を持ってすれば、遮蔽物を無視してその奥にあるものを見ることができる。

 たとえば──この店の、地下とか。

 

「……スタジオと……倉庫があるだけ、ね。……修理前の……ギター、ベース……これは、オルガンかしら」

「ん、なんだ。透視能力持ちか。まぁ見られて困るモンもないから良いけど、たとえ風紀委員であってもまず許可を取りなよ。やましいモンが無くたって、帳簿だの通帳だの、他人が勝手に見ていいモンじゃないもんもあるだろう」

「それは……その通りですね。ごめんなさい」

「良いさ。それで? 容疑? 疑い? ってのが晴れたんなら、瑞折たちを解放してほしいんだが」

 

 透視能力でも見通せないのならば、本当に隠しごとなど無いのかもしれない。

 瑞折たちが動揺したのは、あるいは、バイト禁止の学校なのにバイトをしていた、程度の話なのかもしれない。

 

 それでも。

 白井黒子としては、今も周囲を囲んでいるスキルアウト達が気になるし、固法美偉としては、あの黒妻が瑞折を指名した理由が気になるところ。

 

「あー……。この炎天下で立ち話もなんだ。とりあえず店に入ろうぜ。んで、俺は逃げも隠れもしないから、瑞折たちを解放してくれ。そろそろ腕が痛そうだ」

「……わかりましたわ」

「仕方ない、わね」

 

 そうして解放される瑞折と弭間であるが……どうしたことか、逃げようとしない彼ら。

 

「て……店長、オレっち、恩を仇で返したいとか、そういうことはマジで思ってなくて……」

「良いって良いって。いやまぁ思わせぶりな態度取るのが悪いっつーのはその通りなんだけどさ。今日はシフトもいいから、また明日な」

「……マジでごめんなさい!」

 

 と、安東に追い払われて、ようやく去っていく二人。

 逃がすつもりはなかったのですがね、と白井は多少の溜め息を胸中に吐いて。

 

「単刀直入に聞きますわ。──この店を。いえ、アナタを囲んで監視の目を向けてきている少年少女たち。……彼らをここに誘拐したのは、あなたですの?」

「誘拐? いや、してないけど……」

「ならどうして──」

 

 と詰問しようとしたあたりで、来客を知らせるベルが鳴る。

 入ってきたのは──ガラの悪い、武装集団としてのスキルアウトの代表、みたいな恰好の生徒たち。

 

「なにを……」

「よぉ店長。今日はやってるかい?」

「やってるけど、この子らの相手をしていてさ。すまんけど今日はスタジオを使うのは無理そうだ」

「そりゃ快くねえな。──よう、嬢ちゃんら。オレたちの『アルモニ屋』に何用だよ」

 

 その面々もまた、行方不明者リストにあった顔である。

 ……自分たちが何をしているのかわからない、という顔はしていない。

 彼らの意思でこれをやっている。

 

「今、学園都市全域で問題になっているの。あなた達の姿がどこにも見えない、ってね」

「オレたちの? ……普段はオレたちのことをすぐにでも消えてほしいゴミみたいに扱うクセに、誰が問題にしてんだよそれを」

「あなた方だけならともかく、あなた方と関係を持っていたと思われる一般生徒まで行方不明になっていますのよ。問題視されているのはそこですわ」

 

 その言葉に……一瞬にしてバツの悪そうな顔をするスキルアウトたち。

 何か知っていることは確定にしても、そういう表情をされると思っていなかったために、肩透かしを食らう二人。

 

「あー。……それは……オレたちの失態だコレは」

「リーダー、これマジで……店長さんに合わせる顔無いっすよこれ……」

「いやうーん。……あー。風紀委員の嬢ちゃんら。……楽器ってよ、やるか?」

「はい?」

「まぁ、多少はやるけれど」

「オレたちはそこの店長さんにかなり世話んなってんだよ。さっき言った通り、どこ行っても掃き溜めのゴミみてえな扱いしかされないオレたちを見捨てずに対等に扱ってくれて……オレたちが本当に欲しかったモンをくれて。……だから、その恩返しにって、店長ンとこの楽器買って、演奏会をやろうって話になってんだ」

「……演奏会?」

「んで……まぁ、スキルアウトなんて楽器演奏のできる奴ばっかじゃねえっつーか、できねえのが大半だ。だから……音楽の授業でもなんでもいいから、楽器弾ける一般校のやつら片っ端から協力要請して、今練習の真っ最中なワケだな、うん」

「……連絡が取れない方ばかりなのは?」

「じゃあ嬢ちゃん、楽器の練習中にケータイの電源入れんのかよ」

「つかケータイとか、使わなくなって捨てたわ。通信料ばかにならねーし」

 

 それは、なんとも。

 

「……非常によく出来た話、ですわ。……けれど、肝心の一般生徒の姿を見ないことには」

「あの……彼らのお話は、本当ですよ」

 

 ガラの悪い武装集団の間を縫って……その少女が現れる。

 ベールピンクの髪の少女。

 

「……封環(テンソル)さん、ですのね」

「はい。……できれば学校名は、伏せておいてくれると」

「……良いでしょう。……では、その演奏会? というのが終わったら、あなた方は戻ってくると」

「オレたちはここが心地良いから、戻るかどうかはわからねーが、一般生徒は返すさ。つかマジで二週間くらい合宿みたいなのしてるだけで、あいつらも失踪する気は無かったと思うぜ」

「じゃあ……話がこんがらがりそうだから、オレたちははけるか。ああ店長、証拠不十分とか理不尽なやり方とかで掴まりそうになったら言えよ? ──学園都市じゅうのスキルアウト全員で助けにいくからよ!」

「はは……そうならないことを願いたいね」

 

 来た時と同じようにバラバラと、ゾロゾロと店から出ていくスキルアウトたち。

 やはり……とんでもない統率力であると言えるだろう。

 

「すまんな、封環。お前、顔とか晒したくなかったんだろ。なのに」

「いえ……ここでバイトさせていただいて、本当に、人生が変わったといいますか、見違えたように毎日楽しくて……。……だから、店長さんに迷惑をかけたくないんです」

 

 少女は……キッと、強い目で二人を見る。

 

「あの……何を話せば、店長さんを許してもらえますか。言えって言われたこと、全部喋ります。だから」

「落ち着いて、封環さん。……許すも何も、事情を伺っていただけよ。そして……あなたの登場で、どうにもすべての事態が杞憂だったと……今は思い始めてる」

 

 黒妻も言っていた。「多分問題ないとは思うが」と。これは、こういう事情を知っての事だったのだろう。

 ……しかし、だとしたら、やはりなぜ言い淀んだのか。さっきの二人もなぜ動揺したのか、というところに焦点が当たってくる。

 

「……こちらの方は、アナタの在籍学校を知っているのですわよね」

「……はい」

「なら知っているはずですわ。常盤台中学は基本的にバイト禁止で、門限は20時までと定められている、ということも」

「いえ、……店長さんは、知らないと思います。……私が、問題ないって……言ったので」

「あくまであなた個人の責任である、と? ……それに、常盤台では音楽に関連する授業が多数ありますわ。言っては何ですけれど、ここにある楽器のどれよりも高品質な楽器と触れあえますの。だというのにここへ来て初めて変わった、というのはどういうことですの?」

「楽器と出会ったから変わったわけじゃなくて……。……私という一人の人間を……余すところなく表現できる、っていうか、それを……沢山の人に見てもらって、褒めてもらって、興味を持ってもらって……。それと……一緒に()ってる子と、息を合わせたり、なんていうか、一心同体になることが……すごく、心地よくて。……上手く言えないけど、少なくとも常盤台で味わうことができなかったことを、私はここで……味わったんです」

 

 情感たっぷりに、万感の思いを込めて紡がれた言葉は、そこに本心が見えた。

 大多数と何かをやる。パートナーと共に目標へ進む。……確かにそれは、常盤台の中では得られない体験だと、自嘲するように思い直す白井。

 

「それでも……門限は門限だし、校則は校則よ、封環さん。……それを破って、あまつさえ雇用関係になんてなったら……店長さんが罰されてしまうの。それは、わからなかった?」

「……ごめんなさい」

「あー、口を挟んで良いか、お二人さん」

「どうぞ」

「実際のところ、これってどんな罪になるのかね。営業停止とかか?」

「……そうね。本来校則というのは学校と生徒同士の取り決めで、雇用者には関係の無い話なんだけど……問題は、封環さんが就労可能年齢未満であること」

「その場合……数か月の懲役、ないしは罰金が科せられますわ。これ以上は風紀委員の携われる話ではありませんけれど」

「そうか。俺側の罰はその程度か。ならいいや。封環はどんな罰になる?」

「ならいい、って……。……学校側から指導が入ったのち、よくて休学、悪くて退学かしらね」

「常盤台はルールを重んじますから、可能性は高いですわね」

「──なら、私、常盤台を退学します」

 

 言うと思った、と……固法は溜息を吐く。

 

「……上級生に言う事ではないかもしれませんが、あなた、その言葉の意味わかっていっていますのよね」

「もともと……能力開発についていけなくて、勉強の進みも周囲との差を感じることが多くて……だから、その……居場所を求めに、学校の外へ行って……そんな中で出会ったスキルアウトの人達と仲良くなって……でも、お前の居場所はここじゃない、って……言われなくてもそう感じてましたし、良くしてくれた人は……帰ることができる場所があるうちに帰った方が良いって、そう言ってくれていました。……でも、私の居場所は、ここなんです。ここしかないんです」

 

 かつての自分を思い出し、額に手を当てる固法。ほとんど同じ流れで彼女はビッグスパイダーに辿り着いたのだから。

 

「私が学生であることが、私の人生の足枷になるのなら。外します。それが……お世話になった店長さんへの仇になってしまうというのなら、放り捨てます。……このまま帰っても腫れ物になるだけだし、どうせ……退学させられるだろうし」

「叱られるのが嫌だからやめる、なんて。……いつかここのバイトでミスをした時も、叱られたくないから、なんて理由で高飛びしそうですわね」

「居場所。……そういえば、聞こえは良いけれど。……人生を棒に振ることだってわかっているの? 一生バイトで居続けるつもり?」

「学生じゃなくなったら正式雇用するよ。従業員として」

「なっ……良識のある被害者だとばかり思っていましたけれど、やはりアナタにも倫理観というものがありませんのね」

「つまり風紀委員には退学になったこの子の今後の人生を見る制度がある、ってことか?」

「風紀委員にはないけれど、学園都市にはあるわ。そういう子でも、再度教育や開発を受けられる制度が」

「ならいいじゃないか。ウチの仕事をやりながらでもその制度を使えばいい。いつか高飛びしたって何とも思わんよ。達者でやれ、くらいだ。見ての通り寂れた楽器屋でね、そもそもあんまり人手には困っていない」

 

 膠着状態は。

 ……固法の溜め息で、破られた。

 

「わかりました。……とりあえず今日のところは……封環さん、寮に帰ってちょうだい。そしてそこで改めて、退学をする手続きを、常盤台側に提出して」

「……はい」

「……フン。長続きするとは思えませんわ。……それと、流されませんのよ。どうして音信不通になっていたのか、がまだ解決していませんの。練習中だからオフにしていた、というのはわかりますけれど、だとしても溜まっていたメールや無数の着信履歴に探されていることを理解するはずでしょう」

 

 鋭い斬り込み──かに思われたが。

 

「端末は、電源をオフにしてます。……というか、捨てようと思ってて、契約も切りました」

「……また、ですの? ここにいる方皆それを言いますわね。携帯端末を捨てた、不要だ、と。……この情報社会でよくそんなことが……もしくは、アナタがそういう指示をしていますの?」

「あの、なんでもかんでも店長のせいにするのやめてください。……携帯端末に今まで奪われていた時間を考えると、勿体なくなっただけです。そんなもの無くても楽しい時間がたくさんあるのに、連絡やら予定やらを組んで、その情報に溺れて……それが嫌で、捨てます。ここにいる人達はみんなそうですよ。買い出しとかに行くメンバーは連絡用の端末を持っていますけど、それだけです」

「白井さん、そこは個人の勝手よ。私達が口を挟める話じゃないわ」

「……わかりましたわ。……納得は、いかないですけれど……。いつか、あなた達の……演奏? というの、聞かせてくださいまし。それを聞いて……まぁ、溜飲が下げますわ」

「それは……まだ恥ずかしいかな。少なくとも私のは、見せられたものじゃない、っていうか……」

「ですからいつか、ですの。……お邪魔しましたわ、店長さんも。それと、失礼をおかけし、申し訳ございません、ですわ」

「私からも謝らせてください。本当に……失礼しました」

 

 頭を下げる二人。それは風紀委員という立場からの謝罪である。

 倫理観のズレは覚えど、究極的に悪人ではない。だから。

 

「よしてくれ。これはお互いの正義のぶつかり合い、みたいな話だろう。あんたらは自分のできる範囲のことをしただけ。俺や封環、瑞折たちもだ。ああ、ただ、やり方は……暴力に頼っていたり、すぐ隠そうとしたり秘そうとしたりと、あんたらから見れば意味の分からん手段なのかもしれんが……あいつらも変わろうとしてる、ってことは、伝えておくよ」

「ええ、そうみたいですね。さっきの武装集団が楽器って言葉を出した時は、口が開いて塞がらなかったわけですし。……私も、スキルアウトという存在に……強い偏見を持ちすぎていたのかもしれません。演奏会、開くときは……白井さんだけでなく、私も呼んでくださいね」

「いやまぁ俺が主導しているわけじゃないからその辺は知らんが……お勤めご苦労様です、と、そう言っておくよ」

「はい。……では、失礼します」

 

 ──こうして。

 関係者全員が「ヒヤっと」するその「ガサ入れ」は終了した。

 風紀委員の二人は帰り──。

 

 

「ぃお疲れー!!」

「いやぁ、ナイス演技! ナイス言い訳!! オレたちの演技力も捨てたモンじゃねーな!!」

 

 本当の『アルモニ屋』地下──無数の防壁・隠蔽素材が使われているその奥で、普段はプレイルームであるところや乱交部屋などを使い、お疲れ様会が開かれていた。

 

「けど楽器て! 俺、リコーダーくらいしか吹いたことねーっす!」

「まさか鳴らしてる楽器が女体だなんて、ガッハッハ、いやぁ白々しすぎて笑いをこらえるのに苦労したァ!」

「あら、男だってヒィヒィよがらせられるけど……あとでヤらない?」

「おおっと、毒蜘蛛の餌になるつもりはねーよ。……そんで、店長。マジですんませんした」

「すんませんした!!」

 

 一斉に謝るスキルアウトたちに、店長はひらひらと手を振るばかり。

 

「いや、良いって。ここまでの規模になってるって俺も知らなかったしさ。でも騒ぎになると面倒だから、これからは日にちとかズラしてきてくれ」

「ウッス!」

「つか、予約システムがしっかりしてない店側の落ち度でもあるから……今度適当にブラックチャットと連動する予約システム作っておくよ」

「え、店長そういうこともできるんすか」

「店にあるカメラとか器具とか、なんなら端末だって店長の自作だぜ? 機械弄りはすげーんだよ店長」

「自慢気なところに水を差すが、瑞折、弭間。元はと言えばテメェらがやらかしたのが原因だからな? ん?」

「っませんしたァ!」

 

 多少体育会系なところはある。多少まだ不良集団のきらいは抜けていない。

 それでも──同じ趣味の元に集まった彼らは、その結束は、堅い。

 

「しっかし、移転したあとでホント良かったッスね。あの風紀委員、透視能力とかセコい真似しやがって……マジ危なかった」

「現地調査に乗り込んでくる時点で索敵系能力者と戦闘系能力者のバディだろうな、って読みはあったから、的中って感じ。ま、本店に来てても見えてなかったと思うよ。この地下とんでもないセキュリティ敷いてるから」

「そうなんすね。……しっかし、あのお嬢ちゃん……大丈夫かなァ。最終的に全部まかせっきりになっちまったのが申し訳ないっつーか」

「というか従業員にあんな子いたんスね。あんま見たことなかった」

「ああ、普段は裏方だからな。……だとしても、今日はマジで助かったよ、ありがとうな」

「いえいえ、普段は世話んなってる店長の頼みとあらば」

「つかここ潰されたらオレたちもう路上でヤるしかねーしなー」

「それに……不思議な感覚なんだよな。性格はキツそうだったけど、あんだけデケェのぶら下げてたらエロい目で見たくなりそうなモンなのに……なんつーか、全然エロく見えんかった。お前らの方がよっぽどエロい」

「なに、誘ってんの? 今から大乱交ヤっちゃう?」

「いいじゃねえか。あ、そうだ、店長もどうすか。こいつらのまんこマジで気持ちいんで」

「いや、念には念を入れよ、ってな。もう少し上の店で……アイツらが戻ってこないかどうか、とか、あとハッキング対策とかも強化しておく」

 

 ええ、いいじゃないすか今日くらい……という言葉は、でてこなかった。

 皆、すっと意見を取り下げ──視線は瑞折と弭間へ。

 

「ヤな予感の匂いがする……」

「おっけ、瑞折。アンタ実は巨根らしーじゃん。──逃げらんないから」

 

 そうして始まるは、子供達による大乱交パーティだ。

 お疲れ様の意を込めて、誰もが楽しい……自分たちの居場所を守り切ったことへの祝宴。

 

 スキルアウトもそうでないのも、男女も全て関係なく色欲に飲み込まれ──。

 

 

☆☆☆

 

 

" 報告書。『事業(ビジネス)』、並びに『神ならぬ身にて天上の快楽に辿り着くもの(MAYHEM)』進捗状況。

  ・リビドーの大幅発散による能力の安定性向上を確認。

  ・特に性交回数の多かった男女において、能力の進化方向が「たがいに寄り添い合う」という傾向を確認。

  ・『行使可能者(アヴェイラブル)』二十人の感情を昂らせ、交わらせた状態で激しい性的欲求の解消・蓄積を繰り返した男女の内の十二名から「同じ夢を見た」という報告アリ。

  ・性交という心身合一儀式を経ることで『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』を融合させることが可能であるかもしれない。

  ・以後、彼ら被験体を強調して聖ならぬ身にて天上の果実を口にせしもの(Cibus Sacer Nefas)……CSNと呼称する。

  それと、営業許可証の偽造、及びサイト作成など、お世話になりました。本当に助かりました。

 

" 素晴らしいです。管理者様。

  ご存知かと思いますが、七月二十四日、一万人のAIM拡散力場があるプログラムにより束ねられ、幻想猛獣(AIMバースト)として猛威を奮いました。

  薬物や脳波調律無しにこれが行えているとすれば、試行を重ねていくことで、もっと完全な形の幻想猛獣、あるいは別のAIM思考体が現れるやもしれません。

  こちらでも高強度能力者のCSNが作成できないか試してみます。

  許可証やサイト作成もそうですが、他に必要な書類などありましたらお気軽にお申し付けください。

  また、もしお暇な時間がありましたら、ぜひ『胤河製薬』本社へお越しください。

  特別顧問のある先生が、あなたに会ってみたいと申しております。お越しの際はご一報いただければ幸いです。

 

「……マーディカ」

 

 ……何用だよ、サイボーグお爺ちゃん。

 何事も無ければいいけどね……。

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