※この作品はR-18です。

とある性教の雌女昇格(メスメライザー)   作:無ければ作れ(Invenire404)

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エロ無


9.八月二十四日『死馬の骨を買う』 - Upfront investment.

 絶対能力進化(レベル6シフト)計画が終焉を迎え、カエル顔の医者に妹達を預け、ようやく憂いが消えた……に思われた御坂美琴。

 だから、数日前に断ってしまったソレについてを白井黒子へと尋ねることにした。

 

「そうだ、黒子。封環(テンソル)さんのことって、あれから何か進展あった?」

「ああ……ご報告を忘れていましたわね。……簡単に言えば、常盤台では禁止されているバイトをしていて……それが露見して休学、ないしは退学になるくらいならばと、翌日には常盤台を中退した。こんな感じでしょうか」

「……そっか」

「お姉様が関わらなかったから、とかではありませんわ。スキルアウトの方々と共に音楽の道を目指すとかなんとかで、わたくしたちが話を聞きに行った時点で意思は固かったようですから」

「まぁ……そういう道もあるか。……良かった、ヘンな事件とかに巻き込まれたとかじゃなくて」

「ええ、ついでに同時期に起きていたスキルアウト集団失踪事件も第一〇学区で演奏練習の合宿をしていたから、なんて平和な理由で。その後音信不通になる生徒も存在せず、皆家に帰ってきましたわ」

 

 最近美琴が関わってきた事件の中で、最も平和な終わり方をしている。

 それだけの量のスキルアウトが関わって、結末(オチ)が楽器を練習したかっただけ、なんて……。

 学園都市もまだまだ捨てたものではない……の、かもしれない。

 

 と、そこで……御坂の端末に着信が入る。

 表示名は、帆風潤子。食蜂派閥で、彼女といつも一緒にいる縦ロールの少女だ。

 

「はい。どうしたの、帆風さん」

「"ああ、良かった……。……御坂さん。お願いがあります。どうか、女王を連れ戻してはくださいませんか?"」

「……連れ戻す? どういうこと? 詳しく説明して」

 

 ほっこりした直後のこれ。とはいえ学園都市ならばむしろこちらがスタンダードである。

 不穏なワードに聞き耳を立てる白井に気付いたうえで、御坂はその話を聞いた。

 

 

 通話を終えて。

 

「あの食蜂操祈が行方不明……もう一週間も」

「集団失踪事件のリストには無かったの?」

「彼女は別にスキルアウトと接点があったわけではありませんから。……件の事件における中心人物は、スキルアウトにでも分け隔てなく優しい楽器屋の店長、なんてオチでしたので……食蜂操祈の誘拐、あるいは監禁とは、全くの別件と見た方が良いと思いますわ」

 

 食蜂操祈。常盤台中学に所属する超能力者(レベル5)のもう一人。

 精神系能力最強の『心理掌握(メンタルアウト)』の能力者。

 

「けど、手掛かりが無いのも事実。……とりあえず初春に学園都市全体の監視カメラを調べてもらうとして……一応行ってみます? 第一〇学区に」

「もし関りがあったらコトだしね。……って、いいの? いつもは風紀委員の仕事だから、って躱してくるのに」

「勿論風紀委員に通報があった上での話であれば止めましたけれど、今回頼られたのはお姉様。であるならば、お姉様のバ・デ・ィ……ココロとカラダのパァトナァァン……なわたくしが行くのは当然の事……と……と……!!」

「はいはい。あんたのソレもなんだか懐かしいわ。ようやく日常に戻ったって感じ。……連絡先とか知ってるの? その店長さんの」

「いえ。ですが、日がな店にいるようですから、アポなしでも大丈夫でしょう」

 

 そう意気込んで第一〇学区に向かう二人。

 

 しかし。

 

「……ただの倉庫に見えるけど、本当にここなの? 黒子」

「え……ええ。空間移動系能力者(テレポーテーター)の空間把握能力に誓ってここですわ。……どうして……いえ、まさか……あの一連の流れは」

 

 そこに『アルモニ屋』は無かった。

 ただの貸し倉庫がぽつんとあるばかりだ。

 

「移店したとかなら移転先を描いたりしそうなのに、変ね。誰かに聞いてみたいけど……マトモに話してくれる人いるのかしらね、ここ」

「そいつはだーいぶ偏見入っちまってますね。流石は常盤台のオジョウサマ。無能力者(レベル0)なんて人間とすら思ってないんでしょ」

 

 二人の背後から声がかかる。その声に振り返れば、カジュアルでストリートなファッションに身を染めた、見覚えの無い少女が一人,そこに立っていた。

 

「誰、あんた」

円睡(マドロミ)燐味(マロミ)。十六歳。高校は入って三日で退学した。低能力者(レベル1)。常盤台のお嬢様が視界にも入れたくないであろうスキルアウト」

 

 ぶっきらぼうな態度と毒しか入ってない口撃。

 

「別に私は、」

「ああ、言い訳とか聞く気ないんで。元『アルモニ屋』の前で突っ立ってるから従業員として声かけてやっただけで、お嬢様となんか同じ空気も吸いたくない。店長になんか用があんなら今日は店長いないし無駄足。それでもどうしてもってんなら、はいこれ、店長のケー番」

 

 矢継ぎ早に、本当に聞く耳持たず。

 サラサラとメモ用紙に番号を書いて、御坂に握らせて。

 

「気付いてないと思うから言うけど、これ私だけじゃないから。あんたらみたいな日向者が来ると、輝かしい場所を歩いてこなかった私らは敵意剥き出しになるんだわ。──他の全ての学区を縄張りにしてんだからさ、せめてここくらい私達の縄張りとして認めてほしいんだけどね」

「……私は、レベルの高さとか、気にしない。それだけは──」

「ああ、はいはい。高尚な精神でステキデスネ。──努力すればすべての差が埋まると思ってそーでムリだわ。才能を実感したことないヤツは怖いねー。じゃ」

 

 円睡と名乗った少女は……手をひらひら振って、最後の最後まで敵意剥き出で、去っていった。

 

 沈黙が落ちる。

 

「所詮負け犬の遠吠えですわ。お気になさらないでください、お姉様」

「……大丈夫、気にしてないから」

「まぁ、野犬どもの縄張りを荒らすのが悪い、というのはなんとなく理解できますし……行きましょうか、お姉様」

 

 頷きで返す御坂。

 才能。努力。

 どうやっても勝てない才能(最強)を、つい最近知ったばかりで。

 どうなっても止まらない努力(最弱)を、その背中に焦がれたばかりで。

 

 どこか……上手く咀嚼できない感情が、彼女の中に生まれる。否、元からあったものが……鳴りを潜めていたものが、また頭角を現し出した、という感じだ。

 

「失礼しますの、お姉様」

「へ? ──ちょ、わ!?」

 

 負のスパイラルに陥りかけていた御坂だったけど、強制的に行われた空間移動と、とんでもない高所からの落下に……目の前の少女の顔を見ざるを得なくなる。

 

「いつ如何なる時も! この黒子がお姉様の隣におりますから」

「……最近言うようになったというか。あんたも成長してるのね」

「ええ、やはりお姉様を考えながら()()ことで、イロイロ、それはもうイロイロな部分が成長してしまって!」

「わかったから、着地。電話しないとだし」

「あ、はい」

 

 また空間移動し、どこかのビルの屋上に降り立つ二人。

 では、気を取り直して。

 

「"はぁい、『アルモニ屋』代理店長ですけどぉ~?"」

 

 その……甘ったるい声に、出鼻を挫かれる。

 というか。

 

「アンタ、もしかしないでも食蜂……よね?」

「"はぁ~っ!? なんで御坂さんがこの番号にかけてくるのかしらぁ? 前々から思ってたけど、運命力高すぎで困るんですけどぉ……"」

「あんた……無事なの? 無事なら派閥の子たちに連絡しなさいよ! みんな心配してたじゃない!」

「"そんなことを御坂さんに言われる筋合いはない、と言いたいところだけどぉ~。……もしかしないでも、配下の子たちが御坂さんを頼ったりなんだりしちゃったカンジぃ?"」

「そうよ、一週間も連絡がつかないからどうか探してください、って」

「"それについてはぁ、ごめんなさいねぇ~? そんなに心配しなくてもいいってそのまま伝えてくれると助かるんだけどぉ"」

「自分で連絡しなさいよ、そんなこと」

「"ちょっとちょっと御坂さん、正論力高すぎぃ~! ……けど、生憎と今私、ケータイ持ってなくてねぇ。じゃ、そういうことで~"」

「待ちなさい、ちょっと、そもそもなんでアンタがこの番号に出るのよ! 店長代理って何の話!?」

「"ああ、それは……そうねぇ。御坂さんなら一瞬で色々辿り着いちゃいそうだけどぉ、ノーヒントのままだと流石に動きづらいだろうからぁ……"」

 

 緊迫感もへったくれもない、心配されているとも怒られているとも思っていない様子の食蜂操祈は、そこで一度言葉を切った。

 

「"『事業(ビジネス)』。『追加教育(エンリッチメント)』。……そして、ミッシングノイズとミッシングスクール。この四つについて、風紀委員とか、後は都市伝説好きなお友達とかに聞いてみるといいことがあるかもしれないゾ☆"」

「どういう……って切るなぁ!! リダイヤル……繋がらないし!!」

「……なんとなくお姉様の反応的に何があったのかはわかりますけれど……詳しくお聞かせ願えますの?」

 

 そのまま端末を地面に叩きつけようとして、踏みとどまって、落ち着く。

 アンガーマネジメントである。

 

 して、御坂は今の会話の内容を白井に聞かせた。

 

「……あの女。どうしてこう毎度毎度お姉様に迷惑を……。……しかし、携帯端末を持っていない、ですか」

「壊したのか、GPSに探知されるのが嫌なのか……」

「そうではなく。……件の事件に関わったスキルアウトや行方不明者もまた、皆一様に"携帯端末を捨てた"、"あんなものいらない"と言っていて……。……何か、関りがあるのでしょうか」

「知らないけど、良いんじゃない、もう。無事みたいだし、無理してる感じもなかったし。帆風さんに説明だけして放置でさ」

「ま……依頼自体は達成、ですものね。……四つの単語については風紀委員の方で調べてみますわ。特に『事業(ビジネス)』など……久しぶりに聞きましたけれど、まさかここで出てくるとは」

 

 白井には伝えぬことだが。

 御坂は御坂で、ミッシングノイズ、という言葉が気になっていた。

 そう、絶対能力進化(レベル6シフト)計画の前に御坂が関わっていた計画、量産型能力者(レディオノイズ)計画だ。

 どこまで関りがあるのか、というのは全く以て不明だけど、あの食蜂がわざわざヒントとして提示した程度には、御坂と関りのある事柄なのだろうと推測が建てられる。

 

「都市伝説が好きな友達……もしかして佐天さんのことなのかしら」

「名指しをした、というわけではないと思いますが。他校の後輩女子にそこまで目を付けているとも思えませんし」

「……それもそうね。……言われるままに行動してるみたいで癪だけど、聞いてみるか」

 

 果たして。

 

 

「あ、知ってますそれ! 『裏常盤台(ミッシングスクール)』ですよね。ミッシングノイズ、って言う方はわからないですけど」

「う、裏常盤台? な……ナニソレ」

 

 幻想御手事件などの後から親密になった四人。御坂、白井、初春、佐天。

 彼女らは第七学区のいつものファミレスでその話をしていた。

 

「裏常盤台……それは、常盤台中学の厳しい能力開発についていけなかった少女が送られる、闇の常盤台……! そこでは古の地下労働施設もびっくりなスパルタ式能力開発が行われていて、そこで行われる試験に合格しない限り、一生表の常盤台中学に戻ってくることができないという、常盤台中学の地下数百メートルに広がっている学校、その名も『裏常盤台(ミッシングスクール)』……!!」

「っぷ、あはは! なにそれ……! いや、本当に……」

「……なんて、あたしだってマジで信じてるわけじゃないですよ。あくまで都市伝説です」

「どんな悍ましいものが出てくるかと思えば……また、トンチキ都市伝説もいいところですわね……」

 

 裏常盤台。そんなものがあるのなら、そこ上がりの生徒から常盤台内で噂になっていておかしくない。

 けれど、御坂も白井もそんなもの聞いたことがないのだから、恐らく「外から見た常盤台」の不透明さなどが生み出した幻想なのだろう。

 

「けど……そうでもないかもしれないんですよねぇ」

「初春? なにが?」

「まるで的外れなトンデモ話、ってわけでもないかもしれない、ってところです」

「……初春。アナタまでそんな阿呆な都市伝説を信じますの?」

「たとえばほらこれ、見てください」

 

 ずっと端末を触っていた初春が三人に見せてくるもの。

 それは、現在常盤台中学のある位置……それが無い時代であろうと思われる年代の航空写真、だった。

 

「これは常盤台中学が建設される前の年に撮影された航空写真なんですけど、ここ、拡大すると」

 

 一部が拡大される。

 映っていたのは……地下へ続く階段のような場所に入っていく人影。航空写真ゆえ細部までははっきりとしないが、現在どうなっているにせよ、この時代のここに地下があった、というのは確実そうだった。

 

「けど……そんなの、校舎建造と同時に埋められてると思うけど……」

「そもそも……その都市伝説から理解するに、やっていることは補習というか、追加講習のようなものでしょう。であるならばなぜそのための施設が校舎のできる前からあったのですか?」

「……確かに、おかしいですね」

「『追加教育(エンリッチメント)』……」

「お姉様?」

「……まぁ、折角調べてくれたんだし……私達も常盤台内を調べてみる?」

「はぁ、無駄骨になることが見え透いていますけれど……。……初春。『事業(ビジネス)』やもう一つの単語、『ミッシングノイズ』について進展ありましたらすぐに連絡を。いいですわね?」

「はい!」

「も、もし本当に『裏常盤台』があったら、どうするんですか……? 御坂さんたちも、勝手に入ったことを咎められて、地下労働施設行きに……!」

「その時はお姉様を連れてテレポートしますわ。お忘れですの、わたくしの能力」

「常盤台が自ら主導してるんだとしたら、逃げた時点でアウトな気もするけど……入学説明の時にそんなものがあるって聞いてないから、その辺はこっちが勝てるか」

 

 そんな感じで。

 食蜂操祈の失踪から始まった一連の事件は、とりあえず一旦、常盤台中学にまで戻ってきたわけである。

 

 

 三時間後。

 

「うーん、清々しいまでの無駄骨……。というか地下へ続く道なんてあったら気付きますわよっ!」

「流石に無いかー。佐天さんたちには悪いけど、噂は噂かな」

 

 無かった。常盤台中学を隈なく隅々まで……普段用の無い、自分とは違う開発を行う施設まで調べたけど、無かった。

 一応地下室はあったけど、それは「大きな音が出る」とか「他の生徒に害がでかねない」みたいな能力の試験場というだけで、地下労働施設なんてものはどこにも。

 

「というか地下労働施設って。いつの時代の話ですの、まったく……」

「あと行ってないところだと……学舎の園の寮とか?」

「……そんな場所、それこそ食蜂派閥が調べ尽くしていそうなものですが」

 

 常盤台中学を含む五つのお嬢様学校が共用として使う地帯、『学舎の園』。

 その中に存在する寮と外部にある寮があって、御坂と白井は普段外部の方で暮らしている。寮則の厳しさも相俟って中々もう片方の寮には顔を出すに憚られるのであるが、まぁ、咎められでもしたら、食蜂を探すついでと言えばなんとかなるだろう。

 

 そう意気込み、白井も「お姉様の気が済むまで付き合いますわ」とついていった先で──。

 

「んっ……しょ。……っと。……うわ」

「……まさかあるとは。地下への入り口」

 

 あった。

 なにも書かれていないプレートの嵌った、他の部屋よりも遥かに小さな区画。

 鍵のかかっていないその扉を開けて中に入れば、『学舎の園』には似つかわしくない武骨なハッチが顔を表したでではないか。

 そして今、それを開き……まっすぐ、一直線に地下へ向かう梯子に、思わずごくりと生唾を飲み込む二人。

 

「……空間移動能力者の空間把握的に、これどれくらいの深さがありそう?」

「そういう意味ではないと……まぁわかっていて聞いているのでしょうけれど。……この先が……消灯しているのではないとしたら、ざっと300m以上はありますわよね」

 

 光は距離の二乗で減衰する。

 この梯子を囲うパイプが直径50cmくらいだから、到達地点にそもそも灯りが無い、とかでない限り、真っ暗であるということはそれだけの距離を有している、ということである。

 そんな地下に、何があるというのか。

 

 

 磁力操作による幾度かの吸着を行いつつ、御坂は深淵の底にまで下りてきた。

 跳躍距離が足りないために何度かに分けて空間移動した白井。その最後の分を受け止めて。

 

「……研究所……と言った風体、ですのね」

「……人の気配が全くしない。でも、灯りはついている。……稼働してる、ってことよね」

「あんなわかりやすい場所に入り口があったということは、『学舎の園』そのものに認可を受けて作られた施設、ということなのでしょうか」

 

 誰もいない廊下を行く。

 しばらく歩いて……御坂はそれに気が付いた。

 

「監視カメラ一つないって……そんなことあり得る?」

「そういえば、それらしきものを見かけませんわね」

「自走式のロボットが徘徊している、とかでもなく……」

 

 慎重に慎重に、警戒の一切を怠らずに歩いていく。

 長い廊下だ。曲がり角の来ない、一直線の廊下。誰かがやってきたら、隠れる場所がない。

 

 しばらく、歩いて。

 

「お姉様。……わたくしの空間認識が正しければ、あと2mも歩けば『学舎の園』の敷地から出ますの」

 

 けれど。

 廊下は──まだまだ、続いている。突き当りが白く霞むほどに長く。

 

「方角は……」

「第二学区を跨いで……恐らく、第一〇学区へ」

「まさか、ってことあり得る?」

「十二分に」

 

 歩いて歩いて、歩いて。

 

 御坂は額を流れ落ちる汗を拭って、一息を吐くために止まった。

 そして、後ろを振り向いて。

 

「……黒子?」

 

 いない。どこにも。

 片時も離れぬと言った彼女が。

 

「ちょ……黒子? どこに……」

 

 汗を拭う。暑さだけでなく、冷や汗からも汗が出ている。

 彼女はどこへ行ったのか。こういう時に悪ふざけをするような子ではない。なれば──連れ去られたか。

 だとして、どこに。この長い長い一本道で、可能性があるとしたら。

 

「っ──!!」

 

 ……それは、完全に直感だった。

 あの学園都市最強との戦いで身に着いた、「嫌な予感を察する」という、生物が元々持っているそれを使った回避。

 

 直後、水が──いや、透明ではあるけれど、水よりも遥かに粘性の高い液体が、今まで御坂のいた場所に降り注ぐ。

 

 上。上から、だ。

 この廊下に足を踏み入れた時確認したはずなのに──廊下の天井には、ああ、なんということか。

 

 長い廊下の全てを埋め尽くすほどに……あるいは天地がひっくり返って、天井に水が溜まっているのだと錯覚するほどに。

 その、うねうねぐねぐねとした気味の悪い液体が、なみなみと張り付いている。

 そして……少し後方のあたりに、いた。

 液体に包まれ、気を失っているらしい白井の姿が。

 

「黒子! この──」

 

 ここが『学舎の園』に続く地下であること、300m以上地面の下である、ということに一切の考慮を入れず、自らのポケットからメダルを取り出す御坂。

 白井に直撃させるのではなく、余波で液体を散らすために行おうとした彼女の代名詞、超電磁砲(レールガン)である──が。

 

「ぅ──ひ、ぃ!?」

 

 直後、全身を撫でられるような悍ましい感触にコインを取り落とす。

 手。違う、何か薄いモノ。いや、固定の厚みの無いものが、彼女の服の下を這いまわっている。

 

 ぼたぼた、と。

 彼女の頭から、汗が落ちた。

 ああ……だから、これは、汗などではなく。

 

「黒っ……ご、ぼ……!」

 

 どぱぁ! と……前後の道から彼女を包み込んだ液体に、敢え無く飲み込まれることとなる。

 

 それでも……熱で蒸発させてやろうと全身から雷撃を出し始める……も。

 

「(これ、電気が通らない……!?)」

 

 粘性からしてただの水ではないことはわかっていたが、その通りの悪さはほぼ絶縁体に近いもの。

 口や鼻をおさえても意味はない。

 隙間から入り込み、気道を埋め、そして無防備な方の穴からもするすると入り込んで──。

 

「(だめ、意識、が……黒子……!)」

 

 御坂美琴、白井黒子の両名は、そこで意識を途絶えさせたのである。

 

☆☆☆

 

 ふぅ、と発せられる溜め息に、食蜂は心の籠っていない声で「お疲れさまぁ~」と労いの言葉をかけた。

 

「まったくぅ、御坂さんも白井さんも、ピュア力高すぎだゾ☆ ……一週間も行方不明になっていた相手が零したヒントなんて、監禁者がわざと零させたヒントに決まっているのにねぇ」

「お前さんを監禁したのは俺じゃあないが」

「それはそうだけどぉ~? それと、得体の知れない場所に二人で突っ込むのもダメねぇ。より問題解決能力の高い方を上に残すべきだったわぁ~」

「それには同意するよ。……さて、これで幻生へのカードが手に入ったわけだが……どうする? 例の椅子に座らせるのは手だと思うぞ」

「うーん、御坂さんも白井さんも、私程コントロールできるかどうかわからないのよねぇ~。……それに、私みたいな元から裏側の存在ならともかく、御坂さんや……風紀委員の白井さんにまで手を出すとぉ、こわ~い大人が黙ってないんじゃないか、って思うんだけどぉ」

「それはまぁ、そうだな。特に第三位は統括理事長のお気に入りだ。……そのまま出荷するか」

 

 彼の操る『霊磁性流体』のたっぷり入った生体ポッド。そこに納められた二人の少女を見て……艶めかしい手つきでその蓋を撫でて。

 

「安心してねぇ御坂さん。痛いことなんかなぁんにもないんだから……ね?」

 

 邪悪な笑みを浮かべて、言葉を切った。

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