マッサージ師をやっています 作:セイヘキ×ヲ×カイジ
マチとネフェルピトーが大好きです。よろしくお願いします。
書き溜めはしないタイプですが二十話くらいは書けた事もあるので、それくらいは続けたいなぁと思います。
街の喧騒から外れた薄暗い路地裏。
幻影旅団の一人、マチ=コマチネは……その足を止め、目的の場所を冷ややかな双眸で見上げた。
「ふぅん、ここがヒソカの言っていた店ね」
『☆レンティ=バランスの痛快爽快整体院☆』
(ふざけた名前……)
彼女の美意識とはかけ離れた、悪趣味で安直なフォントが躍る看板を掲げたマッサージ店。
本来なら流星街出身の彼女に最も縁のない場所の一つだ。
日頃の疲労をこのような店で癒やすなどという発想は端から持ち合わせていないし、自身の怪我の調律であれば、彼女自身の『念糸』だけでも事足りる。
それでもマチがこの場所に足を運んだのは、ひとえに数日前……天空闘技場に自分を呼んだ
天空闘技場を拠点にして狂気的な戦闘を繰り返すあの男──ヒソカから、怪我の治療要請がぱったりと途絶えたのは何時からだったか。
わざと攻撃を受け、肉体を損壊させ、その上で相手の絶望と興奮を楽しみ飽きれば殺す。
その結果として生じる「ちぎれた腕」や「裂けた腹」を完璧につなぎ合わせられるのは、知る限りでは自分の『念糸縫合』を置いて他にないはずだった。
現に過去、ヒソカは何度も大金を積んではマチの施術を求めてきた。
しかし戯れからそこそこの頻度で大怪我を負うヒソカが、最近はあまり
あの男の戦闘狂が心入れ替えでもして治るわけがない。
何かがあると確信したマチは、ある日治療の為に天空闘技場へ呼ばれた際にビジネスライクな声音のまま単刀直入に問いかけた。
「最近、ずいぶんと大人しいじゃない。馬鹿な戦い方はやめたの?」
ヒソカはトランプを指先で弄びながら、含み笑いを漏らした。
「くく……ひどい言い草だね、マチ♠ ボクはいつでも健全さ♥ ただ、ちょっとね……君の糸以外にも、ボクの身体を『心地よく』治してくれるお気に入りを見つけてしまってね♪」
黄金色の瞳が、妖しく細められる。
「指先ひとつ触れるだけであらゆる不調が消え去るんだ♦︎ まあ、君の完璧な縫合とはまた毛色が違うけれど……実に興味深い能力だよ♣︎ もし興味があるなら、行ってみるといい♥」
そう言ってヒソカが指先から滑らせたのは一枚の真新しいショップカードだった。
「特典付きの裏メニューカード♥ キミも体の調子が悪かったら治して貰うといい♠」
ヒソカが残していった挑発混じりの情報。
普段ならただの戯言と切り捨てるところだが、マチの鋭い直勘がその言葉を無視することを許さなかった。
あの嘘つきが、わざわざ自分に他人の能力を知らせて推奨する意図。
マチはすぐに
天空闘技場から少し離れた歓楽街の路地裏にあるというその店は、表向きはただの整体院。
だが、噂レベルの評判を洗うと奇妙な共通点が浮かび上がった。
「触れるだけでどんな大怪我や持病も治る」
という非現実的な口コミ。しかし足を運んでいる客のほとんどが若い女性ばかりだという歯車の噛み合わないような違和感。
(ヒソカの奴、別口で治療系の念能力者を見つけたって訳かい。だけど──)
希少な治療系の念能力者の可能性が高い。
なのに若い女ばかりが集まる店。そして、あの執念深く、他人に思惑を明かさないヒソカが……わざわざ自分に紹介してきたという事実。
そのすべてが、強烈な「罠」の臭いを放っていた。
しかしマチの勘はヒソカの言葉が嘘では無いと言っている。
ならば、その手際をこの目で確かめておくのも悪くはないのではないか。
もし本当に噂通りの能力者であるなら、今後の旅団の利益になる可能性もある。
(……ま、ただの罠なら、その場で糸で縛り上げるだけだけどね)
とはいえあのヒソカからの紹介というのもある。
渡された『裏メニュー』なる紹介カードに、どこか胡散臭い雰囲気を醸す店。
警戒するだけ損はないだろう。
普段の私服のまま店の前へ立つ。
懐にある針の感触を無造作に確かめると……マチはポーカーフェイスのまま、静かに店のドアを押し開けた。
チリン、と安っぽい鈴の音が店内に響き渡る。
扉の向こうは──マチの予想に反して酷く普通の空間だった。
パーテーションで区切られたいくつかのブース、漂うアロマの香り。
そして軽快な音楽。
悪趣味な看板から想像したような怪しげなインチキ感はどこにもなく……都会のどこにでもある、至って健全なリラクゼーションサロンの風情を呈している
「────いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
(こいつは
受付カウンターから声をかけてきた若い女性スタッフも拍子抜けするほど普通だった。
マチが視界の端で目を『凝』らしても、彼女の体からは微弱な生体オーラが自然に漏れているだけだ。
念能力者ではない、ただの一般人。
「予約はしてない。知り合いからこれを渡されてね」
マチはポケットから、例のショップカードを差し出した。
それを見た受付の娘は一瞬だけ表情を硬くした、しかしすぐに笑みを貼り直すと明るい声で告げる。
微細な表情の変化をマチは見落とさなかったが……特に警戒すべき反応ではないと当たりをつける。
「お預かりしますっ……
数分、案内されたのは店舗の最奥にある防音仕様らしき重厚な扉の向こうだった。
通された部屋は広々としており、中央に頑丈そうな施術ベッドが一つ置かれている。
マチはほんの少しだけ、ひとりで来てしまった事を後悔した。なぜなら──
「院長のレンティ=バランスです。よろしくお願いします」
「あ、うん、よろしく……」
(相当鍛えられてる。かなり強い……!)
店主は予想通り念能力者だった。
しかし見て取れる実力の程は……想像以上であったのだから。
部屋の影から進み出てきた青年を目にした瞬間、マチの背筋にわずかな電流が走った。
浅黒い肌に、細く無駄なく鍛え上げられた背の高い体躯。頭髪は対照的に、若々しさと枯淡が同居したような
男が軽く一歩を踏み出したその身のこなしに淀みのない研ぎ澄まされたオーラ、重心の安定感だけでマチは痛感した。
それは、数多の修羅場を潜り抜けてきた
正面から戦えば自分一人では仕留め損なうか、最悪の場合こちらが落とされかねないほどの……いや、正直に言おう。恐らく勝てない。
旅団の戦闘員たちにも引けを取らない本物の強者が目の前にいるのだ。
逃げ場の無い密室に二人きりで。
(こんな手練れを
どう対処すべきか。
自然とマチの空気が張り詰めていく。
しかしレンティはそんな彼女の様子を察しながらも、困ったような笑みを浮かべた。
「初めての方は、皆さんそうやって警戒されますよ」
「……そりゃ、誰だって驚くだろうね。こんな店であんたみたいなのが出てきたら」
マチは袖の裏の針にいつでも指が届く位置をキープしたまま、皮肉を込めて言い返した。
ただの整体師が纏っていいオーラではない。その意図を隠さないマチの言葉に、レンティは芝居がかった仕草で胸に手を当てた。
「こんな店とは酷い……これでも頑張って個人経営まで漕ぎ着けたんですよ!?」
「ならあの変な看板は下ろした方がいいね」
「ぇえ、友人と考えた渾身の作なのに……」
どこか演技のようによよよ……と嘆いてみせる男の態度に、マチは小さく鼻を鳴らした。
だが、その大袈裟なユーモアのおかげで、部屋を支配していた刺すような雰囲気はほんの少しだけ和らぐ。
「……で、あんた何者だい。その体、ただの医者やマッサージ師のそれじゃないだろ」
マチの端的な問いに、レンティは「やれやれ」と肩をすくめ、白髪を軽く掻いた。
「まあ、そう見えますよね。実は私、少し前まであそこの───天空闘技場で、フロアマスターをやっていたんですよ」
男の口から出た想定外の経歴に、マチの眉が僅かに動く。
「……フロアマスターだって?」
(シャルの奴っ……聞いてないんだけど)
「ええ。まあ、面倒事が多くて二年で辞めましたけどね」
結局バトルオリンピアには出れなかったと。
レンティは苦笑いしながら、こともなげに言った。
天空闘技場の最上階に君臨するフロアマスター。
世界のトップクラスの格闘家であり、当然、全員が念能力者だ。
本当ならば、目の前の男の強さにも一応の辻褄は合う。
(元フロアマスター、ね……なら、この強さも納得はいく)
マチは心の中で理解した。
ヒソカがこの男と関わりを持った理由も確実に天空闘技場繋がりなのだろう。
あの殺人ピエロと接点を持ち、その上で生き残っているのだ。その事実だけで……能力以外にも本人の実力があるのは明白である。
「納得していただけたなら、今の服装で構いませんよ。私の施術は少々特殊ですので、どうぞそのままでもベッドに横になってください」
レンティは柔らかい手つきで、清潔なタオルの敷かれた施術ベッドを指し示した。
(どうする……?)
マチの胸の内で葛藤が火花を散らす。
今回の目的はヒソカがわざわざ口にしたこの男の念能力を、自分の目で、あるいは肌で確かめることだ。
ここで引けば当初の目的は果たせない。
だが、元フロアマスターを名乗る化け物相手に、自ら無防備な姿勢を晒すことへの危険性。
そのリスクが、彼女の足を一瞬だけ躊躇わせた。
そんなマチの僅かな迷いを、男の底知れない瞳は見逃さなかった。
「……おや。まさか、今更お帰りになるなんて言いませんよね?」
レンティが低く、しかし穏やかに嗤った。
その瞬間──部屋を満たしていた平穏な
「施術を受けていただくまでは、ここからは帰せませんよ。──お客様」
マチの全身の産毛が逆立ち警戒心が最大に跳ね上がる。
即座に距離を取り、念糸を張り巡らせようとした。
(早───!?)
しかし、遅かった。
レンティの身のこなしは、マチの意識の隙間を完璧に縫うものだった。
視界から消えたと思った次の瞬間には、音も気配もなく、すでに彼女の背後へと回り込んでいたのだから。
「──
耳元で冷徹な声が響くと同時に、マチの背中へと容赦のない衝撃が走る。
レンティの鋼のような指先が、マチの背骨に沿って、上から下へと電光石火の速さで無数に突き立てられた。
オーラによるガードを穿ち、筋骨の緊張をすり抜け、第二関節まで肉を掻き分けくい込んでくる。
「くっあ………ッ!?」
戦闘態勢に移るよりも早く、マチの肉体に稲妻のような痺れが走り全身から一切の力が抜けた。
──レンティの念能力、
その能力は生物の経穴を起点として肉体機能を操作する操作系の発である。
どんな効果が発生するかはレンティの修めた経絡の知識を拡大解釈した内容による。
とある武術における三つの秘技、それらを極めた彼が編み出した至高の能力である──
マチは背後から複数の経穴を的確に突かれたことで……体内のオーラの流れが強引に堰き止められ、神経の伝達を抑えられた。
文字通り指先一つ動かすことすらできなくなる。
そのまま糸の切れた人形のように、マチの身体は施術ベッドの上へと崩れ落ちた。
「な、にを……ッ!」
寝返りを打つことすら叶わず、ベッドに顔を伏せた状態でマチは憎悪を込めて背後の男を睨みつけようするも、首すら満足に回らない。
「言ったでしょう。私の施術は少々特殊だと」
先ほどまでの紳士的な態度は消え去りレンティは愉悦に歪んだ笑みを浮かべていた。
彼がこれまで磨き上げてきた念能力。その真の目的は、人を救う治療などでは断じてない。そんなこともできるというだけだ。
マッサージという大義名分にかこつけて、可憐な女性たちの自由を奪い、その柔らかな肢体を優しく、そして徹底的に蹂躙することにある。
「若く、鍛えられた女……それも念能力者の身体は実に解し甲斐がある。愉しみだ……さあ、始めましょうか」
レンティの精神は、今絶頂の中に居た。
数少ない美しい女性の念能力者。
しかも中々鍛えられたこの女はそうそうお目にかかれない上物だ。
最初から逃がすつもりなど毛頭なかった。カードを見る限りヒソカからの紹介というのは気掛かりだが……罠ではないだろう。
「ふざっ……けん、なァ……!」
「んんんッ……いい鳴き声だ」
抵抗出来ない女の叫びはいつ聞いても心地よい。無様な姿にレンティの下半身で熱が滾る。
自由を奪われた
【補足事項】
・ヒソカ=モロウ:変態ピエロ。レンティとは天空闘技場での出会いが初めて。本人的にはレンティの能力が便利なので生かしているのか? 方向性の違う変態同士惹かれ合うものがあるのかも……
原作の言動からカストロ戦のような舐めプは過去に何回かやっていたのかもと想定。
・マチ=コマチネ:ヒソカの甘言に乗ってピンチに。ヒソカさんは何一つ嘘は言ってません、レンティくんは相手が男だったり好みじゃなかったら普通に施術します。
・レンティ=バランス:オリ主。変態マッサージ師。真面目に武術家をして若くしてフロアマスターになったが、ヒソカに一時期粘着されて辞めた。その後性癖に目覚めてからは整体師として復帰している。真面目に武術やっていた頃より今の方が強い。
・☆レンティ=バランスの痛快爽快整体院☆:評価☆4。受付の女の人は明るく、院長も物腰柔らかい感じでとにかく丁寧で、男の人で不安でしたがマッサージも凄く良かったです! 酷かった首筋の痛みも一回で治りました。店名と看板が残念、ちょっとダサいので☆4
【念能力紹介】
『
経穴をオーラを凝らした指か、またはもうひとつの手段で突く事により肉体機能を操る操作系の念能力。
相手の肉体から経穴を見抜く眼力と、それを実行に移す本人の実力が伴わなければ機能しない。とある三つの武術の技能を極めていなければ運用は難しい、そのうちのひとつは点穴術。
知識が増えるほど能力の幅が広がる。元は戦闘用の発だが、調整して治療や除念紛いの事も出来るように至る。
操作系の修練度『極』