※この作品はR-18です。

溶解する観察者のヴェイル〜電子の檻・澪の転落〜   作:砂城スミ

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澪のキックオフ1

N市役所の会議室には、人が集まっていた。

青藍社の責任者として相澤。部下の柏木澪と成瀬。

市役所が今回のプロジェクトで提携しているA社の社長。

何人かの市役所のスタッフ。

それから、この場を取り仕切っているのが、市役所職員の男、御堂。

 

N市のビジネスシーンでは、名刺を交換したりはしない。

 

<アシスタント: この場所にいる人たちにビジネス・プロフィールを公開しますか?>

<mio: OK>

 

さっとまわりを見渡して、アイウェアのオーバーレイでプロフィールを読んだ。

他のみんなも同じことをしている。

視線が行き交う。現実の肉体と、オーバーレイの情報を見比べられている。

 

御堂は、いい雰囲気の男だった。

見上げるほどの長身で、顔が良い。

自信に満ちていながらオープンな態度。

35歳・独身・民間企業あがりで、いまは市役所職員。

彼の部下の市役所職員の中にはもっと年配もいるというのに。

ーーこの人はなんで市役所に勤めてるんだろう?

すごく気になる。

目を覗き込む。

ぞくりと寒気。

ーー作り笑い?気のせいかも

御堂が自信のこもった声を張り上げて会議を進行させはじめた。

 

 

 

「みなさん。今日はお集まりいただきありがとうございます。初回なので、自己紹介、それからA社さんの製品を改めて紹介。それから、今後の進めかたを決めていくのがメインになります。よろしいですか?」

「A社は大丈夫です」

「青藍社からは・・・」と相澤。「まずは叩き台として3パターンの提案を持ってきましたので、後ほど、紹介させてください」

「すばらしいですね。仕事が早い」と御堂。

「いえいえ」

相澤はわかりやすくデレデレとしていた。

 

 

今回のプロジェクト。

A社製品のプロモーション・キャンペーン。

市民に格安のお試し価格でA社製品を導入させる。

なおかつ、限られた人数の市民に、モニターとして無償提供される。

 

A社には市役所もかなり出資している。

全体としては、かなりのお金が動いている。

 

相澤が青藍社を代表してプレゼンテーションする。

A社の製品の分析と、利用者像の推定。

広告媒体の選定ーそれぞれの特徴ー

ビジュアルデザイン方向性、訴求ワーディングの方向性。

準備のおかげもあって、市とA社からの印象は悪くなかったと思う。

 

 

それにしても・・・

御堂の立ち振る舞いにどうしても目が行く。

テキパキとミーティングを進行させていく要領の良さ。

カリスマという言葉がよく合う。

純粋に関心した。

 

 

◆

 

 

このキックオフのあと、小さな懇親会をすることになっていた。

社としては、今後も市役所の御堂チームと親睦を深めて、おいしい仕事を流してもらいたい思惑がある。

それに、A社にも唾をつけておきたい。A社がさらに事業拡大するなら、互いにWinWinな取引ができるはずだ。

 

裏通りにある、定番の居酒屋。

商流からして、青藍社がアテンドするのが当然の流れだ。

そして、青藍社の若い女性社員ということで、柏木澪はいつものように接待要員になった。

成瀬が入ってきたあとでも変わらない。

もっとも、成瀬には接待なんてできないに決まってる。

 

お酌をしたり、注文を取りまとめたり。

笑顔を振りまいて、市役所職員やA社社員の話にのっかる。

いそがしい。

でも、感じがいい人たちだ。

 

ビールを一杯飲んだだけ。

あとは気配りで忙殺された。

 

女っていうだけで、これ。

青藍社はもっと先進的な考えだと期待していたのに。

でも、絶望はしない。会社には尊敬できる人たちもたくさんいるし、これが自分の武器だと思って、正面から向き合えばいいんだ。

 

 

 

◆

 

 

 

「付き合ってくれてありがとうございます」と御堂が言う。

「いえ、飲み足りなかったので」

 

柏木澪は、気がついたらバーにいた。

御堂と二人きりで。

他には誰もいない。

気配りに疲れていたので、もっと飲みたかったのは本当のことだ。できれば、一人で飲みたかったけど。

よりによって御堂か。

この数時間、観察したけど、よくわからなかった。

ーーオジサン職員のほうが”読み”やすくてラクだったけどな・・・

 

「無理しなくていいですよ」と御堂。

「え?」

さっそく心を読まれたかと思った。あせる。

「柏木さんって、無理して笑っていますよね」

「わたし、そんなふうに見えますか?」

「事実でしょう」御堂は続ける。「あなたは、相手を分析して、コミュニケーションスタイルを使い分けていますね。それを高いレベルでやっている。なぜそうしているのか、あなたの構造にはとても興味があります」

図星だった。

何も言い返せない。

御堂の言葉に引き込まれる。

「わたしは・・・」

「あなたは本来、内向的なタイプ。安定を重んじていて自己管理をしっかりしている。リスクをとったり挑戦をすることもあるけど完全なコントロール下で行うことに強いこだわりがある。職場では常に緊張状態で、誰にも素を見せることはない。人と深く付き合えない。そうですね?」

「そう・・・なんでしょうか」

 

気味が悪い。

防御を剥がされた感覚。

素肌にさわられたような錯覚。

現実には、指一本触れていないのに。

逃げ出したい。

 

「この仕事はどうですか?」御堂が急に話題を変える。

「難しいけど、やりがいのある仕事です。御堂さんは?」目を見ながら問いかける。反応を見定めるために。

「N市役所は何もかもがめちゃくちゃで、面白いところですよ。僕のような者を引き抜いたりもする。そういった判断もすべて人工知能による合議で行われているから、スピーディーに展開しますね。知っていました?」

「いえ、そこまで詳しくは・・・」

 

また御堂が話題を変えた。

 

「柏木さんは、どういう恋愛観をお持ちなんですか?」

「恋愛には興味がありません」

「なるほどなるほど」鈴木は目を細めてこちらを見る。「今のパートナーは恋人ではなく、性欲処理の相手、ですか」何もかも見透かしているみたいに。

「あの。なんでわたしにパートナーがいるって思うんですか?それに、初対面の相手には失礼な質問じゃないですか?」

「別に、ただ、読めるだけですよ。柏木さんは、メンタルも肉体的なバイオリズムも、全部、コントロールして処理している。そう思い込むことで安定を得ている。そうでしょう?」

 

まるで詰問されているみたい。

プレッシャー。

呼吸が浅くなって、

 

ーーだめ、本格的に頭が痛くなってきた

 

「ごめんなさい、もう帰ります」

 

御堂が手を伸ばしてくる。

冷たいイメージが伝わる。

寒気で震える。

 

ーー怖い

 

反射的に避ける。

 

「送りますよ」

「いえ、ひとりで帰れます」

 

澪は御堂から逃れるようにして立ち去った。

 

<mio: 市役所職員の御堂さんって知り合いですか?>

<鈴木: 知らない。どうした?>

<mio: なんでもありません。ありがとうございます>

 

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