※この作品はR-18です。

溶解する観察者のヴェイル〜電子の檻・澪の転落〜   作:砂城スミ

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澪のリカバリー2

デートの約束の前夜なのに、鈴木は澪の部屋にかけつけた。

合鍵を使って入り、買い出しをしたり食事をつくったり。献身的に澪の世話を焼いた。

 

澪は料理をほとんどしないので、食材のストックも無い。鈴木は、買い物をして、温かい食事を準備した。

 

「鈴木さん、ごめんなさい」

「ひどい声。無理して話さなくていいよ。澪ちゃんのことは・・・大事に思っているからね」

 

鈴木の手が頭の上にくる。髪やひたいを撫でられる。

 

「熱があるんじゃないか」

 

今までに経験したことがない手つきだ。

思考が勝手に、連想をはじめる。

子供や妻にこうやって接しているんだ・・・

暖かい家庭の影がちらつく。

 

ーーだめ、考えるな・・・

 

感情をうまくセーブできない。

薬の影響によるホルモンの乱れか、昨日のセックスの影響か、それはわからないけど、

勝手に涙が出てきた。

 

「ご家族は大丈夫なんですか?」

「それは気にしなくていい」

 

ーー気にしなくていい?

 

鈴木から一方的に注がれる愛情のような態度。

うまく処理できない。

 

ーー今までこんな扱いされたこと無かったのに

 

苦しい。

イライラが募る。

いつもは気にならないのに、

今は鈴木がとても愚鈍で邪魔な存在に思えてしかたない。

ひとりになりたい。

 

「鈴木さん、ごめんなさい、しばらくセックスできないです。まだ痛くて」

「いいから、寝ていなさい」

「よくないです。納得できません。わたし、セックス無しだと無価値ですよね?なんで、のこのこ来たんですか?」

「澪ちゃんが助けてって言うからでしょ」

「そういうことじゃない・・・」

 

自分でもめちゃくちゃなことを言ってるのはわかってる。

でも、鈴木をもっと困らせたい。苦しめたい。そんなわがまま。

 

「少し寝ます。鈴木さんはもう帰って」

「いや、おれは・・・」

 

本当に眠気に耐えられなかったので、鈴木を無視してしばらく眠りについた。

 

 

鈴木も帰ることにした。

もやもやとした感情を抱えながら。

澪の言うとおり、本当に利己的な理由で澪と付き合っているのだ。

それでも・・・

家族との時間をキャンセルしてここに来ていた。

そのことに澪は気づかなかったし、鈴木も説明する気は無かった。

 

 

 

◆

 

 

 

翌日もまた、体調を崩し続けている澪のために、鈴木がやってきた。

本来ならデートする予定だった日だ。

 

「熱、だいぶ下がってきたね」

 

また鈴木の手がひたいに当てられる。冷たく感じるけど、家族みたいな愛情のこもった手つき。

昨日はつい過敏に反応してしまったけど、今日は、不思議と受け入れられた。

 

「熱が出たら、インプラントが検知して、解熱剤を自動で放出するんです。鈴木さんは経験ありますか?」

「もちろん、何度かあるよ」

 

ーー本当にいやになるなあ

ーー身体に振り回されてる

ーーそして身体は、人工知能に振り回されてる

 

鈴木に謝らないといけない。

 

「昨日はごめんなさい。きつくあたってしまって」

「気にしないで」

 

仲直りできたのかわからない。

でも、穏やかな時間を過ごすことができた。

 

鈴木に料理をしてもらって、サブスクリプションの映画を一緒に観た。

 

体内のインプラント・デバイスは、何度か小刻みな”自動投薬”を繰り返した。それによって、かろうじて体調は保たれたけど、最悪の一歩手前。

気を抜くと心がまた暴発しそうだ。

 

疲れたら肌を寄せて眠った。

 

 

「ごめん、我慢できなくて」鈴木が言う。

「いいですよ」

 

いつものように鈴木のものをいじる。

でも、思い通りにできなかった。

口の中がひどく荒れているせいで、オーラルができない。

それに、ぜんぜんムラムラしない。気が乗らない。

 

試行錯誤したけど、

ダメだった。

義務的な感じが伝わってしまったのか、

鈴木は達することができず、ペニスの硬さを維持できなかった。

 

「もういいよ。自分でする」

 

目の前で自慰する鈴木。

それを、ぼんやりと見る。

熱が上がってきたかもしれない。

ーーなにやってるんだろうわたし・・・

 

「舌だして。飲んで」

 

言われたとおりにする。

舌で受け止めて、それを飲み干して、きれいになめとった。

喉の痛みに耐えながら。

まるでティッシュペーパーの代わり。そんな扱い。

ーー鈴木さんはわたしに性処理を求めてるんだから

ーー勘違いしちゃだめだ

ーーこれでいい

これでいい、と自分に言い聞かせる。

 

 

 

 

それから何日か、発熱が続いたので会社を休んだ。

 

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