※この作品はR-18です。

FF7ntR   作:夜叉五郎

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第十一章:リーダーの資格

[μ]-εγλ 0005年7月某日。

 

ハメルはバレットを引き連れて、七番街スラムの自警団詰め所に向かう。

 

薄暗い室内に入ると、そこにいたのは留守番のウェッジただ一人だった。

ハメルが「ジェシーはいるか?」と単刀直入に尋ねる。

 

その声に振り返ったウェッジは、ハメルの後ろに立つバレットの巨体と強烈な威圧感に驚き、思わず後退りした。

バレットは室内に目当ての姿がないことに苛立ち、ウェッジの前に踏み込んでドスの効いた声を張り上げる。

 

「ジェシーって女はどこだ! 隠さず吐き出しやがれ!」

 

「うわっ、声デカ……っ! 待って、ハメル、この人めちゃくちゃ怖いっすよ!」

 

身を縮めるウェッジの前にハメルが静かに一歩進み、バレットの腕を片手で制した。

 

「落ち着け。こいつを脅したところで何も始まらない」

 

バレットが不機嫌そうに舌を打って引き下がると、ウェッジはほっと胸をなでおろし、深刻な顔で現在の異常事態を語り出した。

 

「本当にジェシーもビッグスもいないっす。神羅の連中がプレートの上で大量のヘリや特殊部隊を準備してて、今夜の集会を一網打尽に襲撃するって垂れ込みがあったんすよ。だからジェシーたち自警団のメンバーは、外壁周りの住民を必死に避難させてる最中っす」

 

ハメルが「それで、お前はここで何をしてる」と先を促す。

 

「自分は足が遅くて現場じゃ足手まといになるからって、ここで無線係を押し付けられたんすけど……」

 

「無線係だと? だったら話は早え!」

 

バレットがすかさず机の上の無線機を指さす。

 

「その無線で今すぐジェシーを呼び出しやがれ!」

 

「それが、さっきから何度も呼び出してるんすけど全然応答がないんすよ……。神羅の電波妨害か、通信傍受を警戒して無線を切っちゃってるみたいで……」

 

ウェッジのその言葉を聞いた瞬間、ハメルの目つきが変わった。彼は即座に、ジェシーたちをフォローすることを決断する。

 

原作の知識を持つハメルは、ジェシーやビッグス、ウェッジといった面々が、本来であれば物語の背景を彩るモブキャラに過ぎなかったことを知っていた。

もし彼女たちの身に何かが起きたとしても、世界の強制力によって代わりの人物が用意され、大筋は何事もなかったかのように進む可能性は十分にあった。

 

だが、今ここで実際に生きるハメルにとって彼らはただの記号ではない。

この世界で共に過ごし、確かに命を通わせた、愛着のある人間たちだ。

彼らを死なせたくはない。

何より、ティファだって彼らの危機を知れば、間違いなく助けたいと望むはずだ。

 

ハメルはウェッジに向き直り、鋭い声で命じた。

 

「ウェッジ、今日の住民退避作戦の計画書を出せ」

 

「ひゃいっ!? こ、これっす!」

 

ハメルのただならぬ気迫に押され、ウェッジは慌てて机の上に置かれている書類の束を指し示す。

ハメルはそれを受け取ると、手早くページをめくり、ジェシーの担当区域へと目を走らせる。

位置を正確に把握したハメルは、計画書を机に叩きつけ、すぐさま出口へと歩き出した。

 

「おい、どこへ行く!」

 

置いていかれそうになったバレットが、慌ててその巨体でハメルの前に立ちふさがる。

ハメルはバレットを冷ややかに見上げ、淡々と言い放った。

 

「ジェシーを捜しに行く。――あんたはここで待ってろ」

 

「あぁん!? 待ってろだと?」

 

当然、バレットがその言葉に従うはずもなかった。

 

「そうはいかねぇ!」

 

バレットが太い声を荒らげ、剥き出しの左拳を強く握りしめてハメルを睨みつける。

 

「目の前で神羅の犬どもが暴れようってんだぞ! 探してる女がその渦中にいるってのに、ここで指くわえて見てられるかよ! 俺も行くぜ!」

 

ハメルは一瞬だけバレットの滾るような眼光を見つめ、止めるだけ無駄だと判断して再び歩き出す。

冷淡に言い放つハメル。

 

「勝手にしろ。足を引っ張るなよ」

 

「フン、そいつはこっちのセリフだ! 待ってろよ神羅の犬どもめ……!」

 

バレットは獰猛な笑みを浮かべてハメルの後を追い、二人は勢いよく詰め所を飛び出していく。

二人は出会い頭にすぐさま、今後の展開を左右する外壁の戦火の中へと、迷うことなくその身を投じるのだった。

 

---

 

外周部へ向かう道中、バレットは並んで歩くハメルの横顔を不躾に睨みつけ、ドスの効いた声で問い詰めてくる。

 

「おい、一つ聞かせろ。お前もあの『アバランチ』って組織の人間だったのか?」

 

ジェシーの名前を知っており、ジェシーの仲間らしいウェッジと親しげなハメルの素性を怪しんだのだ。

ハメルは小さくため息をつくと、歩調を緩めることなく冷淡に否定する。

 

「アバランチではない。俺はただの何でも屋だ。あいつらとは仕事を請け負う協力関係なだけで、一線を引いている」

 

思想を共にするつもりはない、ときっぱりと言い切るハメルに対し、バレットは苛立ちを露わにして凄んでみせる。

 

「アバランチの女のために、これから危険な場所に飛び込んで神羅とやり合うんだろ、ならやってることは一緒じゃねえか! 四の五の言わずにアバランチを名乗りやがれ!」

 

バレットの直情的な物言いを、ハメルは表情ひとつ変えずに受け流す。

 

「そんな単純な話じゃない。それに、俺には俺のやり方がある」

 

相容れないハメルの態度にバレットは「チッ……気取った若造が」と吐き捨てるが、すぐに思い出したように「少し寄る場所がある」と言い出し、七番街スラムの端にあるスクラップ置き場へと足を向ける。

 

山積みにされた鉄屑の奥、バレットは重い瓦礫をいくつか退けると、厳重に隠されていた頑丈な金属製の箱を引き出す。

蓋を開けると、そこにあるのは重厚な金属の鈍い光を放つ、換装用のガトリングガンと大量の弾薬だ。

バレットは包帯の巻かれた右腕の先端に、手慣れた動作でその重火器をガチリと連結させる。

 

「こいつが必要だ。神羅の野郎どもをハチの巣にするためにな」

 

銃身を鋭く駆動させ、不敵に笑うバレット。

 

愛用の弓を背負ったハメルはその過剰な火力を一瞥し、腰の小剣の柄に触れながら、フッと不敵に口元を緩めた。

 

「ヘリや特殊部隊が相手なら、それくらい派手な方がいい。その火力で、大いに活躍してもらおうか」

 

---

 

昼過ぎ。

 

二人は目的の七番街スラムの外周部へと到着する。

そこでは、頭に巻いた鮮やかな赤色のバンダナが目を引く青年――ビッグスが、すでに退避させた住民たちを集めて周囲を警戒していた。

 

ツンツンと逆立った黒髪に、カーキ色のミリタリー風の上下を着こなした彼は、顎にうっすらと髭を蓄えた精悍な顔立ちをしており、そのスマートな佇まいはスラムの雑多な風景の中でも一際目立っている。

 

「ハメル、来てくれたのか! ……おい、その後ろのデカい男は誰だ?」

 

ビッグスはハメルの到着に表情を和らげたのも束の間、その背後に佇むバレットの圧倒的な巨体、そして何より右腕に連結された重厚な火器に目を留め、鋭い視線を走らせる。

 

その不躾な視線を受け流しながら、バレットはハメルの横顔に目を向け、ドスの効いた声で低く呟いた。

 

「おい、ハメル……こいつもアバランチか?」

 

道中の会話を思い出し、またしてもアバランチの人間と親しげに接するハメルに不信の目を向けるバレット。

しかし、ハメルはその問いには答えず、ビッグスに向けて淡々と短い問いを投げかける。

 

「臨時の助っ人だ。ジェシーはどうした」

 

ハメルの言葉に、ビッグスは苦い表情を浮かべて首を振る。

 

「それが、ジェシーと連絡が取れないんだ。日が暮れる前にここくらいまで住民を連れて撤収しないと、神羅の特殊部隊が襲ってきちまう。ジェシーに退避勧告をお願いしてる区画はここから先だ。ハメル、彼女のフォローに行ってくれ」

 

「わかった。ジェシーの身柄の回収は、俺たちが引き受ける」

 

ハメルは短く告げると、バレットに視線を送り、ビッグスが指し示した危険区画へと迅速に足を速める。

 

---

 

崩れかけた外壁が影を落とす区画を、ハメルたちはしらみ潰しに捜索していく。

だが、住民の姿はなく、静まり返った廃墟には不穏な気配だけが満ちている。

 

やがて太陽が沈み、周囲に紫色の夕闇が広がり始めたその時、ハメルの深い水色の魔晄の目が、微かな駆動音を捉える。

 

「来るぞ」

 

ハメルが低く警告を発した瞬間、路地の奥から銃を構えた神羅兵の斥候部隊が数名、闇に紛れて飛び出してくる。

 

「神羅の犬どもめ、死に晒せええ!」

 

バレットが猛り狂ったような声を上げると同時に、右腕のガトリングガンが凄まじい轟音を立てて火を噴く。

火線が夕闇を切り裂き、コンクリートの破片が派手に飛び散る。

 

バレットの戦い方は、あまりにも騒々しく、でかく、 そして目立つ。

その圧倒的な質量と爆音、そして右腕の重火器という存在感は、それだけで神羅兵たちの注意を大いに引きつける。

斥候部隊の誰もがバレットの弾幕に圧倒され、視線を釘付けにされている。

 

――だが、これこそがハメルの狙い通りの展開だ。

 

バレットが放つ破壊的な騒音と混乱の陰で、ハメルの肉体は完全に気配を消し、夜の闇へと同化していく。

ハメルの動きは、徹底して静かで、疾く、 そして視認しづらい。

 

ハメルはバレットという巨大な存在を、まるで獲物を追い立てる勢子のように冷徹に利用しようとしていた。

バレットが派手に暴れ回ることで、神羅兵たちは自ずと遮蔽物の裏へと追い詰められ、退路が限られていく。

 

ハメルはニブルヘイムの山々で培った猟師の目で、バレットの銃撃に翻弄されていく敵の動線を冷静に見極めていた。

逃げ場を失い、次にどこへ動くかが分かっている獲物を仕留めるのは、猟師にとって容易なことだ。

ハメルは敵兵が逃げ惑う死角へと回り込み、必殺の一撃を打ち込む決定的な瞬間を冷徹にじっと待ち構える。

 

バレットの銃撃を避けようと、神羅兵の一人が物陰から身を乗り出した、まさにその一瞬。

ハメルの構えた堅牢な弓から音もなく矢が放たれる。

矢はその深い水色の瞳が捉えていた軌道を描き、風を切り裂く微かな音すら残さず、アサルトライフルの銃身を構える神羅兵の手首を正確無比に射抜いた。

手元を瞬時に破壊された兵士は、悲鳴を上げて武器を落とす。

 

さらに、バレットの背後へと回り込もうとした別の斥候は、自身の死角から迫るハメルの気配にすら気づいていなかった。

ハメルは無駄なく鍛え上げられた肉体で音もなく息を潜め、完全に相手の背後へと回り込む。

敵兵が振り返る隙すら与えずに、腰から引き抜いた小剣の柄頭を目にも留まらぬ速度でその首筋へと強烈に叩き込んだ。

 

「がっ……」

 

一発の銃声も鳴らさせることなく、兵士は白目をむいてその場に昏倒する。

 

バレットが正面で騒がしく敵の目を奪い、その死角からハメルが確実に獲物を無力化していく。

言葉を交わさずとも、息の合った動きを見せる二人。

神羅の斥候部隊は、誰一人としてハメルの存在を正確に認識することすらできぬまま、一瞬にして全滅した。

 

敵を駆逐した後、ハメルとバレットは互いに視線を交わす。

 

不器用で粗野だが、その銃身に確かな覚悟と圧倒的な破壊力を宿し、戦場を強引に支配するバレットの実力。

年に似合わぬ冷淡さでバレットの存在を完璧に計算に組み込み、弓と小剣の連携で一寸の無駄もなく敵を無力化して「狩り」を遂行したハメルの実力。

 

口では何だかんだぶつかりつつも、互いの力量に関しては認め合うことになる。

 

「お前、ただの何でも屋じゃねえな。案外やるじゃねえか。俺が暴れてる裏で、いつの間にか全部片付けやがって」

 

バレットがニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。

 

「あんたの火力も、神羅を潰すための道具としては悪くない。敵を追い立てる役としては最高だ」

 

ハメルはぶっきらぼうに応じながらも、辺りの様子に気を払い、ジェシーの行方を示す手がかりを探すのに余念がなかった。

 

---

 

戦闘を終えたハメルは、小剣を静かに鞘へと収める。

 

「おい、こっちだ」

 

ハメルが路地の奥から漂う微かな呼吸の乱れを察知し、崩れた民家の陰へと向かう。

 

そこには、物陰に身を潜めて蹲っていたジェシー・ラズベリーの姿があった。

 

頭に巻いた鮮やかな赤色のバンダナと、後ろで一つにまとめた茶髪のポニーテールが目を引く。

紺色のインナーの上には、胸や両肩を保護する精悍なシルバーの軽装アーマーを着用し、下半身はカーキ色のパンツに金属製のすね当てがついたブーツという、活発で機能的な出で立ちだ。

 

ハメルたちの姿を認めると、大きな茶色の瞳を揺らし、痛みに顔を顰めながらも、いつもの彼女らしい茶目っ気のある笑みを浮かべる。

 

「あ……ハメル……?うくっ、君が助けに来てくれたんだ。ふふ、なら安心だ」

 

ジェシーは神羅兵の斥候と不意に遭遇し、執拗な追撃から逃げる途中で、古びた屋根から足を滑らせて転げ落ちてしまったのだという。

 

「神羅の奴らはどうにか巻いたんだけどね……腰を思いっきり打っちゃって、動けないの」

 

困ったように肩をすくめてみせる。

 

ハメルはジェシーの前に片膝をつき、彼女の負ったダメージを見極めるためにその場にしゃがみ込んだ。

 

「立てるか?」

 

「うーんとね、立とうとすると……アイタタタッ! 無理無理、電気が走るみたいに腰が砕けちゃうもん」

 

ジェシーは涙目で大袈裟に首を横に振りながらも、どこか楽しげに口元をすぼめる。

 

ハメルが怪我の程度を確かめるため、装甲の隙間から腰のあたりに手を触れて触診を始めると、ジェシーは身体を強張らせた。

 

「ひゃぅっ!? ――痛っ! ちょっとハメル、容赦ないなぁ。男の子でしょ、美人な女子はもうちょっと優しく扱うべきじゃない?」

 

「骨は折れていないようだが、ひどい打撲だ。無理に動けば悪化する」

 

ハメルは彼女の軽口を完全にスルーし、淡々と冷淡に告げた。

 

「そっかぁ、骨が無事なら良かったけど……でも、動けないんじゃ一緒よね」

 

ジェシーがため息をついた瞬間、背後の暗闇からドカドカと重く粗雑な足音が近づいてきた。

 

「神羅の追手……っ!?」

 

顔色を変えたジェシーは、パニックを起こしたように無理やり体をひねってその場から這い出そうとした。

だが、強烈な痛みが腰を直撃し、「あうっ……!」と短い悲鳴を上げて崩れ落ちそうになる。

 

「動くな」

 

ハメルは即座に彼女の肩を片手でしっかりと抑え込み、冷徹な声で短く制した。

 

「敵じゃない」

 

直後、瓦礫の影から圧倒的な巨体を揺らし、バレットが二人の前に姿を現した。

 

「お前がジェシーか、探したぜぇ」

 

ハメルの背後にそびえ立つ、威圧感の塊のような男へと視線を移すジェシー。

 

「ハメル、このデカい人はどなた?」

 

ハメルが言葉少なに応じる。

 

「セブンスヘブンに転がり込んできたバレットだ。あんたを探してた」

 

ジェシーは納得したようにその不気味な右腕を見つめ、どこか楽しげに目を細める。

 

「ふーん、ここ最近、私を探してる右手がない超怪しい大男がいるって聞いてたけど、あなたか。ちょっと警戒してたんだよねー」

 

「あぁん!? 誰が怪しい大男だコラ! コレルの黒い銃弾、バレット・ウォーレス様とは俺のことよぉ!」

 

バレットは右腕のガトリングガンをガチャガチャと威嚇するように鳴らし、豪快に啖呵を切った。

その凄まじい大声と迫力に、ジェシーは頬に冷や汗を垂らしながらも、「あはは……怒るとさらに怖いなぁ……」と引きつった笑みを浮かべてどうにか受け流す。

 

ハメルはバレットの頑強な体躯を一瞥し、淡々と問いかけた。

 

「バレット、運べるか」

 

「フン、こんな細っこい女の一人や二人、楽勝よっ!」

 

バレットが鼻息荒く胸を張ると、ジェシーは不満げにハメルを見つめて唇を尖らせた。

 

「えー、ハメル背負ってよ。そっちの方が若くてイケメンだしさー」

 

「断る。俺が先行して警戒する。その方が上手くいく」

 

にべもない返答に、ジェシーは「ちぇー、冷たいなぁ」と肩をすくめる。

バレットは「どいつもこいつも好き勝手言いやがって……」とぶつぶつ文句を言いながらも、左腕でジェシーを自身の頑強な背中へと器用に引き上げ、ガシッと力強く背負い込んだ。

 

「わっ、ちょっと手荒だよバレット! ……でも、案外安定感はあるかも」

 

バレットの岩のような背中で小さく身を縮めるジェシーを一瞥し、ハメルは周囲の暗闇へ鋭い視線を走らせる。深い水色の魔晄の目が、遠くから近づいてくる神羅の新たな気配を敏感に捉えていた。

 

「それだけ減らず口が叩けるなら、少しくらい乱暴に運んでも大丈夫だろう。神羅の本隊が来る前に撤退する」

 

ハメルが冷徹に告げてすぐさま先行すると、バレットもその後に続く。

三人は夕闇の迫る外周部から迅速に離脱し、安全な自警団の防衛ラインに向かって防壁の影を駆け抜けていった。

 

---

 

夕闇が完全に七番街外周部を包み込む頃、ハメルとバレットは負傷したジェシーを連れて、ビッグスが防衛ラインを敷いて待機する安全圏へと無事に帰還する。

 

「ジェシー! 無事だったか!」

 

駆け寄ってくるビッグスの声と同時に、丸っこい体型を揺らしたウェッジが、大きな医療キットを両手で抱えて息を切らせながらすっ飛んでくる。

 

「ジェシー、大変だったっす! すぐに治療するっすよ!」

 

ウェッジは手際よく医療キットを開くと、痛みに顔を顰めるジェシーを優しく地面に座らせ、腰の打撲箇所へ手早く冷感スプレーや固定用のテーピングを施し始める。

 

治療の処置を受け、一息ついたジェシーは、「ふぅ……ありがと、ウェッジ。少し楽になったわ」と一言添えてから、ふと思い出したように、すぐ横にそびえ立つバレットの巨体へと視線を向ける。

その瞳には、快活で、どこか探るような茶目っ気が戻っている。

 

「で、さっきの続きなんだけどさ。なんでバレットは、そんなに必死になってあたしを探してたの?」

 

その問いを待っていたとばかりに、バレットは右腕のガトリングガンを誇示するように胸の前に突き出し、地鳴りのような大声を響かせる。

 

「決まってんだろ! 俺をアバランチに入れろ! そのためにわざわざコレルからミッドガルまでやってきたんだ!」

 

あまりにもストレートで傲慢な要求に、ジェシーは少し困ったような、苦笑い混じりの複雑な表情を浮かべる。

彼女はビッグスと視線を交わし、ため息混じりにアバランチの厳しく冷徹な内情を語り始める。

 

「うーん……熱意は買いたいところなんだけどね。あんた、アバランチっていう組織にちょっと夢を見すぎじゃない? 今の組織はね、主流派とか各スラムの支部で、やってることも方針も完全にバラバラなの。お互いに連絡すらまともに取れてないのが現状なんだよね」

 

ジェシーは一拍置き、ウェッジに包帯を巻かれながら言葉を続ける。

 

「それに、私たち七番街スラムのアバランチ支部は、完全に合議制で動いてるの。特定のリーダー制度なんて取ってないから、本隊に対して余計に発言力もない状態なわけ。だからさ、組織に入ったところで大したことはできないよ。あんまり期待しない方がいいよ、って忠告しておくわ」

 

アバランチという組織の、壊滅的とも言える統率力のなさを突きつけられたバレットだが、その直情的な思考回路は、ジェシーの予想を遥かに超える斜め上の結論を導き出す。

バレットは太い腕を組み、ぎらついた眼光で豪語する。

 

「方針がバラバラで引っ張る奴がいねえだと? だったら話は簡単だ! ――なら、俺をそのリーダーにしろ!」

 

「……はぁっ!?」

 

「な、何言ってるっすか!?」

 

いきなりすぎる不遜な提案に、ジェシー、ビッグス、ウェッジの三人は完全に言葉を失い、開いた口が塞がらないといった様子で困惑しきっている。

 

そのあまりにも現実味のない大男の暴論に、横で黙って聞いていたハメルが、心底呆れたように深くため息を吐く。

ハメルは深い水色の瞳の奥に魔晄の冷徹な光を宿したまま、バレットに向かって一切の容赦のない冷徹なツッコミを突き刺す。

 

「……文無しの素浪人が何を言っている」

 

「あぁん!? なんだとコラ!」

 

噛み付こうとするバレットを、ハメルは冷淡な視線ひとつで制し、淡々と現実的な組織の論理を語り始める。

 

「どんな小さな組織だって、上手く回すには金がいる。アバランチの活動資金、機材の調達、情報収集、精度を求められる作戦の維持、それからメンバーたちの食い扶持。あんた、その金をリーダーとして用意できるのか?」

 

「それは……っ、なんとかする!」

 

バレットは顔を真っ赤にして怒鳴り返すが、ハメルは眉ひとつ動かさずに重ねて問い詰める。

 

「具体的なあては?」

 

「ぐっ……」

 

資金源など、昨夜まで行き倒れ寸前だったバレットにあるはずがない。

ハメルに完全に急所を射抜かれ、バレットは言葉に詰まって小さく唸るしかない。

 

ハメルは武器の柄に手をかけたまま、バレットを見下ろして最後通告を突きつける。

 

「もう一度聞く。俺の何でも屋を手伝うか、昼間のセブンスヘブンの用心棒か。どちらか選べ。リーダーになりたければ、まずは自分で動かせる資金を作ってからにするんだな」

 

完全にハメルの正論と現実的な圧力に押し切られたバレットは、右腕のガトリングガンを悔しそうに軋ませ、その顔を歪めながらも、ぐうの音も出ない現実を叩きつけられて不気味に吐き捨てる。

 

「……チッ、分かったよ! 用心棒の方をやってやるよ! さっさとその活動資金ってやつを稼いで、すぐにでもお前らのリーダーになってやるからな!」

 

フンと鼻を鳴らしてそっぽを向いたバレットを尻目に、ジェシーはふう、と小さく息を吐くと、今度はバレットからハメルへと視線を移す。

地面に座ったまま、その瞳に真剣な光を灯してじっとハメルを見つめた。

 

「そんなことより、ハメル、考えてくれたかな? 正式にアバランチのメンバーになって欲しいって件」

 

ジェシーは腰の痛みを堪えながら、少しだけハメルの方へと上体を乗り出し、傍らに佇む彼の冷徹な水色の瞳を真っ直ぐに見上げるようにして言葉を重ねる。

 

「リーダーって言うなら、君みたいな人にお願いしたいかな、私は」

 

ジェシーのその言葉に、ビッグスとウェッジもゴクリと息を呑み、期待に満ちた目を一斉にハメルへと向けてくる。

戦闘能力、判断力、どれをとってもハメルが自分たちの中心に座ってくれれば、これほど心強いことはない。

 

だが、ハメルは彼らの熱い視線を浴びても全く動じず、どこかつれない、冷淡なトーンのまま言い放つ。

 

「協力はする。ただ深入りはしない。神羅への恨みはある。だけど守りたいものもある。それは誰だって同じだろ」

 

ハメル自身、神羅カンパニーの完全解体だけを盲目的に目指すアバランチの極端な活動方針には、冷徹なまでの懐疑心を抱いている。

もちろん、星の命そのものであり、生命の駆動エネルギーの根幹たる魔晄が、生活の基盤として完全に組み込まれてしまっている今の世界の有り様は、いつか是正しなければならない歪みだとは思っている。

だが、人間とは一度上げた生活レベルを容易に下げられない生き物であることも、かつて知っていた物語の知識と現実的な観察から痛いほど理解している。

 

魔晄エネルギーに代わる画期的な代替エネルギー――例えば、化石燃料のような地下資源が新たに発掘され、それが採算を超えて世界中に普及でもしない限り、大衆はどれほど星の危機を訴えられようとも魔晄という利便性に固執し続けるだろう。

今更、「星のために原始人のような生活に戻れ」と強制されたところで、受け入れられるはずがない。

 

それこそが、アバランチの思想が一般市民に浸透せず、勢力がいつまでも拡大していかない根本的な原因だ。

アバランチの一部強硬派がその現実を無視し、自分たちの過激な理想論を無理に押し通そうとすれば、社会に不必要ないさかいや余計な軋轢を生み、結果として無駄な犠牲を量産するだけに終わる。

……かつてのコレル村が辿った悲劇のように。

 

だからこそ、ハメルは組織の理念にすべてを捧げる気など毛頭ない。

自分には何よりも優先すべき絶対的な存在――ティファの安全と、確定させるべき未来があるのだ。

 

ハメルの冷たくも確固たる境界線に、ジェシーは「相変わらず警戒が強いなぁ……」と座ったまま肩をすくめて苦笑するしかない。

 

すると、ハメルのそのつれない態度を横で見ていたバレットが、ここぞとばかりに鼻で笑い、大きな声を張り上げる。

 

「ケッ、そんな優柔不断なやつより、俺の方がよっぽどリーダーに相応しいぜ! 命を張る覚悟が違うんだよ!」

 

「あんたはまず金を稼げと言ったはずだ」

 

ハメルが淡々と切り捨てると、バレットはまたしても「ぐぬぬ……」と言葉を詰まらせる。

 

一連のやり取りを見ていたジェシーたちは、ハメルがこの厄介な巨漢を自分の管理下に置き、セブンスヘブンの用心棒という形で資金の鎖に繋じて飼い慣らそうとしている意図を正確に察知する。

ハメルの何でも屋としての圧倒的な実力と、今夜のジェシー救出という多大な恩義がある以上、彼らはハメルの顔を立てないわけにはいかない。

 

「まぁ……ハメルがそう言うなら、ね」

 

ジェシーはビッグスとウェッジの顔を見回し、二人が苦笑しながら頷くのを確認すると、バレットに向かっていつもの快活な笑みを向ける。

 

「いいよ。ハメルの顔に免じて、バレット、あなたのアバランチへの『仮所属』を認めてあげる。ただし、勝手な行動は禁止だからね?」

 

「フン、仮だろうが何だろうが、神羅をぶっ潰す足がかりになればそれでいいさ!」

 

バレットはぶっきらぼうに応じながらも、これでようやく復讐への道が開けたことに、胸の内で密かに安堵している。

 

こうしてハメルは、かつて原作知識を背景に、バレット・ウォーレスというアバランチの最大火力を自身の掌の上へと完全に囲い込むことに成功する。

運命の流れの歯車は、ハメルの思い描く未来の景色に向かって、より強固に、精度を上げて静かに噛み合い、回り続けていた。

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