※この作品はR-18です。

FF7ntR   作:夜叉五郎

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第十二章:100万ギルの焦り

[μ]-εγλ 0005年9月下旬。

 

バレット・ウォーレスとの奇妙な縁が繋がってから、早いもので二ヶ月の月日が流れている。

 

新生セブンスヘブンにおいて、ハメルはバレットを「昼間の時間帯限定の用心棒」として雇い入れた。契約内容は、店の開店準備から昼の営業終了にかけての11時から17時までの6時間、1日あたり一律300ギル。

1ギルを現代日本円換算で約50円とすれば、時給換算で2500円、日給1万5000円という、スラムの相場からすれば極めて破格の条件である。

 

毎朝10時過ぎになると、バレットは愛娘のマリンを連れてセブンスヘブンへと出勤してくる。

営業が始まる前に、店で用意された賄いのブランチを親子で食べるのが、彼の毎日の日課となっていた。

 

ハメルが差し出す大皿のブランチを前に、マリンが「おいしいね、とうちゃん!」と笑顔を弾ませる。

 

「おう、マリン、そうだよなぁ。ティファの作ってくれたご飯は美味しいなぁ。いっぱい食えよ。おいハメル、今日もアバランチの集会がある。夜の間はマリンを頼んだぜ。しっかり見ててくれよな」

 

「分かっている。余計な心配をせず、夜は好きに動くといい」

 

ハメルが淡々と応じる。

 

大柄なバレットが店の入り口に構えていると一般の客が怖がって入ってこられなくなるため、昼の勤務時間中、彼は大人しくカウンターの端に腰掛けて待機している。

その間、小さなマリンはカウンターの奥でティファのちょっとしたお皿運びや仕込みの準備を健気に手伝い、店の小さな看板娘として常連たちに可愛がられていた。

 

夜の酒場営業が始まると、アバランチとしてのレジスタンス活動のためにバレットは外へと駆け回るが、その間の数時間は、マリンをセブンスヘブンでお留守番させる手筈になっている。

カウンターに座り、最近お気に入りの『忠犬スタンプ』のテレビアニメに夢中になっているマリンの身の安全は、ハメルとティファが責任を持って見守っていた。

 

そして深夜、店がまだ絶賛営業している22時過ぎ頃にバレットが戻ってくると、マリンを抱きかかえ、二人で天望荘の部屋へと帰っていく。

 

それが、この二ヶ月で完全に定着した彼らの生活サイクルだった。

 

「チッ、1日300ギルベースじゃ、大きな軍資金を貯めるまでに一体何年かかるか分かりゃしねえぜ。なぁハメルよ!」

 

ブランチを終えたカウンターで、バレットは普段用の無骨な鋼鉄の義手を弄びながら、アバランチを主導するという己の大志に向けて贅沢なボヤキをこぼす。

雇われて三ヶ月が経ち、この店への信頼が深まったからこその、彼なりの親しみを込めた軽口だ。

 

食事の賄いが親子二人分つき、夜間の娘の面倒まで完全に看てもらえるこの環境は、額面の給金以上に、スラムで生きるバレットにとってこれ以上ない破格の待遇だった。

ハメルもティファも、バレットの夜の活動には一切の干渉をしていない。

掛け持ちの仕事もし放題であり、彼もその多大な恩義は十分に理解している。

 

だが――この「最大限の支援」の裏で、ハメルとティファの家計は、静かに、確実に悲鳴を上げ始めていた。

 

1日300ギルの人件費。それに加わる親子二人の食費、そして夜間の託児という目に見えない労働コスト。

二人の目下の最優先事項は、背負っている総額100万ギルという莫大な借金を一刻も早く完済し、セブンスヘブンを完全に自分たちの城にすることだ。

しかし、バレットを雇ったことで、そのゴールラインが明らかに遠のいてしまった。

 

ハメルもティファも、その決定に十分納得している。

納得しているからこそ、根が真面目な二人は「自分たちがもっと働いて穴埋めをすればいい」という、極めて過酷な結論に自らを縛り付けてしまった。

 

ツケ払いの廃止など多少の改革は行ったものの、モンティ老人の頃から愛されてきた店を守るため、深夜遅くまでの営業時間は変えていない。

ラストオーダーは0時近く。

客がハケた後の片付けや掃除を終える頃には、深夜2時を回ることもザラだった。

 

これまでは原作知識と冷静な判断力でティファを完璧に導いてきたハメルだったが、彼とて、肉体の限界を持つ一人の男に過ぎない。

蓄積していく乳酸、脳の神経伝達物質をじわじわと枯渇させていく睡眠不足は、肉体という生物学的なシステムを確実に摩耗させていく。

 

まだ、目に見えるトラブルや破綻が起きたわけではない。

だが、確実にお互いの心身から「余白」が削り取られつつあった。

 

---

 

夜の酒場営業の最中、店内はスラムの荒くれ者たちの熱気と怒号で一気に満たされていく。

カウンターの奥では、妖艶な光沢を帯びた紫のミニドレスに身を包んだティファが、華やかな笑顔を絶やすことなく軽快にシェイカーを振っている。

その抜群のプロポーションと可憐な佇まいは、過酷な労働に疲れた男たちにとって最高の癒やしであり、彼女を目当てにスラム中から客が押し寄せている。

 

そこへ、ツケの分割払いメンバーであるジョニーが、わずかなギルを握りしめてカウンターへとやってくる。

 

「ティファ! ほら、分割払いの今月分を持ってきたぜ! だからさ、ちょっとおれの話を聞いてくれよ――」

 

ジョニーは未回収の金を差し出しながら、少しでもティファの気を引こうと熱心に話しかける。

以前であれば、ティファは手を動かしながらも彼の他愛のない話に優しく耳を傾け、温かい相槌を打っていたはずだった。

しかし、今のティファはジョニーが差し出した数枚の紙幣にすぐさま手を伸ばすと、その枚数を素早く確認して引き出しへと収める。

顔にはいつも通りの美しい微笑を浮かべてはいるものの、その紅い瞳はジョニーを素通りして、すでに別のテーブルでどんちゃん騒ぎをしている羽振りのいいグループへと向けられていた。

 

「ありがとう、ジョニー。確かに今月分受け取ったわ。ごめんね、ちょっと今、あっちのテーブルの注文が立て込んでて。はい、駆け付けの一杯ね!」

 

ジョニーがまだ言葉を続けようと口を開きかけた瞬間には、ティファはエールのグラスをカウンターにトンと置き、背を向けてしまっていた。

流れるような速さであしらわれ、ジョニーは言葉を喉につまらせる。

 

ティファが急いで向かったテーブル席には、神羅のプレート開発特需やアングラな取引で大金を稼ぎ出し、一晩で高級なエールやカクテルを何十杯も注文してくれる、いわゆる羽振りのいい「太客」たちが陣取っている。

彼らはグラスを叩きつけ、大声でティファを呼び立てている。

 

「おい、おっぱいの大きなバーテンさん! こっちに一番高い特製カクテルを人数分追加だ! お前の奢り(チップ)の分もな!」

 

毎月の大工の棟梁への3万5千ギルという重い借金返済、外部から雇っているバレットへの用心棒代。

それらのシビアな財政をハメルと共に管理しているティファにとって、一晩で巨額のギルを落としてくれる彼らの存在は、店を維持するための絶対的な生命線だ。

 

「はーい! 今すぐ最高の一杯をお持ちしますね!」

 

ティファは豊かな黒髪と腰を揺らしながら、太客たちの待つ席へと滑り込む。

彼女は妖艶な紫のミニドレスから大胆に露出した白い背中としなやかな脚線を、男たちの眼前に惜しげもなく晒し、テーブル席へ吸い付くように身を乗り出した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「皆さん、今夜もたくさん呑んでくれて嬉しいな……。じゃあ、とっておきの特製カクテル、私が心を込めて作っちゃいますね?」

 

疲れを覆い隠すための濃い化粧の下から、潤んだ紅い瞳で男たちを一人一人じっと見つめ、甘く囁きながら、吐息が届くほどの至近距離でグラスを配っていく。

男たちは味をしめ、調子に乗ってさらに下品な冗談を飛ばし、ティファの細い手首に馴れ馴れしく触れようとさえする。

ティファはそれを雄としての本能を刺激するような絶妙な身のこなしでかわしつつ、さらに高価な酒の追加注文を笑顔で取り付けていく。

その光景は、もはや温かいスラムの憩いの場ではなく、ウォールマーケットのいかがわしい夜の店そのものに変質しつつあった。

 

その悪影響はすぐに店内に現れる。

どんちゃん騒ぎをする太客たちの下品な怒号と、あからさまに色香を売り物にし始めた店の空気に耐えかね、隅の席で静かに一日の疲れを癒やしていた古参の常連客や家族連れが、眉をひそめて早々に席を立ち、店を出ていってしまう。

カウンターに取り残されたジョニーは、太客につきっきりで一向に自分の方へ戻ってくる気配のないティファの後ろ姿を寂しげに見つめ、独り言のようにつぶやいた。

 

「……ちぇっ、ティファ、全然戻ってこないじゃないか。おれの話は途中で生殺しのままだってのによぉ……。なんか、最近のこの店、前と変わっちまったな……」

 

ジョニーはガッカリと肩を落とし、ティファに阿られるまま高いカクテルを開けていく成金どものことを忌々しげに睨みつけながら、エールをちびちびと啜り始める。

 

そんなジョニーの恨めしい視線と、客足の質の変化を、ハメルも給仕の手を止めることなく、その深い水色の瞳で冷淡に観察していた。

本来であれば、他の男たちに必要以上の色香を振り撒き、身体を寄せているティファの姿を、夫として苦々しく思うべきはずだった。

しかし、大工の棟梁への重い借金を一日も早く返済するという一念に囚われるあまり、ハメルはそれを「売上回収のための必要な営業活動」だと、冷徹な経営計算のもとで割り切ってしまっている。

「これだけの利益が出るなら、多少のスキンシップや客の質の悪化は許容範囲内だ」と、脳の論理回路で自身を納得させているのだ。

その感覚の麻痺こそが、ハメルの倫理観をも確実に蝕み、取り返しのつかない歪みを生み出しつつある兆候であった。

 

そんな店内の危うい雰囲気を、客席の手伝いに来ている天望荘の大家のマーレだけは鋭く見咎めていた。

地道に通ってくれる常連客をないがしろにし、金払いのいい成金ばかりを最優先する接客の歪み。

そして、それを黙認しているハメル。

 

夜の営業が終わり、片付けを始めた厨房で、マーレはティファとハメルの二人に向かって、容赦のない厳しい口調で釘を刺した。

 

「ティファ、あんたこの頃、随分と厚化粧じゃないかい。色っぽさをメインにして男に媚を売るような酒場にしたいって言うなら、何もこの薄汚れた七番街スラムでやる必要はないさね。あんたほどのスタイルがあれば、ウォールマーケットの店にでも行きゃあ、すぐにでもトップに上り詰められるだろうよ」

 

「マーレさん……私は、そんなつもりじゃ……」

 

ティファが困惑して紅い瞳を揺らすと、マーレは鋭い眼光をその隣にいるハメルへと向け、さらに声を荒らげた。

 

「それからハメル、あんたもさ! 客の質が落ちて店が荒れかけてるっていうのに、なんで突っ立って見てるんだい! 店の黒服として、あのケダモノどもからティファを守って、客との適正な距離感を保たせるのもあんたの大事な仕事だろうが!」

 

「……」

 

ハメルもまた反論の言葉を失う。

セブンスヘブンにおけるティファの圧倒的な人気の秘訣は、その真面目で凛とした清潔感を根底に残しつつも、魅惑的なスタイルを見せるという、あの絶妙なギャップにこそある。

 

その最大の強みである純真な清潔感が失われ、太客への露骨な傾倒によって安易な水商売の店へと堕ちてしまえば、客たちが「これならコルネオの店に行った方がよっぽど楽しめる」と、離れていくのは時間の問題だ。

金と時間に追われる焦りのなかで、自分たちがどれほど大きな過ちを犯し、危ういバランスの上に立っていたのか。

 

二人は冷や水を浴びせられたような激しい後悔と反省を抱き、重い沈黙に沈んでいった。

 

---

 

夜、店の扉を閉め、静まり返った地下室のベッドの上で、ハメルとティファは激しくお互いの身体を求め合っていた。

 

シーツを強く握りしめるティファの指先と、彼女の腰を確かな力で引き寄せるハメルの腕。

重なり合う肌の熱さと、耳元で交差する熱い吐息が、部屋の暗闇を満たしていく。

 

日々の焦りと疲労をかき消すように、二人は本能の赴くままにお互いの存在を深く求め合う。

感覚の波が最高潮に達し、ティファが艶やかな喘ぎを漏らしながらハメルの胸に顔を埋めると、二人は同時に甘やかな熱のなかへと溶け落ちていった。

 

身を震わせるような絶頂の余韻が去り、ベッドに横たわる二人の間に、気だるい余熱が静かに漂い始める。

 

思い返せば、ここ最近の二人の夜は、日々の忙しさにかまけて、どこか心に余白のない、義務的なものへと変わりつつあった。

 

愛し合っているという事実に、微塵の揺らぎもない。

しかし、今夜交わされた抱擁も、じっくりと心を通わせるというよりは、頭が痛くなるような現実の忙しさを一瞬だけでも忘れるために、お互いの温もりを急いで求め合うような、どこか余裕のない切なさを帯びていた。

 

かすかに乱れた呼吸を整えながら、ティファの胸の奥には、言葉にできない焦燥感が澱のように溜まっていた。

肌に触れるシーツの擦れる音だけが優しく響く暗闇のなか、ティファはハメルの胸の傷跡にそっと指先で触れ、消え入るような声で本音を吐露する。

 

「ハメル……私たち、知らず知らずのうちに焦ってたんだと思う。借金を早く返さなきゃって、そればかり考えて、一番大切なことを見落としてた……」

 

ハメルは暗闇のなかで、その深い水色の瞳を静かに細め、彼女の細い肩を引き寄せながら、自身の冷徹な管理の甘さを深く反省する。

 

「ああ。俺の不手際だ。ティファに無理をさせすぎていた。仕事への焦りが、接客の雑さや歪みに繋がっていたな。このままでは、自分たちの城を守るどころか、基盤そのものが崩れてしまう」

 

二人は再び強く体を寄せ合い、肌から伝わるお互いの体温を今度は確かめるように味わいながら、現在の歪んだ生活サイクルをどう改めるか、暗闇の中で静かに相談を重ねていった。

 

---

 

[μ]-εγλ 0005年10月1日。

 

夕方の気配が七番街スラムを包み込み、夜の酒場営業が始まる直前のことだ。

 

店にはハメルとティファ、そしてバレットと愛娘のマリンの四人が揃っている。

 

客は誰も居なかったため、バレットはマリンとの夕飯を済ませた後、夜のアバランチとしての活動に備えて夜用のガトリングガンの義手を装着し、その最終点検を終えたばかりだ。

カウンターではマリンが忠犬スタンプのテレビアニメに夢中になっており、その愛らしい笑い声を上げていた。

 

その時、セブンスヘブンの重い木製のドアが、勢いよく引き開けられる。

ビリビリと空気を震わせるほどの尋常ではない強者のオーラが、一気に店内に流れ込んできた。

 

「わっ……!?」

 

大きな音に驚いて小さく身を縮めたマリンを、バレットは即座にその巨大な体躯の背後へと庇い、すぐさまガトリングガンをドアへと向け、目を血走らせて立ち塞がった。

用心棒としての確固たる殺気を込め、地鳴りのような怒声をぶつける。

 

「おまえ、何もんだ、ああん! 何の用があって押し入ってきやがった!」

 

緊迫した空気が店内に張り詰める。

 

立ち込める土煙の向こうから一歩足を踏い入れてきたのは、老人という年齢を全く感じさせない、筋骨逞しい圧倒的な筋肉の体躯を持つ巨漢だった。

その身から放たれるオーラは、バレットのそれと比べても全く引けを取らない、凄まじい迫力を孕んでいる。

世界各地に128人もの優秀な弟子を持つという、伝説の格闘家――ザンガンその人だ。

 

その老人の顔を見たティファが、驚愕に紅い瞳を見開いて叫ぶ。

 

「やめてバレット! その人は私の拳法の師匠なの!」

 

「あぁん? 師匠だと……!?」

 

バレットは驚愕に目を見張り、なおも警戒の視線を残しながらも、ゆっくりと銃口を下げた。

 

ザンガンはバレットを一瞥するが、特に相手にする風でもなく、その鋭い眼光をハメルとティファの二人へと向けた。

そして、彫りの深い厳つい顔をこれ以上なく真剣に歪めると、大地を震わせるような太い声で、唐突にその頭を深く下げてみせた。

 

「うむ。突然の訪問、許されよ。……ハメル、そしてティファ。我が弟子ラケスのしでかした醜悪な欺瞞の数々、このザンガン、師として誠に申し訳なく思う。本当に申し訳ない」

 

彼の口から語られるのは、あまりにも熱く重厚な謝罪の言葉だった。

 

---

 

ちょうど三年前の[μ]-εγλ 0003年10月1日。

 

ニブルヘイムでセフィロスが起こした凄惨な事件。

あの壮絶な魔晄炉でセフィロスに胸を深く貫かれたハメルをミッドガルまで連れ出し、八番街スラムに住む弟子のラケスに預けたのは、他ならぬザンガン自身であった。

 

しかし、その善意の裏で、ラケスとその母親である女医ダニーロは、ハメルの命を救った治療代として、下層スラムの相場を遥かに超越した高額な嘘の治療費の明細を二人に請求していた。

二人が身を粉にして働いて返した金は、ラケスの度を越えた闇チョコボレースでの浪費の借金返済に充てられてしまう。

ハメルの機転と原作知識による闇チョコボレースでの荒稼ぎで、その罠から逃れることが出来たが、二人はザンガンとの連絡手段を失う結果にもなっていた。

 

ザンガンは熱い拳を握りしめ、バツが悪そうに大きな頭をガリガリと掻きながらも、怒りと申し訳なさの入り混じった表情で言葉を続ける。

 

「事の顛末をすべてダニーロから問い質し、事実を完全に把握した。あのような薄汚い詐欺行為を働き、我が拳法の誇りを泥に塗ったラケスの奴には、わしの拳でみっちり灸を据えておいたわ! 骨の二、三本でも叩き折って即座に破門にしてやろうかと思ったんだが……ダニーロのやつに涙ながらに縋り付かれてな。情けない話だが、今回ばかりは儂に免じて勘弁してやってほしい。本当にすまん!」

 

ザンガンは巨体を縮めるようにして再び深く頭を下げる。

どこか詰めが甘く、身内に押し切られてしまう彼のお人好しな一面が垣間見えた。

しかし、すぐにまた真剣な表情に戻り、太い声を響かせる。

 

「それだけではない。あの馬鹿者、己の欺瞞が露見することを恐れ、わしとお前たちを意図的に接触させぬよう裏で狡猾に画策しおった。ティファ、お前が『師匠に会いたい』とラケスに託した切実な伝言も、全て奴の手で握りつぶされていたのだ。わしがその事実を知ったのは、ダニーロの元へ真っ直ぐに赴き、彼女の口から直接すべての真相を聞き出した後であった。二人の無事を確認するため、その足でここへ駆けつけた次第である」

 

伝説の師匠の、どこか大雑把で行き当たりばったりな、だがどこまでも実直で温かみのある謝罪が店内に響き渡る。

ハメルとティファの二人は、複雑な表情のまま顔を見合わせるしかなかった。

なぜなら、ちょうど三年前、あの凄惨な炎の中から命を救い出してミッドガルへ連れてきてくれたのは、間違いなくこのザンガンなのだ。

 

そのお人好しさに付け込まれた結果がどうあれ、命の恩人である彼に対して、恨み節をぶつけることなど到底できるはずがなかった。

ハメルはその深い水色の瞳を静かに和らげ、ティファと共に、ザンガンの実直で少し不器用な謝罪を受け止めるのだった。

 

---

 

重苦しい沈黙の中、ザンガンは頭を上げ、成長した二人を鋭い眼光で見つめた。

まずは、二十歳になったハメルへと視線を据え、熱く、力強い言葉をかける。

 

「ハメル。ゾンダーのせがれよ。……うむ、かつてわしの誘いを真っ直ぐに断っただけのことはある! 実にいい面構えになったな! 独自の過酷な道を進み、そこまで己の肉体と精神を鍛え上げてくるとは……実に見事、素晴らしいぞ!」

 

ザンガンは次に十八歳になったティファへと向き直る。

 

今のティファは夜の酒場営業の直前であり、妖艶な光沢を帯びた紫のミニドレスを着用していた。胸元や背中、しなやかな脚線が大胆に露出した、男なら誰もが目のやり場に困るような扇情的な格好だ。

 

しかし、常に大真面目で邪念のないザンガンにとって、その衣装が放つ色香など視界にすら入っていなかった。

彼の鋭い眼光は、ただひたすらに、ティファの肉体の筋肉の付き方と重心のわずかなズレのみを射抜いていた。

 

「……しかし、ティファよ。お前のその身体、一体どうしたことだ!」

 

ザンガンは厳しく眉をひそめ、真剣そのものの目で睨みつけるようにして、熱く、太い声を張り上げる。

 

「大人の身体へと成熟はしておるが、格闘家としての伸びが全く足りん! 左右の脚の張りのバランスが狂い、重心の軸がブレておるぞ! この三年間、日々の忙しさにかまけて己を鍛え磨く修行を疎かにしたな! 技のキレの鈍りようが、見なくてもわかるわ!」

 

本来あるべき成長の『伸び悩み』を的確に見抜くザンガンの圧倒的な叱咤に、ティファはハッとして言葉を詰まらせる。

昨夜、ハメルと猛省したばかりの「生活の歪み」による成長の停滞が、格闘の師の目には完全に透けて見えてしまっているのだ。

 

ザンガンは太い腕を組み、仁王立ちのまま熱く告げる。

 

「一ヶ月後だ! 一ヶ月後にまたここへ来る! その時までに、我がザンガン流の真髄を受け継ぐに相応しい、本物の格闘家としての身体と精神を、再び熱く叩き直しておくのだ! 期待しているぞ!」

 

それだけを嵐のように言い残すと、ザンガンは大きな背中を向け、凄まじい足取りでセブンスヘブンを去っていった。

 

残された店内。

 

「な、何なんだ、あのとんでもねえクソジジイは……」

 

ザンガンの嵐のような気配が去ると、呆れ半分に吐き捨てたバレットはすぐさま向き直り、自分の背中に庇い続けていたマリンを大急ぎで抱き上げた。

まだ二歳のマリンは、あの尋常ではない大声と殺気に完全に怯えきっており、今にも大泣きしそうな真っ赤な顔をして、バレットの首に必死に細い腕を回してしがみついてくる。

 

「うぅ……う、あ……とうちゃ、っ……」

 

「おう、よしよし! マリン、怖かったな、もう大丈夫だ! 父ちゃんがここにいるからな!」

 

バレットはガトリングガンの銃口を慌てて脇へと退けると、大きな左手でマリンの小さな背中を優しく何度も撫で、必死になってあやした。

マリンがバレットの広い胸に顔を埋め、涙を浮かべながらも少しずつ呼吸を落ち着かせていくのを確かめて、バレットはようやく安堵のため息を漏らす。

 

しかし、ティファの紅い瞳には、さっきまでの焦燥感とは違う、確固たる闘志の火がパチパチと灯り始めている。

彼女は自身の引き締まった拳を強く握りしめ、己の甘えを完全に断ち切るように、隣のハメルを見つめた。

 

「ハメル……私、自分の甘さに活を入れるわ。お店の忙しさにかまけて、心のどこかで言い訳をしてた。格闘家としての精神まで鈍っていたから、師匠にあっさり見抜かれちゃったんだと思う……。一ヶ月後、ザンガン流の拳法を修める者として恥じない身体と精神を叩き直して、師匠に胸を張って立ち向かってみせるわ」

 

ハメルもまた、彼女のその真っ直ぐな瞳を受け止め、深く、静かに頷く。

ハメルはカウンターの奥から新たな営業時間を示した案内板を取り出し、ペンで力強く数字を書き換え始めた。

 

「ああ。これからは店の方針を根本から変えよう。売上を追うあまり、自分たちの目的を忘れてしまっては本末転倒だからな」

 

ハメルが提示した新しい計画は、これまでの過剰な労働環境を劇的に改善し、生活サイクルに明確なメリハリをもたらす合理的なものだった。

 

モンティ老人の頃から続いていた昼からの通し営業と、客が居残ってる間は深夜零時を過ぎてもいつまでも酒を提供し続けるダラダラとした営業スタイルを今日限りで廃止。

昼の営業を11:30から15:00(ラストオーダー14:30)まで、夜の酒場営業を17:30から23:00(ラストオーダー22:30)に切り替える。

 

さらに、これまで午前中に終わらせていた夜営業の準備を、夕方の閉店時間である15:00から17:30の間に完全に移行。

昼のランチメニューも仕込みに時間の手間がかかるものはすべて廃止し、手早く用意できるホットドッグやバーガー系に限定する方針を固めた。

これによって朝の仕込みの負担を劇的に減らし、ティファが開店前にしっかり身体を動かす余裕を確実に確保できるようにする狙いだ。

 

「うん……ありがとう、ハメル。これなら、朝の時間をすべて修行にあてられるわ」

 

ティファは嬉しそうに微笑み、その顔からは、日々の生活の焦りから生じていた暗い曇りが完全に消え去っていた。

ただ闇雲に焦るだけの働き方を変え、メリハリをつけた健やかな生活サイクルを、二人は自身の力で完全を取り戻す。

セブンスヘブンという二人の城を、より強固で、より美しい場所へと進化させるための新たな歩みが、ここに静かに踏み出されるのである。

 

---

 

それからのひと月、セブンスヘブンは劇的な変化を遂げていた。

 

ハメルが断行した新しい営業時間と簡素化したメニュー方針。

仕込みの負担から完全に解放されたティファは、毎朝の開店前の時間を全て格闘の鍛錬へと捧げていた。

 

彼女の鍛錬場所は、セブンスヘブンの裏手にある広々とした空き地だ。

朝日が注ぐ爽やかな空気の中、ハメルは組手の相手としてティファの正面に立つ。

ハメルの深い水色の瞳が鋭く動きを捉え、無駄のない最小限の体捌きでティファの猛烈な打撃を受け流していく。

 

「ティファ、腰のタメがまだ甘い。拳に体重が乗り切っていないぞ」

 

「はい……っ」

 

ティファは鋭い呼吸とともに、目の覚めるような掌打や空気を切り裂くような鋭い蹴りを何度もハメルへと叩きつける。

 

この朝の猛特訓は、すぐにスラムの住人たちの間で噂となる。

 

「おい、セブンスヘブンの裏で、あのオッパイの大きなバーテンダーがとんでもない訓練をしてるみたいだぜ」

 

最初は冷やかし半分で集まってきた住人たちだったが、日が経つにつれてその見物客の数は日々増えていく。

夜の酒場営業でティファをただのスタイル抜群の可愛いバーテン女子だと思ってた客たちも、彼女が放つ上段回し蹴りの凄まじい風切り音と、地面を爆砕せんばかりの踏み込みの迫力を目の当たりにし、「おいおい……あんな蹴りを喰らったら骨ごと粉砕されるぞ……」と、その場に慄いて顔を引きつらせる。

ティファがただのバーテンダーではなく、一人の凄腕の格闘家であるという事実が、スラム中に強烈な畏怖とともに知れ渡っていく。

 

だが、その圧倒的な強さへの評判は客を遠ざけるどころか、「あの美しき天才格闘家が切り盛りする店」として、結果的にセブンスヘブンの格好の宣伝材料となっていった。

 

何より、師匠からの厳しい叱咤は、ティファ自身の心構えを根本から変えていた。

売上を追う焦りから重ねていた不自然な厚化粧をきっぱりと止め、本来の瑞々しい素肌の美しさを活かしたナチュラルなメイクへと戻す。

夜の営業用に身を包む魅惑的な紫のミニドレスはそのままに、そこから漂う空気は、無理に媚びるような歪んだものから、武道家らしい凛とした清潔感へと劇的な変化を遂げていた。

 

夜の酒場営業が始まると、その内面から湧き出るような美しさの効果はすぐに現れた。

カウンターにやってきたジョニーは、以前とは見違えるほど凛とした彼女の姿に瞬時に骨抜きにされ、声を弾ませる。

 

「ティファ! やっぱり最高に綺麗だぜ」

 

ティファは微笑みながらも、以前の甘えや接客の歪みを完全に断ち切っていた。

地道に通ってくれる常連客を誰よりも大切に扱いながら、羽振りの良い太客たちへも流されることなく、完璧な距離感を保ち続ける。

 

そうして日々の接客と向き合うなかで、彼女にはただのバーテンダーという枠を超え、店全体を統括する店長としての広い視点と責任感が自然と備わっていった。

ハメルが整えてくれた新しい営業計画を的確に運用し、効率的な店舗経営と健全な客あしらいを両立させることで、経営者としての立ち位置と能力もまた、自然と確かな成長を遂げていく。

 

こうしたティファの毅然とした店長としての振る舞いと、メリハリのある新しい生活サイクルが店の雰囲気を劇的に回復させ、セブンスヘブンは以前にも増して健全な大盛況へと向かっていくのだった。

 

---

 

そして、約束の一ヶ月後――[μ]-εγλ 0005年11月1日。

 

約束の朝、セブンスヘブンの裏手の空き地の中央でストレッチをしながら、ザンガンを待つティファ。

周囲には大勢の見物客が詰めかけ、息を呑んで遠巻きにティファを見守っている。

その中には、もちろん夫のハメルの姿もある。

 

そこに一寸の隙もない完璧な重心を保った歩みで――ザンガンが、再びその姿を現した。

 

ザンガンは愛用のグローブを装着して拳を構えるティファを鋭い眼光で見つめると、その厳つい顔に深い満足の笑みを浮かべ、重厚な声を響かせる。

 

「うむ! 約束の一ヶ月が経ったな! ティファ、お前の顔つき、その佇まい……見違えたぞ! 迷いを断ち切り、本物の格闘家としての熱き精神を磨き上げてきたことが、わしにははっきりと伝ってくるのだ!」

 

ザンガンは空き地の中央で仁王立ちになり、その逞しい両腕を広げる。

 

「さあ、来いティファ! お前がこの地で培ったザンガン流拳法の真髄、その全てをこのわしにぶつけてみせるのだ! 命を懸けて、己の技を証明してみせよ!」

 

「はい、師匠! よろしくお願いします!」

 

ティファは凛とした声を響かせ、しなやかに地を蹴って前方へと躍り出た。

 

 

【挿絵表示】

 

 

試験の開始だ。

大勢の見物客たちが固唾を呑む中、肉体と肉体が激しくぶつかり合う凄まじい打撃音が連続して炸裂する。

ティファの放つ目にも留まらぬ速さの連撃、鋭い突き、空気を切り裂くような鮮烈な蹴りの嵐が、ザンガンの強固な防壁へと次々に叩きつけられていく。

 

野次馬たちは、次元の違う凄まじい激闘に完全に圧倒され、声を出すことすら忘れて慄いていた。

ハメルもまた、その深い水色の瞳を細め、一瞬の油断もなく二人の熱い死闘を静かに見守り続ける。

 

「素晴らしいぞ、ティファ! 技のキレ、体幹の軸、どこをとっても非の打ち所がない! お前が歩んできた苦難の道は、決して無駄ではなかったのだ!」

 

ザンガンは落ち着きつつも、一言一言に魂の籠もった熱い声を響かせ、あえて重い一撃を放ってティファを追い詰める。

強烈な衝撃がティファの身体を襲うが、彼女の精神は微塵も揺らがない。

ハメルと共に歩み続けるという確固たる覚悟が、彼女の肉体に無限の力を与えている。

 

ティファは鋭い呼吸とともにザンガンの懐へと潜り込み、全身のバネを極限まで連動させる。

内なる精神のエネルギーを右拳へと完全に集中させ、ザンガン流拳法の真髄たる、体の芯を揺るがす強烈な一撃を師の胸元へと突き出した。

 

ドンッ!!!

 

大気が激しく震動し、ザンガンの強固な両腕のガードが、凄まじい衝撃波とともに微かに後方へと揺らぐ。

静寂が空き地に戻る。ティファは息を切らせながらも、真っ直ぐに師を見据えて身構えを解かない。

 

ザンガンはゆっくりと自身の両腕を下げると、深く、大きく息を吐き出し、最高の敬意を込めて豪快に微笑んだ。

 

「うむ! 実に見事である! 技の極意、肉体の冴え、そして何より何者にも屈せぬその強固な精神! ティファよ、お前は完璧にザンガン流の真髄を受け継ぐに相応しい本物の格闘家に成長した! たった今、このザンガンが、お前に『免許皆伝』を言い渡すぞ!」

 

ザンガンは熱き拳を強く握りしめ、さらに声を張り上げた。

 

「わしには世界各地に128人もの優秀な弟子がおるが、ティファ、お前はその中で最も突出した天才、一番の才能を持つ弟子である! 己を磨き続けたお前なら、いずれはこのわしすらも完全に超越していく……それほどの可能性を秘めた、わしの生涯最高の弟子であり、最大の誇りなのだ!」

 

「師匠……っ」

 

ティファの紅い瞳から、今度は嬉しさと達成感に満ちた熱い涙がポロポロと溢れ落ちる。

ザンガンはその逞しい手で弟子の肩をガシリと掴み、力強く頷いた。

 

---

 

その後、場所をセブンスヘブンの店内へと移す。

まだ営業前の静かな店内のカウンターに腰掛けたザンガンは、ふうと息を吐くと、ティファへと視線を向けて厚みのある声をかけた。

 

「ティファ、わしにカクテルを一杯、頼む」

 

「はい、師匠」

 

ティファは嬉しそうに微笑むと、カウンターの奥で手際よくシェイカーを振り始める。

無駄のない、しかしどこか美しく洗練されたその所作から繰り出された極上の一杯が、ザンガンの前に静かに差し出された。

ザンガンはそのグラスを手に取り、じっくりと味わうように飲み干すと、満足そうに目を細めて深く頷いた。

 

「うむ……美味い。ゾンダーのせがれ、ハメルよ。お前が隣で支えておればこそ、ティファは格闘家としても、一人の人間としても、これほど真っ直ぐに美しく成熟できたのだな。二人が魂を寄せ合って築き上げた、この『セブンスヘブン』という場所の強さは本物だ。このザンガン、二人の確かな絆に太鼓判を押そう」

 

「ええ。命に代えても、彼女とこの場所を守り抜きます」

 

ハメルは深い水色の瞳で師の熱い意志を受け止め、毅然とした声で答える。

 

ザンガンは床の荷物をひょいと担ぎ直して立ち上がると、懐に手を差し入れた。

何かを取り出そうとしてふと動きを止め、少し考え込むように迷う素振りを見せたが、やがて意を決したように二冊の古い書物を取り出し、二人の前に差し出した。

 

「これを受け取るが良い。一冊は、我がザンガン流の究極の到達点にして最終奥義『ファイナルヘヴン』の極意書だ。今のティファであれば、いつかこの領域にまで辿り着けると信じておる」

 

「最終奥義……!」

 

ティファが緊張の面持ちで一冊目を見つめる中、ザンガンはもう一冊の、さらに年季の入った古びた書物を手に取った。

彼は昔を懐かしむように、その擦り切れた革の表紙の手触りを指先で今一度確かめるように愛おしそうに撫で、目を細める。

それから、二人に語りかけた。

 

「そしてもう一冊は……我がザンガン流拳法に伝わる『番外編』の秘伝書だ。この技を成し遂げるには信頼できる相方が必要だ。そなたら二人であれば、ここに記された技も存分に極めることができよう。……大いに期待しているぞ!」

 

「ありがとうございます、師匠」

 

ティファは深く一礼し、感謝の念を込めて二冊の書物を受け取った。

 

師匠が直々に授けてくれた最終奥義と秘伝の技。

どんな深遠な武術の真髄が記されているのかと、期待に胸を躍らせながら、まずはハメルと共にその『番外編』のページを捲ってみる。

しかし、書物を開いたティファの紅い瞳は、瞬く間に驚愕に見開かれ、続いてその表情は急速に熱を帯て真っ赤に染め上げられた。

 

ページに描かれていたのは、武術の型や鍛錬の図解ではない。

男女のペアで体の中心線に沿った七つのチャクラを開き、身体を巡る気の力を増幅させる特殊な訓練方法だ。

男女が密着し、愛し合うことで生命エネルギーを循環させるという、極めて具体的で秘めやかな「男女の営み」の奥義が、赤裸々な挿絵と共に克明に記されていたのだ。

 

「……ッ!? し、師匠、これは……っ!!」

 

あまりの中身の過激さにティファは絶句し、顔から湯気が立ち上るほど真っ赤になって慌てて書物を閉じた。

ハメルもまた、その内容に一瞬言葉を失い、ザンガンの真意を測りかねて硬直する。

 

「直球で申せば、それは『男女の愛をもって互いの強さを極める』ための秘術よ!その名も『エターナルヘブン』!!」

 

ザンガンは驚愕してフリーズする二人の反応を背中で楽しむかのように、豪快な高笑いを響かせながら、そのままセブンスヘブンを去っていった。

 

残された店内。

ティファは真っ赤な顔のまま、手の中の書物とハメルの顔を交互に見て、どう処理していいか分からない動揺に、ただ立ち尽くすしかなかった。

 

「……ハメル、これ、本当に修行の一環なのかな……?」

 

ティファの消え入りそうな呟きに、ハメルもまた、冷徹な理性を少しだけ揺らしながら、困惑したように苦笑するのだった。

 

 

こうしてティファは、原作よりもかなりだいぶ早い段階で、最終奥義『ファイナルヘヴン』の極意書を入手してしまった。

 

さらにザンガン流の秘伝書に記されていた裏最終奥義『エターナルヘブン』。

この技こそが、ティファとハメルの夫婦を新たなステージへと進ませる、大いなるきっかけとなっていく。

 

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