第十六章:常夏の楽園への招待状
[u]-εγλ 0006年7月21日。
7月下旬を迎え、ミッドガルは本格的な夏の季節に入っていた。
上空を覆う巨大な鉄プレートが容赦なく熱を帯び、そこからまるで巨大な床暖房を逆さにしたような、逃げ場のない熱気がスラムへとじわじわと降り注ぐ。
どんよりと熱がこもる七番街スラムの空気は、不快なほどに乾いてカラカラだった。
時折、プレートの隙間から滝のような雨漏りが降ることはあっても、基本的には不毛な熱風が吹き抜けるばかりだ。
そんなランチの忙しい時間帯が一段落し、現在のセブンスヘブンの店内には、まったりとした穏やかなカフェタイムの空気が流れている。
バーカウンターのなかに置かれた、座り心地の良いスツールに腰掛け、ティファはほっと小さく息を吐く。
妊娠十三週目を迎えている彼女は、長くつらかった悪阻(つわり)の波がようやく終わりを告げ、最近になって食欲がすっかり回復していた。
それもそのはず、ティファの体内に宿っているのは、ハメルとの間に授かった二つの新しい命――「双子」だった。
二人分の胎児と胎盤を育てるその身体は、分泌されるホルモン量も通常の倍近くに達しており、それゆえに悪阻の凄まじさは想像を絶するものだったが、それもようやく落ち着いた。
その下腹部ははっきりと、愛らしくぽっこりとした存在感のある丸みを帯び始めている。
通常であれば十三週目の子宮はグレープフルーツ大ほどだが、双子を宿すティファのそれはすでに一回りも二回りも大きい。
彼女はカウンターの陰でその愛おしいお腹の膨らみにそっと手を当て、毎日のように双子の命の脈動を噛み締める。
だが、悪阻が明けた喜びと同時に、初めて経験する劇的すぎる「体型の変化」に、ティファは激しく困惑していた。
もともとハメルとの日々の愛の交歓を経て、Hカップという原作以上の抜群のボリュームまで実っていたティファの双丘。
二つの命を育むための急激な身体の変化に伴い、この一ヶ月あまりで更にダイナミックに膨らんでいた。
双子妊娠による過剰なホルモン刺激は乳腺の発達をさらに加速させ、すでにトップは90cm代後半に達する。
最終的にはメートル超えにまで変化するのではないかという猛烈な勢いであった。
これまでの下着は、どれもカップから乳房があふれ出してしまうティファ。
締め付けの苦しさに「本当に収まる下着がない……」と、毎日のようにクローゼットの前で頭を抱えていた。
幸いにも初乳はまだ出ていないものの、内側からミチミチと張り裂けそうな熱感は常に胸元を支配している。
ザンガン流の厳しい修行を経て、己の肉体の重心や筋肉の動きをミリ単位で完全にコントロールしてきたティファにとって、この「自分の意志とは無関係に急変していく身体」は、十全に支配できない奇妙な違和感と戸惑いをもたらしていた。
前に引っ張られるバストの重量、双子ゆえに早い段階から横に広がり始めた骨盤、形成されていく新たな肉体の重心。
戦いの中で培った完璧なバランスが狂っていく感覚に、人知れず焦りと戸惑いを覚えることも少なくなかった。
(……夜になってハメルが戻ってきたら、この身体の違和感のことをちゃんと相談してみよう)
昼間は何でも屋の仕事で外回りに出ている夫の不在を寂しく思いながら、ティファはつい先ほどまでの賑やかなランチタイムに、客たちから向けられていた「視線」を思い返し、顔を上気させる。
セブンスヘブンの絶対的看板娘がハメルと結ばれ、さらに「妊娠した」という決定的な報は、七番街スラムの男たちに凄まじい衝撃を与えた。
誰もが「ガチ恋勢の荒くれ者たちは一転してショックで冷め、客足は一気に遠のくのではないか」と考えた。
が、結果はその真逆だった。
「おい見ろよ……今日のティファちゃん、一段と凄くねえか?」
「ああ、あのエプロンの上からでも分かる胸のボリューム、格段に増してやがる。ハメルの野郎、毎晩どんな贅沢を味わってんだ……」
カウンターの奥に座るティファの、エプロンの上からでも一目でわかるほど圧倒的な質量を増した胸の曲線。
そして双子を身籠ったことで明らかに丸みを帯びたお腹のライン。
それを見つめる客たちの目は、不純な熱を帯びてギラギラと輝いていた。
「人妻になって妊娠したっていうのに、冷めるどころか余計にエロさが増してやがるな。あのぽっこりしたお腹も、なんだかたまらねえ……」
「母親になったっていうか、あの包み込んでくれそうな雰囲気が最高だよな。ちょっと料理を出されるだけで昇天しそうだぜ」
そんな男たちの、あからさまに自分の体を目当てにした熱い感嘆の声や視線が、今も耳の奥に残っている。
至高のプロポーションを一目拝もうと、男たちは冷めるどころか「妊婦となった女神」の新たなる至高の色気に狂わされ、連日のように店へ押し寄せていた。
結果として客足は減るどころか逆に膨れ上がるという、店側としては嬉しい誤算が起きていた。
現在のセブンスヘブンは、そんなティファの身体を最優先に考えた特別なフォーメーションで回している。
基本的にティファはバーカウンターの中から動かず、カウンターの中に設えたスツールに腰掛けたまま、カクテルや料理を作る作業に専念。
昼の広いフロアの給仕役は、天望荘の大家のマーレと用心棒のバレットが交代で務め、夜の営業時間中は、何でも屋の外回りの業務から戻ってきたハメルが給仕役としてフロアを捌いていた。
---
バレットがのんびりとテーブルを拭き、マーレがカウンターの端で帳簿をつけているなか、入り口の窓の外を眺めていたマリンが嬉そうに声を上げる。
「あ、ゆうびんやさんだ! ティファ、おてがみきてるよ!」
マリンはそう言うと、トコトコと元気よく店の扉を開けて外へと走っていく。
少しして、外のポストに届けられたばかりの一通の鮮やかな封筒を大事そうに両手で抱え、店内に戻ってくる。
そのままカウンターまで駆け寄ると、小さな手でそれをティファへと差し出す。
「ありがとう、マリン。何かしら」
ティファは微笑みながら封筒を受け取り、丁寧に開封して中の書面に目を落とす。
しかし、そこに並ぶ文字を追ううちに、彼女の端正な眉が不思議そうに跳ね上がる。
「え? コスタ・デル・ソル? 世界バーテンダー大会?」
「どうしたんだい?」
帳簿の手を止めたマーレが怪訝そうに顔を上げ、テーブルを拭いていたバレットも「なんだそりゃ?」と大きな身体を揺らしながら歩み寄ってくる。
三人はカウンター越しに顔を突き合わせ、その南国の潮風を思わせる上質な招待状を覗き込んだ。
そのタイミングで、店の扉が勢いよく開く。
「ちわーす! あちち、スラムの夏は地獄だぜ! ティファ、俺に冷たいコーヒーを一杯頼むわ!」
陽気な声を響かせながらジョニーが入店し、カウンターのスツールに腰掛ける。
ティファは「ええ、喜んで」と手慣れた様子でアイスコーヒーの準備に取り掛かった。
だが、注文を受けた直後、ジョニーがバッと表情を曇らせ、慌てて口を押さえる。
「あ……っ!」
最近までティファが悪阻でコーヒーの香りを避けていたことを、突然思い出したのだ。
「ご、ごめんティファ! 今のなし! いや……注文取り消すから、何でもいいから別のものに……!」
ジョニーが焦って身を乗り出すと、ティファはクスクスと楽しそうに笑い声を漏らす。
「大丈夫よ、ジョニー。もうすっかり平気なの」
ティファはジョニーの目の前に、香ばしく透き通ったアイスコーヒーを静かに滑らせた。
「ほら、どうぞ。すっきりしたアイスコーヒーよ」
ジョニーは目を丸くして、それからパッと顔を輝かせる。
「マジかよ!? ティファ、大丈夫なのか?……うひょー、相変わらず最高の香りだぜ!」
ジョニーが美味そうに喉を鳴らす横で、バレットとマーレもホッと安堵の表情を浮かべる。
「やれやれ、本当に悪阻が終わったんだねえ。これなら店の方も安心だ」
ジョニーにコーヒーを出し終えた後、バレットが先ほどの招待状の話を再開する。
「おい、ティファ。やっぱりそれ、新手の詐欺か何かなんじゃねえのか? 頼んでもいねえのに招待状なんて届くわけがねえ」
「あ、その話なんだけど……」
三人の深刻な様子を横目で見ていたジョニーが、コーヒーを片手に不思議そうに身を乗り出してくる。
「なあなあ、何の話? 俺も混ぜてくれよ」
ティファはカウンター越しに、その色鮮やかな招待状をジョニーの目の前へと差し出す。
それを視界に捉えた瞬間、ジョニーの動きがピタリと止まる。
差し出された書面とティファの顔を交互に見つめながら、ジョニーの顔面からみるみるうちに血の気が引き、冷や汗を流し始める。
「ごめんティファ! それ、俺のせいだわ!」
ジョニーはついに観念したように両手を挙げ、事の顛末を白状し始める。
すべては、ティファのカクテル技術に心酔するジョニーが、「俺の女神の神業バーテンドを世界に知らしめてやる!」と勝手に応募したことが始まりだった。
運命の六月三日、ティファの妊娠が発覚した日の昼、実は昼営業のラストオーダーのタイミングで、サプライズとしてエントリーしておいたことを伝えるつもりだったのだ。
しかし、まさにその瞬間にティファに急激な悪阻が到来し、それどころではなくなってしまった。
さらにその直後、ティファの妊娠という決定的な失恋イベントに直面したジョニーは、ショックのあまり応募したこと自体を完全に忘れ去り、今に至っていた。
「まさかティファが妊娠しちゃうなんて思ってなくてさ……本当に悪かった!」
ハンカチを握り締め、申し訳なさそうに謝るジョニー。
こうして、ジョニーの突飛な暴走というオチがついたことで、この話は一旦終了し、店内はいつもの静かな時間へと戻っていく。
---
夕方になり、何でも屋の業務をすべて終えたハメルがセブンスヘブンへと戻ってくる。
ハメルが夜営業に向けてフロアの開店準備を始めようとしたその時、バーカウンターの隅に置かれたままの、見慣れない色鮮やかな封筒に気づく。
「これは?」
ハメルがその招待状を手に取って尋ねると、カウンター内で同じく夜営業に向けた仕込みを進めていたティファが声を上げる。
「あ、それはね。お昼に届いたんだけど……ジョニーのやらかしだったの」
ティファは、ジョニーが勝手に応募して忘れていたという昼間の経緯を、分かりやすくハメルへと説明する。
「バーテンダーデビューしてまだ一年ちょっとの私が、世界大会なんて大きな舞台に出るなんて場違いだし、何より、身重の身体でコスタ・デル・ソルまで移動するなんてとても無理だから……きちんとお断りの手紙を書かないとね」
「ああ、そうだな」
ハメルは短く応え、その時点ではそれ以上深く追究することはせず、招待状をカウンターの上に戻す。
やがて夜の営業が始まると、店内に賑やかな活気が戻ってきた。
ハメルは給仕役として広いフロアを忙しなく動き回り、注文された酒や料理を次々と客席へと運んでいく。
しかし、その鮮やかな手際の裏で、ハメルの頭の片隅にはあの招待状のことがずっと残り続けていた。
トレイを片手に客たちの間をスマートに捌きながらも、彼の鋭い思考は、招待状に記された条件と自分たちの現状を冷徹に突き合わせ、具体的な最適解をまたたく間に弾き出していく。
大会が開催されるのは、八月下旬。
その頃になれば、ティファの妊娠は十七週を過ぎ、つらい悪阻の時期を完全に抜けて、いわゆる『安定期』に入る。
医師からも、安定期に入ったらある程度、無理のない範囲で運動した方が良いと言われている。
お腹の中に二人分の命を抱えるティファにとって、南国の心地よい気候でリフレッシュするには、これ以上ない絶好のタイミングだ。
さらに、ハメルの思考は一人の大人として、そしてこれから二人の子の親となる者としての未来へと向いていく。
ハメルもティファも、生まれ故郷のニブルヘイムと、この閉塞されたミッドガルという狭い土地しか知らない。
一人の大人として、これから過酷な世界で我が子たちを育てていく上で、色々経験して知見を高めるのは極めて大事なことだ。
これからもセブンスヘブンを運営していくなら、自分たちも外の世界を知って成長していかなければダメだ。
井の中の蛙のままでは、いずれどこかで行き詰まる。
そして世界中から集まる一流のバーテンダーたちとの交流は、ティファの人生にとって何物にも代えがたい得難い財産になるはずだ。
もしそこでティファが実力を示せば、セブンスヘブンの格も一気に跳ね上がる。
店の知名度を上げることは、今後の活動においても決して無駄にはならない。
資金面については何の懸念も無い。
ウォール・マーケットでのコルネオ杯の賞金は、あの贅沢なウェディングドレスの撮影代や、来るべき戦いに備えたバイクの手付金を支払った後でも、まだ半分近くが手元に残っている。
加えて、ハメルが早期から手を打っていた「JSフィルター」の売れ行きは今や飛躍的に伸びており、何でも屋には潤沢な利益が転がり始めている。
コスタ・デル・ソルまでの往復の連絡船のチケットや、ホテルの宿泊代くらい、今の経済力なら余裕で支払うことができる。
ふと、ハメルは招待状の裏面に細かく記載されていた、大会の厳格なレギュレーションの一節を思い出す。
そこには『不正防止および出場者の円滑なサポートのため、本戦のステージにおいては出場者一名につき、付人が一人必須。
付人の同行なき場合は出場資格を剥奪する』と、明確に記されていた。
(付人が一人必須、か……)
ハメルはグラスを磨く手を一瞬止め、カウンターの奥で健気に働くティファの横顔を見つめながら、小さく独りごちた。
(……なら、俺がその付人を務めればいいだけだ。身重のティファを近くで支え、あらゆる雑事から守る影武者として、これ以上の適任はいない)
考えれば考えるほど、行かない理由がどこにも存在しない。
これはジョニーのやらかしがもたらした、最高のハネムーンのチャンスだった。
---
夜営業が無事に終了し、酔客たちがすべてハケた深夜。
静まり返った店内のカウンターの椅子に腰掛け、ティファは思わず自身の肩に手を当てて小さく呻いた。
急激に大きくなり続ける胸の重みに加え、双子を宿して早くも負担が増し始めた腰のラインは、四六時中彼女の首や背中に容赦のない負荷をかけ、格闘家としての頑丈な身体さえも激しく凝り固まらせていた。
「凝っているな」
背後から音もなく近づいたハメルが、その大きくて温かい掌をティファの華奢な肩へと置いた。
「あ、ハメル……」
「無理をするな。座ったままでいい」
ハメルは迷いのないスマートな手つきで、ティファの首筋から肩甲骨の裏にかけて、丁寧な指圧を加え始める。
人体の構造を知り尽くしたハメルの絶妙なマッサージは、凝り固まった格闘家の筋肉の深い部分にまで確実に届く。
「う、ん……っ、あ……気持ちいい……」
ハメルの指先から伝わる熱によって、溜まっていた痛みが甘く溶け出していく。
ティファは思わず熱い吐息を漏らし、全面的に信頼する夫の胸へと身体を預けた。
ハメルは両手で彼女の背中を優しく揉みほぐし、一通り凝りが解けたのを見計らってから、その動きを穏やかに止めた。
そのままバーカウンターの上に置かれた色鮮やかな招待状に視線を向けながら、彼女の耳元へと顔を近づけ、静かに告げる。
「なあ、ティファ。その大会、出てみないか?」
「えっ……?」
突然の提案に、ティファは驚きに目を見開いてハメルを振り返る。
そんな最愛の妻に向けて、ハメルは営業時間中に組み立てていた論理的な理由を、一つひとつ丁寧に、そして男としての圧倒的な頼もしさを込めて説明していった。
安定期に入るこれからの時期にある程度運動をすることのメリット。
自分たちが井の中の蛙を脱し、大人として、成長するために外の世界を見る重要性。
世界の一流バーテンダーとの交流がもたらす財産.
資金面は何の心配もないという事実。
ハメルの甲斐性の高さが滲み出るその言葉の数々に、『コスタ・デル・ソル』という目的地そのものが、彼女の心をそわそわと揺さぶり始めていた。
お腹に新しい命を宿し、母親になる実感を日々深めているとはいえ、ティファはまだ十九歳の多感な年頃の女の子だ。
分厚いプレートに遮られ、年中どんよりとした煙に煙るスラムの空の下で懸命に働き続けてきた彼女にとって、太陽の光が燦々と降り注ぐ南国の常夏のビーチは、これまで遠い絵本の世界のように眩しく、密かな憧れの対象だったのだ。
どこまでも広がる真っ青な海、波しぶきにきらめく白い砂浜、そしてハメルと二人で過ごす異国の時間――。
ハメルの温かい胸に身体を預けたまま、そんな美しい光景を思い描くだけで、南国の楽園への興味と期待が、彼女の胸の中でむくむくと音を立てて湧き立っていく。
行ってみたい、話に聞く綺麗な景色をハメルと一緒に見てみたいという、少女らしい純粋な憧れが、彼女の紅い瞳の中に熱い輝きとなって灯っていった。
「でも、ハメル……お店を二週間も空けるわけには……」
予算や移動の心配が消え、胸の奥が高鳴るのを感じつつも、やはり留守中の店のことが気がかりで、健気にもブレーキをかけようとしてしまうティファ。
そんな彼女の不安を優しく払拭するように、ハメルは穏やかでありながら確かな意思を込めて言葉を返す。
「明日、みんなに相談してみよう」
そのハメルの言葉に、ティファは驚きつつも、ふっと表情を和らげる。
昼間のバレットやマーレの様子を思い返せば、きっと笑顔で背中を押してくれるだろうという確信が胸に湧いてくる。
故郷のニブルヘイム、そしてその次にこのミッドガルのスラムで懸命に生きてきたハメルとティファ。
二人の絆が外の世界へと広がり、さらなる高みへ歩み出すための最高の旅路に向けて、深夜のセブンスヘブンは静かで温かい期待に包まれていった。
---
[u]-εγλ 0006年7月22日。
深夜のハメルの提案を受け、ティファはセブンスヘブンに昼下がりに集まった仲間たちに、来月二週間の夏季休業を取ることについて切り出した。
セブンスヘブンを引き継いでから初めて店を長期間閉めるのは大きな決断だが、集まった面々の反応は一様に温かい。
「二週間の休みだって? 賛成に決まってるじゃないかい!」
一番に声を上げたのは、天望荘の大家であるマーレだ。
ガリガリに痩せた顔に皺を綻ばせ、何度も深く頷いている。
「ティファ、あんたはこれまで悪阻に耐えながら、身重の体でずっと店を支え続けていたんだ。ハメルが気を利かせてハネムーン旅行に連れ出してくれるんだから、留守のことは何も心配せずに楽しんできな」
マーレの言葉に、バレットの傍らにいたマリンが満面の笑みでぴょんぴょんと跳ねながら手を振った。
「ティファ、おみやげのおはなし、たーくしゃんきかせてねぇ!」
小さな手を一生懸命に振る愛娘の純真な姿を見つめ、その横に立つバレットは「ガハハハ!」と地響きのような大笑いを炸裂させた。
「おう、異論なんかあるわけねえだろ! 旅行でも何でも大いに楽しんでくりゃいいじゃねえか!」
いつになくバレットの機嫌が良いのには理由があった。
ジェシーが開発した『JSフィルター』が今や爆発的な大ヒットを記録しており、アバランチ七番街支部の今後の活動費についての心配が完全に吹き飛んでいたのだ。
資金的な余裕は、闘士である彼の心にも大きなゆとりをもたらしていた。
だがそれ以上に、バレットにとってハメルとティファの二人は特別な存在だった。
かつてスラムで行き詰まり、半分浮浪者同然の荒んだ生活を送っていた自分を拾い上げ、用心棒としての仕事と居場所を斡旋してくれたのがハメルだ。
そして、自分が動けない間、愛娘のマリンを我が子のように優しく、健気に世話してくれているのがティファだった。
情に厚く、受けた恩義と筋の通し方だけは絶対に譲れないバレットにとって、この夫婦には一生頭が上がらないほどの感謝の念がある。
二人の記念すべきハネムーンに、ケチをつけるような真似など微塵も考えていなかった。
「おい、ハメル。これを持っていけ!」
バレットはご機嫌な様子でゴツゴツとした大きな手をポケットへ突っ込むと、一玉の紫に輝く結晶を掴み出し、ハメルの方へと親しみ深く差し出した。
「お守り代わりの『かばう』のマテリアだ! 旅先で何があるかわからねえからな。それをいつでも装備しておいて、ティファの身重の体を何があっても全力で庇ってやるんだぞ!」
豪快で、それでいて二人への深い敬意と気遣いが詰まった餞別の言葉に、ハメルは静かに口元を緩める。
「ああ。ありがたく使わせてもらう」
ハメルはその好意を真っ直ぐに受け取り、自身の防具であるバングルのマテリア穴へと、紫の輝きを迷いなくカチリと嵌め込んだ。
これでいつでも『かばう』のマテリアで、ティファの身重の体を庇えるようになる。
バレットの頼もしい言葉に続いて、ジェシーがこれ以上ないほど悪戯っぽく目を輝かせながら、ティファの肩をちょんと突いた。
「ちょっとちょっと、ついにハネムーン!? やるじゃない、ハメル。ティファ、お腹を冷やさない可愛い水着、新調しなきゃね!」
「もう、ジェシーったら……っ」
からかわれて顔を真っ赤にするティファを微笑ましそうに見つめながら、アバランチの兄貴分であるビッグスが、ふっと優しい笑みを浮かべて首を振った。
「店の留守番なら心配すんな。戸締まりから夜間の見回りまで、俺たちが責任を持ってきっちりやっておくからさ。お前らは余計なことを考えずに、向こうでゆっくり身体を休めてこいよ」
「そうっすよ! コスタ・デル・ソルは美味しいフルーツや海鮮がいっぱいあるって聞くっす! ティファさん、お腹の子たちのためにも、美味しいものをこれでもかってくらい堪能してきてほしいっす〜!」
ウェッジが大きな身体を揺らしながら、自分のことのように目を輝かせて力強く頷き、フロアの空気をいっそう和やかにしていく。
スラムの誰もが二人の旅路を祝福するなか、唯一人、カウンターの隅で「うう、ううう……」と激しく咽び泣きながらぐずっている男がいる。ジョニーだ。
「ティファが……ハメルと二人きりで……南国のパラダイスで水着に……いやあああッ!」
髪を掻きむしって悶絶するジョニーだったが、バレットの鋭い一瞥と、ハメルの冷徹な魔晄の瞳に射抜かれると、短い悲鳴を上げて大人しくなる。
そして、懐から少々シワの寄った上質な紙の束を引きずり出してきた。
「……これ、使いなよ」
ジョニーが未練たっぷりに差し出してきたのは、ティファとのバカンス用に予約していたミッドガルからコスタ・デル・ソルに到るまでの、ハイウェイバスと客船の一連の乗車チケットだ。
「本当はさ、ティファをサプライズでバカンスに連れていくために、俺の全財産をはたいて予約してたんだ……。だけど、もう俺には必要ねえ。これまでのセブンスヘブンでのツケ代の代わりに、ハメル、お前に譲ってやらあ!」
勝手な妄想の産物とはいえ、結果的に入手困難な直行ルートの切符が手に入った形だ。
ハメルは黙ってそれを受け取り、ジョニーのツケをその場で綺麗に精算してやった。
---
[u]-εγλ 0006年8月10日。
ティファの妊娠は十七週目に入り、心身ともに最も体調が安定する「安定期」を迎える。
悪阻の気配は完全に消え去り、最近ではすっかり戻った旺盛な食欲のおかげで、頬の肉付きも健康的で瑞々しい輝きを取り戻している。
それと同時に、彼女の身体には十三週目の頃とは比較にならないほど、劇的で鮮やかな変化が表れていた。
二人分の胎児と胎盤を同時に育てる双子妊娠ゆえに、その変化のスピードと規模は通常の単胎妊娠のそれを遥かに凌駕する。
すでにぽっこりと目立ち始めていた下腹部の膨らみは、今や衣服の上からでもはっきりと大きくて美しい球面を描き出し、双子を宿す母親としての圧倒的な存在感を主張している。
何よりハメルを驚かせ、ティファ自身を赤面させていたのは、バストボリュームの爆発的な成長だ。
二つの命へ送る栄養の準備を急ぐ母体の神秘によって、すでにトップは90cm代後半の、Iカップ相当という驚異的な大きさへと膨らんでいる。
167cmの引き締まった拳法家としての長い四肢や、背中のシャープさはそのままに、せり出したお腹と豊満極まる胸だけがドラマチックに突出したそのプロポーションは、ずっしりとした生命の重みを湛え、息を呑むほどに完璧な曲線美を描き出していた。
双子ゆえの急激な重量変化は、彼女の首や背中、そして腰に通常の妊婦以上の激しい負荷をかける。
ティファが辛そうになる都度、ハメルが甲斐甲斐しく優しい手つきで、彼女の身体を揉みほぐしてあげていた。
「……ふう。ありがとう、ハメル。あなたに触ってもらうと、本当にすっと痛みが溶けていくわ」
ベッドの端に腰掛け、ハメルの大きくて温かい掌に腰の張りを丁寧に解きほぐしてもらいながら、ティファは愛おしそうに夫を振り返って微笑んだ。
二人の足元には、広げられた大きなトラベルバッグがあり、その上にはジョニーから譲り受けたコスタ・デル・ソル行きの各種チケットや、二週間分の旅装が綺麗に整頓されて並んでいる。
「無理はするな。ミッドガルを出てからのハイウェイバスも含めて、コスタ・デル・ソルへの道中はそれなりの長旅になる。移動中に少しでもお腹が張るようなら、すぐに俺に言うんだぞ」
「うん、わかってる。でも不思議ね、悪阻が嘘みたいに落ち着いてからは、なんだかすごく身体が軽くて元気が湧いてくるの。きっと、お腹のこの子たちも初めての旅行を楽しみにしてるのね」
ティファはそう言って、衣服の上からでも豊かな丸みがはっきりと分かる下腹部を、慈しむように両手でそっと包み込んだ。
ハメルもまた揉みほぐしていた手を止め、彼女の愛おしい丸みを帯びた腰回りを後ろからそっと抱きしめる。
ティファの手の上からハメルが自身の掌を重ねると、まだ胎動こそないものの、そこには確かに愛しい二つの命が息づいているという確かな温もりが、静かに二人の手のひらを満たしていった。
「順調だな。これなら、ウェッジに言われた通り向こうのフルーツや美味しいものも、たくさん食べられそうだ」
「ふふ、そうね。スラムじゃなかなか食べられない珍しいフルーツが、あっちにはたくさんあるってウェッジが目を輝かせていたもの。お腹の子たちのためにも栄養たっぷり摂らなきゃ」
最愛の夫の腕に包まれ、お腹の中の新しい命と共に赴く初めての楽園に、ティファは胸の奥にある常夏のビーチへの憧れをいっそう膨らませていった。
分厚いプレートに遮られ、年中どんよりとした煙に煙るスラムの空の下を離れ、最愛の家族と共に過ごす異国の時間。
二人は温かい幸福感と静かな興奮に包まれながら、未知なる輝きに満ちた旅路への準備を着実に進めていった。
---
コスタ・デル・ソルへ向かうには、まずはミッドガルから神羅が敷設した専用道路を経由し、ハイウェイバスで東海岸の要塞都市ジュノンへと向かう航路が一般的だ。そこから大洋を渡る定期客船に乗り換えることになる。
ミッドガルの上層ホームにある長距離バスターミナル。
身重のティファの体を慮ったハメルは、ジョニーから譲り受けたチケットのまま乗車することはせず、受付カウンターで追加の料金を支払い、最上級クラスの完全個室へとアップグレードさせた。
「すごい……まるで動くホテルの小部屋みたいね」
乗車したハイウェイバスの高級感溢れる個室の内部を見回し、ティファは感嘆の声を漏らした。
ハメルが確保したのは、他人の視線が一切入らない、完全に独立したラグジュアリーな貸切空間だ。
室内には贅沢なフルリクライニングシートが並び、路面の振動を完全に吸収する特殊なサスペンションが採用されている。
これならば、二カップもサイズアップして重量を増した胸の揺れも、双子を抱えて大きく丸く膨らんだお腹への衝撃も完全に抑えられ、長時間の長距離移動であっても無駄な負担が響く心配はない。
「ジョニーの切符のままだと、一般席で周囲の目が避けられないからな」
ハメルはティファを一番座り心地の良いシートへと優しく促し、彼女の隣に腰掛けながらその横顔を見つめた。
「これなら誰に気兼ねする必要もない。ティファ、お腹や胸に揺れは響いていないか? 少しでも張りを感じるならすぐに言うんだぞ」
「うん、全然平気。シートがすごく柔らかくて、バスが動いているのを忘れちゃうくらい快適よ。これなら長旅でもちっとも苦しくなさそう。……ふふ、ハメルって本当に過保護なんだから」
衣服の上からでもはっきりと美しい球面を描き出している下腹部をそっと両手でいたわりながら、ティファは愛おしそうに紅い瞳を綻ばせた。
「過保護で結構だ。世界中の何よりも大切な妻と、お前の中で育っている二つの命を守るのが俺の役目だからな」
「ええ、ありがとう。あなたのおかげで、この子たちも私も、すっごく守られているのを感じるわ。ジュノンまでの長旅、のんびり楽しませてもらうね」
周囲の目を気にして気疲れすることもなく、ティファは極上のシートに深く身体を預け、誰にも邪魔されない二人だけの贅沢な空間で、窓の外を流れる景色をハメルと共に穏やかに楽しんでいた。
快適な陸路の旅を経て、ハイウェイバスはついに目的地へと到着する。
---
眼前に現れたのは、世界の軍事を掌握する神羅カンパニーの最大級の軍事拠点、要塞都市ジュノンだ。
この都市は、ミッドガル同様に徹底的な階級社会の構図をそのまま体現している。
神羅の特権階級や軍人、富裕層たちが優雅に暮らすきらびやかな上層階級の街「アッパー・ジュノン」。
その一方で、強固な鋼鉄のプレートに太陽の光を完全に遮られ、日陰の潮だまりのなかで貧困層が肩を寄せ合って暮らす下層の街「アンダー・ジュノン」に分かれている。
バスを降り、港へと向かう連絡通路を進むなかで、ティファはふと足を止め、眼前に広がる重苦しい灰色の大海原を見つめた。彼女にとって、海を直に目にするのはこれが人生で二度目となる。
一度目は、あの忌まわしいニブルヘイムの事件の直後。
自分を庇してセフィロスに胸板を深く刺し貫かれ、瀕死の重傷を負ったハメルを連れ、ザンガン師匠と共にミッドガルへ逃れる道中だった。
コレルでの応急処置だけでは容態の安定しなかったハメルを抱え、一刻を争う必死の思いで定期船へと飛び乗ったのだ。
あの時ティファは、隣で今にも消え入りそうなハメルの呼吸と、血の気の引いた青白い顔ばかりを四六時中見つめ、ただ彼の命が助かることだけを祈って付きっきりで看病していた。
海がどんな色をしていたのか、どんな波が打っていたのか、景色を眺める心の余裕など微塵もなかった。
だからこそ、こうして最愛の夫の隣で穏やかに海を見つめられていること自体が、ひとつの奇跡のように思えてならない。
しかし、そんな静かな感慨を遮るように、眼前に悍ましい神羅の威容が立ちはだかる。
何よりも二人の目を引いているのは、アッパー・ジュノンの外壁から海へと向かって、傲然と突き出ている超巨大な砲塔――「ジュノン・キャノン」と命名された、星を滅ぼしかねない質量を持つ決戦兵器だ。
下層のアンダー・ジュノンや、荒涼とした周辺海域から見上げるその威容は、青い空と海を切り裂くように居座り、見る者すべてに神羅の絶対的な武力を誇示しており、要塞都市そのものの巨大さを引き立てている。
「これが、神羅の力……」
ミッドガルの魔晄炉とはまた違う、破壊に特化した圧倒的な軍事力の凄まじさを目の当たりにして、ティファの表情にスッと暗い影が落ちる。
自分たちが変革を望んでいる相手のあまりの巨大さに、一瞬だけ圧倒されそうになっているのだ。
その小さな肩がわずかに震えた瞬間、ティファの右手を、ハメルの大きな掌がしっかりと包み込む。
強靭で、少しも揺らぐことのない温かい熱が、彼女の手のひらから全身へと伝わっていく。
「ハメル……」
「どれほど巨大な大砲を据えようが、それを管理し、動かしているのは俺たちと同じただの人間だ。絶対の神や化物じゃない。人間が相手である以上、どれほど組織が肥大化しようが必ず隙はあるし、いくらでも崩しようはあるさ」
ハメルの落ち着いた声音と、その水色の魔晄の瞳に宿る絶対的な不敵さに、ティファはハッと息をのむ。
そうだ、自分はもう、一人で戦う孤独な少女ではない。
隣には何があろうと自分を支えてくれる、世界で一番頼もしい夫がいる。
ティファはそっと結婚指輪が鈍く光る左手を自分の下腹部へとあてる。
そこには、これからの未来を生きる、二つの小さな新しい命が確かに息づいている。
神羅の暴挙を止め、この子たちに美しい星の未来を残さなければならない。
お腹の子たちの存在を強く意識した瞬間、ティファの胸の奥から、冷えかけていた神羅に立ち向かうための活力が、これまで以上に力強く湧き上がってくるのを彼女は感じていた。
「ええ……そうね。私、負けないわ」
力強く微笑み返したティファの横顔を見て、ハメルは満足そうに頷き、彼女の腰を優しく引き寄せながらジュノン港の乗船場へと進む。
---
コスタ・デル・ソルへと向かうには、ここから定期客船に乗る航路となる。
乗船手続きの際にも、ハメルは一切の妥協をしなかった。
窓口でジョニーのチケットを提示するとともに、迷わず追加料金を支払い、客室をアップグレードさせる。
船旅で最も警戒すべきは波のうねりによる船体の揺れだが、ハメルは身重のティファの身体を最優先に考え、船体中央に位置して最も揺れが少ないとされる二人用の二等個室へと変更させていた。
乗船開始の合図とともに、二人は色鮮やかな夏服に身を包んだ大勢の観光客たちの賑やかな波に紛れ、客船へと続く緩やかなタラップを歩き始めた。周囲からはこれからのバカンスへの期待に満ちた楽しげな笑い声が聞こえてくる。
ハメルはティファが周囲の人とぶつからないよう、彼女の下腹部を労るように優しく背中に手を添え、ゆっくりと歩調を合わせて船内へとエスコートしていった。
船に一歩足を踏み入れると、そこはまるでホテルのような豪奢なエントランスが広がっていた。
二人がロビーに足を進めると、すぐに一人の船員スタッフがティファの身重な様子に気がつき、親切で洗練された笑みを浮かべてスマートに歩み寄ってきた。
「ようこそおいでくださいました。お客様、よろしければお部屋までお荷物をお持ちし、ご案内させていただきます。どうぞこちらへ」
スタッフの自然な労りと配慮に、ティファは嬉しそうに表情を和らげた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
スタッフのスマートな先導を受け、二人は絨毯が敷き詰められた静かな客室通路を進んでいく。
船体中央の、うねりの影響を一番受けにくい区画へと辿り着き、スタッフが手際よく鍵を開けてドアを広げてくれた。
ハメルとティファは、行き届いた細やかな心遣いを見せてくれた彼に改めて感謝を伝え、部屋へと足を踏み入れる。
「わあ……素敵なお部屋ね」
案内された二等個室に入り、ティファは嬉しくなって声を弾ませる。
室内はコンパクトながらも非常に細やかに行き届いており、綺麗に整えられたベッドが並び、壁には海を見渡せる真鍮フレームの丸窓が設えられている。
ティファはさっそくベッドの端に腰掛け、弾力を確かめるように軽く身体を預けた。
仕立ての良いリネンや清潔な洗面設備など、プライベートが完全に確保された空間の心地よさに、初めてのハネムーンらしい特別な高揚感が胸を満たしていく。
しばらくすると、船体に心地よいエンジンの振動が伝わり、深く重低音の汽笛が鳴り響いた。
巨大な客船が、ゆっくりとジュノン港を離れていく。
窓から差し込む本物の太陽の光が明るさを増していくのを見届け、ハメルはシートで一息ついているティファに優しく視線を向ける。
「ティファ、体調は大丈夫か? 揺れもほとんどなさそうだ。もし良ければ、外の空気を吸いにデッキへ行ってみないか?」
「ええ、喜んで。お部屋がすごく快適だから、ちっとも苦しくないわ。本物の海の風、早く近くで感じてみたいな」
ティファは楽しそうに微笑むと、ふっくらと丸みを帯びてきたお腹をそっと手でいたわりながら、ハメルが差し出してきた大きな手を嬉しそうに握りしめる。
二人は新婚旅行の幸せな空気をまとって仲睦まじい様子で寄り添い合いながら、青い楽園へと漕ぎ出した客船のデッキへと、胸を躍らせて足を運んでいった。