[u]-εγλ 0006年8月10日午後。
汽笛の音がコスタ・デル・ソルの青い空へと吸い込まれていく。
ジュノンからの穏やかな船旅を終え、定期客船のタラップを降りたハメルとティファの視界に飛び込んできたのは、目も眩むような黄金の太陽とどこまでも白い砂浜だった。
港からのびるプロムナードをそぞろ歩けば、エメラルドグリーンからコバルトブルーへと美しいグラデーションを描く透明な海が、どこまでも広がっている。
白い砂浜には色鮮やかなパラソルやビーチチェアが整然と立ち並び、南国特有のヤシの木が心地よい潮風に葉を揺らしていた。
スピーカーからは陽気なラテン調のリゾートBGMが流れ、波打ち際ではじける白い波飛沫が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
世界に名だたる極上のリゾート地だけあって、ビーチは多くの人々で賑わい、圧倒的な開放感に満ちていた。
周囲を見渡せば、若さ弾ける水着姿の若い男女が圧倒的な数を占め、ビーチバレーに興じたり笑い声を上げたりしている。
だが、賑わっているのは若者たちだけではなかった。
砂の城を作る子連れの家族や、穏やかに波と戯れる親子の姿も非常に多い。
さらにティファの目を引いたのは、大きくなったお腹を愛おしそうに撫でながら、夫の手を借りてゆったりと砂浜を散歩している妊婦の姿が、あちこちにちらほらと見受けられることだった。
周囲の人々も、彼女たちの健康的な妊婦体型をごく自然なものとして受け止めており、誰一人としておかしな目を向ける者はいない。
それを見たティファは、胸の奥のつかえが取れたようにホッと安堵の息を漏らした。
双子を授かり、日に日にふっくらと丸みを帯びていく自分の体型。華やかな南国のリゾートにこんな身重の身体で来たら、周囲から浮いてしまうのではないか――そんな密かな気後れは、その場の穏やかな光景を前に一瞬で消え去っていった。
と同時に、トランクの中に大切に仕まい込んできたリゾート向け衣装『グラマラスホエール』の、お腹をダイレクトに露出させるアクティブなスタイルも、このどこまでも自由で開放的な南国の空気のなかでは、あながち的外れな服装ではないはずだと深く安心することができた。
「ハメル、本当に素敵なところね。みんなすごく楽しそう」
「ああ、このどこまでも青い海と澄んだ空気なら、これまでの疲れも綺麗に吹き飛ぶはずだ。これから十日間、ここでゆっくりと身体を休めよう」
ハメルはそう言って微笑み、ふっくらと丸みを帯びてきたお腹のカーブを支えるティファの腰を労わるように支えて歩き出した。
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港に降り立った二人は、手始めに世界バーテンダー大会の招待状に記載されていた、公式のエントリー受付場所へと向かう。
大会の開催を三日後の八月十五日に控え、コスタ・デル・ソルの街全体が華やかな熱気に包まれるなか、二人が足を運んだのは、海岸線の一等地を占める最高級ラグジュアリーホテル『ロイヤルコースト』だった。
一歩足を踏み入れた瞬間、目の前に広がった光景にティファは思わず小さく息を呑んだ。
吹き抜けの広大なロビーは、大理石の床が鏡のように美しく磨き上げられ、南国の爽やかな風が通り抜ける開放的かつ洗練された空間が広がっている。
「……すごいわね。さすが世界大会の指定ホテルと言うべきかしら。なんだか圧倒されちゃう」
ティファが周囲の贅を尽くした調度品を見渡しながら呟くと、隣を歩くハメルがふっと口元を緩めた。
「怖気づく必要なんてないさ。ティファは世界中の名だたるバーテンダーと競い合うためにここへ来たんだ。このくらいの豪勢な空間こそ、これからの戦いの舞台にふさわしい」
「ふふ、そうね。ありがとう、ハメル。少し緊張がほぐれたわ」
ハメルの頼もしい言葉に微笑みを返したティファは、ゆっくりと深呼吸をして背筋を伸ばす。
ロビーの一角には、今大会の特設レセプションを兼ねたフロントが設けられていた。
そこでは、高級リゾートにふさわしい華やかで洗練された水着の上に、透き通るような美しいパレオを腰に巻いた女性スタッフたちが、プロの微笑みでゲストを迎え入れている。
「ようこそ、ロイヤルコーストへ。世界バーテンダー大会のエントリー受付ですね? 招待状を拝見いたします」
ティファが手渡された署名欄に淑やかに名前を記入すると、スタッフは一瞬だけティファの美しい顔立ちと、そのふっくらとしたお腹へと視線を落とし、何か言いたげな怪訝な表情を浮かべた。
身重の体でこれほど格式高い大会に挑む女性バーテンダーという存在が、よほど珍しかったのだろう。
だが、スタッフはすぐにプロフェッショナルな表情へと戻り、恭しく一冊の冊子と重厚な装飾の施されたコテージの鍵を差し出した。
「こちらが大会のルールや進行の詳細が記載された要項の冊子でございます。そしてこちらが、大会事務局がご用意させていただいた当ホテルの敷地内にある『ソル・コテージ』のルームキーとなります。大会当日までの三日間の宿泊費は大会側が全額負担いたしますが、それ以降も滞在を延長される場合は、お早めにこちらのフロントにお申し出ください。その分の費用は自費となりますのでご了承くださいね」
「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」
サマーリゾートの気品あふれるホスピタリティによる説明を受け終えた二人は、さっそく案内された、息をのむほど美しいロケーションの宿泊先コテージへと向かった。
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フロントでの手続きを終えた二人は、美しく整備されたホテルの敷地内を進み、宿泊先のコテージへと向かう。
大理石のロビーから続く上品な石畳の遊歩道の両脇には、青々としたヤシの木が並び、足元を照らす間接照明がラグジュアリーな旅情をかき立てていた。
ちょうど夕刻を迎え、コスタ・デル・ソルの空は燃えるような鮮やかな茜色に染まり始めている。
コテージの並ぶエリアからは名物の美しい白浜ビーチが一望でき、波打ち際が夕日に照らされてキラキラと輝く中、二人の影が石畳の上に長く伸びていた。
「わあ……綺麗……っ」
コテージの扉を開けた瞬間、ティファは歓声を上げた。
そこは海が一望できる開放的なウッドデッキが魅力的な、非常に清潔感のある一棟貸しのコテージだった。
窓を開ければ心地よい波の音が部屋の隅々にまで満ちていく。
「ねぇハメル、ここすごく気に入ったわ。滞在中の十日間、ずっとこのコテージで過ごせたら素敵じゃないかしら」
「ああ、そうだな。気に入ってくれて良かった。あとでフロントに寄って残りの七日分を延泊できるように手続きをしてこよう」
ハメルが頼もしく頷くと、ティファは嬉そうに微笑んだ。
移動用の荷物を室内に置き、二人はディナーに向けて着替えることにした。
ティファがトランクから取り出して身にまとったのは、南国の気候に合わせて用意してきたリゾート衣装『グラマラスホエール』である。
それは、シックな濃茶のストライプ柄の半袖シャツのフロントを胸の下でタイトに結び、快活な黒のデニムショートパンツを合わせた、スタイッシュなアクティブスタイルだ。
艶やかな黒髪は涼しげなマフィン状のお団子髪に美しくアップされ、サイドにあしらわれた白い大輪の南国風の花飾りが、彼女の端正な美貌を引き立てている。
だが、二人の愛の結晶を宿したその肉体は、衣装の軽快な印象を遥かに上回る圧倒的な艶めかしさを放ってしまう。
短く結ばれたシャツの裾からは、双子を抱えて優しく豊かな球面を描き始めたお腹のラインが堂々と露出しており、へそ出しスタイルによってその健康的な妊婦体型がより一層際立つ。
さらに、シャツの結び目の隙間からは、妊娠してサイズアップしたIカップ相当の輝く双丘が、白いインナーに押し上げられてあふれんばかりの深い渓谷を描き出している。
格闘家としての引き締まった四肢のシャープさと、生命の営みを育むふっくらとした肉体美とのコントラストは、見る者の本能を揺さぶる完璧な曲線美を描き出していた。
荷物を整理し終えた二人は、夕食を摂るためにふたたび遊歩道を通り、ホテルの本館にあるレストランへと向かう。
そのついでにフロントへと立ち寄り、ハメルはウォール・マーケットで得た潤沢な資金を使って、大会後の残り七日分の滞在延長手続きをその場ですべてスマートに精算してしまった。
手続きを終え、レストランのフロアへと足を踏み入れると、その瞬間に周囲の視線が一斉に二人へと集中する。
常夏の太陽に照らされたこの街には、水着姿や露出の多い格好をした魅力的な女性たちが数多く滞在している。
しかし、ティファが放つ圧倒的な美貌と眩いばかりのスタイル、お腹に双子を宿したことで醸し出される包容力に満ちた濃密な母性の色香の前に、誰もが目を奪われずにはいられなかった。
男たちは羨望と感嘆の混じった視線を送り、女性たちもその完璧なプロポーションに息を呑む。
ハメルはそんな有象無象の視線を冷徹な魔晄の瞳で一蹴し、ティファの腰を優しく抱き寄せて席へとエスコートした。
高級感の漂う落ち着いた南国のレストランで、二人きり――いや、お腹の中の双子たちも合わせれば、家族四人での初めてのくつろいだ美味しい食事。
運ばれてくる新鮮な海の幸や南国の料理の数々に、悪阻から完全に解放されたティファは心からの大満足を浮かべ、何度も頬を緩ませていた。
「本当に美味しかった。私、なんだか食べ過ぎちゃったかも」
「いいんだ。これからは三人分の栄養をしっかり摂らないといけないからな。ティファがいっぱい食べてる姿が見られるのが、俺には何より嬉しい」
食事を終えた後、二人はしっかりと手を繋ぎ、夜の白浜ビーチへと少し足を延ばした。
昼間の賑やかさが嘘のように静まり返った砂浜には、ただ優しく寄せては返す波の音だけが響いている。
夜空を見上げれば、満天の星々と大輪の満月が、冴え冴えとした柔らかな光を世界に投げかけていた。
その月光を浴びた白い砂は、まるで細かな宝石を敷き詰めたかのように白銀色にきらめき、散策する二人の足元を美しく照らし出す。
同時に、満月の清らかな光は、二人の左手薬指にあるお揃いの結婚指輪をも優しく浮かび上がらせていた。夜の静寂の中で、白金色のリングが二人の歩みに合わせてひときわ気高く、美しいきらめきを放っている。
「綺麗ね、ハメル……」
ティファはハメルの腕にそっと寄り添い、うっとりと夜の海を見つめた。
潮風がお団子髪からこぼれた黒髪の毛先を優しく揺らし、ハメルの鼻腔を彼女の甘い香りがくすぐる。
ハメルは繋いだ手にきゅっと力を込め、愛おしげに彼女の横顔を見つめ返した。
「ああ、本当に綺麗だ。でも、俺にとってはどんな絶景よりも、こうして隣で笑っているティファのほうがずっと美しいよ」
「もう、ハメルったら……。そんなこと、恥ずかしげもなくさらっと言うんだから」
ティファは頬を林檎のように真っ赤に染め、はにかむように俯いた。
その拍子に、南国風の花飾りが月光を受けて白くきらめく。
恥ずかしがりながらも、彼女はそっと愛おしそうに、自身のふっくらとしたお腹へと左手を当てた。
「でも、嬉しい。この子たちもきっと、お父さんとお母さんが仲良くお散歩してるのを、特等席で聞いて喜んでるわね」
「そうだな。この街にいる間も、これから先も、俺が必ず君とこの子たちを幸せにしてみせる。何があっても守り抜いてみせるよ」
ハメルが愛おしげに、彼女がお腹に当てた左手の上から、自身の掌をそっと重ね合わせる。
その瞬間、二つの結婚指輪が寄り添うように重なり合い、これから築いていく家族の未来を祝福するように、月夜の下で一際まばゆい光彩を放った。
ハメルの嘘偽りのない真っ直ぐな言葉に、ティファの紅い瞳が潤み、心からの深い幸福感で満たされていく。
彼女は重ねられたハメルの掌の温もりを感じながら、そっと目を閉じた。
静かな月夜の白浜ビーチで、二人は寄り添い合いながら、愛おしい家族の未来に想いを馳せていつまでも心地よい余韻に浸っていた。
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部屋に戻ると、移動と心地よい興奮による程よい疲労感が二人を包み込んでいた。
ハメルはティファを優しく促し、テラスに面したバスルームへと向かう。
そこに据えられていたのは、夜の白浜ビーチと満月を一望できる、大理石造りの広々としたジャグジー付きの浴槽だった。
湯船からは南国の花々を思わせる芳醇なバスソルトの香りが立ち上り、優しく波打つ温かなお湯がライトアップされて幻想的に揺らめいている。
「わあ……素敵。ハメル、一緒に入りましょう?」
ティファが愛おしげに微笑み、二人はリゾート衣装を脱ぎ捨てて、ゆっくりとお湯の中へと身体を沈めた。
心地よい湯の熱さが全身を包み込み、思わずティファの口から「はぁ……」と至福の吐息が漏れる。
ハメルは浴槽の縁に背を預け、自分の胸元にティファを引き寄せるようにして後ろから抱きしめた。
豊かなお湯の中で、ティファのしなやかな背中がハメルの逞しい胸板にぴったりと密着する。
「ああ……お湯の中って、なんて楽なのかしら……」
ティファはハメルの腕に身を委ねながら、うっとりと溜息をついた。
お湯の浮力を受けてふわりと豊かに浮き上がるバストの軽さに、ティファは思わず切なげな声を漏らす。
「普段、この重さのせいで本当に肩や背中が凝っちゃって……。お湯の中だと、その重荷から解放されるから本当に助かるわ……」
「そうか。少しでも楽になるなら良かった」
ハメルは愛おしげに囁くと、お湯に浸かっていない彼女の白い肩や首筋にそっと唇を寄せた。
湯気に濡れてしっとりと上気したティファの肌は、桃色に染まって驚くほど艶めかしい。ハメルは大きな掌をお湯の中に滑らせ、浮力で柔らかく揺れる彼女の豊かな胸の重みを下から支えるようにして、凝り固まった大胸筋や肩の付け根を優しく優しく揉みほぐしていく。
「ん……っ、ハメルの手……あったかい……」
愛する夫の指先から伝わる熱と、ジャグジーの細かな気泡の刺激が混ざり合い、ティファの口から熱い吐息がこぼれる。
ハメルはそのまま、まだ愛らしく少しだけ膨らみ始めた彼女のお腹へと手を移し、愛おしそうに円を描くように撫でた。ティファはそのハメルの大きな手に自分の手を重ね合わせ、幸福感に満ちた笑みを浮かべる。
「ふふ、お父さんに撫でてもらって、この子たちもきっと喜んでるわね」
湯気の中で重なり合う二人の肌と、お互いの鼓動。コスタ・デル・ソルの美しい月夜に見守られながら、二人は贅沢なジャグジーの中で、時間を忘れて甘く濃密なスキンシップを堪能した。
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十分に身体を温めて湯から上がった二人は、寝室へと移動する。ベッドに腰掛けたティファは、トランクから丁寧に取り出した愛用の保湿乳液のボトルをハメルへと手渡した。
「ハメル、マッサージの前にこれを塗ってくれないかしら。昼間にここへ移動してきたとき、南国の強い日差しを浴びたから、しっかり日焼けのケアをしておきたくて。お腹の皮が突っ張らないための保湿も兼ねてね」
「ああ、分かった。任せてくれ」
ハメルはボトルからひんやりとした瑞々しい乳液を手のひらに適量とり、両手を軽く擦り合わせてから、バスローブを割って露わになったティファのお腹へと、そっと両手を這わせた。
双子を身籠り、これからさらに大きく引き伸ばされていく繊細な皮膚を労り、日中の熱を帯びた肌を鎮めるように、ハメルは手のひら全体を使って入念に、そして至極優しく乳液を滑らせていく。
円を描くようにゆっくりと、下腹部からみぞおちの方へと手のひらを滑らせるたび、ティファの肌は心地よい清涼感とともに乳液を吸い込み、しっとりと吸い付くような潤いを帯びていった。
「ん……ふふ、ひんやりして気持ちいい。ありがとう、ハメル。そこから胸の周りや肩の方にも、伸ばしてもらえる?」
「ああ。昼間は日差しを遮るもののない街中を歩いたからな。首筋や肩もしっかりアフターケアをしておこう」
ハメルは再び乳液を手に取ると、サイズアップして重みを増した豊かな胸の輪郭をなぞるように優しく掌を滑らせ、そこからデコルテ、さらには直射日光を浴びてほんのり火照っている両肩へと、吸い付くような手つきで丁寧に乳液を馴染ませていく。
愛する夫の手によって紫外線によるダメージが優しく解きほぐされ、全身の肌が艶やかに潤っていく贅沢な時間に、ティファはうっとりと目を細めていた。
入念な日焼けケアを終え、肌がしっとりと整ったところで、ハメルは仕上げとばかりに手慣れた的確な手つきで本格的なマッサージを始めた。
まずは、バストの重量を四六時中支えて激しく凝り固まっている肩を中心にしっかりと揉みほぐしていく。
ハメルの力強い指圧に、ティファから「ん……っ、あ……」と心地よさそうな熱い吐息が漏れる。
続いてハメルは、前へと少しずつせり出し始めたお腹を支えて負担がかかっている腰のラインへと手を移し、手のひら全体で圧をかけるように優しく流していった。
「ハメルのマッサージ、本当に気持ちいい……身体がみるみる軽くなっていくみたい……」
上半書地の凝りがすっきりと解きほぐされると、ティファはベッドの上に仰向けに寝転んだ。
お腹を圧迫しない安全な体勢を見届け、ハメルは彼女の足元へとまわる。
急激な重量変化と、不慣れな砂浜での散歩による重さを受け止めていたふくらはぎを、下から上へと丁寧にマッサージしていった。
ティファはベッドに横たわって心地よい刺激に身を委ねながら、昼間に受付で渡された大会の冊子を両手で持ち、パラパラとめくりながら目を通し始めた。
ルールや制限時間、使用できるシェイカーの規定などを順に追っていく。
ビーチに面した開放的なカクテルバーが特設の競技ステージになるようだ
しかし、その冊子の中のドレスコード(服装規定)の項目に差し掛かった瞬間、ティファの動きがピタリと止まった。
「ええ……!? うそ、これ……どういうこと……っ?」
ティファは信じられないものを見たかのように、大きな瞳を丸くして驚きの声を上げた。
「どうした、ティファ」
ハメルがマッサージの手を止め、足元から上を覗き込む。
ティファが指し示したページに、はっきりと書かれていた要項の文面はこうだった。
【世界バーテンダー大会・服装規定:競技中のバーテンダーは、南国のリゾート感を演出するため、全員一律で『水着』の着用を必須とする】
【なお、本規定を遵守できない場合はペナルティとして、即座に大会の参加資格を剥奪するとともに、滞在費・交通費を含む大会が負担したすべての経費の全額返還請求を行うものとする】
「水着の着用が必須……? 守れなければ、失格と経費の返還請求って……」
ティファは顔を真っ赤に染め、パニックを起こしたように冊子を見つめていた。
昼間、エントリー受付の際に、水着姿の受付嬢がティファの名前とお腹の膨みを見て浮かべた、あの何とも言えない怪訝な表情の理由はこれだったのだ。
完全に肌を露わにしたビキニ姿のまま、大勢の観客や審査員たちの前でシェイカーを振るなど、お腹の大きな妊婦である自分にできるのだろうか。
ステージに立つ自身の姿を想像し、ティファは羞恥と困惑で胸を高鳴らせる。受付の人間も、そんなエントリーは想像すらしていかったのだろう。
ベッドの上で、ティファとハメルは静かに顔を見合わせた。
長旅を乗り越え、ようやく辿り着いた南国の楽園。
そこで二人を待ち受けていたのは、双子を身籠った身体で完全な「水着姿」での競技に挑まなければならないという、思わぬ試練の幕開けだった。
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[u]-εγλ 0006年8月13日。
ドレスコードの衝撃から一夜明けた翌朝。
ハメルとティファは、コテージからヤシの木の並ぶ遊歩道を通り、再びロイヤルコースト本館のロビーに設けられた大会特設フロントへと足を運んでいた。
ティファはふっくらと丸みを帯び始めた下腹部にそっと手を当て、困惑を隠せない様子で、洗練された水着にパレオをまとった女性スタッフに掛け合う。
「あの、申し訳ないのですが……私は今、妊娠五ヶ月目でして。お腹の子供たちの安全のためにも、競技中の水着の着用を免除、あるいはサマードレスなどの別の服装に変更させてはいただけないでしょうか?」
しかし、スタッフは申し訳なさそうな顔を浮かべつつも、事務的に首を横に振った。
「お気持ちは察しますが、それはできかねます。このドレスコードは老若男女、参加者全員に一律で適用される絶対のルールですので、妊婦様であっても例外は認められないことになっております。規約通り、遵守いただけない場合は失格、および経費の全額返還請求となります」
お腹の双子を理由にしても、世界的な酒造メーカーたちが協賛する大会の厳格な規則は覆らない。
フロントを離れた二人は、そのまま本館の朝食会場へと移動した。
白浜ビーチを一望できるテラスに面した華やかなレストランで、運ばれてきた新鮮な南国のフルーツや焼き立てのパンを前に、ハメルは紅茶のカップを置いて静かに声をかけた。
「ティファ、大会は棄権しよう。無理をしてまで、大勢の観客の前にその身を晒す必要はない。宿泊費や交通費の返還請求くらい、今の俺の経済力ならどうとでもなる」
ハメルの言葉はどこまでも優しく、頼もしかった。
だが、ティファはその提案にすぐには頷かなかった。
四年前にミッドガルへと辿り着いてからの数年間、ティファは常に重い借金に苦しめられ続けてきた。
最初はニブルヘイムで自分の代わりにセフィロスの刃を受け、死の淵を彷徨ったハメルを救うための莫大な手術代や入院費、そこで行われた過酷なリハビリのための治療費。
ようやくハメルが回復してからは、前店主であるモンティ老人から引き継いだセブンスヘブンの膨大な借金返済に奔走する日々が待っていた。
大切な夫の命を守るため、空間に縛られず、生きるために必死でお金と向き合い、泥水をすするような思いをしてきたからこそ、彼女には綺麗事ではない、現実的でシビアなマネーリテラシーが自然と身についていた。
決してお金に汚いわけではない。
ただ、命を繋ぎ、これから二人の子供を育てていくために、どれほどお金という現実が重く、真摯に向き合うべきものかを痛感しているのだ。
せっかくハメルが何でも屋やJSフィルターの事業で築いてくれた潤沢な資産を、自分の我が儘によるペナルティの支払いで無駄に削ることなど、彼女の理性が許さなかった。
「ううん、ハメル……ありがとう。でも、棄権はしないわ」
ティファはきゅっと唇を結び、覚悟を決めたようにハメルを見上げた。
「ここはミッドガルから遠く離れた南国の土地だもの。……旅の恥はかき捨て、よ。大会の一時だけだって割り切って、私は水着でステージに立つわ!」
最愛の妻の頑なな決意を見届け、ハメルは深く頷いた。
「分かった。ティファがそう決めたなら、俺は全力でサポートする」
そうなれば、まずは競技に耐えうる水着を探さなければならない。
二人は朝食を終えると、すぐさま街の高級水着ショップへと向かった。
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いざ水着ショップに着いて店内を見渡すと、ハメルとティファは別の問題に直面する。
Iカップ相当というティファの規格外の双丘を過不足なく包み込んでホールドできる水着など、既製品のラインナップの中にはほとんど存在しなかったのである。
双子を身籠っている妊娠五ヶ月目のティファの身体は、お腹の膨らみが通常の妊婦よりも格段に早い。
布地が繋がっているワンピースタイプでは、せり出したお腹が圧迫されて子供たちに負担がかかってしまう。
そのため、選択肢は必然的にセパレートのビキニタイプへと絞られる。
店内のビキニのハンガーを何十も根気強く確認し、生地の伸縮性やカップの深さを念入りにチェックしていく。
これならとお互いに納得のいく適合サイズをようやく見つけ出し、試着室で慎重に身にまとってみた――それが、スポーティでありながら肉体の曲線を限界まで強調する、白と淡いブルーグレーのコントラストが美しいセパレート水着『シャインフリッパー』だった。
この最新の技術を用いた伸縮素材で作られた水着を無事に入手し、ショップを後にした二人は、大きな安堵の溜息を漏らした。
「はあ……本当に見つかって良かったわ。一時はどうなることかと思ったけれど……ハメル、あんなにたくさんのハンガーの中から、私に合いそうなものを一生懸命探してくれて本当にありがとう」
ティファが愛おしげに微笑みながらハメルの腕に手を添えると、ハメルは彼女の少し火照った頬を優しく見つめ返した。
「ぴったりのが見つかって本当に良かったよ。次はお酒だな」
二人は心地よい達成感を分かち合いながら、続いて大会の形式に合わせた買い出しへと向かう。
ビアベース、ジンベース、ウォッカベース、ラムベース、ミルクベースの五系統を、一杯ごとに別々に審査していく大会独自のルールに対応するため、二人は地元の老舗酒問屋へと足を運んだ。
ハメルは鋭い審美眼で、現地の一流のアルコールとカクテルを引き立てる新鮮な素材を的確に選び抜き、両手いっぱいに抱えてコテージへと持ち帰った。
さっそくコテージのバーカウンターで練習を始めるティファだったが、そこで更なる決定的な問題にぶつかってしまう。
「はぁ……っ、く……っ」
シェイカーを手に取ったものの、当日にあの水着姿で、大勢の観客や審査員の前で妊婦の身体を晒してシェイクする自身の姿を想像した瞬間、猛烈な気恥ずかしさと羞恥心が彼女の全身を支配し、格闘家としての的確な身のこなしが完全に乱れてしまうのだ。
まともにシェイカーを振ることすらできず、ティファは顔を真っ赤に染め、カウンターに両手をついてしまう。
見かねたハメルが、背後から彼女の肩を優しく抱きすくめ、耳元で低く提案した。
「ティファ、明日の丸一日、その買った水着を着て、俺と一緒にビーチへ出よう。水着の感覚と、他人の視線に身体を慣れさせるんだ」
「えっ……でも、みんながいるビーチに、この格好で……?」
「大丈夫だ。大会の成績なんてどうでもいい。大事なのは、ティファが今の自分の技量を本番で全部出し切ることだ。後悔だけは残さないようにしよう」
ハメルの水色の魔晄の瞳に宿る絶対的な全肯定の光に、ティファの動揺していた心がすっと凪いでいく。
「……ええ。分かったわ、ハメル。あなたの言う通りにする」
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[u]-εγλ 0006年8月14日昼
ビーチへ出発する前、コテージの寝室で、ティファは『シャインフリッパー』を身にまとった状態でベッドの縁に腰掛けていた。ハメルは彼女の前に膝をつき、手のひらにとった日焼け止めのオイルをじっくりと温める。
「強い日差しだからな。昨日ケアしたばかりの肌を痛めないよう、しっかり塗っておこう」
「ええ、お願い。……なんだか、この格好でハメルの前に立つだけでも、まだ少し恥ずかしいわね」
ティファが頬を染めて微笑むなか、ハメルはまず、Iカップ相当にまで膨らんだ双丘を支える美しいデコルテや、直射日光を浴びやすい白い肩へと、滑らかにオイルを伸ばしていった。
ハメルの大きな掌が移動するたび、ティファの極上の白い肌は濡れたような艶やかな光沢を帯びていく。
続いてハメルは、トップスのクロスストラップの隙間から露出した、ふっくらと丸みを帯びた下腹部へと手を移す。
命を育む愛おしい球面を慈しむように、掌全体で優しく円を描くように撫でながら、均一にオイルを塗り込んでいく。
「ん……っ、ハメルの手、オイル越しでもすっごく気持ちいい……」
ティファの口から熱い吐息がこぼれ、お腹に意識を集中させるようにそっと目を閉じる。
ハメルはさらに、ボトムスのフリルから伸びる健康的でしなやかな太もも、そしてふくらはぎへと丁寧にオイルを馴染ませ、彼女の全身の肌を完璧な輝きで包み込んでいく。
入念なオイルケアを終え、二人は覚悟を決めてコテージの扉を開けた。
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真夏の太陽がさんさんと降り注ぐコスタ・デル・ソルのメインビーチは、一人の美しい妊婦の登場によって一瞬にして静まり返った。
『シャインフリッパー』を身にまとったティファは、ビーチに集まった有象無象の視線を文字通り独り占めにする。
その水着のデザインは、驚くほど洗練され、かつ肉体の官能的な造形を際立たせるものだった。
トップスは、白と淡いブルーグレーの柔らかなパネルで構成されたホルターネックタイプで、アンダーと細いストラップには気品ある紺色のラインが走っている。
カップの上部には質感豊かな白いフリルが愛らしくあしらわれていたが、双子妊娠によってIカップ相当へと爆発的に膨張したティファの双丘の質量は凄まじく、そのフリルを大きく前へと押し上げ、あふれ出そうな豊かな渓谷をこれ以上なく鮮烈に強調している。
さらにハメルを息を呑ませ、周囲の目を釘付けにしたのは、トップスのアンダーから伸びて引き締まったウエストへと交差して巻き付く、細い白いクロスストラップだった。
シャツの遮りが消えたその下では、双子を抱えて優しく、かつ明確な球面を描き始めた下腹部のカーブが堂々と露出しており、そのお腹の丸みをクロスする紐がなぞるように締め付けることで、生命を育む瑞々しい妊婦体型がより一層際立つ。
ボトムスは、ウエスト部分に紺色の切り替えラインが入った、ひらひらと波打つ白いミニスカート風のフリルスタイルで、健康的な太もものラインを惜しげもなく覗かせている。
艶やかな黒髪は涼しげな高めのアップスタイルにまとめられ、サイドにセットされた南国風の美しい大輪の白い花飾りが、彼女の端正な美貌を引き立てている。
足元には白と紺のフリルがあしらわれた厚底のサンダルを合わせ、格闘家としてのしなやかさを残した四肢のシャープさと、生命の営みを育む豊満な肉体美とのコントラストは、完璧な曲線美を描き出していた。
あまりの美しさと、生命の営みをこれ以上なく雄弁に物語る官能的な肉体美に、周囲の男たちは生唾を払い、釘付けになっていた。ビーチのあちこちから、ナンパ小僧たちの抑えきれない垂涎の声が漏れ聞こえてくる。
「おい、嘘だろ……あんな完璧なスタイル、見たことねえぞ……!」
「ビキニのフリルが破けそうなくらいデカい……。しかも、あのお腹……妊婦さんなのか!? 嘘だろ、エロすぎる……っ」
「おい見ろよ、あのウエストの紐、お腹のラインを強調しててヤバいって……! 声かけてみようぜ!」
だが、鼻息を荒くして一歩踏出そうとしたナンパ小僧たちの動きが、一瞬でピキリと凍りついた。
ティファのすぐ隣を歩くハメルの姿を、その目に捉えたからだ。
180cmの身長に、余分な脂肪を一切削ぎ落とし、鋼のような密度で引き締められたバキバキの腹筋。
そして何より、その強靭な胸と背に深く刻まれた、幾多の死線を潜り抜けてきたことを物語る凄まじい刺し傷の痕跡。それが、雄としての圧倒的な戦闘力の違いを無言で証明していた。
「……待て、やめとけ! 隣の男を見ろよ、あの胸の傷、ただ事じゃねえぞ……」
「おいおい、何だあのバキバキの身体……。目が合っただけで殺されそうな威圧感なんだけど……」
「やっぱあの腹の中の子供はあいつのだよな。くぅー羨ましいぜー。見せびらかしやがって」
男たちはみな、ハメルの放つ絶対的な強者のオーラに完全に気圧され、遠巻きに指を咥えて眺めることしかできない。
ティファのその大きなお腹は、ある意味では「この至高の女性は、すでに俺の番であり、俺の種を宿している」という、ハメルによる究極の独占の主張その物だったからだ。
奪いたくても絶対に奪いようのない生物学的な現実が、そこには厳然と横たわっていた。
一方で、ビーチにいる水着姿の女性たちからは、ハメルの完璧な強者の肉体とただ者ではない雰囲気に、ため息混じりの熱い視線が一斉に注がれていた。
「ちょっと見なよあの人、モデルみたいに背が高くてスタイル抜群……! 筋肉のつき方がヤバすぎる……っ」
「胸の大きな傷跡、すっごくワイルドでゾクゾクしちゃう……。どんな修羅場をくぐってきたのかしら」
「あんなに格好いい人にエスコートされて、お腹の赤ちゃんごと大事に守られてるなんて……あの奥さん、羨ましすぎて嫉妬しちゃうわね」
女性たちはハメルの圧倒的な男性的魅力に完全に目を奪われ、そんな彼の隣で愛されているティファに激しいベクトルを伴う嫉妬の炎を燃やしながら、彼女の膨らんだ下腹部を羨ましげに見つめていた。
ビーチ中の視線が自分たち二人に突き刺さる中、ティファは深く息を吸い込み、これも明日の大会に向けた「精神の修行」なのだと自分に言い聞かせた。
ハメルの歩調に合わせ、出来るだけ堂々と胸を張って振る舞おうと必死に足を前に進める。
ハメルとしっかりと手を繋ぎながら白い砂浜を歩き、波打ち際で足だけを海に浸しながら、悪戯っぽく笑って水を掛け合う。
それからビーチパラソルを借りて日陰に落ち着くと、二人で冷たいトロピカルジュースを並んで飲み、昼時には海の家へと足を運んで賑やかなリゾートランチを堪能した。
そうして一通りのバカンスを満喫していくうちに、ティファの心境には不思議な変化が訪れていた。
ハメルの言った通り、最初はあれほど恐怖だった周囲からの視線が、時間が経つにつれて徐々にどうでもよくなっていったのだ。
それどころか、最愛の夫にエスコートされながら、この常夏の楽園でのビーチデートを心の底から思いっきり満喫してしまっている自分自身に気がついた。
パラソルの下、心地よい潮風に吹かれながら、ティファはハメルの逞しい腕にそっと身体を寄せ、潤んだ瞳で彼を見上げた。
「ハメル……ありがとう。私、もう怖くないわ」
愛おしさが限界まで決壊し、ティファはハメルの首に腕を絡めると、その薄い唇に自ら深く、熱い口づけを捧げた。
当然、その濃厚なキスもビーチ中の人々から凝視されていたが、今のティファにはそんな周囲の目は全く気にならなかった。
ただ激しく波打つ海の音だけが遠くに聞こえる中、パラソルの下には、お腹の中の双子たちを含めた、家族だけのどこまでも甘く濃密な時間だけが、熱を帯びて静かに流れていた。
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[u]-εγλ 0006年8月14日夜。
常夏の強烈な太陽が水平線の彼方へと沈み、コスタ・デル・ソルの海辺には紫色の穏やかな夜の帳が降りようとしている。
ハネムーンとして訪れたこの街の高級コテージの室内で、ハメルとティファの二人は、昼間の喧騒から離れた贅沢で穏やかな時間を過ごしていた。
しかし、ここまでハプニング続きだった世界バーテンダー大会への行程の中で、最大の難題がこのタイミングで二人の前に立ち塞がることとなる。
夕暮れ時の砂浜デートを終えて部屋に戻り、先にシャワーを浴び終えたティファが、脱衣所の扉から所在なさげに小さく顔を覗かせた。
薄手のサマードレスに着替えた彼女は、なぜか両手で自身の豊かな胸元を隠すようにきゅっと押さえ、頬を林檎のように真っ赤に染めている。
「ハメル、ちょっと……こっち来て、手伝ってほしいことがあって……」
困惑と、言葉にできない気恥づかしさが入り混じった、かすかに震える声。
ハメルがベッドサイドから歩み寄ると、ティファは意を決したように、胸元を押さえていた手を退け、ドレスのフロントを少しだけ緩めて見せた。
「あのね……さっきから、なんだか胸のあたりがチクチクするなと思って……。それで、見てみたら……その、まだ五ヶ月なのに、母乳……なのかな、止まらなくなっちゃって……」
見れば、ミッドガルに来てからさらに成長し、ハメルの手によって愛され、双子を授かったことで一層の質量を増した豊満な双丘の先端から、透明な初乳の雫がぽたぽたと音を立てて零れ落ちていた。
瑞々しい白い肌を伝い、サマードレスの柔らかな生地にじんわりと丸い染みを作っていく。
今日一日、あの露出度の高い水着姿で大勢の視線に晒され、格闘家としての本能的な緊張と羞恥のただ中にいたこと。
そして何より、そんな開放的な空間でハメルに絶対的な独占欲のオーラで守られ、出かける前にはその大きな手で入念にオイルを塗り込まれた――その精神的な最高潮の愛着と、胸やお腹への心地よい物理的刺激の相乗効果が、ティファの肉体のスイッチを劇的に押し上げてしまっていたのだ。
双子妊娠によってただでさえ高まっていた女性ホルモンのバランスが、最愛の夫に心身ともに満たされたことで一気に加速し、母乳の増産を促すプロラクチンの分泌が、通常よりも遥かに早い段階で引き起こされてしまったのである。
初めて経験する身体の異変に、ティファは大きな瞳を潤ませて完全に狼狽していた。
「まだ生まれるまで何ヶ月もあるのに、こんなに早く出てきちゃうなんておかしいのかな……? 下着もドレスも、すぐに濡れちゃって……」
ハメルは取り乱す彼女の華奢な肩を優しく抱き寄せ、その滑らかな背中を大きな手のひらでゆっくりと撫でて落ち着かせた。
前世の記憶だけでなく、大切なパートナーの肉体のためにあらかじめ深く仕入れておいた、生物学的な医学知識がハメルの脳内から即座に引き出される。
「心配ない、ティファ。妊娠中に母乳の準備が始まるのは、ごく自然な生理現象だ。特にティファは、それだけ母親になるための身体の機能が優秀で、人より早く二人の子供を育てる準備が進んでいるってことだ」
「優秀、って……」
ハメルの淡々としつつも、一点の曇りもなく全肯定してくれる声音に、ティファは少しだけ安心したように張り詰めていた息を吐いた。
だが、胸元から絶え間なく溢れ出る熱い雫のむずがゆい感覚に、やはり困ったような表情を浮かべる。
「でも、どうしよう。放っておいたら、本当に床まで濡れちゃう……っ」
「待ってろ。強く絞ると子宮に刺激がいってしまうから、絶対に自分で触っちゃダメだ。……こういうときのために、いつも持ち歩いている救急キットがある」
ハメルは自身の荷物の中から、普段から肌身離さず携行している簡易救急キットを取り出した。
そこから傷の手当てに用いるための、清潔に滅菌されたガーゼを取り出す。
ベッドの端にティファを優しく腰掛けさせると、ハメルは彼女の前に片膝をつき、サマードレスのフロントを丁寧に肌から割った。
夕闇が迫る部屋の中、ハメルの真剣な視線が、自身の行為によって膨らみ、今や二つの生命を育む至高の器官へと変貌しつつある完璧なプロポーションへと注がれる。
ティファはその熱い視線を受け、ただの気恥ずかしさとは違う、身体の奥底がじわりと疼くような甘い感覚を覚えて小さく身震いした。
「ハメル……ううん、自分でやるよ?」
「いい。俺にやらせてくれ。大切な俺たちの子供を育てるための、ティファの身体だ」
ハメルはぬるま湯で濡らしたガーゼを使い、ティファの胸の先端で固まりかけていた分泌物を、壊れ物を扱うかのように優しく、丁寧に拭い取っていく。
男らしくも繊細な指先が触れるたびに、ティファの口元から「ん……っ」と掠れた艶声が漏れ、格闘家としての引き締まった細い腰がビクンと小さく跳ねた。
綺麗に拭き終えると、ハメルはドレスが汚れないよう、ブラジャーの内側へ予備の清潔な厚手ガーゼをスマートにあてがって保護した。
「これで大丈夫だ。濡れたらすぐに俺が替えてやる」
「ありがとう、ハメル。なんだか……すごく恥ずかしいところ、見せちゃったね……」
ティファはドレスの胸元を整えながら、すっかりおねだりするような潤んだ顔になり、ハメルの首に両腕を絡ませた。
ハメルはそのしなやかな身体をベッドへと優しく押し倒し、世界中のどんな存在よりも愛おしいその唇に、深く、熱い口づけを落とした。
「恥ずかしがる必要はない。……むしろ、さっきよりずっと綺麗だ」
「もう……ハメルったら」
呆れるような声を出しながらも、ティファの顔には幸せな笑みが浮かんでいた。
夜の帳のなか、二人の間にはどこまでも甘やかな時間が流れていった。
だが、ティファは元来、体質的に乳腺が非常に発達しやすく、母乳を作るホルモンへの感度が人一倍強いタイプだった。
Iカップの双乳がミルクで満たされてしまうタイミングは、意外と早く訪れてしまう。
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夜中。
その優秀すぎる生命のタンクは、持ち主であるティファの意に反して、深夜の静寂のなかでさらに母乳を増産し始めていた。
「ハメル……お願い、どうしても我慢できなくて。少しだけでいいから、楽にさせて……っ」
ベッドの上で、ティファは涙目で懇願した。
妊娠五ヶ月目に入り、167cmのしなやかな肢体に宿った驚異的なスリーサイズの双丘は、激しい乳腺の発達によってミチミチと内側から張り裂けそうなほどに膨らみ、恐ろしいほどの熱を持っていた。
透明な初乳が溢れ出てあてがっていたガーゼを完全に濡らしており、それでは全く追いつかないほどに胸が内側から張って痛いのだという。
ハメルはベッドの上に横たわる彼女の前に跪いたものの、厳しい表情で首を振った。
「ダメだ。無理に手で搾り出すと、乳首への刺激で子宮を収縮させるホルモンが分泌されてお腹が張ってしまう。ティファと、お腹の子供たちの安全が第一だ」
「それは分かってる。分かってるんだけど……本当に痛くて、破裂しそうなの……っ」
胸の尋常ではない重みと痛みに耐えかねて、シーツをぎゅっと握りしめるティファの痛々しい姿に、ハメルは深く眉根を寄せた。
どうにかして彼女の身体を楽にしてやりたい。
猛烈なスピードで思考を巡らせたハメルの脳裏に、ミッドガルを発つ際、バレットが「旅先じゃ何があるか分からねえからな、御守りに持っていきな」と手渡してきた、あの青く輝く結晶が思い浮かんだ。
ハメルは急いで、ベッド脇に置いてあったバングルを自分の腕に装備した。
そのバングルのマテリア穴には、紫に輝く結晶――独立マテリア『かばう』が装着されている。
「ティファ、これを試す。バレットにもらったマテリアだ。戦闘中のダメージを身代わりにする効果があるなら、搾乳時にティファの身体が受ける『反動の刺激』も、俺の肉体で肩代わりできるはずだ」
「ええっ……? でも、それは戦うためのものじゃ……」
困惑するティファをよそに、ハメルは自身の腕輪の穴に装着されている『かばう』のマテリアを発動。
かすかに紫の光がハメルの身体を包み込み、ティファとの間に不可視の魔力のラインが結ばれる。
さらにハメルは、そのまま手で絞り出すと、勢いよく溢れ出た初乳でコテージのシーツや床を汚してしまうことに気がついた。ハメルはティファのドレスの胸元を優しく開き、溢れんばかりに実った白い肌に直接口を付ける姿勢をとった。
「ハメル……っ?」
「そのまま絞ると部屋が汚れる。俺が直接吸い出す。ティファ、力を抜け」
驚きに目を見開いたティファだったが、ハメルの真剣な眼差しを受け、これが将来生まれてくる二人の子供たちのための授乳の練習なのだと心の中で割り切った。
恥ずかしさに身をすくませながらも、ティファはそっとハメルの頭に手を添え、愛する夫に自身の両の乳房を全面的に預けた。
ハメルはまず、特に張りが強かった片方の胸へとゆっくりと唇を寄せ、初乳を吸い出し始めた。
初めて経験する乳首への刺激によって、本来なら同時に子宮へと響くはずの、キュッとお腹が収縮するような特有の生理的反動が、彼女の身体には一切訪れなかった。
代わりに、ハメルのパンツの中――その猛々しい男性としての芯へと、ズキンと熱く突き刺さるような、妊婦特有の生々しくも甘い収縮の衝撃が、マテリアで生み出された魔力のラインを伝って、ダイレクトに転送された。
「――くっ……!」
ハメルは一瞬、息を詰めて低く喉を鳴らした。
大切な女の胎内から流れ込んできたのは、命を産み出す本能を激しく揺るがすような、あまりにも濃密で甘美な刺激だった。
その容赦のない熱量を受け止めたハメルの逸物は、自身の意志とは無関係に、一瞬にして恐ろしいほどの硬さへと膨らみ狂っていく。
「ハメル!? 大丈夫……っ?」
「くっ......気にするな。マテリアは完全に機能している。ティファ、今のうちに吸うぞ」
ハメルは額に微かな汗をにじませ、下半身を貫く熱い疼きを耐え忍びながら、まずはその片方の胸を丁寧に吸い、張りを与えていた乳腺をほぐしていった。
初めての行為に、最初は吸うハメルも吸われるティファもどこかぎこちなかったが、吸い進めるうちに、まずはその片方の胸の痛みがだいぶ楽になっていくのをティファははっきりと実感した。
「あっ……すごい、こっち側、本当に痛みが引いていく……」
「よし、ついで、もう片方だ」
ハメルが顔を上げ、今度はまだ張ったままのもう一過の胸へとゆっくりと唇を近づける。
二回目ともなると不思議なものでお換いに若干の慣れが生じていた。
ハメルの唇が優しく自分の先端を包み込む感触に、ティファは気恥ずかしさの中にも、どこか心温まる愛おしさを覚え、ふっと表情を和らげる。
「くすっ……ハメル、なんだか赤ちゃんみたい……」
胸元からハメルの頭を見下ろし、小さく微笑むティファ。その愛らしい囁きに応えるように、ハメルは少しだけ吸い付きを強くし、滑らかに喉を鳴らして残る熱量を吸い上げていった。
ハメルの口内に広がる初乳は、まだ成熟した母乳ではないため甘さはなく、どこか鉄分が多めの独特な風味がした。
それでも、ハメルにとっては愛する妻が我が子を育てるために紡ぎ出した、愛おしい命の雫そのものだった。
ティファのお腹は柔らかく安全なままで、両方の胸の痛みはみるみるうちに綺麗に引いていった。
「あ……本当に、完全に痛みがなくなっちゃった。でも、ハメルのほうが……」
すべての張りが解消された快感にホッと息をついたティファだったが、ふと、自分に触れるハメルの手が微かに震え、彼の呼吸が酷く荒くなっていることに気がついた。
視線を下に落とせば、ハメルのパンツの前が、隠しきれないほどの圧倒的な質量で張り詰めている。
彼が自分の代わりに、どれほど生々しく甘い刺激をその身に受けてくれたのか。
それを察した瞬間、ティファの白い肌は全身が淡い桜色に染まっていった。
胸の張りが取れた解放感と、最愛の男が自分を身代わりにしてこれほどまでに昂らせているという事実が、彼女の身体の奥底に眠る雌としての熱をじわじわと呼び覚ましていく。
すべてを吸い終え、完璧な形を取り戻した胸元をハメルが救急キットのガーゼで優しく拭う頃には、ティファはすっかり蕩けたような潤んだ瞳になり、ハメルの首に腕を絡めていた。
「ハメル、ありがとう。バレットのお守り、本当に役に立ってくれたね……」
「ああ、バレットには帰ったら礼を言っておく」
ハメルは低く掠れた声で応じながら、限界まで硬く熱を持った自身の逸物を、ティファのしなやかな太ももへと押し当てた。
衣服越しでも伝わるその規格外の熱量に、ティファは小さく息を呑み、愛おしそうに身体を擦り寄せる。
「ふふ、でも……ハメル、まだそこがすごく熱いんでしょ? 安定期に入ってるから、無理をしなければ大丈夫ってミッドガルの先生も言ってたし……。だから、我慢しないで……? 私に、ハメルの熱……分けてほしいな」
大人になり、さらに母親としての圧倒的な色香を宿し始めたティファからの、甘く濃密なおねだり。
妊娠が発覚して以来、お腹の子供たちの安全を最優先にするため、二人はお互いへの燃え上がるような情動をずっと心の奥底に抑え込み、ただ肌を寄せ合うだけの純潔な夜を重ねてきた。
それは大切な命を守るための、愛に満ちた我慢の月日だった。
しかし、ついに迎えた安定期という確かな安心。
そして今、マテリアを通じてハメルが引き受けてくれた生々しい反動の熱が、二人が待ち望んでいた禁欲の枷を優しく、しかし決定的に解き放っていく。
「……本当に、いいんだな」
ハメルは飢えた獣のような視線でティファを見つめ、彼女の細い腰を力強く引き寄せた。
「ええ。ずっと待たせて、我慢させちゃってごめんね……ハメル。家族で一つになろう……っ」
二人の想いが完全に決壊し、ハメルは彼女のしなやかな身体をベッドへと深く押し倒した。
衣服をすべて脱ぎ捨て、ついに直接触れ合うことができた互いの素肌は、驚くほどに熱く、渇望に震えている。
ハメルはふっくらと丸みを帯びたティファの愛おしいお腹を手のひらで庇うように労りながら、いつも以上に優しく、それでいて限界まで膨らみきった衝動を込めて、彼女のすべてを味わい尽くすかのように深く、深く身を沈めていった。
コスタ・デル・ソルの穏やかな波音に包まれながら、二人のハネムーンの夜は、解禁された喜びと、これまでで最も濃厚な愛を確かめ合う、特別なスキンシップの熱の中へとどこまでも深く沈んでいくのだった。