※この作品はR-18です。

FF7ntR   作:夜叉五郎

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新しい家族編
第二十一章:ティファの初産


[μ]-εγλ 0007年1月1日。

 

魔晄都市ミッドガルのアンダープレートの一角に広がる七番街スラムには、新年を祝う独特の熱気が満ちていた。

その熱気の中心にあるのが、今や世界各地の旅人たちの間で一種のスポットと化している酒場『セブンスヘブン』である。

 

若きオーナー兼女店主のティファ・ロックハートは妊娠中であり、ついに10ヶ月目の「臨月」を迎えていた。

出産予定日である1月24日まで、あとわずか3週間ちょっと。

 

彼女の下腹部はパンパンに丸く、ずっしりとした巨大な質量となって前方へせり出していた。

格闘家としての柔軟で強靭な肉体が、その膨らんだお腹をしっかり支えている。

そして、その胎内にて、二つの新しい生命が力強く拍動していた。

 

妊婦としての体調を鑑みて、ティファがバーテンダーとして店に立つのは、この新年の夜間営業の三が日までと決めていた。

そして、この三が日を過ぎれば彼女が出産と育児のために長期休業に入り、これが当面の「働き納め」になるという噂は、瞬く間にスラム中に、そして遠方からの客たちにも届いていた。

 

新年初日の開店時刻を迎えると同時に、店にはあふれんばかりの客が怒涛のように押し寄せ、瞬く間に超満員となる。

カウンターの奥に立つティファの装いは、衣装担当のジェシーが「冷えは妊婦の大敵だからね!」と腕によりをかけて仕立ててくれた、防寒用の縦リブ編みマタニティニットウェアだった。

体を優しく包む伸縮性に優れた上質なニット生地。

だが、それは同時に、衣服としての遮蔽機能を放棄したかのように、ティファの限界を突破した肉体の凹凸を生々しく強調していた。

 

はち切れんばかりに突き出した臨月のお腹。

あるいは、ハメルによる毎朝の濃密な搾乳習慣によって乳腺が極限まで活性化し、信じられないほどの重量感で突き出されるメートル超えの「Kカップ爆乳」。

厚みのあるニットの編み目が内側から強烈に押し広げられ、ティファが呼吸をするたびに、圧倒的な豊潤さを誇るその果実が揺れ動き、男たちの視線を釘付けにしていた。

 

 

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しかし、押し寄せた客たち――とりわけ日頃から店を愛しているスラムの常連客たちは、ただティファの煽情的な姿に目を奪われるだけではなかった。

身重の彼女に少しでも負担をかけまいという常連客たちの気遣いから、店内では「ティファの手間がかかるカクテル注文は控えよう」という無言の了解が出来上がっていたのだ。

 

「おーい、こっちは瓶ビール3本頼むぜ!」

 

「こっちはサーバーのエールをひとつ! ティファちゃんは座っててくれな!」

 

常連たちが注文するのは、ティファが重いシェイカーを振り回す必要のない瓶ビールや、タップから注ぐだけのエールばかり。

そして、その大量の注文を横から引き取ったハメルが、一切の無駄がない洗練された手捌きで次々とグラスを注ぎ、瓶の栓を抜き、あっという間にフロアへと捌いていく。

 

「ふふ……みんな、本当に優しいんだから。ありがとうね」

 

ハメルが隣でスマートに仕事を片付けていく横で、ティファはカウンター奥のクッションが利いたスツールに腰掛け、愛おしそうに臨月のお腹を撫でながら、心からの感謝を込めて客たちへ極上の笑顔を向けていた。

 

やがて杯を重ね、満足そうに席を立つ常連客たちは、扉へ向かう前に必ずカウンターのティファへと温かい視線を送る。

 

「ごちそうさん! ティファちゃん、元気な子が産まれるといいな!」

 

「ハメルと力を合わせて、無事に安産で乗り切れよ!」

 

口々に温かな声掛けをして去っていく常連客たちの背中を見送りながら、ティファは紅い瞳を和らげ、お腹に手を添えて力強く頷いた。

 

「ええ、ありがとう! 元気な赤ちゃんを産んで、またここでみんなを迎えるからね!」

 

店内に満ちる温かな祝福の言葉と、夫であるハメルの頼もしい存在感に包まれながら、ティファの最後の営業日は優しく、そして賑やかに更けていくのだった。

 

---

 

それでも、遠くジュノンやコレル、遙か海の向こうのウータイから噂を聞きつけてやってきた旅人たちの多くは、どうしてもあの伝説の味を諦めきれずにいた。

 

「おいおい、噂の『ティファズミルク』はメニューにないのかよ!?」

 

「頼む、一杯だけでいいんだ! あのカクテルを飲むために遠路はるばるミッドガルまで来たんだからさ!」

 

店内から湧き上がる熱烈なリクエストに、ティファは紅い瞳をふわりと和らげ、クッションの利いたスツールに深く腰掛けたまま優しく微笑んだ。

 

「ふふ、遠くから来てくれたんだものね。大丈夫、今作るわね」

 

重いシェイカーを激しく振るような無理はせず、ハメルが手際よく用意した冷えたグラスとミルク、リキュールを使い、ティファは慣れた手つきで静かにバースプーンを滑らせてステア(かき混ぜ)していく。

 

「お待たせいたしました。『ティファズミルク』です」

 

臨月のお腹を優しく庇うようにして、ティファの白い手から差し出された透明なグラス。

 

そこへと注がれた白い液体を目にした瞬間、客たちの喉が「ゴクリ」と大きく鳴った。

 

目の前に立つティファの胸元は、すでに衣服の領域を完全に逸脱している。

ハメルによる毎朝の濃密な搾乳によって限界まで開発され、極限まで膨れ上がったトップ100センチ越えのメートル級爆乳。

縦リブ編みのニットを破らんばかりに押し上げ、はち切れそうな弾力を主張するその双丘は、どこからどう見ても溢れ出す極上の母乳を限界まで溜め込んでいる肉体に他ならなかった。

 

 

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いま自分たちの目の前で、この甘く熟し切った母性そのもののような女性の手から「ミルク」が差し出されたという事実。

 

その強烈すぎる視覚的インパクトと甘美な暗喩は、男たちの脳髄を激しく麻痺させていく。

 

(あ、ダメだ……これ、完全に『本物』が混ざってるようにしか見えねえ……っ)

 

(この巨大な胸から搾りたての乳を、そのままグラスに注がれたんじゃないのか……!?)

 

旅人たちはもはや正気ではいられなかった。

熱い吐息を漏らし、震える手でグラスを掴むと、吸い付くようにフチへと唇を寄せる。

 

喉を通り抜けるのは、本来ならごく普通の市販の牛乳とリキュールを混ぜ合わせたカクテルに過ぎない。

しかし、目の前で呼吸に合わせて小刻みに揺れ動くティファの圧倒的な爆乳と、包み込むような温かい微笑みを網膜に焼き付けながら飲み干すその味わいは、彼らの錯覚を極限まで増幅させた。

 

口内に広がるのは、まろやかで、濃密で、どこか懐かしく脳を狂わせる「ママの味」。

 

「う……うまい……っ! 染み渡る……っ!!」

 

「はあぁ……っ、ティファちゃんの温もりを感じる……っ! 生きてて良かった……!!」

 

男たちはうっとりと目を血走らせ、まるでティファの豊満な胸元に顔を埋めて直接おっぱいを貪り吸っているかのような狂おしい錯覚に陥りながら、夢中でグラスを傾け、一滴残らず有り難がって喉へと流し込んでいった。

 

フロアの壁際に佇み、スマートな黒いベストを纏って静かに店内を見つめる「黒服」のハメル。

 

彼はティファの持つ圧倒的な魅力が店の大繁盛を支える最高の客寄せであることを深く理解していた。

そのため、男たちのいやらしい視線は対価として冷ややかに放置しつつ、黒服としての鋭い視線で実害だけを未然に完璧に遮断する。

臨月の妻の体に爪の先ほどのリスクも与えないよう、影から完璧な統制を維持していた。

 

「もう、ハメルったら……。お仕事中だからって、そんなに怖い顔をしなくても大丈夫よ?」

 

カウンターの奥から、ティファが夫の絶対的な過保護さに胸の奥を熱くさせながら、紅い瞳を細めて微笑みかけてくる。

ハメルは深い水色の魔晄の瞳をわずかに和らげ、静かに頷いてみせた。

 

---

 

[μ]-εγλ 0007年1月2日。

 

新年二日目の夜間営業も満員御礼だ。

 

その熱気と鉄の規律が同居する店内に、カランとドアベルを鳴らして、一人の男が入ってきた。

少し油の匂いが染みついた、神羅軍の下級整備兵の制服。

その男は、懐かしいスラムの酒場の扉をくぐった瞬間、カウンターの奥とフロアの壁際に立つ二人の姿を見て、信じられないものを見るように目を見開いた。

 

「……ハメル? ティファ、なのか……!?」

 

その声に、ハメルの水色の魔晄の瞳がわずかに細まり、ティファがハッと紅い瞳を向けた。

 

「え……? レスター……っ!?」

 

それは、8年前にニブルヘイムの村を出て都会へと旅立った、かつての幼馴染の一人――レスターだった。

 

「お前ら、生きて……生きてたんだな……っ!」

 

レスターは感極まったように声を震わせ、カウンターへと駆け寄る。

しかし、至近距離でティファの姿を正面から見据えた瞬間、彼は言葉を失って激しい衝撃に打たれた。

 

防寒用のリブニットウェアをこれでもかと押し広げ、圧倒的な質量で突き出しているティファの大きなお腹。

そして、かつての少女の面影を置き去りにするほど豊満に実りきった、メートル超えのKカップ爆乳。

そのあまりにも豊満で瑞々しい妊婦としての姿は、レスターの思考を真っ白にさせた。

 

「ティファ、そのお腹……。噂は、本当だったんだな……」

 

レスターはぽつりと呟き、溢れそうになる涙を必死に堪えるように目元を拭った。

 

4年前、レスターたち神羅軍に就職した幼馴染のもとに、「ニブルヘイムが火炎系モンスターの群れに襲われ、村ごと完全に焼失した」という絶望的な報せが届いていた。

故郷の家族の命を神羅の隠蔽情報によって奪われ、天涯孤独の身となったレスターは、それ以来、深い苦しみと孤独を抱えながら神羅の一般兵としてミッドガルで泥をすするように生きてきたのだ。

 

それがつい日前、神羅の上司に連れられてプレートの七番街にある高級バーへ行った際、信じられない噂を耳にした。

下層スラムの酒場にいる妊婦の女バーテンダーが、神羅上層部御用達の超一流バーテンダーをコンペティションで叩き潰したという噂。

その奇跡の一杯の名が『ティファズミルク』だと聞いた時、レスターは居ても立ってもいられず、この地下世界へと降りてきたのだった。

 

幼馴染との、あまりにも劇的な再会。

レスターは差し出された丸椅子に腰掛け、ハメルが静かに差し出した酒を煽ると、堰を切ったようにとつとつと近況を語り始めた。

 

「……村があんなことになってから、俺、みんなとはもう全然会ってないんだ。タイラーの奴は、少し前にきつい前線へ回されて、今はウータイに派遣されてる。エミリオは7年前にあっさり軍を辞めちまって……今はプレートの八番街にある小さな雑貨屋で、店番の仕事をしてるらしい」

 

レスターはグラスの縁を指でなぞりながら、ふと遠い目をする。

 

「そういえば……あいつ、クラウドとも、神羅に就職した直後に一回だけ基地の廊下ですれ違ったんだ。声をかけようとしたんだけど、あいつ、俺の顔を見るなり完全に無視して行っちゃってさ……。何だか話しかけるな、って雰囲気でさ。その後は会ってない……俺? 俺は見ての通りさ。大した才能もないから、裏方の整備兵として毎日シコシコ機械をいじって生きてる。お前らが生きててくれたことだけが、今日の最高の救いだ」

 

一息に語り終えたレスターは、視線を再びティファの大きなお腹へと戻した。

複雑な感情を滲ませながら、彼は核心にある問いを口にする。

 

「……そのお腹の子は、ハメルの子、なのか?」

 

「ええ」

 

ティファは躊躇うことなく、深く、慈愛に満ちた笑みを浮かべて頷いた。

 

「双子なの。もうすぐ産まれるわ」

 

その曇りのない世界で一番幸せそうな笑顔を見た瞬間、レスターの心の奥底にずっと燻っていた、ティファへの淡い初恋のような想いは、静かに、そして綺麗に霧散していった。

この過酷なミッドガルの底で、これほど暖かく力強い居場所を二人が築き上げている。

その事実だけで、もう彼には十分だった。

 

レスターはカウンター越しにハメルを見上げ、どこか晴れやかな苦笑を浮かべる。

 

「……ハメル。昔さ、村を出る時に『ティファのこと、誰も抜け駆けはなしだぞ』って、みんなで約束しなかったっけ?」

 

「そんな約束をした覚えはないな」

 

ハメルはスマートにボトルの口を拭いながら、水色の魔晄の瞳をレスターへと真っ直ぐに向けた。

 

「ただ、ティファのことは俺が責任を持って守る。俺が生きている限り、傷一つつけさせない。俺が交わした約束は、それだけだ」

 

ハメルはそう言うと、ベストのボタンを少しだけ外し、自身のシャツの胸元をレスターの視線へと晒した。

 

そこにあったのは、見るもおぞましい凄惨な大刀創の痕跡だった。

4年前のあの悪夢の夜、セフィロスの放った『正宗』の凶刃からティファの肉体を遮蔽し、身を挺して彼女を守り抜いた時に刻まれたものである。

生々しく引き攣れたその傷跡は、ハメルがどれほどの狂気的な執念と命懸けの覚悟でティファを守り、世界の運命をねじ伏せて美しく上書きしてきたかを無言で物語っていた。

 

その凄まじい傷跡を視界に収めた瞬間、レスターはすべてを理解した。

なぜティファがハメルの妻となり、その子供を孕っているのか。

ティファにとっての運命の男は、村を出て肝心な時に側にいれなかったクラウドや自分たちではない。

ずっとティファに寄り添い続けてきたハメルだったのだと、すとんと腑に落ちた。

 

「……はは、格好良すぎるよ、ハメル。お前には、最初から誰も敵わなかったってわけだ」

 

レスターは降参するように両手を挙げ、そして心からの祝福を込めて笑った。

 

「元気な赤ちゃんが産まれるのを、俺も心の底から祈ってるよ」

 

ティファが新しく調合して差し出した、特別な『ティファズミルク』。

レスターはその優しく甘い一杯を、自らの孤独を癒やすように一気に飲み干すと、神羅の下級整備兵としての日常へ戻るべく、未練を一切残さない足取りで夜のスラムへと立ち去っていった。

 

---

 

夜が更け、カランと静かな音を立てて店の鍵が閉められた。

先ほどまでの賑わいが嘘のように静まり返った店内で、ティファはクッションからゆっくりと立ち上がり、ふぅ、と深く、小さく息を吐いた。

 

「お疲れ様、ティファ」

 

ハメルがすぐに温かいお茶の入ったカップを差し出し、彼女の丸い腰を包み込むように支えて地下へと続くエレベーターへ誘う。

地下の私室に降り立つと、ティファはベッドの端へ腰を下ろし、防寒ニット越しに臨月のお腹を愛おしそうに撫でた。

しかし、その美しい紅い瞳には、どこか悲しげで重い影が落ちていた。

 

「ハメル……レスターのことだけど」

 

ぽつりと漏らした言葉には、幼馴染との再会という歓喜の裏に潜む、重い葛藤が滲んでいた。

 

「レスターとあんなふうに再会するなんて思わなかったな……。みんなが神羅で働いてる以上、いつかアバランチと神羅の戦いに巻き込まれて、レスターたちと銃を向け合うことになっちゃうのかな……」

 

ティファはギュッと膝の上のニットを握りしめ、伏せ目になった。

 

「それに……クラウドのことも心配。レスターも最初の頃に一回すれ違ったきりだって言ってたでしょう? もし今もどこかで神羅の兵士として戦っていて、私たちの前に敵として現れたら、私……」

 

そこまで言ったところで、ティファの肩がかすかに震えた。

お腹の新しい命を守る母としての強さと、かつての思い出や大切な絆を愛する優しさが、彼女の胸の中で激しくせめぎ合っていた。

 

ハメルは無言のままティファの隣に腰を下ろすと、彼女の華奢な肩を引き寄せ、しっかりと自らの胸の中に抱きしめた。

その温かく強靭な腕の感触に、ティファの緊張がほんの少しほぐれる。

 

「不安になる必要はないさ、ティファ」

 

ハメルは低く、どこまでも落ち着いた声で妻の耳元に語りかけた。

 

「レスターはただの整備兵だ。前線に出て銃を撃つような立場じゃない。神羅とアバランチの激突があったとしても、機械をいじる裏方の彼が戦場に引っ張り出される可能性は極めて低い。……それに、タイラーは今、遙か遠くのウータイにいるんだろ? ミッドガルで戦火が上がったとしても、彼と鉢合わせることなんてまずあり得ない」

 

「ハメル……」

 

「だから、ティファが彼らと傷つけ合う心配なんて、最初からどこにもないんだ」

 

ハメルの合理的で筋の通った言葉に、ティファは少しだけ安堵したように呼吸を整えた。

 

ハメルは彼女の顎を指先で優しく持ち上げ、不安に揺れる紅い瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

(クラウドは今、ザックスとともに神羅屋敷を脱出し、追っ手を逃れて逃避行の真っ最中のはずだ……)

 

原作の知識としてクラウドの現状と真実を完璧に把握しているハメルだったが、その未来の情報をおくびにも出すことはしない。

ただ、不安がる妻の心に確かな希望の灯をともすように、優しく微笑んで見せた。

 

「クラウドのことも信じてやれ。故郷を出てまで強くなろうとした一途な男だろ。もし生きていて、いつか俺たちの前に姿を現す日が来たとしたら――その時は、絶対に俺たちの『味方』として駆けつけてくれるさ」

 

「……味方、に……?」

 

「ああ。ティファが諦めない限り、あいつが敵になることなんてあり得ない」

 

確信に満ちたハメルの言葉が、ティファの胸の奥に残っていた冷たい不安を、ゆっくりと溶かしていく。

 

「……うん。そうよね……。ハメルがそう言ってくれるなら、私、信じる。クラウドも、レスターも、みんな……」

 

ティファはハメルの胸元に顔を埋め、深く、深く息を吸い込んだ。

セフィロスの凶刃から命を懸けて自分を守り抜いてくれた夫。

その力強い鼓動を感じるだけで、どんな恐怖も消し去ることができる。

 

「ありがとう、ハメル。いつも私を支えてくれて……」

 

「ティファの役目は、不安になることじゃない。元気にこの子たちを産むことだろ?」

 

ハメルが優しく愛撫するように、ティファの臨月の丸いお腹を撫で下ろす。

内側からポコン、と二つの小さな命が力強く応えるように蹴り返してきた。

 

「ふふ、そうね……。この子たちのためにも、私、ちゃんとお母さんにならなきゃ」

 

ティファは紅い瞳に温かな温もりの光を取り戻し、愛する夫の唇へと、感謝と愛を込めた優しい口づけを重ねるのだった。

 

---

 

[μ]-εγλ 0007年1月3日。

 

大盛況のうちに新年の三が日の夜営業がすべて終了し、セブンスヘブンの重い扉に鍵がかけられた。

静まり返ったフロアのテーブル席には、留守を預かっていた大家のマーレ、用心棒のバレット、そして少し大人びた表情のマリンや、アバランチのジェシー、ビッグス、ウェッジが集まっていた。

 

ハメルは漆黒の上着を椅子にかけ、仲間たちの前で、これからの店舗運営についての決定を単刀直入に宣言した。

 

「この三が日をもって、ティファは出産休暇に入る。これからは一切店には立たせず、出産と産後に向けて完全に休養してもらう。その間、俺は何でも屋の業務を一時休業し、セブンスヘブンの店主代行として全時間帯の店を回す」

 

ハメルの毅然とした言葉に、ジェシーたちが小さく息を呑む。

ハメルは隣に立つティファの肩を優しく引き寄せ、その大きなお腹を愛おしそうに見つめた。

 

「ティファの出産予定日に向け、何よりも彼女の安全と新たな命の誕生を最優先にする。昼のカフェ営業はこれまで通りマーレさんに手伝ってもらい、夜の酒場営業は俺一人で対応する。ティファのような高度なシェイカー技術を要するカクテルは一時休止し、ビールやロック、ビルドで提供できるシンプルなカクテルのみの簡略化メニューで乗り切る予定だ」

 

『JSフィルター』の利権から毎月裏でプールされる莫大な不労所得があるからこそ、無理に営業規模を維持する必要もなく、このような柔軟かつ徹底した臨戦態勢を敷くことができる。

ハメルの的確な判断に、バレットが真っ先に右手の義手をドンとテーブルに突いて応えた。

 

「よく言った、ハメル! 昼でも夜でも、店とティファの用心棒ならこの俺が完璧にこなしてやる! メニューが少なかろうが何だろうが文句を言う客がいたら俺が叩き出してやるから、お前は安心して店を仕切りながら、我が子を迎える準備を進めやがれ!」

 

「そうよ! ティファ、育児に必要なものがあったら何でも言ってね。私がスラム中から最高級の物資をかき集めてあげるから!」

 

ジェシーもエールを送り、マリンも「ティファ、マリン、お姉さんだからいっぱいお手伝いするね!」と、ふっくらとしたマタニティニットの上からティファの大きなお腹にそっと触れた。

 

「ありがとう、みんな……。本当に心強いわ」

 

ティファは紅い瞳に幸せな涙を浮かべながら、愛おしそうに自身の下腹部を撫でさすった。

 

「お腹の中の赤ちゃんたちも、きっと喜んでる。……ほら、左側の子が元気によく動いてて、右側の子は力強く蹴ってくるの。二人が無事に産まれてきてくれるのが、今から本当に楽しみ……私たちの、大切な宝物よ」

 

胎動を通して伝わる、愛おしい二つの生命の息吹。

この残酷な世界で、あらかじめ決められていた物語のレールを自らの執念と力で完全にねじ切ってきたハメルにとって、その小さくも力強い拍動こそが、新しく己が紡ぎ出した新たな未来の象徴そのものだった。

 

やがて夜が更け、仲間たちは「何かあったらいつでも呼べよ!」と口々に温かい言葉をかけながら、一人、また一人とスラムの闇へと帰っていった。

 

最後の客を見送り、重い表扉を閉めてしっかりと鍵をかけると、静寂が店内に戻ってくる。

 

「ふぅ……みんなの温かさ、本当にありがたいわね」

 

安堵の溜息をつくティファの手をハメルが優しく包み込み、ピンボールゲーム台の横へと誘導した。

 

「さあ、ティファ。地下へ降りよう。明日からは、いよいよ出産に向けての準備の時間だ」

 

「ええ、ハメル……」

 

ハメルが隠しギミックを作動させると、ピンボール台の床がガコンと鳴り、隠されたエレベーターが動作する。

二人が乗り込むと、重厚な駆動音とともに駆動インフラが静かに地下へと降下を始める。

 

温かい照明が満ちる二人のプライベート空間の中で、ハメルは身重の妻を優しくベッドへと横たわらせる。

 

ハメルがこの世界の歴史の潮流を捻じ曲げて手繰り寄せた、ティファがクラウドと結ばれない世界線。

そこで身重となったティファの、女としての、母としての絶対に負けられない戦いが始まろうとしていた。

 

---

 

[μ]-εγλ 0007年1月24日。

 

活気に満ちた夜のセブンスヘブン。

カウンターの奥でハメルが店主代行としてスマートにグラスを磨き、フロアでは用心棒のバレットが、カウンター席にいた常連客のジョニーへの対応に追われていた、その時だった。

 

――チリン、チリン。

 

カウンターの奥、地下へと繋がる隠しギミックの脇に取り付けられた呼び鈴が、忙しなく鳴り響いた。

地下室のティファからの、陣痛が始まったことを告げる緊急の合図だ。

 

ハメルは手元のグラスを静かに置くと、水色の魔晄の瞳を鋭く光らせ、すぐさまバレットとジョニーへ指示を出した。

 

「バレット、店内にいる客を全員帰らせてくれ。今日のお代は全額無料にしていい。入口にCLOSEの看板を出したら、店の外で後から来る客を追い返してくれ。ジョニー、お前に一つ頼みがある。大家のマーレさんとジェシーを大至急呼んできてくれないか。ティファの陣痛が始まった」

 

「な、なんだと!? よし、任せとけ! おい野郎共! 今夜は臨時閉店だ! 今日のお代は全額オゴリにしてやるから、つべこべ言わずにさっさと帰りやがれ!!」

 

バレットが怒号のような大声で客を外へ促す中、カウンターで飲んでいたジョニーがガタッと勢いよく立ち上がった。

 

「ついにきたか……! 任せとけハメル! たとえあんたの子供を孕んでいようと、ティファは俺の女神だからな! 最高の産婆さんたちを秒で連れてきてやるぜ!!」

 

熱い叫びとともに弾かれたように店を飛び出していくジョニー。

バレットが最後の客を送り届けて表の扉に「CLOSE」の看板を掲げ、そのまま外で見張りに入るのを確認すると、ハメルはピンボール台の床の隠しギミックを作動させた。

動き出したエレベーターに飛び乗り、ティファの待つ地下室へと降下していく。

 

鉄のプレートとコンクリートに守られた地下室では、ベッドの上でティファがシーツを強く握り締め、荒い呼吸を繰り返していた。

臨月を迎えて膨らみきった下腹部が、規則的な陣痛の波によって硬く強張っていく。

ついに、新しい命を現世へと押し出すための陣痛が始まったのだ。

 

「大丈夫だ、ティファ。息を吐いて……俺を見ろ」

 

ハメルはベッドの傍らに膝を突き、ティファの汗に濡れた黒髪を優しくかき上げた。

 

「ハメル……っ……! ごめんなさい、お店の途中で……。ついに、きたみたいなの……っ」

 

痛みの合間にハメルの顔を見上げ、安堵と申し訳なさが入り混じった声で呟くティファ。

 

「謝る必要はない。よく知らせてくれた」

 

ハメルが力強く頷き返したそれから間もなくして、再び隠しエレベーターが降りてくる駆動音が響き、到着したマーレとジェシーが息を切らしてベッドの元へと駆け寄ってきた。

 

「ティファ! 大丈夫かい! さあ、慌てないで、しっかり息を吸って、長く吐き出して!」

 

「ティファ、頑張って! 私がずっと汗を拭いてあげるからね!」

 

熟練の産婆でもあるマーレの的確な指示と、ジェシーの励ます声が響く。

ティファは痛みに耐えかねるようにハメルの無骨な大きな手を掴んだ。

格闘家である彼女の強い握力が無意識にハメルの指骨をきしませるが、ハメルはその手を強く握り返し、手の中に隠した『かばう』のマテリアに意識を集中させた。

 

深い紫色の魔晄の輝きが静かに放たれる。

 

その瞬間、ティファの腰や産道をえぐるはずだった陣痛の波が『かばう』の因果干渉によって引き受けられ、ハメルの下腹部へとダイレクトに激痛となって突き抜けた。

急所を全力で蹴り上げられたかのような鈍痛と冷や汗を伴う苦痛が波及するが、ハメルは声一つ立てず、ポーカーフェイスを崩さずに耐え抜く。

 

「ハ、ハメル……? あなた、今……っ」

 

不自然なほど痛みが和らいだことを察し、ティファが驚いたように紅い瞳を見開く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

夫が自らの身を削って痛みを肩代わりしてくれているのだと悟った彼女の目から、温かい涙が溢れ出した。

 

「気にするな、ティファ。お前はお前と、子供たちのことだけを考えていればいい。……さあ、来るぞ。思い切りいきめ」

 

「う、うん……っ! お、ああああああっっ!!」

 

ハメルの絶対的な守護に支えられ、ティファは全活力を下腹部へと集中させた。

マーレとジェシーの迅速な介助のもと、肉体と生命のせめぎ合いが続く。

ハメルは『かばう』による激痛を冷徹に耐え忍びながら、ティファの体をしっかりと抱きかかえ続ける。

 

どれほどの時間が経った頃だろうか。地下室の緊張を切り裂くように、力強い産声が室内に響き渡った。

 

「――オギャアッ! オギャアアアアッッ!!」

 

「産まれたよ! まずは元気なお兄ちゃんだ!」

 

マーレが手際よく取り上げ、ジェシーが手際よく湯あみをさせて赤ん坊を丁寧に包み込んでいく。

だが、すぐに次なる陣痛の波がティファを襲う。

 

「ティファ、もう一人だ。力を振り絞れ」

 

「はい……っ、ふ、あぁぁぁぁっっ!!」

 

ハメルが再び『かばう』の魔力を絞り出し、最後の苦痛を自らへと集中させる。

冷や汗を流しながらも優しく握り返されたハメルの手を糧に、ティファは最後の力を振り絞っていきんだ。

 

ズルリと生命が滑り出す感触の直後、もう一つの力強い産声が重なった。

 

「産まれた! 弟もずいぶん元気だね! 五体満足、素晴らしい双子の大安産だよ!」

 

マーレが表情を綻ばせ、ジェシーも涙を浮かべて「やったぁ! ティファ、おめでとう!」と歓声を上げる。

 

疲れ果てたティファは、差し出された二つの小さな命へ震える指先を伸ばした。

小さな手が彼女の指をぎゅっと握り返した瞬間、胸の奥から熱い感情が溢れ出す。

 

かつてニブルヘイムで交わしたクラウドとの幼い約束の残滓など、どこにも残っていない。

ハメルという一人の漢の妻となり、二人の子の母親となった現実こそが、今のティファのすべてであり至上の幸福だった。

 

「ハメル……私、この子たちを産めて……本当に幸せよ……」

 

ハメルは汗に濡れた彼女の額にそっと唇を寄せ、最愛の妻と誕生したばかりの我が子たちを、その大きな温もりで優しく包み込むのだった。

 

---

 

それからしばらくして、ティファと双子の赤ん坊たちが静かに眠りについたのを見届けた後。

ハメルは後をマーレとジェシーに託し、気丈に振る舞いながら、一人でピンボールゲーム台のエレベーターを駆動させてセブンスヘブンの一階へと戻った。

 

カウンターのある薄暗いフロアに足を踏み入れた瞬間、そこではバレット、ビッグス、ウェッジ、マリン、そして常連のジョニーの5人が、今にも張り詰めそうな緊張感の中でそわそわと待機していた。

バレットは落ち着かない様子でガトリングの銃身を無意味に何度も磨き直し、ジョニーにいたっては髪をかきむしりながら床を右往左往し、「ティファ……無事でいてくれ、頼むから……!」と生きた心地のしない顔で呟き、完全に余裕を失っていた。

 

エレベーターが上がる音に気づき、5人が一斉にハメルへと視線を向けた。

ハメルは平静を装って彼らの前に進み出たが、限界まで蓄積した尋常じゃない陣痛のダメージは色濃く、報告を終えた瞬間、たまらずバーカウンターにどさりと体を預けて寄りかかった。

 

「ハ、ハメル……っ! どうだったんだ!?」

 

バレットが地鳴りのような声を殺しながら、血走った目で掴みかからんばかりに身を乗り出す。

 

ハメルはカウンターにもたれかかったまま、ポーカーフェイスの裏に深い安堵をにじませ、低く、しかし力強い声で告げた。

 

「男の子の双子だ。母子ともに、完全に健康だ。傷一つない」

 

その瞬間、店の空気が爆発した。

 

「やったあああああああっっ!!」

 

ビッグスとウェッジが飛び上がってハイタッチを交わし、バレットは「うおおおっ!」と咆哮を上げて自らの逞しい胸板を叩いた。

 

「ティファ……! よかった、本当によかったあああっ!」

 

ジョニーは滝のような涙と鼻水を撒き散らしながらその場に崩れ落ち、床を激しく叩いて男泣きしている。

 

「ハメル、ティファ、おめでとう!」

 

マリンも小さな手を叩いてピョンピョンと跳ね回り、新しくできた二人の弟の誕生に目を輝かせている。

 

「ガハハハハ! めでてえ! こいつは最高にめでてえぞ!」

 

ハメルが『かばう』のせいで満身創痍になっている事情など知る由もないバレットは、大はしゃぎのままカウンターの奥から度数の強い酒のボトルを引っ張り出すと、まずはハメルのグラスへと並々と注ぎ込んだ。

 

「おい、ハメル! お前も今日から新米パパだ! 祝い酒だ、一滴残らず飲み干しやがれ!」

 

差し出される強い酒。

普段は自己管理を徹底し、滅多に酒を口にしないハメルだったが、引き受けた痛みの残滓をねじ伏せて身体を覚醒させるための気付け薬代わりとして、その祝い酒のグラスを手に取った。

 

「ああ。ありがたくいただく」

 

ハメルは迷うことなく、黄金色の液体を一気に喉へと呷り、豪快に飲み干した。

 

「うおぉ、さすがハメル! 父親になると違うな!」

 

バレットが歓声を上げると、これに触発された仲間たちが次々とハメルの前に詰め寄ってきた。

 

「じゃあ次は俺からだ、ハメル! はい!」

 

ビッグスが嬉しそうにボトルを傾けてハメルの空のグラスを満たし、ハメルはそれをスマートに一気飲みする。

 

「俺からも、本当におめでとうっす、ハメル!」

 

ウェッジも続いて並々と酒を注ぎ、ハメルはそれも淀みない動作で喉へと流し込んだ。

 

現場の興奮冷めやらぬ中、涙を拭ったジョニーが空いているグラスをひったくってハメルに詰め寄った。

 

「おい、ハメル……っ。ティファにこんな命がけの、大変な思いをさせやがって。……だけど、無事に元気な双子が産まれて、ティファが幸せな家庭を築けたってんなら、これ以上は何も言えねえよ。……悔しいけど、今日はおめでとうって言ってやる!」

 

ジョニーはそう吐き捨てるように言うと、ハメルのグラスへ並々と酒を注いだ。

ハメルはジョニーの複雑な想いを受け止めるようにグラスを掲げ、四杯目となる強い酒をぐっと喉へと流し込み、完璧に飲み干してみせた。

 

カッと胃の奥が熱くなり、痛みの痺れが確実に和らいでいく。

 

「ガハハハ! いい飲みっぷりだ! よし、まだまだ飲むぞ!」

 

バレット、ビッグス、ウェッジ、そしてジョニーがガチャンとグラスを合わせ、大声で笑い声を上げながら、賑やかな酒盛りが始まった。

セブンスヘブンのフロアは瞬く間にどんちゃん騒ぎへと変わっていく。

 

その時だった。

 

重厚な駆動音とともにピンボール台の床が上昇し、エレベーターが1階フロアへと到着した。

 

「――ちょっと!! あんたたち、いい加減にしなさい!!」

 

エレベーターから姿を現したのは、腕組みをして額に青筋を立てたジェシーだった。

 

「下まで丸聞こえよ! バレット、特にあんたの声! それにジョニー、あんたの泣き叫ぶ声もよ! ティファも赤ちゃんたちも、命がけの出産を終えてやっと今眠りについたばかりなの! 酒盛りするならもっと静かにやりなさい、このバカ男たち!!」

 

ジェシーの一喝に、バレットは「ぐぬっ……!」と大きな口ぐもぐさせて肩をすくめ、気まずそうにゴツい手で頭を掻いた。ビッグスとウェッジも大慌てでグラスをテーブルに置く。

ジョニーにいたっては、ジェシーの凄まじい気迫に圧倒され、自らの両手で口を全力で塞ぎながら、その場で直立不動のままガタガタと小刻みに硬直している。

ハメルだけが、何事もなかったかのようにスマートに空のグラスをカウンターに戻している。

 

「……う、うぐっ……す、すまねえ、ジェシー。嬉しさのあまり、つい声が出ちまってな……」

 

バレットがバツの悪そうな顔で声のトーンを落とすと、ウェッジも「シー、静かにね!」とマリンと顔を見合わせる。

 

ジェシーはふぅとため息をつき、それからハメルの方を向いて、心からの優しいウインクを贈った。

 

「改めて、おめでとうハメル。ティファをあんなに幸せにしてくれて、ありがとうね」

 

頭上の巨大な鉄プレートに昼の光を遮られた、(すす)けたスラムの底。

だが、このセブンスヘブンの灯火の下だけは、何者にも侵されることのない絶対的な幸福と、新しく確定した未来の祝福に満ち溢れていた。

 

 

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