※この作品はR-18です。

FF7ntR   作:夜叉五郎

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第二十二章:エアリスの一歩

[μ]-εγλ 0007年1月30日。

 

出産から1週間が経ち、ティファの体調もすっかり落ち着いた頃。

ハメルとティファは、地下室で静養していた我が子たちを抱き、久々に一階のフロアへと上がってきた。

 

そこには、いまかいまかと首を長くして待っていたバレット、ジョニー、ジェシー、ビッグス、ウェッジ、そしてマリンの姿があった。

 

「お待たせ。みんな、うちの子たちだよ」

 

ティファが愛おしそうに腕の中の赤ん坊を抱き直し、ハメルも隣で静かに並んで我が子を抱いて見せる。

 

「う、うおぉ……! これが……ハメルとティファのガキか……!」

 

バレットが巨体を丸めて恐る恐る覗き込んだ。

ジョニーは早くも涙ぐみ、「ティファに似て、なんて可愛いんだ……っ!」と目元を拭っている。

マリンも背伸びをして、「ちっちゃい……! マリンおねえちゃんだよ!」と目を輝かせた。

 

「ねえ二人とも、この子たちの名前はもう決めたの?」

 

ジェシーが興味津々で尋ねると、ティファはハメルと優しく視線を交わし、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ええ。ハメルが考えてくれたの。抱いている左側の兄が『ティベリー』で、右側の弟が『ガイル』よ」

 

ふたりの名前の響きを少しずつ取り入れつつ付けられた、温かい名。

二人の名の由来は、ハメルの前世の知識となる。

共和政ローマの改革に奮闘した護民官のグラックス兄弟(ティベリウスとガイウス)。

彼らのように兄弟二人が固い絆で結ばれ、この苦難に満ちた世界を強く生き抜いてほしいとの願いを込めた名であった。

 

「ティベリーとガイル……! いい名じゃねえか! 最高だぞ、ハメル、ティファ!」

 

バレットが感極まったように声を張り上げると、ジェシーやビッグスたちも「すごく素敵な名前!」「かっこいいっすね!」と大賛成で拍手を送る。

 

仲間たちの温かい祝福に包まれながら、ハメルとティファは深く頷き、我が子たちの小さな温もりをしっかりと胸に抱きしめるのだった。

 

---

 

[μ]-εγλ 0007年2月。

 

新しい家族が増えたハメルとティファの朝は、一階ホールの開店準備から始まる。

 

ガタガタと小気味よい音を立てて、丸椅子や木製の椅子がテーブルの上へと逆さまに上げられていく。

ハメルが毎朝行うルーティンの拭き掃除だ。

床一面を徹底的に雑巾掛けした後のホールは、スラム特有のぜんそくを誘発するような煤煙や埃っぽさが一切ない、見違えるほど広々とした清潔な空間へと生まれ変わる。

 

そのバーカウンターの内側には、一台の木製ベビーベッドが収められていた。

ハメルがスラムの職人に作らせた、頑丈な車輪付きの移動可能なベビーベッドだ。

ハメルとティファが一階のホールで店の準備をしている間も、常に目を離さずにいられるようにという、夫婦の自然な知恵だった。

 

ハメルがフロアを完璧に磨き上げ、カウンターの中でベビーベッドの双子の面倒を見ている間、ティファはその広いスペースを使って日課の拳法修練を行っていた。

 

誰もいないホールの真ん中で、ティファが額にじんわりと汗を浮かべながら、ゆっくりと腰を落とす。

出産という女性の肉体にとって最大級の試練を経てなお、彼女の回復力は常人の限界を遥かに超越していた。

ザンガン流秘伝の書に記された独自の「インナーマッスル構築呼吸法」を、朝の澄んだ空気の中で深く駆動させていく。

 

それは横隔膜と腹横筋を極限まで連動させ、腹の底の深層筋を強制的に引き締める、見事な肉体復元プロセスだった。

産後まだ数週間ということもあり、腰回りは妊娠前の引き締まったサイズにはまだ戻っておらず、産後特有の女性らしい柔らかさがわずかに残っている。

しかし、深層筋を意識して鋭く息を吐き出しながら拳法の型を空間に繰り出すその動きは、確実に芯の強さを取り戻しつつあった。

 

「――フッ! ……ハッ!!」

 

鋭く張り詰めた掛け声とともに、凛とした拳が空を切り裂く。

バストサイズは双子に与えるための母乳が常にフル稼働で分泌されていることで、3カップ増量したメートル級の豊潤なJカップへと肥大化していたが、ティファはその圧倒的な重質量をしっかりと支え、朝のホールに鋭い拳圧の風を鳴らした。

 

「――っ、ふぅ……」

 

ハメルはカウンターの中から、すぐ傍らのベビーベッドで静かに眠るティベリーとガイルの様子を見守りつつ、深い水色の魔晄の瞳で、妻のしなやかな動きを見つめていた。

一通りの型を終え、心地よい疲労感とともに呼吸を整えたティファは、額の汗を手の甲で拭いながら、カウンターの中のハメルと我が子の元へと歩み寄り、身支度を整えて開店の刻を待った。

 

「お疲れ様、ティファ。……実にいい動きだ。産後すぐとは思えないほどキレが戻ってきているな」

 

「ありがとう、ハメル。でも、まだ少し腰まわりに重心が残っちゃうかな……。焦らず、ゆっくり戻していくね」

 

そう言って汗を拭うと、ティファはベビーベッドの中でのすのすと小さな寝息を立てる二人へ愛おしそうに視線を落とした。

 

「二人は? 途中で起きたりしなかった?」

 

「ああ、すやすや夢の中だ。お前の鋭い踏み込みの音も、二人にとっては心地いい子守唄になっているのかもしれないな」

 

ハメルが柔らかく微笑みながら二人の頭を優しく撫でると、ティファもクスクスと笑いを漏らす。

 

「もう、そんなわけないでしょ」

 

夫婦で顔を見合わせ、静かな愛おしさを噛み締めた後、ティファは表情を引き締めてカウンターの奥へと向かった。

 

「よし、それじゃあ身支度を整えて、今日の開店準備を仕上げちゃおうか」

 

「ああ。今日もいい一日にしよう」

 

二人は息の合った手つきで仕込みと開店の準備を進め、温かな活気に包まれながら開店の刻を待った。

 

---

 

午前10時半。

カフェ営業の開始を一時間後に控えた店内に、ドタドタと騒がしい足音が響く。

 

「ティファ! 入るぜ!」

 

大声を上げて入ってきたのは、大男のバレット・ウォーレスだった。

アバランチの活動時ではないため、その右腕には危険なガトリングガンではなく、生活用の無骨なアタッチメント義手型が装着されている。

そのバレットの背中からは、愛娘のマリンがちょこんと顔を覗かせていた。

 

「おはよう、ティファ。今日は冷え込むからスープを持ってきたよ」

 

さらにその後ろからは、バレットが寄宿する長屋『天望荘』の大家であり、街の肝っ玉母さんでもあるマーレが、自家製の温かい滋養スープが入った鍋を抱えて歩いてくる。

 

「よぉ、お邪魔するぜ」

 

二人に続いて店に入ってきたのは、スラムのトラブルメーカーであるジョニーだった。

開店前だが、その手には小綺麗な籠に盛られたみずみずしいフルーツが握られている。

 

「おいジョニー、あんた開店前に何勝手に入って来てんだよ」

 

マーレが怪訝そうに眉をひそめると、ジョニーは空いた片手をぶんぶんと振りながら必死に言い訳をした。

 

「いや、ティファが初めての育児に疲れてないか心配でさ、差し入れのこれを持って来たんだよ! 怒るなよマーレさん!」

 

カウンターの奥からエプロン姿のティファが笑顔で顔を出す。

 

「マーレさん、ジョニー、ありがとうございます。スープもフルーツも、すごく嬉しいです!」

 

その時、タイミングを合わせたかのように、カウンターの中の移動式ベビーベッドから、ティベリーとガイルが同時に「ふえぇ……」「ぎゃああん」と甲高い声を上げて泣き出してしまった。

 

「あ、大変。そろそろお腹が空いたのかな……」

 

「ティファ、無理に一度に抱き上げようとするな。まずはティベリーからだ」

 

まだ首も座っていない新生児の双子を一気に抱えるのは危険だと察したハメルが、すぐさま手際よく片方の赤ん坊を頭から優しく持ち上げ、授乳用クッションを備えたティファの腕の中へと預ける。

ティファはしっかりと首の後ろを手のひらで支え、授乳のためにノースリーブの胸元を寛げようとした。

 

その瞬間、ハメルは機敏な身のこなしでスマートに位置を変えた。

ティファのすぐ前に立ち塞がるように位置取り、その広く強靭な背中で、ホール側にいる他の男たちの視線の間に割り込んで隠したのだ。

 

普通のデリカシーのある男なら、こうした場面ではパッと目を逸らすものだ。用心棒のバレットも「おっと、悪い悪い」と、すぐに大きな身体をガラリと後ろへ向け、カウンターの様子を見ないように天井を見上げた。

 

しかし、ジョニーだけは違った。

人妻となり、母乳を蓄えてさらに果実の実りを増したティファの授乳シーンを、一目だけでも拝もうと血眼になり、ハメルの背中の脇からこそっと覗き見ようと必死に首を伸ばした。

 

パシィィンッ!!

 

「痛っちぃ!?」

 

ジョニーの頭頂部に、マーレが持っていたお玉が容赦なく叩きつけられた。

 

「この馬鹿ちんが! 生まれたばかりの赤ん坊と、一生懸命お乳をあげようとしてる母親に何て破廉恥な視線を送ってんだい! さっさと目を逸らしな!」

 

「あ、いや、マーレさん! 俺はただ、ティファの様子がだな……っ」

 

「言い訳するんじゃないよ! あんたは本当に変わらないねえ!」

 

マーレにガミガミとドヤされ、ジョニーは頭を押さえながら縮こまり、持っていたフルーツの籠を慌ててカウンターの上に置くと、バレットと同じように壁の方を向いて目を逸らした。

ハメルは背後でティファが静かに授乳を始めた気配を感じつつ、魔晄の瞳をジョニーに向け、無言の圧力をかけ続けていた。

 

「ん、く……、ふ……」

 

ハメルの広い背中に守られた空間で、一人はティファの豊かな胸に吸い付き、もう一人はベビーベッドの中でハメルが優しくあやしながら順番を待つ。

ティファはその様子を、慈愛に満ちた視線で見つめていた。

ハメルによる毎朝の丁寧な搾乳習慣と、夜の濃密なマッサージによってケアされたその双丘は、二人の我が子に栄養を注ぎ込むための完璧な生体器官として機能していた。

 

やがて二人分の授乳が落ち着き、ティファが優しく衣服を整えると、ハメルは静かに立ち位置を変えた。

ジョニーは赤くなった頭をさすりながら、カウンターの向こうで我が子を愛おしそうにあやすティファの姿を見つめ、どこか寂しげにしみじみと呟いた。

 

「……でもさ。ティファもすっかりお母さんなんだな……」

 

ずっと高嶺の花として遠くから憧れ続けていたティファが、完全にハメルの妻となり、二人の子供の母親になっている現実。

その言葉を聞いたマーレは、手に持ったお玉を収め、ジョニーの肩をポンと叩きながら深く頷いた。

 

「当たり前だろ。男の子を二人も産んだんだ、立派な母親だよ」

 

その一言は、店内の全員が、そしてスラムの誰もが、ティファが「店のアイドル」ではなく「ハメルの妻であり、二人の子の母親」になったことを当然の現実として認めている証拠でもあった。

ジョニーは小さく溜息をつきながらも、どこか諦めたような、納得したような表情を浮かべた。

 

ティファがマリンに声を掛ける。

 

「マリンちゃん、おいで。ティベリーとガイルに会っていく?」

 

「うん! 会いたい!」

 

目を輝かせてカウンターの中へ駆け寄っていくマリン。

移動式ベビーベッドの中で、お腹が満たされてすやすやと眠り始めた双子の赤ちゃんを見て、マリンは歓声をあげた。

 

「わあ……ちっちゃい! ティファおねちゃん、だっこしてもいい?」

 

「うふふ、気持ちは嬉しいけど、まだ生まれたばかりで首も座っていないから抱っこはダメなんだ。もう少し大きくなったらね。……こうやって、そっと手を繋いであげて」

 

ティファが優しくマリンの手を誘導すると、マリンは恐る恐る小さな指を赤ん坊の手元へと伸ばした。すると、ベビーベッドの中の小さな手がぎゅっとマリンの指を握り返した。

 

「わぁ……! 指、ぎゅーってしてくれた!」

 

マリンはまるで小さなお姉さんのような、誇らしげで優しい笑顔を浮かべた。

その様子を横で腕を組んで見ていたバレットは、フンと鼻を鳴らすと、どこか対抗心を燃やすように大きな胸を張った。

 

「フン……まあ確かにハメルとティファのガキも、赤ん坊にしちゃあ大した男っぷりだがな……! だが、世界で一番可愛くて良い子なのは、どう考えたってうちのマリンだぜ! そこだけは譲れねえな!」

 

ハメルたちの子供たちの可愛さを認めつつも、居ても立ってもいられなくなったように親バカ全開で張り合うバレット。

すると、ベビーベッドの横で指を握らせていたマリンが、パッと顔を上げてバレットをじっと睨みつけた。

 

「もう! 父ちゃんバカ! なんでそんなこと比べるの! 赤ちゃんたちもすっごく可愛いんだから、変なこと言わないで!」

 

小さな両手を腰に当ててぷんぷんと怒るマリンに、バレットは途端に焦ってタジタジになる。

 

「ぐっ……! あ、いや、マリン……俺ぁお前を褒めただけでだな……っ」

 

「もう、父ちゃんはあっち行ってて!」

 

「うおおおん! マリンに怒られたあぁぁッ!?」

 

娘からの容赦ない一撃に撃沈し、大袈裟にショックを受けて撃沈するバレットの姿に、店内にはどっと温かな笑いが弾けた。

 

「あんたは相変わらずバカだねえ。大人が幼子相手に何をムキになってんだい」

 

天望荘の大家であるマーレは呆れ顔でバレットを一蹴すると、ティファに温かいスープを差し出す。

 

「ほら、ティファ、マーレ特製の滋養にいい温かいスープだよ。今の時期はしっかり栄養をとらないと、良いお乳が出ないからね」

 

ティファは「ありがとうございます」と感謝を口にし、人妻としての深い幸福を噛み締めるようにスープを口に運んだ。

 

---

 

11時30分。

カフェの開店時間が訪れると、セブンスヘブンにはスラムの住人たちが次々と吸い込まれていった。

 

この時期のティファは、二人分の激しい夜泣きの相手もあって心身の負担が大きく、体力を回復させるためにも育児に専念しており、営業中は店にはほとんど出ない。

ピンボール台のエレベーターで降りた地下の完全なプライベート空間で、双子の面倒を見ながら静かに身体を休めている。

 

そのため、昼のランチ営業とカフェタイムは、マーレとハメル、そしてバレットの三人で店を回している状況だ。

ランチメニューも手間を省くため、だいぶ前からハンバーガーやホットドッグといった手のかからない軽食を中心に切り替えられていたため、ハメルでも十分に調理可能であった。

ハメルがスマートに注文を捌き、マーレが温かい料理を運び、バレットがカウンターの端で目を光らせる。

 

「ハメルの旦那! 今日は一番高い『セブンスヘブンバーガーセット』頼むぜ! トッピング全部乗せだ!」

 

「俺も一番高いコーヒーセットだ!」

 

席についたガラのお悪い常連客たちが、普段なら滅多に頼まない高額なメニューを、次々と威勢よく注文していく。

パティ一枚増量、チーズ、ベーコン、目玉焼き、チリビーンズソース、さらにサイドポテトとサイドドリンクまでついた、豪快かつ圧倒的なボリュームを誇るセブンスヘブンの看板フルオプションセットだ。

普段は安価な単品メニューばかり頼むスラムの男たちが、今日は示し合わせたかのように財布の紐を緩めていた。

 

「おいおい、お前ら今日はやけに豪勢じゃないか」

 

バレットが少し呆れたように声をかけると、客たちはニシシと口元を緩め、どこか照れくさそうに笑ってみせる。

 

「へへッ、まあな! 今日の俺たちは腹が減ってんだよ!」

 

「そうそう! 祝い酒の代わりにどでかいハンバーガーをガッツリ食う気分なんだ! ほらハメルの旦那、さっさと作ってくれや!」

 

野良仕事で荒れた手から出されるギル。

明確なお祝いの言葉こそ口にはしないものの、彼らなりの無骨で不器用な気遣いと祝福がそこには込められている。

厨房で手際よく調理を進めていたハメルは、その空気感を察して口元を僅かに緩めると、鉄板で香ばしくジューシーにパティを焼き上げ、溢れんばかりのトッピングを美しく挟み込みながら静かに応じた。

 

「……了解だ。最高の焼き加減で出そう」

 

カウンターの奥にティファの姿はないものの、ときおりフロアの床下から「ふえぇ……」と微かに赤子の泣き声が聞こえてくるのはご愛嬌だった。

客たちも「お、今日も元気だな」「ハメルの旦那のところの双子か」と笑い合い、それを温かいスラムの日常として受け入れている。

バレットやアバランチの面々も夫婦を気遣って、店が繁盛するよう積極的に客を呼び込んでくれていた。

 

---

 

15時30分。

賑やかなカフェ営業が終了し、店内に再び静寂が戻る。

 

マーレやバレットたちに後片付けを任せ、ハメルはピンボール台のエレベーターで地下へと降りる。

そこは外部の人間を一切立ち入らせない、ハメルとティファの完全なプライベート空間だ。

地下室に戻ると、ここからがハメルの本当の戦いとなる。

 

「ふえぇ……ん、あう……」

 

ベッドの上で、ティベリーとガイルが不穏に身じろぎを始める。

ハメルが様子を見ようと近づいたその瞬間、我が子たちの産着のフロント部分が、じわりと温かい水分で濡れていくのが見えた。

オムツの隙間からおしっこが漏れ出してしまっていたのだ。

 

「ハメル、お願いできる?」

 

ティファが茶目っ気のある笑みを浮かべてハメルを見る。

 

「……了解した。任せてくれ」

 

ハメルは漆黒の上着を脱ぎ捨て、シャツの袖をまくり上げる。

どんな過酷な戦場でもポーカーフェイスを崩さない冷徹な何でも屋――ハメル。

しかし、この予測不能な双子のおしっこ処理だけは、未だに彼にとって最も緊張する瞬間のひとつだ。

 

ハメルはベッドの上でティベリーを仰向けに寝かせた。

ティファはその間にガイルを優しく抱き上げ、衣服の汚れがないかを確認する。

ここでも二人の流れるような連携に一切の淀みはなかった。

ハメルは魔晄の瞳を凝らし、野生の繊細な罠を解除するかのような手つきで、慎重かつ迅速に無骨な手を動かす。

 

まずはテープを外し、濡れたオムツを隔離する。

それから専用のウェットペーパーを使い、傷つきやすい我が子の肌を優しく清拭していく。

力加減を誤ればデリケートな皮膚を痛めてしまうため、ハメルの指先は獲物の毛皮を剥ぐとき以上の集中力でコントロールされていた。

 

しかし、相手は野生の獣よりも気まぐれな赤ん坊だ。

ハメルが新しいオムツを差し込もうとした瞬間、解放感からか、ティベリーが「キャッ」と足をバタつかせながら、小さな噴水のようにおしっこを勢いよく上方に飛ばした。

 

その拍子に、放たれたおしっこが、ハメルの鍛え上げられた前腕へと容赦なく降り注ぐ。

 

「……!」

 

ハメルの頬の筋肉が一瞬だけ強張った。

冷汗が額から一筋流れ落ちる。

 

だが、彼は動じない。

すぐさま左手でティベリーの足を優しく固定し、残尿を受け止めつつ右手で新たなオムツを滑り込ませ、左右のテープを均等な圧力で密着させた。

 

「ふぅ……」

 

息をつく暇もなく、ティファから手際よく引き継いだガイルの処理へと移行する。

ハメルは前腕の洗浄を後回しにし、不意の夜襲を捌くかのような迅速さで、二男のオムツを新しいものへと交換していった。

 

その一連の「黒服の奮闘記」を間近で見ていたティファは、ついに堪えきれずにクスクスと声を立てて笑い出した。

 

「ふふ、あはは! ハメル、顔、すごく怖いソルジャーみたいになってるよ。もっと力を抜いて大丈夫なのに」

 

「……いや、これは凶暴な魔獣の相手よりも骨が折れる。森で罠を設置する方が全然楽だな」

 

ハメルは真顔で前腕を拭きながら応えたが、その表情には、ハンターとしての冷徹さは微塵もなかった。

そこにあるのは、自らの遺伝子を継いだ新しい命を、絶対に目を離さず守り抜くという、不器用ながらも深い父親としての愛情と執念だった。

 

深い眠りについた双子をベッドに寝かせると、地下室には心地よい静寂が戻ってきた。

ハメルは手慣れた挙動でティファの隣に腰を下ろす。

 

我が子の様子に気を配りながらも、彼女の豊かなメートル級の胸元へと手を伸ばすハメル。

双子が吸い尽くしてもなお、乳腺の奥にはまだわずかに液体の質量が残っている。

放置すれば乳腺炎というトラブルを引き起こす原因になる。

 

「マッサージを始める。力を抜いてくれ、ティファ」

 

「うん……、ありがとう、あなた」

 

ティファはハメルの手の温もりに身を委ね、目を閉じる。

ハメルの指先が、人妻としての成熟を極めつつある彼女の果実を優しく解きほぐしていく。

 

地上のスラムがどれほど濁っていようとも、このプライベートな地下室には、ハメルが力ずくで勝ち取った絶対的な幸福の現実が、小さな二つの生命とともに満ち溢れていた。

 

---

 

[μ]-εγλ 0007年5月3日、昼。

 

ハメルとティファの子供達が無事に産声を上げてから、早いもので三ヶ月ちょっとが過ぎていた。

 

七番街スラムの片隅にある地下ガレージに、鋭い電子音と重厚なクランキング音が響き渡る。

ガレージの主であるジャンク屋のジュドーが手にしていた工具を置くと、暗がりに鎮座していた巨体が、魔晄の灯りを反射して鮮やかな蒼穹色の輝きを放っていた。

 

この鉄馬の誕生には、一年近くに及ぶ緻密な計画があった。

昨年の春、ハメルはウォール・マーケットの地下闘技場『コルネオ・コロッセオ』に出場し、並み居る強豪を圧倒して見事に優勝を果たす。

その際、莫大な優勝賞金を無事に回収したハメルは、その資金の一部を投入し、七番街スラムでガレージを構えるジャンク屋のジュドーへ、特別な大型バイクの構築を極秘裏に依頼したのである。

 

それから一年、ジュドーはハメルの指定に従って闇ルートから最高級の軍用パーツを買い集め、この地下ガレージで丹念な組み上げ作業を続けてきた。

本日はその進捗の確認と最終チェックのため、ハメルがここを訪れていたのである。

 

「よぉ、ハメルの旦那! ちょうど最後の調整が終わったところだぜ。持ち込まれた設計案といい、パーツの質といい……とんでもねえ化け物が仕上がったな! スラムにゃ勿体ねえほどの重装甲じゃねえか!」

 

油のついたタオルで額の汗を拭いながら、ジュドーが興奮した様子で車体を叩く。

その車体は、長距離の荒野爆走に耐えうる超高出力のツインエンジンを心臓部に持ち、対物ライフルの一撃すら弾く重装甲で固められている。

サイドカーには最高性能の衝撃吸収システムが組み込まれ、長時間の移動にも耐えられる設計だ。

これならば、バイクでありながら動く要塞として機能するだろう。

 

ハメルはガルムのインジケーターを冷徹にチェックする。

全ての駆動系が完璧な数値を弾き出しているのを確認すると、ジュドーの手腕を認めつつ、満足げにサイドカーのフレームを撫でる。

 

「頼んでた追加パーツの代金と工賃だ」

 

ハメルは懐から重みのある厚い封筒を取り出すと、ジュドーへ向けて差し出す。

封筒の隙間から覗くギルの札束を目にしたジュドーは、「へへっ、まいどあり! 旦那は相変わらず支払いがスッとしていて助かるぜ」と破顔し、受け取った封筒をポケットへと放り込む。

 

これで、世界の運命をどれほど変えようとも助けたい人間を乗せて世界の果てまで駆け抜けることができる。

 

「そうそう。旦那が来る少し前にマテリア商ってやつが来てね。これを預かってくれと置いていったぜ」

 

ジュドーがニカッと笑い、一振りの小箱を放り投げてくる。

それは、昨年の八月にジュノンからミッドガルへ向かうハイウェイバスでハメルと乗り合わせた、あのマテリア商からの届け物だった。

ハメルはその時の縁で、この商人に希少なマテリアの調達を依頼していたのだ。

 

ハメルはそれを受け取ると、愛用の複合弓のコアスロットへと滑り込ませる。

カチリ、とマテリアが収まると、弓のフレームに刻まれた魔晄ラインが深い緑色に明滅する。

このマテリアの特性を己の武器と同調させることで、放った矢が命中した対象の神経系に干渉し、強制的に深い睡眠状態へと移行させることが可能となる。

 

ハメルは弓を引き絞り、無音の空間に対して照準を合わせる。

 

(この矢は、来るべき戦いで運命を欺くための番狂わせになる――)

 

彼はハンターとしての冷徹さで、魔晄の力を矢に宿す術を脳内でシミュレートし、そのスキルを極限まで磨き上げるプランを練り上げる。

 

---

 

[μ]-εγλ 0007年5月3日、夕方。

 

時計の針が夕方を指す前、ハメルは愛用の弓をガレージに収めると、五番街スラムへと向かう。

今日はティファの二十歳の誕生日であり、夜には身内を集めた宴が予定されている。

 

ハメルは数日前、今年も誕生日用の花束を頼むために五番街スラムの教会を訪れていた。

その際、エアリスにティファとの間に双子の子供が生まれたことを伝えると、彼女は信じられないといった様子で目を丸して驚き、それから「ええっ!? 本当に!?」と少女のようにはしゃぎ出したのだった。

 

『迷惑じゃなかったら誕生日パーティー、私も招待してほしいなー、なんて』

 

そう切り出したエアリスは、『ちょっと図々しいかな。でもハメルとティファの赤ちゃんたち、見たいなー』と、悪戯っぽく上目遣いで微笑んだ。

まさかそんな展開になるとは思っていなかったハメルだったが、彼女の純粋な好意を断る理由もなく、思わず承諾していたのだった。

 

五番街の家に到着すると、エアリスは約束通り、自分で焼き上げたドライフルーツのパウンドケーキを大事そうに抱えて待っていた。

甘く香ばしい匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。

 

ハメルは私生活の充実を胸に彼女を七番街のセブンスヘブンまでエスコートするため、二人で歩き出す。

エアリスの手にはティファのための美しい花束が握られている。

 

しかし、スラムの道中は平穏ではない。

特にエアリスが持つパウンドケーキのバターと果実の甘い匂いに釣られて、道中の廃墟や、近道として選んだ薄暗い地下道からは、凶暴なモンスターや血気盛んな盗賊たちが容赦なく襲いかかってくる。

 

「ハメル、来るよ!」

 

「エアリス、下がっていろ」

 

ハメルは動じることなく弓を引き絞ると、薄暗い闇の奥から迫る敵の数を的確な連射で一気に減らしていく。

間合いを詰めてくる残りわずかな脅威に対しては、間髪入れずに弓を背へと収め、左右の腰に吊るした二振りの小剣を両手で一閃させながら抜き放った。

野生の獲物を狩るハンターのしなやかな足取りのまま、舞うような美しさと容赦のない速さで刃を振るい、迫る敵を瞬く間に斬り伏せていく。

一歩もエアリスに近づけさせることなく、全ての敵を冷徹に排除してみせた。

 

「わあ……ハメル、強ーい!」

 

エアリスは感心したように声を上げ、それから小さく「ザックスと同じくらいかな」と呟いた。

ハメルはその耳慣れた名を聞かなかったことにし、何食わぬ顔で水色の瞳を前方に向け、再び彼女を先導した。

 

---

 

[μ]-εγλ 0007年5月3日、夜。

 

夜の帷が閉まる頃、セブンスヘブンの扉が開くと、ホールは熱気に包まれていた。

店内はバレット、ジェシー、ウェッジ、ビッグスらアバランチの面々と、マリン、そして天望荘の大家であるマーレらがすでに集まっている。

 

「みんな、エアリスを連れてきた」

 

ハメルがエアリスを紹介すると、エプロンを外した主役のティファが目を輝かせて駆け寄ってきた。

 

「エアリス! まさか本当に来てくれるなんて……感激だわ!」

 

「ティファ、二十歳の誕生日おめでとう! はい、これお祝いの花束と、私が焼いたケーキ!」

 

「ありがとう! 嬉しい!」

 

二人の美女が華やかに微笑み合う中、エアリスの視線がティファの胸元へと釘付けになった。

産後三ヶ月ちょっとが経過したティファの肉体は、毎朝の「インナーマッスル構築呼吸法」の恩恵により、驚異的な復元を見せていた。

ウエストの美しいクビレは全盛期のサイズへと確実に近づきつつあったが、まだ産後特有の女性らしいふくよかな柔らかさを残しており、それがかえって生々しい人妻としての豊潤な色気を醸し出している。

さらに双子に与えるための母乳が常にフル稼働で分泌されていることで、トップ100センチを優に超える果実は、衣服の上からでも圧倒的な質量感をもって存在を主張していた。

 

「すごーい、ティファ! 赤ちゃん産まれるとこんな大きくなるのね」

 

エアリスは裏表のない、純朴な反応で目を丸くした。

 

「ふふ、そうなの。ちょっと重くて大変なんだけど……」

 

ティファが少し照れくさそうに微笑むと、エアリスは興味津々に目を輝かせて言葉を重ねた。

 

「ねぇ、ちょっとだけ触ってもいいかな?」

 

「え、あ、いいけど……」

 

予想外の打診にティファが戸惑つつも応じると、エアリスは無邪気に歓声を上げた。

 

「やったー!」

 

ハメルと生まれたばかりの赤ちゃんたち以外の男は、決して触れることすら許されない、独占された魅惑のティファのバスト。

それをエアリスは「わあ、本当にずっしりしてる!」ときゃっきゃウフフと遠慮なく触りまくり、その圧倒的な感触を確かめていた。

 

「もう、エアリス触りすぎ! ああん……っ」

 

あまりの揉まれっぷりと、張った胸への予期せぬ刺激に、ティファは思わず可愛らしい声をもらしてしまう。

その光景をカウンターの端から目撃したジョニーは、あまりの羨ましさに顔を真っ赤にし、「くぅー、うらやましー! 俺にも代わってくれーーっ!」と心の中で血涙を流しながら激しく身悶えしていた。

 

しかし、ジョニーがそんな破廉恥な妄想で身悶えしている間にも、エアリスの無邪気で可憐な姿そのものが、彼の心を別の意味で直撃していた。

 

「ねえねえティファ、赤ちゃんたちの顔見せて! ティファ似かな?それともハメルそっくり?」

 

エアリスがキラキラとした笑顔で弾むように言うと、ティファは「じゃあ、お客さま、どうぞこちらへ」とカウンターの奥にある移動式ベビーベッドへと案内した。

 

ベッドの中では、お腹がいっぱいになって機嫌の良いティベリーとガイルが「あうー」「くぅ」と可愛らしい声を上げていた。

三ヶ月を過ぎた双子はすでに首がすわり始めており、覗き込んできたエアリスと、その横にいたマリンが指を差し出すと、二人同時に頬を緩めてニコッと無垢な笑顔を浮かべた。

その奇跡とも言える愛らしさは、まさに最高位の女神の申し子のようであり、見守る大人たちの心を完全に蕩けさせていた。

 

「かわいーーい! 本当に言葉を失うほどの愛らしさじゃん!」

 

エアリスが歓声を上げると、隣にいたマリンも「ね、かわいいでしょ!」と自慢げに笑う。

エアリスはその親しみやすさで、マリンともすぐに大の仲良しになっていた。

 

「フン……まあ確かにハメルとティファのガキどもも、赤ん坊にしちゃあ大した可愛さだがな! だが、世界で一番可愛くて良い子なのは、どう考えたってうちのマリンだぜ! そこだけは譲れねえな!」

 

バレットがどこか対抗心を燃やすように大きな胸を張って親バカ全開で言い放つと、すかさずマーレにお玉で「あんたはすぐそうやって......野暮な張り合いをするんじゃないよ!」とピシャリと叩かれている。

 

店内に爆笑が広がる中、先ほどまで身悶えしていたジョニーは、新しくやってきたエアリスの可憐な姿を改めて間近で見た瞬間、完全に雷に打たれたような顔になり、今度は血眼になって彼女を見つめ始めた。

長年抱いていたティファへの未練から、一瞬でエアリスへと鞍替えしたのだ。

 

「お、俺はジョニー! 五番街の花売りさん、君のその瞳、まるで――」

 

ジョニーがキザなポーズで詰め寄るが、エアリスは一歩引いて「うわ、なんか凄いね……」と完全にドン引きした表情を浮かべ、ハメルの背中に隠れてしまった。

 

そんな賑やかな宴の最中、ハメルが静かにティファの隣へと歩み寄った。

その手には、一通の重みのある封筒が握られている。

 

「ティファ、今年の誕生日プレゼントを受け取ってくれ」

 

ティファが不思議そうに封筒を受け取り、中に入っていた書状を取り出す。

そこにあった文字を目にした瞬間、彼女の紅い瞳が激しく見開かれ、大粒の涙で深く潤んだ。

 

「ハメル……、これって……セブンスヘブンの、借金の完済の証書……!?」

 

「ああ。6月末と12月末の、合計40万ギルを大工の棟梁に繰り上げ払いしてきた」

 

ハメルは妻の肩を抱き寄せた。不労所得の蓄えは、惜しみなくこの瞬間のために使われたのだ。

これによって、名実共にセブンスヘブンは誰にも脅かされることのない、ハメルとティファの持ち家となった。

 

「これで、このセブンスヘブンは完全に俺とティファの家になった。俺たち家族の新たな故郷にしよう」

 

「ありがとう、あなた……! 本当に、ありがとう……!」

 

至上の幸福感に包まれたティファは、完済証書を胸に抱きしめたまま、ハメルの逞しい胸板へと全力で飛び込んだ。

授乳期特有の熱を帯びた重厚な質量がハメルの身体に強く押し付けられ、私生活の圧倒的な充実が確かな質量となってハメルに伝わる。

ティファは夫の首に腕を絡め、溢れ出る涙を隠すようにその胸に顔を埋めた。

 

---

 

楽しい宴も終わり、パーティーが終了した夜更け。

ジョニーがここぞとばかりに胸を張り、エアリスの前に進み出た。

 

「エアリスさん! 夜のスラムは危険だ、この俺が五番街スラムのご自宅まで責任を持って送らせて――」

 

「あ、遠慮しとくね。ハメル、護衛頼める?」

 

エアリスはジョニーの申し出を笑顔で一蹴し、すっとハメルを指名した。

ジョニーは「な、なんでぇ!?」と目に見えてショックを受け、その場に白く燃え尽きたようにへたり込んだ。

エアリスはクスクスと笑いながら、「なんか、送り狼になりそうだしね」と言い残した。

 

ハメルがエアリスを送りに出ようと腰を上げると、ティファがそっと歩み寄ってきた。

 

「気をつけてね」

 

ティファはハメルの首に腕を回すと、愛おしさを込めてその唇に深く口づけを交わした。

人妻としての深い情愛に満ちた二人のラブラブな様子を目の当たりにし、エアリスは両手を頬に当てて「ひゅーひゅー!」と楽しそうに囃し立てた。

 

ティファは少し頬を赤らめながらも、エアリスの手を優しく握った。

 

「エアリス、また遊びに来てくれると嬉しいな」

 

「うん、ティファまたね」

 

二人は温かい言葉を交わし、再会を約束する。

 

ポイントしてエアリスは店を出る直前、移動式ベビーベッドですやすやと眠る双子たちの方を振り返った。

 

「いっぱいティファのおっぱい飲んで大きくなるんだぞー」

 

最後にティファの子供たちへと元気に声がけをして微笑むと、エアリスはハメルと共にセブンスヘブンを後にした。

 

夜の冷気が満ちるスラムの道を、二人は静かに歩く。

ハメルは周囲の気配を警戒しつつ、エアリスの歩調に合わせて歩を進めていた。

 

道中、エアリスがふと足を止め、遥か頭上に広がる神羅の巨大なプレートを見上げた。

鉄骨の隙間から漏れる人工的な光を見つめながら、彼女はどこか遠い目をし、ぽつりと呟いた。

 

「ハメルもティファも……家族を作って、自分の足で前に進んでるんだね。私……ずっとあの場所で、立ち止まったままだったのかも」

 

その言葉が、かつてスラムから姿を消し、去っていったザックスという男への過去の執着であることを、ハメルは静かに察していた。

彼女の中で凍りついていた時間が、温かな家庭を築いたハメルとティファの姿に触れたことで、ゆっくりと溶け出し始めている。

 

「……私もそろそろ、前を向かなきゃね」

 

エアリスは小さく息を吐き出すと、俯いていた顔を上げてハメルを見た。その瞳には、過去の感傷を振り切るような確かな光が宿っている。

 

彼女は迷いを断ち切るように、しっかりと一歩を踏み出した。

止まっていた時間が動き出し、己の足で未来へ歩みを進め始めたエアリスの背中を、ハメルは余計な言葉を挟むことなく、水色の魔晄の光を湛えた静かな瞳で見守る。

 

暗いスラムの道を進む彼女の足取りは、先ほどよりもどこか軽やかで、力強かった。

過去への囚われを捨て、新たな未来へと踏み出したエアリスの確かな一歩を隣で感じながら、ハメルは彼女を無事に送り届けるべく、静かに夜の闇の中を共に歩み続けた。

 

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