[u]-εγλ 0004年4月初旬。
季節は巡る。
七番街スラムの「天望荘」に拠点を移し、二階の隣室を事務所として正式に稼働させ始めてから、すでに半年。
ハメルとティファの二人は「何でも屋」を軌道に乗せるため、とにかくがむしゃらに仕事に専念する日々を送っていた。
余計な思想や派閥に関わる余裕など一切ない。
依頼を一つずつ確実にこなしていくことだけに全神経を注ぎ込む。
一件一件が苦難の連続であった。
一人であれば、スラムの重い現実に耐えきれなかったかもしれない。
だが、今の二人には絶対的な拠り所があった。
身も心も深く愛しみ合う、お互いの存在だ。
スラムで必死にサバイヴしていこうとする彼らにとって、娯楽に費やすような金や暇は勿体無い。
天望荘の片隅で毎夜重ねる密やかな愛の交歓。
それだけが一日の疲れを完全にリセットし、明日を生きる活力となる。
これほど貪欲に、剥き出しの本能のままに愛し合えるのは、入居初日に大家のマーレから授けられた『バリア』のマテリアがあるからに他ならない。
ティファの手首のバングルにセットされ、彼女の胎内へと確実に展開されるその防壁――『避妊の結界』。
その完璧な稼働のおかげで、二人は望まない懐妊という現実的なリスクを一切恐れることなく、何度でも深く、心ゆくまで互いの熱情をぶつけ合うことができるのだ。
スラムを生き抜く冷徹かつ確実な生活の知恵として、若すぎる二人の未来を守る最高のお守りを授けてくれたマーレの深い配慮に、二人は毎夜の営みを迎えるたび、心からの感謝を抱かずにはいられなかった。
夜の甘いお楽しみがあるからこそ、昼の過酷な仕事を頑張れる。
それはまるで、相反する男女の陰と陽が引き寄せ合い、一つの完璧な調和を生み出すかのような、二人の肉体と生活における素晴らしい好循環をもたらしていく。
薄暗いランプの光だけが灯る静かな部屋で毎夜、お互いの体温を確かめ合うように深く寄り添うハメルとティファ。
「ハメル……今日も一日、本当にお疲れ様。東地区の修繕作業、大変だったでしょう?」
ティファが長い黒髪を揺らしながら、ハメルの逞しい胸板の傷跡にそっと手を添えて気遣わしげに見上げる。
ハメルはその柔らかい手を握り返し、深い水色の瞳で彼女を優しく見つめる。
「ティファが事務所で完璧に情報を整理して、美味い食事を用意して待っていてくれるんだ。この程度の労働、なんてことはないさ」
「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいな。……ねえ、ハメル。こうしてあなたに抱きしめられていると、仕事の疲れが全部解けて、身体の奥がすごく熱くなるの……」
「俺もだ、ティファ。ティファをこの腕に抱いて、その吐息を感じている瞬間だけが、俺の心と体を完全に満たしてくれる」
「ん……もっと、きつく抱きしめて……。私のすべてで、あなたを幸せにしてあげたいの」
そう言ってティファが少し上目遣いで愛らしく唇を求めると、ハメルは男の本能のままに彼女の身体を引き寄せ、優しく、しかし情熱的な舌使いで深く唇を重ねる。
互いの肉体を深く求め合い、細胞の隅々まで愛を注ぎ込むような濃密な時間は、二人の生活に確かな駆動力を与えている。
特に、互いの情熱が最高潮に達した刹那、ハメルの強靭な肉体から解き放たれる熱い生命の奔流を、自らの肉体の最奥で直接受け止める瞬間は、ティファにとって至上の悦びとなっていた。
通常の人間同士の営みであれば、その瞬間の微かな衝撃を女性が明瞭に捉えることは稀である。
しかしハメルは、かつて故郷で魔晄エネルギーをその身に宿した、天然のソルジャーとも言える圧倒的な生命力の持ち主だ。
彼から迸る情熱の飛沫は、量も勢いも常人を遥かに凌駕し、濃厚な生体パワーに満ち溢れている。
『バリア』の結界に守られた自らの胎内の奥深くへと、ハメルの確かな生の証が強く打ち付けられ、熱く満たされていく衝撃。
それをただの予感ではなく、明確な体感として全身の神経で鮮烈に受け止められることが、彼にすべてを捧げるティファの幸福感をどこまでも高めていくのだった。
その濃密な生活を送る中で、二人の肉体は劇的に変化する。
女の味を深く知ったハメルの身体は、愛するメスを守るためにオスとしてさらなる進化を遂げていく。
元々は引き締まった肉体だったが、かつて故郷ニブルヘイムで日課として浴びていた魔晄エネルギーが、ここでの激しい鍛錬と夜の濃厚な営みによって一気に活性化。
ハメルの肉体を内側からさらに逞しく成長させ、顔つきも精悍さが増し、大人の男としての色気が静かに漂い始めていた。
一方で、男の味を深く知ったティファの身体もまた、最愛の男を魅了するかのように劇的な変化を遂げていた。
元より整っていたスタイルはその凄みをさらに増し、衣服越しでも主張の激しい胸周りの豊満さや、しなやかな腰つきのラインは息を呑むほど完璧なものへと進化していた。
その顔つきも一層の華やかさを増し、豊かな黒髪とともに、大人の女としての濃密な色香を全身から漂わせ始めている。
変化が現れたのは、もちろん身体つきだけではない。
この良好な循環の中で、二人の能力はメキメキと向上していく。
ハメルは得意のモンスター狩りだけでなく、建物の修繕や失せ物探しといった日常の細々とした依頼に対応するスキルを柔軟に向上させ、ティファはザンガン流の拳法にさらに磨きをかける一方で、日々の生活を支えるための家事全般のスキルを貪欲に習得していった。
夜の営みにおける互いの呼吸や相性も、日を重ねるごとに精度を増していき、至高の領域へと磨き上げられる。
身も心も完全に溶け合い、互いだけを満たし合う二人の間には、もはや他の何者かが割り込む隙など一ミリの余地もない、強固で絶対的な関係性が出来上がっていた。
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[u]-εγλ 0004年4月下旬。
二人の「何でも屋」の経営もようやく安定してきた頃、自警団からの依頼が入る。
七番街スラムの外周に住み着いた新種モンスターの生態調査だ。
自警団と合同で行うことになる数日間に及ぶ広範囲の調査のため、自警団はできるだけ多くの人手を欲していた。
マーレの大家の手伝いも暇な時期であったため、ティファが「ハメルの相棒として、たまには隣で力になりたい」と同行を志願したため、二人揃って調査に参加する運びとなる。
この半年間、自警団のジェシー、ビッグス、ウェッジの三人は、決して怪しい動きを見せることはなかった。
それどころか、新参者の二人を心配して親身に仕事を斡旋してくれたり、治安維持のために共同で魔物を間引きしたりと、ごく健全で頼もしい仲間として接してくれている。
今回の依頼もその一環だった。
ハメルはこれまで『何でも屋』として彼らと幾度か戦場を共にしており、その確かな実力と度胸は誰よりも高く評価されていた。
しかし、いつも事務所でハメルの帰りを健気に待っているティファが、前線の実戦に参加するのはこれが初めてのことだった。
そのためジェシーたちは、彼女を臨時に駆り出された「可愛い事務員さん」程度に思っており、危険な荒野へ同行することに少なからず心配を抱いていた。
そんな彼らとスラム外周の荒野を進む道中、突如として前方から無数の気配が這い出してくる。
現れたのは、鋭い牙を持つ凶暴な新種の魔物たちの群れだった。
一斉に緊張が走る中、ハメルはすかさず弓剣を構え、隣のティファへと視線を向けた。
「ティファ、ミッドガルに来てからはこれが初の実戦だ。あまり前に出すぎるなよ。危なくなったらすぐに俺の後ろへ引け」
愛する者を案じるハメルの低く優しい気遣いの声。
だが、ティファは怯えるどころか、その真っ直ぐな紅い瞳に格闘家としての鋭い輝きを宿し、不敵にさえ見える笑みを浮かべた。
「ふふ、心配してくれてありがとう、ハメル。でも大丈夫。ニブルヘイムにいた頃は、ザンガン師匠の修行の一環で、よく山に入って魔物をしばいてたんだから。……それにね、なんだか不思議。久しぶりの本格的な実戦だからかな、身体の奥がすごく昂って、ワクワクしてるの」
どこか艶やかさすら感じさせる凛とした声を響かせると同時に、ティファは愛用のバングルをはめた拳を力強く打ち合わせた。
先陣を切ったハメルの正確無比な弓剣二刀流が敵の群れを切り裂く。
そして、その背後から飛び出したティファの身体が、しなやかに躍動した。
目にも留まらぬ速さで繰り出される、ザンガン流拳法の鋭烈な打撃。
華奢な外見からは想像もつかない質量を孕んだ拳と蹴りが、魔物の強固な外殻を文字通り一撃で粉砕していく。
ハメルの立ち回りに一歩も遅れることなく、むしろその死角を完璧にカバーする彼女の戦いぶりは、ミッドガルでの初実戦とは到底思えないほど完成されたものだった。
二人の圧倒的な力によって、群れは瞬く間に一掃される。
「ちょっと……ひゅー! ハメルの凄腕は知ってたけど、ティファ、あんた何者!? 可愛らしいだけのお嬢さんかと思ってたら、今の魔物を素手で片端から叩き潰すとか、キレッキレの武道家じゃない!」
スクラップの転がる路地で、ジェシーが文字通り目を丸くし、驚愕と興奮を隠せない様子でティファの肩を揺さぶる。
「ハメルさんの二刀流は相変わらず化け物っすけど、ティファちゃんの拳打、速すぎて全然目が追いつかなかったっすよ……!」
ウェッジが大きな肉まんを落としそうになりながら器用に親指を立て、ビッグスも驚きに引きつった顔を頼もしげな笑みへと変えて頷いた。
「ああ、ハメルから腕が立つとは聞いていたが、まさかこれほどとはな。ただ守られるだけの女の子じゃないどころか、俺たちなんかより遥かに強い。こんな心強い味方が加わってくれるなら、今回の調査は百人力だ。本当に助かるよ」
初めて目の当たりにしたティファの規格外の強さと、ハメルとの息の合った連携。
自警団の面々は新参者の少女への認識を完全に改め、心からの感嘆と賞賛の言葉を惜しまなかった。
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やがて夜が訪れ、周囲に見張りのための簡易テントを設営すると、夜間の張り込みの時間が訪れる。
ハメルやビッグスといった男たちは、女性陣を夜の危険な見張りに立たせるような真似はしなかった。
「見張りは俺たちが交代で対応する。二人は奥のテントで身体を休めておいてくれ」
ハメルから静かにそう告げられ、前線で少しでも彼の負担を減らしたかったティファは「でも、私も一緒に……」と少し戸惑いを見せる。
だが、隣にいたジェシーは「もう、ハメルもビッグスも優しいんだから! じゃあ、お言葉に甘えて!」と快活に笑うと、ティファの腕を引いて、支給された待機用のテントへと強引に連れ込んだ。
「こういう時はね、男たちの気遣いに素直に甘えて、しっかり体力を温存しておくのが賢い女のやり方よ」
薄暗いテントの中、ランタンの微かな光に照らされながら、ジェシーは潜めた声を弾ませる。
「じゃ、せっかくだし、今のうちに女子トークしちゃいましょうよ! それにしてもさ、ティファとハメルって本当にいつもラブラブよね! 昼間の仕事も夜の雰囲気も息ぴったりだし、見てるこっちが羨ましくなっちゃうくらいお似合いだわ!」
ジェシーがいつもの調子でひゅーひゅーと囃し立てると、ティファは湯上がりのように頬を赤らめ、少しはにかむ。
「そ、そんなことないよ。ハメルはただ、何でも屋のパートナーとして私を気遣ってくれてるだけで……」
「またまたー、隠さなくてもいいって。ねえねえ、そもそも二人の馴れ初めってどんな感じだったの? どっちからアプローチしたわけ?」
ジェシーが興味津々といった様子で身を乗り出してくる。ティファは少し照れくさそうに微笑みながら、静かに答えた。
「アプローチっていうか……私たち、村にいた頃は、周囲から許嫁(いいなずけ)って言われてたの」
「ええええっ!? 許嫁!?」
ジェシーは文字通り飛び上がらんばかりに驚き、目を丸くした。
「うっそ、何それ! そんなお姫様みたいな設定、本当にリアルにあるの!? ひゅーひゅー! 昼間からあんなにお似合いの相棒ってだけでもごちそうなのに、まさかの許嫁とか、ドラマのヒロインじゃん!」
「もう、ジェシー、声が大きいよ……」
ティファは慌ててジェシーの口を手で押さえながら、顔を耳まで真っ赤にする。
「周りの大人たちが勝手に盛り上がってただけ。ハメルは村長の息子だったし……それに、同世代の男の子たちが次々と村を出ていってからは、ずっと彼と二人きりで過ごすことが多かったから……」
「へぇ、村長の息子! じゃあ、村の跡取り息子と村一番の美少女の婚約ってわけ? なんだかおとぎ話みたいで最高にロマンチックじゃん! ……ってことは、多感な時期を二人きりで過ごした筋金入りの幼馴染ってわけね! あーもう、ますます羨ましい! ……ねえ、それってどこの村の話?」
ジェシーの何気ない問いかけに、ティファの動きが微かに止まる。
脳裏をよぎる、今はなき故郷の景色。彼女は少し視線を落とし、ぽつりと呟くように答えた。
「……ニブルヘイム」
「ニブルヘイム?」
ジェシーは首を傾げ、記憶を探るように天井を見上げる。
「ニブルヘイム、どっかで聞いたことがあるような……ああ! 最初の魔晄炉が作られたとこね。だいぶ昔に廃棄されたって話だけど」
「廃棄……」
ティファの肩がびくりと震える。
その美しい紅い瞳の奥に、突如として激しい感情の波が湧き上がる。
神羅カンパニーによって都合よく情報封鎖され、「廃棄された」という一言で処理されている故郷の真実。
「そう……あんな魔晄炉さえ、あんなものさえ無ければ……!」
ティファの絞り出すような声に、ジェシーはただ事ではない気配を察した。
しかし、詮索するのではなく、歳の近い同性として、親身になって寄り添うように優しくティファの手を包み込む。
「ティファ……?」
目の前で本当に心配してくれるジェシーの温かさに、ティファの張り詰めていた防衛本能が完全に融かされてしまう。一度溢れ出た思いは、もう誰にも止められなかった。
ティファは涙を堪えるように視線を彷徨わせながら、胸の奥に溜め込んでいた日々の葛藤を吐露し始める。
「……ハメルにはね、本当に感謝しているの。でも、時々すごく怖くなる。私、ハメルに依存しすぎているんじゃないかって。日々の何でも屋の仕事だって、私は事務所で情報を整理するくらいで、危険な戦闘や大変な作業はいつもハメルが引き受けてくれる。生活の面でも、肉体的にも精神的にも、全部ハメルに甘えて、守られてばかりなのに……私はハメルに、何一つお返しができていないの」
そこまで言うと、ティファの大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出し、細い指先を濡らしていく。
「それにね……日常の事だけじゃないの。あの一年前のニブルヘイムの事件で、お父さんも街も全部神羅に燃やされて、失って……帰る場所をなくしたあの時、ハメルは私を庇って、セフィロスに刺されて瀕死の重傷を負ったの。ザンガン師匠が、私と動けなくなったハメルをあの地獄から連れ出してくれて、このミッドガルに辿り着いてからずっと……私の世界には、ハメルしかいなかった」
「セフィロスに、刺された……!? 村が、神羅に……?」
ジェシーは驚愕のあまり息を呑む。
世界を騙す神羅の巨大な欺瞞と、英雄の裏の顔。
傷ついた少女が背負ってきたあまりにも過酷な現実。
ジェシーは言葉を失うが、ティファの告白は止まらない。
「みんながあんな目に遭ったのに、私だけがハメルとこんなに毎夜幸せに満たされていていいのかなって、強い罪悪感に押しつぶされそうになるの。それに、ハメルと一緒に過ごしすぎているから……、彼に依存しきっちゃってる自覚はあるんだ。もっと自立しなきゃいけない、一人の人間として強くなって、ハメルの隣に胸を張って立てるようにならなきゃいけないって分かっている……。でも、ハメルと離れるのは、一瞬だって絶対に嫌なの……っ」
途切れ途切れに、しかし張り裂けそうな胸の内を吐露しながら涙を流すティファの細い肩を、ジェシーは痛ましい表情で、しかし優しく包み込むようにそっと抱き寄せた。
ジェシーの持つ天性の親しみやすさと包容力、そして同じ女性としての連帯感があったからこそ、ティファは自らの脆く繊細な本音と、秘匿すべき過去のすべてを曝け出すことができたのだ。
この夜以来、ジェシーはティファが背負うあまりに過酷な傷跡と、ハメルへの狂おしいほどの深い恋情を、より一層身近な存在として気遣い、見守るようになっていく。
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[u]-εγλ 0004年5月3日。
ティファが十七歳の誕生日を迎えた日の夜。
なんでも屋の仕事を終えた受付で、ジェシーがティファの元へ歩み寄り、お祝いの言葉とともに、一枚の控えめな案内状を差し出してくる。
「ティファ、十七歳のお誕生日おめでとう! ……これ、最近よく頑張っているティファに、私からのちょっとしたプレゼント。故郷のことで今でも胸が苦しくなることがあるって言ってたでしょう? 今夜、私が通っている『星命学』の講義があるの。気分転換にもなるし、心が少し軽くなるかもしれないわ。一緒に来てみない?」
ジェシーはそう快活に言い残すと、ひらひらと手を振って事務所を去っていく。
ドアが静かに閉まった後、受付にいるティファはハメルの方を振り返り、少し声を潜めて相談を切り出す。
「ハメル、さっきのジェシーの話なんだけど……どうしよう。実はね、八番街スラムの饅頭屋で働いていた頃、ラケスから裏で強く注意を受けたことがあるの。ジェシーやビッグスたちは『神羅の目を盗んでコソコソ動いている良くない連中』だから、あまり深く関わるなって。だから、今回の星命学の講義っていうのも、ただのサークル活動じゃないかもしれないと思って……」
ティファの懸念を耳にしたハメルは、その水色の瞳を微かに細める。
原作知識を持つハメルにとって、このタイミングでの誘いが何を目的とした勧誘活動であるかは火を見るより明らかだ。
ジェシーたちはティファの境遇に深く同情しつつも、同時にその高い戦闘能力と神羅への潜在的な反発心を見込み、アバランチの本隊へ引き込むためのステップへと、ついに舵を切ったのだ。
だが、ハメルはこれを絶好の好機と捉える。
神羅カンパニーという巨大な欺瞞をいずれ打倒するためには、地元の反神羅勢力の動向を把握し、利用できる繋がりは作っておくべきだからだ。
ハメルはティファの不安を和らげるように、静かに、しかし確信に満ちた声で肯定の意志を示す。
「アバランチの内情や彼らの規模を探るには、むしろ良い機会だ。ティファ、その誘いに乗ろう。もちろん俺も同行する。それに、純粋な星命学の講義なら、ティファの心の平穏に繋がる教えもあるかもしれないからな。行って損はないさ」
「ハメルがそう言ってくれるなら……分かったわ。一緒に行きましょう」
ハメルの冷静な判断にティファは深く安堵し、信頼を寄せるように微笑む。
二人はジェシーに案内され、夜の帳が下りる頃、七番街スラムの郊外へと向かう。
高く積み上げられた鉄屑に囲まれたスクラップ置き場。
その奥にひっそりと佇む古びた一軒家が、星命学の集会場だ。
その隠れ家のような集会で教壇に立っているのは、ユーリ・ロマーナという名の、知的で穏やかな佇まいをした高名なメンターだった。
ユーリの語る講義は、概念的な精神論ではなく、驚くほどシステム化された生物学的・科学的なアプローチに満ちており、ティファにとって非常に興味深く、新鮮なものだ。
「この星を流れるライフストリームとは、惑星規模の巨大な精神エネルギーの循環システムです。私たちはそのエネルギーから肉体を構築されて生まれ、機能が停止すれば、細胞の崩壊とともに再び星の巡りへと還元されていく。死とは生命の完全な消滅ではなく、形を変えて惑星の駆動エネルギーの一部となる、大いなる生物学的循環のプロセスなのです」
ユーリ・ロマーナの理路整然とした解説は、理不尽に命を奪われた父親や故郷の人々の魂が、決して虚無へと消え去ったわけではないという強力なロジックとして、ティファの胸の奥深くに驚くほどすんなりと染み渡っていく。
「ハメル……お父さんたちも、完全に消えちゃったわけじゃないのね。この星の流れるエネルギーの中で、その一部として今も生きているんだわ」
集会の帰り道、ティファはハメルの逞しい腕に寄り添い、長年縛られていた凄惨な記憶の重圧から、精神的に救われたような表情を見せた。
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それから幾度か、ティファはハメルに付き添われて、『星命学』の講義に参加する。
その四回目となる集会の夜。
スクラップ置き場の一軒家で、ユーリ・ロマーナが教壇に立ち、精神エネルギーの動態流動について解説を始めたその瞬間、建物の古びた扉が激しい音を立てて蹴り破られる。
「動くな! 反神羅分子の違法集会だな! 全員拘束しろ!」
神羅の制式アサルトライフルを構えた一般兵の部隊が、一斉に室内に雪崩れ込んでくる。
さらにその後方からは、不気味な駆動音を立てる神羅製の小型四脚機械兵器が数台、銃口を光らせて突入してくる。
場内は一瞬で悲鳴とパニックに包まれる。
これには明確な理由がある。
去年の五月にコレルで発生した魔晄炉爆破事件。
それが反神羅組織「アバランチ」の仕業であると断定されて以来、ここ最近になって急激に神羅による下層スラムへの締め付けと取り締まりが厳しくなっていたのだ。
その過剰な警戒の煽りを受け、アングラな場所で行われていたこの集会も、神羅の警備部隊に目をつけられ急襲されたのである。
(チッ……まだ神羅と決定的に敵対して、公に目をつけられるわけにはいかないな)
ハメルは瞬時に戦況を計算する。
ここで兵士たちを殺害すれば、即座に本格的な指名手配を受け、七番街スラムに居られなくなる。
「ティファ、俺の後ろにいろ。兵士は無力化する。機械を叩け!」
「了解!」
ハメルが低く冷徹な声を放つと同時に、その身体が爆発的な速度で駆動する。
ハメルは長年培ってきた隠密の身のこなしで、神羅兵たちの射線の隙間を縫うようにして一瞬で肉薄する。
驚愕する兵士たちに対し、腰の左右から抜き放った二振りの小剣の峰や柄頭を使い、目にも留まらぬ速さで強烈な当て身を叩き込んでいく。
アサルトライフルを的確に叩き落とし、手首や頸動脈を正確に強打して、一発の銃声も鳴らさせることなく兵士たちを次々と昏倒させ、完全に無力化していくハメル。
一方で、背後に控えていた神羅の機械兵器が、標的をハメルに定めて銃口を向ける。
「そうはさせないわ!」
ティファが鋭い踏み込みから、ザンガン流の烈風脚を機械の駆動系へと叩き込んだ。
火花を散らしてバランスを崩した機械兵器に対し、ハメルは容赦なく追撃を仕掛ける。
「こいつらは木端微塵にしてやる」
ハメルは小剣を逆手に持ち替えると、剥き出しになった機械のコアへと超高速度の斬撃を突き立てる。
そのまま交差させた双刃を強烈に引き抜き、駆動系から内部回路にいたるまでを一網打尽に両断していく。
これまでの過酷なリハビリと鍛錬によってかつての鋭さを取り戻しつつある独自の二刀流術が、狂暴な鋼鉄の塊をただの動かないガラクタへと瞬時に変えていく。
金属の引き裂かれる耳障りな音とともに、連れてこられた機械兵器はすべて、ただの鉄屑の山へと変わり果てた。
わずか数十秒の間に、集会場を襲撃した神羅の部隊は、兵士が全員気絶し、機械兵器が完全破壊されるという形で見事に制圧される。
戦闘が終わり、静寂が戻った室内で、一部始終を見ていたジェシーが歩み寄ってくる。
彼女はハメルの何でも屋としての腕前の確かさを事前に知ってはいたが、ここまで圧倒的な戦闘能力を持っているとは予想外だ。
ジェシーは呆気にとられた表情から、すぐにいつもの快活な顔に戻ると、驚きと称賛の声を上げる。
「ひゅー、やるじゃない! ハメル、あんたの腕の確かさは知ってたけど、まさかここまで圧倒的だとは予想外だったわ。兵士を一人も殺さずに無力化して、機械だけを徹底的にバラバラにしちゃうなんて、お見事と言うほかないわね!」
ハメルは小剣を静かに鞘へと収め、ジェシーを冷ややかに見つめる。
一点の曇りもないその視線のまま、周囲に他の人間がいないことを確認すると、単刀直入に問い質す。
「ジェシー、一つ聞いていいか」
「えっ? な、何かしら、改まって」
ハメルのただならぬ威圧感に、ジェシーは思わず笑みを硬直させる。
ハメルはその前髪の隙間から覗く、深い水色の魔晄の瞳に冷徹な光を宿したまま、低い声で核心を突く。
「やっぱり、あんたらは『アバランチ』なんだな」
「――っ」
ジェシーは大きく目を見張り、息を呑む。
隣にいるティファも、ハメルがこのタイミングで切り出したことに小さく身体を強張らせた。
ハメルは言葉を重ねる。
「ティファが昔、饅頭屋で働いていた頃に同僚から注意されたんだよ。ジェシー、ビッグス、ウェッジ……あんたらの本当の正体はそれだってな。神羅が血眼になって探している組織だ」
沈黙が流れる中、ジェシーは驚きから徐々に表情を和らげると、降参したように両手を軽く上げて、少し悪戯っぽく、しかし真剣な光を瞳に宿して微笑む。
「……大正解。隠すつもりはなかったんだけど、これでもタイミングを見計らってたのよ。今回の襲撃は本当に不可抗力だったけど……でも、バレちゃったならしょうがないわね」
ジェシーはそこで言葉を区切ると、真っ直ぐにハメルとティファを見つめて本音をこぼす。
「実はね、二人にも協力して欲しくてさ。……ダメ、かな?」
ハメルは内心で静かに口角を上げる。
ジェシーの口から直接その言葉を引き出せた。
すべてはかつて知っていた物語の知識による想定内であり、新しい展開への布石だ。
(誘いに乗る形にはなるが、これからは表向きの自警団としてではなく、対神羅の戦力として彼らを利用できる。泳がせておいた甲斐があったな)
ハメルはあえてすぐに首を縦には振らず、少し考え込むようなフリをして見せる。
しかし、神羅という巨大な欺瞞を根底から打倒するための歯車は、確実に、そして力強く噛み合い始めている。
「ハメル、私はあなたと一緒なら、どんな道でも恐くないわ」
ティファがハメルの衣服の裾をぎゅっと握り締め、確固たる熱い眼差しを向けてくる。
二人の本当の戦いは、この煙立つ集会場の跡から、いよいよ本格的な幕を上げるのである。