第七章:ウェイトレス(ディアンドル風) ♡
[u]-εγλ 0004年8月。
六月末に星命学の集会場が急襲され、ジェシーたち「アバランチ」への協力を承諾したハメルとティファ。
だが実のところ、それから一ヶ月以上経ても、何でも屋としての日常には、何の影響も及んでいなかった。
それには明確な理由がある。
アバランチに協力すると言っても、当のアバランチは現在深刻な内部分裂の真っ只中だったからである。
ここ最近のアバランチは、組織の本流の思想に従わないいくつもの過激な分流が乱立し、活動方針が一本化されていない状態が続いていた。
神羅カンパニーの打倒という目的こそ同じであっても、民間人を巻き込んだ大規模な破壊工作を是とする過激派と、対話を重んじる穏健派、さらには独自のネットワークで動くジェシーたちのグループなど、完全にバラバラに動いており、統率という言葉からは程遠い崩壊状態にある。
「もう、本当に嫌になっちゃう! 上層部も他の分派も、みんな自分たちの主張ばかりで、全然話がまとまらないんだから。今のアバランチは完全に機能停止状態。ハメルたちに協力をお願いしておいて何だけど、現状じゃ大きな作戦なんて何も期待できないわ。正直、私もお手上げよ……」
何でも屋の事務所にふらりと現れたジェシーは、受付のデスクに突っ伏してそう愚痴をこぼしている。
ハメルは深い水色の瞳でその彼女の様子を冷徹に見つめながら、内心で自身の計算の正しさを確信する。
原作知識があるハメルにとって、アバランチのこのグダグダな内情はすべて想定内だ。
組織が勝手に自滅しかかっている今、深入りして神羅に目をつけられるのは愚策の極み。
今はジェシーたちの愚痴の聞き役に徹しつつ、本業の何でも屋としての地盤をさらに固めるのが最適解だった。
ハメルはそっとティファに視線を送る。
ティファもハメルの考えを理解しているようで、ジェシーにお茶を淹れながら、困ったように、しかしどこか安心したように微笑んでいる。
アバランチが動かないということは、ハメルが危険な戦場に赴く必要もない。
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こうしてしばらくの間、ハメルはアバランチの内ゲバから一歩引いた立場で、精力的にスラムの中を駆けずり回る。
モンスターを駆除し、雨漏りするアパートの屋根を修繕し、失せ物を探したり。
ネコの集会を観察したり、作曲の手伝いをしたり、料理の素材を届けたり。
あいにくチャドリーが活動する時期はまだ先なので、残念ながらバトルレポートのイベントは無かった。
ハメルは何でも屋の活動の場を七番街スラムの外まで広げ、長距離の運び屋や、人の送り迎えといった護衛業など、より実戦的で実入りのいい仕事も積極的に受けるようになった。
ただし隣の六番街スラムは、ドン・コルネオ一派が不気味に幅をきかせている無法地帯だ。
彼らはヤクザ気質で、くだらない面子にこだわる。
一度揉め事でも起こせばとことんまで粘着してくる極めて厄介な連中だ。
特に少女から大人の女へと羽化し、圧倒的なスタイルと美貌を持つようになった今のティファが奴らの目に見つかれば、確実に面倒な事態になる。
ハメルはそれを避けるため、コルネオ関連の仕事は完全にスルーし、六番街スラムを通過する際は気配を殺して極力目立たないように注意を払っていた。
そうして慎重に潜り抜けた先にある五番街スラムで、ハメルは密かに探索を進める。
その探索は何でも屋としての土地勘を育むだけでなく、個人的な興味に基づくものでもあった。
標的であるエアリスの自宅や、古い教会の位置を正確に割り出していくハメル。
まさしく原作の聖地巡りの心地である。
その古い教会を初めて見つけた時、ハメルは思わず見惚れてしまった。
ハメルは中に人がいないことを確認して、静かに扉を開けて教会の中に立ち入る。
建物の内部には、スラムの劣悪な環境から完全に隔絶された、息を呑むほど美しい花畑が広がっている。
天井の崩落した隙間から差し込む一条の光に照らされた黄色い花々と、そこに満ちている清浄な空気は、日々泥と煤にまみれて戦うハメルの肉体と精神に、ささやかな癒やしを与えてくれた。
しかし、その初回時の訪問から、しばらく時間をおいてからのことだ。
別の仕事のついでに二回目にその教会を訪れた際、状況が一変する。
ハメルが建物に近づくと、ちょうど中から花籠を持った一人の若い女性が出てくるところと出くわす。
その距離からでもはっきりと視認できる、その女性のすらりとして清楚な容姿と独特の可憐さ。
かつて画面の向こう側で見ていた姿を遥かに領駕する、圧倒的な佳い女のオーラがそこにはあった。
(……あれが、エアリスか)
現在ティファの魅力的な体に日夜溺れている状態のハメルではあったが、別のベクトルで輝くエアリスのあまりの愛らしさに、ハメルは静かに息を呑む。
ハメルがエアリスの存在をさらに近くで感じるべく、無意識にその脚が教会に近づこうとした、その瞬間だ。
周囲の空間に、不気味な黒い霧のような形をした運命の番人――「フィーラー」が夥しい数で一気に出現する。
ハメルの行く手を強固に阻もうとする「フィーラー」たち。
「くっ......邪魔だ!!」
かつてニブルヘイムでティファの心の軌道をねじ曲げた時のように、強引に突破しよう試みるハメルであったが、フィーラーは無限に湧き出て空間を完全に遮断していく。
世界の強制力が、今の段階での二人の接触を完全に拒絶しているのだ。
(チッ……運命の分岐点はここじゃないのか)
ハメルは冷徹に状況を計算し、今は諦めるしかないと判断する。
騒ぎが大きくなると、エアリスを監視するツォンに気取られる。
今の時点でタークスに目を付けられてしまうのは、決して得策ではなかった。
これ以上の無駄な干渉は事態を悪化させると切り替えるハメル。
遠ざかっていくエアリスの去っていく後ろ姿を、物陰からただ静かに見守るに留めた。
この日、ハメルはそれ以上の深追いはせず、大人しく七番街スラムの拠点へと引き上げる選択をする。
七番街スラムに戻れば、そこには愛おしいティファと二人だけの至福の日常が待っていた。
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[u]-εγλ 0004年10月下旬。
何気なくも至福に満ちた日々が過ぎ、季節は秋を迎える。
その日は珍しく夕方前にすべての依頼が片付き、ハメルと二人で夕食の買い出しを兼ねて、七番街スラムの中央通りへ出かけることになる。
実は、その予定が決まった時から、ティファはハメルに対してある「おねだり」をしようと密かに決心していた。
十七歳を迎え、少女の殻を脱ぎ捨てて艶やかな大人の女性へと羽化したティファの美しさは、下層スラムにおいてあまりにも目立ちすぎていた。
かつてティファが八番街スラムの饅頭屋で売り子として働いていた時、自分の容姿が武器になって大きな利益に繋がっていることを、彼女自身も客観的に自覚していた。
鼻の下を伸ばして饅頭を買いにくる男たちの単純さに若干呆れつつも、それが店の売上に貢献できるならメリットが大きいと割り切り、こそばゆくはあったが、その視線を特に問題視することはなかったのだ。
だが、七番街スラムに拠点を移してからのここ最近は、あまりに付きまといや下卑たナンパがひどく、内心では強い煩わしさを感じるようになっていた。
何よりハメルに余計な気苦労をさせたくなく、彼を煩わせる喧嘩の種も作りたくない。
そう一人で悩んでいたからこそ、思わず同性の友人である自警団のジェシーに相談してしまったのがすべてのきっかけだった。
相談を受けたジェシーは、いつものように快活に笑いながら、実にあっさりと明快な知恵を授けてくれた。
『あはは、それだけ美人なら男たちが放っておくわけないって! だったらさ、ハメルにリングでも買ってもらいなよ。右手の薬指にこれみよがしに嵌めておけば、「大切な人がいます」って最高の男避けになるからさ!』
閉ざされた僻地のニブルヘイムの村で育ったティファにとって、そんな都会的な男避けの方法は思いもよらないものだった。
だが、ジェシーの言葉には深く納得できたし、それならハメルを不安にさせることもない。
だからこそ、今日二人で買い物に出かけると決まった瞬間から、勇気を出して彼に指輪をおねだりしようと心に誓っていたのだ。
橙色の夕闇が鉄屑の街を優しく染める中央通り。
ただティファが歩くだけで、まるで誘蛾灯にまとわりつく虫のように、有象無象のスラムの男たちの視線がティファへと次々と吸い寄せられていく。
だが、その邪な気配を、隣を歩くハメルの凛とした佇まいが一瞬で拒絶した。
天然のソルジャーとしての引き締まった精悍な体躯、そして「俺の女に指一本触れさせない」という無言の圧力を孕んだ冷徹な視線。
ハメルが放つ圧倒的な彼氏としての独占欲と威圧感は、近づこうとする有象無象の男どもをそれだけで激しく気圧し、不可視の壁のようにちょっかいを出すことすら許さずにシャットアウトしていく。
ハメルのそんな頼もしさに胸を熱くしながら歩を進める中、ティファはある露店の前で足を止めた。
ジャンク品や安価なアクセサリーを並べている小さな店だ。
そのケースの隅にある、風変わりな一組の指輪にティファの視線が釘付けになる。
銀色に輝くシンプルな細いリングだが、二つを合わせると一つの完璧な波模様を描く、美しいペアリングだった。
ティファは事前に決意していた通り、ハメルの逞しい腕を両手でぎゅっと抱きしめるようにして寄り添った。
衣服越しに伝わる豊かな胸の柔らかい弾力と、上目遣いに見上げてくる潤んだ瞳が、ハメルの本能を優しく揺さぶる。
ティファの声は少し震えていて、恥じらいと期待に満ちていた。
「……ねえ、ハメル。あの指輪、すごく素敵だと思わない?」
「ハメルと私の、ペアリング。私たちが一緒に暮らし始めてもうすぐ丸一年が経つでしょう? その記念にどうかな。それにね。一目で私には大切な人がいるってわかる指輪が、右手の薬指に欲しかったの……なんて。ダメ、かな?」
首を少し傾げ、恥じらいながらも熱い情熱を宿した瞳で真っ直ぐに見つめてくる恋人。
これほど愛らしい要求を、ハメルが拒む理由など一ミリも存在しなかった。
「ダメなわけがないだろう。この指輪でいいのか?」
ハメルが店主に声をかけ、その銀の指輪を購入すると、ティファはパッと顔を輝かせて歓喜の声をあげる。
「嬉しい……! ありがとう、ハメル!」
二人は賑やかな通りから少し外れた、天望荘へ続く静かな路地の陰へと移動した。
ランプの仄暗い光が二人を照らす中、ハメルは購入したばかりの小さい方のリングを手に取る。
「ティファ、右手を」
「うん……」
ティファは顔を耳まで真っ赤に染めながら、少し震える右手をハメルの前に差し出した。
ハメルはその白くしなやかな手を受け止め、彼女の右手の薬指へと、銀のリングをゆっくりと滑り込ませる。
サイズは驚くほどぴったりだ。
ティファの瑞々しい肌の上で、銀のリングが美しく鈍い輝きを放つ。
ティファはその指輪を愛おしそうに見つめた後、今度は大きい方のリングを手に取り、ハメルの右手の薬指へと、同じように優しく、確実な意志を込めてはめ込んでいった。
二人の右手の薬指に宿った、対となる銀の輝き。
それを確かめ合った瞬間、ティファは堪えきれなくなったようにハメルの首筋に細い腕を絡め、しがみつくようにして、その唇へと自ら深く、熱い口づけを捧げた。
「ん……っ……」
重なり合った唇から、ティファの狂おしいほどの心酔と熱い吐息が流れ込んでくる。
ハメルもその引き締まったティファの腰を強く引き寄せ、周囲の目を盗むようにして、路地の影で何度も、何度も深く接吻を交わした。
過去のトラウマも、一人で眠る悪夢への恐怖も、この指輪とハメルの絶対的な温もりの前には一切の力を失っている。
完全に互いだけを満たし合い、一体となる二人の世界。
そこには、かつてハメルが知っていた物語の主人公や他の誰かが入り込む隙など、文字通り塵一つほども残されてはいなかった。
「ハメル、大好き……。ずっと、この手を離さないでね」
「ああ。一生離さない」
完璧なロチューシーンを決めた二人は、シルバーリングで交わした約束を胸に抱き、再びしっかりと手を繋いで天望荘への帰路につくのだった。
当然ながら、このあと滅茶苦茶セックスした。
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[u]-εγλ 0004年11月下旬。
何でも屋としての経営と評判は完全に盤石なものとなり、二人の能力と生活の基盤はこれ以上ないほど成熟していた。
アバランチの内部闘争に不穏な影を感じつつも、二人だけの確固たる世界を完成させているハメルとティファ。
しかし、そんな平穏な日々に、新たな変化の兆しが訪れようとしている。
二人が七番街スラムで「何でも屋」を立ち上げてちょうど一年。
何でも屋の事務所で帳簿を整理しているハメルとティファの元へ、大家のマーレが少し真面目な顔をしてやってくる。
「二人とも、ちょっといいかい。少し毛色の違う仕事の相談なんだがね」
マーレは煙草の煙をくゆらせながら、応接用の椅子に腰掛ける。
「七番街スラムの中心にあるバー『セブンスヘブン』を知ってるだろ? あそこのオーナー兼店長をやっているモンティの爺さんから、どうしてもって泣きつかれてさ。店で給仕として働いてくれる、小奇麗な看板娘を探してくれって頼まれたんだよ」
マーレの話によれば、セブンスヘブンにはこれまで愛嬌のある若い女性バーテンダーがおり、彼女目当ての客で店は随分と繁盛していたらしい。
しかし、この10月末にその彼女が神羅の社員とくっついて店を辞めてしまい、上のプレート都市へと引っ越していってしまったのだという。
急な穴埋めができず、現在はモンティ老人がバーテンダーの席に復帰しているものの、ただ華がない老紳士が一人でカウンターに立ったところで、客足がガタ落ちしてしまうのは目に見えている。
そのため、次のバーテンダーの後釜が見つかるまでの期間限定のヘルプとして、店に華を添えてくれる給仕を求めているとのことだ。
話を聞いたティファは、隣に佇むハメルと視線を交わす。
天望荘に移り住んでからのこの一年、マーレには信じられないほど良くしてもらっている。
格安で部屋や事務所を貸してくれただけでなく、自警団への橋渡しをしてくれたのも彼女だ。
日頃の大きな恩を考えれば、無下に断るという選択肢は二人にはない。
ハメルは静かに頷き、短い言葉でティファの背中を押す。
「マーレの頼みだ。話を聞きに行こう」
「うん、分かったわ。マーレさん、そのお店へ案内してもらえる?」
ティファが快く微笑むと、マーレは嬉しそうに目を細めて煙草を消す。
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マーレに連れられて向かった「セブンスヘブン」は、七番街スラムの居住区中央にある、一番大きな広場に面して堂々と店を構えるバーだ。スラムの誰もが知る、まさにこの街の象徴とも言えるランドマークである。
上層プレートの底から無骨に伸びる極太の鉄柱、その根元にへばりつくようにして建てられた店舗の外観は、錆びついたトタンや鉄板、太い配管が複雑に入り組んだスラム特有のジャンクな造り。店の外のデッキにも客席が配されており、そこからは賑わう広場を一望することができる。
また、広場に向けて掲げられた電球がちりばめられた大きなネオン看板は一際強い存在感を放っており、レトロな木製のドアの横には、おすすめの珈琲豆の銘柄が手書きされた黒板スタンドが置かれている。
過酷な下層にあって、そこだけは一時の安らぎを約束してくれる、どこか温かい輝きで広場を行き交う人々を迎え入れている。
重い木製の扉を開けて一歩中に入ると、昼間ということもあって店内は静まり返っている。
広々とした内装は木目を基調としたレトロなダイナー風の落ち着いた空間で、天井からは無骨なチェーンで吊るされたランプが仄かな光を投げかけている。
入り口のすぐ右手には大きなジュークボックスが鎮座し、その奥には、使い込まれて鈍い光を放つ大きな円形のピンボール台が設置されていた。
さらに店の左手奥には緑のラシャが美しい本格的なビリヤード台が置かれ、壁際を沿うようにいくつかのテーブル席が並んでいる。
店の中心で圧倒的な存在感を放つのが、磨き抜かれた木製のロングカウンターだ。
カウンターの奥の棚には様々な形状のボトルがずらりと美しく並べられ、上部の鉄柵からは幾つものグラスが整然と吊り下げられている。
スラムの喧騒を完全に忘れさせる、非常に手入れの行き届いた上質な大人の社交場であった。
そのカウンターの奥から、白髪と白髭を綺麗に整え、仕立てのいい灰色のスーツを崩さずに着こなした老紳士が姿を現す。
彼こそが、マーレと同い年だというオーナーのモンティ老人だ。
「おお、マーレ。連れてきてくれたのか」
モンティ老人が穏やかな声をあげ、マーレの隣に立つティファへと視線を向けたその瞬間、老紳士の目が驚きに大きく見開かれる。
十七歳を迎え、少女の殻を完全に脱ぎ捨てて艶やかな大人の女性へと進化したティファの容姿は、下層スラムにおいて一際眩い光を放っている。
衣服越しでもその凄みが容易に伝わる豊満な胸の弾力、引き締まったしなやかな腰つきのライン。
ハメルとの濃密な夜の日々によって内側から熟成された華やかな色香。
まさに、荒くれ者の集まるスラムの酒場を瞬時に魅了する、これ以上ない完璧な看板娘の器だ。
「どうだいモンティ、これほど清潔感があって美人な娘は他にいないだろ」
マーレは自慢げに胸を張り、驚いているモンティ老人の背中をパチンと叩いてティファを売り込む。
「それにね、ただ見栄えが良いだけじゃないんだよ。この娘、隣の八番街スラムの饅頭屋で売り子をやってた時は、1日に千個も売り上げたことがあるんだとさ。大したもんじゃないかい。客あしらいも帳簿の管理も完璧さ」
「ほう、1日に千個もか! それは驚いたな」
モンティ老人は深く感心したように何度も頷くと、即座に両手を広げて歓迎の意を示す。
「一目見れば分かる、文句のつけようがない。お嬢さん、ぜひうちの店を手伝ってほしい。うちは売り上げの3割を給仕の賃金として出す方針でね。夜が更けて客が押し寄せる深夜まで働いてもらえれば、一日2000ギルは手堅く稼げるはずさ」
「一日……2000ギル……!?」
モンティ老人の口から飛び出した具体的な数字に、ティファは思わず目を見開く。
八番街の饅頭屋にいた頃は、額に汗して1日に千個もの饅頭を売り上げたとしても、彼女の手元に残る稼ぎはわずか600ギルにしかならなかったのだ。
それが、このセブンスヘブンなら一日でその3倍以上の大金を稼ぎ出すことができる。
(これなら、ハメルとの生活も、何でも屋の運営もずっと楽になる……!)
スラムの厳しい現実を生き抜いてきたティファにとって、その破格の条件は胸の鼓動を跳ね上げるのに十分だ。
少女の瞳に、がぜん強いやる気の炎が灯る。
目の肥えた老紳士からの魅力的な提案に、ティファは少し頬を染めてはにかむ。
しかし、彼女にはどうしても譲れない大切な条件がある。
ティファは真っ直ぐにモンティ老人を見つめ、自身の要求を切り出した。
「モンティさん、とても有り難いお話なんですけど、私にはハメルと一緒にやっている『何でも屋』の受付という、とても大事な仕事があるんです。だから……もしよろしければ、給仕の合間の休憩時間に、このセブンスヘブンのスペースを少しだけお借りして、何でも屋の受付対応や依頼整理をすることを許していただけませんか?」
それは何でも屋としての地盤を崩さず、ハメルとの生活の軸を守るための確固たる意志だ。
これほど看板娘にピッタリなティファを何としてでも逃したくないモンティ老人にとって、その程度の要求は些細な問題でしかない。
老紳士はすぐに破顔して快諾する。
「なんだ、そんなことか。お安い御用だよ。休憩時間なら店の電話も場所も、好きに使ってくれて構わない。何でも屋の宣伝になるようなものだって、店内に置いてくれていいさ」
「本当ですか!? ありがとうございます、モンティさん!」
条件が完全に受け入れられ、ティファは満面の笑みを浮かべる。
だが、長年接客業を営んできたモンティ老人の鋭い視線は、二人がお揃いの銀のペアリングを身につけていることに最初から気づいていた。
老紳士はティファの右手の薬指に視線を落すと、少し申し訳なさそうな、困った顔を浮かべて言葉を続ける。
「そこで一つ、お嬢さんに相談なんだがね。……その指輪が大切なのはよく分かるんだが、うちは高価なグラスやデリケートな皿も多く扱っているんだ。万が一、グラスや皿を洗う時にそれらを傷つけて欲しくはない。申し訳ないが、仕事中だけは指輪を外しておいてくれないかい?」
「あ……それは、そう、ですよね……」
お店の事情を考えれば至極当然の要望だったが、ハメルとの堅い絆を示す絶対的な「証」である大切な指輪を肌身から離したくないティファは、どうすべきか分からず困り果ててしまう。
直接口にすることこそなかったが、ティファの魅力で客を呼び寄せたいモンティからすれば、特定の男の存在を誇示する男避けの指輪は、純粋に商売上の邪魔でしかないというのが本音だ。
そのスラムの商人らしい打算的な思惑は、ハメルの冷徹な眼識にはとっくに透けて見えている。
だが、ハメルはそれを咎めるつもりは毛頭ない。
原作知識を持つハメルにとって、ティファとセブンスヘブンの縁をここで強固に繋いでおくことは、今後の展開を考慮すると絶対に必要なプロセスだからだ。
いずれ訪れる激動の瞬間のためにも、この拠点は確実に確保しておかなければならない。
なので、ハメルが流れるように助け舟を出す。
ハメルはティファの左手首にそっと触れ、そこに二重に巻かれている一本のしなやかな革紐に視線を落とした。
それはティファが十五歳の誕生日に、格闘の師であるザンガンからプレゼントされた大切なものだ。
普段はミサンガのようにブレスレットとして手首に巻いているが、非常に上質で頑丈な革で作られている。
ハメルは彼女の手首からその革紐を優しく解き、短い言葉とともにティファの手に握らせた。
「これに指輪を通して、ネックレスにすればいい。給仕の間だけな」
「ハメル……! うん、これならお仕事の邪魔にもならないし、ずっと身につけていられるわ!」
ハメルの機転の利いた提案に、ティファはパッと表情を明るく輝かせる。
これならモンティ老人の言うグラスへの傷つきも完全に防げる。
老紳士も「それなら大歓迎だ」と安心したように深く頷いた。
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こうして、ティファがセブンスヘブンで給仕として働く日々が新しく始まる。
彼女が纏うのは、マーレが特注で用意してくれた、鮮烈な紫色と白が基調のディアンドル風ウェイトレス衣装だ。
広く開いた胸元のフリルブラウスからは豊かな谷間がこぼれ、コルセットのような紫のボディスが引き締まったウエストを強調している。
短い紫のスカートとエプロンからは、武術で鍛え上げられた、眩いほどに健康的な太腿が大胆に露出し、右足には紫のリボン付きガーターが光る。
高い位置で結ばれたポニーテールが軽快に揺れ、黒いチョーカーが白い首筋をより際立たせていた。
夕方から夜にかけて店がオープンすると、ティファはその抜群のスタイルと華やかな笑顔で、瞬く間に七番街スラムの男たちの心を鷲掴みにしていった。
注文を取り、酒や料理を運ぶ彼女の洗練された立ち居振る舞いは、瞬く間に口コミで広がり、セブンスヘブンには連日のように客が押し寄せるようになる。
もちろん、男避けの銀の指輪をネックレス代わりに、その突き出た胸元にぶら下げてるにもかかわらず、ティファが魅力的過ぎてちょっかいをかけてくる男もいる。
特に近所に住むお調子者の青年――ジョニーは、新しく店に入ったティファのあまりの美しさとプロポーションに完全に心を奪われ、毎日のようにカウンターに現れては熱烈で的外れなアプローチを仕掛けていた。
「ティファ! 今夜のキミもまるで夜空に輝く星のようだ! オレと一緒にスラムの夜風に吹かれに行かないかい!?」
「ありがとう、ジョニーさん。でも夜風に吹かれたら風邪をひいちゃうから、私はお店の中で大人しくお仕事してるね。それより、次の注文はどうする?」
ティファが年に似合わない余裕を湛えた笑顔で綺麗にいなしていた、ある日のこと。
何でも屋の仕事が早めに終わり、次の仕事が入ってないか確認しようと店にやってきたハメルとジョニーが鉢合わせする。
ティファが嬉しそうに「ハメル!」と駆け寄る。
その姿を見たジョニーは、いかにもお調子者らしく身を乗り出し、ハメルに突っかかってしまった。
「おいおい、そこのお前! ティファとやたら親しげじゃんか。ティファと親しくしたければ、まずはこのオレに話を通してからにしろよな!」
すかさずティファが二人の間に入り、強い口調でジョニーを制した。
「ジョニーさん、やめて。彼は私の幼馴染なの。それに彼とは一緒に『何でも屋』を経営してるの」
「あ、そうなの。な、ならしょうがないけど……」
ティファの毅然とした態度に圧され、ジョニーはゴニョゴニョと口籠る。
しかしすぐにお調子者の顔に戻ると、ハメルを牽制するようにビビりながらティファへ提案した。
「でもティファ、ティファがオレのことをジョニーって呼んでくれるなら、そ、そいつとも、友達になってやっても、い、いいぜ?」
ティファは苦笑しながらも、その場を穏便に収めるために話を合わせた。
「じゃあ、ジョニー、注文をどうぞ?」
「ひゃっほーう! ジョニーって呼んでくれたぜ!」
名前を呼び捨てにされ、ジョニーは現金にも一瞬で機嫌を直して鼻の下を伸ばした。
だが、その喜びも束の間、ハメルがゆっくりと歩みを進めてジョニーの前に立った。
前髪の隙間から覗く、凍りつくような深い水色の瞳がジョニーを正面から静かに見据える。
そこから向けられたのは、一瞬で周囲の空気を凍らせるような、底知れない威圧感を孕んだ視線だった。
「何でも屋のハメルだ。彼女のパートナーだよ。……あまり店内で騒ぐと、モンティさんの迷惑になるぞ」
ただそれだけの淡々とした返答だったが、ジョニーと同い年くらいのはずなのに、数々の修羅場を潜り抜けてきた戦士としての圧倒的なオーラがそこにはあった。
さっきまでの威勢はどこへやら、本能的な恐怖を植え付けられたジョニーは、「あ、うす……」と引きつった笑いを浮かべて後退する。
この日を境に、ティファからの呼び方は「ジョニー」のままで定着したものの、ハメルに対して強烈な苦手意識を抱いたジョニーは、彼の前でそれ以上調子に乗ることはできなくなった。
ハメルがいない時間を狙って馴れ馴れしくアプローチをかけるのが関の山である。
ティファも時折店に顔を出すハメルに対してだけは、明らかに特別な、身内を迎えるような親しげな空気を隠そうとしない。
ハメルが漂わせる強者の気配と、ティファのその一途な態度を見せつけられては、ジョニーを含めたスラムの男たちも、それ以上深く踏み込めるわけがなかった。
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昼間は何でも屋の業務をがむしゃらにこなし、セブンスヘブンの休憩時間には店内でスマートに受付対応を進める。
そんな充実した日々の中、数日に一度、ティファは店で着用したディアンドル風のウェイトレス衣装を、洗濯のために天望荘の部屋へと持ち帰ることがあった。
店にいる時は多くの男たちの視線を集めるその扇情的な衣装も、二人のプライベートな空間に戻れば、全く異なる甘美な意味を持つことになる。
夜の営業を終えて天望荘の部屋に戻り、お互いに一日の汗をシャワーで綺麗に流した後のことだ。
ベッドの上で寄り添い、いよいよ深く愛し合おうという段階になって、ハメルはふとベッドの傍らに置かれた紙袋に目を留めた。
中には、ティファが持ち帰ってきたばかりの、洗濯を待つあのウェイトレス衣装が収められている。
いつもなら冷静沈着なハメルが、この時ばかりは少しバツの悪そうな、躊躇うような色彩をその瞳に浮かべ、ティファを抱き寄せながら耳元で低く、恥じらいを孕んだ声で要望を伝えてくる。
「……ティファ。その、今日は……ベッドの横にある、あの衣装を着てくれないか。あの格好のままで、ティファの胸に挟ませてほしいんだ……」
それを聞いたティファは、一瞬だけ驚いたように丸い紅い瞳を見開いたが、大好きな男が自分に対してこれほど切実で、少し子供っぽい欲望を向けてくれていることが、たまらなく愛おしかった。
彼女は緊張を解くようにクスッと優しく微笑むと、ベッドから身を起こして紙袋から衣装を取り出す。
「いいわ。どうせこれからお洗濯するんだし、少しくらいシワになったり、汚したりしても大丈夫だもの。……ちょっと待ってて」
ティファはシャワーを浴びて綺麗になったばかりの身体に、先ほどまでセブンスヘブンで着ていた仕事着を、今度はハメルのためだけに身に纏っていく。
ハメルの視線は、衣服の上からでも彼女の体躯の最も扇情的な一点へと否応なしに吸い寄せられていた。
ただでさえ常軌を逸したプロポーションを持つティファだが、ウエストを限界まで絞り込む紫のボディスによって、そのGカップ以上の豊かな双丘はこれ以上ないほど上方へと押し上げられ、やたらと凶悪なまでの存在感を主張している。
紐で頑丈に締め付けられた腹部との対比により、白いフリルのブラウスを内側から破らんばかりに押し広げる胸元の質量は、圧倒的な豊饒の肉感を放っていた。
深く深くカッティングされたV字の隙間からこぼれんばかりに膨らむ白皙の柔肌、そして衣服の圧迫によっていっそう強調された肉感的な谷間は、彼女が緊張で呼吸を刻むたびに張り詰め、瑞々しく波打っている。
衣服で強固に固定されているからこそ、その内側に収められた果実のような弾力と重量感が透けて見えるようで、ただそこにあるだけで男の視覚と本能を強烈に揺さぶる破壊力に満ちていた。
ティファは自ら進んでハメルの身体を迎え入れるように引き寄せ、ボディスによって極限まで押し上げられた圧倒的な質量の双丘で、彼の身体を優しく、そして深く包み込んでいく。
衣服の生地越しにダイレクトに伝わる、果実のような重量感と、肌を焦がすような熱。
ティファはハメルの感覚を優しく翻弄するように、その豊かな胸を惜しげもなく寄り添わせ、彼を喜ばせるための甘美な奉仕に身を投じていく。
「ハメル、気持ちいい……?」
彼が快楽に息を呑む姿をすぐ間近で見つめながら、ティファ自身も最愛の男に尽くす至福の歓びに満たされ、潤んだ瞳で熱い吐息を漏らす。
ハメルは彼女の豊かな弾力に深く埋もれながら、堪えきれないといった様子で熱い吐息を漏らした。
「ああ……最高だ、ティファ。ティファのオッパイが、信じられないくらい温かくて、柔らかい……っ」
胸での甘美な奉仕によって放出。
ひとしきり心を昂らせた後、ハメルの熱い視線は、次にティファのウェイトレス姿が強調する魅力的なその脚へと移っていく。
ハメルは愛おしそうにティファをベッドから立たせると、少しバツの悪そうな表情を浮かべながら、壁に両手を突いて前傾姿勢になるよう優しくお願いした。
「......このまま立ちバックでしたい。いいかな?」
それを聞いたティファは、恥ずかしさに身を硬くしながらも、コクンと頷いて壁へと向かう。
白いしなやかな両手を壁に突き、ゆっくりと上半身を傾けていく。
その体勢になった瞬間、ひらりと翻った短い紫のスカートの裾から、眩いほどに瑞々しい脚のラインが鮮烈に露わになった。
ハメルがその太腿にそっと触れ、脚を少し開かせるように促すと、ティファは熱い吐息を漏らしながらそれに応じる。
武道によって引き締まりつつも女性らしい柔らかな曲線を残した太腿、そして肌に深く食い込むように結ばれた紫のリボン付きガーターが、仄暗いランプの光の中で妖艶に浮かび上がっていた。
ハメルはすぐさまティファの背後から寄り添うように立って、その前傾した身体を後ろから包み込み、細いウエストを強く抱きすくめた。
衣服越しに背中へとダイレクトに伝わるハメルの逞しい体躯の熱と、力強い鼓動。
完全に後ろから抱きすくめられるその圧倒的な独占欲に甘く震えながら、ティファは爪先を小さく丸め、壁に突いた両手にぐっと力を込めて身体を支えた。
壁を突いて己を支える、ティファの白くしなやかな右手の薬指。
そこにはめられた細身のシルバーリングが、ランプの仄暗い光を捉えて美しくきらめく。
スラムの片隅でハメルと交わしたあの誓いの証は、二人の揺るぎない絆を証明するように、熱を帯びた瑞々しい肌の上でどこまでも淡い輝きを放っていた。
「ハメル……この格好、すごく恥ずかしいよ……っ。でも、後ろからハメルの体温がいっぱいつたわってきて……」
首筋に受けるハメルの情熱的な吐息に身震いしながら、ティファはほんのりと頬を染める。
壁を突く手にきゅっと力を込めながらも、その瑞々しい肉体の全てを後ろのハメルへと委ねていく。
部屋の仄暗いランプの光の中で、深く重なり合う二人のシルエット。
ウェイトレス姿の短いスカートから伸びる美しいティファの生脚は、ハメルに激しく突かれる度に快感に震え、いっそうその美しさが際立つ。
さらに重力によって垂れ下がったティファのバストがさらにそのサイズを強調し、ゆさゆさとダイナミックに揺れ動く。
二人の結合部で絶え間なく交わされる愛の律動は、優しく、深く、互いのすべてを満たし合っていく。
店で見せる凛とした看板娘の姿からは想像もつかないほど、その柔らかな肉体と包容力のすべてをハメル一人のためだけに捧げ、二人は甘く濃密な時間をどこまでも紡ぎ出すのだった。
完璧な陰と陽の好循環はそのままに、ティファが七番街スラムの「顔」としてその存在感を確立していく、新しくも愛おしい日常が、ここから力跨く駆動し始めるのである。