※この作品はR-18です。

リムルが洞窟時代からの仲間に対してヤンデレになる話   作:スライムと狐

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(R18作品は)初投稿です。


リムルが洞窟時代からの仲間に対してヤンデレになる話

 ヒナタさんとの念話は、思ったより楽だった。

 話の内容は、開国祭当日の警備動線、聖騎士団側の滞在場所、要人や商人たちの移動経路の確認など、ただの仕事の話だ。楽しい話だとか、そういう訳じゃない。

 でも、説明しやすい。同じ日本の記憶がある相手だからか、言葉の裏にある意図が、少しだけ通じやすい。

 

『じゃあ、その件は明日の朝にもう一度確認しましょう』

『分かりました。こちらからリムルに伝えておきます』

『あなた、無理はしていない?』

 

 ヒナタさんの不意の言葉に、俺は少し返事に詰まった。

 

『大丈夫です』

『その返答、あまり信用できないわね』

『よく言われます』

『リムルに?』

『はい』

 

 念話越しに、彼女が小さく息を吐いた気がした。

 

『でしょうね。あなたのことになると、リムルは過保護すぎるくらいだから。心配されるのが嫌なら、心配されない程度には休みなさい』

『……善処します』

 

 念話を切ったあと、俺は小さく息を吐いた。

 人形態を得てからそれなりに経つが、まだ人の姿での長時間の活動には慣れなくて少し疲れる。

 ふと視線を向けた鏡に映る姿は、魔物としてはまだ若いせいか、前世の俺とは似ても似つかない少年の姿だった。

 色素の薄い純白の髪に、華奢で細い身体の線。淡い水色と薄いクリーム色を合わせた繊細な和装に身を包み、頭には真っ白な狐耳が、そして腰には自分の背丈ほどもある、ふさふさとした白狐の尻尾が残っている。今は疲労を誤魔化すように、その白い耳と尻尾がだらりと下がっていた。

 小さく息を吐き、鏡越しにそんな情けない自分を見つめる。それでも、こうして自分の足で歩き、疲労を感じられる今の身体は、あの頃に比べれば随分と贅沢なものだ。

 

 昔の俺は、動けなかった。

 封印洞窟の奥、崩れた岩の向こう。濃すぎる魔素の中で、小さな白狐の身体を丸め、【保命者】のスキルでギリギリ命だけを繋いでいた。

 孤独で、怖くて、息が詰まりそうだった暗闇。

 そんな時に、リムルの「声にならない声」を【交信者】のスキルで拾ったのだ。俺が声をかけ、リムルが応えてくれたあの九十日間。俺たちは互いの声だけを命綱にして生きていた。

 だから、リムルは特別だ。それは今でも変わらない。

 

「ヒビキ」

 

 不意に名前を呼ばれて、耳がぴくりと跳ねた。

 振り返ると、リムルがいた。いつもの顔、いつもの声。魔国連邦の主で、俺に名前をくれた、特別なスライム。けれど、俺を見下ろすその金色の瞳の奥に、どこか重たくて暗い色が浮かんでいるように見えた。

 

「終わった?」

「うん。ヒナタさんとの確認は終わったよ」

「そっか」

 

 リムルは近づいてきて、自然な動作で俺の頭に手を置いた。細い指が髪を梳き、耳の付け根を、ひどくゆっくりと撫でる。狐の姿だった時から、リムルはよく俺を撫でた。人形態になってからも、それはあまり変わらない。嫌ではないけれど、少し恥ずかしい。

 

「……っ、リムル?」

「疲れてないか?」

「平気だよ。リムルは心配しすぎ。俺だって、もう初めて会った時みたいに弱くないんだから」

 

 男としての意地もあって、少しだけ胸を張って笑ってごまかす。

 しかし、リムルの指先が、ぴたりと止まった。

 

「ヒナタとは、話しやすいか?」

 

 何気ない声だった。本当に、ただの世間話のような響きだった。だから俺も、警戒することなく答えてしまった。

 

「うん。説明が通じやすいっていうか。同じ日本の感覚が少しあるから、話が早いんだ。少し、安心するっていうか」

 

 その瞬間。

 リムルの手が、俺の髪をぐっと強く握り込んだ。

 

「……リム、ル?」

「……そっか」

 

 リムルは笑っていた。いつものように優しく。ただ、よく見ると口角は上がっているのに、目は一切笑っていない。ゾクッとするような冷たい悪寒が這い上がってくる。

 

「今日はもう休めよ」

 

 逆らうことなど一切許さないような話し方。俺は背筋に走った悪寒を振り払えず、ただ小さく頷くことしかできなかった。

 

 翌朝。

 俺は、リムルの庵に用意された客間で目を覚ました。本当は自分用の家もあるけれど、開国祭の準備が始まってからは、連絡役として呼ばれることが増え、ここに泊まる日が多くなっていた。

 リムルは「その方がすぐ休めるだろ」と言ってたし、俺もそういうものかと思って泊まっていた。

 寝台の端に腰を下ろし、ヒナタさんへ念話を繋ごうとした。

 意識を沈め、魂の根元に近い場所から、ヒナタさんの波長を探して【交信者】から進化した【共鳴者】で、思念の糸を伸ばす。

 

『ヒナタさん、聞こえますか』

 

 ……返事がない。

 おかしいな。少し集中し直し、ソウエイさんへ繋ぐ。

 

『ソウエイさん?』

 

 届かない。シュナさんにも、ベニマルさんにも。

 いや、違う。届いていないんじゃない。俺の中から伸びた回路は、確かに進んでいる。けれど、最後の最後で、ぬかるみのようなひどく甘い場所へずぶずぶと落ちていく。

 何度やっても。誰の名前を呼んで糸を伸ばしても。

 まるで、俺の魂から出たものの出口が、たった一つの巨大な口に無理やり繋ぎ直されたみたいに……。

 

『――聞こえてるよ、ヒビキ』

 

 息が止まった。

 

『……リムル?』

『うん』

『俺、今、リムルに繋いでないはずなんだけど』

『知ってる』

 

 背筋が凍りついた。【保命者】から進化した【守命者】が強く反応する。反射的に回路を切ろうとしたが、切れない。扉を閉めたはずなのに、魂の奥底、自我の最も無防備な場所に直接、べったりと触れられているような圧倒的な気持ち悪さ。

 もう一度、別の相手へ繋ぐ。

 

『ハクロウさん!』

『聞こえてる』

『シオンさん!』

『聞こえてるよ』

 

「なんで……」

 

 口から震える声が漏れた。その時、背後の扉が静かに開いた。

 

「ヒビキ」

 

 リムルだった。怒っていない。笑ってもいない。ただ、ひどく凪いだ、深淵のような瞳で俺を見つめていた。

 

「ヒビキのスキルを壊したわけじゃないよ。奪ってもない。ただ、ヒビキの声が届く先を、少しだけ変えただけだ」

「……どういう意味」

「別に普通に話すのはいいんだ。外に出るのも、誰かと会うのも制限するつもりはないしな。けどさ、わざわざ魂の奥深くまで繋がる必要なんて……どこにもないだろ?」

 

 リムルが一歩近づく。俺は後ずさり、壁に背中をぶつけた。

 

「ヒビキの【共鳴者】は深く届きすぎる。相手の孤独や不安まで掬い上げてしまう。……昔の、俺に届いたみたいに」

「それが、俺の力だよ! 俺はこれで、みんなの役に立ちたいんだ!」

「知ってる。知ってるから、嫌だったんだ」

 

 リムルの顔が、ひどく歪んだ。泣きそうなのに、どこか熱に浮かされたような、異様な執着が張り付いた恐ろしい顔。

 

「ヒビキの声が、俺以外の奴の心に届くのがさ。ヒナタと話しやすいって、俺の知らないとこで笑うのが。俺以外の奴を……あの声で安心させるのが、どうしても我慢できなかったんだよ」

「ふざけるな! 俺の声は俺のものだ! リムルがいかに主君でも、そんなこと許されるわけないだろ!」

 

 自分自身のプライドで、俺はなんとか必死に言い返した。

 しかし、俺が声を荒げた瞬間、リムルの目がすっと細められた。

 

「……そう。まだ分かってないんだな。ヒビキの声が、誰のものなのか」

 

 リムルの手が伸びてくる。逃げようとしたが、足が全く動かない。恐怖と、それを上回る圧倒的な魔王の気配に、魂そのものが縫い留められているような感覚だった。

 震える頬に、ひんやりとした指が触れる。

 

「怖がらなくていいよ。……少しだけ、楽にしてあげるから」

 

 言葉の直後。

 

「あ……っ、な、に……!?」

 

 胸の奥、魂の一番柔らかい場所に、ドロリとした致死量の甘い熱が直接注ぎ込まれてきた。

 ただの魔素なんかじゃない。それは明確な『性的快感』となって、俺の下腹部へ一直線に突き下りていく。強張っていた筋肉から強制的に力が奪われ、膝から崩れ落ちそうになるのを、リムルの細い腕がしっかりと抱きとめた。

 

「ひ……っ、あ……リムル、やめ……これ、おかしい……っ」

「そんなに怖がらなくていいって。俺の声を聞くのが、俺と繋がってる時が、ヒビキにとって一番幸せなんだって、魂が思い出すだけだ。……ほら、服の上からでも分かるよ。こんなに熱く勃起して、ビクビク脈打って」

「ちが、う……こんなの、俺の気持ちじゃない……っ、リムル、やめ……っ」

 

 俺が持つスキルでは、当然ながら魔王の究極能力に敵うはずもない。ただそれでも精神支配を弾く力のせいで、俺は完全に思考を奪われることもなく、自我が快感で犯されていく異常さだけをはっきりと理解させられてしまう。

 自分が前世の記憶を持つ立派な男であるという自覚を持ったまま、下腹部に流し込まれる強烈な媚薬効果と、服の上からペニスを撫で回される生々しい快感に、腰が勝手に跳ねてしまう現実を直視させられる。

 

 身体が、魂が、リムルの放つ甘い毒に屈服していく。

 耳がだらしなく垂れ下がり、尻尾が勝手に震え、男としての意地もプライドも、抗えない多幸感の濁流に飲み込まれて頭の奥が真っ白になる。

 

「俺の名前を呼んで」

 

 リムルの声が、耳元で脳を直接撫で回すように響く。

 

「呼べば、もっと楽になる。そうすれば、苦しくなくなる」

「い、やだ……っ、はぁ……あ……っ、んぅ……」

「じゃあ、どうしてそんなに我慢汁で下着を濡らして、泣きそうな声出してるんだ?」

「ちが……っ、俺は……っ、くっ、あぁっ!」

 

 俺は必死に歯を食いしばった。言葉で降伏などしない。絶対に屈してなるものかと、全身を強張らせて耐えようとした。

 だが、そんな俺のささやかな抵抗すらも、リムルは愛おしそうに微笑んであっさりと粉砕した。

 

「我慢しなくていいよ。俺の名前、呼びたくなるまで……全部出して」

 

 服越しに、ペニスの敏感な部分を正確に擦り上げられた瞬間。

 致死量の多幸感が、先端から脳天へと一息に突き抜けた。

 

「あっ!? あ、あぁぁぁっ……や、だめっ、出っ……あぁぁぁぁっ!!!」

 

 言葉で降伏したわけじゃない。心は最後まで抗っていた。

 けれど、極限まで高められた俺の肉体は、俺の意志を完全に置き去りにして、魔王の快楽に屈服するという『結果』を出してしまったのだ。

 

 頭の中が真っ白に弾け飛ぶ。熱い痙攣が下腹部から全身を駆け巡り、ビュッ、ビュッと濃い白濁した精液が、和装の下で下着をドロドロに汚しながら無惨に吐き出されていく。

 

「はぁっ、あ、ぁ……っ、ぁ……」

「うん。いい子だな」

 

 ガクンと首の力が抜け、俺は射精の快感に震えながら、自分からリムルの胸に崩れ落ちてしまった。

 俺が自ら負けを認めたわけではない。ただ『人間の男としての生理的な快楽』によって、物理的にねじ伏せられてしまった。その事実が、何よりも残酷に俺の心をへし折った。

 

 リムルが俺の背中を、赤子をあやすように、あるいは大切なペットを撫でるように優しく撫でた。

 

「聞こえてるよ、ヒビキ。……もう、絶対に一人にはしないからな」

 

 それは、救いの言葉の形をした、決して逃れられない絶対の檻だった。

 

 ——それから、その日の午後。

 俺は普通に外へ出ている。テンペストの街を歩き、シュナさんと話し、ヒナタさんとも対面で会話をする。

 誰も、俺の異常には気づかない。俺は何も変わっていないように振る舞うしかない。

 けれど、俺が他の誰かの心に触れようと【共鳴者】を伸ばした瞬間、必ず息が詰まるような不安と虚無の沼へ落ちる。

 

『ヒビキ』

 

 そしてリムルの声が響き、俺が彼を認識した瞬間、身体の奥がまるでパブロフの犬のように甘く疼く。条件反射で多幸感が溢れ出し、息が乱れ、腰が抜けそうになるのを必死に堪える。

 洗脳されているわけじゃない。だからこそ、自分がまるでただの従順な愛玩動物に成り果てていく屈辱を、誤魔化すことすらできないのだ。

 

 街の中央広場で、俺は立ち止まった。

 周りにはたくさんの人が笑っているのに、俺の本当の声は、もうこの世界の誰にも届かない。

 

『誰か、助けて』

 

 最後の抵抗で、不特定多数に声を投げた。

 

『俺がいるよ』

 

 違う。お前じゃない。

 そう叫びたいのに、リムルの甘い声が魂に流れ込むと、抗えない安心感に涙がこぼれそうになる。

 

『リムル……っ』

『うん。いい子だ』

『俺、ここにいるよ……』

『知ってる。俺だけは、絶対に聞き逃さないから』

 

 騒がしい街の中で、俺は一人、ただリムルの声だけを魂の奥で受け入れながら、静かに、そして幸福に絶望の底へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初にヒビキの声を聞いた時、俺はそれを幻聴だと思った。

 

『……聞こえる?』

 

 暗闇の中。目も見えず、耳もなく、声も出せない。【大賢者】はただ機械的に答えるだけで、俺の孤独には寄り添ってくれなかった。

 狂いそうだった。死ぬよりも恐ろしい果てしない虚無の中で、俺はただ怯えていた。

 そんな時に、震える少年の声が響いた。

 

『俺も怖いけど、そっちが返事してくれるなら平気』

 

 まだ名前のなかった、小さな白狐。

 俺はその声に、狂信的なまでに縋りついた。俺の自我を繋ぎ止めていたのは、【大賢者】でもヴェルドラでもない。あの九十日間、俺の存在を肯定し、声をかけ続けてくれたヒビキだけだ。

 ヒビキの声は、俺にとっての救いだった。

 

 ヴェルドラと出会い、世界を視る力を得て、俺は真っ先にヒビキを探した。

 崩落した小部屋の奥。濃すぎる魔素の中で、今にも消えそうなほど弱り切っていた小さな白い狐。俺に「大丈夫か」と言い続けてくれた奴は、自分だって死にかけで、全然大丈夫じゃなかった。

 

『見つけた』

 

 その瞬間、俺の中で何かが決定的に、そして歪に固まった。

 俺が見つけた。俺が名付けた。俺が守る。

 コイツは、俺の、俺だけの命綱だ。

 

 だが、ファルムスの襲撃で、ヒビキは一度死んだ。

 広場に並べられたシオンやゴブゾウたちの遺体を見た時、俺は自分の甘さをひどく後悔し、激しい怒りに震え、魔王になる決意をした。

 けれど……その少し離れた場所で、誰かを逃がそうとして冷たい死体になり果てていたヒビキの姿を見つけた瞬間、俺の中の理性が完全に『壊れた』。

 仲間を失った悲しみや怒りなんかじゃない。俺の魂の半分が無理やり引き千切られたような、狂いそうなほどの圧倒的な虚無と絶望。あの日、俺の中でヒビキの声がブツリと途切れた瞬間の恐怖は、絶対に消えないトラウマとして俺の奥深くに黒くこびりついてしまった。

 蘇生には成功した。ヒビキはケロリとして、「リムル、そんな顔しないでよ。大丈夫だって。ちゃんと戻ってきたんだから」と背伸びして笑った。

 ふざけるな。

 お前は平気かもしれない。だが俺は、二度と嫌だ。二度と、あんな思いはしたくない。お前を失うくらいなら、世界がどうなったって構わない。

 

 ハーベストフェスティバルを経て、ヒビキは人の姿を得た。

 俺の庇護下で丸まっていただけの小さな狐が、いっぱしの少年の顔をして、自分の意思で外の世界と繋がり始めた。

 連絡役として活躍するヒビキを見るたび、胸の奥が黒く、ドロドロにざらついた。

 

『ヒナタさんとは話が早いんだ。同じ日本の感覚があるから、少し安心する』

 

 その何気ない一言で、俺の中にあった理性が、音を立てて崩れ去った。

 

 違う。わかってる。

 ヒナタに悪意はない。ヒビキが仕事に誇りを持っていることも分かっている。男として自立しようとしていることも。

 でも、嫌だ。

 あの声は、あの九十日間、俺だけを呼んでいた声だ。俺の虚無を救ってくれた救いの声だ。それが、ヒナタの心に届く? 他の誰かを安心させる?

 冗談じゃない。誰にも向けさせない。ヒビキの魂の響きは、その不安も喜びも、一滴残らずすべて俺のものだ。

 

 俺は【智慧之王】に命じ、魂の回廊とヒビキの【共鳴者】のスキル構造を解析した。

 【共鳴者】が【交信者】の時に長い時間話していた痕跡が俺の方にも残っていたから、進化していたとしても、解析は容易だった。

 壊す必要はない。ヒビキが外へ伸ばす心の回路を、すべて俺の魂という「沼」へと合流させればいい。

 さらに、俺の魔素を「多幸感」と「圧倒的な安心感」に変換して流し込むように精密に調律した。ルールは簡単だ。ヒビキが俺以外の誰かに繋がろうとした時は、回路を遮断して「強烈な不安と虚無感」だけを与える。そして、耐えきれずに『俺の名前』を呼んだ瞬間にだけ、魂が焼き切れるほどの圧倒的な快感と安心感を流し込む。

 そうやって条件付けをすれば、ヒビキは俺なしでは息もできないように作り変えられる。

 洗脳じゃない。記憶も自我も残してある。ただ、「俺を呼べば楽になる」と魂の底に刻み込んだだけだ。

 それがどれほど残酷で、少年の尊厳を蹂躙する行為か分かっていた。

 最低なエゴだ。魔王の暴虐だ。でも、もう止められなかった。

 

 翌朝、回路の出口を俺にすり替えられたヒビキは、恐怖と混乱に顔を引きつらせた。

 

「俺の声は俺のものだ!」

 

 そう叫んで抵抗する生意気な顔も、俺にとっては愛おしいだけだった。俺はヒビキの頬に触れ、特別に調律した甘い魔素を、魂の奥底へ直接流し込んだ。

 

「あ……っ、な、に……!?」

 

 ヒビキの体が、ビクンと大きく跳ねた。

 俺の指先から流れ込む熱に、ヒビキの魂が強制的に溶かされていくのが、回廊越しに生々しく伝わってくる。

 

「ちが、う……こんなの、俺の気持ちじゃない……っ、リムル、やめ……っ」

 

 ヒビキの持つスキルは精神支配を弾くが、究極能力に抗えるような代物じゃない。それでも思考を直接奪えないなら、本能の側から書き換えてしまえばいいだけだ。

 和装の上から雄の急所を撫でてやると、ヒビキは洗脳されていないからこそ、自分が狂わされていく過程を克明に理解させられている。男としてのプライドがズタズタに引き裂かれながら、それでも俺の与える快楽の前に屈服していく。膝から崩れ落ちた小さな体を抱きとめると、ヒビキは熱に浮かされたように甘い吐息を漏らした。

 

 その体温、震え、涙を浮かべた琥珀色の瞳。

 抗う術を持たない無防備な魂。

 たまらなく愛おしくて、支配欲が満たされて、頭がおかしくなりそうだった。

 

「俺の名前を呼んで」

 

 俺が囁くと、ヒビキは必死に首を振った。

 

「い、やだ……っ、はぁ……あ……っ、んぅ……」

「じゃあ、どうしてそんなに我慢汁で下着を濡らして、泣きそうな声出してるんだ?」

「ちが……っ、俺は……っ、くっ、あぁっ!」

 

 服の上から弄ってやると、ヒビキは絶対に屈しないとばかりに歯を食いしばった。

 その生意気で誇り高い顔が、たまらなく愛おしい。だから俺は、そのプライドを肉体的な快楽で無理やりへし折ってやることにした。

 

「我慢しなくていいよ。……全部出して」

 

 服越しに指先で敏感な場所を擦り上げた瞬間、俺はヒビキの魂の奥深くまで、限界まで多幸感を注ぎ込んだ。

 

「あっ!? あ、あぁぁぁっ……や、だめっ、出っ……あぁぁぁぁっ!!!」

 

 言葉で降伏はしなかった。だが、ヒビキの身体はあっさりと限界を迎え、和装の下でドクドクと熱い精液を吐き出した。

 完全に力を失い、射精の余韻で俺の胸に崩れ落ちてくる。理性を奪われ、ただ俺の与える快感に抗えずに果ててしまった哀れで最高に可愛い姿。

 

 胸の奥が、歓喜でグチャグチャに満たされた。

 あぁ、これでいい。もう、どこにも行かない。俺の知らないところで死ぬことも、俺以外の奴に心を許すこともない。ヒビキは永遠に、俺の魂の鳥籠の中だ。

 

 それから、ヒビキは街に出ている。

 対面で笑い、普通に仕事をしている。俺は外の世界を取り上げたりはしない。それくらいは許している。そう思っている時点で、もうおかしいのだと分かっていたが……。

 だが、心の奥底で誰かを頼ろうとした瞬間、その声はすべて俺のところへ堕ちてくる。

 

『シュナさん……。ソウエイさん……。ヒナタさん……』

 

 他の人の名前を呼ばれた時だけ、俺はわざと少し間を置く。ヒビキが不安になり、俺の多幸感を欲して震え始めるのを待ってから、ゆっくりと答える。

 

『ヒビキ』

 

 俺が返事をした瞬間、ヒビキが内心ホッと安堵し、甘い熱に蕩けていくのが分かる。

 嫌がっているのに。男としての尊厳をぐちゃぐちゃにされて俺を怖がっているのに。俺が流し込む安心感に依存しきって、声をかけられるだけで魂の芯から甘く痺れてしまっている。

 可哀想に。俺がこんなふうに壊したんだ。

 

『誰か、助けて』

 

 街の喧騒の中で、ヒビキが泣きそうな声で不特定多数に助けを求めた。

 俺の鼓動が、歓喜で跳ねる。

 

『俺がいるよ』

『違う……』

『違わない。俺しかいないんだよ』

 

 ヒビキが絶望し、そして抗いきれずに、泣きながら俺の名前を呼ぶのを待つ。

 

『リムル……っ』

『うん。いい子だ』

『俺、ここにいるよ……』

『知ってる』

 

 俺は目を閉じ、魂の回廊を通じてヒビキの存在を味わい尽くす。

 怯えて、泣いて、絶望して、それでも俺の与える快感に縋るしかないその声を。

 あの暗闇からずっと、俺を生かしてきたその響きを。

 

『俺だけは、絶対に聞き逃さないから』

 

 逃がさない。死ぬまで、いや、死んでも、魂ごとこの甘い地獄に縛り付けてやる。

 だから、お願いだ。

 ずっと俺の中だけで、その可愛い声で、俺の名前を泣き叫んでいて。




ヒビキ
種族:魔狐→響狐→魂響狐人
ユニークスキル:【交信者/ツナグモノ】→【共鳴者/ヒビキアウモノ】、【保命者/タモツモノ】→【守命者/マモルモノ】
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