「ああ・・・」
声が出る。力が抜けてゆく、湯に沈む。たまらない。
疲れが溶けてゆく。からだもとけてゆくような。
やっと一息・・・
一息ついた。
しかし色々なものが棚上げに
明日の準備それから・・・
茜。
茜をどうしよう。
貸切の家族風呂は5人が一度に入れるだけあって露天部分はそれなりに広い。
だから・・・密着するようなことはない。
しかし。
視線を感じる。
背中に突き刺さるような。
茜が見ている
数メートル ほんの少し先で俺を
振り向きたい 振り向いてはいけない
どんな顔をしているだろうか
いかん!
わざと音を立てて顔を洗う。
派手に水音を立てて。
冷静になれ
アイドルだぞ
混浴だぞ
茜だぞ
間違いが起こったらどうする
いやでも茜が入ろうって
これはもうそういう流れになるしか
ん?
待て。一旦待て。
冷静になれ。思い返せ。
茜は
「いっしょにお風呂に入りたかったんですか」
と聞いた。
で、今一緒に入っている。
なんだ、じゃあ・・・じゃあ終わりじゃん!
その・・・エッチなことしませんかとか一言もいってない!
一緒の風呂に入っただけ!あとは出ればいい!よし!
「あの」
うわあ!
心臓が飛び出すかと思った。
茜の気配。
後ろから湯が流れてくる
波紋が伝わって
こっちに来る
「プロデューサー、お背中流しますね」
いつもより元気のない声。
違う、振り絞った声。
「あ、いやもう、上がろうかとその」
「入ったばかりですよ!」
「こういうのは!女の人にやってもらうのはちょっとな!」
よし、言えた!
「早苗さんはしたって言ってました!」
うっ
あの、酔うとやたら距離が近くなる元警官アイドル。
同僚のプロデューサーが風呂に入っていたら早苗さんが入ってきて背中を流してくれた、らしい。
「服は着てたし何もしてない洗ってもらっただけ」そう言い張っていたがものすごく目が泳いでいた。
社内でもだいぶ問題になったのだが早苗さんがかばったのでなにもお
みんなにも口止めがされた。
されたはずなのだが。茜が知っている。
話したな・・・早苗さん・・・
マジでギルティだよ!
そんな特殊な例を出されても困るし!
「いやほらあの時は服を着てたって─」
振り向いて言って、しまったと思った。
振り向いて、見てしまった。
真っ白な体。湯の中に立っている。
肩にかけた小さなタオルだけで茜の体は全く覆われていない。
しまったお腹、その上の桜色の──
目が離せない。
グラビア撮影で見た姿より遥かに
遥かに─
じわりと頭の端が
めちゃくちゃにしてやりたい
──!
いま、なんて思った?
待て、アイドルだぞ
茜だぞ俺の担当だぞついこの間問題になったばかりでこんな事があっては決していやこれさっきも思ったな
茜は胸が大きい
真っ白ななかにツンと淡い色の
視覚の暴力!!!
目を逸らせ!
「上がりましょう!」
ざぶざぶと茜は近寄って俺の手を取る。
一瞬びくりとするほど触れた手が熱い。
引きずられるまま湯船から出る。
手を引かれる
真っ白な臀部が目の端を─
「座ってください!」
言われるままに座る。
木の腰掛け。
洗い場の前の鏡。
疲れた顔の俺が写っている。
その後ろにひょこっと動く・・・
茜。
後ろにいる。すぐそこに。
鏡に映る俺の肩口から白い肌が見えて
すぐ引っ込んだ。
シュコシュコとボディソープを出す音。
振り返りたい。
・・・茜の裸が見たい。
さっき目に焼きついた・・・真っ白なお尻。
筋肉質なお腹。
鏡でみれないだろうか。
いや後ろを振り返ってもバレないんじゃ・・・
「行きますよ!」
何を?
「うおっ!?」
背中に衝撃が走り思わず声が出た。
「プロデューサー!大丈夫ですか?!」
「あ、いや大丈夫、大丈夫平気」
茜は泡立てたタオルで俺の背中をゴシゴシ擦る。
思ったより力強いな!
小さな体なのにこの力がどこから出るのだろう。
何かコツがあるのだろうか。
それともなんか時々こういう事してる?
慣れてる?
邪な想像が頭をよぎり俺はその先を意識の力で
「頭洗いますよ!目を閉じてください!」
目を閉じる。髪がワシワシと洗われる音。
あ、これ気持ちいい。
「かゆいとこないですかっ?!」
「あ・・・ないでーす」
なんだこれ。どういう状況?
「流しますね!」
「はいっ 肩の力抜いてください!」
肩をトントンと叩かれる。
と思ったらグッと押される。
体重をかけたのか肩に力が入る。気持ちいい。
すごいじゃん。こんなことできたのか茜。
そうか運動部のマネージャーだったもんな。
なんか・・・なんか許せないな。
これやってもらったやつが俺以外にいたの?
見知らぬ誰かに嫉妬を燃やしたその時だった。
きゅっ
?
何かが俺の頭に当たる。
後頭部のあたり。
柔らかなものが肩を押されるたびに。当たる。
「んっ・・・」
茜の吐息。首のすぐ後ろ。
あ、これ。
おっぱいだ。
肩を押す時に茜の胸が俺に当たっている。
胸の先端が背中や後頭部を擦る。
「ふっ・・・」
感触が。
茜の声が。
少しずつ艶っぽくなってきているような─
「気持ちいい、ですか?」
「う、うん」
なんて答えろと。
「私も んっ 気持ちいい・・・です」
理性が蒸発する。
茜の体が俺に触れている。
胸が。俺の背中にぴったりと寄り添って。
目を開けられない。
恐ろしいことがおきている。
動けない。
茜が後ろから首に手を回す。抱きしめられる。
胸の先端が背中を移動しているのがわかる。
熱い。背中が。
ん?移動している?
顔に手の感触。目を開ける。
眼前に茜の顔。
こんなに近くで見たことない。
まつ毛が長くて
ガチ
「んっ・・・」
歯が当たった。
歯が?
・・・頭が真っ白になった。
キス、されている。
薄い色の柔らかい唇から舌が
恐る恐る口の中に。
・・・顔が離れた。
茜の顔は真っ赤だ。
目をチラチラ逸らしながらこっちを見ている。
口の中が。甘い。
・・・牛乳味だ。
茜が、さっきまで飲んでいた。
体液の交換。
茜が俺の前に立っている。
何もつけていない姿で。
下を向いて、恥ずかしそうに、
頭が焼き切れそうに
「あの!」
「はい!?」
うわ声裏返った
「──さん・・・」
・・・今、名前呼ばれた?
小さな声だったが確かに、聞いた。
いつもプロデューサーって呼ばれるから、
なんか・・・
ゾクっと背中が震える。
「大好きです!!」
絶叫だった。
俺は世界一間抜けな顔をしていたのではないか。
でもこんな こんなかわいい女の子に真っ向から
裸で愛の言葉をぶつけられて
・・・どういうこと?
なんかそういうムードでしたっけ。
なにこれ。
小学生みたいな愛の言葉。
「あの」
茜が口を開く。
上目遣いで。凶悪な攻撃力。
みぞおちにえぐり込まれるような熱。
「こういうことは、大好きな人としなさいって
・・・お母さんが」
お母さん。
こんな場所になんと似つかわしい。
だから。
だからあの告白か。