※この作品はR-18です。

太陽を盗んだ男   作:黒沼むつみ

3 / 6
三、独白 ──「お前が好きなのは幻想なんだよ」

 

茜は、俺が好きなのか。

考えてみればあの時も、あの時も──

 

そんなわけ、ない。

よくある思春期の──

近くにいる大人が特別に見えるやつだ。

余裕があってカッコよくて、軽くあしらって。

颯爽(さっそう)と複雑な世の中を歩いてるように見える。

嘘だ。大人になれば分かる。

取り繕(つくろ)うために必死だ。

俺は平気だと大丈夫だとなんでもないという顔をしなければ簡単に食い尽くされるからだ。

 

茜。

そんな目で俺をみていたのか。

俺はお前にそんな頼もしく写っていたのか。

それは俺じゃない。

取り繕った、大人のつもりの俺だ。

お前の好きなのは、俺じゃない。

そんな目で俺を見ないでくれ。

 

「プロデューサー・・・?」

 

黙ってしまった俺を、覗(のぞ)き込むように。

 

「私のこと、ど、どうですか・・・」

震えている。

伸びやかな肢体。しっとりと濡れた髪。

大きな胸の上で組まれた指。

形のいい縦型のおへそ。うっすらと見える腹筋。

その下のまっすぐな・・・隙間なく閉じられた、ひとすじの線。

いつもの周りを照らす太陽のような茜とは違う。

小さな女の子が、震えている。

 

めちゃくちゃにしたい。

 

振り払う。

俺は大人だ。

子どもに付き合えるのはここまでだ。

彼女が傷ついても構わない。

ここで一言もう上がろうといえば

 

「茜が好きだ」

口をついて出る。

 

「・・・!」

茜が顔を上げる。その目に喜びが広がる。

 

違うんだよ茜。

 

ずっと独占したいと思っていた。

あの時も。あの時も。

グラビア撮影で崩した足。

ショートパンツから伸びる健康的な太もも。

真っ白な歯。栗色に広がる髪。

組まれた肩。

「スクラムです!」そう言ってたっけ。

熱い肩。

甘い汗の匂い。

ランニングの後に差し出された手。

茜の体温。

触れると驚くほど熱い──

 

CDデビューの時の衣装。

多重フリルを触れながら

「どうですか!?」

あの期待に満ちた瞳。

 

誰にも見せたくなかった。

胸の隙間が、脚が、背中が、

筋肉質な茜にはコスチュームは少し小さくて、

撮影のとき危うい場面があった。

ハラハラした。

スタイリストに任せながら心配で仕方なかった。

カメラマンのやつを殴り倒したかった。

俺の茜を、誰にも見せたくなかった。

 

健康的な色気で売っていきましょう

そう上は言う。

わかっている、茜を売り込むために必要なことだ。

茜は躊躇(ちゅうちょ)しない。

肩が出ていても腹が出ていても気にしない。

その小さな体を衣装に詰めていっぱいに動く。

 

「みなさん!」

そう叫ぶ。

 

みなさんって、言うな。

俺が茜をここまで連れてきた。

俺が茜をここまでにした。

 

俺にだけ呼びかけてくれ、茜。

 

俺じゃない。

茜の好きなのは俺じゃない。

俺を見てくれ、茜。

大人じゃない、俺を見てくれ。

 

俺だけを見てくれ。

 

振り払う。

 

それは俺じゃない、茜。

俺はここだ。

お前は俺を見ていない。

 

お前が好きなのは幻想なんだよ、茜。

嘘なんだよ。

俺は、お前を独占したいと思っている、

男なんだよ。

 

「茜のことが好きだ」

 

好きだと言っていいのか。

本当か。

この身体を好きにしたいだけじゃないのか。

これも嘘か。

嘘しか出てこないのか。

なんていえば伝わるのか。

この太陽のような彼女に。

俺の言葉が届くのか。

ずっと俺は茜に。

嘘をついてきたんじゃないのか。

 

いまさらなにを。

 

めちゃくちゃにしたい。

 

振り払えない。

 

どうしても、振り払えない。

 

どうせ伝わらないのなら。

本当のことが言えないのなら。

壊してしまいたい。

茜に。

一生消えない傷をつけたい。

 

 

めちゃくちゃにしてやる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。