手を伸ばせ。
やってしまえ。
茜。
俺の茜。
髪がしっとりと濡れて
いくつかのまとまった束になっている。
こんなに近づいたことがあっただろうか。
今まで意識してなかっただけだろうか。
花のような匂い。
シャンプーの匂い。
手を伸ばす。
心臓が破れそうだ。
鼓動がうるさい。
自分の息が荒い。
視界が狭い。
高熱が出た時のように。
「プロデューサー・・・?」
頭をつかむ。
茜が息をのむ。
俺のものにしたい。
俺だけのものにしたい。
茜を独占したい。
「くわえて」
頭を下に向かせる。
嫌われたっていい。
これが最後で構わない。
彼女が欲しい。
茜が欲しい。
大きく目を見開き、ぎゅっとつむる。
そうだよな、驚くよな。
俺のものは痛いくらい張り詰めている。
ちょっとした事で真っ赤になる茜だ。
こんなの目の前に出されたらどうしていいか分からない筈だ。
「目を開けて」
茜の肩が震えている。
その痺れが俺の肩を伝わる。
いつもなら「走ってきます!」の大声と共にどこかへすっ飛んでいくだろうが、
今は俺が茜を捕まえている。
「どう・・・すれば・・・」
消え入りそうな声。
「舌で舐めるんだよ」
茜の顔が近づいてくる。
こんなことさせていいのか。
大事な
俺の大事な茜に
思わず息が漏れる。
背中に電流が走ったような。
茜の舌が俺の裏筋に触れている。
「い、いたかったですか!」
「いや、大丈夫」
膝を立てて俺の足の間に顔を突っ込んでいる。
舌を這わせる。どこかぎこちない。
目の端に涙が浮かんでいる。
そうだよな。
嫌悪感があるはずだ。
今ならまだ引き返せる
今なら
いまさらなにを
「口開けて」
茜のあごを掴む。
しっとりとした肌。
薄い肌の下の骨の感触。
肌が伸びるのを感じる。
真っ白なのどに浮かび上がる血管。
ひねりつぶしてしまいたい
口にゆっくりと押し込む。
くぐもった息をあげる。
苦しいはずだ。
ああこれが。
これが茜の口の中。
暖かい、どころではない。
熱さを感じる。
舌が行き場所を探して俺の竿を這い回る。
小さな顔。小さな口。
目を真っ赤にして鼻で荒い呼吸をしながら口いっぱいに頬張っている。
「苦しいか」
答えは返ってこない。
首を振ることも声を出すこともできないからか。
別に構わない。
「歯を立てるなよ 痛いからな」
茜の鼻息。
「ぅう」
苦しそうな声が茜の喉から漏れる。
俺を見上げている。
俺のものだ。
腰を浮かす。
頭を掴んだまま喉奥まで突き入れ、ゆっくりと動かす。
あまり良くはない。
体も口も、硬直している。
震えている。
一旦口から出す。
ぷぁ、と息継ぎをするような声。
「自分でやってみて」
「え・・・」
「気をつけろよ」
自分からこんな冷たい声が出てくるとは思わなかった。
腰を下ろす。
膝を立てた茜がおずおずと四つん這いになる。
真っ白な背中と、しまったお尻。
茜が俺の太ももに手をかける。
再び先端から根元までが熱い感触に包まれる。
茜。
俺の茜。
顔が見たい。
頭を掴んでゆっくり引き起こす。
茜が喉を鳴らす。
口には半分までしか俺のものが入らない。
ご飯を食べている彼女とは別人みたいだ。
いつもは吸い込まれるみたいに白米が消えていくのに。
懸命に口を動かしている。
「こっち見て」
視線が合う。
茜が俺を見る。
薄くひかる唇にいきりたったものを含んだまま。
いつも元気いっぱいの眉は苦しそうに寄せられて。
目尻から涙がこぼれる。
顎の下にみえる、ふるふると揺れる胸の先端。
思わず頭を撫でてしまう。
「あの、気持ちいいですか」
・・・といいたかったんだろうが
俺に聞こえたのは
「あど、きぼちいいでずか」という
俺は答えない。
気持ちよくはない。
ただ、征服感だけがある。
内臓が冷えるような。吐き気がするような。
腰のあたりがざわつく。
濡れた髪に触れる。
耳の横、胸元まで流れる長い長いウェーブのかかった髪をかき上げる。
しっとりとしてキシキシした感触。
こんな手触りだったのか。
両手で頭に触れる。
びくりと体を震わせる。
さっき強引に喉奥に入れたのを思い出したのか。
大丈夫、今はそうじゃない。
「んっ・・・」
茜の鼻息。
ちゅるちゅると口内で舐め続ける。
髪をかき分けて撫でさする。
骨の形を感じる。
ちいさくて熱い。
こんなに小さな。
俺の手の中に収まってしまうような頭。
奪いたい。
誰にも渡したくない。
絶対に誰にも。
このまま出してしまうことを考える
この喉の奥に
いや、顔を汚してみたい
この薄桃色の頬をめがけてぶちまけたら茜はどんな顔をするだろうか──
思うだけで震える。
さらに自分のものが硬くなるのが分かる。
いやダメだ
時間をかけすぎると拒絶されるかもしれない──
今、
いますぐに。
茜が欲しい。
「・・・口から出して」
唇から糸を引いて滑り落ちたそれは、
今や腹につくほどの角度でそりかえっている。
「座って」
茜がぎこちなく俺がかけていた椅子に座る。
胸元と下を隠しながら。
さっきまであんなに堂々としていたのに。
後ろから抱きすくめる。
「ひゃっ」
小さな悲鳴。
茜は椅子にかけても、床に直に座っている俺より小さい。
腕の中におさまってしまう。
逃がさない。
腕に力を込める。
「やっ・・・」
髪に顔を埋めうなじの匂いを嗅ぐ。
甘く眠たくなるような匂い。
ウェーブの髪で顔が埋まってしまう。
「ちっ 窒息しちゃいますよ!」
「いいよ別に」
ひゅっ と茜が息を呑む。
髪に埋まった耳たぶを舐める。丹念に。
白い産毛が水を吸って光っている。
「汚いですよ!?」
俺のを舐める方がよほど汚いけどな。
いいよそれくらい。
頬から首筋を通って鎖骨まで舌を這わせる。
首の筋肉がきっしりと詰まっているのが分かる。
舌を跳ね返すその弾力。
汗の匂い。ほんの少しの獣臭。
胸いっぱいに吸い込みたい。たまらない。
茜は何か神妙な顔だ。
「かっ嗅がないでください!」
「いいだろ」
いつもレッスン前も後も汗だくのくせに。
いつだって全力で爆走している茜の匂いだ。
吸い込んで何が悪い。
前に回り込んで手首を掴む。
鎖骨の下。
両腕を交差させ胸を隠している。
格闘技の防御みたいだ。
震える瞳。
・・・腕が動かない。
すごい力だ。
この小さな体のどこから?
「茜? 手をどけて」
「恥ずかしいです!」
今それ言う?
ああもう面倒臭い。
顔がガラ空きだ。
無理矢理唇を奪う。
・・・俺のを舐めたばかりだったな。
別にいいやどうでも。
鼻息が頬に当たる。
大きなくるくる回る目が真っ向から俺を見て、まぶたを閉じる。
歯を当てないように慎重に、舌を絡ませる。
耳の後ろから鼓動が聞こえる。
どっちの心臓の音だろう。
顔を離す。口と口の間に、透明の糸がかかる。
無言で見つめ合う。
茜の手にはもう力は入っていない。
むしゃぶりつく。
茜の胸は大きい。
巨乳と呼ばれるわけではないが
立派な谷間ができるくらいはある。
ずっと、ずっとこの胸に触れたかった。
茜は距離が近い。
肩を組んだことも。
なにかと組み合ったこともある。
偶然その膨らみが当たったことも。素知らぬふりでいたことも。
あんなに外を走り回っているのに焼けていない。
白い大きなかたまりに触れる。手のひらで柔らかく形を変える。
中心からわずかに外向きについている薄い桜色の先っぽ。
肌の下に静脈が走っているのが分かる、
白い白い、シーツのような肌。
たまらず先端を口に含み、転がす。
茜の声にならない悲鳴。
舌先で押し潰し、舌と歯で甘噛みする。
「やっ いたい・・・です」
「ごめん」
理性を失いすぎた。
ゆっくりマッサージするように外側から内側にかけて揉みこむ。筋肉をほぐすように。
時々指先で先端を弾くと、それに合わせて茜の体がびくびくと震える。
胸筋はどこにあるのだろう。
この胸で見えないのだろうか。
あばらの下、へその部分で腹筋が分かれているのが分かる。
茜が身体を弾ませ、ねじるたびに筋肉が目に止まる。
運動不足の俺とはくらぶべくもない、アスリートのような体。
へそに舌を差し入れる。
「ひゃっ?!」
縦型の綺麗なへそ。
腹筋は硬いかと思ったが柔らかい。
そのまままっすぐに下に舌を─
「やっ」
両太ももを掴んで押し広げる。
今更止まれるか。
まっすぐな縦筋。
これが茜の。
頭を抑えられる。
冗談じゃない。
音を立てて吸い付く。
酸味と苦味、汗とアンモニアの匂い。
「プロデューサー・・・」
もっと見せろ。
無毛・・・ではない。
点々とある粒が剃り跡であることを物語っている。
そうだよな。グラビア撮影もあるものな。
しかしまっすぐな二つの割れ目、その下の薄茶色のすぼまり。
クラクラする。
茜。お前は。
ずっとお前は俺の近くに。
こんな。
胃液が逆流しそうな緊張感とも何とも形容し難いものが背中のあたりを掴んでいる。
気が狂いそうだ。
耳鳴り。
うなじのあたりから脳天へ抜ける鳥肌。
めちゃくちゃにしたい
指で押し広げる。
濃厚な獣の匂い。
茜のそこはあまりに色鮮やかで目が奪われる。
上の小さな、
だが主張をする突起のまわりを舌を立てて舐める。
太ももを閉じようとするがすぐに力が抜ける。
茜がくふん、くふんと鼻を鳴らす。
息を殺している。
唐突な空腹感。
茜が欲しい。
剃り跡を撫でる。
涙をいっぱいに溜めて茜が見ている。
「いいよな?」
答えなど聞いていない。
今更止まれるか。
押し当てる。
ギチギチに硬くなった俺のものは角度がつきすぎて中心から逸れる。
今すぐ、したいのに。
「あ、あの!」
なんだ
「はじめてなので、やさしく・・・」
真っ黒になる。
こんな可愛い、茜が。
本当か。
茜。
俺だけの。
ひゅう、と茜が息を吸う。
「あっ」
先端をゆっくりと進める。
かたくて、せまい。
もう少しほぐすべきだったか。
はあはあと肩で息をしている。
あの走り込みの後も息を切らさない茜が。
「うぅ・・・」
小さな、小さな体にねじ込む。
太ももを掴んで
「あっ・・・」
「ぅぐっうー!」
女の子とは思えないような獣の声。
入った。
結合部が、あかく濡れている。
茜は俺のものだ。
俺だけの、茜だ。
座ったまま繋がっている。
タオルを敷いてゆっくりと床に寝かせる。
荒い息。
茜の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
俺のものはまだ半分くらいしか入っていない。
小さくて、根元まで入るのだろうか。
入り口はかたくて、動くとこわしてしまいそうだ。
それでも、耐えられない。
「っあー」
腰を引き、戻す。
ゆっくりと腰を動かす。
狭くて、暖かい。
たまらない。
茜の口からよだれが垂れている。
半開きの口が閉じ、歯を食いしばる。
閉じられた瞳の先、
ふるふるとまつ毛が揺れている。
こんな顔を見れるなんて。
もっとみたい。
もっとみせろ。
腰を送り出す。
筋肉が閉まるような快感。
腰を打ちつける。
繰り返す。
打ちつける。
肉と肉のぶつかりあう破裂するような。
鞭打つかのような音が響く。
茜は声を出さない。
手で顔を隠して、いや口を隠しているのか。
ぐすぐすと泣いているのが聞こえる。
いつも大きな声で返事をする彼女から
声を奪ったような気になる。
痛かったのか。
俺が乱暴だからか。
それとも、嫌だったのか。
どうでもいい。
もう、俺の茜だ。
「プロデューサー・・・」
「どうした、いつもの元気は」
そうだ、今更戻れない。
「気持ちいいぞ、茜」
ああ、これでもうおしまいだ。
きっともう、もう。
会えないだろう。
こんなことをして。
こんなことになってしまって。
だから最後に。
お前の中に。
一生忘れなくしてやる。
ガクガクと人形のように茜が揺れる。
力が入っていないのか。
「出すからな、中に」
自分の喉から、冷たい声。
そうだ、死刑宣告みたいなものだ。
これで、俺はおしまいだから。
茜をせめて、道連れに。
「出すぞ・・・」
バッチン!!
空気が破裂したかと思った。
茜が俺の頬を両手で包んでいる。
平手打ち?
いや両手ビンタ?
・・・されたのだと分かるまでしばらくかかった。
「プロデューサー・・・」
意思のある瞳。
力強く。
「私と、最後まで走ってくれますか」
俺を射抜く。
・・・なんて?
「私とずっと一緒に、
タッグを組んでくれますか!」
茜が目に涙を溜めて、
だがしっかりと俺を
なんだ、これは。
これは。
プロポーズだ。
力が抜ける。
さっきまでの彼女じゃない。
違う。
さっきまで、ずっと俺を見ていたんだ。
答えを、待っている──
なんて言えば。
どう伝えれば。
・・・俺の。
この気持ちを。
お前が見ていたのは、
お前が好意を寄せたのは、嘘の俺だっただろ。
本当の俺は、醜かっただろ。
独占欲でいっぱいの、真っ黒な──
だから。
俺を嫌いになってくれ。
俺のことを、忘れてくれ。
嘘をつけ。
傷つけてもいい。
ここで終わりにしろ。
「俺は・・・お前の思うような・・・人間なんかじゃ・・・」
喉が詰まる。
「無理だよ・・・」
ヘタレめ。
なぜここで嘘がつけない。
お前なんかどうでもいいと言い放て。
最後の嘘だろ。
茜を守れ。
可哀想な被害者にして彼女を守るんだ。
守れ?
自分で傷つけておいて。
自分の欲望に負けたくせに。
・・・俺は。
何がしたかった?
めちゃくちゃにしたかった。
・・・けれど。
「ごめん・・・」
謝るな俺。
許されようとするな。
卑怯者。
「なんで!そう言えるんですか!」
大きい声。腹の底に響くような。
「大丈夫です!!無理なんかじゃありません!」
茜の声。
「私がついています!」
茜。
お前は。
自信に満ちた顔。
微塵も未来を疑ってない。
いつもの茜だ。
大きい声で。
私はここだと。
くじけたりしない。
倒れても立ち上がる。
俺なんかでは。
びくともしない。
日野茜は──
砕けない。
「ふたりなら、平気ですよ!」
なんで。
なんでお前は。
そんなにまっすぐに俺を見れるんだ。
なんでそんなに俺が欲しい言葉をくれるんだ。
ぐにゃり。
俺の顔が茜の手の中で歪む。
こら、引っ張るな。
何をする。
「なんだよ・・・」
「プロデューサー?」
なんだよ。
「どうしたんですか?」
そんなに優しく、笑わないでくれ。
「やめてくれよ・・・茜」
視界が歪む。情けない。かっこ悪い。
こんなところを、茜に見られたくない。
「泣いても、いいですよ?」
言葉にならなかった。
「・・・ごめん」
湯の温かさで強張っていた体が解けていく。
顔をざぶざぶと洗い、もう一度口にする。
「ごめん、茜」
「私は大丈夫ですっ!」
大きな声。
本当だろうか。
そう叫ぶと茜は肩どころかあごの下までお湯に浸かってしまった。
ずぶずぶ。
湯気で顔がよく見えない。
俺たちはもう繋がっていない。
崩れてへたり込んだ俺を
茜が湯船に連れて行ったのだ。
死ぬほどダサかった。
死ぬほどカッコ悪かった。
今、こうして並んで湯船で膝を抱えている。
・・・なんと言葉をかけたらいいかわからない。
俺は欲望のままに彼女を蹂躙した。
彼女の好意に甘えて、
そして彼女の信頼ごと・・・破壊しようとしたのだ。
謝って許してくれるものではない。
なんと伝えればいいのだろう。
本当の俺がこれなんだ、許してくれ?
・・・厚かましい。
優しい自分を取り繕っていた俺も、
彼女を欲しいままにした俺も。
俺に違いない。
話そう。
まず、それからだ。
「茜。その、いつからか・・・」
俺の・・・まとまらない話を。
茜が聞いている。
いや、聞いているのだろうか。
いつからか茜を目で追うようになったこと。
強い、独占欲でおかしくなりそうになって。
仕事に支障をきたしそうになって。
・・・妄想の中で、茜を・・・いやそんなことまで言わなくていい。
好きというには、黒い気持ちが強くなりすぎて。
結果、茜を傷つけたこと。
これは自己弁護だろうか。
許してくれと言っているように聞こえるだろうか。
栗色の髪が湯船に沈み、灯りに照らされている。
ゆらゆらと揺れる。
捕食者から隠れていた深海生物。
あごから下を湯に浸からせていた茜が、顔をあげ
俺を見る。
「大丈夫です!」
「いつもより・・・その、大人っぽかったから驚いたけど!
だから、平気ですよ!」
茜は嘘が下手だ。
サプライズを隠し通すことすらできない彼女は
すぐ顔に出る。
手が膝を抱えたまま動かない。
目が。俺をみているようで。
焦点があっていない。
声だけが、大きい。
ピントの外れたカラ元気。
いつも明るい優しい、茜が。
太陽のような彼女が。
俺のせいだ。
どうしたらいい。
・・・思い出す。
あなたの太陽になりたい。
そう言われたことがある。
ずいぶんスケールの大きな夢だと思った。
アイドルの頂点に立ちたいと言われた時はでかいことを言うと思ったが、
太陽はそれよりはるかに巨大で、そもそも何が言いたいかよくわからない。
今考えれば、あれは茜の遠回しな告白だったのだろうか。
「もう平気です!」
・・・語尾が震えている。
傷ついても倒れても。
立ち上がる。
だから、
日野茜は砕けない。
けれど。
痛くないわけがない。
前のめりで歯を食いしばって。
立ち上がるけれど。
今まであの笑顔の中に
痛みを秘めていたのだろうか。
見えていなかっただけだろうか。
茜に凶暴な俺が見えていなかったように。
信じていた俺に。
俺に好意を持ってくれたのに。
あんな風に扱われて。
だめだ。
考えろ。
今自分を責めても何もならない。
俺の言葉。
彼女を傷つけた俺の言葉。
彼女を砕こうとした俺の。
「プロデューサー?」
ごめんな。怖いよな。
近くにいた俺が。
黙るな。
考えろ。
俺の言葉で。
俺の、実感した言葉で。
取り繕わない言葉で。
茜の手をとる。
びくりと震える。
俺の目を見て、一瞬、逸らす。
怯えている。
手を。ゆっくりと握りなおす。
「俺は・・・茜をめちゃくちゃにしたくて・・・仕方がなかった。好きなのに、どうしても。
ちゃんと茜を大切にして。大人のふりをして・・・でも腹の中で、ずっと触れたいって。
好きだけど、触れてはいけないって」
言葉を探す。
ひとつひとつ。
俺が気づいたこと。
「・・・でもきっと・・・どっちも本当なんだと思う。
好きなのも、めちゃくちゃにしたいのも。
両方俺なんだ。
全部が俺なんだ」
ポカンとした茜の顔。
そうだよな。
全然通じないよな。
でも聞いてくれ。
「茜も。明るく優しい茜も。
太陽みたいだって言われる茜も。
全部茜なんだと思う。
そして、いま、辛い気持ちの茜も」
ふるふると首を横に振る。
辛いなんて言ってない?
そうだよな。
でも俺は分かる。
プロデューサーだから。
茜をずっと見てきたから。
「俺を憎んでいい。
嫌いになっていい。
俺はそれだけのことをした。
だから。
自分を責めないでくれ。
俺を好きになったと言ってくれた茜を。
責めないでくれ。」
「茜。明るくなくてもいい。辛くてもいいんだ。
太陽じゃないのも、茜なんだ」
茜の顔にゆっくりと理解が広がる。
コーヒーにミルクが溶けてゆくような。
感情のマーブリング。
ぐじゃっと茜の顔が
どむっ
「ほがっ」
衝撃に息が止まる。
胃から空気が強制排出。
俺の胸の真ん中に、濡れた栗色の髪。
頭突き。
「うおっ・・・?!」
握っていた茜の手が力を増す。
指が握り直される。
手四つ。
ナックルロックだ。
・・・プロレスでよく見るやつ。
湯船から思わず立ち上がる。
「あ、茜?」
どむっ
・・・頭突きは痛くはない。
手加減されている。
きっと。
もっと茜は痛いに違いないのに。
声をころしながら。
「ごめん、茜」
「ぁああ」
茜がしゃくりあげる。
子どもみたいな大声。
俺の胸に顔が擦り付けられる。
交差した指に力がこもる。
離せないほどの。
離さない。
離したくない。
ずっと太陽じゃなくてもいいんだ、茜。
それを俺が言う資格は、ないけれど。
俺もずっと、立派ではいられなかったから。
せめて、誰かの前では。
許してくれる誰かの前では。
「・・・うぅ」
ぐずぐずと鼻を鳴らす。
ゆっくりと胸に押し当てていた顔を上げる。
ひどい顔だ。
「ごめん」
何度目の言葉だろう。
何度言っても足りない。
「・・・わらひは」
言葉に詰まる。
「うん」
ゆっくりでいい。
聞かせてくれ。
「わたひは・・・」
はぶし!
かわいいくしゃみだった。
「あ」
俺の胸と。
茜の鼻に。
キラキラひかる半透明の橋がかかっていた。