※この作品はR-18です。

鬼畜聖杯英雄王ランス   作:おっぱいだああああああああ

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第十話 英雄王

セイバーが姿を現した瞬間、交差点に満ちていた暴風のような魔力が一気に収束し、静寂が戻った。

 

「―――問う。貴方が、私のマスターか」

 

凛とした少女の声が、呆然と立ち尽くす衛宮士郎の耳に届く。士郎は自身の左手の甲で赤く脈打つ令呪と、目の前に立つ甲冑の少女を交互に見つめ、声も出せずにただ頷くのが精一杯だった。

 

「……っ、嘘でしょ!? セイバーのクラスが、この土壇場で衛宮くんに召喚されるなんて……!」

凛は頭を抱え、信じられないといった様子で叫んだ。

これで冬木の聖杯戦争における正規の七つのクラスがすべて出揃ったことになる。だが、その最後の一角が、魔術の知識すらほとんどない素人の同級生のもとに転がり込んだのだ。おまけに、自分の陣営にはランスという「規格外のバグ」が居座っている。頭痛の種が増えるどころの騒ぎではない。

 

「ほう……」

実体化したアーチャーは、新参のサーヴァント――セイバーへと冷徹な視線を向けた。その佇まい、風の魔術によって姿を隠された不可視の剣、そして漂う圧倒的な格の高さ。記憶が混乱しているアーチャーの胸に、正体不明の焦燥感と、どこか奇妙な既視感が湧き上がる。

 

一方、黄金の気力を収めてボロボロの服をパタパタと煽っていたランスは、新しく現れたセイバーを見るや否や、その目をいやらしくギラつかせた。

 

「おおおっ!? なんだなんだ、今度は極上の美少女ではないか! 小柄だが凛とした佇まい、気高き瞳、そしてあの清純そうなプラチナブロンドの髪……! がははは、素晴らしい! 実に俺様のハーレムに相応しい極上の一品だ!」

 

『おいおい心の友よ、見た目に騙されるな。あの小娘、見た目とは裏腹に、先ほどのデカブツ(バーサーカー)に勝るとも劣らない、凄まじいまでの剣気と直感を隠し持っておるぞ。儂の刃が疼くわい』

魔法ボックスの中でカオスがカタカタと震えながら警告するが、鬼畜王の脳内はすでに別の邪念で満たされていた。

 

「うるさいぞカオス! 美人の前で野暮なことを言うな! おい、そこの鎧のちゃんねー! 俺様はリーザス王国の偉大なる王、ランス様だ! その冴えない男(士郎)など捨てて、今すぐ俺様の正妻になれ! 夜のベッドでは、この世界のどんな英雄も敵わない俺様のハイパー兵器で――」

 

「――下卑た物言いはそこまでだ、緑の騎士」

 

キィィン、と凍りつくような鋭い音が響く。

セイバーの緑の瞳がランスを捉えた瞬間、その周囲の空気が一変した。彼女の手にある不可視の剣はまだ抜かれていないが、いつでもランスの首を撥ね飛ばせるだけの苛烈な闘気が放たれる。

 

「私は聖杯の呼びかけに応じ、マスターを守るために現界したサーヴァント。貴殿がどこの王かは知らぬが、私のマスターを侮辱し、騎士としての矜持を汚す発言を続けるならば、容赦なくその不埒な舌を切り落とす」

 

「あァ!? 生意気な口を利きおって! よし、気に入ったぞ! そういう強気な女を力ずくで組み伏せて、泣き顔に変えてやるのが俺様の最高の悦びなのだ! おらっ、覚悟しろ!」

ランスがむかむかと怒りを燃やしてカオスを抜き放とうとしたその時、凛の拳がランスの脳天に炸裂した。

 

ゴバァァァン!!!

 

「いい加減にしなさい、この最低鬼畜男ーーーーー!!!」

顔を真っ赤にした凛の鉄拳(魔力強化済み)がクリーンヒットし、ランスは「ぶふぉっ!?」と residence(道路)に顔面から転がった。「痛ってぇぇぇ! 凛、お前また俺様を殴りやがったな! むかむか!」

 

「殴られて当然でしょ! 初対面のサーヴァントに変態セクハラ発言ぶちかますんじゃないわよ! ……ああ、もう、本当に恥ずかしい……!」

凛はこめかみを押さえて深くため息をつき、まだ状況に追いつけず固まっている士郎と、警戒を解かないセイバーに向き直った。

 

「……衛宮くん。信じられないかもしれないけど、アンタは今、この聖杯戦争において最強とされる『セイバー』のマスターになったのよ。そして、私たちの敵(バーサーカー)はさっき一時撤退したけれど、いつまた襲ってくるか分からないわ」

 

「遠坂……俺は、一体どうすれば……」

士郎が自分の左手を見つめる。

 

「決まってるでしょ。こんな街中でこれ以上騒ぎを起こすわけにはいかないわ。まずは場所を移すわよ。衛宮くん、アンタの家、ここから近いのよね? そこで、この戦いのルールと、私たちの『奇妙な同盟』について、じっくり説明させてもらうわ」

 

凛はそう告げると、まだ道路でブツブツ文句を言っているランスの襟首を強引に掴んで引きずり始めた。実体化したアーチャーは、セイバーから視線を外さないまま、静かにその後に従う。

 

「マスター、あの者たちは……」

セイバーが不可視の剣を構えたまま士郎に問う。

 

「……敵じゃ、ないと思う。昨夜も、さっきも、あの人たちは俺を助けてくれたんだ。行こう、セイバー。俺の家へ」

士郎の言葉に、セイバーは静かに頷き、甲冑の音を響かせながら歩き出した。

 

深更の衛宮邸。

普段は静まり返っているはずの純和風の広間には、今やこの世の理を超越した面々が集まり、奇妙な緊迫感と混沌が渦巻いていた。

 

「おい、遠坂。この『にほん』の家というのは、いちいち靴を脱がねばならんのか。面倒なこと極まりないぞ。それより、この畳という床は妙に落ち着くな。がははは!」

緑の鎧をガチャガチャと鳴らしながら、ランスはさっさと上座の座布団を占領し、我が物顔でふんぞり返っていた。

 

「ちょっとランス、アンタは少しは緊張感というものを持ちなさい! 人の家に上がらせてもらっておいて何様のつもりよ!」

凛が額に青筋を立てて怒鳴りつけるが、ランスはどこ吹く風で、お茶を運んできた士郎を値踏みするように睨みつけている。

 

その傍らでは、実体化したアーチャーが腕を組み、鴨居に頭が届きそうな長身を壁に預けて佇んでいた。その視線は、士郎の背後に一歩も引かずに控える甲冑の少女――セイバーへと向けられている。

 

「……マスター。あの緑の騎士はともかく、あの赤い外套の弓兵、そしてあの少女(凛)からは、明確な魔術の系譜と油断ならぬ戦闘の気配を感じます。本当に信用して良いのですか」

セイバーは不可視の剣をいつでも抜ける構えのまま、士郎に低く囁いた。

 

「大丈夫だよ、セイバー。遠坂は学校でも有名な優等生だし、さっきの化け物から俺を助けてくれたのは確かだから」

士郎は苦笑いしながら、全員分の湯呑みを座卓に並べ、自身も腰を下ろした。

 

「さて、衛宮くん。お茶も出たことだし、単刀直入に本題に入るわよ」

凛が湯呑みに手を伸ばしもせず、真剣な眼差しを士郎に向けた。

「まず、さっきも言った通り、アンタが巻き込まれたのは『聖杯戦争』。手にした者のあらゆる願いを叶えるという万能の願望機『聖杯』を巡って、七人の魔術師(マスター)が七体の英霊(サーヴァント)を従えて戦う殺し合いよ。……本来ならね」

 

「本来なら、って……遠坂の後ろにいる二人は何なんだよ?」

士郎が怪訝そうに尋ねる。

 

「そこが最大のバグなのよ!」

凛は頭を抱え、隣のランスを忌々しげに指差した。「私が正規の儀式で呼び出したのは、そこにいるアーチャーよ。でも、なぜか召喚の瞬間に、世界のシステムを引っ繰り返すようなイレギュラーとして、この『ランス』って男が私の工房に強制侵入(イントルード)してきたの。しかも、こいつは英霊(ゴースト)じゃなくて、生身の人間としてそのままこっちの世界に来ちゃってるのよ!」

 

「生身の、人間……? じゃあ、さっきの化け物と生身でやり合ってたのか、この人……」

士郎が驚愕の目をランスに向けると、ランスは待ってましたとばかりに胸を張った。

 

「がははは! そうだぞ少年! 俺様はリーザス王国の偉大なる王、ランス様だ! 英雄だろうが神話の怪物だろうが、この俺様と魔剣カオスの前には敵ではないのだ! どうだ、お前も俺様の子分にしてやってもいいぞ!」

 

『おいおい、心の友よ。子分にするのは良いが、その前にその隣のキツい目をした小娘(セイバー)をどうにかしろ。儂をいつでも叩き斬るような目で睨みつけておるぞ』

魔法ボックスの中からカオスが呆れたように喋ると、士郎とセイバーの顔が同時に強張った。

 

「剣が……喋った……?」

「……ただの魔剣ではないな。あれは異界の呪いそのもの。英霊の座のいかなる伝説にも、あのような不浄にして強靭な刃の記録は無い」

セイバーの緑の瞳が鋭さを増し、足元の畳が微かに沈み込む。

 

「ふむ、そこまでにしてもらおうか、セイバー」

それまで沈黙を守っていたアーチャーが、静かに割って入った。「お嬢さんの言う通り、我が陣営は二体のサーヴァントを抱えるイレギュラーだ。だが、先ほどのバーサーカー――アインツベルンの怪物の理不尽な再生能力を前に、単独の陣営で勝ち残るのは極めて困難だ。それは君たちとて同じだろう?」

 

「……アインツベルン。あの巨躯は、ギリシャ神話の最大最強の大英雄、ヘラクレスか」

セイバーは悔しげに唇を噛んだ。

 

「そうよ。あのバーサーカーは、恐らく通常の攻撃を何度も無効化・再生する宝具を持っている。まともに戦えば、冬木の街ごと平らげられかねないわ」

凛は士郎を真っ直ぐに見つめた。

「だから、衛宮くん。アンタが聖杯戦争が何たるかも知らない素人だとしても、令呪を持ってマスターになった以上、もう逃げ道はないの。……そこで提案よ。私たちがアンタの後見人になってあげる。アインツベルンや他のマスターを退けるまで、私とアンタで『同盟』を組みましょう」

 

「同盟……」

士郎は自身の左手の令呪を見つめ、静かに考え込んだ。戦う動機も、聖杯への願いもない。しかし、さっきの化け物が再び街で暴れれば、罪のない人々が巻き込まれる。それだけは阻止しなければならない。

 

「分かった。よく分からないことばかりだけど、遠坂が力を貸してくれるなら、俺は――」

 

「待て、少年。同盟の話はいいが、肝心なことを忘れていないか?」

アーチャーが皮肉げな笑みを浮かべ、視線を座卓の端へと向けた。

 

そこでは、ランスがいつの間にか士郎の家のキッチンから勝手に持ち出してきた、冷蔵庫の残り物のハムやちくわを、美味そうにバクバクと貪り食っていた。

 

「モグモグ……おい、この『ちくわ』という穴の空いた食べ物、なかなかいけるぞ! おい少年、もっと美味い肉はないのか! 王たる俺様をもてなすなら、それなりの極上肉と、あと夜の相手をする極上の美女を用意せんか!」

 

「なっ……! 人の家の冷蔵庫を勝手に開けるなよ!」

「がははは! 固いことを言うな! よし、そこの鎧の美少女、お前が俺様の今夜のおかずだ! 観念して俺様のハイパー兵器の錆び……ぶふぉっ!?」

 

次の瞬間、今度は凛の魔力強化された湯呑みが、ランスの顔面に目にも留まらぬ速さで直撃した。

 

「だから人の家でセクハラ発言をするなと言ってるでしょ、この鬼畜王ーーー!!!」

 

「痛ってぇぇぇ! 凛、お前マジで令呪で縛るぞこの野郎!」

悶絶するランスと、顔を真っ赤にして怒り狂う凛。

 

衛宮邸の夜は、聖杯戦争の緊迫感を完全に置き去りにしたまま、混沌のどん底へと突き進んでいく。セイバーは深いため息をつきながら不可視の剣の柄を握り直し、士郎は「本当にこの人たちと長生きできるんだろうか……」と、遠い目をしながら夜空を見上げるのだった。

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