「いい加減にしなさい! これ以上、我が陣営の(というかアンタの)恥を晒すんじゃないわよ!」
湯呑みを投げ飛ばした凛が肩で息をする横で、ランスは鼻を押さえながら「むかむか。凛のやつ、最近ますます凶暴になりやがって。これは夜のベッドでたっぷりと教育してやらねばならんな……」と、懲りずに下品な笑みを浮かべて呟いている。
その様子を、セイバーは完全に冷徹な、もはや哀れみの混じった眼差しで見下ろしていた。
「マスター。……本当に、この者たちと同盟を結ぶのですか? 魔術師としての格と実力は認めますが、あの緑の男は……騎士としても、人の王としても、あまりに無頼が過ぎます」
「あ、あはは……。まあ、遠坂が苦労してるのはよく分かったよ……」
士郎は苦笑いしながら、ひとまずランスに奪われたちくわの残りを視線で惜しみつつ、座卓の空気を引き締めるように咳払いを一つした。
「でも、セイバー。さっきのバーサーカーって化け物がまた街に出てきたら、俺たちの手だけじゃ止められないかもしれない。遠坂たちの実力はさっきの戦いで見たろ? あいつを倒すまでは、手を組むのが一番いいと思うんだ」
士郎の言葉に、セイバーは少しだけ表情を和らげ、静かに頷いた。
「……マスターがそう望むのであれば、私は従うまでです。ですが、あの緑の騎士が不埒な真似を企てた時は、その瞬間にこの手で処断することをご了承ください」
「がははは! いい気骨だ、鎧のちゃんねー! だがな、俺様をただの無頼漢だと思うなよ。戦場になれば、この俺様が世界で一番頼りになることを教えてやる!」
ランスはニヤリと笑い、カオスの刀身を親指で弾いた。
『おいおい心の友よ、あまり大きな口を叩くな。先ほどの白髪の男(アーチャー)も言っていたが、あのバーサーカーとやらの『命のストック』は厄介だ。儂の呪いでも、一撃で全てを削り取るのは骨が折れるぞ』
「ふむ……」
壁に背を預けていたアーチャーが、静かにその会話に加わる。
「喋る魔剣の言う通りだな。アインツベルンのバーサーカーが持つ『十二の試練(ゴッド・ハンド)』――おそらくあれは、死亡しても自動で蘇生し、さらに一度受けた攻撃への耐性を得る宝具だ。つまり、同じ戦術は二度通用しない」
アーチャーの冷静な分析に、凛も表情を真面目なものに変えた。
「そうよ。だから、手数の違う私たちが組む意味があるの。アーチャーの狙撃、セイバーの剣技、そして……ランスの、その理不尽なまでの突破力と謎のバグアイテム。これだけ違った属性の攻撃を叩き込めば、あの化け物の命のストックだって、確実に削りきれるはずよ」
凛はそう言って、士郎に向かってビシッと指を突きつけた。
「そういうわけだから、衛宮くん! アンタは今日から私の監視下に入ってもらうわ。魔術の基本もなってない素人が一人でうろちょろされたら、足を引っ張られるだけだからね!」
「あ、ああ。分かったよ。……よろしく頼む、遠坂」
士郎が真っ直ぐに凛の目を見て答えると、今度は凛の方が少し照れたように「ふ、ふん、分かればいいのよ!」と顔を背けた。
「ムホホ、そういうことなら話は早い。同盟成立の儀式として、今夜はここの部屋で、凛と、その鎧のちゃんねーと、三人で仲良く朝まで――」
「「「させるか(わけないでしょ / 不埒な)!!!」」」
凛の怒声、セイバーの殺気、そしてアーチャーがいつの間にか手元に投影した干将・莫邪の鋭い輝きが、一斉にランスへと向けられた。
「ちぇっ、相変わらずノリの悪い奴らだ。おい少年、もっと美味い夜食を持ってこい! 話はそれからだ!」
結局、ランスの圧倒的なマイペースさに振り回される形で、衛宮邸の長い夜は更けていく。聖杯戦争という名の血生臭い儀式は、鬼畜王ランスという最大にして最悪の異物の乱入により、誰も予測できない未知の結末へと向かって、歪に加速し始めていた。