「がはは!もし戦いに負けたら俺様とセックスしよう」
「いい加減にしろ、この緑の変質者がァァァッ!!」
夜の深山町、新都へと続く大橋の手前。
激しい金属音と共に、赤黒い魔剣カオスと、目に見えない不可視の風を纏った剣が激しく火花を散らした。
「がははは! いいぞ鎧のねーちゃん! その怒った顔もなかなかにゾクゾクするじゃないか! おい少年(士郎)、このねーちゃんを俺様の奴隷に差し出せば、お前にはリーザス特製の美味い酒でも奢ってやるぞ!」
ランスはカオスを片手で軽々と振り回しながら、対峙するセイバーの猛攻をニヤニヤと下劣な笑みで受け止めていた。
「ランス、やめろって言ってるだろ! セイバー、落ち着いてくれ!」
後方から士郎が必死に叫ぶ。手には、先ほどまで夕飯のスープが入っていた「奇跡の土鍋」が握られたままだ。
「いいえ、衛宮くん。こればかりは看過できません!」
セイバーの緑の瞳が、これまでにないほどの激しい怒りで燃え上がっていた。
「この男、初対面から私の甲冑を不躾な目で眺め回した挙句、あまつさえ『夜のベッドの騎士に任命してやる』などと、我が誇りを、そして騎士の礼節をこれ以上ないほどに侮辱しました! この無礼、我が剣をもって正さねば、ブリテンの王の名が廃ります!」
「がははは! 王だと? こんな美味そうなねーちゃんが王のわけなかろう! 王とはこの俺様のように、世界で一番偉くて、強くて、すべての女をハーレムにする男のことを言うのだ!」
『おうさ心の友よ! その通りだわい! それにあの鎧のねーちゃん、小ぶりだが実に形のいい胸をしておるぞ! 儂の呪いでその頑固な鎧をパリンとひん剥いてやろうじゃねえか!』
魔法ボックスの中からカオスがカタカタと震え、下劣な波動を撒き散らす。
「――下衆が! その不浄な口ごと、ここで断ち切る!」
セイバーが地面を蹴った。
その敏捷は英霊の中でもトップクラス。『風王結界(インビジブル・エア)』の暴風を足元から爆発させ、音速を超えた踏み込みでランスの懐へと一瞬で肉薄する。
ガギィィィィィン!!!
大気を引き裂くような鋭い斬撃が、ランスの首筋へと走る。
だが、ランスは直感だけでカオスの刀身を滑らせ、その絶対的な一撃を受け流した。衝撃波で周囲のアスファルトがクレーター状に弾け飛ぶ。
「ほう、やるではないか! だが、俺様の『ハイパー気力』の前には、そんな小細工は通用せんのだよ!」
ランスの全身から、アインツベルンの霊脈すら震え上がらせるような黄金の気力(オーラ)が爆発的に膨れ上がった。その質量は、英霊の『魔力』という概念を力ずくで圧殺するほどの暴力的なエネルギーの塊。
「おらぁッ!!」
ランスの超重量級の縦振りが、セイバーの見えない剣を真っ向から叩き潰すように振り下ろされる。
キィィィィィン!!!
「くっ……なんという、理不尽なまでの重さ……!?」
受け止めたセイバーの足元の大地がバリバリとひび割れ、彼女の華奢な肉体が数メートルも後方へと押し込まれた。
セイバーの『対魔力』や『直感』のスキルは、世界の最高峰にある。しかし、ランスの持つ能力は【あらゆる防御概念や特性を無効化する】カオスの呪いと、ただの純粋な【理不尽な腕力】。魔術的な防壁も、英霊としての格も、彼の前ではただの「硬い肉」にダウングレードされてしまうのだ。
「がははは! どうだ、押し負けているぞ! 大人しく俺様のハーレムの一員になれば、毎日美味い肉を腹いっぱい食わせてやるが、どうだ?」
「な……ッ!?」
その瞬間、セイバーの動きが一瞬だけピクリと止まった。
「……い、今、なんと言いましたか? 『美味い肉を腹いっぱい』……?」
「おうよ! 俺様のリーザス城の厨房には、世界中の極上の肉やワイン、それに美味いプリンが山ほど眠っているからな!」
『ひゃっはー! 鎧のねーちゃん、揺らいでおるぞ! あの衛宮とかいう少年の貧乏な台所(土鍋)に付き合うより、儂らの側に来た方が毎日が満腹フェスティバルだわい!』
「セ、セイバー!? 騙されるな、そいつはただの性欲の塊だ! 俺だって明日から毎日ハンバーグでも唐揚げでも何でも作るから!」
士郎が危機感を察知して必死に叫ぶ。
「は、ハッ!? 私は、私はブリテンの王! そのような、そのような安易な食事の誘惑などに……胃袋を掴まれるわけが……ありません!!」
セイバーは顔を真っ赤にしながらも(半分は本気の食い気、半分は怒り)、再び剣を強く握り直した。
「――これ以上の問答は無用! 私のすべてをかけて、その歪んだ欲望ごと、光の塵に変えて差し上げます!」
セイバーが大きく跳躍し、距離を取る。
彼女の持つ見えない剣から、黄金の眩い光が溢れ出し、夜の冬木市を真昼のように照らし始めた。空間そのものが、その圧倒的な聖剣の輝きに震えている。
「衛宮くん、下がってください! ――集え、星の息吹。輝ける命の奔流!」
「ちょっと待ちなさいよ二人とも! こんな街中で宝具をぶっ放すんじゃないわよ!」
遅れて駆けつけた遠坂凛が絶叫するが、すでに遅い。
「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』――ッ!!」
セイバーが聖剣を振り下ろすと同時に、世界を救う究極の光の断層が、全てを消滅させる大奔流となってランスへと押し寄せた。
しかし、鬼畜王は逃げなかった。それどころか、その光の渦を正面から見据え、これ以上ないほど獰猛に笑った。
「がははは! 面白い! 世界を救う光だと? なら俺様は、その光ごと、お前を力ずくで寝取ってやるわァァァッ!!」
ランスの『ハイパー気力』が限界を突破し、カオスのどす黒い呪いの輝きと完全に融合する。
「喰らいやがれ、鎧のねーちゃん! 『超スーパー鬼畜・斬空(ざんくう)の構え』――からの!!」
「『ハイパー鬼畜アターーーーック』!!!」
ドッパーーーーーーーン!!!!!
究極の聖剣の黄金の光と、すべてを力ずくでねじ伏せる黒金の鬼畜オーラが、冬木の街で真っ向から大激突した。
その瞬間、大気が、空間が激しく軋みをあげる。
通常ならあらゆる邪悪を焼き払うはずのエクスカリバーの光。しかし、カオスの【あらゆる概念・特性を無効化する呪い】は、その聖なる光の「必滅の概念」すらも強引に相殺し、ただの「巨大なレーザー光線」へと削り落としていた。
ズガガガガガガガガガァァァァァン!!!
凄まじい大爆発と煙が収まった後。
大橋の手前には、直径数十メートルの巨大なクレーターが出来上がっていた。
その中心で、ランスは全身の鎧をボロボロにしながらも、カオスを肩に担いでニヤニヤと立っていた。
「ハァ……ハァ……がはは! どうだ、鎧のねーちゃん……。俺様の、欲望のパワーの方が……一枚、上手だったなぁ……!」
一方のセイバーは、すべての魔力を使い果たし、荒い息をつきながら、剣を杖代わりに辛うじて立っていた。その顔には、自身の最高の宝具を真っ向から相殺されたことへの、信じられないという驚愕の表情が浮かんでいる。
「……バカな。私の、エクスカリバーを、生身の腕力と……ただの執念(下心)だけで、受け止めるなど……」
「がははは! 勝負ありだな! さあ約束通り、お前は今日から俺様の――」
ランスが勝ち誇ってセイバーの手を掴もうとした、まさにその瞬間。
「――そこまでだ、緑の変質者」
横から、凄まじい勢いで「奇跡の土鍋」を両手でガチガチに強化投影した士郎が飛び込んできた。
「俺のセイバーに、気安く触るなァァァッ!!」
ドガァァッ!!
「痛っていぃぃぃ少年め何をしやがるぅぅぅっ!!」
世界最強の聖剣を受け止めた鬼畜王は、次の瞬間、士郎が放った「魔力最大強化の土鍋ストライク」をモロに顔面に喰らい、派手にコンクリートの上をごろごろと転がっていくのだった。
「……はぁ。もう、本当に何が何だか分からないわ……」
凛が遠い目をして呟く中、セイバーは士郎の差し出した土鍋(と、そこから漂うお出汁の残り香)を見つめながら、静かに現界の危機を脱するのだった。
聖剣の輝きすらも私欲で相殺してしまった鬼畜王ランス。