ランスがセイバーを肩に担ぎ、公園の出口から大通りへと歩み出ると、街は異様な静けさに包まれていた。だが、その静寂は平和なものではない。ランスが放つ濃密な魔力と欲望の波動が、冬木市全域を塗り替えようとしていた。
大通りに出ると、そこには彼を待ち受けていたかのように、冷徹な表情で佇む一人の男がいた。言峰綺礼である。彼は教会の聖職者としての装束を身に纏いながら、その瞳には聖職者に相応しくない、黒々とした愉悦を湛えていた。
「……随分と豪快な夜の散歩だ、鬼畜王ランス」
言峰の言葉に、ランスは足を止め、肩に担いだままのセイバーをポンと叩く。
「おっ、教会か。丁度いいところにいたな」
セイバーは言峰の姿を認めると、わずかに身体を強張らせた。かつての戦友であり、同時に手強い敵であった男の前で、今の無様な姿を晒している事実は、彼女の魂をさらに追い詰めた。
言峰はゆっくりと歩み寄り、セイバーの頬に手を添える。その手つきは、聖職者の慈悲ではなく、獲物の弱さを確認する捕食者のそれだった。
「なるほど……。騎士王としての矜持が、ここまで無残に剥がれ落ちるとは。……ランスよ、貴殿のやり方は確かに愉悦だ。私の求める歪みなど、貴殿の圧倒的な欲望の前では児戯に等しい」
「がはは! お前みたいな聖職者には決して出来ないだろう!」
ランスの理不尽な誘いに、言峰は口元を歪めて笑った。
その言葉に、セイバーの心の中で最後の理性が悲鳴を上げる。ランスという支配者だけでなく、言峰という監視者が加わったことで、彼女の逃げ道は完全に塞がれた。
「……あ、あぁ……っ、嫌……そんな、目で見ないで……っ」
セイバーが掠れた声で拒絶するが、ランスはその抗議を心地よいBGMのように受け流し、再び歩き出す。
夜の闇がさらに深く、濃く、ランスの欲望を隠すように街を飲み込んでいく。セイバーの抵抗はもはや完全に消え、彼女の意識はただ、これから始まるさらなる蹂躙への恐怖と、不思議なほどの陶酔感との間を彷徨っていた。
衛宮士郎の視界が、怒りで赤く染まっていた。
「……離せッ!!」
士郎の叫びは、夜の静寂を切り裂く悲痛な咆哮だった。
目の前の路地裏、街灯の光の下に、あり得ない光景があった。かつて彼が命を懸けて守ろうとし、誇り高い騎士として尊敬していた存在――セイバーが、ボロボロの衣服を纏い、鬼畜王ランスの肩に無防備に担ぎ上げられていたからだ。
「がはは! なんだ、雑草が一本生えてきたな」
ランスは肩に担いだセイバーを放り出すと、士郎を見下ろして卑劣な笑みを浮かべた。セイバーは地面に転がり、虚ろな瞳で士郎を見つめる。その姿には、かつての王としての威厳は欠片もなく、ただ主人の帰還を待つペットのような空虚さがあった。
「お前……ッ、お前、何を……ッ!」
士郎の全身から魔力が噴き出す。投影開始――だが、その回路を繋ぐ前に、ランスが嘲るように指を鳴らした。
ランスの言葉に、セイバーは操り人形のように立ち上がった。彼女の瞳には、士郎を認識する理知の色はほとんど残っていなかった。
「……士郎。ランス様は……私の……ご主人様、です」
その言葉を聞いた瞬間、士郎の中で何かが弾けた。
「ふざけるな……ッ!!」
士郎は我を忘れ、投影した無銘の剣を手にランスへ突撃した。しかし、ランスは動じない。素手で剣をへし折り、士郎の腹部に強烈な蹴りを叩き込む。
「ぐはッ……!」
アスファルトに叩きつけられた士郎に、ランスは踏みつけながら冷酷に言い放つ。
ランスが背後からセイバーを抱き寄せ、その白い肌を公衆の面前で無遠慮に愛撫する。
「士郎!」
セイバーは羞恥に染まりながらも、ランスの支配に抗うことなく、士郎の目の前でその身体を委ねていく。
士郎は、地面に這いつくばりながら、自分の無力さに涙を流した。自分が守りたかったはずのものが、最も無残な形で蹂躙されていく。ランスの笑い声と、セイバーの甘く屈辱的な喘ぎが、夜の冬木にいつまでも木霊していた。
「……殺す。絶対に、殺してやる……!」
士郎の殺意は、もはや聖杯戦争のルールなど超越していた。ただ、この理不尽な暴君を、この手で地獄に引きずり下ろすことだけが、彼の唯一の存在理由となった瞬間だった。