「……うん。とりあえず、みんなで市民会館かどっかの避難所にいくか?」
更地、という表現すら生ぬるい。
かつて格式ある純和風建築だった衛宮邸は、今や見事なまでのクレーターと化し、ところどころから不気味な紫の煙(キャスターの魔術残滓)や、黄金の火花(ギルガメッシュの宝具の破片)がパチパチと音を立てて燻っているだけだった。
士郎は、ポケットの中で虚しくひしゃげた財布をそっと握りしめ、魂が抜けたような顔で夜空を見上げた。
「……避難所なんて行くわけないでしょ! 魔術師の戦闘跡地から出てきたメンツがそんな一般人の場所に混ざれるわけないじゃない!」
凛が髪をボサボサに乱したまま、ガタガタと震える声で突っ込む。そのツインテールも、心なしか左側だけ焦げている。
「お嬢さんの言う通りだ。これだけの魔力衝突だ、早朝には聖堂教会(言峰)の手の者が『ガス爆発』の偽装工作に動く。それまでに私たちがここに居座り続けるのは悪手だな」
アーチャーは苦笑混じりに、唯一奇跡的に燃え残っていた士郎の土鍋(すき焼きのタレがこびりついたもの)を拾い上げ、ポンポンと煤を払った。
「マスター……本当に、申し訳ありません。私がもっと確固たる防壁となっていれば、このような……住処を失うなどという不名誉を、マスターに与えずに済んだものを……」
セイバーは、現代服のブラウスの袖を少し焦がしながら、今にも切腹しそうなほど悲痛な面持ちで士郎に頭を下げた。
「いや、いいんだセイバー……。みんなが無事なら、家なんてまた建て直せば……いや、建て直せるかなぁ……」
士郎が遠い目をしていると、崩壊した塀の瓦礫の山が、ガラガラと音を立てて弾け飛んだ。
「がははは! お前ら、人がせっかく最高の勝利を飾ったというのに、揃いも揃って手荒い祝福をしやがって! むかむか!」
飛び出してきたランスは、服こそボロボロで顔に煤がついているものの、傷口からはすでに黄金の気力が立ち上り、超高速で細胞を再生させていた。その生命力は、もはやバーサーカーの宝具(十二の試練)を疑うレベルである。
「おい少年! 家がなくなったくらいでシ気化けるな! 男なら、自分の城が壊されたら敵の城を奪い取って我が物にするのが鉄則だぞ! がははは!」
「……敵の城?」
士郎が首を傾げる。
「そうよ! こいつの言うことは最低だけど、方向性としてはそれしかないわ!」
凛がハッと目を見開いた。
「アインツベルンの城は深山町の森の奥深く。あそこにはあのバーサーカーと、あの生意気なロリ幼女(イリヤ)がいるわ。……つまり、今あそこへ押し入れば、あのデカブツを拠点防衛の罠ごとランスに文字通り『すり潰して』もらうことで、一気にアインツベルン陣営の物資と拠点を強奪できる!」
「……お嬢さん、それは魔術師の風上にも置けない完全な強盗(ルパン)の思考だが……」
アーチャーが呆れたように片目を瞑る。
『おいおい、名案ではないか。アインツベルンの錬金術といえば、ホムンクルスの製造。つまり、あの城にはあの白髪の幼女以外にも、仕えるためのピチピチのメイド人形たちがゴロゴロ眠っておるはずだぞ、心の友よ』
魔法ボックスからカオスが、これ以上ないほど邪悪で的確なナビゲーションを差し込んできた。
「何だとぉぉぉっ!? メイドだと!? よし決まりだ、今すぐその『アインツベルン城』とやらに乗り込むぞ! その城は今日から俺様の『ランス城・冬木出張所』だ! がははは!」
「ちょっと、誰がハーレムを作っていいって言ったのよ! 私は拠点の確保と、物資の――」
「同盟の規約に基づき、私も賛同します」
それまで神妙にしていたセイバーが、おもむろに拳を握りしめて進み出た。「マスターの寝床を奪ったアインツベルン(のバーサーカー)には、相応の報いを受けてもらわねばなりません。それに、城ともなれば、相応の『兵糧(食材)』も備蓄されているはず……!」
「セイバー、アンタの動機、後半完全に食い気になってるわよ!?」
凛のツッコミが夜空に虚しく響く。
こうして、家を失った衛宮・遠坂の同盟陣営(と、欲望の赴くままに動く鬼畜王)は、事態の収拾を図るどころか、その足で冬木の聖杯戦争の最深部――「アインツベルン城」への電撃強奪作戦を決行することとなった。