「……はぁ。私、魔術師の家系に生まれて、それなりの覚悟を持ってこの聖杯戦争に臨んだはずなんだけど……どうして今、他人の城を不法占拠してソファーでくつろいでるのかしら」
アインツベルン城の豪奢な応接間。高級な絨毯の上で、遠坂凛はぐったりと高級ソファーに深く沈み込んでいた。その横では、アーチャーが城の調度品を品定めするように眺めつつ、手際よく全員分の紅茶を淹れて回っている。
「気にするなお嬢さん。生き残るための臨機応変さは、魔術師にとっても美徳のはずだ。……まあ、少々『臨機応変』のベクトルが斜め上にトチ狂ってはいるがね」
「がははは! 細かいことは気にするな、凛! やはり王たる者、このくらいの城がなくては格好がつかんからな! おい、そこの巨乳メイド、お代わりの肉だ! この城の宝物庫には極上のハムやワインが腐るほど眠っているではないか、もっと持ってこい!」
長テーブルの特等席にふんぞり返ったランスは、不機嫌そうに料理を運んでくるセラを顎で使っていた。衣服こそ(凛の魔術で)無理やり元の緑の軽鎧に修復されていたが、その尊大な態度はすでにこの城の真の主のそれである。
「……何が『巨乳メイド』ですか、この破廉恥極まりない不審者が。イリヤお嬢様が許可されたから大人しく従っていますが、本来ならその下品な舌を引き抜いて城の裏庭に埋めてやるところです……!」
セラが般若のような形相で肉の皿を叩きつけるように置くが、ランスは「がはは、気が強い女は嫌いではないぞ!」と意に介さず、骨付き肉を豪快にかじりついた。
一方、その隣では――。
「マスター、このアインツベルン特製の『ローストビーフ』というものは、肉の旨味が完璧に閉じ込められており、実に素晴らしい出来栄えです。お代わりを要求します」
セイバーが、いつになく真剣な、しかし神速の箸さばき(フォークさばき)で皿を空にしていった。
「セイバー、お前もすっかりこの城の待遇に馴染んでるな……」
士郎は、あの「奇跡の土鍋」を丁寧に城の最高級キッチンで洗い終え、お茶をすすりながら苦笑いしていた。
「仕方ないでしょう、衛宮くん」
応接間の隅、拘束こそされていないものの、不機嫌そうにクッションを抱えて座り込んでいるイリヤスフィールが、ジロリと士郎を睨みつけた。
「バーサーカーのストックをあんなに削り取られた上に、お城の防衛機構(ワルキューレ)まであの緑のバカに物理で叩き壊されたのよ? ここで意地を張って全面戦争を続けたら、私のお城が本当にただの更地になっちゃうもの。一時的な『休戦』を受け入れてあげるわ」
「すまない、イリヤ。家を壊されちゃって、本当に困ってたんだ。その、お城は大切に使うから……」
「フン、お兄ちゃんのバカ。……でも、まぁいいわ」
イリヤはふっと妖しい笑みを浮かべ、視線をランスへと向けた。
「あの緑のサーヴァント(?)、本当にデタラメね。バーサーカーの試練の耐性を、純粋な『暴力の出力』だけで上回ってすり潰すなんて……。ねえ、あの男、言峰のところにいた『金ピカ』ともやり合ったんでしょう?」
「ええ、そうよ」
凛が紅茶を一口すすり、真面目な表情に戻る。
「あの金ピカ――ギルガメッシュは、私たちの家を消し飛ばした。そして、キャスターも裏で動いてる。このアインツベルン城を拠点にできたのは大きいけれど、敵も私たちの排除に本気になってくるはずよ」
「フン、あの成金野郎(ギルガメッシュ)か」
ランスは肉を飲み込み、カオスをテーブルにドカリと置いた。
「次に出てきたときは、あの金ピカの鎧を剥ぎ取るだけでは済まさん。俺様の新しい城(アインツベルン城)の玄関を壊した罪は重いからな! おい、心の友よ、次の戦いの準備はできているか?」
『おうさ、心の友よ! この城の霊脈は最高だ。儂の呪いも、さっきの戦いで随分とチャージされたわい。あの金ピカの宝物庫を丸ごと寝取る(強奪する)準備はいつでも万端だぞ!』
カオスがゲラゲラと下劣な笑い声を響かせる。
「……本当に、敵に回したくないタイプの悪魔合体ね、あの主従」
凛が頭を抱える中、城の外――夜明けの光が白亜の壁を照らし始める。
アインツベルン城という、最強の(そして最も騒がしい)前線基地を手に入れたランス陣営。
しかし、この前代未聞の「お城乗っ取り劇」の報は、冬木の闇で暗躍する言峰綺礼、そして最古の英雄王ギルガメッシュの耳にも、確実に届こうとしていた。